TERRE ~穢レタ世界ノ黙示録~   作:河本AKIRA

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第66話 「撥無」

『解放軍』と『人類軍』は『ガレキの城』へと進軍していく。

 

その中、ティエラとT・ユカが先陣を切り、ついに2人は城内へと突入した。

 

と、その時だった。

 

突然城を取り囲むかのように大きな岩の壁がそびえ立った。

 

2人以外の『解放軍』及び『人類軍』は戸惑いながらも、その壁を破壊せんと攻撃を開始した。

 

 

 

 

「何が起こったんだ...?」

 

「おそらく...ユピテルの能力だ。だが、たとえアイツでもこの速さでこんな大規模な『城壁』を形成することは不可能なはず...」

 

戸惑うT・ユカに対し、ティエラは冷静な分析をする。

 

しかし、戸惑っているのは、ティエラも同じであった。

 

(アイツは一体何をするつもりなんだ...?)

 

城の中心部に来た時、2人はついに玉座に座る連の姿を目にした。

 

中心部にはミモザの花畑が形成されていた。

 

「アタシの植生形成(チカラ)か...」

 

T・ユカはそう呟いた。

 

連は玉座から立つ。

 

そして、2人を改めて見つめ、数秒後、こう言い放った。

 

「違う」

 

2人は何のことかと困惑する。

 

「何が言いたい?」

 

「お前たちじゃない」

 

ティエラの質問に対し、連はそう返した。

 

そして、今度はこう言い放った。

 

「お前たちは、『勇者』ではないッ...!」

 

すると、目にも留まらぬスピードで連は2人に襲い掛かってきた。

 

ミモザの花びらが舞う。

 

「来るぞ!」

 

「分かってる!」

 

ティエラの言葉に反応したT・ユカは空間移動で連の背後に回り、蹴りを繰り出した。

 

しかし、連はそんなT・ユカの動きを察知し、片手でその蹴りを防ぎ、ソウル・ブラスターを起動し、斬撃を加えて来たティエラに対しては幻日と物質錬成を組み合わせて作った棒で対応した。

 

そして次の瞬間、ティエラは突然身体が一気に上へと押し上げられ、天井に叩きつけられた。

 

「ガハッ...!」

 

あまりの威力で叩きつけられたので、ティエラは一瞬せき込みながら今度は大地に叩きつけられた。

 

そして、蹴りを防がれた状態であったT・ユカはそのまま連に風穴形成を繰り出そうとした。

 

が、拳が連の身体に接触しようとした直前、連は突然身体をひねらせ、T・ユカのバランスを崩すと、そのままティエラのこめかみにかかとをめり込ませ、T・ユカを蹴っ飛ばした。

 

空間移動を有するT・ユカを相手とするには、彼女をどれだけ油断させるかにかかっている。

 

連はそれを瞬時で判断し、行動に移したのだ。

 

蹴っ飛ばされたT・ユカはそのまま立ち上がろうとするティエラに激突し、そのまま2人で壁に叩きつけられた。

 

2人は互いに身体を支え合い、起き上がると、瞬時に攻撃に出た。

 

ティエラが斬撃を繰り出し、連がかわした時に生じる隙を狙ってT・ユカが空間移動で連の死角を狙った攻撃を繰り出す。

 

『ガレキの城』の中では、外からの攻撃による地鳴りと2人の息遣いだけが響き渡っていた。

 

連はというと、全く息を崩さず、淡々と2人の攻撃をあしらうだけ。

 

息を整えたティエラはその後、“構えた”。

 

連は突っ立っている。

 

全く身構えるそぶりも見せない。

 

「なめやがって...!」

 

ティエラは大地を蹴り、姿を消した。

 

連はティエラの攻撃を軽々かわす。

 

それでもティエラはめげずに、壁に足をつけると、再び姿を消した。

 

本来なら城内(ここ)はティエラの”舞台装置(フィールド)“なのだ。

 

そう、『本来なら』。

 

ティエラは何度も『阿修羅天斬』を連に仕掛けるが悉くかわされていく。

 

ちなみに、連はまだ危機回避を使っていない。

 

と、いうよりも、『使えなくなった』というほうが正しいのかもしれない。

 

それもそのはず、今の連にとって、本能的に生命の危機を感じることなど存在しない。

 

すべて連にとっては子供だましに過ぎないのだ。

 

連は何度も壁気に突き、攻撃を繰り出すティエラの姿を目で追い続けながら幾度と回避し続ける。

 

(クソッ...!バケモノが......!全部見えてやがるのか...!)

 

そして、数十秒後のことだった。

 

T・ユカが突然空間移動で姿を消した。

 

連はそれを察知すると、身構えた。

 

まず、再び襲い掛かって来たティエラを側面から蹴っ飛ばし、T・ユカの殴打をかわし、反撃に出る...はずだった。

 

「今だ!!ユカ!!」

 

「!?」

 

T・ユカは殴打をすると見せかけて連に片腕を拘束された瞬間、足を蹴り上げ、かかとを振り下ろした。

 

それは連の肩に強烈な衝撃を与え、一瞬連はひるんだ。

 

それは連を覆う“ヴェール”をもってしても防ぎきれるものではなかったのだ。

 

T・ユカはニヤリと笑った。

 

「受けたな...?連。確かに今、その“蹴り”を受けたな?」

 

T・ユカがそう言った瞬間、連の身体の内部に異様な『入ってくる感覚』がもたらされた。

 

「...!?」

 

連はその感覚の正体が理解できない。

 

よく見るとT・ユカのかかとのほんの一部が紫色に染まっているのが見えた。

 

「これでいいのか?ティエラ」

 

「ああ、撤退するぞ。これで俺たちの“勝ち”だ」

 

「......どういうことだ」

 

連は戸惑いを隠せない。

 

「一つお前に忠告しておこう。連、これからお前には、人類だけではない......『この世全ての事象』が牙をむくことになるだろう。それが、『存在してはいけない者(イレギュラー)』として、再びこの世に降りたお前の『代償』だ」

 

ティエラは不敵な笑みを浮かべながらそう言った。

 

その後、2人は空間移動でその場から撤退してしまった。

 

外ではいまだに『人類軍』と『解放軍』による城壁への攻撃が続いている。

 

連はアース・ショックで城壁を“大地の津波”に変化させることで前線の部隊を一掃した。

 

すると、彼らも撤退を始めた。

 

今回はすぐに諦めたようだ。

 

連は今回の敵の行動、そして自身に起きた違和感に戸惑いながらも、再び勝利を収めることができた。

 

こうして『第四次包囲戦』は、“一部を除いては”両者煮え切らない形で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

『解放軍』が皆拠点に到着した。

 

レオはティエラの前に立つ。

 

「......どうした、レオ」

 

「イドに......プライバシーってもんはないのか?」

 

「なんだそんなことか」

 

「そんなことって...!」

 

「俺たちは軍だ。戦うために集まった者たちだ。それは何も戦闘行為だけに限られるものではない」

 

「......?」

 

「情報戦も重要な戦略の一つだと言っているんだ。ガキは黙って付いてくればいい」

 

そういうとティエラは歩き去っていく。

 

「ざっけんじゃねぇ...!俺たち...仲間だろ!?」

 

レオは振り返るとそう言い放った。

 

ずかずかとティエラに近づき、レオはこれまでにないほどの剣幕でティエラに怒鳴りつけ始めた。

 

「仲間なら、隠し事はナシだろうが!気になること...分かったことがあれば言ってくれなきゃ分かんねぇだろ!!せめて何があったのか...どうするつもりなのかぐらい教えろ!!」

 

ティエラはレオのあまりの剣幕に圧倒され、少したじろいだ。

 

子どもとは思えないほどの迫力だった。

 

普段怒らない人を怒らせると...というものだろう。

 

「...分かった。今度は教えるさ。だが、お前たちに、作戦に言及する権利はない。そこは俺たち“プロ”の役目であって、戦力でしかない“アマ”のオマエの役目ではないからな。それは分かっているだろう」

 

「...ああ。分かってるさ.........くやしいけど」

 

その後ティエラは、そそくさと研究室へと入っていった。

 

レオは自分自身でもその怒りの迫力に驚き、気分が浮ついていたのか、息が荒くなっていた。

 

そんなレオの肩にT・ユカが手を置く。

 

「...ありがとうな。レオ」

 

「...え?」

 

「お前はあのティエラを変えたんだ。そんなこと、アタシにもできなかった。でもお前はやってのけた。すげぇことだ。誇っていい」

 

「......」

 

「アタシも...突然アイツが連の居場所を特定していたから心底驚いた。でも、その感じだと...あまり良い方法ではなかったようだな」

 

すると、イドが2人に歩み寄ってきた。

 

「実は...昨日の夜、俺は連と話したんだ。黙ってたのは悪いと思ってる...」

 

「いや、いいんだ。お前の連に対する気持ちは一応理解してるつもりだからな。それに、いきなり報告しようって気にもならないだろう。まあ、報告はしてほしいかな」

 

「分かってる...これからはちゃんと報告するよ」

 

「それにしても...なるほど...それを盗み聞きされた、と」

 

T・ユカがそう言うと、イドはうなずいた。

 

「...ってか、ユカさんにも教えなかったのか?あの人...」

 

T・ユカは苦笑いする。

 

おそらく、イドの話を盗み聞きして勝手に作戦を練ったと言えば、T・ユカに怒られるとでも思ったのだろう。

 

確かにその通りだが、あまりにも幼稚な思考だ。

 

レオは心底呆れるのだった。

 

「それじゃ、アタシも研究室に用があるから」

 

そう言うと、T・ユカは研究室へと足を進め始めた。

 

それから数秒沈黙が流れた後、

 

「...レオ」

 

「?なんだ、イド」

 

「その...ありがとう」

 

「気にすんなって。俺たち仲間だろ?

 

「ああ...そうだな。......仲間か」

 

イドはなんだかうれしそうだ。

 

レオはそんなイドを見ると、少し微笑むのだった。

 

 

 

 

研究室にて、そこではティエラとT・ユカ、そしてハンナの3人が話していた。

 

T・ユカは利き足の靴を脱ぎ、その靴とあるボタンのついたリモコンをハンナに手渡す。

 

リモコンのボタンを押し、靴のかかとから生えて来た“針”の中身を確認した。

 

「どうやら成功したみたいね」

 

ハンナがそう言うと、T・ユカは得意げな表情をした。

 

「“アレ”は『星の意思』そのもの。連を徹底的に駆逐するために星自身が創り出したものよ」

 

「結局なんだったんだ?“アレ”って...」

 

T・ユカの質問に対し、ハンナは数秒考え込むようなしぐさをすると、答え始めた。

 

「ウイルス...バクテリア...そのどれもに定義できるし、そのどれもに定義できないもの。全ては、連をこの世から駆逐するために創り出されたもの...つまり、“アレ”は連専用の特効兵器よ」

 

「じゃあ、”アレ“はアタシたちには効かないってことか?」

 

「ええ。どの生物の遺伝子にも働かなかった。でも...ティエラがアイツと戦った時に回収したアイツの毛髪の中から抽出した遺伝子だけには強い反応を見せたの」

 

「星が自分の意思を形にするために思念によって生み出した存在が俺たち...。つまり、俺たち『星の心象』...。だが、今の連はその枠から外れている。だから、それを抹消するために“アレ”を創り出したということ。......それも同じ、星の思念で...」

 

ティエラはそう言いながら、ソウル・ブラスターを目の前に掲げ、眉間にしわを寄せた。

 

(自由の代償、か......)

 

再び数秒沈黙が訪れたが、T・ユカがそれを破る。

 

「それで、どれほどかかるんだ?アイツが倒れるまで」

 

「さあ?そこまでは分からないわ。でも、長くはもたないとだけ言っておく」

 

「それなら...」

 

ティエラも2人に続き、話を切り出す。

 

「経過を観察して、アイツが弱った時が“その時”だ」

 

2人はうなずいた。

 

こうして3人は解散となった。

 

 

 

 

(『勇者』、か)

 

ティエラは独り、連と戦った時に彼が言っていた言葉を振り返っていた。

 

ティエラはそのとき、あることを思い出した。

 

(そういえば...!イドがアイツと話していた時に......!)

 

『俺が「魔王」なら、お前は「勇者」だ』

 

(そうか......なんとなくわかった気がする)

 

ティエラはイドに目を向ける。

 

(だが、そうはさせない)

 

ティエラは自身が手にしているソウル・ブラスターに今度は目を向ける。

 

「アイツを殺すのは、俺だ」

 

そう呟くと、ティエラは『ガレキの城』のある方角に向かって向き直り、その先をにらみつけるのだった。

 

 

 

 

一方その頃、イドとレオは今回の作戦の詳細をT・ユカから聞いていた。

 

「じゃ、じゃあ...!連は、もう...?」

 

「ああ、じきに死ぬ」

 

「......」

 

イドはうつむいた。

 

「他に......方法はなかったのかな」

 

レオも煮え切らない表情をしている。

 

「人類だけじゃない...この世全てを敵に回した以上、仕方ないだろうな...」

 

イドは苦い表情をしながらそう言った。

 

もちろん本心ではない。

 

納得もいっていない。

 

しかし、こればかりは受け入れるしかない。

 

でも、せめて終わらせるのなら、『勇者』である自分の手で......

 

イドはそんなことを考えながら、『ガレキの城』のある方向へ目を向け、連の身を案じるのだった。

 

 

 

 

『ガレキの城』にて、連はメイとフェイの帰還を出迎えていた。

 

「本当に、ここに“アイツら”が...!?」

 

「ああ」

 

フェイは連の返答に対し、息をのんだ。

 

「ケガはないのですか?」

 

メイは心配そうな目で連を見つめる。

 

「......そのことについて、2人に話しておきたいことがある」

 

「「...?」」

 

「これと言った外傷はないんだ。ただ............」

 

2人は言葉を何度も選ぼうとする連の表情を見つめる。

 

そして...

 

「ただ...俺はもう、長くないんだ」

 

連はついに、自身の口で“それ”を言葉にしたのだった。

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