衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】 作:神宮寺志狼
私の誕生日でした。
今日も仕事忙しかった....
「あらためて....G.Bible、見よっか!」
廃墟のロボット兵達。
セミナーとC&C。
それら全てを乗り越え、ようやくRPGのエンディングのように、彼女達はその手にやっと、宝物を手にした。
モモイ達に影響を受け、俺とイリヤですら期待の眼差しで端末を見つめている。
「知っての通り、この聖典の中身に関してはネットの海に情報がない
ただ、最後にG.Bibleを見たというカリスマ開発者によると....
「ゲーム開発における秘技。みんなが知っているようで、誰も知らなかった奇跡」....って。
私は、それが知りたい。」
ミドリが頷いた。
「うん...!
最高のゲームを作るために。」
「今度こそ....私達のゲームで皆を笑顔にするために....。」
ユズもミドリに続き決意を述べる。
「そうだよ!それが出来ればもうあの算術使いに怯える必要なんてない!
これからも胸を張って皆でこの部室にいられる!
もし失敗したら...ユズは寮に戻って.....会いたくもない奴らに会わなきゃいけなくなる.....。
それにアリスだって....」
最後まで、ユズの事情を聞くことが出来なかった。
だが、察することは出来る。
ユズの作ったプロトタイプに対する批評酷評。
脅迫文。
そして寮にいる「何者か」。
「.....そんなことは絶対にない。
お前達ならやれる───って、俺は信じてる。
だろ?モモイ、俺にテイルズ・サガ・クロニクル2をプレイさせてくれるんだろ?」
「───!!
そう、そうだよ!私達は絶対に、絶対に最高のゲームを作るんだ!」
深呼吸するモモイ。
そして───────
「アリス!G.Bible、起動!」
「はいっ!アリス、聖典を開きます!」
(ポチッ!)
アリスがスタートの文字を押せば、黒い画面に白い文字で文章が表示された。
「おぉ ...始まった!」
この質問に対し世界中で様々な答えが模索され続けてきました。
作品性、人気!売上、素晴らしいストーリーや爽快感、鳥肌の立つ演出など。
そういったものが最高のゲームの条件として挙げられることは多いですが、それらは全てあくまで「真理」の枝葉に過ぎないのです。]
そして、このG.Bibleにはその真理が秘められています。]
「いよいよだね。皆。」
「一体....その真理ってなんなんだろう...。」
ミドリもユズもワクワクしている。
それを今こそお教えしましょう。]
「アリス、ドキがムネムネしています!」
『アリス、それを言うなら胸がドキドキ、よ。
それにしても....たった一つの真理かぁ....。
シロウ、私どうしてかろくでもないものが出てきそうな予感がするんだけど...』
イリヤがアリスの言葉を訂正しつつ、「嫌な予感がする」と言い始めた。
「んな馬鹿な。
だってここまで苦労して手に入れたもんだぞ。
きっと凄い秘密に決まってる。」
じゃなきゃ、これまでの時間をなんのために消費したのか、わからない。
「え....?」
「....待って、まさかこれだけ...?」
俺たちが見たもの。
それは最初に記述されていた通りのたった一つの事。
G.Bible.exeは問題なく稼働しており、エラーでもない。
この言葉1つが、「G.Bible」の本懐なのだ。
「......」
「......」
「......こんなに落ち込んだのは...「
....。」
黙り込むモモイとミドリ。
ユズは、顔を青くしボソリと呟いた。
唯一アリスだけが、何が起きているのか理解出来ていなかった。
「あ、あの....モモイ、一体何が....」
「フ、フフフッ!
────ふへへへへへっっ!!!
全部終わった、おしまいだぁぁぁぁぁっっっっ!!!」
「お、落ち着いてください!モモイ!気を確かに!
衛生兵!衛生兵~!!」
座りながら曲げてはいけない方向に胴体倒したモモイをアリスが支えた。
助けを求めるように辺りを見回し、────ミドリに話しかけた。
「ミ、ミドリ....?
モモイは大丈夫なのですか....?」
「──────アリスちゃん、ごめん。
今は何も考えたくないんだ.....。放っておいて....。」
「ガーン!!
ユ、ユズ──────」
アリスはユズに尋ねようとするが時すでに遅し、彼女の姿は消えていた。
─────代わりに、ロッカーがガタガタと揺れ、ぶつぶつと独り言が聞こえてくる。
『怒り、破滅、腐食、絶望、虚脱.......世界は今、破滅に向かって......。』
そうして、遂に俺の番が来た。
「えっと....シロウ先生、これは一体何が────
アリスには理解不能な出来事です.....
もしかして3人がおかしくなってしまったのは、G.Bibleのせい、ですか?」
「──────まぁ、そうだな。
3人がG.Bibleに賭けた望みがどんなものか知らないけど。
あまりにも抽象的過ぎたんだ。
それこそこれまでの皆の努力に、これだけじゃ釣り合わない。」
これはいくらなんでも酷すぎる。
ゲーム開発をするに当たって必要な物。
「思い」。
そんなのは開発者なら誰だって持っているだろう物を今更─────
「で、でもG.Bibleには嘘は書かれていないと────」
「そ う い う 問 題 じ ゃ な い っ ! !」
とうとうモモイが、アリスの一言が引き金となってキレた。
あのモモイが、理不尽さにキレたのだ。
「───ひっ!?」
「うおっ!?」
「いっその事このG.Bibleが偽物とか、中身が書き換えられたとか、内容が嘘だとかの方がまだマシだよ!
うあああああん、終わった!
私達は───私達のゲーム開発部はもう廃部なんだ!
ふええぇぇぇぇぇえん!!」
そうして、その涙にミドリもつられ、彼女達はボロ泣きを続けた。
「あ、あの────」
「アリス、そっとしておいてやってくれ。
ちょっと外に出よう。」
「え、マ、マスター!待ってくだ───」
状況がいまいち飲み込めず困惑するアリスを、俺は部室から連れ出した。
休憩所の自販機で炭酸飲料を購入。
「ほら、アリス。お前の分。」
「あ、ありがとうございます。マスター...。」
校舎の壁を背中にして一休み。
やはりアリスはモモイ達のことが気がかりなのか、そわそわしている。
「あ、あの───────」
「もしもの話なんだけどさ。
もし、アリスがとんでもなく難しいゲームをしていて、初見殺しとか、何回か倒されてからじゃないとクリアできないダンジョンをやっと突破して、その先にあった宝箱にもう持ってる武器が入ってたらどんな気持ちになる?」
俺の言葉の内容を理解しながら、頭で整理するアリス。
「.......ガッカリすると思います。
頑張ってクリアしたのですから報酬がないと達成感が味わえません。
いえ、ダンジョンの攻略そのものや、ゲーム完全クリアのトロフィー目当てなら別かもしれません.....でも────」
「やる気、削がれるんじゃないか?
今のモモイ達はそれだ。
せっかく手に入れたG.Bibleの中に書いてあったのがもう知ってることだった。
「ゲームを愛しなさい」なんてさ。楽しんでゲームしてる奴なら当然の事だろ?」
顔を俯かせるアリス。
「アリスはゲームが好きか?」
その言葉には目を輝かせ、ハッキリと彼女は答えた。
「はい。アリスはゲームが大好きです。
それと同じくらい────いえ、それよりもっとモモイやミドリ、ユズ、そしてシロウの事も大好きです!」
「───そっか...。」
「.....なので、理由が分からなくても、モモイ達が悲しんでいる事がアリスにとって悲しいです....。
チビメイド先輩との戦闘もC&Cとの戦術の読み合いも胸は昂りました。
廃墟に出かけたのも。
達成感は、アリスには足りています....。」
最終的な成果ではなくアリスは「過程」における「結果」が満足だ、と言っている。
だが、モモイ達───ゲーム開発部にとっては違う。
「......モモイ達はG.Bibleが魔法みたいなものだと思ってたんだろうな。
それこそ自分たちの想像のつかない、何か。
それを使って、自分達の力を超えたその何かを使って、最高のゲームを作ろうとしたんだ。
ただゲームを作るんじゃない。
ゲームが大好きだからこそ、出来うる限りの力をもってゲーム開発をしたかったんだ。」
「マスター。アリスは逆だと思います。。」
「え?」
アリスは淡々と、最初からそうであると、G.Bibleを見た時から分かっていたと言わんばかりに、自信を持って話した。
「モモイ達はゲームを愛しています。
ですから、最高のゲームを作ることが出来ると思います。」
「......「手段」と「結果」が逆転──────」
彼女達は最高のゲームを作る方法としてG.Bibleを求めた。
「G.Bibleには「最高のゲームを作るための秘訣が書かれている」のですよね?
であれば、モモイ達には最高のゲームを作る為の「秘訣」が、「手段」が揃っています。」
ゲームが好きな彼女達なら、最高のゲームが作れる、と?
「「ゲームを愛しなさい」というあのメッセージを見て、アリスは「テイルズ・サガ・クロニクル」をプレイした時のことを思い出しました。
あのゲームは間違いなく面白いです。
話しか、アリスは聞いていませんが、あれはユズが1人で作った物に、入部したてのモモイとミドリが加わって完成したと聞きました。
シロウ。
ゲームの作り方の基礎すら知らないプレイヤーであったモモイやミドリが、半月あまりであれ程のものが作れたのです!
3人にとってもあのゲームは大好きなゲームのはずです。」
.....確かに初心に帰るというのも大事な事だ。
人は切羽詰まったり、継続して何かを続けていると、最初の望みを忘れて段々効率を求めていく。
彼女達は今、廃部の危機を乗り越える為に最高のゲームを作ろうとしている。
そもそもからして逆だったのだ。
「.....忙しいって字は「心」を「
「アリスにはわかります。
私達は最高のゲームを作ることが出来ます!」
(ガチャ)
『はいるわよ、あなた達....え?何があったの?モモイ。』
誰かが部室に入ってきた。
ロッカーの格子から少し覗き見る。
セミナーの会計担当のユウカ先輩だった。
『........衛宮先生とユズは?
それにアリスちゃんも見当たらないけれど....?』
『士郎ならアリスを連れてどっかいったよ....ふへへ......』
項垂れるモモイの反応にユウカ先輩が屈んで心配そうに問いかけている。
『本当に何があったのよ.....ってこれ衛宮先生の端末─────
って違う!
ねぇ、モモイ。
ちょっと待ちなさい、何時から衛宮先生の事「士郎」なんて呼ぶようになったの!』
『何時からだっていいじゃん!
ほっといてよ、もう私達廃部決定みたいなもんだし.....
どうせこのまま「ガラクタのクソゲーを作ってた部活」ってレッテルを張られたまま解散するんだ....。』
『モモイがここまで心折られてるところ初めて見た.....ねぇ、ミドリ。
一体何が....』
『......ちょっとほっといて欲しい....。
それとももう退去勧告しにきたの....?』
ユウカ先輩が本気で心配してオロオロしてる。
『.....衛宮先生もタブレット忘れがちね.....。
どうしてなのかしら....』
『士郎は冬木市...だっけ?あそこでゲームを一度もやった事がないんだって。
元いた場所もしかして携帯もないんじゃない?』
『そんな、それこそまさかよ。
......まぁいいわ。ユズ?そこに居るんでしょ?
衛宮先生が来たら伝えておいて。
ミレニアムプライスが1ヶ月後に延期になったって。』
『えっ!?』
『それ本当なの!?ユウカ!』
その言葉を聞いて、慌ててロッカーを飛び出した。
(ガタガタガタンッ!!)
「....やっぱりロッカーの中にいたのね。」
見透かした笑いをするユウカ先輩。
「ま、まさかユズをロッカーから引っ張り出すための嘘なんじゃ....」
「.....もう知ってるんだね、私達の切り札がなんの意味もないものだってこと.....。」
「あ・の・ね!
本当に退去命令だすならセミナー総出で来るわよ!
そんな非効率的な手段は使わないわよ....。」
「なら...どうして延期になんて....。」
「ミレニアムプライスが延期になった理由は2つあるの。
原因は1つだけど。」
考え込んでいたミドリがなにかに気づいたのか、ハッとした表情を浮かべ、ユウカ先輩に問いただす。
「もしかして...ミレニアムタワー....?」
「そうよ、ミドリ。
ミレニアムプライスを管理、進行するのは当然セミナーなわけ。
そのセミナーのデータを管理してたサーバーが丸ごとバックアップ含めて破壊しちゃったのよ。
ネル先輩が。」
破壊された、というが私達もそれに加担していた。
その結果、寿命が伸びたというのも笑えない。
「修復とか....出来ないんですか?」
ううん。
違う、ここは技術の真髄ミレニアム。
データが飛んだ程度なら復旧は簡単に出来る。
それが出来ない....ということは────。
「そうね....消し飛んで塵になった筐体や基盤ごと生み出せるなら出来るわね。」
媒体ごと無くなってしまったということ。
「今、ノア達が必死にアナログ記録媒体のデータをPCに再入力してるの。それが済みそうなのが、1ヶ月後なの。」
「じゃ、じゃあ私達まだここにいてもいいんだ ....。」
モモイの言葉を聞いたユウカ先輩がため息をついた。
「
これでも期待してるのよ?あなた達のゲーム。」
「でも.....ユウカ先輩....私達....。」
G.Bibleは.....。
「.......。」
「......。」
沈黙する私達。
そこへ───────
「できるさ。」
「!!」
「衛宮先生....。」
「士郎......」
あの人が、ユウカ先輩の後ろに立っていた。
「チャレンジする前からクリア不可能だ、なんてわかる任務とかミッションとか、クエストなんてないだろ?
やって見なきゃ分からない。
それに約束してくれたじゃないか、2度も。
ゲームを作るって。
最高の、お前たちのゲームを俺にやらせてくれるって。」
「.....でも、テイルズ・サガ・クロニクルの時みたいに、ミレニアムプライスで酷評なんてされたら......。」
「そうならない為の、最高のゲームを作る為の、G.Bibleだったのに....」
臆病で、ごめんなさい、先生─────
「あぁぁぁぁ!!もう!!モモイ!あのゲームを起動しなさい!」
「え?」
ユウカ先輩が痺れを切らしたみたいに、ズカズカと部室に入ってくる。
「「テイルズ・サガ・クロニクル」はこれね!」
(カチャ、ウィィィィン、ブォン!)
何故か、彼女が私達のゲームをプレイし始めた。
「....え?どうして──────。」
「正直に言うとね、私、衛宮先生に怒られてからちょっと後悔したの。
確かにやってないのに評価するなんて馬鹿げてる。
過程を飛ばして結果を出そうとしてたんだもの。」
そうして私達は夜中まで黙ってTSCをプレイするユウカ先輩を見守った。
正直、怖かった。
やってない人に言われるのは別にいい。
しかし、プレイして感じた本人の意見。
そちらを真っ直ぐ言われることの方が、怖かった......。
それでも、受け入れなきゃいけない.....
ユウカ先輩の評価も「クソゲー」なら....今度こそ私は─────