TERRE ~穢レタ世界ノ黙示録~   作:河本AKIRA

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第31話 「開展」

上海...それは旧中国地域に位置するアジア有数の大都市である。元世界国家東部地方首相、ソン・リマイ率いる中華民族政府の支配下にあるはずなのだが、世界的にも強大な富を持つ資本家たちが集うこの都市にはその支配が及ばない。資本家たちが、それぞれ強大な権力を有しているからだ。

 

統治に必要なもの、それは、『徴税』、『官僚』、そして『暴力』。

 

オリジンに対する恐怖により、混沌が渦巻くこの世界では、それらもままならない状況である。

ただでさえ一般の街も統治するのに一苦労なのに、莫大な富と暴力を抱える資本家たちが居座る上海を統治できるはずもなく、そこは資本家の『気まぐれによる支配』が確立されてしまっているというのが現状だ。

そこには法も道徳も通用しない。富を持たない人々はオリジンだけでなく、その『気まぐれ』にもおびえながら生きなければならないのだ。

 

中でも“名物”なのが、『人身オークション』。

 

そこでは、どこからか連れてこられた人々が、“人々”によって熾烈な競りを通し、買い取られていく。

 

今日という今日も、そんな道徳を完全に無視した“娯楽”がまた行われようとしていた。

 

上海中心部の大劇場にて、そこには数々の資本家が客席に集結していた。

資本家たちの談笑が劇場内に響き渡る。

 

そして...

 

「皆様!!大変長らくお待たせいたしました!!これより、オークション開催とさせていただきます!!」

 

ステージの中心でスポットライトを浴びた一人の仮面をかぶったタキシード姿の司会がそう宣言した。

待ってましたと言わんばかりに劇場内には拍手と歓声が巻き起こる。

 

「それでは、一人目の“商品”です!!」

 

すると次の瞬間、司会の隣にスポットライトが当てられた。

そこには、黒髪に黄色い瞳を持つ若い女性が手足を縛られた状態になっていた。

 

「おおっ!女だ!!」

 

資本家たちは欲望を丸出しにした歓声を上げる。

明らかに”商品“は恐怖におびえている様子だ。

 

その後、資本家たちによる白熱した競りが始まった。

商品当人の心の内も知らずに。

 

そして...

 

「おっと、決まったようです!!それでは、誰がその権利を獲得したのか、ここに映し出してみましょう!!」

 

直後、プロジェクターから『勝者』の姿が映される。

と、そのすぐ後のことだった。

 

「!?なんだ!?」

 

突然会場内は騒然となった。

それもそのはず、プロジェクターに映されているのは勝者の姿ではない。

 

「あれは...家紋か?」

 

「...カラス?」

 

そこには三本足のカラスの家紋が大々的に映し出されていたのだ。

 

「み、皆様!!落ち着─」

 

パァン!!

 

次の瞬間、司会が何者かに射殺された。

会場内に悲鳴が響き渡る。

 

その後、裏方から何者かが出てきた。

仲間らしき者たちもそれに追随する。

 

リーダーらしき者が射殺された司会のマイクを拾い上げる。

 

「我々は『ヤタガラス』。そしてオレは連。これより、オマエたちの命をもらい受ける」

 

「!?」

 

次の瞬間、連は脇からマシンガンを取り出すと、それを会場内で乱射した。

マシンガンから発せられた銃弾の一発一発は、全て一人一人の急所を確実に突いていった。

 

数分後、そこの生存者は『ヤタガラス』と“商品”のみとなっていた。

 

「拘束を解け」

 

連の命令に従い、仲間たちはステージ上の者だけでなく、裏方に用意されていた商品たちの拘束を解いた。

商品にされていた人々は涙ながらに連に感謝の言葉を述べる。

 

ただ、一人を除いては。

 

連は彼女に目を向ける。

 

「......オマエは、最初に商品に出されていたやつだな」

 

「...はい」

 

連は、唯一解放される喜びを出さない者と問答しながら彼女の顔をうかがう。

 

「...生きる気力がないのだな」

 

「...はい。その通りです。最愛の弟を失った今、私たち家族は変わってしまった...。あれから皆、抜け殻になったんです。弟は、家族をいつも笑顔にしてくれた...それなのに...」

 

「では...行き場は?」

 

「ないも同然です」

 

「......」

 

連は仲間たちの顔をうかがう。

仲間たちはうなずいた。

 

「ならば、オレたちの元へ来い」

 

「!?しかし...私は戦えません」

 

「見ればわかる。オマエは雑用だ」

 

「......」

 

「安心しろ。生活のあては与える」

 

「!!.........分かりました。これから、よろしくお願いします」

 

そう言うと、彼女は一礼した。

 

そのときだった。

 

「おい!抜け駆けするなんてずるいぞ!!」

 

もう一人の商品である少年がそう言った。

その他の商品たちもそれに便乗する。

 

こうして、『ヤタガラス』は、ついに海外にまで勢力を伸ばし始めたのだった。

 

 

 

 

一方その頃...レオはイドとともにユカによる戦闘訓練を受けていた。

 

2人とも戦闘者らしい動きになってきている。

ティエラはその様をただ、見ていた。

 

そして、

 

「よし!今日はここまでだ!」

 

T・ユカのそんな掛け声とともに、3人は座り込む。

 

「レオ、お前のその氷を自由自在に形状変化させて出せる能力。応用性が高いからまだ伸びしろがあるな。それに、お前の戦闘の実力はどのスタイルにおいても平均以上だ。そこで...」

 

T・ユカはレオに鉄の棒を渡した。

 

「コイツをお前にやる。なに、ただの鉄の棒だ。だがな、お前の能力次第で、それは剣にも槍にもなる」

 

「はあ...」

 

「ま、使い方は、自分で探すといいさ」

 

そう言うと、T・ユカは今度はイドに向き直った。

 

「そしてイド。お前も随分上達したな。2人ともそうだが飲み込みが早い。イドはその弓矢と特殊能力を合わせた技がある限り、遠距離ならほぼ最強と言ってもいいだろう。近距離においても、これまで体術を鍛えてきたから確かに上達してるはずだ」

 

イドは表情を変えない。

 

「それじゃ、明日に向けてしっかり休んでおくこと。いいな?」

 

T・ユカのそんな言葉に2人はうなずくと、テントに戻っていった。

 

「...少し、意外だ」

 

「何がだ?ティエラ」

 

「お前は人に教えられるような奴ではないと思っていたのだが...その心配は杞憂だったようだな」

 

「一体お前にとってのアタシはどう見えてんだ...」

 

「単細胞な戦闘狂」

 

「ふざけんな」

 

2人はそんな他愛もない会話をした。

T・ユカにとって、このような時間を久しぶりに過ごせたことは、この上ない幸せだった。

 

その時だった。

 

「ユカさん!!これを!!」

 

「?新聞か」

 

仲間の持ってきた新聞をT・ユカは開く。ティエラも横から覗き込んだ。

 

「なになに...?『ヤタガラス』が資本家を虐殺し、上海全土を占拠...!?」

 

「...いよいよ本格的に動き始めたようだな」

 

「民衆は『ヤタガラス』を歓迎しているようだな...。これは、厄介なことになってきたぞ...」

 

民間人を味方につけたということは、つまり、最低でも上海では『ヤタガラス』は正義となっているということだ。

先ほど述べたように、上海はアジア有数の大都市だ。人口もかなり多い。

彼らを味方につけたということは、実質、『解放軍』の全戦力にも引けを取らなくなったということ。

それに、殺害した資本家たちの富も『ヤタガラス』のものになったとすれば、兵器も最新鋭のものをそろえられるようになるだろう。

いよいよ彼らを侮れなくなってきたということだ。

 

「...どうする?」

 

「俺に聞くな。今のリーダーはお前だ」

 

「......アタシら『解放軍』は、あくまでオリジンを倒すために創られた組織だ。人同士で殺し合うための組織じゃない」

 

「そうだな。だが、このまま放っておくと、瞬く間に俺たちは『悪』になるぞ」

 

「...クソッ!次から次へと厄介な...!」

 

T・ユカは拳を木に打ち付け、下唇を噛みながら独り、葛藤するのだった。

ティエラはそんなT・ユカを横目に、ただ銃の手入れをし続けていた。

 

こうして、混沌と恐怖が渦巻くこの世界で、たった今、壮大な『ボードゲーム』が繰り広げられようとしていたのだった。

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