TERRE ~穢レタ世界ノ黙示録~   作:河本AKIRA

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第32話 「臨検」

両勢力が着々と全面戦争への準備を進める中、レオとイドは基地の中にあるテントで会話を交えていた。

 

「なあ、イド...だったっけ。お前もオリジン倒すために強くなってんのか?」

 

「いや、あわよくば倒す程度だ」

 

「えっ。じゃあ、なんのために?」

 

「復讐のためさ...。『ヤタガラス』を皆殺しにするためにな。どういうわけか、ヤツらも特殊能力を使用できている。つまりは、一筋縄ではいかないということだ」

 

「復讐、か...。で?それ終わったらどうすんの?」

 

「......終わった後か。考えたこともなかったな......」

 

そんな会話を終えると、2人は眠りについた。

 

2人のいるテント越しから2人の影が在る。ティエラとT・ユカだ。

こっそり二人の会話を聞いていたようだ。

 

「...良いのか?」

 

「...なにがだ」

 

ティエラはT・ユカに問いかける。

 

「イドの復讐を止めなくてもいいのかってことだ。復讐の先にあるのは血にまみれた虚無だけ......それはお前が一番分かっていることなんじゃないか?ユカ」

 

「...止めても無駄さ。それをアタシは誰よりも知っている。こういうのは、その身に自ら刻み込んでからでないと理解できないものなんだよ」

 

「...そうか。お前が言うなら、そうなのだろうな」

 

こうして、2人も眠りについた。

 

 

 

 

翌朝...

 

『解放軍』はひとまず、『ヤタガラス』の支配下にある上海にティエラとその他の兵士で構成される少数で潜入することにした。

当たりを見渡せば、紙から液晶まで『ヤタガラス』の広告ばかりである。

 

(ひとまず潜入はできたようだな...)

 

ティエラはフード付きに改造したセイレーンの制服をいつも通り羽織っている。

いつもと違う要素と言えば、フードを深くかぶっているところだろう。

仲間たちも、普段着だ。武器は隠し持っているが。

 

(まずは聞き込みからだな)

 

ティエラは近くを通った男性に話しかけてみることにした。

 

「おい」

 

「?なんだいアンタ」

 

「ここはどうだ?」

 

「どうって、最高だよ!ブルジョワどものやりたい放題の時代が終わったんだ!民族政府も信用ならないし、『ヤタガラス』に任せるようになった。期待はしてるよ。この平和は誰にも奪わせる気もない!」

 

「では...ここにどこかしらの侵攻を受ければ、どうする?」

 

「もちろん武器をとるさ!『ヤタガラス』が攻撃を受けたときも同じ。彼らは恩人だからね」

 

「...恩人、か」

 

ティエラは再び歩みを進める。

 

その様子をカメラが見つめていた。

 

 

 

 

管制室にて...

 

「間違いないぜ」

 

ヒロはカメラの映像を見ながらそう言った。

 

「さすがはヒロだな。俺は機械のこととなるとさっぱりだぜ!んで、どうするよ、連?」

 

ヤスはうずうずしている。

 

「......数は?」

 

「たいして多くない」

 

ヒロの返答を受け、少し連は考え込むようなしぐさをした。

そして...

 

「...少し叩いてみるか」

 

連は管制室を出ようとする。

すると、

 

「連。私も行きます」

 

背後からレイがそう言った。

 

「...少数と言っても勝てる保証はないぞ?」

 

「いざとなれば...“アレ”を─」

 

「ダメだ。絶対にな。“ソレ”を使えば、オマエが“いなくなる”可能性が高い」

 

「貴方のためなら、身を捧げられます」

 

レイの目に迷いはない。

 

「...お願いだから、やめてくれ...」

 

「?何か言いましたか?」

 

「...なんでもない。行くぞ」

 

こうして2人は街に降りた。

 

ティエラたちは街を回り続ける。

そして、一行は人気(ひとけ)のない場所にたどり着いた。前方には高い壁がある。ここから先は行き止まりのようだ。

 

と、そのときだった。

 

(!!あれは...)

 

壁の上から2人の人影が見える。

 

「ようこそ、上海へ」

 

「......連か」

 

ティエラは小銃を手にかけ、銃口を相手に向ける。

 

「覚えていてくれたとは、光栄だな」

 

連も二丁拳銃を構える。

 

一触即発の状況...

 

「...死ね」

 

数秒後、ティエラの小銃が火を吹いた。

 

連は銃弾をかわすと、壁を飛び降りた。

レイもそれに続く。

 

2人ともかなり高いところから飛び降りたはずだが、何ともなさそうに着地した。

 

(連はまだわかるとして、あの巫女は何者だ...?)

 

ティエラも戸惑っている。

 

連が二丁拳銃からそれぞれ一発発射した。

 

「ぐあっ!」

 

「がっ!」

 

ティエラの背後の兵士が2人倒れた。

 

(!?2人一気に、それも一発ずつだと...!?こいつ...まさか...!)

 

「次はお前だ」

 

「!!」

 

連は一発発射する。

 

ティエラは少し距離をとりながら小銃から一発発射した。

 

キィンッ!!という激しい音とともに、ティエラの目の前で火花が発生した。

 

(やはりな...)

 

ティエラは“気づいた”。

彼の卓越した命中率...それもそのはず、それこそが、特殊能力だからだ。

それは、認識した相手の急所に必ず飛び道具が命中する『必中』。

 

(だが、それは逆に考えれば、急所...つまり頭部にしか飛んでこない。ならば、相手が発射し、少し距離・時間をおいてから自分の頭部の前に弾を打ち込めばいいだけのこと...!)

 

「...気づかれたか。思ったより早かったな」

 

「なめるなよ。戦闘経験はお前よりも数段上だ」

 

一方その頃...

 

数人が連から自身へと標的を変えたのに気付いたレイは、何かを念じ始めた。

 

『考えるな、感じろ』 『現代功夫の祖』 『若くしてこの世を去った一大スター』...

 

「『サマン』!!...ブルース・リー!」

 

次の瞬間、レイは一瞬光に包まれると、敵に向き直る。

 

「来るぞ!」

 

独りの兵士のその掛声で、皆がレイに銃口を向けようとしたその時、レイは情人とは思えない素早い身のこなしでこちらに近づいてきた。

 

「ダメだ!動きが早すぎて狙いが定められない!」

 

それもそのはず、『解放軍』の兵士のほとんどが、世界各地からの寄せ集めだからだ。

素人がたくさんいても、何らおかしくない。

 

「たあっ!!」

 

ジャンプしたレイは、空中でスピンしながら何人かを蹴っ飛ばした。

 

「こいつ...一体...?」

 

「クソッ!いったん引くぞ!」

 

兵士たちは一度距離をとる。ティエラもその様子を見て、2人から距離をとった。

 

「さて...もう十分遊んだろう。今日はここまでとしよう」

 

連はそう言うと、撤収し始めた。

 

「させるか...!」

 

ティエラは銃口を2人にむける。

 

すると、

 

「させねぇ、よっ!!!」

 

真上からヤスが襲い掛かってきた。

 

「クソッ...!」

 

ティエラは狙いを乱してしまった。

 

「しんがりは俺に任せな!!連!!」

 

「...助かる」

 

連とレイはティエラたちから離れていった。

 

一定の距離離れたとき、

 

「レイ、大丈夫だったか?」

 

「ええ。何も問題はありません」

 

「そうか。だが、だからと言って、“アレ”を降ろそうなんてことは考えるな」

 

「分かっています...。もう何度も言われてきたので」

 

「ならいい」

 

そんな会話を交えながら、2人は完全に撤退した。

レイの能力...それは『降霊術(サマン)』。そして、これは特殊能力ではない。

神社に勤める一族の宿命というべきか、神職の一族には定期的に『イタコ』が誕生することがあるのだ。

レイもその一人であり、ある程度の情報を得た者の魂を黄泉から降ろすことで、その魂の主が生前持っていた技術を使用できるようになる。ただし、一度に降ろせる魂は1人分のみ。

 

ヤスはまだまだやる気満々だ。

 

「さあて!どいつから死ぬんだあ!?」

 

(おそらく、コイツには銃弾が効かない...どうしたものか...)

 

そのときだった。

 

「動くな」

 

「!?」

 

兵士たちが道を開ける。

 

その先にいたのは、イドだった。弓を引いている。

 

「イド...!?こっそりついてきていやがったのか...」

 

「...ああ。じっとしていられるはずもなかった」

 

「...だろうな」

 

「まーたてめえか...。お前、むかつくんだよなあ...その目見てっとよお...」

 

「言ってろ。お前を殺すのはこの俺だ。覚えておけ」

 

「へえ...言うじゃねえか。いいぜ。じゃあこうしよう。明日の午後6時。近くにある鉱山跡で殺りあう。どうよ?」

 

「イド─」

 

「いいだろう」

 

「ッ...!」

 

ティエラは頭を抱えてしまった。

どんな罠があるか分かったものじゃない。

 

「そーゆーわけだ!!おいてめえら!!俺たち2人の勝負だ。邪魔すんじゃねえぜ!」

 

こうして、両勢力は一旦撤退とした。

 

「...イド、受けるのか?」

 

「...ああ。罠でもいい。これは絶好のチャンスだ」

 

「............」

 

 

 

 

その後の夜、基地にて...

 

「ユカ、お前はどう思う?」

 

「まあ、罠は仕掛けてくるだろうよ」

 

「やはりそう思うか...。対策を講じなければな」

 

「だな。とりあえず、明日は鉱山跡近くに包囲を張る。ばれないように、な」

 

「...そうしよう」

 

こうして、明日の『決闘』のプランはある程度整った。

明日、ついに『解放軍』と『ヤタガラス』の初の主力同士による本格的な正面衝突が起ころうとしているのだった。

 

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