衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】 作:神宮寺志狼
「一体いつからミカが頭悪いなんて錯覚をしていた?」
って感じのお話。
して、上手いこと乗せられてしまう士郎のお話。
まだまだ彼は子供なんだよな。
そろそろ就寝時間になろうと言う時にヒフミがやってきた。
どうやら昨日の夜俺の部屋を訪れた理由らしい。
「どうしたんだ?
そんな顔して、なんかあったか?」
「衛宮先生。
先生なら薄々と気づいていると思いますが.....。
この試験、3度目に落ちたら全員退学なんです。」
「は?」
初耳だ。
なんだそれ。
「退学って....なんでさ。」
「え?
衛宮先生はナギサ様から聞いていないんですか.....?」
ヒフミは困っている。
「.......ナギサ様から誰にも話さないように...って言われてるんですが....。」
なら俺が聞いていい話じゃないはずだ。
「ならいいよ。
どうしても困ったっていうなら話してくれて構わないけどさ。
まずはお前が桐藤との約束を守るべきだ。」
「で、ですが─────そうですね....わかりました。」
まぁでもなんと言うか、桐藤の動きが怪しく見えてくる。
俺に内緒でヒフミに頼み事をする時点で何か裏があるに違いない。
そして、それは言峰が俺に言ってきたことに関係があるのかもしれない。
「あ、あのそれと......ハナコちゃんなのですが....。」
「浦和が?
またコハルからかって泣かせたのか?」
俺は席から立ち上がって扉に向かう、が、腕を掴まれて止められた。
「違うんです.....。
これ.....。」
彼女は何枚かの紙を差し出してくる。
それは解答用紙。
ただし、すべての解答欄に丸がついていて──────
「ヒフミ、これは?」
「......模範解答を集めている最中に、何故か束になって保管されていたんです。
珍しい事だから保管されていたのか、理由まではわかりませんが。
昨年の試験、1年生から3年生までの全ての解答用紙がまとまっていたんです。
どういう訳か、その全てを正しく回答した方がいたそうです。」
その名前の欄には、「浦和ハナコ」と書かれていた。
「........。」
「......それと気になって盗み見てしまったんですが....。」
彼女がさらに差し出してきたのは、浦和の第一次試験の解答用紙のコピー。
「見ちまったのか.....。」
「衛宮先生、どういうことですか?
彼女の回答は名前の欄に記載がなかっただけで「満点」でした。
これだけの状況が出揃っているにも関わらず、彼女の模試の点数は4点なんて......
ハナコちゃんは、去年の1年生の段階で、3年生の秀才クラスでも難しいとされる過程、第一次試験含めて「全ての試験」で満点を出しています。
完膚無きまでに「秀才」と言えるレベルです。
1年生分の試験結果を見て、ハナコちゃんはきっと「今年になって急に成績が落ちてしまったんだ」と思っていました。
でもこれを見る限りそうではなく.....
今回の模試試験も間違いなく100点が取れたと思うんです。
だって─────」
それはもう、浦和が1度解いている問題を流用したからだ。
天文学的な確率でもない限り「4点」なんて数字が出てくるわけがない。
そして、その不信感から、ヒフミも俺と同じ結論にたどり着いたらしい。
「つまり、ヒフミ、お前は─────」
「はい、ハナコちゃんは今.....わざと試験に落ちているとしか思えません...。
ハナコちゃん....どうして....。」
もうヒフミの中ではその推測は確定しているようだった。
その時だ。
(コンコンッ。)
『シロウ、いるか?』
扉をノックする音の主はアズサだった。
「おう、居るぞ。」
ヒフミの口を塞いで答える。
『すこし「見張り」をしてくる。
ヒトヒトサンマルくらいになったら交代しよう。』
ヒトヒトサンマル....?
あぁ、11時半の事な。
「あぁ、わかった気をつけてな。
なんかあったらすぐ連絡しろよ。」
『了解した。
行ってくる。」
そんな単調な、会話。
しかし俺はその「見張り」の意味を知っている。
「衛宮先生.....アズサちゃんは....?」
彼女の気配が扉前から居なくなってからヒフミの口を塞いでいた手をどかす。
「すこし寝る前の散歩をしてるだけだ、すぐ戻るさ。
とにかく浦和の件は少し任せてくれ。
その為に面談の時間を作ったんだ。」
「は、はい。
ではハナコちゃんの件はお任せします....。」
それでも不安そうなヒフミ。
「ヒフミ、大丈夫だ。
多分お前がナギサから言われてることは大体想像つく。
俺も俺なりに調べてみるから、気にせず試験勉強に専念してくれ。」
そういうと、少し明るく笑っておやすみなさいと、扉を開けて出ていった。
失敗しただろうか?
いや下手な話その内緒の話というのが試金石の可能性すらある。
......。
考え込んでいると端末に着信が入った。
その相手の名前は───
「ミカ.....?」
翌日の自習時間。
俺は「少し席を外す」といってワカモに任せ、ミカとの待ち合わせ場所へ向かった。
「わぁっ、プールに水が入ってるー!
あはっ、ここに水が入ってるのなんて久しぶりに見たなー。
もしかしてこれから泳ぐの?
それともみんなでプールパーティー?」
「んなわけないだろ、みんな自習中。
これは掃除のついでにいれただけだ。
それはそれとして挨拶が抜けてるぞ、ミカ。
また気にして様子を見に来てくれたのか?」
「うん、色々と報告と、お話したいことがあったし。
あ!
でも今日はお仕事サボったんじゃなくてちゃんと時間作ってきたんだから!」
そういえばこの間は仕事をサボって部下に探されていた。
逆に言えば正規の手続きを踏んで会いに来るほどのことが起こっていると言うこと。
「で?話ってなんだよ。
アイスブレイクもいいけど、今の俺そんなに余裕ないんだ。」
「 ......ふふっ、ごめんね。
そっか、先生も忙しいもんね。
じゃあ本題に入るとしよっか。
衛宮先生....さ。
ナギちゃんから取引とか提案とかされなかった?」
取引....?
いいや全くもってそんな覚えは無い。
「そうだな....例えば?」
「うーん....そうだね。
「トリニティの裏切り者」を探して欲しい....とか?」
「.....なんだよ、それ。」
俺は即座に疑問を呈した。
それに対して、ミカはびっくりしているように見えた。
「ふーん....なんにも聞いてないんだ。 ....
.........でもそっか。
衛宮先生相手ならナギちゃんは言わないか .....。
衛宮先生、ナギちゃんが何をしようとしてるのか知りたいでしょ?」
「........。」
彼女の口から聞いてもいいのだろうか?
ヒフミにもあぁ言った手前、それを聞くのは─────
「嫌だ、って言われると困っちゃうな。
私がいろいろ報告できないしね。
説明するね、トリニティにおける自分の邪魔をしそうな人物を退学させるために作った部活、それが補習授業部。
つまりね、補習授業部にいる生徒達はスパイ候補でね、試験の合否に関わらず退学させるつもりなんだと思うよ。」
──────────。
理解が追いつかない、何を言っているのかは理解しているのに、その内容が頭の中で消化不良を起こしている。
「んな、馬鹿な。
なんの冗談だ、それ。
なぁ、ミカ。
それ全く面白くないぞ。
もしかしてジョークの練習か?」
「センスないって?
だってジョークじゃないもん。」
ミカが膨れている。
それもかなり真剣な視線を俺に向けて、だ。
もし、もしだ。
仮にミカの言っている補習授業部がスパイ候補を押し込めておく部活だったとして、どうしてそこにヒフミがいるんだ?
アイツ、桐藤と仲いいんだろ?
それにコハルだって、あんな子がスパイなんてやれるわけが無い。
アズサと浦和は変わっているところはあるが....。
それでもこの人選は何かおかしい。
「なんで、って顔してるね。
こうなっちゃったのも、全部エデン条約なんてもののせいなんだけど....。」
そうしてミカから説明されるエデン条約の内容。
それはトリニティとゲヘナの間における不可侵条約だ。
ETOという二学園合同の治安部隊を設立し、お互いに助け合うことで関係悪化を防ごうという措置だ。
歪んでいるように思えた。
なんだよ、手を取り合うのにまずは武装集団を作りましょうって.....。
飛躍しすぎている。
「このエデン条約は元々失踪した連邦生徒会長が進めてたみたいなんだけどね、ほらいなくなっちゃったじゃん?
それを引き継いだ形で取り仕切ってるのがナギちゃんなんだよ。
多分エデン条約の締結を邪魔しようって生徒がいるって、そんな風に思ってるんだろうね。
その排除の一環で補習授業部っていう箱を作ってその中に押し込んだ。
きっと今のナギちゃんなら多分「ゴミ箱」とか言うんじゃないかな....。
まぁ、でもつまりはそういう事だよ。」
「それって、ミカの推測とかじゃないのか?
いくらなんでも自分の学校の生徒を成績の善し悪しに関わらず退学にするって....。」
疑問を呈する。
しかし、そんな俺の淡い想像は粉砕された。
「ヒフミちゃん辺りに指示してると思うよ?
「スパイを見つけ出せ」って。
私の言っていることを前提に考えるならさ、誰が「探偵役」をするんだろうね。
衛宮先生、ナギちゃんから頼られてないじゃん。
そうしたらお気に入りの生徒に指示するんじゃないかな?」
心当たりが─────ありすぎる。
昨日、ヒフミが打ち明けようとしたのは、まさにそれだったのだ。
想像以上に深い問題だったらしい。
言峰から聞いた情報を思い出す。
「なら.....百合園セイア。
彼女を入院させた生徒が、あの中にいるってのか?」
「......さぁ?」
そう言って彼女はくるり回り─────
「ねぇ、衛宮先生。
取引しない?」
そう、笑顔で言った。
「取引.....?」
「そう。
補習授業部の中にいる「トリニティの裏切り者」が誰か教えてあげる。」
「──────」
「ナギちゃんの言う、「トリニティの裏切り者」、今必死に探して退学にさせようとしているその相手。
実際のところ、もう少し複雑で大きい問題もあるんだけど.....。
衛宮先生がこのまま何も知らないままナギちゃんに振り回される姿をただただ見てる.....なんていうのちょっと申し訳ないなっていうか.......もう既にいろいろ申し訳ない状態になってるから....」
なんだ、そのもう取り返しのつかないことが起きた、みたいな言い草は。
「そもそも、先生のことを補習授業部の担当として招待したのは私だからね、このことは知ってた?」
首を横に振って否定する。
いや....仲正────イチカが「ティーパーティー」に言われて呼びに来たってことしか知らない....。
ミカが....俺を呼んだのか。
「そっか、ナギちゃんにはずっと反対されてたんだけどね。
「折角の「借り」をこんな形で使うのには反対」とか、「素性の分からない危険人物をこれ以上トリニティに置きたくない」とか。」
「......そっか。」
元より俺は桐藤から警戒されていたということだ。
もういっそ、それこそヒフミやコハルに監視されていてもおかしくない......。
「じゃ、話戻そっか。
補習授業部にいる、「トリニティの裏切り者」....それは─────」
「ま、待ってくれ」
「せ、先生!?」
俺はミカの両肩に手を置いて静止する。
そんな事を急に言われても決心がつかない。
知ってしまったら、俺はこれまでと同じように接することが出来るのか....?
十中八九、詰め寄って問い詰めるだろう。
しかし、このまま聞かないなんて選択肢なんてあるか?
ない。
そんなことになったら、疑いの眼差しで生徒を見ないとは言えない。
どう、答えるのが正解なんだ。
こんな時に、俺は答えを出せない。
「──────────。」
「大丈夫。
衛宮先生の思ってるより悪い話じゃないよ。
落ち着いて、深呼吸」
ミカは俺の両手を掴んで、優しく包んでくれた。
言われた通り深呼吸して、肩の力を抜いた。
「あ、嘘、悪い話じゃないと思う。かな?」
「.....なんだよ...それ。」
ちょっと気が抜けた。
「.........でも、サンキュな、ミカ、勇気出た。
頼む、教えてくれ。」
俺に今必要なのは情報だけじゃない。
生徒と向き合うだけの度量が、まだ備わっていない。
言峰の言う通り、これは俺に課された試練なのかもしれない。
ミカは真剣な表情に戻した。
「.....補習授業部にいる「裏切り者」、それは......
白州.....アズサ。」
「─────────────。
そっか、アズサが。」
どうして、と聞く前に、ミカか続きを話し始める。
「あの子が、元からのトリニティ生徒じゃないことくらいは知ってるよね?」
「あぁ、ヒフミから聞いたぞ。
転校してきたんだって。」
それが、「裏切り者」とどう関係するのか。
「あの子が元いた学校は「アリウス分校」。
元々トリニティの分派の1つ。
今のトリニティ総合学園にまとまる際、合流を嫌がったせいでハブられて、今どこで何してるかもよく分からない学校.....。
学校... なのかな?
ねぇ、先生。
「何かを学ぶ」ということが無い生徒の事を「生徒」って呼べると思う?」
「.........。」
それは奇しくも、俺が初めて会ったアズサに会った時に抱いた感想と、ほぼ同じものだった。
「....んで、ミカ、仮にそれが本当だとして。
さっき取引しない?って言ってたよな?
俺は代わりに何をすればいいんだ。
言っておくけど限度もあるからな。」
ここで気づいた。
浅慮だった。
俺はミカの要望を聞いていなかった。
「.....簡単だよ。
白州アズサ。
あの子を守ってあげて欲しいの。」
「.....え?」
混乱してきた。
裏切り者を守れ、だって?
言われずともアズサの事は全力でサポートする。
.....アズサをよろしく頼む....守ってやってくれ。」
俺は生徒に───サオリに誓ったのだ、必ずアズサを守ると。
しかし、それとこれとは話が別だ。
そもそも何でミカが「裏切り者」の件を知っているんだ?
不味い、冷静じゃなかった、後から後から疑問が上がってくる。
「あー....うん。ごめんね。
私さ、ナギちゃんやセイアちゃん程、頭良くないんだよね。
だから話す順番間違えちゃったかも。
最初から説明するね!」
そうしてミカは再び話し始める、初めて会った時に聞いたトリニティの成り立ちの続きを。
昔のトリニティは各派閥が分かれていて紛争を繰り返していた。
それを止めるために分派のリーダーが動き出し「第一公会議」が開かれ「トリニティ総合学園」が設立されたという。
しかし、その第一公会議で、反発していた分派があった。
それが、「アリウス」。
当時の文化や学びはさほど自分達と変わらなかったと、ミカは言う。
しかし、何故かアリウス分派だけは頑なに統合される事を嫌がった。
その結果─────アリウスを除いた「トリニティ総合学園」は弾圧を初め、トリニティの自治区から追い出された。
所謂「迫害」だ。
今ではトリニティや連邦生徒会の情報網を駆使しても移動した自治区の場所が分からないらしい。
「アズサが....そこの出身だって言うのか。」
納得────せざるを得ない。
アズサやサオリの纏う雰囲気は、マコ達の「生きる為戦う」を極限まで増幅したようなものがある。
「でも、それがどうして。」
裏切り者に繋がるのか。
先を話すよう、ミカに促した。
「白州アズサちゃんを、この学園に転校させたのは私なの。
ナギちゃんには内緒で、生徒名簿とか書類を全部捏造して、あの子を入学させた。
私がしたいのはトリニティとアリウスの和解。
アリウス分校は今もまだ私たちのことを憎んでる。
対して私たちはこうして豊かな環境を謳歌してるのに、彼女達は劣悪な環境の中で「学ぶ」ということが何なのかも分からないままでいる.....。
おかしいよね。
元々は同じような場所で同じように生きてきたはずなのに。
だからかな。
けど、ナギちゃんもセイアちゃんも政治的な理由で反対してきたんだ。
私不器用だし、政治に関してもちょっと得意じゃないけど......でもさ、また今から仲良くするのってそんなに難しいことなのかな?
だから、「白州アズサ」っていうアリウスでも優秀な生徒をトリニティにこっそり転入させて、ここでもちゃんと暮らしていけて幸せになれるんだって証明出来れば、納得して貰えると思ったんだ。
私は「白州アズサ」という生徒に、トリニティとアリウスにおける和平の象徴になってほしいの。」
納得した。
彼女はこれからのことを考えて行動した。
「ただ、なんで桐藤達に黙ってそんな事を。
そりゃ不審がられても仕方ないぞ。」
だよね、と軽口で返してくる。
「じゃあ今度は私がナギちゃん達を説得しなかった────ううん。
疑ってる理由を説明するね。
.....話を戻すけど。
ナギちゃんが推進している「エデン条約」、あれはその「第一公会議」の再現なの。
大きな二つの学園、トリニティとゲヘナがこれから仲良くしようね、ってあう約束事。
何だか良いお話に聞こえるよね?
でも、本当のところはどうなんだろ。
だって、その核心はゲヘナとトリニティの武力を合わせた
皆単純な平和条約だと思ってるんだろうけど、トリニティとゲヘナの戦力を合わせた一つの大きな武力集団が誕生するんだよ?
連邦生徒会長が行方不明っていう、このタイミングで....。」
ミカはエデン条約に対して俺と同じ不信感を抱いていたらしい。
「私、わからないんだ。
そんな大きな力を持ってナギちゃんが何をしようとしてるのか。
衛宮先生、力を集めるってどういう時にするんだろ?」
そんなの決まってる。
「........今現状の戦力じゃ足らない、勝てない相手がいる時.....。
つまり、お前は桐藤が「E T O」って力を使って何処かに攻めこもうとしてるんじゃないかって言いたいんだな?」
「...........。」
彼女は問に対して沈黙で答えた。
「ナギちゃんの目的はわからない。
けど今の状況からハッキリしてるのは。
きっと、自分が気に入らないものを排除する.....。
その対象がアビドスなのか、ミレニアムなのか、もしかしたら連邦生徒会かもしれないけど....。」
「.........。」
彼女の言に対して納得するだけの判断材料が揃ってしまっている。
補習授業部の生徒が白だろうが黒だろうが全員まとめて退学処分できるように仕組んでいる時点で「気に入らないものを排除する」って可能性が全く無いとは言えなくなった。
「.....もしかしたらセイアちゃんみたいに......
あっ、ごめん。今のは失言だったかな。」
セイア....百合園セイアか....?
「なぁ、ミカ、もう一人の生徒会長、百合園セイアに何があったんだ?」
この状況で、ミカが口を滑らせたのだ。
彼女の怪我はこの問題に関わってきていると見るべきだ。
「.....」
「その相談し辛いかもしれないけどさ、桐藤がダメなら───」
「衛宮先生は、誰の味方?」
「────え?」
唐突過ぎた質問に、俺は、答えられない。
「衛宮先生の座右の銘、在り方が「正義の味方」だって聞いてるよ。
じゃあ今の衛宮先生にとって正しい事って───誰の視点から?
シャーレ?
補習授業部?
ここまで話を聞いた衛宮先生は、一体誰の味方をするの?」
ここに来て言い回しを変えてきた。
いち早い話、俺のことを信用出来ないって言っているのだ。
「.....だよな、さっきまでは個人の、ミカの頭の中にしかない話だ。
俺が周りに言ったって、しらばっくれれば躱せる。
でも、今俺が聞いたのは、お前じゃない他の人の安否の話だ。
もう一度病院送りにされたセイアの事を俺が詮索するのは筋違いか。」
ミカの心情を慮り、彼女の考えを推理してみた。
....だが、彼女は首を振った。
「.....ううん。
信用してなかったら、さっきの話もしてないよ。
それこそナギちゃんに告げ口されたら、きっと私も
だけどね、これは違うの。
もし、本当にうっかり外に漏れちゃったら、トリニティそのものが終わっちゃう。
それでも、知りたい?
最後に聞くけどさ、
衛宮先生は「生徒の味方」.....でいいんだよね?」
かなり重い話らしい。
トリニティの存続に関わるような?
だけど、一つ確かなことがある。
「───あぁ。
間違いなく、俺は生徒の味方だし、ミカを困らせるつもりは無い。
でもって悪いやつはちゃんと叱れる大人.....とは言えないな。
まだまだ未熟だけど。
それでもお前が困ってるなら助けるし、もし悪いことしたってならちゃんと叱るよ。」
二度目の質問は間髪入れずに答えられた。
ミカは少し目を見開いて「.....そっか。」と、安心したように呟いた。
「衛宮先生。
セイアちゃんは入院中なんかじゃないんだ。
「........。」
ヘイロー。
キヴォトスにいる彼女達の頭上に有り続ける、天使の輪のような。
「生徒そのもの」を象徴するようなもの、言ってしまえばその生徒の個性であり、固有の存在。
それが、壊された。
ミカのその言葉で、圧縮機で潰されているのではないかという、重圧がかかる。
間違いであって欲しい。
もし、俺の理解が正しいのであれば、入院なんて生易しいものでは無い─────
そうだ、俺は一度その光景を、他の生徒の記憶を通して見ているじゃないか──────!
「─────まさか.....」
「意味、分かるんだね.....。
去年セイアちゃんは何者かの手によって唐突に襲撃されて、命を奪われた。
対外的には「入院」って形を取ってるけど、それは
誤魔化すための嘘。
本当のことはティーパーティーでも私とナギちゃんを含めてごく一部の生徒しか知らない。」
ティーパーティーの、トップが1人かけている。
そんなのどうしたって、崩壊間近だ。
それこそ、もう既に模範解答が連邦生徒会によって、出されている。
「犯人はまだ、見つかってない。
色々と調べている最中だけど、何も分かってない。
元々セイアちゃんは秘密の多い子で、理解しにくい子だったから。」
そして、ミカの先程の言葉に繋がるのだ。
「まさか、桐藤がセイアとお前を....────そんなわけない。
いくら何でもそんな馬鹿みたいな。
だってこれまで3人で何とかしてきたんだろ?
そんな枝の別れてる木の根元を斧で叩くようなもんじゃんか。
一人でそんな数多くの派閥がある学園を統率するなんて無理だ。
桐藤だけじゃまず間違いなく崩壊する。
そんなのはあいつだって分かってる────いや、悪い。」
言った後に気づいた。
そんな事をどうして俺のような付き合いの短い俺が言えるのか。
ミカは言った。
「信じたいだけだ」と。
まさに今がそれだった。
たった一度会って話した相手の事を、一緒にやって来た上で不安要素を相談してくれているミカに、どうしてそんな無責任なことが言えるのか。
裏切らない保証なんてない。
「────そっか.....確かに無理だよね。
トリニティを独りでまとめるなんて.......。
ありがとう衛宮先生。
ナギちゃんの事、そう言ってくれるのは嬉しい。
これでも幼馴染なんだ、あの子。」
「そう....だったのか。」
「ねぇ、どうして補習授業部のメンバーがあの4人なのか、知ってる?」
「....いや。わからない。」
むしろ俺はそこが納得いっていない。
ついで、と言わんばかりに、ミカが情報を出してくれる。
ミカの個人的意見をまとめるとこうだ。
浦和は元々成績優秀。
一時期はティーパーティーの候補メンバーにすらあがり、各分派が躍起になって引き入れようとしていたが、急に素行態度が変化したらしい。
急に態度が変化した彼女の行動は予測できない事の方が多く、またトリニティのコミュニティについてはかなり広く伝手を持っているらしく、結構な秘匿事項を知っている。
故に、桐藤は監視対象下とするべく補習授業部入りさせた。
コハルに関しては、桐藤が警戒しているのはコハル本人では無く、牽制用の「人質」であるとの事。
理由も、俺が納得出来てしまうもので、困ったもんだった。
コハルは正義実現委員会の生徒で、かなり先輩から可愛がられているとの話。
その先輩というのがハスミ。
で、そんなハスミの特徴といえば「ゲヘナへの嫌悪」。
俺も間近で見たことがあるからわかる。
実際にハルナ達に食ってかかるところも見た。
ツルギのゲヘナに対する態度は知らない.....。
が、ハスミに関しても実際アビドスの一件で許可をとったとはいえ、単身動いてくれた。
つまり行動力がある。
最悪のケースでいくなら、ティーパーティーに殴り込んででもエデン条約を止めたって、有り得なくは無い。
しかもミカの調べた限りではもう既に
ヒフミ。
ミカ曰く、やはり桐藤のお気に入りの生徒らしい。
しかし、彼女に関しては色々と問題があった。
まず、試験をサボった事。
これに関してはシャーレの書類とデータで誤魔化せたと思っていたが、甘かった。
どうもヒフミがブラックマーケットに出入りしていたことがバレていたらしい。
言峰も言っていた。
しかも、銀行に押し入った時の話、例の「覆面水着団」の話。
少しだけだが疑いがかかっているらしい。
......だが、おかしい。
あの時はヒフミだけでなくホシノ達全員認識阻害の魔術にかけられていて、カヨコ達すら最後までアビドスの生徒と認識することが出来ていなかったのだ。
それが、誰がどうやって知ったというのか。
つまり、単なるこじつけに過ぎない、それこそ根拠の無い情報ですら桐藤は食いつかざるを得ない状況、という事だ。
そして、アズサは言わずもがな。
「そして、衛宮士郎先生、貴方。」
「────────。」
そして、言葉にされるとくるものがあった。
「衛宮先生は、会ったことがない筈のセイアちゃんの容姿を、ほぼ間違いなく言って見せた。
しかも、前提として「素性が曖昧な魔術師」なんて看板をぶらさげてね。
ナギちゃんは思ったはずだよ?
「衛宮先生が知らないうちにセイアちゃんを殺して、今度はお前だって犯行予告に来たんじゃないか」ってね。
で、衛宮先生は、さらにそれをひっくり返した。」
「......俺の現状。
生徒を害することが出来ない、って話だろ?」
「うん。
多分もう、監視対象は確定していただろうけど、判断が出来なくなっちゃったんじゃないかな?
うん、どう見ても怪しかったね。
だから敵か味方かわからない衛宮先生を、最初は嫌がっていたにもかかわらず補習授業部の担当に決定した。
じゃあ、シャーレの衛宮先生を制御する方法って、なんだろうね?」
「......俺を制御.....?
なんだよそれ。」
「........。」
ミカは、話をここで止めた。
むしろずっと俺の目を見て話していた彼女は、その話題を出した瞬間に、目を逸らしたのだ。
「.......うん。ごめんね。
本当は報告すべきかずっと迷ってたんだ。
落ち着いて聞いて欲しいの。」
「あ、あぁ。」
決心したような表情で、その言葉は繰り出された。
否、それは言葉ではない、人名だ。
「─────藤河マコちゃん。」
「.......マコが、どうしたって?」
嫌な予感が頭をよぎる。
もう手足は力んでしまって、感覚が無くなるほど。
頭はこれまで叩き込まれた情報で破裂する寸前だ。
「あの子は、ティーパーティーのお仕事のお手伝いなんてしてなかった。
コハルちゃんと同じだよ。
正義実現委員会に対する人質がコハルちゃんであるように。
衛宮先生に対する人質は、藤河マコちゃん。
あの子なの。」
「────────────────。」
そんな話をされて、誰が落ち着いて聞けると言うのか。
気づいた時にはもう足が勝手に動いていた。
「お、落ち着いて!衛宮先生!
は、話まだ途中....!
何この力!?」
ミカは俺の腰に抱きつくように引き止めていた。
「桐藤と話してくる。
人質なんて取らなくったって、俺は生徒を傷つけることが出来ないことは変わりないんだ。
最悪、証明してでもマコを─────」
そんな気は何処かでしていたのだ。
俺は結局、最初のミカの報告を重く受け止めていなかった。
これは俺の甘さが招いた結果だ。
でも、死んではいないだろう。
人質だったら、殺しては意味が無い。
なんて、こんな頭に血がのぼった状態で、俺の頭は冷静に判断していた、
しかし、現実は────桐藤は、甘くないらしかった。
そんな一声を聞いて、一気に血の気が引いてしまった。
足に入っていた熱量と力も一気に抜け、ミカは尻餅を着いた。
「────────。」
「痛た....。
やっぱり話すべきじゃなかったのかな.....。」
ここまで来て、それは無いだろう。
「居ないって、どういう事なんだ!!」
膝をつき、ミカの肩を掴んで揺すった。
「──────。
衛宮先生にとって、マコちゃんはかなり特別な生徒なんだね....。
ううん、多分狐坂ワカモを含めたシャーレの生徒達が大事なんだね。
ナギちゃんはそれがわかっていたから、敢えて「二人」護衛という題目でシャーレの人員を呼んだの。
得ていた構成員.......ううん、更生員の情報から、まず「災厄の狐」が来るのは予測できた。
彼女は衛宮先生にいつもべったり張り付いている。
間違いなく、着いてくる。
だから、逆に彼女の存在を
衛宮先生があの狐を放し飼いにはしないだろう、という常識的な判断に身を委ねたんだろうね。
ナギちゃんらしくないけど。」
───────。
「となれば、次に誰が来るのか。
マコちゃんじゃなくても、誰でもよかったんだと思う。
たまたま来た子が、藤河マコちゃんだった。
むしろナギちゃんとしては良い誤算だったんじゃないかな。
だってさ、知ってた?藤河組ってキヴォトスじゃかなり知られているグループなんだよ?
超法的な連邦捜査部シャーレの所属で、色んな学園とのパイプをもっている、そこの知れぬ一枚岩。
たかだか50人に満たないのに、アビドスやD.Uを中心に、ゲヘナやクロノススクール、果てはブラックマーケットまで、今でも活動範囲を広げている。
アビドスがゲヘナとやりやった時も、敗戦濃厚だったアビドス生徒と衛宮先生を助けたのも彼女達だし。
旧カイザー体制を崩壊に導いた切っ掛けを作ったのも彼女達。
そればかりか、今じゃいろんな学区で人助けをしてるって情報も入ってきてるよ。
話を戻すけどさ。
権力に守られた仁義が象徴の藤河組のリーダーを抑えられるんだから。
一石二鳥の思いだったと思う。
マコちゃんが、ナギちゃんに対してどんな反応をしたのか知らないけど、彼女は軟禁された。
でも、事態はナギちゃんの想定外に、転がり始めた。
監視役の生徒達は独断で、マコちゃんに対して食事と水を提供しなかった。
その結果、彼女も耐えきれずに脱獄した。
あの時随分衰弱してたみたいだったから、多分そうだと思う。」
──────だった?
「お前!マコに会ったのか!?」
「うん.....流石にその情報を得た時には不味いと思って例えナギちゃんと敵対してでも、止めようと思ったんだ。
いくらキヴォトスでも 人殺しは重罪だから。
私がたどり着いたときには、彼女は衰弱しきった状態なのに、牢獄の壁を破壊して林の中をフラフラ走ってた....違う、あれは倒れまいとして強迫観念に追われて走ってたんだろうね。
そんな彼女をナギちゃんの手下が必死に追いかけてた。
だから、私はマコちゃんを逃がすために、ナギちゃんの部下たちと戦ったんだ。
こう見えても私、結構強さには自信あるから。
だけど、その後は.....失敗したなぁ。
「逃げて」じゃなくて「待ってて」って言えばよかったんだろうなぁ。」
その後のマコの様子を、ミカは語らない。
まるで、ここまでしか、知らないと言わんばかりに。
「........まさか....。」
「うん、彼女は、行方不明になっちゃった。
諸々はナギちゃんの監督不行届だけど、最後の最後は私の責任だよ。
藤河マコちゃんは、トリニティから忽然と姿を消したの。
だから怖くて衛宮先生には報告出来ない。
シャーレに確認したくても、連絡も取れない。
ナギちゃんは、血相変えて今部下に捜索させてるところ。
当たり前だよね。
だって、「シャーレ」を敵にしたらどうなるか、旧カイザー殲滅戦の時にハッキリしてるもん。」
生徒の為にある筈の「シャーレ」が生徒達からは畏怖の対象になっている....?
「........んな馬鹿な。
あれはどう考えてもカイザー理事の────」
そうだ。
生徒を虐げていたあいつに対して、アビドスを助けるために然るべき措置をしただけだ。
いくら何でもそれを一個人の生徒や、学校へ向けたりなんて。
「話を聞く限りそうだろうね。
でも、あのカイザーを一部とはいえ潰したんだよ。
何処の学園も戦々恐々だったと思うよ。
あ、でも心配しないで!
少なくとも「シャーレの力」が恐れられているだけで、衛宮先生と藤河組そのものの評判は結構良いみたいだから。
まぁ、それもトリニティじゃ「魔術師」っていう単語の元に掻き消されてるんだけど ....。」
そうして、ミカは唸るような声を上げた後、真剣な表情に戻った。
「今、衛宮先生はナギちゃんと会話しない方がいいと思う。
今、ナギちゃんはギリギリまで膨れ上がった水風船なの。
少しでも刺激を与えたら爆発しちゃいそうな。
私嫌だよ?
知らないうちにナギちゃんが人殺しになるのは。
マコちゃんのことは、一生懸命、探してみるからさ。
お願い.....。」
ミカはこんな時にも警告してくれた。
俺のことを心配して。
マコの話は気になるが、今の話から考えると、俺が動くのも補習授業部を離れるのも不味い。
「ミカ.....頼む。
マコを助けてやってくれ.....!」
頭を、深く下げた。
今の俺は疑いと、責任と、しがらみに絡め取られて動けない。
大人ってのはなんて、情けないものなんだ。
見えないところの生徒を助けることすらできやしないなんて。
そうして、気づいた。
藤河マコ。
あいつの存在は、藤姉の、太陽のような明るさそのものなんだ。
キヴォトスは危険な場所で、目の前で彼女が傷つくのを見たくなかった。
だから、俺はずっと遠ざけようとしていた。
「あいつは......
家族なんだ。
シャーレと俺の隣に居てもらえないと困る。」
「.....そもそも私のせいだからね。
頑張ってみる....でもあれからかなり時間が経過してるから....。」
ミカは芳しくない表情。
こんな時こそ、俺がしっかりしないと。
「その林の中って、生物とかいたり、キノコとかいるのか?」
「えっ!?
う、うん。居るけど .....。
猪とか、食べれるキノコも多分。」
「なら大丈夫だ。
あいつ結構逞しいんだ。
飢えをしのぐのに狩りとか山菜採取とかしてた時もあるらしいし。
むしろ野生児って、感じ。」
「そ、そうなんだ。」
ミカを立ち上がらせ、その服に着いた汚れを手で払った。
「悪かった。
改めてマコの事は頼んだ。
俺はお前の願いを叶える手伝いをする。
アズサ達を退学になんてさせない。
絶対に守ってみせる。」
急な宣言で、困らせただろうか?
目を丸くして、目線を動かしている。
「え、え?
それって、もしかして.....その....。」
「俺は、お前の味方だ。ミカ。」
今度こそ、彼女の問いに、正しく答えなければ。
「 .....そっか。
ありがとう先生、でも気持ちだけ受け取っておくね。
もし、バレちゃったら衛宮先生を巻き添いにしちゃうから。
それは私の思うところじゃない。
それに私ナギちゃんに黙って色々進めちゃう悪い子だしさ。」
「けど────」
反論しようとすると、手をパンパンと叩いて話を切りあげるミカ。
「はいはい、衛宮先生の気持ちはわかったから。
けど、そろそろ戻らないと怪しまれちゃうよ?
私も戻らないとだし。
話はお終い。」
「......だな。」
そうして、俺とミカの密会は幕を閉じた。
Vol.3 第1章 END To Be Continued...
色んな方の先生作品で「桜花絢爛お祭り騒ぎ」を見かけます。いかがでしょう。読みたいですか?
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要る。
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後回し、本編に進んで