衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】 作:神宮寺志狼
痛い。
????「ふぇぇ!!助けて○○○ちゃん!!知らない人に勝手に使われて戦わされてるよぉ....ふえーーん!!」
元から攻撃するつもりはなかったか、それどころか想定外の事態が起こっている。
「くそっ!!なんで!!」
(ギギギギギッ......!!)
軋む。
まるで盾が、戦うことを、防ぐ事を嫌だと言わんばかりに。
悲鳴をあげている、叫んでいる。
こんな茶番のために戦いたくないと、ずっと訴えかけてきているようだ。
ヒビが入っている訳では無い、破壊されている訳では無い。
ただ単に自分の手元にある盾が、その役目を放棄している。
「っ....!!!」
都合着弾10発目。
とうとう弾抜けし、1発は肩へかすり傷を作った。
とはいえ、説明書のない拾い物をそのまま使っている様なもので、何が起こってもおかしくは無いと分かってはいた。
『シロウ!無理しないで!下がりなさい!!』
「先生、ここは私が道を!」
イリヤの叫びに呼応するように、豊見がその正体を明かして前へでた。
「なっ!?」
(バリバリバリバリバリバリッ!!!)
豊見の制圧射撃を易々と回避した室笠の足が止まる。
「流石にバレてしまいましたね!ですが計画成功です!!」
「ハーイ、アカネ先輩!」
小塗が豊見の隣まで駆け寄って気軽に室笠に挨拶した。
「あ、あなた達.....は。」
「誰かと聞かれたら、答えてあげるのが世の情け。
どんな質問にも答えをご提供!エンジニア部の説明の化身、豊見コトリ!」
「芸術と科学のコンビネーション!ヴェリタスのデジタルアーティスト、マキだよ!」
室笠の顔が青ざめる。
まるで幽霊を見たかのごとく。
「そんな、ここに来たのはモモイちゃんとミドリちゃんの筈.....!ユウカ!どうなっているんですか!?」
その瞬間、辺り一帯の照明の光が消え、視界が暗躍に包まれる。
猫塚がEMPを、小鈎がハッキングを開始した合図だ。
「停電!?ですがこの様な事で....」
「....衛宮先生、今のうちに先に行って。」
「だけど ....」
「陽動がバレた以上、先生がここにいる理由はありません。
モモイさん達に合流してください。」
豊見にも打診される。
確かに今の俺では足でまといの上戦闘の邪魔になる。
それでも、2人をここに置いていくことは、
「シャッターでロックが掛けられても衛宮先生なら裏コードの関係上、脱出できます!
ささ、お早く。」
「あの2人を頼んだよ!」
(ドンッ!)
「ま、待てよ小塗、俺はまだッ─────」
『侵入者を発見、緊急時のため、セミナー専用フロアの各セクションを閉鎖します。』
小塗に階段ホールまで突き飛ばされ、施設全体が停電からの復帰と同時にセキュリティシステムが起動し、シャッターがガタンと、俺と3人を隔てるように降りてきた。
「小塗!豊見!!」
向こうの2人の声は聞こえない....しかし。
『データ不一致、未登録の指紋を確認。
セカンドシャッター、作動。』
冷たい機械音声とともに、目の前で2つ目のシャッターが降りてきた。
恐らくウタハと小鈎の『トロイアの木馬』が起動し、それを知らずに室笠が指紋認証システムを実行した為だろう。
「......クソっ!!」
扉から離れ、来た道を戻る。
後ろ髪を引かれたまま、セクションをひたすらに駆け抜ける。
今の俺では生徒と満足に戦えない。
「切り札」はこんな所で使えない。
『先生、聞こえる?』
「小鈎か!」
ここで現状の司令塔であるヴェリタスからの連絡。
『モモイとミドリがセミナーの部隊を突破したけど、そろそろ『鷹の視線』範囲に入るみたい。
合流して助けてあげてほしい。』
「分かった。
小塗と豊見は!?」
『現在アカネと交戦中。もって10分がいいところだと思う。』
「....そっか。」
モモイ達の予想では後10分でカタをつけないと全員が捕まる。
もはやこれまで使っていた防御戦術は使えない。
なんでだ。俺が本来の持ち主じゃないからか.....?
「畜生.........一体こんなザマで、誰を守れるってんだッッ!!」
叫んだ声は静寂に包まれた廊下にただ反響するばかり。
窓から見える雲のない夜空の満月だけが俺を笑って眺めている。
晴れない気持ちのまま、モモイ達に合流した。
「先生なんですか今の叫び声、大丈夫ですか!?」
「あ!あぁ....大丈夫だ。」
ミドリが心配して駆け寄ってくる、が彼女は途端に一歩退いた。
「.....どうかしたのか?」
「い、いえ....ちょっと─────」
「先生、ものすごく怖い顔してたよ?ミドリがビビっちゃうのも仕方ないよ。」
「え?」
モモイに言われ急いで顔を触る。
確かに眉間にシワが寄っていた。
「その、何かあったんですか?」
ミドリに問われるが、余計な気遣いをさせる訳にはいかない。
俺は適当に誤魔化した。
「いや、大丈夫だ。というかさっきあんな「全部終わったら酒場でいっぱいやろうぜ」みたいな話をして別れたのに恥ずかしさの欠けらも無いのか?
ちょっとは気まずいとかさ。」
モモイは首を横に振った。
「ゲームじゃないんだからそんなこともあるでしょ。
先生いくらなんでも私たちのことバカにしすぎ!
確かに私達はゲーム脳だけど.....。
って!無駄に時間を消費してる暇はないの!急ぐよ!先生!!」
と、俺がモモイに怒られてしまった。
「あ、あはは....」
「すみません先生。行きま──────」
ミドリが仕切り直しとばかりに足を踏み出した、その時だ。
『3人とも伏せてッ!!』
小鈎の叫びに全員がその場でたじろぐ。
瞬間、側面のガラス張りの壁の向こうの高層ビルが一瞬光る。
背筋の凍るようなその光に俺は────
「モモイ!!下がれ!!」
「えっ!!」
モモイの腕を引っ張った。
(バリィィン!!)
(ドガァァン!!)
ガラスとは真反対の壁が音を立てて崩れ去る。
「い、今、目の前をなんか凄まじいまでの威力の弾丸が通過したよね!
しかも壁が.....」
「......C&Cの
ミドリが呟く。
やっぱりか、と。
確かここは元々襲撃される予想地点の1つだった。
そして、俺たちが射線を切るために手前に下がったのを理解したのか。
(ドガァァン!!)
その壁すらをも、敵対者は貫いてきた。
放たれた弾丸は壁との衝突で減速した上に、モモイの頭上をギリギリそれて通過した。
「ひっ!?あともう少し身長が高かったらクリーンヒットだったよ!!」
「馬鹿言ってる場合か!こんなん遮蔽物は逆効果だ!!
さっさと走るぞ!!」
「え!!先生正気!?そんなことしたら敵から位置もろバレだよ!?」
「敵は間違いなく俺たちがしっぽ巻いて逃げないと予想を立ててる。
いずれ隠れる壁も無くなるぞ!」
俺の提案に賛同したのか、ミドリがスモークグレネードを取り出した。
「これでっ!!」
(カラカラカラ.....ボムッ!)
これで敵からはこちらの位置が見えないはず。
なんて、そんなわけが無い。
一流の射手は相手なんて見なくても標的に矢を当てられるのと同じように────
「うわっ!?」
「せ、先生!やめてください!!」
2人を抱え込んで走り出す。
(ドガァァアン!!)
(ズガァァン....!)
「めちゃくちゃだよ!どうやって私たちの居場所を当ててるの!?」
やはり、一流の狙撃手ともなれば視界だけで引き金を引く訳では無いのだ。
何とか廊下を突っ切った。
それもそのはず、途中から銃声が一切しなくなったのだ。
その代わり、遠くから砲声のようなものが聞こえてくる。
「多分ウタハ先輩とヒビキがカリン先輩を足止めしてくれてるんだと思う。」
「.....先生!今のうち───うわっ!!」
(ガガガガガッッ!)
床、いや建物全体が揺れているのだ。
「何だ、この揺れ!?」
出鼻をくじかれた。
再び走り出そうとした俺たちはいきなりの床の揺れにその場にしゃがみこむ。
そうして小鈎から通信がはいった。
『.....残念なお知らせだよ、マキとコトリがやられてアカネが脱出した。
アカネの装備は想定以上に充実してたみたい。
作戦より少し早いけどEMPを起動して2度目の停電を誘発させるよ。』
「そうか......2人は無事なんだよな?」
『当たり前だよ。』
小鈎の報告と同時に辺りの照明が落ち非常灯で照らされ始める。
「ま、でももう差押え保管所は目の前なんだし!私たちの勝ちだよ!」
「お姉ちゃんそれ死亡フラグだから。」
「私もそう思うな~。」
ミドリがモモイを窘めていると、廊下の前方に、また1人メイド姿の生徒が立っている
「遅かったね。
だいぶ待たされたよ~。
ようこそ、ゲーム開発部と魔法使いの先輩.....あ、ちがう「先生」だ!
ずっと会えるのを楽しみにしてたんだよ~?」
「「──────────」」
俺たちは絶句した。
アカネはこちらへ今も着々と向かってきている。
ウタハと猫塚だって、どの程度狙撃手に対して時間が稼げるか、分からないというのに。
その生徒は俺達の目の前に立ちはだかり、銃を構えた。
そりゃそうだ。
誰だって見張りの1人つけて当たり前だろう。
それこそ、門番ってわけだ。
つまりここを任せられる生徒ということは──────
「ううん。先生。私は別に任されたからここにいる訳じゃないよ?
だって、「あなた達はここまで辿り着く」と思ったから、ここでずっと待ってたんだ。」
「────なっ!?」
思考を読まれた。
声に出したつもりなどない。
「アスナ先輩!そこを退いて!
ここまで侵入できたんだし、もう私たちの勝ちでいいじゃん!!」
とうとうモモイが駄々を捏ね始める。
まぁ確かに手の届くところに宝物があるのにたどり着けないというのはもどかしい気持ちなのだろう。
が、相手がそんなことを言われて退き下がるわけが無い。
「え?ヤダよ。
せっかくこれから戦闘が始まるって言うのに?
私、戦うの好きなんだ。」
俺はモモイとミドリへ目線を向けた。
2人とも頷いている。
戦うしかないこと。
そして、2人だけでは彼女を突破できないこと。
それを全て悟った上で、銃を構えた。
「あ、もういい感じかな?
じゃあC&C。
コールサイン・
行くよっ!!!」
(ダダダダダダダダッ!!!)
残り時間、想定約5分。
勝利を勝ち取るために、俺たちは敢えて敗北が確定している戦闘を開始した。