衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】   作:神宮寺志狼

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エデン条約編プロローグより前日談となります。
という訳で入ってきましたVol3エデン条約編。
おそらく今作のテーマは「解放」になると思います。

ネタバレになるのですがこれだけは言っておかなければならないと思い、先に書いて起きます。

各4章共に流れはほぼ原作と同じ流れでおそらくノンストップです。

1つ、違うのはベアトリーチェが催眠暗示程度の魔術が使える。
と言った具合です。
言うなれば「憎悪の刷り込み」によってバーサク状態になる魔術とでも言いますか。

私自身も50%「これは余計だ」と思っています。

というのも本編ベアトリーチェのやり方は長年の恐怖政治とヘイト相手を与える事による統率で、筆者自身もベアトリーチェのその点はゲマトリアの中でもかなりの手腕だと思っています。
設定的にも黒服たちもその辺に一目置いていたってのもありましたね。

故にこの設定を足して変なところで使おうとすれば「汚い大人」としての側面を持ったやり手のボスが急にみみっちいつまらん敵になってしまうのです。

一応、2回3回作品内で使う描写(又は使ったことが判明する)程度にするつもりです。


とはいえ、余計は余計。
これから書くVol3.エデン条約編は、皆さんの期待に応えられるような作風でなくなる可能性があります。

まぁ、なんでこんなことし始めたかと言うと、本編第3章と4章での矛盾と思える点や、かつ解釈の難しい部分があるからですね。
特にサオリの気持ちが理解できないので、操られていたという話であればもっと簡単なのではみたいな。
事実いくらなんでも地獄を一緒に生き残って、身をもって庇いすらしたアズサに対して辛辣過ぎるんだよなぁ。

アズサだけが最後まで「サオリをどうするか」を迷って、傷つけることが嫌で。
結局自分は人を傷つけることしか出来ないのか?
それでも、守りたいものがあるから、と決心したって言うのに。


それと問題なのはミカに関する叙述トリックですね。
本編でころころと置き換わるミカの感情と判断。

それを私みたいな素人が言わば「信頼できない語り手」としてミカを書けるのかと言われたら正直難しいとしか言いようがないんです。


ただこの作風にすることによって非常に明確になるのは。

森の奥には悪い魔女がいて。
黒い騎士と白いお姫様はその魔女に悪い魔法をかけられて魔女の手先になってしまいました。

という簡単なお話になるんです。

飾っても始まりませんね、私が書きやすいであろうからこういう風にします。
そもそもここだけ設定なんて今に始まった話じゃないし。


長くなりましたが、最後にもう一度。
私がこれから書くVol3.エデン条約編は駄作の可能性があり、皆さんの期待に応えられるような物語ではない可能性があります。

読むに耐え兼ねたら切っていただいて結構です。
Vol2も中途半端だと言うのにここまで着いてきていただいてる皆さんには感謝の他ありません。




Vol.3 エデン条約編 第1章 補習授業、スタート
#0 夢の狭間の会合


「やぁ、初めましてだね、衛宮士郎先生。」

 

 

誰かに声をかけられる。

瞼を開ければ、そこは優雅な夜の一部屋。

 

余程重要な部屋だとわかる。

 

全長5mはあるのでは無いかと疑うような長机。

だと言うのに椅子は3つしかないのだから異常も異常だ。

 

「.....私の声をハッキリと捉えられていないようだね。」

 

 

「意識をしっかりと。

自分はここにいるという、自意識を。

泡沫に呑まれてはいけないよ。」

 

 

そうして、再度目を開く。

 

底には、大きな狐の耳を生やした、聡明そうなお嬢様が立っていた。

袖は彼女の腕の長さに合っておらず、だがそれが良いと、シマエナガを袖越しに掌にのせている。

 

 

「おや、完全には捉えきれないか。

だが、視えているならば結構だ」

 

 

その声の主に、問いかける。

 

「お前は一体誰なんだ....ここは?」

 

「挨拶が遅れて申し訳ないね。

私は■■■■■■。トリニティ総合学園の元生徒会長代表、ホストだ。

 

そしてこれから君に未来で起こる残酷な話を聞かせる語り手でもある。」

 

名前を聞き取れない。

 

どうして、声がはっきりと聞こえないのか。

どうして、俺はここに居るのか。

どうして、生徒会長に「元」がつくのか。

 

疑問は沢山ある。

 

が、彼女との時間は貴重なものだと、どうしてか分からないがそう思えた。

故に質問を投げかけることは避ける。

 

 

「賢明だね。

名前が聞き取れなかったら、そうだね、私の事は─────嗚呼、羊、シープとでも呼んでくれたまえ。」

 

羊?

羊ってあのメエメエ鳴く羊か?

 

「そうだ、寝る時に数えるあの羊のことさ。特に他意は無いよ。

それより、君はエデン条約、について聞いたことはあるかい?」

 

 

なんだそれ。

そんな条約、七神から渡された冊子にあったか?

 

「いいや?記載などないとも。

何故ならそれは、これから発足し、崩壊する物だからね。」

 

俺は思ったことを口に出しているわけではない。

というより、意識もふわふわしている。

なんか、心を読まれてる気分だ。

 

「間違いではないよ。

さて、ゲヘナ学園とトリニティ総合学園は長きにわたり敵対関係だった。

エデン条約はつまるところ「憎しみ合うのはもうやめよう」という約束だ。

 

トリニティとゲヘナの間で存在する確執。そこに終止符を打たんとするもの。

互いが互いを信用、信頼できないが故に、久遠に集積していくしかなかった憎悪を解消するため、それに変わって新たな関係を築こうというプロセス。

 

 

 

より、簡単に言おう。

 

それはゲヘナとトリニティにおける、平和条約だ。」

 

 

そんなものがあったなんて、知ら─────いや天雨と対峙した時、あいつは言っていた。

 

 

 

『シャーレという部活がとても危険かつ不安定な組織に見えます。

これからのトリニティとの条約にも、どのような影響を及ぼすものか分かったものではありません。

ですからせめて条約が無事締結されるまでは、私達風紀委員会の庇護下に先生をお迎えしようと、そう先程まで考えていました─────』

 

 

「心当たりがあったかい?」

 

 

あぁ、名前も詳細も分からないが、存在があることは知っていた。

 

「そうか。ただこの条約は発案者の1人である連邦生徒会長失踪をきっかけに意味の無いものに成り下がってしまった。」

 

エデンってあれだろ?

旧約聖書のアダムとイブが蛇にそそのかされて林檎を食って追い出されたっていう。

 

「そうだね。私達の場合、太古の経典に出てくる楽園の名前だ。

君は知らないだろうが、連邦生徒会長は皮肉に関してピカイチでね。

今回も悪趣味極まりない。」

 

「.........」

 

俺をここに呼んだ、連邦生徒会長に関して本当に何も知らない。

名前すら。

 

「知らない、のではなく、まだ知るべき時では無いのかもしれない。

 

ただ、一つ言えるのは、君はもう既に会っている、という事だ。

今はただ思い出せないだけだ。」

 

 

「え?」

 

俺が、いつそんな子に会ったというのか。

会ったのであれば忘れるはずが──────

 

 

「さて、話を戻そう。

キヴォトスの「七つの古則」は御存知かい?」

 

「いや...?」

 

初めて聞いた。

いや、それを俺は知っている気がする。

 

 

「一つ、■■■■■■■■■■■■

 

「二つ、■■■■■■■■■■■■■■■■■■............」

 

 

理解出来ない、その言葉を。

頭が、割れそうになる。

だが、知っている。

それを俺は何故か()っている。

 

それでも目の前の自らを(シープ)と名乗る少女は言葉を紡ぐ。

 

「.....五つ、楽園に辿り着きし者の真実を証明することはできるのか。

 

今回の主題はまさにこれに尽きる。

 

他の古則もまたそうであるように、少々理解に苦しむ言葉の羅列。

それを紐解くとこの文章は「楽園の存在証明に対するパラドックス」を示したものであると見ることが出来る。」

 

 

 

楽園の証明。

 

それは存在するかどうか分からないものを証明しろという思考問題に他ならない。

 

この文章に、明確な答えなど───

 

「君に────この答えを問い質すのは無粋だ。

何故なら君はずっとその矛盾を孕み、証明しようとしているのだから。」

 

 

そうして、俺の頭を叩き割るように、鮮明に、ハッキリとその言葉が胸に刺さった。

 

 

 

「私は君の記憶を視た。

 

その日の記憶、例えるなら煉獄の炎に包まれたように燃える街。

 

倒れ、救いを求める人々の叫び。

 

君の足を掴み、縋り付く他者の手。

 

肉の焼けた臭いで汚染された大気。

 

あらゆる憎しみと呪いに侵食された大地。

 

幼く、力も勇気も無い君は必死でそれを見ないように体と心の目と耳に蓋をしてずっと歩いていたね。」

 

 

「───────────────。」

 

それは、あの日の、俺。

 

「それでも生きようとし、そうして彼に助けられた。

 

その時からもう君は君だけの命じゃなくなってしまった。

 

君は、全ての人を助ける事など不可能なのに、それを達成しなければいけないという矛盾を、抱えてしまった。

 

まるで君の存在は、不可解なこの文章そのものだ。」

 

 

彼女は否定する、不可能だと。

 

そんな事ないと。

 

俺は絶対に「正義の味方」にならなければならない。

それが衛宮士郎が生きる全ての根幹であり唯一無二の辿り着く結果だ。

 

「それこそが君自身を(いびつ)たらしめているのだね。

この古則も同じ類の矛盾。

 

しかし、存在し得ぬ実在を証明する試み。それは無意味で無価値なものなのだろうか?

そう考えると、やはりこれはそういうお話なのだろう。」

 

 

そうして、独りで結論を出した彼女は俺に向き直る。

 

「...衛宮先生」

 

彼女は目を伏せた。

まるで嘆きのように、助けを求めるように、見えない手を、伸ばすように。

しかし、彼女の心は折れている。

伸ばしたその手が届く事は、決してない。

 

「もしかしたらこれから始まる物語は、君のような者には適さない、似つかわしくない話かもしれない。

 

不変の存在が作った、不快で、不愉快で、忌まわしく、思わず眉を(ひそ)めてしまう脚本。

 

誰もが互いの隣人を疑い、全ての事象の前提を疑い、自らの気持ちを疑い、真実すら否定したくなるような。

 

誰も晴れず、誰も浮かばれず、誰も助からず、誰も救われない

 

悲しくて、苦しくて、憂鬱で....それでいて、ただただ後味が悪い、救いようのない物語。

私たちは舞台上の、シナリオ道理に動くだけの機械装置で、カテゴリは歌劇などではなく正しく悲劇。

 

例えるなら、そう、最後には()()()に塗りつぶされてしまう悪戯好きの子供の描いた絵本のような物語。

 

されど、同時に、紛れもない真実の話でもある。

 

どうか、背を向けず、目を背けずに.....最後のその時までらしっかりと見届けて、受け入れて欲しい。」

 

 

彼女は席から立ち上がり、歩み寄る。

 

力無く、無気力に。

 

「それが、「先生」として、この先の地獄へと足を踏み入れた、君の責務なのだから。」

 

そうして、意識は薄れゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.......様。

 

起きてくださいまし、あなた様!」

 

 

久々に頭痛によって目が覚めた。

珍しくワカモが叫びながら俺の体を揺らしている。

その様子は慌ただしい。

 

目尻に涙を溜め、今にも泣きそうな表情。

 

「.....なんだ....?

どうしたんだよ...ワカモ。」

 

彼女がこんなに焦っているなんて、珍しい。

 

「.......お、お目覚めになられたのですね.....!!

あぁ....お身体は何ともありませんか!?」

 

周りを見渡すと、そこには藤河や藤河組の後輩達がそわそわしている。

 

というか、俺の部屋に何人来てるんだ?10人以上?

 

「士郎!今何時だと思ってんの!!」

 

(ブゥン!)

 

「いてっ!」

 

藤河が自らの部屋から持ってきたと思わしき時計を投げてきた。

それが野球であるのなら豪速球180km/hはあるのではないかという勢いでの頭部一撃(ヘッドショット)

 

「なんだよ、みんな揃いも揃って、そんな。」

 

多少の寝坊ならまぁ、どうせ時刻は────────

 

 

 

「は!?11時!?」

 

 

一瞬目を疑った。

 

短針と長針を見間違えたか、はたまた時計を逆持ちしただとか。

いや、間違っていない。

 

時計の短針は11の数字を刺しているし、長針は6を示している。

 

つまり今の時刻は11:30。

 

シャツ1枚にジーンズという格好で部屋を出て窓の外を見る。

間違いなく、日が昇っていた。

 

「........いかん....こんなの初めてだ。」

 

 

大した怪我もしていない、体も休息を求めてはいない。

強いて言うなら頭だ。

 

キヴォトスにきた初日の二段階の頭痛と同じくらいガンガンする。

 

 

「し、士郎?」

 

 

「わ、悪かった、でもなんで。」

 

そう、目覚めた時、ワカモが居た。

彼女なら、俺を起こしてくれたはず。

 

「違います士郎の旦那。

ワカモの姉御は6時間程ずっとあんたの体を揺らしてました。」

 

藤河の後輩の一人が言うと皆頷いた。

 

「だって言うのに士郎、これっぽっちも起きる気配がしないんだわ。

 

でも脈も正常だし、心音も問題ないし。

D.Uの病院に連絡して救急隊まで呼んだのに結論異常なし、寝てるだけ。

 

 

はぁぁぁぁ.......ったく。

 

無茶苦茶大きく溜息を吐いた藤河。

 

 

「ワカモの姉御なんてやってきた医師が下した判断に申し立てて....というかぶっちゃけヤブ扱いして、銃を抜いて脅してましたから.....あれは流石に引いたなぁ.....」

 

流石にやりすぎだ。

っていってもそんな風に起こされて、起きない俺もどうなんだか。

 

「.....この頃色々あったからなぁ。」

 

「そんなことより皆に謝って!

ワカモは....言うまでもないけどほら、そこの2人。」

 

『別に私は心配してないけど?』

 

とイリヤが。

 

『じとーーー。』

 

アロナはわざわざ声で効果音という形で感情を伝えてくる。

 

 

「........なぁ、アロナ。」

 

『なんですか、お眠り先生。』

 

随分と不機嫌なアロナ。

なんか、蔑称が付けられてしまった。

 

「.....お前、本当にミレニアムにいた時にずっと寝坊助してたアロナさんか?」

 

ギク、とこれまた効果音をわざわざ口で言い出すアロナ。

 

『あれは....その。』

 

『この子、最後の1ヶ月はもう復活してたらしいわよ?

ただ裏でずっとやってたのよね?

 

「テイルズ・サガ・クロニクル2」』

 

 

『うぇぇ!?な、なんで言っちゃうんですか!イリヤさん!』

 

手をはたはたと動かし抗議するアロナ。

 

 

 

......ほんとに何やってたんだアロナ。

 

「.........あいつらのゲーム楽しんでくれるのは嬉しいけどさ、せめて起きたなら起きたって言ってくれ。

俺よりもっと締りがないぞ。」

 

『ご、ごめんなさい.....あまりに楽しくて....。』

 

これには皆して呆れてため息をついた。

 

 

「皆悪かった、心配かけた分後でなんか返すからとりあえず今は解散してくれ。

 

ありがとう。」

 

 

俺の一言で全員持ち場に戻っていく。

 

 

「藤河もありがとな。」

 

「......」

 

「あの、藤河さん?」

 

 

不味い不貞腐れた藤姉のようになってしまった。

 

「おーい、藤河さーん。

藤河ちゃーん。」

 

「.....やだ。」

 

 

え?

 

唐突な否定。

 

「......これからは「マコ」って呼んでくれなきゃ、やだ。」

 

ったく、いじけた子供じゃ.....いや子供だったわ。

 

「分かった分かった、悪かったよ、マコ。」

 

「よし、ならば許す。」

 

 

 

『あ、あの、衛宮先生!!』

 

藤河─────マコとの会話の後、アロナが叫んで俺を呼んだ。

 

「ん?どうしたんだ?居眠りアロナ。」

 

『ちょ、ちょっとふざけてる場合じゃないわ。

ワカモが白目剥いて倒れたの!』

 

イリヤもこれには目と口を見開いて冷や汗をかいている。

 

いや、どうやって機械内部のアバターが汗─────。

 

それよかとりあえずワカモを自室に運ぼう。

 

『し、心労と緊張の糸が切れたのでしょう.....』

 

『わー、シロウってば女泣かせー。

酷ーい。』

 

「はいはい、悪かったよ。」

 

 

騒動がやんだらもう昼飯時。

 

「という訳で、飯にしよう。

 

50人分って言うと手軽なもんしか作れないからな....」

 

 

というか重労働である。

 

「何にすっかな.....」

 

業務用の冷蔵庫がならぶ、最早冷蔵室と言っても過言ではない一部屋に入り、食材を物色。

 

いくらなんでも俺一人で作る訳ではない。

 

 

マコを始めとして、数人には簡単な料理を教えたりしているわけで....

 

「お、大根発見。

 

味噌も....そろそろ使い切らないとまずいな。

じゃあ豆腐と大根の味噌汁は確定として、欲しいのは魚だな。」

 

 

「士郎、こっちにシャケあるよ。」

 

「了解だ、それにしよう。」

 

 

もはや通常のキッチンでは足りないので工事費払ってスペースを拡張。

 

調理場どころかこれじゃ厨房だ。

 

「ったく....何時からここはレストランになったんだよ。」

 

とは言うものの、結局美味そうに食べてくれるあいつらを見るとそんなことはどうでも良くなった。

 

 

 

そうして数人と厨房に立っていると、唐突にイリヤが告げた。

 

 

『シロウ、シャーレに誰か来たわよ?』

 

イリヤはミレニアムで色んな科学技術を魔術に置き換えて吸収したのか、今じゃシャーレのオフィスのあるこのビル全体に衛宮邸と同じような結界を張っていた。

 

もはやインターホンが鳴らずとも来客を出迎えているので周囲の住民からは不可解に思われている。

なんせノックしてないのに手動ドアが開くようなもんだ。

 

『.......これは、トリニティの生徒さんのようですね。』

 

アロナはカメラの映像を「えいやっ」と言って全画面モードにした。

 

正義実現委員会の生徒が数名。

 

その1人、髪の左側を赤いピンでとめている、糸目の生徒が防犯カメラ(こちら)を見つめては微笑んで手を振った。

 

 

「マコ、ここは任せる。

くれぐれも鍋とオーブンレンジから目を離すなよ?」

 

「ま、待って士郎!それ脱い───────」

 

 

そうしてシッテムの箱を片手に持ち、厨房を後にする。

 

 

 

「こんちは。」

 

「ご機嫌よう、こちら衛宮士郎先生のいらっしゃるシャーレ────」

 

「......ん?どうしたんだ?」

 

全員が全員俺を上から下まで眺める。

 

「.......あの、そのお姿は一体.....」

 

 

「え?」

 

 

そうして俺は気づいた。

Yシャツの上からエプロン姿。

 

しかもそのエプロンに描かれているのは、トラ 、虎、 TORA。

 

しまった、と思った時には遅い。

 

「いや、今ちょうど昼飯の時間だったもんで────」

 

「あははははっっつっ!!ひひひひひッ!!!」

 

一人の生徒が口元を片手で覆い隠し笑い始めた。

 

ちょっと不貞腐れそうだ。

 

確かに世間体としてシャーレの先生がエプロン姿で生徒を出迎えるなんてのは確かにみっともないんだけど。

 

「腹と口元抑えるほど可笑しいか?!」

 

「いやー、すんません。

 

ハスミ先輩から聞いていた通りの面白い人っすね。」

 

そうして、糸目の彼女は表情を元に戻した。

 

「失礼したっす。私、見ての通りトリニティ総合学園の正義実現委員会所属の仲正イチカっす。

あ、気軽にイチカ、って呼んでくれていいっすよ。

私達の学校の生徒会(ティーパーティー)のホストからの依頼で先生をお迎えにきたっす。

 

って言っても何が何だか分からないと思うんでとりあえず立ち話もなんですし、上がらせてもらってもいいっすか?」

 

 

 

それは良い、けど─────

 

「...いやー、お食事時なら時間ずらすんすけど。

私達も店、探すんで。」

 

 

「.....いや

今更10人も5人も増えても変わらないし、別にいいぞ?

食べてってくれ。」

 

 

 

「「え?」」

 

そうして、正義実現委員会の生徒の間でヒソヒソと会話が始まる。

 

「あれでしょ.....シャーレの、というより衛宮先生のお料理って」

 

「美味しすぎて、ナイフとフォークが止まらなくなるって。」

 

「この前なんてハスミ先輩、衛宮先生のせいで体重が増えたかもしれないって言ってた─────」

 

 

 

「え、いいんすか?ほんとに。」

イチカは何とも嬉しそうな困ったような微妙な表情。

なんか根も葉もない噂がたっててこのまま去られるのも嫌だ。

 

「あぁ、上がってけ上がってけ。

ただシャーレ(ウチ)の連中、妙に縄張り意識高いからそこだけ気をつけてくれよ?」

 

 

 

 

そういう訳でただ焼くだけではなくムニエルにしてみた。

 

「お、美味しい.....。」

 

喜ぶというより、それは驚きの表情。

他の正義実現委員会の生徒達も、俺を訝しむように見ていた。

 

ん?

 

「なぁ、仲正。

なんか視線が─────」

 

「そりゃそうっすよ。

魔術なんてトリニティではあまり好まれてないっすから。

ちょっとした恐怖心と嫌なイメージが定着してたんでしょうね。

 

ま、その辺のことは皆先生のその姿と料理で拍子抜けしたんで大丈夫そうっすけど。」

 

と、ここに来て、当たり前のことを、再確認した。

 

「そうか、トリニティではそうなのか。」

 

 

当然、理解できないものを人は排斥しようとする習性があるわけで

中世ヨーロッパには魔女狩りなんていう正史に載ったものもある。

 

 

そして、食べ終えた頃、仲正がひとつの手紙を出した。

 

「そんな先生がなんでティーパーティーに呼ばれたのか正直疑問っすけど。

 

ティーパーティーのホスト、桐藤ナギサ様と、聖園ミカ様からのご招待です。」

 

ティーパーティーというとトリニティ総合学園における生徒会だったはずだ。

そんな所からの直々の招待ともなると断る訳にも行かない。

 

「わかった。

今から?」

 

「そうっす。

あ~、でも同伴は2人までって言われてるんで、申し訳ないっすけどそれは守っていただきたいっす。」

 

 

2人....?

そこまで警戒されているのか.....シャーレ───いや、俺自身が。

 

 

イチカ達には別の部屋で待機してもらい、その話をワカモ達にすることになった。

 

「って、訳なんだが。」

 

「......」

 

「..........私は反対かなぁ。

トリニティ自体に良い印象があんまりなくて....」

 

マコは俺が行くのは反対らしい。

確かに魔術が忌み嫌われている学校から招待された、と言うのも何やらおかしい話ではある。

だが、それとは何やら別の問題のようだ。

 

「良い印象がないって、なんでさ?」

 

俺が聞けば彼女は困った表情を見せたものの説明してくれる。

 

「トリニティ総合学園って、かなり大規模な地区が文字通り総合されて出来てるんだよ。

だから何かと派閥争いだったり派閥同士の軋轢が酷いって聞くし。

 

それにあの言峰って神父もいる訳じゃない?」

 

マコは言っている。

「トリニティ総合学園」そのものが胡散臭い、と。

表面上は平和を保っているものの、ちょっとした事で崩壊しかねないと。

 

マコの言葉に、イリヤも同意した。

 

『それには同意するわ。

あんまり会いたくはないわね』

 

唯一反対の意見を見せたのはワカモだった。

 

「ですが、あなた様が断ればトリニティ、ひいてはティーパーティーからの信用も失う、と。

......私も些か不審な点が気になりますが、敢えて向かってみるのも如何でしょう?」

 

コネクション。

キヴォトスにおいて先生である俺にとって一番大事なのは何かあった場合仲裁に入れるような間柄だ。

それに危ういというのなら、尚更断るわけにも行かない。

 

「.....単純に困り事があるだけかもしれないしな。

分かった。

 

俺は行くよ。

誰か2人───────」

 

そう言うと、ワカモとマコが手を挙げた。

 

「あら....?トリニティはお嫌いなのでは?」

 

「まさか。

私は士郎の保護者で家族だもん。

行かないわけないじゃない。」

 

2人ともバチバチだ。

ミレニアムに一人で行った事を相当根に持っているに違いない。

........それはそれとして何か、おかしい所があった気がするが。

 

「........よし、ならワカモ、マコ、支度してくれ。」

 

2人は頷いて、執務室から出ていった。

俺も、また出張の支度をしなければ。

 

 

「......おい、日を追う事に連絡する生徒が増えてるんだが.....?」

 

 

この前、当番の生徒から「出張する時は連絡を寄越せ」と要望があったので一応の事出来る限りで連絡しているのだが

 

 

「流石に20人超えると辛いな....」

 

回覧板みたいなものでも回せないものか。

 

 

 

 

「人選は決まったっすか?」

 

 

部屋を出ると彼女は携帯をみながら壁に寄り添っていた。

イチカの携帯には頻繁に連絡が入っている。

 

「まぁな。

 

それより悪いな、無茶苦茶忙しいんじゃないのか?

 

俺達の護衛兼監視役なんて......。」

 

彼女はオーバーに両手を振ってそれを否定した。

 

「いやー!!

どっちかと言うと、面白いものが見れたというか、いい思いさせてもらったんで。

 

シャーレに人が集まる理由が何となくわかったっす。

それに、ハスミ先輩が衛宮先生にハマるのも─────あ ....。」

 

 

ハスミが?俺に?

 

 

「なぁ、今のって。」

 

「すみません、忘れて欲しいんすけど .....

 

それより、お二人共、準備できたみたいっすね.....

予想通り「災厄の狐」が来るっすか.....。

 

もう1人はキヴォトスにその名の轟く「藤河組」の総長....マコさんすね。」

 

 

なんだそれ。

そんなにマコ達って有名だったのか?

 

「お前何したんだよ....トリニティまで名前が轟いてるって.....」

 

「何よ!士郎。

私が変なことしてるとでも?

もう昔みたいな不良グループじゃないのよ?

それを一番知ってるのはあんたの筈でしょ!」

 

「そりゃ、ごもっともだ。」

 

でも、マコ達だって若い。

当然間違いを犯してもおかしくないわけで、俺の知らぬところで当人達の気付かないうちに何かをやらかしていたらまずいのだ。

 

「いや、救命活動とか治安維持の活躍っす。

トリニティにはゲヘナの救急医学部に対をなす救護騎士団って派閥というか部活があるんすよ。

 

そこの団員さんが結構な頻度でシャーレの藤河組の話をしてるんで。

まぁここだけの話、評判が評判なんであんまり額面通りに受け入れられてはいないんすけど。」

 

救護騎士団?

なんか聞いたことあるような無いような....。

 

「知らないならそれはそれでいいんすけど。

とりあえずお二人は武装解除してもらって。

私たちが護衛をするんで大舟に乗ったつもりで。

 

じゃ、着いてきて欲しいっす。」

 

 

そうして俺とワカモとマコはトリニティへと藤河組のみんなを残して行くことになった。

まさかこの時は、あんな大事に巻き込まれるとは、夢にも思わないまま。

 

色んな方の先生作品で「桜花絢爛お祭り騒ぎ」を見かけます。いかがでしょう。読みたいですか?

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