衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】   作:神宮寺志狼

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#5 疑惑の火種/家政夫は先生(正義の味方)(I)

「それではまず─────」

 

「おー!やってるねー☆」

 

ヒフミが主導で大掃除を始めようとした時。

ティーパーティーのメンバー、聖園ミカがやってきた。

 

「ミカ?

何かあったのか?

こんな辺鄙なところにまで来るなんて。」

 

実際寂れた建物の前に体操服やジャージ姿で集まっている俺達に対しその綺麗な制服を着て相対している。

違和感は半端ない。

 

それにこれまでトリニティの生徒の扱いは「お金持ち」というのが一般的らしい。

ブラックマーケットの生徒しかり、マコ達藤河組しかり。

 

自治区内とはいえ、そんなトリニティのトップが連れも護衛も無しに歩き回れているのが不思議だ。

 

「えー?

辺鄙は言い過ぎじゃない?

 

ふーん....自分たちで掃除するんだ。

.....いいじゃん。

まさに合宿の始まり、って感じで。」

 

俺は困惑するヒフミにそのまま続けるよう指示を出し、それに従って彼女達は雑草をむしり始めた。

ただ1人、ワカモを除いて。

 

「ん?ワカモ、どうしたんだよ。

お前も行って来いって。」

 

「.......」

 

促すものの、やはり彼女は俺のそばを離れない。

まるで目の前にいるミカを敵と認識したとしか思えない警戒の仕方。

 

して、ミカの視線も、ワカモへと向けられた。

 

「......災厄の狐、狐坂ワカモ。

シャーレの()()員だって話、本当だったんだね。」

 

「.......。」

 

「.........。」

 

会話をなげかけていたミカに対して、無言の圧をかけるワカモ。

対するミカは物怖じすることなく無表情で、その圧をものともしなかった。

 

俺はワカモの視線を塞ぐようにミカと対面する。

 

「で、ティーパーティーは暇じゃないんだろ、なんか用か?

これから掃除だから少しくらいなら手は離せそうだけど。」

 

そう聞くと、ミカの表情は一転、明るくなる。

 

「えー?

用事無かったら見に来ちゃいけないの?」

 

「いやだって実際余裕が無いから俺を呼び出して担任に就かせたんだろ?」

 

だから、俺の元へ来るほどの何かが起こったのだと思ったわけなのだが、違うらしい。

ミカは単純に俺たちの様子を心配して来てくれたようだった。

 

「いやー。

ナギちゃん、今回、()()だけは完全に放任する気満々みたいでさー、。

 

でもティーパーティー、トリニティそのものを導く者として、それはまずいじゃん?

 

一次試験に落ちたって報告で聞いたし、少しだけ様子見しておこうかなぁ〜って。」

 

「なるほどな。

気にしてくれてありがとな。

 

こっちは至って問題ないよ。」

 

確かに個性的な面子ばかり揃ってはいるものの、今のところ問題や喧嘩などは起きてはいない。

 

「わぁお。

あれだけの問題児を抱えて「問題ない」って。

凄いね、衛宮先生。」

 

「いや、皆いい生徒ばかりだよ。

浦和になんてしょっちゅう助けられっぱなしで。

ヒフミは努力家だし。

 

下江はちょっと態度悪いけど悪いやつじゃない。

白州の素行が悪いって話も、何か理由があったんだろ。」

少なくとも俺はそう思っている。

白州はかなり物騒な事ばかり言っている。

だからと言って理由無しに人を傷つける様な子じゃない......多分。

 

「───────衛宮先生ってさ、人を見る目ないって、言われない?」

 

「....え?」

 

くるりと身を翻すミカ。

 

「ううん?むしろあるからダメなのかな?

 

それはね?ただの思い込み、第一印象だよ。

ここに居る生徒達なんて、中身は開けてみるまで分からないパンドラの箱。

 

そう、先生は()()()()()()()()なんじゃないかな?

 

理由なんて、.....あとから付け足した意味の無いもの。

 

それを信用、信頼って言えるのかな?」

 

そう、()()()()()()だと。

ミカは俺にそう言った。

外見だけでは判断できないと。

言葉の、態度の一片からでは人は判断できないと。

 

では、何をどうやって人は人と関わっていくんだ?

 

「........確かにそうかもしれない。

俺はあの四人のことを何も知らない。

 

信じたいものを、理由も根拠もなく「こうだ」って馬鹿みたいに信じてるだけなんだ。」

 

「でしょ?

じゃあそんなに簡単に──────」

 

だけど

 

「だけど、信じなきゃ何も始まらないだろ?

相手に対して自分が抱いた印象も、判断も。

何より自分自身を信じなきゃ、何も始まらないと思うんだ。

 

それで裏切られたとしても、相手に一歩近づけたと思うことにするし、悪事をするならその時は止める。」

 

 

何も間違ってはいない。

何も間違ってはいない。

 

何も、間違ってはいない、その筈だ。

 

「ふーん.....でもさ、衛宮先生。

矛盾したことを言ってるの気づいてる?

 

信用や信頼って失う時だってあるよ?

 

 

もし、裏切られた後で何も感じないって言うなら、それは先生自身が最初から信用も信頼もしていない証拠だよ?」

 

「─────────────────。」

 

信頼という選択にも、2つの結果がついてまわる。

相手が期待に応えるか、それとも応えられないのか。

 

仮に、応えられなかったとして、それを「残念」と思えば失望したことになる。

逆を言えば信頼、信用していた事になる。

 

その時人としてその正しい感情を抱けるのか?

いや、俺は多分何かと理由をつけるだろう。

 

今すぐ、そんな事は起こらない、と言い切りたい。

 

「"信じる"って、それ。

()()()()()()()()()()なのかな?

それとも─────」

 

どうして、今すぐにでも、これは自分の意思だ、と言えないのか。

断言、出来ないのか。

 

知っている。理由は知っている。

不安、だからだ。

 

今此処にこうして立っているのが自分の意思なのか、それとも()()()()()()()()()

 

 

「なんてね。

あーあ。一発で答えて欲しかったな~。

 

衛宮先生も、不安なんだね。

私も時々、何がしたいのか、何をしようとしてたのか、分からなくなるんだ......」

 

あれだけ明るかったミカの額に影が差す。

それは、どうみても後悔とか、悲しみとか、諦めとか、そんな感情の混じった表情。

 

これはミカにとって、俺に対する質問でもあり、自身の問題に対する答えだったのかもしれない。

 

何はともあれ、彼女は悩み事があるらしい。

 

「それってティーパーティーの仕事に追われてとか、そういったせいでか?」

 

「.....どうなんだろうね。

わかんないや。」

 

ミカは不安だったのだろう。

だからこそ、その疑問を俺に投げたのだ。

だって言うのに俺は答えてやれなかった。

余計、不安にさせただろうか。

 

「.....悪い、今は答えられない。

多分全部終わってから気づくんだ。

考えなしだって、よく言われるよ。

 

だからこそ俺は最大限悔いが残らないように動くようにしてる。」

 

「.....そっか。」

 

確かに予想外の事はよく起こる。

初めて会った時のモモイの行動なんて特にそうだった。

 

真面目にゲームを制作するのかと思えば、ぐーたら過ごしていた時期も多い。

 

それを、俺は隣でどう思っていたのか。

「いつかは動いてくれる」となんの根拠も無く、付き合い続けた。

結果的にみればモモイ達はちゃんと自分達の目標に向かって歩くことは出来た。

 

あの日々が、あの選択は、間違いだったのか。

 

 

「俺もこの前までいたミレニアムで学んだんだ。

やっぱり結果だけか全てじゃないって。

初心ってのは確かに大事なもので、絶対にそれだけは忘れちゃダメだ。

 

それさえ忘れなければ迷っても遠回りしてもいいって、俺は思う。」

 

 

それを見失ったら、きっと、逸れてしまう。

忘れてしまったら、手段は目的に変わり、ずっと、迷うことになる。

 

「......。」

 

ミカは乾いた笑いを見せながら、俺に言葉を返した。

 

「あははっ!衛宮先生の言葉、すごい痛いなぁ....。

うん。頑張ってみるよ。」

 

何を頑張るのかも、何を背負っているのかも、彼女は告げなかった。

 

「悪い、上手く言えなかったと思う。」

 

「いいよ、気にしないで。

元々こんな話するつもりなかったんだけど。

 

様子を見に来たんだけだし.....あれ?

やっぱりあの子はいないの?

 

えーっと....藤村組だっけ?」

 

「違う、それを言うなら藤河組だ。

 

マコの事なら桐藤と一緒に仕事してるんだろ?」

 

 

俺は何の気なしに切り返す。

が、彼女の表情から察するとかなり深刻な問題のようだ。

 

 

「違うのか....?」

 

「うん、ナギちゃんの傍で仕事してるところ見た事ないんだ。

ナギちゃんの性格的に信用してない生徒を手放しに置いておくとも思えなくて。

もしかして戻されたのかなぁ、って見に来たってのもあるんだけど。」

 

いないね。

と軽く彼女は口にした。

 

「.....たまたま見かけなかっただけだろ。」

 

これも、そうでありたいと、ただ思いたいだけだ。

 

「....そう、かもね。」

 

「ま、見かけたら仲良くしてやってくれ.....ってのは難しい話か。変なところで気難しい奴だからな。」

 

 

 

 

「痛っ!」

 

会話の最中、下江が手を庇って尻もちを着いた。

それを見たヒフミと俺達はその場へ駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!?コハルちゃん!」

 

「なんで棘なんてあるのよ!

うぅ...」

 

どうやら雑草を抜いている際、棘が指に刺さったらしい。

 

「下江、大丈夫か?

ってか、うぉ.....、もう見た目からして「触らないでください」って感じの草じゃないか。

何だってこんなの素手で抜こうとしたんだ?」

 

.....俺の監督不足とは言え、いくら何でも観察眼が無さすぎる。

よそ見をしていたとしか思えない。

 

「いや....えっと.....。」

 

 

「良かったらこれ使って。

あ、うん。

当然手を洗って、消毒してからね!」

 

アワアワしている下江に、ミカが絆創膏を手渡した。

 

「あ...その....。」

 

 

『ミカ様~!』

 

して、遠くの方からミカの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

 

 

「あ、見つかっちゃった!

実はお仕事さぼって来たんだよね!」

 

 

「.....お前なぁ...。」

 

ため息を吐くと、ミカもあはは、と笑う。

どうやら名前を呼んで居るのはミカの部下らしい。

 

「それじゃ、衛宮先生に皆、お掃除ファイト!

また今度お話しようね!」

 

それだけ言い残してミカは去っていった。

 

「.........。」

 

俺の知っているお嬢様、の概念はどこへやら。

あれじゃ活発っていうより、おてんば娘って感じだ。

振り回される方は余程苦労するに違いない。

 

逆に言うと探されるほど多忙であり、ミカにしかできない仕事がある、ということでもある。

立場であれ役職であれ、仕事であれ、何かしらの悩みを抱えていることは間違いない。

 

そういえば今はもう1人の生徒会長は現在入院中だった。

となると、その生徒の負担していた仕事は当然2人に流れていくわけで──────

 

メンタルケアをするべきなのだろうか?

 

しかし、生徒会長ともなると言いづらい事も沢山あるだろう。

それどころか俺は桐藤やミカのことを全く知らない。

下手な話をすれば薮を突く事になる、それこそ「セイア」の話題がいい例だ。

 

桐藤達だけではない。

それこそ目の前にいる補習授業部。

彼女達のことだってそうだ

 

「確かに俺はお前達のこと、何も知らないな.....。」

 

ミカの、言う通りかもしれない。

けど───────

 

「「相手を理解するための努力を怠ってはいけない」

あなた様は先日そう仰いました。

 

あなた様は、それで宜しいのでは無いでしょうか?」

 

.....ようはミカのあれは「分かった気になるな。」という助言。

 

「だな....俺は俺なりにやっていくよ。

それはそうとだな、ワカモ。」

 

俺は周囲を見渡した。

どうもミカと話している最中、ずっと誰かに見られていたような、視線を感じた。

それはどうもワカモも感じていたようだ。

 

「......はい、あなた様。

何か観察、というより監視されているような感覚がずっと付きまとっていました。

 

......もう今はありませんけれど。」

 

まぁ、ここに居る人間は俺たち初め補習授業部の生徒しかいないはずだから、あの4人の内の誰かだろう。

特にヒフミは俺の中ではかなりの情報通って認識だ。

 

聞き耳をたててもおかしくない。

 

ヒフミはさておき、もしかしたら想像以上に俺って存在は誤解されているのかもしれない。

 

 

人との信頼関係を構築するには時間がかかる。

時間をかけて、桐藤やミカ、補習授業部の皆と話をしていこう。

 

 

 

 

 

 

さて、時刻は過ぎ今度は館内の掃除に移った。

外に出て掃除をしていただけあって再び入った館内はどうにも空気が悪く感じられる。

一度移ってしまった意識のせいか、ところ所ある埃や塵に目がいってしまう。

 

「よし、とりあえず窓を全部開けて風通しを良くしよう。

で、掃き掃除しつつ窓を拭いて、最後に水拭き。

 

よし、じゃあ配置なんだけど、下江と白州は箒担当。

ヒフミと浦和は水でモップがけ、で、ワカモは乾いたモップで乾拭きを頼んだぞ。

 

俺は窓を雑巾で拭くから。」

 

予め集めていた掃除用具を皆へ渡す。

 

「.....こういってはなんですが....衛宮先生....用意良いですね....?」

 

「ん?そんな事ないぞ。

掃除用具と水周り、それと火元の場所だけ確認してたから集められただけだ。

 

それこそ白州の方が此処の事詳しいだろ?」

 

ってな訳で同意を白州に求めてみる。

一見しただけで施設の用途が分かっている彼女の事だ。

こういう道具の場所なんて最初からわかってたに違いない。

 

「.....いや...ロッカーの配置場所まではわかる...。

けれど流石に内容物までは確認してない。」

 

 

え?なんでさ。

 

それこそ掃除用具なんていくらでも武器になるだろうに。

 

「ほんとか?

俺なんて学生の時しょっちゅうモップとか箒とかブラシの柄を武器にして戦ってたけど....。」

 

聖杯戦争において、強化の魔術を主体にして戦っていた頃の話だ。

あの時は投影魔術が戦闘に使えるってことも、俺の投影魔術が規格外だって事も何も知らなかった。

切嗣にも投影じゃなく強化を主体にしろって言われてたわけで。

 

それはそれとしてそんな話をしたら─────

 

「......掃除用具でチャンバラって.....小学生じゃん!

バカみたい」

 

───なんて下江に言われてしまった。

多分、理解していない。

 

そもそもチャンバラとすら言えない事ばっかりしていた。

 

これは誤解を解かなければますます変な奴と思われてしまう。

それだけは避けなければ。

 

「....仕方ないだろ?

 

俺の居た場所は銃なんて法律で撃つことどころか所持すること自体禁止されてたし。

 

戦闘なんて何処で何時起こるか分からなかったし、それこそ一歩間違えたら命を落とすような状況ばっかりだったんだ。

 

それにな、手にしたその道具だって魔術で「強化」してたし。

木製の箒だって、素の金属バット以上の強度にはなるから、何も手元にないよりマシだったんだ。」

 

 

『ちょっと、シロウ....』

 

熱く弁解していた俺に、イリヤが釘を刺そうと声を掛けてくる。

 

「.....あ。」

 

 

突然聞こえてきたイリヤの声に、浦和、下江、白州の3人が辺りを見回し始めた。

 

そういえばこの3人には一切紹介も説明もしてなかった。

 

「.....シロウ。

今のは腹話術?」

 

「何か女性の声が聞こえてきた気がしますけれど....ワカモちゃんみたいに衛宮先生にはまだ護衛が着いているのですか?」

 

浦和の呼び方がいけなかったのか、顔を顰めるワカモ。

.....そのむずがりは置いておいて。

 

忘れていた。

 

「あ、あの衛宮先生?

もしかして今のはホシノさん達から聞いた「アロナちゃん」「イリヤさん」ですか?」

 

流石のヒフミ。

案外初め会う筈なのにちゃんと情報は得てるんだから大したもんだ。

 

「あぁ、悪い。

イリヤとアロナの紹介だよな?」

 

 

俺はシッテムの箱を起動し、3Dアバターとして画面表示されたその彼女達の姿を見せる。

 

 

『こんにちは、生徒の皆さん!

衛宮先生のサポート役のアロナです!』

 

『改めましてごきげんよう。

私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

長ければイリヤでいいわ。

 

私はそこにいるシロウの妹、って思ってくれていいわ。

ちょっと事情があってこんな「箱」の中に入ってるけれどこれでもれっきとした「人間」よ。』

 

「「.........。」」

 

これには白州も下江も目を丸くしている。

 

「....これは生きているのか?

コンピュータ───いやタブレット端末のAIではないのか?」

 

『失礼ね。アロナはそうだけど私は人間よ。』

 

『あ、酷いです!イリヤさん!

まるで私だけ仲間はずれみたいじゃないですか!』

 

下江の質問に眉をひそめて答えるイリヤ。

アロナといえば、態度もさることながら感情によってヘイローが揺れている。

 

「イリヤ、アロナはAIって言ってるけど、コイツはほぼ人間と変わらないぞ。

なんたって大変な時期にずっと隠れてゲームやってたんだぞ....?」

 

 

『─────そうだったわ.....。

ほんとに貴女、システムAIなの?』

 

『うっ ...衛宮先生!まだ根に持ってるんですか!?』

 

「悪い悪い、アロナがいい子だからちょっと意地悪したくなった。」

 

なんて言ったものの、ミレニアムでヒマリや各務からAIのことを聞いた俺にとってはやはりアロナは別物に見える。

 

おさらいするとAIってのは情報と処理方法を集合させたもの。

良くも悪くも指示通りのことしか出来ないロボットだ。

 

だって言うのにアロナはどうだ。

 

自分で俺や生徒の助けをしたいと、相談してくるし、ゲームだって勝手に始める。

ようは自主性があるわけだ。

 

ウタハ曰く、機械と人間の最大の違いは「間違えられるか、間違えられないか」「感情の有無」そして「嘘がつけるか付けないか」らしい。

 

 

そう考えるとやはりアロナはAIというより、人間に近いだろう。

 

一方、下江と言えば─────

 

「.....綺麗な白い髪...。」

とイリヤを見てボソッと呟いた。

 

『あら?ありがとうコハル。

この髪はお母様譲りで、キリ───お父様も褒めてくれたわ。

 

あ、でも雪は冷たくて痛くて嫌い。』

 

どうも自分で気に入っている髪のことを褒められて下江のことが気に入ったらしい。

 

だけど────

 

「俺はイリヤの雪みたいな髪も、白州の透き通るような白い髪もどっちも好きだぞ。」

 

 

「『─────』」

 

白い髪を持つ人物はここにはもうひとりいる。

 

実際、白州の出て立ち自体そもそも綺麗だと思っていた。

いや、うん。

ティーパーティーのあの2人の容姿をみて、どうも麻痺していたんでこの前気づいたんだが。

 

「.....ありがとう。

髪を褒められたのは、初めてだ。」

 

白州も頬を緩めて、返してくれた。

 

「あらぁ。衛宮先生も隅におけませんね♪」

 

「.....」

 

浦和はニマニマと、下江はジト目を向けてくる。

 

.....なんでさ。

 

 

「それで?あんた「魔術師」なんでしょ。

しかもろくな武器も無いのに命の取り合いしてたって、どういう事?」

 

下江がさっきの話を掘り起こした。

 

何故そんなことをしていたのかを説明するんならそりゃ当然魔術の流れになる。

 

さて、なんて説明しよう。

ただでさえトリニティは「魔術」という言葉に対して良い感情を持っていない。

 

これはイチカの言。

 

で、桐藤と会話した時の反応や下江の反応から見るにやはり忌み嫌われている存在らしい。

 

そういえば、ハスミも初めて会った時に距離を置かれた。

あれはそういう心境もあったのかもしれない。

 

.....待てよ?

そもそも「魔術」という概念が存在しない、と言峰は言った。

 

ならなんで─────

 

「それは私も気になる。

どんな状況で、敵の勢力と数の差はどのくらいで、あなたの戦う手段と戦術がどんなものだったのか。」

 

 

......なぁなぁで済ませたい。

魔術の話題は極力生徒には振りたくないし、話したくない。

さっきのは完全に油断していた。

 

「.......ですが───」

 

「お話もいいですが.....皆さん?

 

今日のやる事忘れていませんか?

お片付けとお掃除が終わらなかったら、この体に良くないこの環境でお布団もお風呂も入れずに裸で床に寝ることになりますよ?」

 

 

困っていると、浦和が助け舟を出して

 

 

「まぁ♪

私は一向に構いませんが♡」

 

 

訂正、本気かもしれない。

 

「そうそう。

とりあえず話は終わってからだ。

 

それに買い出しだって行かなきゃならないんだ。

とりあえず始めよう。」

 

「「はーい」♪」

 

 

(ガラガラガラ)

他のみんなが掃き掃除と拭き掃除をしている中バケツに組んだ水に雑巾を浸し、絞っては窓を拭く。

 

ロビー、廊下、下駄箱の掃除は終了。

 

「流石に広いな。」

 

疲労感からボソリと呟いた。

 

多分俺の家より広いぞ、これ。

くたくたってほどでは無いが、分担しないと時間的に厳しい。

 

かと言って掃除の簡略化は許容できない。

 

「そうですね....では」

 

 

「では、手分けしましょう!

 

私とアズサちゃん、コハルちゃんでシャワー室と更衣室、体育館のお掃除を。

ハナコちゃんと衛宮先生とワカモちゃんで、各お部屋や御手洗、調理場をお願いします。」

 

なんというか妙な人選だ。

 

今、立って並んでる順に分けたらしい。

 

....というか、考えてみれば3人1グループにすると間違いなく補習授業部の生徒が仲間はずれになる....。

 

もういっそ、俺とワカモの2人で......それも違う────。

 

 

「.....いや、ワカモ、下江と変わってくれないか?」

 

 

「はい?」

 

ワカモを始め、みんなが目を丸くする。

 

この配置転換は我ながら完璧かもしれない。

浦和と下江とはちゃんと話がしたかった。

 

それに─────

 

「お前、ずっと俺とばっかり話してるじゃんか。

それじゃコミュニケーション練習にならないだろ。

 

それにお前は補習授業部の副担任だぞ?

 

引率役になるのは当然といえば当然だ。

はい、行った行った。

 

いつもシャーレでやってるように掃除してくれればいいからさ。」

 

「し、士郎さん!?」

 

俺はワカモの背中を押して、下江の腕を引っ張った。

 

 

「えっ!?ちょ、ちょっと何?!!」

 

慌てふためく下江。

 

 

「じゃ、ヒフミ、白州。

しばらくの間ワカモを宜しくな。」

 

 

「「.........」 」

 

「「えぇぇぇぇぇぇっっっ!?!?」 」

 

 

「では皆さん、また後で。」

 

「......ヒフミ、ご愁傷さま!」

 

 

俺は浦和と下江を引き連れてその場を後にした。

 

 

 

 

で、俺たちの仕事はとりあえず片っ端から部屋の扉を開け、窓を開け換気をする所から始めた。

 

結構部屋の数も多いが、3人いりゃ何とかなるだろ。

 

 

「.....ベッドそのものがホコリ被ってるな....確か洗濯機とドラム乾燥機があったから種類別に分けていこう。

浦和、手伝ってくれ。

 

下江、俺と浦和の2人で荷物を一旦部屋から出すから、箒とはたきで掃き掃除を頼む。」

 

「う、うん。」

 

反発するかと思っていた下江はすんなり指示を受け入れてくれた。

一方、的確な助言をしてくれる浦和。

 

「はい、そうですね。

マットレスなども倉庫にあったので干して、それを一度代用した方がいいと思います。」

 

俺の腕に次々と布団を重ねておいていく浦和。

 

なんだかんだ言って結構観察してくれていたらしい。

......それにしてもマットレスか。

 

「....敷布団と畳の部屋は....?流石にないか。

マットレス、硬そうなイメージがあってどうにも触れる気がおきなくて。」

 

「そんなことも無いですよ?

 

 

 

敷布団、という事は、以前衛宮先生は和室に住んでらしたんですか?」

 

「あぁ、武家屋敷。

かなり広くてもう半分旅館みたいな場所だった。」

 

 

「旅館、ですか。

という事はお友達を止めてお泊まり会を?」

 

「あぁ、したした。

......友達っていうか、色々いたぞ。

 

血は繋がってないけど馴染みの姉貴みたいなトラ。

 

あかいあくまみたいな同級生の女子。

親友みたいな腐れ縁の友達の妹

 

あと戦友の────騎士王。」

 

 

ずらりと並べてみた。

 

けど........なんでか女の子しか上がらないぞ。

で、浦和と下江の反応を窺えば、思った通りのものだった。

 

「あら......?

 

もしかして衛宮先生、昔は結構なプレイボーイだったりしたんです?」

 

「あ!違う違う違う!!

断じて違う!

 

異議あり!冤罪だと主張するッ!」

 

後ろからの言われのない言葉を聞き、重たい布団で体のバランスを崩しながらも何とか踏みとどまり振り向いた。

 

全力で抗議する。

俺にそういう相手なんて居なかったし、そんなもん作る必要も暇もなかった。

 

確かに遠坂に一変たりともそういう憧れがなかったかと言われると嘘にもなるし、桜なんてめちゃくちゃ美人だったし、セイバーにはずっと隣にいて欲しかったけど別にそういうのじゃない!

 

「......同い年の女の子2人と同衾!?

 

エッチ!!バカ!ヘンタイ!スケベ///!

 

 

「なんでさ!」

 

 

 

 

そんな話から逃げるように庭へと出た。

物干し竿はないから投影。

 

見渡せばば緑にしげった山と、澄み渡る青い空。

 

「こりゃなんか合宿というか、もはやキャンプじゃないか。」

 

やる事が違っていたらもはや修行だ。

 

そういや、熊とか出ないだろうか?

まぁ、熊程度なら此処の生徒達なら自力で何とかしてくれるくらいのタフさはある。

 

 

「フッ.....子守りの面倒も大変だな。」

 

 

で、聞こえてきたのはアイツの声。

どうやら今日は来客が多い日らしい。

 

「───言峰......。」

 

「陣中見舞いだ、衛宮士郎。」

 

そこに立っていたのは、現、トリニティ大聖堂の神父、言峰綺礼だった。

 

色んな方の先生作品で「桜花絢爛お祭り騒ぎ」を見かけます。いかがでしょう。読みたいですか?

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