衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】 作:神宮寺志狼
「うわぁっ!」
(バシバシバシイッ!)
アスナと名乗る少女の放った銃弾が
それこそ偏差射撃なんかではなく、まるでモモイ自身が放った弾丸の方へ動かされているような錯覚すら覚える。
「お姉ちゃん!!」
「おっと、危ない危ない!」
距離を詰めようと駆け出した彼女。
ミドリの銃口がを動いた時には捉えた時にはもう後方へと跳躍していた。
同じことを繰り返し行って、もう3分は経過しただろうか。
それが今彼女と相対しているモモイとミドリを苦しめている最大の要因だった。
「で、でたらめに強い....これがC&Cの
「そっちも中々やるね!
いいコンビネーションだと思うよ?
双子のパワー、って奴かな。
良いじゃん良いじゃん、もっと私を楽しませてよ!」
残り時間は2分を切っている。
それ以上は
それは、敗北を意味する。
かといって、目の前の彼女は一切の隙が見当たらない。
一か八かでモモイとミドリのどちらかが横をすり抜けようとしたところで同時に制圧されておしまいだ。
いまのこの均衡状態は2人揃うことでどうにか生み出しているに過ぎない。
「ダメだよ、先生、お姉ちゃん、一旦
「うん、仕方な────」
「この状況で逃げられると思う?それは無理だよっ!」
(ドガァァン!!)
「先生!!」
時間の流れが遅くなるような感覚。
避けることなど問題ない、弾は見えている、体は動く。
だが、的確に計算されたその射角は間違いなく2人に直撃するだろう。
つまり─────俺で防がなければ意味が無い。
手段はある。
これ以上の温存は、意味が無い。
余力を残して、どうするのか。
俺自身が戦えないのに、どうしてウタハに造ってもらったコイツをここまで持ってきたのか。
柄を握り込む。
「────────────ッ!」
弾道も、弾丸本体も見える。
後は弾き飛ばすだけ。
だが、良いのか。
生徒の意思の現れである、
意思と体は相反する。
弾丸を生身で食らうより、心が引き裂かれそうだ。
「───────────」
しかし─────
(ブゥン!)
(ガァンッ!!ギリギリギリギリッッ!!!!)
「え?」
腕は、剣に動かされる。
剣の方が俺を守らんとするかのように。
俺以外に見えぬ、透明なその剣に弾かれ、弾丸は2つの破片となって切り裂かれた。
「わぁお、凄いね先生!カリンの20mmをまな板の上の野菜みたいにスライスしちゃった!
見えないけど、何となくわかるよ。
それ、剣なんだよね?」
後方からの射撃が止まった。
困惑か、様子見か。
そんなことはどうだっていい。
俺の投影した剣は、例外なく、これまで生徒や生徒の放った弾丸を切り払おうとする度に砕け散った。
しかし、ウタハの造ったこの剣は全くの無傷。
「俺の剣じゃ、ダメだってのに。」
俺の体も何ともない。
あくまで、生徒の
先程の盾もそうだが、仮に、生徒が所持または製造した武器に、持ち手や造り手の意思が宿るのであれば────────
「これはカリン先輩の弾丸....ってことは」
「ウタハ先輩とヒビキちゃんが ....!」
ミドリとモモイの予測通りと言わんばかりに悪い知らせが小鈎から告げられる。
『不味いね、先生。
ウタハ先輩がカリンに捕まっちゃった。
さらに言うとユウカが警備ロボットを追加で起動。
アカネはそれを追従させてそこに向かってる。』
「げっ!?」
「ええっ!?」
これには2人も驚愕する他ない。
最悪の状況だ。
「もしかして、そっちの計画は失敗寸前なのかな?」
「うっ.....失敗....」
この作戦の失敗が意味するところ、それはミレニアムプライスでのゲームの出展が出来なくなるという事。
とどのつまり、ゲーム開発部が無くなる。
「ま、まだだよ....。まだ、失敗じゃない....!!」
奥の手。
それはアリスとユズによる「鏡」の奪取。
しかし、そもそも2人がどこにいるのかがわからない。
「なぁ、アスナ、だっけ?
あのさ、俺達3人だと少ないと思わないか?」
ユズはゲーム開発部の中でも状況把握に1番長けている。
その彼女が無謀に突撃するとは思えない。
「うーん....
確かゲーム開発部は4人って言ってた気がする!
ここには双子2人と大人の先生が1人。
確かにあと2人居ないね!
それがどうかしたの?」
捕まえてると言わないあたり、やはり2人はまだここへ辿り着いていない。
「.....私たちが派手に動けば動くほど、1度閉じ込めたアリスへの警戒は薄くなるはず....
私たちが捕まっても....謹慎くらいなら、部室でこっそりG.Bibleを見ながらテイルズ・サガ・クロニクル2は作れるはず.....」
「諦めなさい、モモイ。」
その声の主はカツカツと、足音を鳴らして後ろからやってきた。
「うっ!?ユ、ユウカ!」
「......ヴェリタスとエンジニア部、それに先生の助けを借りているとはいえどC&Cのミレニアムの防衛機構相手に頑張った方じゃない?
それについては褒めてあげるわ。
けど、システム自体を乗っ取ったのはやり過ぎよ。」
「待てよ、早瀬、お前────」
「先生は黙っていてください!」
早瀬が俺の話そうとしたことを止めてきた。
確かに「それは条件や禁止行為を設定しなかったお前達が~」なんて言ってしまえば「これが演習だ」と告げていることになる。
「どうしようかしら、無条件の1週間停学か、拘禁くらいにしましょうかね。」
「停学!?拘禁!?」
「それも1週間.....それだとミレニアムプライスが終わっちゃう!!」
処罰を言い渡したユウカは少しだけニヤケている。
まぁそんなことをするつもりも無いのだろうが....
いやそれだと本当にモモイとミドリからしたら嫌な女にしか見えないぞお前。
「なにか文句ありげな顔してますけど、先生も
ユウカの言ってる同罪というのはモモイ達とのではなく、早瀬自身の事だろう。
「まぁ....話に乗った時点で同じ穴のなんとやら、か。」
「やっと...追いつきました......!」
そうして早瀬の後ろから室笠が現れた。
「うぇぇ....!?」
「あ、アカネ先輩に....後ろにいるのは警備ロボット...。」
膝から崩れ落ちる2人に室笠が笑いかけた。
「今度こそ
改めて初めまして、モモイちゃん、ミドリちゃん。
アスナ先輩とユウカ、それにカリンと私。
いくらなんでもこの戦力差なら戦うか降参するかどちらが利口な選択なのか分からない訳ではありませんよね?」
「こ、これで本当に終り....?そんなの嫌だっ.....!」
「お姉ちゃん.......。」
涙を浮かべたモモイと視線が交わった。
「ごめん....ごめんね先生.....テイルズ・サガ・クロニクル2....やらせてあげるって約束したのに.....
わざわざ私たちのために正しいこととか、悪いこととか関係なく手を貸してくれたのに.......」
「.....」
モモイの言葉が刺さる。
俺は、どうしてモモイ達に肩入れしているのか。
それをどうやって判断したのか。
行いの善悪。
最後までそれだけに拘っていた。
頑張ったやつが報われるのは当然だ。
だけど、これまで頑張ってこなかったやつが、今まさに頑張ろうとしていてそれまでの怠惰のツケを払わされるなんてのは正直ごめんだ。
そんなのは嫌だ。
何をするにしたって、壁はいくらでもある。
だからって壁が成長していいわけが無い。
「あぁ、モモイがサボり癖のあるいい加減な奴だって事は、もうこの数日でよくわかったよ。」
俺も胡座をかいて、その場に座り込む。
「.......。」
「....先生。」
モモイは押し黙って下を向く。
「......シャーレにさ。
狐のようなちょっと変わった生徒がいるんだ。」
「....え?」
困惑するモモイとミドリ。
そりゃ当たり前だいきなり出てきたのが知らんやつの話なんだから。
「....え、衛宮先生!?なんでワカモの話が?」
「いいから早瀬、悪いけどちょっと待っててくれ。
お前達からしたら2人だってすぐ捕まえられるんだろ?
なら少しくらい話したっていいじゃないか。
「先生」としての本分を果たさせてくれ。」
俺はモモイに向き直る。
「そいつに最初出会った時、大和撫子だと思ってたんだ。
物静かで文武両道で美人ってヤツ。
蓋を開けてみたら1部はそうだったんだけど、一点だけ手の付け所がない部分があってさ。
なんというか、戦う時だけ乱暴で、嵐みたいな奴なんだ。
敵1人に対して、10....いや、100倍くらい周りが損害受けててさ。」
何か早瀬が顔をひきつらせているが、放っておこう。
もしかしたらそういう問題児がミレニアムにもいるのかもしれない。
が今はモモイ達の方が先だ。
「......じゃあ先生はその生徒を追い出したんですか?」
ミドリの質問に首を横に振った。
「ん、いや?そんなことしないぞ。
そいつ百鬼夜行で停学処分受けてるんだ。
だから行くとこもなくてな。
それは抜きにして理由があって
って言ってもさ、ミレニアムに来たのも、些細なことで喧嘩して俺がシャーレを飛び出してきたからなんだけどな。」
「え゛!それ、大丈夫なんですか!?」
早瀬が冷や汗を流し口をあんぐりあけている。
「....多分大丈夫じゃないか?」
「えぇ......?」
とりあえず今は無視だ、無視。
「なんで?」
ふいに、モモイが顔を上げた。
「そんなヤツと一緒にいても衛宮先生が損するんじゃないの?
迷惑かけてばっかりの悪い奴なんて....」
その言葉は自分にも覚えがあるのか、口調は重い。
「そんな事ないぞ。
確かに一点だけ見たらそいつは悪いやつだし、未だにカッとなった時の人前で言えないような悪口とかも治らないし。
他人を下に見るような言動もたまにするけどさ。
それでも悪い奴にだっていい所くらいあるんだ。
俺が寝坊した時は起こしてくれるし。
いつも俺の飯、美味そうに食べてくれるし。
気の利く良い子で、やっぱり美人だし。」
「.....何それここまで来て惚気話...?」
「何言ってんだ、お前だって同じだぞ?」
「へ?」
「まぁ、他にも沢山シャーレで預かってる生徒が居るんだけど、そいつらだって自分達のなけなしの居場所を守るために手を尽くして───いや、汚してきた。
だからアイツらだってお前の言う「悪い奴」だ。
でもそいつらだって努力して今頑張って真っ当な道で生きてる。
だからどんなに悪いヤツだって、きっかけと進む勇気さえあれば変わっていけるはずなんだ。
だからさ、
どれだけ他の人に迷惑かけてようが、
俺は、お前───いや、お前達を見限るつもりも、諦めるつもりもない。
お前達が所属してる部活の名の様に、皆を笑わせてくれるヤツだって
俺は信じてる。」
「「先生.....」」
「ってなわけだ。疲れたんならちょっと座って休んでろ。
お前たちは頑張ったよ。」
立ち上がって早瀬と室笠、そしてアスナと対面する。
「あら?もしかして.....」
「何何!?今度は先生が相手してくれるの!?」
ワクワクしている2人に俺は首を横に振る。
「悪いけど、俺はお前たちと戦うつもりは無い。
俺はここにいない、あの二人のことも信じてる。」
ミドリが俺の言葉を否定する。
「無理です.....だって、ユズとアリスちゃんには────」
「いや、来る......アリスは......。」
違う。
これは願いだ。
アリスは言った。
自分たちにとって一番強大な力とは「仲間」だと。
であるなら、「鏡」を手に入れるために、必要な行動がなにか、そんなことはわかっているはずだ。
だから自らの意思で、モモイ達を助けに来る事を。
俺は先生として、お前を信じる、だから───────
アリス─────!!!」
「勇者として─────すべきこと.....それは大事な仲間を守ることです!!」
(ガコン......ウィィィィィィィンッ!!!)
「この声!アリスちゃん!?何処から!」
「え!嘘、下!?」
アスナが下を見る。
「光よ!!!」
その瞬間、
(ドガァァァァアン!!)
「きゃぁぁっ!!!」
「な、なんと!?」
天井まで丸く穴が空き、早瀬達の足元が崩れ始める。
寸前でアスナは回避したようだがかすったのか、気絶している。
2人はそのまま体勢を崩し、落下して─────
(パシッ)
「「せ、先生!!」」
2人の手首を何とか掴む。
「間一髪だ、間に合った!」
ビームによって空いた穴からアリスがレールガンとユズを担いで飛び出してくる。
「ひっ!?」
「アリス!召喚の呼び声に応じ参上しました!!マスター!」
その剣を振り回し、壁へ立て掛け、両腕を腰に当てる彼女。
「早瀬達を頼む!」
「はい!シロウ!」
そうして、落下しかけた2人を、穴から救いあげ、この戦いは、こちらの勝ちで収束した。