TERRE ~穢レタ世界ノ黙示録~   作:河本AKIRA

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「俺の名はティエラ……
   特殊能力者……ではない
     そう言われていたのは、過去の話だ」

そう、彼は、ティエラは、特殊能力者「だった」。
これから始まるのは、そんな彼の物語の一部である。


第一部
第1話 「始動」


ーある辺境の村ー

 

黒髪に少し青みが混じっている髪型と黄色い瞳が特徴の青年.........ティエラは村を出る決意をした。

 

というのも、彼は数ヶ月前、村の周辺の山中で意識不明の重体で発見され、数ヶ月、この村に世話になっていたのだ。

 

村で日々を過ごすうちに、村民の人々とも打ち解けたが、これ以上長く世話になるわけにもいかない。

 

というわけで、彼は村を出ることにした。

 

村民一同は、ティエラとの別れを惜しみながらも、彼の意志を尊重し、彼を村の出口まで見送った。

 

ティエラが出口から足を進めようとしたその時、先頭にいた村長が話しかけて来た。

 

「短い間だったが、本当にお別れだと思うと寂しいな...」

 

「大丈夫だって!戻りたくなったらまた戻ってくるからさ!」

 

ティエラの何ともないような言動に対し、村長は苦笑いをした。

そして、村長は話を続けた。

 

「ティエラ、くれぐれも大陸には行くなよ。極東公国(うち)から来たなんてバレようものなら、何をされるか分かったものじゃないからな。つい数か月前だって、世界国家(コスモ・ポリス)のやつらはうちに攻撃して来やがったんだ!いつデッカイ戦争が起こったっておかしくはない!」

 

「分かってるって。それ、何度も聞いたよ」

 

村長からの忠告に対し、ティエラは苦笑いをしながらそう答えた。

 

そう、現在、世界は大きな緊張状態に包まれている。

 

時は西暦2222年。

 

世界の大部分を支配する超大国、世界国家(コスモ・ポリス)による世界統治の時代。

 

世界国家以外にこの世界に存在する独立国家はアメリカ連邦共和国(旧アメリカ合衆国。通称ア連)と極東公国(旧日本国。アメリカの圧力により独立)のみであり、ア連と極東公国は強い協力関係で結ばれている。

 

そして、世界国家とこの2か国の間には、実に200年もの間、強い緊張状態が続いているのだ。

 

「それじゃあ、元気でな!!ティエラ!!」

 

「ああ!アンタらもな!本当にお世話になった!ありがとう!!」

 

ティエラと村民一同は大きく手を振り合った。

 

こうしてティエラは、ついに村から出たのだった。

 

 

 

 

(さて……どこに行こうか……)

 

彼は旅人。故郷はない。どこにいこうかと彼はこれからの旅に思いを馳せる。

 

(まずは北を目指そう)

 

そう考えたティエラはとにかく北進し、2日かけて東北地方の真ん中までたどり着いた。

 

東北地方は「再建」が進んでいないため、荒野が多い。

 

(なんか休憩できるとこねぇかな…)

 

そう考えながら歩いていると、ティエラは偶然、あるバーを見つけた。

 

なんの変哲もないバー。

 

しかし、そこにはティエラにとって妙に引き付けられるなにかを感じた。

 

ティエラは恐る恐るドアを開ける。隙間から中をのぞこうとしたそのときだった。

 

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。入ってきな」

 

そんな優しい声が聞こえた。

 

声の主はバーのマスターと思われる男だ。

 

黒髪に赤目が特徴である。

 

ティエラは一旦バーに入った。

しかし、警戒は弱めない。

 

「アンタ、何者だ?あんな小さな隙間じゃ、普通はそとの景色なんか見えねぇはずだ」

 

「えらく警戒心の強いお客さんだなあ。なんか只者じゃあなさそうだね。ひょっとして……」

 

「……」

 

「サツから逃げてるのかい?」

 

「……へ?」

 

……そんなに警戒する必要はなさそうだ。

 

「あ、いや、そういうわけじゃねぇよ。まあ、なんだ……一杯くれ」

 

「お客さん未成年じゃない?」

 

「まあな、だから……アップルジュースとかない?」

 

「あいよッ!」

 

ここで一つ、ティエラは17歳である。

 

ティエラは、出されたアップルジュースを一口飲んだ。

味は……至って普通。

 

「えっと……いくら?」

 

「200円」

 

「安っ!」

 

「まあまあ」

 

ティエラはカウンターに代金を置き、バーを出た。

 

その直前に、

 

「アンタとは、今度ゆっくり話がしたいな」

 

とだけマスターに告げた。

 

マスターも笑顔でティエラを見送った。

 

バーから数メートル歩いたそのときだった。

 

ティエラに向かってバケツ一杯分くらいの液体が飛んできた。

 

「うわっ!?」

 

ティエラはそれをかわす。

 

液体は地面につくと、そこらの塵を溶かし始めた。

 

「これは……酸?」

 

「すぐれた洞察力だ。称賛に値するよ」

 

「!?」

 

バーの裏から何者かが現れた。

 

「何者だ!」

 

「Y・トシミチ。酸を操る特殊能力者。特籍軍所属だ」

 

「!!……特籍軍!?」

 

特籍軍。正式名称は、『特殊能力者多国籍軍』。

その名の通り、特殊能力者で構成される多国籍軍の一部隊である。

 

ちなみに、特殊能力者は世界で数百人ほど存在し、今なお増え続けている。

 

「特籍軍が何のために?」

 

「お前だ」

 

Y・トシミチははっきりとそう述べ、ティエラを指差した。

 

「……意味が分からない」

 

「分からなくとも関係ない。ティエラ、お前は俺が回収する」

 

Y・トシミチは再び酸を飛ばしてきた。

 

ティエラはそれをかわしながら、鉄の粒子を集め、剣を作る。

 

ちなみにティエラの特殊能力は、空気中に存在する粒子を集め、様々な物質を作る『物質錬成』である。

 

鉄の剣を錬成したティエラは、酸をかわしながらY・トシミチに近づいた。

 

足を踏み込み、ティエラは剣を振りかざし、斬撃をぶちかます。

 

が、Y・トシミチに当たったティエラの剣は、溶けてしまった。

 

ティエラは驚きで目を丸くしながら溶けた刀身を見つめる。

 

(こいつ……まさか!!)

 

ティエラはそこらに転がっているゴミを拾い上げると、Y・トシミチから距離をとって投げつけた。

 

Y・トシミチに命中したゴミはみるみる溶けていった。

 

(やっぱり……!こいつ体まで酸なのか!ってことは……)

 

 

ティエラは金を集め、剣を錬成した。

 

Y・トシミチは、弱点がばれたためか、酸を飛ばしながら逃走を図る。

 

しかし、ティエラは信じられないような身のこなしでそれをすべてかわし、Y・トシミチの目の前まで来ると、文句無しの斬撃をぶちかました。

 

斬撃をくらったY・トシミチは血を噴き出しながら倒れ、絶命した。

 

ティエラは彼の死体に見向きもせず、再び歩き始めた。

 

(さっきのやつは俺が狙いだと言ってた。ってことは、あんなやつのようなのがまた来るってことか?)

 

そう考えながら歩いていると、ティエラは宿を見つけた。

 

(今日はもう休むか……)

 

夜、ティエラは眠りについた。そして、夢を見た。

 

実は、ティエラは数ヶ月前、山中で意識不明の重体になって以来、同じ夢ばかり見る。

 

いつも一人の兵隊が倒れている。

 

土砂降りの中、たくさんの死体と一緒に。

 

そして誰かがその兵隊をずっと見下ろしている。

 

その光景をティエラは見つめる。

 

倒れた兵隊は、ティエラに容姿が似ている。

 

見下ろす者の姿はよく見えない。

 

あと、声が聞こえる。

 

どこからか、聞こえる。

 

『返せ』と。何度も、何度も。

 

そんな夢だ。

 

翌朝、ティエラは目を覚まし、朝食をとると、宿を出ることにした。

 

宿を出ようとしたそのとき、さっきまでおとなしく新聞を読んでいた男が目だけ出すと、

 

「世界国家はお前を欲しがっているぜ」

 

とだけ言った。

 

二人はとりあえず外に出る。

 

「お前、特籍軍か?」

 

「ああ。名はS・サネノブ。お前を回収しに来た。生死は問わないと言われている」

 

「なぜそこまで俺の身を欲しがんだ?」

 

「分からないのか……?まあいい。説明するのも面倒だ。それにしても、その状態であのトシミチを倒すとはな……」

 

「?アイツそんなに強くなかった気がするんだけど……」

 

「アイツは特籍軍の主力中の主力の一人だ。そして……俺もなッ!」

 

急に声を荒らげたS・サネノブは、背負っていた鉄パイプを振りかざしてきた。

 

ティエラはそれを受け止める。

 

次の瞬間だった。

 

ティエラの体内に異様な痛みが走った。

 

「!?がはっ!!なんだ!?すげぇ内側に来るような痛み……!まるで、振動のような……」

 

「ほう、さすがだな。そうだ。俺は振動を操る。物質に振動を付与し、直接身体にあてて内側にまで振動でダメージを与えるのが俺の戦型の一つだ」

 

攻撃は続いた。次々と体内にダメージを受け、ティエラは追い込まれていった。

 

ティエラは一旦距離をとった。

 

(クソッ……!次から次へと刺客を送りやがって……!鉄で剣作っても振動伝わるから意味がねぇ……!そんなら簡単だぜ!振動が伝わりにくい物質を使えば……!)

 

そこでティエラは棒状のゴムを錬成し、片手には鉄の剣、もう片方にはゴムの棒という状態になった。

 

「さぁて!反撃開始だ!!」

 

S・サネノブが鉄パイプを振り下ろしてきた。

 

ティエラはそれをゴムの棒で防ぎ、鉄の剣で斬撃をくらわそうとする。

 

しかし、S・サネノブはそれをかわし、距離をとる。

 

「なるほど……考えたな。だが、それでやられる俺ではない。言ったはずだ……これは俺の戦型の一つだとな!」

 

すると、S・サネノブは体を縮こまらせ始めた。

 

次の瞬間、彼の周りの空気がビリビリと激しく震え始めた。

 

その後、S・サネノブはものすごい速さでティエラの前に現れ、鉄パイプを振り下ろしてきた。

 

S・サネノブの攻撃がティエラの脇腹に命中する。

 

「ぐあッ……!」

 

相手はパワーもスピードも上がっている。

 

しかし、一つだけさっきとは異なる点がある。

 

攻撃に振動が感じられない。

 

実は、S・サネノブは今、自身の体内に振動を流すことで、身体能力を格段に上げているのだ。

 

次々と繰り出される攻撃。それぞれにティエラは反応出来ない。

 

(マズイ……こんままじゃ本当にやられる……!どうすれば……)

 

そう考えているとき、宿に入ろうとしている人のポケットからタバコの箱とライターを見つけたティエラはあることを思い付いた。

 

「おい、おっさん!これ借りるぜ!」

 

「え!ちよっと!」

 

「あとで弁償すっから!」

 

ティエラはその人のポケットの中からタバコの箱とライターをぶんどった。

 

ティエラはすべてのタバコに火をつける。

 

「終わりだティエラ!ここまで抗ったことだけはほめておいてやるぞ!」

 

S・サネノブは鉄パイプを振りかざす。

 

しかし、次の瞬間だった。

 

S・サネノブの体内で異変が起こった。

 

「あ……が、かはっ……!なっ……なぜだ……!息が

……できない」

 

「お前、体内に振動流して、筋肉とかの活動を活性化するんだよな?」

 

「それ……が……?」

 

「つまりだ。体内の活動が活性化してるってことは、その分体内の機能が有害物質とかにも敏感になってるってことさ」

 

「つまり……!タバコで……!?」

 

「ああ。どーせ空気がキレーな訓練施設ばかりで鍛練してたんだろーよ。だから気づかなかったんだ」

 

一時、S・サネノブは黙り込んでいたが、ティエラがとどめをさそうとしたそのときだった。

 

隙をついてS・サネノブはティエラに振動を流し込んだ。

 

「ぐっ……!不意打ち……!?」

 

「黙れ!!勝ったほうが正しいのだ!!」

 

ティエラは一旦距離をとる。

 

(クソッ……振り出しに戻っちまったじゃねーか!大体アイツに近づくのは危険だ。なんか……この剣がのびたり縮んだりするようにできる物質とかねぇかな……ん?待てよ?)

 

ティエラは自身の腕の筋肉を見つめた。

 

腕を伸ばしたり曲げたりすると、筋肉ものびたり縮んだりしている。

 

(!!これだ……!いちかばちか……やっみるしかねぇ!)

 

ティエラは腕の筋肉から剣へと何かを伝えるために力を入れ、S・サネノブに向かって突き出した。

 

すると、驚いたことに、剣はすごい勢いで伸び、S・サネノブの胸部を貫通した。

 

何が起こったのか分からないという顔をしながらS・サネノブは吐血しながら倒れた。

 

「筋肉を伸ばしたり縮めたりするもの……確かATPだっけか?それを使った技……。名付けて……ATPソード!」

 

ティエラは刀身を縮ませる。

 

「は……はは……」

 

「!!まだ生きてんのか!?」

 

「覚悟しろ……もうそろそろここは戦場になる……あと少しすれば……極東公国全土が火の海になるだろうな……いつまでもここで隠れていられると思うなよ……ククク……」

 

「なんだと!?極東公国を攻撃すんのか!?世界国家が!?」

 

ティエラがそう聞くが、もう遅い。

 

S・サネノブはすでに絶命していた。

 

(じゃあ……世話んなったあの村も……!?)

 

あの村にいる人たちの顔が次々と頭の中に浮かんでくる。

 

なぜ無関係の彼らまでそんな目に合わなければならないのだ。

 

ティエラの心の中に怒りが沸き上がる。

 

この時、村長からの忠告など、ティエラの眼中になかった。

 

それよりも、村の人々を護りたい、そして、罪のない人々を平気で傷つけようとする世界国家が許せないという思いのほうが、はるかに強かったのだ。

 

今のティエラに、迷いなど微塵もない。

 

「そんなこと……させない……!絶対に……!!」

 

こうしてティエラは、世界国家の陰謀を止めるべく、大陸へ入ることを決意するのであった。

 

この決断が自身を、そして世界をも大きく変えるものになろうとは、この時のティエラには知る由もなかったのだった。

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