衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】 作:神宮寺志狼
......絆ですらねぇし、なんならエンジニア部のグループストーリーなんだよな....これ。
これもまた、ミレニアムプライスの結果発表が出る前の話。
ミレニアムの街を歩いていると──────
「うわ!!」
急ブレーキをかけて自転車を止める生徒を見かけて声をかける。
「よっ、どうしたんだ?」
「あ....衛宮先生、チェーンが外れてしまって。」
ミレニアムでは高性能技術製品が多いが、その分トラブルも多いようで毎日誰かがどこかで困っていたりする。
その割にはサポートが十全に行き届いている訳ではなく、一部の生徒達への仕事というか依頼が殺到している。
んな訳で少しでも負担を減らしたい俺はというと、スーツの裏ポケットには各ドライバーとナイフのマルチツールか入れている。
の、だが─────
(バキンッ!)
「うおっ!!」
ドライバーを使い、チェーンをギアにはめた瞬間にドライバーが折れてしまった。
「ご、ごめんなさい私のせいで。」
「気にするなって、さ、ほら行った行った。」
とは言うものの困った。
「む、そう言えば皆味が濃いのが好きだから調味料、すぐさま無くなるんだよな....ちょっと買い足しておくか。」
マルチツールを買いに行くついでに食材を買いに行く。
「おや?親方か。
こんな所で会うなんて奇遇だね。」
そこには買い物かごにぎっしりと何かを買い込んだウタハの姿。
「あれ、ウタハじゃないか?
こんなスーパーに来るなんてなんか─────」
「意外だ、とでも言いたいのかい?
私だって人間さ、食事だって摂るだろう?」
彼女は俺の言葉に眉をひそめた。
違う。
俺が言いたいのは─────
「なんでそんなにペッパーソースをカゴに突っ込んでるんだ....お前。」
おかしい、言うに事欠いて瓶入りを20本くらい買い込んでいる。
そんなに沢山、まさかいたずらに使うわけではあるまいに。
「.....お前、味覚に異常でもあるのか?」
「いや?そんな事は無い。
何を勘違いしているのか知らないがまさかこれを一度に使い切るとでも思っているのかい?」
「あ、保存用か。
そりゃそうだ。悪かった。
でもそれにしたって多すぎないか?」
「あぁ、それは─────」
「はぁ?調味料を発射できる銃を開発するための実験台!?」
「あぁ。
先日、デリバリーでピザを頼んだのだがペッパーソースの代わりにオリーブオイルが2倍入っていてね。
まぁヒューマンエラーと言うのはどんな時代でも起こるものだ。
それはいいのだが、保管していたハズの調味料を前の大掃除の際に捨ててしまったんだ。
結局、ペッパーソース無しのピザという何とも味気ない物を食べた
そこで私たちは考えたのさ。
せっかくならペッパーソースを撃てる弾丸と、それ専用の銃を制作しようと。」
まぁなんとも、こう────
真剣味にかけるというか、言ってしまえばなんだが─────
「それ、必要とする人がいるのか.....?」
「いや?無益な開発だろう。
恐らく全くもって役に立たないかもしれない。
1のひらめきがなければ99の努力は無駄に終わってしまうかもしれないね。
だが、未開の地を切り開くというのはそういうことだろう?
むしろこれが1%の努力として積み上がっていくのさ。
開発しておけばいつか何かのために役に立つかもしれない。
むしろその開発過程で得た知識や技術を応用し、別の発明に活かせる可能性もある。
知識と技術はそれそのものの価値ではなく、どう活かすかによって価値を決めるべきだと私は思うよ。」
「失敗は成功の母って奴か。」
「飾っても始まらないね、そういう事だよ。親方。」
それは、ガラクタにも価値はあると、まるで言峰の主張と同じようで。
されど、その言葉には確かに明るい希望が含まれている。
「食材とか調味料を無駄にしないんなら俺は賛成だ。
むしろちょっと見せて欲しいんだが、そのペッパーソースの銃。」
「そうか、では部室────工房へ戻るとしようか。」
エンジニア部に行くまでにウタハとは色々な話をした。
オススメのマルチツールが壊れた、という話をしたら血相を変えて──
「いいかい?親方、マルチツールというのは一見する安い・使い易い・便利そうという三点が揃っているように見えるが、その実、ツールの多くは企画に対して正確に当てはまるものではないから、頻繁に使うと対象の機械を傷めることになるんだ。
長期的に見るなら、それそのものの修理やメンテナンスが嵩んでで、高くつくと思うよ?」
と指摘される。
「だけど、れっきとした工具を揃えなら量は半端ないだろ?
それこそ精密さと丁寧さはともかく専門知識が必要なものはその時点で俺の手に余る。
そういうのは特化した専門業者に依頼するよ。
それに身近なもんなら規格が合わなくったって───例えばモンキーレンチなら2つを両側から交互に挟み込んで───」
「───────なるほど、それなら確実に固定できるね。
けれど、随分と原始的な方法だね。
やはりここはこのプロ用の工具がいいのでは?」
そうして立ち止まって携帯を操作しては、俺にその商品概要のページを見せてくるウタハ。
「おい、これ値段間違ってないか....?」
「いや?これが正統価格だとも。」
一、十、百、千、万、十万────────
「いやいやいや!おかしいって!」
なんて話をした。
カチャカチャと音のなること数時間。
「これは──────」
「じゃーーん!!
ついに完成です!
これが私たちエンジニア部の新しい発明品、ペッパーソース噴射機能付きサブマシンガン。
名付けてガンズ・ペッパー!」
豊見が掲げるその銃は、どこかで見たことがあるデザインの銃。
「思ったより見た目は普通のサブマシンガン.....つうか鎖で繋がれてる二丁一対の銃器って─────」
間違いない。
美甘のだ。
「このように引き金を引くと、銃弾の代わりに、唐辛子とお酢を配合した特製の弾丸が火薬の爆発によって超速発酵を促してペッパーソースが噴射されます。
しかもなんとサプレッサー機能内蔵により発砲音は出ません!」
「.....それは当たり前だよね。
食べる時にいちいち銃声がするなんて嫌だし....」
「それに、切り替えによってしっかりフルオートにも対応!
1秒間に約1Lのペッパーソースを噴射することが出来ます!」
いや、そんなことより大事な部分が抜けてるぞ。
「なにより衛生面に問題がありすぎるんだ、この銃.......」
銃口から滴るペッパーソース。
汚れる銃器。
「そうですね.....
後、この銃を持ち歩くぐらいなら小分けのペッパーソースの方が形態的にも経済的にも圧倒的に良いですね.....。」
トドメと言わんばかりに豊見が自ら欠点を挙げ始めた。
これはなんというか俺でもわかる。
「あのさ─────」
「この銃は....本当に何の役にも立たないな..?」
してウタハのその一言が、この部屋の全てを沈黙へと誘う。
「........」
「.....」
「....」
き、気まずい。
何を話していいのか正直分からない。
「.....これは、まぁ、これで面白いから良しとしよう。」
「ペッパーソースを別の何かに置き換えたら....」
「.....」
ただ俺の頭の中にある疑問は一つだけ。
「お前たち、この銃、間違いなく美甘のだよな?」
「「────え....。」」
なんでそんな鳩が豆鉄砲くらったように驚くんだよ。
「そ、そういえば不調だから修理して欲しいって依頼されていたんでした!!」
豊見は忘れてたと。
「....じゃあこの実験に使った銃って.....」
(ドガッ!)
部室の扉が激しく音を立てて開かれた。
「よう。お前ら、頼んでおいたもんは出来てるか?」
そこに居たのは
「美甘───!?
なんで─────」
こんなタイミングで。
「あぁ?なんで、って前に修理に出したあたしの銃を受け取りに来たんだよ。
あんたのあの
俺のせいだった、万事休す。
後ろの机に置いてあるソレを見る。
こんな状態の銃を美甘が見たらなんて言うか......
間違いなくエンジニア部の部室は爆散するだろう。
「あ?なんか言ったか?」
「いや、勝手に俺が触れてたと知ったら怒るだろうな....って戦々恐々としていただけだ。」
そうして美甘に手渡したのは彼女のサブマシンガン。
「なんだよ出来てんじゃねぇか.....あ?
全然手をつけた様子がねぇぞ?」
「そりゃエンジニア部の手腕って奴だ。」
後ろの3人は珍しく黙り込んでいる。
美甘に対して下手なことは言えないのだろう。
「お前ってミレニアムじゃ
ならあんな近接戦でせめぎ合う、なんてやった事ないじゃないのか?
多分エンジニア部に修理頼むのだって初めてなんだろ?」
後ろにいるウタハに視線を送る。
「...そうだね?
今までがどうだったかは知らないけれど、少なくとも修理を私達に依頼したのはこれが初めてだよ。」
動揺を一切見せず、ポーカーフェイスで言い切った。
どうなんだ?と俺は美甘に尋ねてみる。
「.....あぁそうだよ。
これまで中~近距離戦闘であたしが防御に徹したのはあんたの時が初めてだ。
てめぇに言われるのは実に癪だけどな。」
一瞬、彼女に睨みつけられた───が、最後にはため息をついて満足そうに笑う。
「そうかよ、あたしの勘違いで、お前らの腕が良かったことにしといてやる。
ご苦労さん。
この借りはいずれ返すぜ。」
彼女はじゃあなと言って部室を出ていった。
残された閉口する俺達。
「親方、アレは何時まで
"アレ"とは俺が展開魔術で組み上げた彼女のサブマシンガン二丁。
もつ、とは恐らく持続時間のことだろう。
「......存在自体が揺らぐほどのナニかがなけりゃ、無尽蔵で存在できるだろうけど......」
おぉ、と歓声の声が。
「魔術とは便利な物だね。」
「いや...完全無欠って訳じゃない。
アレは本物をそのままコピーしたようなもんで、耐久性もそのまんまだ。
だから同じように扱えば同じように壊れて、なんなら魔力が霧散して欠片さえ残らない。
なにより、アレ、弾が入ってないんだ.....」
咄嗟の事だったので作っていない。
少し後ろめたい。
何かあった時に、弾が無いのでは銃など無用の長物だ。
多分何も無くても「給弾くらいしとけボケ」くらいにクレームをいれにくるだろう。
「──────それは不味い.....彼女絶対に怒る。」
猫塚と豊見の顔は青ざめ、ウタハは机の上にある銃を眺めている。
「.....私が今からこの銃を元通りに修復する。
それまで3人はネルに引き金を引かせない───つまり銃弾が無いことに気づかせないでくれ。」
つまり俺達は時限爆弾のスイッチが入る寸前にタイマーをリセットする役割──────。
「それ、俺死ぬんじゃないか?」
彼女が発砲すれば、イリヤに防いでもらう他ない。
「いくら彼女でも親方に発砲はしない....とは思う。
恐らく....。
どれだけ時代が経とうとも予定、計算に含めないものは数多くある。
そのうちの最たるものが人の感情だ。
こればかりは私も確約はできないな。」
止めておくかい?と珍しく意地悪そうに言うウタハ。
「....いやちょっと考えもあるしな...。
だけど猫塚も豊見もここでウタハの手伝いをしておいてくれ。
俺一人で十分だ。」
「「え!」」
俺の発言に猛反対してくる2人。
まぁ彼女たちにしてみれば今の俺は火事場に飛び込もうとしてるんだろう。
「い、いくら先生と言えどもネル先輩と一対一というのは危険です!」
「......もしかして衛宮先生...死ぬ気?」
....なんでさ。
「いや断じて違う。
ちょっと美甘と話したいことがあっただけだ。」
嘘では無い、あれからミレニアムタワーの再建の手伝いで会うことはあるものの一言も会話をしたことがなかった。
「....わかった。銃の方は任せてくれ。
そちらは頼んだよ。」
「あぁ....頼まれた。」
俺は3人に背を向け、美甘を追い始めた。
「流石衛宮先生!
あれが大人の余裕なんですかね!」
目をキラキラさせて衛宮先生を見送るコトリ。
そんなわけが無い。
「.....余裕とかじゃなくて、あれは単に自分が死なないと思ってるだけじゃないの?
ほら、先生は特殊なデバイスを持ってるんでしょ?」
ヒビキの予想は普通の回答なら100点満点で正しいのだろう。
そう、普通の場合、ならだ。
「.......少し、私としては献身が行き過ぎていると思うけれどね。」
何せ今回のこの問題は私達が実験材料をよく確認しなかったから起きたこと。
つまり、彼になんら責任はない。
最終的に私たちが
遡るならそれこそゲーム開発部を守るために戦闘中のネルと対峙した事自体が異常。
デバイスによる防御展開にも限界があることくらい彼だってわかっているはずだ。
それだけに頼るような愚か者とは思えない。
「.....彼は少しおかしい。
何故わざわざヒビキとコトリにここにいろ、だなんて。」
2人の方が危険は少ない。
彼の選んだ選択はデメリットしかない。
それに──────
「これはあくまでユウカから聞いたんだが.....。」
2人に彼の行動制限の話をする。
曰く彼は生徒と戦えない事。
傷をつけることはおろか、弾を剣で弾くことすらナニカの妨害を受けて満足にできない事。
「......それって」
「ネル先輩と戦ったら.....ううん...戦う前に先生は負けるってこと....?
どうして────」
そう、どうしてそんな枷が彼に付けられているのか。
キヴォトスでは軽い無茶など当たり前に等しい。
自爆特攻して、五体満足なんてよく聞く話だ。
だがそれは私たちの体が頑丈なだけ。
彼は違う。
まともに戦うことすら出来ないのに、危険な前線に好き好んでいく彼は変わり者の物好きか、はたまた命知らずの大馬鹿者なのか.....それとも。
流石にヒビキとコトリの顔を見れば彼女も少し不安げだ。
「さて、とにかく始めよう。
見送ってしまった以上、私たちに出来るのはこれだけだ。」
「良いんですか!?先生をそのままでも!?」
「聞けばアビドスではもっと過酷な状況に置かれていたらしいからね。
彼もあれでプロフェッショナル、という事だろう。
それに───」
私は覚えている。
彼と初めて会った時の言葉を。
『凄い熱意だな。
ウタハはエンジニア部が好きなんだな?』
『あぁ、当然だろう?
自分の部活なんだ。
ここでの部活動は楽しいし、何より人の笑顔が見られる。』
『───あぁ、そりゃ無粋な質問だったな。納得だ。』
私の答えを聞いた彼は満足そうに、頬を緩めた。
どの部分を自分の事のように納得したのか。
それはやはり。
「彼はただ、皆に幸せであって欲しいだけなのだろう。」
彼の行動原理におかしな所は無い。
それは私達も同じだ。
しかしそれは、─────
「いや、幸せとは自らが進んで手にするものだ。
押し付けようなどという愚行な思考は持っていないだろう 。」
そう思いたいが、どうしてもあの少年のような瞳には暗い影が被っているような気がしてならない。
「ど、どうしたんですか!?ウタハ先輩。
そんな深刻な問題が?」
コトリの一声で思考から脱却する。
「いやなんでもない。」
答えの出ない思考を頭の四隅に置いて私は2人と作業を開始した。
色んな方の先生作品で「桜花絢爛お祭り騒ぎ」を見かけます。いかがでしょう。読みたいですか?
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要る。
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後回し、本編に進んで