TERRE ~穢レタ世界ノ黙示録~   作:河本AKIRA

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第39話 「負託」

エレノイアに入ってから数日が経過した。

 

『ヤタガラス』の皆はこれからの方針について話し合っていた。

 

「このまま西へ逃げ続けても...追いつかれるのは時間の問題ね」

 

サラがそう言うと、皆もそれに苦い表情をしながら共感した。

 

「それによ.........西つったって限界があるぜ。それともアフリカに行くか?...でも、それも限界があるよな...大陸には果てがあるんだからよ」

 

ヒロはサラの意見に、自身の意見も付け加えた。

 

「......そうこうしているうちに、ヤツらのお出ましだぜ。ついにエレノイアに入りやがった」

 

ジュンが敵の動向を伝える。

 

「俺たち、気狐に修行付けてもらってまだ数日しかたってねえぞ...?この程度じゃ、まだ付け焼刃だぜ...」

 

タカはそんな弱音を吐いた。

 

次の瞬間、

 

「!!来るっ!!」

 

サラがそう叫んだ数秒後、大量のロケット弾がそこら中に着弾し始めた。

 

『親衛隊』も『ヤタガラス』を守るため、情け程度ではあるが、ロケットランチャーによる報復を加える。

 

無論、素人の攻撃など、ロクに当たりもしない。

 

やはり、数の暴力の前では『ヤタガラス』も敵わない。

 

圧倒的物量を誇る『解放軍』の攻撃はその後も続き、終わったころには地形が少し変わっていた。

 

「だ......れか...!」

 

「!!」

 

連が声のするほうを向くと、退避に失敗した『親衛隊』の者たちが重傷を負い、うめき声をあげていた。

 

即死している者もいれば、身体に欠損がありながらも死ねずに苦しんでいる者もいる。

 

その様子はまさに地獄絵図だった。

 

連はすぐさま彼らのもとへ駆け込む。

 

「...頼む...!」

 

連は手から青いオーラを発し、けが人に触れる。

すると、触れられた部分の傷がみるみる癒え始めた。

 

そして...

 

「連さん...ありがとう...助かった」

 

「礼など要らん」

 

一人、また一人と連はけが人を治癒していく。

気狐もそれに続いた。

 

これは陰陽道のうちの『陽』の力である。

 

以前述べたように、連は『八咫烏“陰陽道”』の当主。

つまり、『八咫烏陰陽道』は陰陽師の家系なのだ。

 

陰陽道には、破壊の力である『陰』と創造の力である『陽』が存在する。

この数日の間、連は気狐に陰陽道を教わっていたのだ。

 

「...さて、次は─」

 

「...待ってくれ」

 

「!?」

 

突然物凄い力で何者かが連の袖をつかんだ。

 

「!!」

 

それは負傷兵であった。

片腕が、ない。

 

腕を再生させることは不可能。

彼にしてやれることとすれば...

 

「...傷は、癒えたはずだ」

 

「...ああ、さっきよりもずっと楽になれた気がするよ...。本当に...ありがとう...」

 

「......!」

 

その後、彼は安らかな表情のまま、息を引き取った。

 

「連!!」

 

サラの自信を呼ぶ声を聞いた連は、気狐に残りの負傷兵の治癒を任せると、皆のもとへと向かった。

 

「どうした」

 

「...!まずい...!ほら!あれ!!」

 

サラが指さした先には、爆煙越しに見える大量の人影があった。

 

「もうここまできたか...」

 

「どうするんだよ連!!」

 

タカは連をせかす。

 

連は辺りを見渡した。

 

エレノイアには廃墟となったビル群が存在している。

 

そして...

 

「あそこだ」

 

連は大きな商業施設を指さした。

皆はすぐにその中へと駆け込む。

 

「な、なあ...入ったはいいんだけどよ...。この後どうすんだ?」

 

「落ち着け、タカ。商業施設には地下街があるはずだ。そこで一旦作戦を練る」

 

タカはうなずいた。

その後、皆は地下へのエスカレーターを見つけた。

 

「早く下ろう!爆発音が近づいてきてるよ!」

 

サラがそういいながら今はもう動いていないエスカレーターを駆け足で下っていく。

 

皆もそれに続くが...

 

「おい...なにをしている、タカ。早くいくぞ」

突然タカが立ち止まったのだ。

 

「こんままじゃ、追いつかれる...皆、やられちまう」

 

「いきなり何を...」

 

「爆発音がどんどん近づいてきてるのはお前にだってわかんだろ?このペースだと、どう考えても追いつかれるんだよ」

 

「だからって...」

 

「連、お前は俺たちを...人類を“真の平和”へ導いてくれるんだろ?だったらその邪魔は俺たちがさせねえ。なんたって、俺たちは、お前の手であり足でもあるんだからな!」

 

『オマエたちは俺の手となり足となりて...オレに従い、尽くせ』

 

連は“あの時”の言葉を思い出した。

 

「......帰って来てね。絶対」

 

「おうよ。...あと、“素”、出てんぜ」

 

「......健闘を祈る」

 

「おう」

 

連はエスカレーターを下っていった。

 

タカはその前に立ちはだかる。

 

ドォン!!

 

入り口が爆破される音が響き渡る。

 

「さて、と...。行くとしますか、タカさんよ」

 

タカは少しばかりの準備運動をし、覚悟を決めた。

 

「!!」

 

他の兵士たちが必死に探している中、レオは“見つけた”。

 

「...アンタは!」

 

「あーあ、バレちまった。そうさ。俺は『ヤタガラス』の一人、タカ。希望を切り開くため、ここに立つ者だ」

 

「...その先に、他の奴らもいるのか?」

 

レオはエスカレーターのほうを指さしてそう言った。

 

「さあ、どうだろうな...。それは行ってからのお楽しみってもんだぜ」

 

「なら、無理矢理にでも吐かせる!!」

 

レオは背にかけてある鉄棒を持ち、タカにその先を向けた。

 

タカは深呼吸をすると、ナイフを取り出し、構えた。

 

まず攻撃に出たのは、レオだった。

レオは自身の能力で鉄棒に氷の刃を宿らせる。

 

タカまで近づき、それを振りかぶった瞬間だった。

 

「ッ!!」

 

タカの脳内に一瞬だけ、“映像”が流れ込んだ。

 

それは、自身がこれからどのように斬られるか、というもの。

 

「!!」

 

次の瞬間、レオの斬撃を察知したタカはそれをすべて回避した。

 

「なっ!?」

 

レオの視点では、その一部始終は、斬撃をタカに加えようとした瞬間、タカが信じられない速度でそれを回避したというものだった。

 

次の瞬間、タカは一瞬だけ自身に“力”を宿らせ、レオの至近距離へと1秒も満たずに近づくと、ナイフをレオの腹部へ向けて突撃させる。

 

しかし、ティエラとT・ユカに鍛えられたレオは、それを軽快な身のこなしでその一撃をかわし、次の攻撃を止めるため、レオはタカを蹴っ飛ばした。

タカはその蹴りも腕をクロスさせながらガードしながら吹っ飛んだ。

 

「!!...やっぱり、そうはいかねえか」

 

「...なんとなくわかる。アンタ、そのやり方で何度も人を殺してきたな?」

 

「大当たり。これが一番手っ取り早いからな」

 

「...一瞬だけ超加速する能力か」

 

タカの能力、それは『神速』。

 

その名の通り、彼のそれは、“速さ”を超えたものである。

 

彼には2秒先の目の前の未来が見える。

ただし、それは、彼の中にある本能が何らかの危機を感じたときのみ発動するという条件付きである。

それが発動したとき、無論使用者は危機を回避するが、それは、第三者から見れば、物凄い速さで攻撃を回避しているように見えるのだ。

 

また、彼は自身の意思で、2秒だけ『神速』を発動することも可能である。

しかし、この状態で動けば、危機回避の時とは異なり、通常の動きの数倍の体力を消費する。

 

タカの今までの戦術は、レオの言う通り、まず、相手にあえて近づくことで、相手の攻撃を誘い、それを危機回避でかわし、『神速』で一気に距離を詰め、ナイフでめった刺しにするというもの。

 

完全に初見殺しである。

 

だが、この攻撃を初見で回避したレオは少しだけでも有利な状況となった。

 

レオは相手に向かっていく。

その後、レオは鉄棒を振り回しながら攻撃を加える。

 

タカはさっきと同じように攻撃をかわし、ナイフで神速の攻撃を仕掛けようとするが...

 

「!!」

 

レオはタカが自身の攻撃をかわした直後、鉄棒に力を入れた。

そして、

 

「!?」

 

タカがナイフでレオを刺そうとした瞬間、レオの正面が氷の壁で覆われた。

 

「これは...『盾』!?」

 

ナイフは氷の盾に飲み込まれてしまった。

 

「へえ...じゃあ、これはっ...どうだっ!」

 

レオは距離をとりながら数本のナイフを飛ばす。

 

無論、それらは氷の盾で防がれたが...

 

「!?しまっ─」

 

突然自身の横に現れたタカに反応できず、レオは蹴っ飛ばされてしまった。

 

蹴っ飛ばされる寸前、目の前にある“ソレ”をレオは視認した。

 

「あれは...残像...!?」

 

そう、『神速』は“速さ”を超えたもの。

残像を出すなど、容易い。

 

氷の盾越しなので、視界があまりよくないレオの裏を突いた一撃だった。

 

「あれだけで終わる俺...とは思われたくねえからな」

 

タカはにやりと笑いながらそう言った。

 

レオは一旦距離をとり、作戦の練り直しに取り掛かる。

 

レオは辺りを見渡した。

 

「油断すんじゃねえ!!」

 

タカはその隙を伺い、接近し、『神速』を発動しようとした。

 

「それはっ...!」

 

直後、レオはタカに向き直ると、鉄棒を氷の銛へと作り変え、タカに投げ飛ばした。

 

「こっちの台詞だ!!」

 

「!!」

 

タカは、それを危機回避でかわす。

 

「もらった!!」

 

タカは、そのままレオの鉄棒をキャッチする。相手の攻撃手段である鉄棒を回収した。あとは相手を倒すだけ...と思い、レオ一人に狙いを定めた次の瞬間だった。

 

ドウン!!

 

そんな音とともに一閃の“矢”が、タカの身体を貫いた。

 

「えっ...?」

 

タカは何が起こったのか分からないまま、鉄棒を落とし、吐血した。

自身の身体を触ると、一部分だけ、“ないところ”があった。

 

レオは、2階のタカからは見えない、背後の位置にいるイドに命中のサインをお送った。

 

「は...はは...。こりゃあ、やべえや...」

 

そう言うと、タカはふらつきながらも、エスカレーターを下ろうとし始めた。

 

「させるか...!」

 

イドは矢を放つ。

矢は、タカの足に命中した。

 

そのままタカはエスカレーターを転げ落ちた。

 

「......」

 

転げ落ちながらも、なんとか地下街に到達したタカは、生温かい感触とともに、意識を手放そうとした。

 

しかし...

 

「...これは...!」

 

タカの目の前には、商品の列。

それらは、何等かを指し示しているかのように、一列に並んでいた。

 

「...!」

 

タカは、その“意味”を理解し、そして、涙した。

 

彼らは、信じて待ってくれている。

 

「う...!おおおおおっ...!」

 

最後の力を振り絞り、タカは『神速』を発動する。

 

そして、大地を蹴ると、物凄い速さでその方向へと走った。

 

一方その頃、『解放軍』も地下街へと向かい始めていた。

しかし、その頃には、もうタカの姿はなかった。

 

「...逃がした」

 

レオは一言、そう呟いた。

 

 

 

 

「タカ...大丈夫かしら」

 

サラはタカの安否が気になってソワソワしている様子だ。

 

と、その数秒後、物凄い速さでこちらに何者かが向かってきているのをサラは千里眼で視認した。

 

「......タカ!!」

 

サラはその者の名を叫ぶ。

 

皆もその名に反応し目を見開いた。

 

そして...

 

ついに、皆の元へと到達したタカ。

しかし、彼は血まみれであり、意識も朦朧としていた。

それに...

 

「タカ...アンタまさか...連続で...!」

 

息も、乱れに乱れている。

そう、タカはほぼ瀕死の重傷を負いながらも、連続で『神速』を使ったのだ。

 

タカは、ゆっくり進んでいく。

 

声をかけようとする仲間も素通りし、連の元へたどり着いた。

 

「...タカ...!」

 

すると、次の瞬間、タカは連の両手をつかみ、自身の頭を押し付けた。

 

連の能力は特殊能力の奪取と譲渡。

 

使用する際には、相手の頭部に両手で触れる必要がある。

 

そして数十秒後...

 

「...連、行け...お前...は、皆の、き...ぼ...」

 

「!!」

 

ついに息を引き取った。

 

連はいっとき、自身の手についた、タカの血と向かい合った。

そして、タカが、最期に自身の能力を連に託したことに気づいた。

 

その後、何度も彼の傷口に『陽』の力を付与する。

しかし、彼が目覚めることは、なかった。

 

こうして、連は彼の死を認めざるを得なくなってしまった。

 

彼は、責務を全うしたのだ。

 

そんな彼の意思を無駄にするわけにはいかない。

連は、再び、ひたすらに、進み始めた。

 

 

 

 

『解放軍』が地下街にたどり着いたとき、そこにはバラバラに散乱した商品があった。

 

「これは...略奪の跡か...?」

 

ティエラは商品を手に取りながら、何の意図でこのようなことをしたのか、理解できずにいた。

 

「そんなものはどうでもいい。この先にいるのだろう...ヤツらが」

 

イドは怒りのこもった声で進むよう、ティエラに促した。

 

「...そうだな、こうしている暇はない。先を急ぐぞ」

 

そう言うと、ティエラは小銃を再び構え、進み始めた。

皆もそれに続く。

 

イドはタカを撃破した後のレオとの会話を思い出す。

 

『レオ、ヤツは、連のことを何と言っていた?』

 

『“希望”って言ってたな』

 

 

 

許せなかった。

 

自身の家族を皆殺しにした大量殺戮者が“希望”?冗談じゃない。

 

「希望だと...ふざけるな...!何が希望だ...!そんな希望...俺が全部ぶっ壊してやる...!!」

 

こうして、イドは強い殺意と怒りをその心で燃やしながら、早足で地下街を進み続けるのだった。

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