TERRE ~穢レタ世界ノ黙示録~   作:河本AKIRA

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第65話 「勇者」

「話...?」

 

画面越しに連はうなずいた。

 

「だ、大体どうやって俺のスマホに現れたんだ?」

 

「それはもちろん特殊能力さ。この際『電脳存在(DIVE)』とでも名付けようか。この能力はその名の通り、電脳世界で色々できるというものなんだ」

 

「なるほど......じゃあ、『人類軍』と戦ってない時以外レーダーにも人工衛星にも映らないのはそういうことか」

 

「その通り。ただ、これもいつまで続くか分からない。いつキャッチされてもおかしくはない状況なんだ」

 

「その姿になっても、まだ弱点はあるんだな」

 

「そりゃ、一応人間的な存在ではあるからね。『神の成り損ない』ともいうけど」

 

イドは連の話にあまりついて来れていない様子だった。

 

「それにしても...」

 

連が話を切り出す。

 

「君が話に乗ってくれるとは思わなかった。正直、現れた瞬間液晶をたたき割られる覚悟もしたよ」

 

「......たしかに、貴方はたくさん『ひどいこと』をしてきた。でも、その引き金は他の誰でもない......俺たちだ」

 

「.........でも、君はそんなことしていない」

 

「きっと盲目になっていたんだ。これまでの俺のように」

 

「......いや、君はそこまで盲目ではなかったと思う。現に、君が民間人を殺したという情報は聞いていない」

 

「......俺は貴方たちのことを何も知らずにたくさん殺した。それだけで十分だ。盲目であった証拠は」

 

「......君は優しいんだね」

 

「貴方にだけは言われたくない」

 

連は不思議そうな顔をした。

 

それに対し、イドは「全くこの人は...」と言いながらため息をついた。

 

「貴方の『夢』とやらは確かに果たされた。だけど、それで貴方は良いのか?」

 

「何が言いたい?」

 

「......本当に、貴方はそれで良いのか?」

 

「...俺は心底満足しているさ。今の世界に。これまで争い憎み合ってきた人類がやっと手を取り合えるようになったんだ。これが俺の望む世界...『夢』そのもの.........それ以上に望むものはない。俺はそれがこうして見て、感じられているだけで十分だ」

 

「それじゃあ!!」

 

突然イドは声を荒げる。

 

連はすこし驚くようなそぶりを見せた。

 

「それじゃあ...!」

 

イドの声は震えている。

 

「それじゃあ、いつまでたっても...!貴方は............救われないじゃないかッ...!」

 

「............」

 

「なんで......なんで貴方はそうやって自分だけ苦しもうとするんだ!」

 

「.........」

 

「ずるいぞ、そんなの!皆が一緒に手を取り合う幸せな世界なら、貴方もいなきゃダメだろ!!なんで自分からそうやって幸せから逃げようとするんだ!!」

 

「俺は......許されないことをした」

 

「そんなこととっくに分かっている!」

 

「...分かってる。そんなのはただの言い訳に過ぎない」

 

「...」

 

「もう..“幸せ”が浮かんでこないんだ」

 

連はうつむいた。

 

「俺は確かに『夢』を叶えるためにこれまで進んできた。だが、それは俺が進み続けた要因の一つに過ぎない」

 

「じゃあ...」

 

「俺は『夢』を叶えるために『ヤタガラス』を作った。だが、それ以上に俺にとって『ヤタガラス』は......皆に居場所を......心の憩いをもたらす存在にしたかったんだ」

 

「......」

 

「どんなに歪んでいっても、俺たちは皆あの頃とは変わらない......かけがえのない『ともだち』なんだ。だから、俺はあの時...復讐を果たした時、抜け殻になりかけていた皆に生きる希望をもたらすために俺の『夢』という目的のもとに進み続ける『ヤタガラス』という居場所を作った。............っていうのも、ただの綺麗事に過ぎない」

 

「?」

 

「あの時...俺は怖かったんだ。皆が離れ離れになるのが...消えてしまうのが......大切な人を、失うのが」

 

「......だから、居場所を作ってそれを防いだのか?」

 

連はうなずいた。

 

「だから俺は、勢い任せに『宣言』をし、『ヤタガラス』を作った。今思えば『ヤタガラス』という組織自体、俺の我が儘そのものでしかなかった。ただ...皆と一緒にいたかった...それだけだったんだ」

 

「じゃあ、もう『ヤタガラス』は......」

 

「“あの日”の時点で、死んだも同然だ」

 

「............」

 

「ここにいるのは、“『ヤタガラス』の連”ではなく、“ただの『魔王』”だ」

 

「.........」

 

「だが、死ぬつもりなど毛頭ない」

 

「!!」

 

「俺はこの命尽きるまで存在し続ける。皆が託してくれたこの命...それは紛れもない、俺の『夢』を叶えさせるため、そして、俺に生きる理由を与えるためのもの.........ならば、俺のやるべきことは、『魔王』として『叶えた夢』を守るため、『人類の敵』として君臨し続けるのみ......」

 

連の目つきはだんだんと『魔王』そのものへと変化していく。

 

「俺にとって、お前は特別な存在だ......全ての『垣根』を越え、俺の前にただ、真っ直ぐに立ち続ける存在......」

 

「.........」

 

「そんなお前に、一つ称号を与えよう」

 

「...?」

 

「俺が『魔王』ならば、お前は...『勇者』だ」

 

「...!?」

 

「『勇者』よ、お前のその真っ直ぐな意思と、心から信じられる仲間を以って、再び俺の前に“立つ”が良い......」

 

そう告げると、連の姿はイドのスマホの液晶画面からプツリと消えた。

 

「『勇者』......」

 

イドはそう呟くと、再びテントへと戻っていくのだった。

 

一方その頃...そのテントの裏には1人の人影があった。

 

彼のスマホの画面には連絡アプリの画面。

 

そこにあったのは『人類軍』からの救援要請、そして、通信兵からの『傍受』の確認。

 

「やはりアイツと連はつながっていたか。なかなか使える奴になったな」

 

そう言いながら司令室へ連絡をよこし、不敵な笑みを浮かべた男の正体...それは、ティエラだった......。

 

 

 

 

一方その頃...『研究室』にて

 

そこでは、いつものようにハンナが対オリジンのための研究に打ち込んでいた。

 

頬杖をつき、今日は眠ろうかとうたた寝を始めたその時だった。

 

ハンナはある場所を目にし、カッと目を見開いた。

 

それは、ある培養カプセル。

 

ハンナはさっきまでのうたた寝が嘘かのように勢いよく椅子から立ち上がると、その培養カプセルに一直線に走り込み、そして食らいついた。

 

「なに...これ...!?」

 

その中には、『何か』があった。

 

ハンナは夜通し“ソレ”をコンピューターで瞬く間に様々な遺伝子や物質と照合させ、衝撃の事実へ到達する。

 

そしてハンナは信じられない事象を前に、一言、漏らした。

 

「これも...『星の意思』だと言うの...!?」

 

 

 

 

翌日、イドが起きると『解放軍』の面々はほとんど姿を消していた。

 

「......これは、一体......?」

 

イドは基地中を駆け回り、テントの垂れ幕をはがすが、そのどれもが閑散としていた。

 

が、

 

「!!」

 

ある一つのテントの垂れ幕をはがすと、未だ眠りから覚めないレオの姿があった。

 

「おい!レオ!」

 

「......?なんだよ...イド...」

 

「いいから起きろ!!」

 

「...?」

 

レオは目をこすりながら起き上がる。

 

「あれ、皆は?」

 

「いないんだ!」

 

「......へッ?」

 

イドの返答に対し、レオは素っ頓狂な声を上げた。

 

レオは勢いよく起き上がると、イドとともに基地中を駆け回り、その末、2人は唯一の建造物である司令室へと足を運んでいた。

 

そこに聞こえるのは、2人の息を切らす音のみ。

 

「どうなってんだ...?」

 

「...進むぞ」

 

数十分ほど進んだとき、物音が聴こえる場所があった。

 

『通信室』だ。

 

2人は扉を開ける。

 

「ん?2人ともどうしたんだ?そんなに息を切らして」

 

通信兵の者は何食わぬ顔で2人にそう言った。

 

「皆はどこに行ったんだ...!?」

 

「連の根城だけど」

 

レオはそこで納得した。

 

あくまで自分たちはオリジンを倒すための『戦力』。

 

連との戦いで死なれては元も子もないという意向だろうと考えたからだ。

 

しかし、イドは違った。

 

「なんで...なんで、連の根城が分かったんだ...?」

 

イドは震える声で通信兵に詰め寄る。

 

「ティエラさんから傍受しろって要請があったんでね。無理だろと思いながらもやってみたらあら驚き!なんとビンゴだったんだ!」

 

通信兵は嬉しそうにそう語った。

 

「イド...?」

 

レオは心配そうな表情でイドを覗き込む。

 

イドは動悸がして止まらなかった。

 

あの時、ティエラはそこにいたのだ。

 

あの時、ティエラに全て聞かれていたのだ。

 

「俺のせいだ...俺の...」

 

イドはそんな言葉を絞り出すと、フラフラとその場から離れていった。

 

その時、イドの中にあったのは、連に対する罪悪感、そして......底知れない、ティエラに対する恐怖感だった......。

 

 

 

 

『ガレキの城』にて、連は多くの『存在』が接近するのを既に察知していた。

 

メイとフェイは街に買い出しに出かけているが、今日限り、戻ってこないよう連絡した。

 

連は玉座から立ち上がり、『敵』の来訪をただ、虎視眈々と待ち続けるのだった......。

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