衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】   作:神宮寺志狼

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「テイルズ・サガ・クロニクル」って打つのすげぇ疲れる...




#17 始まりの物語、ここから始まる物語

その後、1ヶ月間の俺の仕事は明確なものだった。

俺は邪魔になるからと、シャーレに戻ろうと言ったのだが。

 

臆しがちなユズがどうしても、と引き止められてしまった。

 

 

 

「ねぇねぇ士郎!この文章どこかおかしいんだけど、どこかおかしいのかわからないんだ!」

 

「そりゃここと、ここ、字が違ってるからじゃないのか?」

 

「あ!そっか!ありがとう。」

 

(カタカタッ!)

 

「よし修正完了!次々~」

 

モモイのタイピングした文章の誤字、脱字、雑な文章の確認。

 

 

 

 

「衛宮先生!

この前見せてくれた剣のデザインなんですが....似たような剣でもう少し装飾の無いものはありませんか!?

 

お姉ちゃんのシナリオに合わせるとこの村にこんな華美な剣があるとは思えなくて....

ただ店で売っている剣だと質素すぎると思います。」

 

「......確かにな。

よしこんなのなんてどうだ?」

 

「────!

それ私の想像(イメージ)に近いです!

もう少し見せてくれませんか。」

 

「あぁ、怪我をしないように気をつけてな?」

 

 

 

ミドリのデザイン創作の手伝いと監修。

 

 

「シロウ!それは「サンダーラ!」の方が魔法のネーミングとしてはいいと思います!」

 

「まてまて、それは「ライトニング」にするってモモイがさっき言ってたばかりだろ!」

 

 

魔術を1つ使えると言うだけで何故か魔法の監修まで引き受けることに......。

 

 

 

ユズのプログラムに関しては一切手出できない。

ただし、何度呼び出され操作を頼まれてはキャラクターをMAP上で動かし、チェックをする。

 

 

そして───

 

 

「違うよ!ミドリ、ここでこうしないと───」

 

「だからって急な設定変更は無茶だよ、今からだとデザインだってプログラムだって仕上がるかどうか.....」

 

「じゃあこの伏線何処で回収するのさ!」

 

「待て待て!2人とも、ストップだ!」

 

撃ち合いにもなりかねない2人の言い争い。

それの仲裁だ。

 

「.....ならエンディング後にできる「ミニゲーム」を追加してそこでちょっとしたストーリーを作ったら....どうかな、なんて。」

 

「「そ、それだよ!!」」

 

「さすがユズです!」

まぁ大半はアリスやユズの提案により解決することが、多いのだが。

 

「やれやれ....ったく。」

 

 

 

 

 

 

そうしてゲームそのものが組み上がった時にはもう締め切りが間際まで迫っていた。

 

「お姉ちゃん!まだ!?」

 

「ま、待って!急かさないでよ!後これだけ、入力すれば終わりなんだから!」

 

 

「はぁ.....」

 

結局、モモイ達が根を詰めて取り組んだのは二日か三日に1度だけ。

それ以外は4人で出かけたりお菓子を貪ったり.....。

それを何度も繰り返して、ようやくここまでたどり着いた。

 

「ようやくあいつの言ってる事の意味がわかったぞ...」

 

確かに、こいつらが怠惰だって事が。

 

まぁそれでもエンジンがかかってしまえば、こうして全力で目標に向かって走っていけるやつだってことも。

 

そんなこと早瀬だって分かっていたのだろう。

だからあれほど追い立てて追い詰めたのだ

その結果「G.Bible」なんてあらぬ魔法の書を求めた訳だが。

 

「あと2分だよ!黙って待ってなんてられないよ!」

 

いるよなぁ....試験前日とか当日にしかやる気にならない奴ってのは、それこそどこにでも。

 

が、ゲーム開発部にはこれが1番あっている。

 

「アリスちゃん....あと時間はどのくらい?」

 

「あと97秒....訂正します、96秒です。」

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これで.....コンバート!ユズ!そっちは?!」

 

「こっちは簡単なテストだけ.....エラーは出てない...うん、モモイお願い....!」

 

「OK!ファイルをアップロード....完了まで15秒....アリス、時間は!」

 

「残り15秒です!」

 

「お願い....間に合って...」

 

 

そのギリキリ差。

もはや天晴れだ。

 

 

「....5...4...3....2....1」

 

「ファイルアップロード99.9%....! 」

 

0秒(100%)!!」

 

[ミレニアムプライスへの参加受付が完了しました。]

 

 

 

 

 

「間に合ったぁぁぁ!!!」

 

満面の笑みで喜ぶモモイ。

 

「し、心臓止まるかと.....思った。」

 

胸を撫で下ろユズと、俺も気持ちは同じだ。

 

「なんとかなったな。」

 

「うぅ....」

 

 

まぁ、真剣さが足らない、なんて怒る気にもならないが。

 

「なぁ、ミドリ、結局、結果が出るのは3日後なんだよな...」

 

「は、はい。」

 

もどかしい。

 

こんなの生徒の為にあーだこーだと奮闘していた時以来だ。

1ヶ月も経ったからか、随分昔のことに思える。

 

「3日か....長いな.....なら約束通りやらせてくれないか?」

 

俺は、初めて持ったコントローラを再び握る。

 

「お、いいねぇ、先生!

今度はそう簡単にクリアされないよぉ?」

 

「ぷっ...」

「はははははっ!!」

 

似合わないにんまり顔で笑うモモイの姿に全員の緊張が解け、徐々に口元が緩くなっていく。

「 ......♪」

 

 

 

 

(ピコピコ、ポチッ!)

 

 

「あの....Webに「テイルズ・サガ・クロニクル2」をアップロードしませんか?」

 

「お!いいじゃんそれ!」

 

ゲームのプレイ中にひょんなことを言い始めたアリスとそれに乗ったモモイ。

 

「え!!?」

 

「ど、どうして....?」

 

驚くミドリに怯えるユズ。

まぁ、前回の酷評がトラウマになっているのだから当たり前か。

 

むしろそう考えると、モモイは随分と変わった....ように見える。

あれ程自分を───自分達を卑下していた様子は何処へやら。

以前の自信満々傍若無人さが戻ってきては「閃いた!」を何度聴いたことか。

 

まぁしかし、くらい表情よりちょっと生意気なくらいの方がモモイには丁度いい。

いや、似合っているとすら言えるだろう。

 

「随分自信があるみたいだな。」

 

「そうだよ!そもそもミレニアムプライスに出品する為だけに作ったゲームじゃない。

 

そうでしょ士郎!

 

 

 

士郎が言ったんだよ!

 

お前達が所属してる部活(ゲーム開発部)の名の様に、迷惑をかけた人達皆を笑わせてくれ』って。

 

だから自信たっぷりだし、途中で挫けちゃったけど....

 

見てもらいたいんだ!

だって、私達は本当に、全力で部活動したんだから!」

 

 

「───────。」

 

モモイの言葉に、頷くミドリとユズ。

 

「.....私もお姉ちゃんの意見に賛成!アップしよう!」

 

「.....作品って言うのは見てくれる人、遊んでくれる人が居てこそ完成されるものだと思うから。

 

私は私のゲームをきっちり完成させたい....。」

 

 

「そうか....」

 

 

それでも1つ、問わなければいけないことがある。

これは余計な事かもしれない。

だけれど、浮かれている4人だからこそ、ハッキリさせておかなければ行けないとも思うのだ。

 

 

「後悔しないか?

 

前みたいに、低評価や酷評、果てには脅迫文が届いたとしても。

それでも前を向いて「自分たちの作ったものは間違ってない」って信じられるか?」

 

 

 

 

一瞬顔を見合わせる4人。しかし、最後には皆、頷いてくれた。

 

「わたしの夢は.....わたしが作ったゲームを「面白い」って言って貰う─────いえ、楽しんでもらうことでした。

でも、わたしが初めて作った「テイルズ・サガ・クロニクル」のプロトタイプは4桁以上の低評価コメントと冷やかしだけで終わってしまい.....それからゲーム開発部の部室に引きこもるようになってしまいました...」

 

「そんな時です....2人が部室を訪ねてきてくれたのは──────」

 

ユズは語り始める。

 

なぜ、あの部室が譲れないものなのかを。

全ての始まりを。

 

 

 

 

 

 

 

 

ネットの評判、その1字1句を、ユズは顔を青ざめさせながら、メモ帳に書き記していく。

覚えていたのだ、その全てを。

 

受け止められなかったのでは無い。

ただ、世間が辛辣すぎたのだ。

 

『「ゲーム」をしらない初心者が作った作ったもの。』

 

『ゲームによく似たゴミ。』

 

『開発者の頭には脳みそが入っていない。』

 

酷いものばかりだ。

ずっと、そんなものをユズは背負ってきたのだろう。

 

そんな時にモモイとミドリが、やってきたらしい。

 

扉を叩き、その姿は無理やり扉をこじ開けようとする空き巣のよう。

ユズは随分と恐怖したそうだ。

 

が、その正体は不仲の2人組の姉妹。

 

どうやらプロトタイプのアップロード直後にプレイし、没頭したそうで、それ以前は、2人の中もとてつもなく悪かったそうな。

 

 

『お姉ちゃん熱中して徹夜でゲームしてたもんね。』

 

『ミドリだって、ニヤニヤしながらプレイしてたじゃん!

元々ゲームにそんな興味無かったのに!』

 

 

ドアをこじ開けるように、喧嘩しながらやってきた2人を、ユズは渋々出迎え、新たな部員として迎えた。

 

「テイルズ・サガ・クロニクル」は間違いなく、この3人を結びつけた、運命のゲームだったのだ。

 

 

「それで、2人が部員になってくれました。

 

でも半年だと意見もまとまらなくて、一緒に完成させた「テイルズ・サガ・クロニクル」はクソゲーランキング1位になっちゃいましたけど....

 

そのあと、衛宮先生が来てくださって.....アリスちゃんも来てくれて....

 

2人に、面白いって言って貰えた。

 

それで、私の夢はもう叶ったんです。」

 

 

「─────────。」

 

アリスはどうかわからない。

 

が、胸が締め付けられる。

無責任な俺の一言で、嘘のような一言で、ここまで騙すように安心させている、自身の心が。

 

「....ユズ、ごめんな。俺は──────」

 

頭を下げようとした俺の手を、まるで「分かっている」と言わんばかりに、ユズが手を取った。

 

「分かっています。

アリスちゃんだって衛宮先生だって初めてプレイしたゲームが私達の「テイルズ・サガ・クロニクル」だと判別がつかないでしょうし。」

 

無理矢理苦笑いを作り出すユズ。

 

嗚呼─────本当に俺は、先生失格だ。

 

「大丈夫です....もし前みたいに低評価コメントのオンパレードになったとしても....

全力で頑張ったから....

 

それに今度は私一人じゃない....。

 

皆で1つになって、全力で頑張ったので、みんなと一緒ならきっと受け止められると思います。」

 

もう、挫けないと。

 

「わたしはもう大丈夫、です。」

 

「........そっか。」

 

その一言を合図に、モモイがPCのキーボードのEnterキーを人差し指で押した。

 

「それじゃアップロード!スタート!!」

 




次回、Vol2第1章最終話。
「ミレニアムプライス」
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