衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】 作:神宮寺志狼
「おはようございます。衛宮先生。」
「よ、早瀬。
来てくれてサンキュな。」
時刻は朝の6時。
今日の当番はユウカらしい。
結局、シャーレの常務生徒は藤河組だけで50人近くいるので人手は足りている。
対して飯を振る舞うくらいしか出来ないし、その料理の元手になる食材ですら、生徒の持参したものという彼女達にとってデメリットの方が多いにも関わらず手伝いを名乗り出る生徒が後を絶たない。
どうしてなのかワカモに相談してみたら
『それはあなた様の人徳のなせる技かと。
不愉快極まりないですが───────』
なんて言っていた。
そんな彼女は今日はコンビニの遅番の為に寝ている。
起こしてもらうだけ起こしてもらって、寝かせた。
......不健康極まりない。
やっぱり早く復学して欲しいものだ。
二人で飯を食べ終わり、未だに慣れないスーツを来て業務机に座った。
「それで、衛宮先生、今日はどのような業務をしましょうか。」
「いや業務っていうか、なんというか....
その、だな─────────悪いんだけどパソコンの使い方を教えてくれ。」
「───────────────────。」
「───────あ、あの?早瀬...さん?」
(ドンッ!!)
「え、衛宮先生はこれまでどうやって業務の処理をしていたんですか─────ッ!!!」
怒鳴られる。
何をそんなに怒っているのか、俺には分からない。
「何って....手書きの書類だぞ....?
どうしたんだよ、急に。」
「衛宮先生!非効率すぎます!
今どきアナログの書類なんて有り得ません!!
────こほん。
言いすぎました、確かに、どこまで行ってもそういう直筆書類というのは無くなりません。
ですが、まさか経費の計算とか事務処理を手書きでやっていた訳ではありませんよね!?」
「いや、お前の言うそのまさかなんだけど....」
この世界の技術は進みすぎている。
確かに、あちらにもパソコンはあっただろうがそれでも1台数十万はする代物だ。
そんなもの手が出せない。
携帯だって持ってなかったし、今扱っているタブレットだって実はアロナに教えて貰いながら使っていたのだ。
「れ、連絡先というか、モモトークの交換はできたじゃないですか!」
「ば、馬鹿にするなよ!遠坂じゃあるまいし、そのくらいは出来る....
だけどな、パソコンなんて一切触ったことがないんだよ、俺!」
その一言だ。
それを聞いてオーバーにも......頭を抱えて壁にもたれかかる早瀬。
「な、なんだよ....いくら何でもそろばん使って計算してた訳じゃないぞ!
ちゃんと電卓を使った!」
「そんなことはどうでもいいです....もう....はぁ......
道理でこの1ヶ月半、埃をかぶっていたわけですか、そのデスクトップ。
そ、れ、で?
いまさら何をお聞きになりたいのですか?」
とりあえずもはや呆れた顔をして、つまらなさそうに俺に言う。
仕方ないじゃないか。
パソコンで仕事してるフリをして実は手書きで全部やって後コピー機からスキャンしてわざわざ見つけてきたワープロに突っ込んで文字起こししてたとかいう情けない事実なんて話せるかってんだ!
「1から.......100まで?」
(ドンッ!!)
「却下です!」
机を叩かれて拒否された。
「はぁ.....失礼を承知で聞きますが、衛宮先生って貧乏だったんですか?
衛宮先生の性格上、無駄な出費などあまりしないようですし、なんなら食材は余すことなく使い切っています....そんな先生がパソコンすら使ったことがないなんて.....」
「む、別に貧乏性だから食材を使い切ってる訳じゃないぞ、単に勿体ないってのと、効率良く栄養素を────じゃなくて。
俺のいた場所はパソコンなんて20万するくらい高かったんだ。」
「に、20万!?
それなんていう高性能パソコンですか!!」
「....wings 7EX....」
こちらの世界のパソコンの名称なんて言ったところで分からなんだ。
「それ....多分OSの名前じゃないですか....?」
「触ったことがないんだ、分からないに決まってるだろ.....」
とりあえず事情を話す。
もはや過去人が未来にタイムトラベルしたらこんな気分なんだろうな、とSF映画の主人公に、心の中で謝った。
「────分かりました。」
「はぁぁ.....助かった!
こんなの七神に言ったら怒られるからな....頼れるのはお前だけだったんだ。
恩に着る!」
ぱん、と手を合わせて拝むように。
「そ、そうですよ、こんな馬鹿みたいなことに付き合ってあげるのは私くらいなんですから!
感謝してくださいね!
....それに、衛宮先生は要領はいい方ですし、教えがいがあります。」
では始めましょう、と俺の隣に椅子を持ってきて肩が当たるくらいの距離でPCを眺める羽目になった。
ちなみに教えて貰っている最中、距離感と髪の毛の香りとかにドギマギしていたので3分の1くらいしか内容が入ってこなかった。
XSLEとかいうパソコンのソフトのマクロVBEとかの説明を始めた瞬間に、今ついていける内容では無いので、とりあえず使える機能の追加と説明を突っ込んでもらった。
そうして通常業務で試しに使ってみる。
「.....おぉ....凄いな...コピーペーストしてキーボードポチって押しただけで自動的に計算し始めたぞ....,」
「いいですね、流石は衛宮先生です。
きちんと使えるようなっていますね。」
「何言ってんだよ。
お前の教え方が上手かったからだろ。
俺なんかよりずっと教師に向いてるって!」
「────え?そ、そうでしょうか....//」
早瀬は、現実主義者であり、合理的であり、怒る時は怖い。
されど、基本的にはちゃんと相手のことを理解しようとしてくれる良い奴だ。
「やっぱ早瀬が居てくれてありがとな、これでホシノとか藤河とかの仕事を減らしてやれる。」
「─────なるほど、自分の作業だけでなく、皆のために.....?
衛宮先生が教えるんですか?」
「うぐ....使い方はともかく理屈は.....。」
無理だ....。
どうにか無理しているホシノ達の作業を少しでも楽にしてやりたいと思い手を出し始めたが結局は早瀬のプログラムありきだ。
「慌てなくて大丈夫ですよ。
衛宮先生もこの分野では私たちと同じ「教わる側」と言うだけです。
じっくり時間をかければ問題ありません!」
困った時は、頼ってくださいと。
頼りない俺に、そう言ってくれた。
アリスの士郎に対する呼び方。
-
「士郎」、「士郎先生」
-
「シロウ」、「シロウ先生」
-
「マスター」、「先生」
-
「衛宮先生」、「先生」
-
「エミヤ先生」、「先生」