衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】 作:神宮寺志狼
Fateルートの九日目のチャプター「侵食される食卓」です。
士郎がズボラ飯ならぬズボラパンをやった事が随分と印象に残っていたので流用させていただきます。
すみません....士郎とハルナが並んで鯛焼きを頬張る姿が想像つきませんでした。
今回の中身はほぼ捏造です。
ハルナの口調、大丈夫かな.....
「という訳で衛宮先生、私と共に来てくださいませんか?」
「.......はい?」
シャーレにやってきたのは黒舘ハルナという連邦生徒会から直々に指名手配されゲヘナの風紀委員会からも追われている少女その人。
「いや、前置きなく「という事で」なんて言われても俺は心なんて読めないから一切分かんないぞ?」
「私が誰かに頼み事をする理由などひとつしかありません。」
彼女は長財布から2枚、お食事券のようなものを取り出した。
俺に分かることと言えばそれが高級料理店のものってことくらい。
「確かに昼飯にはピッタリって感じだけど....なんで俺なのさ。」
以前、ハルナとは喧嘩というか仲違いをしたから、快く思われていないと思っていた。
が、彼女はアビドスでの1件の後、かなりの頻度でシャーレ、というより俺を訪ねてくる。
よく分かったのはハルナはレシピ通りに料理は作れる、作れるものの、「普通」では物足りないと自分なりに「美食」を追い求めてあれこれと工夫したり、そもそも美味しさというものを料理の味以外の部分でも追い求めている「真の美食家」であった、という事。
逆に言うと自分自身に関しては妥協を一切許さない。
この前なんて塩加減の違いだけで自爆しようとしていた。
「私との食事はお嫌ですか?」
「いや、俺は別にいいけど....なんで俺なのさ。
お前、殺したいほど俺の事嫌いだったんじゃ.....」
そう聞くと彼女は珍しく口元に手を当てて笑い始めた。
「ふ、ふふ....
いつ私がそんなことを言ったのですか?」
「だって俺はお前の考え方を否定したじゃないか...」
「衛宮先生?
人にはそれぞれの価値観や美学がありますわ。
ですから、「他人を傷つけてはならない」というのが衛宮先生にとっての美学.....いえ、生きる上での道理であること、理解しています。
確かにあの時は頭にはきましたけれど.....。」
「そっか......じゃあたまには外食しますか...」
そうしてD.Uの食事処を─────え?
「なんか、食べる前から吹き飛んでるんですが?ハルナさんや.....」
店が。
「まさかお前。」
「....いくらなんでも失礼ではなくて?
これから向かう店をどうして私が───────。」
「......悪い。
次だ、次。」
しかしこの流れは2、3度続いた。
そうして2時間は歩き回ったが、ハルナが向かう店は全て焼失していた。
「........」
「.....あぁ。こちらもダメですか。」
「なぁ、ハルナ。
飯ならシャーレでも食べられるじゃないか。」
「衛宮先生.....存外に鈍いのですね....。
ご存知ありませんか?
藤河さん達が私に向ける眼差しを。
この間も爆発騒ぎがシャーレであった訳ですし、彼女達も慎重になっているのです。
そんな「いつ爆破されるか戦々恐々」といった目で見られては楽しく食事などできません。」
おおう....あいつら美食研究会を腫れ物みたいに扱ってるのか....
いや間違ってもいないのがこの際問題だ。
実の所、料理以外に関しては皆かなり真っ当な価値観を持っているし仁義にも厚い。
つまり、彼女達の最大の個性が一番の困り所という訳で。
「それに、シャーレの当番生徒にはトリニティの正義実現委員会の方もいらっしゃいますから....無用な口論は御免こうむります。」
「.....そっか、気を使ってくれてありがとな。
欲を言うならそれをもっとこう...
料理店に関しても寛容に───」
「それとこれは話が違います。」
ダメらしい。
「そういやヒナから聞いたぞ。
お前たち、ことある事に多忙な給食部の生徒を拐ってるらしいじゃんか。
それも俺の時と同じように。」
「.....それは違います。
本人の意思とは関係なく協力して頂いているだけですから。」
「いやそれを人は脅迫、強要、誘拐って言うんだぞ?
程々にしてくれよ?
気づいたら矯正局に入れられてもう会えないとか嫌だぞ、俺。」
その一言に、前を歩いていたハルナが振り向いた。
その目は少し輝いているように見える。
「.....申し訳ありませんが、今の言葉をもう一度。」
「いや、お前が捕まったら──────」
「居たぞ!こっちだ!」
「失礼します、ゲヘナ学園の黒舘ハルナさんですね?」
俺の言葉は急遽駆け寄ってきたヴァルキューレの生徒に遮られた。
「今起きているD.U料理店の連続爆破事件の重要参考人─────いえ、容疑者としてあなたを拘束させていただきます。」
噂をすれば、なんとやら。
「「....はい?」」
「全く身に覚えがないのですが.....」
「とぼけるな!つい数分前も料理店が爆破されたんだぞ!」
「料理店を爆破するなんてお前たちくらいしか────」
「ちょっと待ってくれ、ハルナは今日半日ずっと俺と一緒にいたんだぞ? 」
拘束されそうになるハルナからヴァルキューレの生徒を引き剥がす。
「え、衛宮先生......。」
「それは本当ですか?
先生を疑いたくはありませんが、まさか庇っていらっしゃるのでは....?」
自分で言ってはなんだがヴァルキューレ警察学校内では結構顔を知られている。
キヴォトスにきた初日にカヤの好意で少し見学させてもらい、その時に知り合いが数人できた。
それにD.Uで起こる事件に巻き込まれた時には解決の手伝いをしたり、特に生活安全局の生徒とは顔なじみだ。
「多分今回の事にハルナは関係ないと思うぞ。
俺が保証するよ。」
そうして横目で見たハルナがなにか思い当たったように端末をヴァルキューレの生徒に見せた。
「もしかして、被害にあったのはこの店ではありませんか?」
ハルナの指し示したもの、それは先程まで俺達が回っていた焼失した店だ。
ヴァルキューレの生徒にとって、それが図星である事を言葉よりその表情が物語った。
「や、やはり何かしたんだろう!」
「違います。
これは過去に行ったお店の中でお気に入りの店をメモしたものです。」
「な、美食研究会が爆破しなかった店だと!?」
「そんな馬鹿な────」
いや....うん。
柴関ラーメンが爆発したときに一番にハルナを疑った俺が言えたことではないが、本当に酷いな。
「防犯カメラは調べたのですか?
私達はこの2、3時間、後を追うように爆破された店を巡っていたのですが。
せっかくの衛宮先生との食事ですから美味しく質も良い店を、と選んでいたのに────」
何処の誰が、とハルナ自身がムキになっている。
「ほ、本当ですか?衛宮先生 ....。」
「今回に関しては本当に冤罪だ。」
「し、失礼しました!!」
そう言うと、対して持ち物検査を一切せずにヴァルキューレの生徒は離れていった。
「......容易く人の言うことを信じるなんて....アレではヴァルキューレの生徒失格ですわね。」
「.....確かにそうだけど、どっちかって言うとお前が犯人じゃないって動かぬ証拠ができたからじゃないか
この前、お前たちの評判について調べてみたけど、
「美食研究会に爆破されなかった料理店は一流だ」みたいなジンクスもあるって話じゃないか。」
「あら、それは光栄ですわね。」
「いや、これ褒め言葉じゃ────」
「私、誰かの為に「美食研究会」にいるわけではありませんから。」
「それは、「美食により店の方針を否定するのはあくまで自分の為」って事だよな?」
ハルナは頷いて吐き捨てる。
「えぇ、あくまで私は美食を求めているだけで評論家ではありませんから。
私の態度によって料理の道を精進するのも、諦めるのも本人次第です。
それでも、受け止めて挫けず進む姿は嫌いではありません。
料理の真髄は「心」。
そうは思いませんか?」
「何にしても諦めて立ち止まったらお終いってことか。」
「ええ。思考停止は愚かな者のすることです。」
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そういや学生時代の頃、遅刻寸前ということでパン一切れにバターを塗りたくって焼くというもう料理ですらないものを藤姉や遠坂にやった事がある。
当然不評だったし、藤姉なんて
『なにこれ!焼いたトーストだけじゃない!
士郎、なんで今日の朝ごはんこれだけなのよぉぅ!
うわぁぁぁぁぁんっ!!』
といじける始末。
『.....あのなぁ、仕方ないだろ!寝坊したんだから。
他のもの作ってる余裕なんてないし、大体パン食なんてそんなもんじゃないか、たんにサラダと卵焼きが無いだけなんだから、そう大差ないぞ。』
そういえば遠坂には
『.....藤村先生じゃないけど、士郎。こんな手抜きは容認できないわ。
パン食の人間を舐めてるんじゃない?』
と怒られた。
今でもちょっとわからない。
あいつは朝食取らない奴だったのにその後もなんやかんや飯を食べながらぶつくさダメだししてくる時もあった。
嫌なら食わなきゃいいのに。
セイバーに至ってはもう何も言わずにジト目でこっちを見てきた。
『言葉など不要。
作り直しを要求する』
その瞳はそう言っていた。
『そもそもな、今からおかずなんて作ってたら遅刻するぞ。
クラス担任を預かる身として、それでいいのか?』
俺も呆れて藤姉を問い詰めれば
『いいよ!
わたし、遅刻か空腹の2択なら朝ごはんを選ぶもん。
だから早く────』
んな事を言い始めた。
『そっちを選ぶな!飯の為に生徒を放ったらかしにしてあまつさえその生徒に遅刻をそそのかして飯を作らせる教師が何処にいる...!
いいからトースト齧って学校に行けっての!
言っとくけど、俺は意地でもこれ以上の飯は用意しないからな!』
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以上、確か、聖杯戦争が始まって九日目の朝の出来事だ。
ちょっと恐る恐る聞いてみる。
「なぁ、ハルナ。
朝ごはんに焼いたトーストだけ出されたらどう思う?」
「はい?
そんなもの、料理とは言えませんので論外です。
即座に脳天を撃ち抜くか、その者諸共消し飛ばすと思いますが.......」
うん、聞くんじゃなかった。
この話は墓場まで持っていこう。
「よし、気を取り直して食事処さがしますか。」
「えぇ。
ですが衛宮先生、少々私の肩を持ちすぎでは?
爆破させるのであれば手動でなくても時限式の爆弾にしておけば店は破壊できますし────」
「いや、ハルナはそんな事しないだろ?」
と、ハルナの質問に、正直に答えた。
「.....その通りですわ。」
「ならいいじゃないか。それで。」
そうして俺たちはまたD.Uのグルメツアーみたいなもんを再開した。
ついでに言うと、後日店を爆破させたやつは捕まったらしい。
それもどうやらハルナのお気に入りの店ばかりを偶然にも狙っていたらしく、そこからヒントを得たヴァルキューレの生徒たちが待ち伏せを敢行。
無事逮捕されましたとさ。
「美食研究会って.....なんか凄いな....。」
俺は子供の感想のような言葉しか出てこなかった。