TERRE ~穢レタ世界ノ黙示録~   作:河本AKIRA

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第77話 Pandemonium

京都の街はまさに地獄絵図と化していた。

 

逃げ惑う人々、それらを追い回し、食欲の限り食い尽くす妖魔たち。

 

まさに『百鬼夜行の再来』が、そこにはあった。

 

「なんてことだ...ひどすぎる...!」

 

イドはその様に戦慄した。

 

「こうしてる場合じゃねぇ!はやく行こうぜ!!皆を助けるんだ!!」

 

レオがそう言うと、イドはうなずいた。

 

「気狐さん!嫌なことを思い出して辛いのは分かる。でも、今は目の前の人々を助けなければいけない。そうだろう?」

 

「...!そうじゃな。お主の言う通りじゃ。イド」

 

「うむ、なかなか良いこと言うではないか、少年!では行くぞ!余についてくるがいい!!」

 

「なんでアンタが仕切ってんのよ!真神!ったく...!」

 

真神は勢いよく山を駆け下り始めた。

 

猫鬼もしぶしぶ彼女に続く。

 

そんな2人に、気狐、レオ、イドも続いた。

 

 

 

 

一方その頃、“ある2人”も、その地にそれぞれ別々の場所から足を踏み出していた。

一人は女子大生、一人は男子中学生だ。

一人の名は、米原 早紀(よねはら さき)。緑色のインナーが特徴のショートヘアの女子大生だ。

 

もう一人の名は米合 相慎(よない はるちか)。黒いキャップに黒髪、学ラン、そして灰色の瞳が特徴の男子中学生である。

 

実はこの2人にはある共通点があるのだ。

 

それは、後ほど種明かしするとしよう...。

 

 

 

 

街に降りたレオ、イド、気狐、真神、猫鬼の5人は、早速妖魔との戦闘状態に入った。

 

数百体もの妖魔は5人の存在に気づくことなく、無我夢中で人を喰らっている。

 

「ちぃっ...!コイツッ!!」

 

そんな妖魔の残虐非道な様を目にし、激昂したイドは拳に陰の力を集中させ、妖魔に不意打ちを喰らわせた。

 

頭部に攻撃を喰らったことで、その妖魔は首から上が粉砕し、絶命してしまった。

 

「ほう...!なかなかやるではないか!あの小童!」

 

「あの子は儂の弟子じゃ。甘く見てもらっては困る。では、儂らも行くぞ!」

 

イドに感心する真神に対し、気狐はそう言うと、真神らに対し、イドに続くよう促した。

 

気狐は一気に数十本の赤い氷の槍を飛ばし、彼女らを取り巻く妖魔を一掃した。

 

だが、未だ妖魔は大量にいる。

 

次に攻撃に出たのは、真神。

 

数多の青白い鬼火を顕現させると、それを大量の妖魔にぶつけた。

 

妖魔はその火に苦しみのたうちまわった。

 

しかし、まだ妖魔はまだまだいる。

 

「なかなか減らぬのう...」

 

「任せて、次は...妾の番ッ!!」

 

猫鬼は両手を思い切り広げる。

 

すると、彼女の周囲で一瞬だけバチッ!という音が鳴ると同時に、大量の紫色の稲妻...紫電が数多の妖魔のそれぞれの身体を貫いた。

 

その後、貫いた稲妻は瞬く間に妖魔の体内に広がるとそのまま全身の肉を引き裂き、次々にそれらを絶命へと追い込んだ。

 

その様は、まさに『紫電清霜』と呼ぶに相応しいものであった。

 

「俺たちだって、見てるだけじゃねぇんだ!!行くぞ!イド!!」

 

「ああ!!」

 

レオは怪我人の治癒を、イドはそんなレオを阻まんとする妖魔の粉砕を開始した。

 

しかし、他の式神たちとは違い、素手に陰の力を宿らせながら攻撃しなければならないため、近接戦闘にならざるを得ないことから、とても分が悪い。

 

そのため、2人は何度か式神らに助けてもらいながらも奮闘する羽目になっていた。

 

この体制は十数分続いた。

 

このとき、彼らの集中力は切れかけようとしていた。

 

それもそのはず、数十分互いの様子や現地住民、そして妖魔の様子を同時に伺いながら長時間戦うというのは、大変骨の折れる作業である。

 

それは、式神らも同じことであった。

 

例え式神とはいえ、連戦続きだったこともあり、疲労が蓄積していたのだ。

 

そして、ついに“ほつれ”は生じた。

 

式神らの弾幕の中で生じたほころびをかいくぐり、数体の妖魔が彼らに襲い掛かった。

 

『ッ...!』

 

彼らは自らの危機に表情をゆがめた。

 

と、そのときだった。

 

彼らに襲い掛かった数体の妖魔に紫電が、もう数体の妖魔には鬼火がどこからか飛んできた。

 

完全に油断していた妖魔たちは為すすべなくそれらの攻撃を被弾し、絶命した。

 

「助かった...のか?」

 

レオは片目を開きながら、自身の安全を確認する。

 

「一体...何が...」

 

イドがそう言ったその時のことだった。

 

突然真神と猫鬼が笑みを漏らし始めた。

 

そして...

 

「遅いではないか!ええ!?我が主、ハリーよ!!」

 

真神がそう叫ぶと、彼らの下に一人の少年が乗り捨てられているトラックの上から着地してきた。

 

「その呼び方あんまり知らない人の前ですんなつったろ!変なあだ名付けやがってこの...。あー、俺は米合 相慎(よない はるちか)。こう見えても陰陽師だ。よろしくな、お二人さん」

 

イドとレオはいっとき混乱していたが、『お二人さん』というのが自分たちのことだと気づくと返答を返し始めた。

 

「こちらこそ...よろしく。えーと...」

 

「ハリー!!」

 

『...ハリー』

 

真神がそう呼べと言わんばかりにその名を叫ぶので、2人はその少年をハリーと呼んだ。

 

「はぁーっ...真神、お前、後で覚えとけよ...」

 

そう言うと、米合 相慎...もといハリーは真神をジト目で睨みつけながら改めて戦線に合流した。

 

するとその直後、

 

「ギリギリセーフってとこ?」

 

女子大生が乗り捨てられているバスの上から飛び降りてきてそう言った。

 

「...ギリアウトよ。ったく...」

 

それに対し、猫鬼は苦笑いしながらそう返した。

 

「アンタも...陰陽師なのか?」

 

「ええ。サキでいいわよ」

 

ハリーはこのとき、初めて自分以外の陰陽師を目にした。

 

それもそのはず、陰陽師は日本国内に一握りほどしか存在しないのだ。

無理もない。

 

「“も”ってことは、あなたも?」

 

「ああ。名は─」

 

「ハリー!!」

 

真神が再び割って入る。

 

「...でいい」

 

「あ、あはは...そっちも、なかなか個性的な式神がいるようね...」

 

サキは2人の掛け合いを見て苦笑いした。

 

「2人とも、馴れ合いは済んだかの?」

 

「「!!」」

 

「うむ、では我々は一度分散するとしよう。あまり多く集まって戦っていると効率が悪い」

 

気狐の言葉に、皆はうなずきで返した。

 

「よし、行くぞ!イド!」

 

「ああ!」

 

組合せは、レオとイド、真神とハリー、猫鬼とサキ、気狐の4組である。

 

「気狐さん...一人でいくのか?」

 

「レオよ、儂を誰だと心得る?儂は...『魔王』の式神ぞ」

 

 

「...そうだな」

 

そう言うと、レオは少し微笑んだ。

 

「では、行くぞ!!」

 

こうして、4組による妖魔の掃討が始まった。

 

まずは、真神・ハリー陣営。

 

「今こそ!神界での修練を活かすときッ!ハリーよ、遠慮はいらぬぞ!!貴様の力を見せてみろ!!」

 

「やってやらぁ!お前ほどの力はねぇけどな!!」

 

ハリーは”お札“を取り出すと、それを自身の体内に宿らせた。

 

すると、彼の手元に炎のような黒き文様が現れた。

 

「さあ!まとめて掃除してやるぜ!!」

 

ハリーは自身の手からいくつもの青白い鬼火を顕現させると、それらを妖魔たちに喰らわせた。

 

そう、このお札は陰陽師が、契約している式神の能力を使う際に使用する媒体なのだ。

 

妖魔たちは次々に焼死していく。

 

真神はそんなハリーの様子を見て感心している。

 

 

 

 

陰陽師は通常、物心がついた時から式神に修練を受ける。

 

その内容は、神界で妖魔を討伐するというごく単純かつ実践的なものだ。

 

この修練を重ねることで、“今回のようなこと”が起こっても対処できるように準備しているのである。

 

もっとも、連の家系の場合は全く別である。

 

彼の家系が『八咫烏陰陽道』...いわゆる『裏天皇』であるため、政府の意向に従い、明治維新の時期に気狐は封印されてしまったのだ。

 

当時、陰陽道などの『和』を彷彿とさせるものは淘汰されつつあった。

 

中には、そのようなものが歴史ごと消し去られるようなこともあった。

 

そのため、陰陽師たちは自らの力、そして式神の存在を隠すようになったのだ。

 

全ては式神と陰陽師...互いの身を守るため...そして、少し時代が進めば、『兵器』になるのを防ぐためである。

 

しかし、『八咫烏陰陽道』を除く陰陽師たちは、かろうじて代々陰陽師として君臨しており、第二次世界大戦後までは細々と式神との関係を保ちながら、修練を行っていた。

 

なお、猫鬼の場合はよく人間にまぎれて街に降りていたようだが...

 

 

 

 

場面は再び混乱の渦中にある京都に戻る。

 

真神はいっときハリーの様子を見つめると、自身も負けじと鬼火を妖魔たちに喰らわせ始めた。

 

「ハリーよ!!まだ気を抜くな!とにかくヤツらを一掃し続けるのだ!!」

 

「言われなくても分かってらぁ!!」

 

まだまだ彼らの戦いは続くようだ。

 

 

 

 

一方その頃、猫鬼・サキ陣営も妖魔の掃討を開始していた。

 

サキも同じように、お札を自身に宿らせることで、猫鬼と同じ能力を使用している。

 

「皆まとめて、紫電の餌食になりなさい!」

 

「妾の紫電、とくと味わうといいわ!当たればすなわち...死よ!!」

 

2人の使用する紫電は、超高速の稲妻を相手に当て、内部から相手の身体を電流でめちゃくちゃに引き裂くというもの。

 

一度稲妻を当ててしまえば、あとは自動的に紫電が相手を崩壊に追い込むというわけだ。

 

しかし、超高速すぎるあまりに、自身の思い描いた、当てるまでのビジョンとのギャップが生じることもある。

 

例えば、相手の動きを予測して、前もって稲妻を飛ばすと、相手が予測した場所に動き、到達する前に稲妻が既に通り過ぎてしまうというようなことだ。

 

つまり、完璧とは言えないということである。

 

“生きている”以上、完璧に到達するというのは限りなく無理に等しいのだ。

 

 

 

 

気狐は淡々と赤色の氷の槍を飛ばし、襲い来る妖魔たちを瞬く間に次々と串刺しにしてしまった。

 

彼女のこの圧倒的な強さこそ、国を代表するレベルの陰陽師に仕える式神である所以なのだろう。

 

 

 

 

レオとイドも他の者たちほどではないが、彼らなりにできる限り多くの妖魔を討伐していた。

 

レオは氷の槍を飛ばして相手の気を引いたり、陽の力で怪我人の治癒を行った。

 

イドは、妖魔の隙を伺い、陰の力で妖魔を次々と“殴り倒していった”。

 

それと同時に多くの人々をこの場から避難させた。

 

と、そのときだった。

 

「イド!危ない!!」

 

「!?」

 

突然イドの側面にレオが現れ、氷の盾が彼らを覆った。

 

次の瞬間、鉄パイプほどの大きさの針が盾に刺さった。

 

針は一部、盾を貫通し、彼らの目の前まで達しようというところで勢いを止めた。

 

「...なんて威力だ。ありがとう、レオ。助かった...!」

 

「礼なんていらねぇよ...!しっかし、なんつー威力だ...!」

 

ちなみにこの針は、妖魔が飛ばしたものである。

 

威力も強く、刺さった場合、毒に侵され、最悪死に至る。

 

やはり、最初に滅せられるものは弱きものであり、強きものが最後まで残るのだろう。

 

今回の針を飛ばしてくるもののような、少しトリッキーな攻撃手段を持つ妖魔だけがそこに残り始めた。

 

しかし参った。

 

今レオとイドの相手している妖魔は、遠距離型......対し、2人は近距離型である。

 

イドに関しても、レイル・ボウである程度のダメージを与えることもできるだろうが、それでは泥仕合になる可能性がある。

 

「おい...どうするよ...今回の相手は一筋縄ではいかねぇぞ...」

 

「そうだな...なにか案を...なッ!?」

 

このとき、イドはある者たちを発見した。

 

車の陰にある3人の姿があったのだ。

 

赤子を抱いた女性と小さな男の子...家族だろう。

逃げ遅れたのだろうか。

 

と、そのときだった。

 

妖魔はレオとイドから視線をずらすと、なんとその3人のほうに身体を向け始めた。

 

「ッ!!マズイ!!」

 

妖魔は3人のほうへ狙いを変えると、完全に動きを封じ、息の根を止めるために例の毒針を背から飛ばした。

 

3人は悲鳴を上げながらお互い抱き合った。

 

...が、彼らに攻撃は下らなかった。

 

その代わりに...

 

「ッ...!レオ!!!!」

 

イドは悲鳴を上げた。

 

そう、3人の家族が攻撃を被らなかった代償に、レオがその攻撃を引き受ける形になった。

 

レオが3人を庇ったのだ。

 

鉄パイプほどの大きさの例の毒針が、レオの胴体を貫いてしまっている。

 

一応ではあるが、氷の盾で自分と3人を覆っていた。

 

しかし、今回はその盾も意味を為さなかったのだ。

 

「グフッ...!」

 

レオは吐血する。

 

「クッ...!クソッ...!どうすれば...!」

 

イドは完全に冷静さを欠いている。

 

「へへッ...怖がらせて...すまねぇ...な。アンタ...ら、は...逃げ...ろ」

 

レオは3人に必死に言葉を紡ぎ、避難するよう促した。

 

母親は強くうなずくと、片手で赤子を抱え、もう片手で息子の手を取り、その場から走り始めた。

 

妖魔は逃がさぬと言わんばかりに毒針を準備し始める。

 

すると...

 

ドウン!!

 

突然妖魔の頭部に衝撃が走った。

 

まるで電撃のような、だ。

 

妖魔はその衝撃が下った方向へ身体を向ける。

 

その方向には、イドがいた。

 

先ほどの衝撃の正体は、レイル・ボウだ。

 

「おい妖魔!!まずは俺を殺してからにしたらどうだ!!」

 

イドがそう叫ぶと、言われなくともと言わんばかりに妖魔は毒針を飛ばしてきた。

 

「いちかばちか...!」

 

イドは両手にそれぞれ陰のオーラを結集させる。

 

そして...

 

「はぁッ!!!」

 

イドは思いっきり両手をパァン!と合わせ、毒針を目の前で白刃取りのように止めた。

 

毒針は瞬く間に粉砕した。

 

「うおおああああッ!!」

 

毒針を粉砕されて動揺している様子の妖魔の隙を付き、レオは死に物狂いで氷の槍を妖魔に突き刺した。

 

妖魔はこのとき、レオに気をとられた。

 

そして...

 

「イド!!やれェ!!」

 

「喰らええええッ!!」

 

イドは陰の力を込めた拳を空中から振り下ろし、妖魔の頭部を粉砕した。

 

「ハアッ...ハアッ...」

 

イドは座り込む。

 

と、そのときだった。

 

「ッ...!?」

 

死の間際に妖魔は針を背から生やし始めた。

 

最後の抵抗というものだろう。

 

まずい、間に合わない。

 

針が発射されそうになったそのときだった。

 

ズドォン!!

 

「!?」

 

突然何かが勢いよく落下してきた。

 

土煙が止むと、イドの目の前には赤い氷の槍が妖魔に刺さっている様子があった。

 

「...これは...!」

 

「なかなかに苦労しているようじゃな、ご苦労じゃった」

 

「気狐さん...!」

 

「む...?レオが負傷しているようじゃな。見せてみよ」

 

気狐は陽の力で瞬く間にレオを回復させた。

 

「レオ...!」

 

「...イド」

 

レオは朦朧としていた意識から帰還した。

 

「レオ、大丈夫か!?」

 

「ああ、なんとかな。ありがとう気狐さん、助かった」

 

「礼はいらぬ。さてと...」

 

気狐は残った数体の妖魔に目を向ける。

 

その目は殺気に燃えていた。

 

「よくもまあ儂の愛弟子をここまで痛めつけてくれたのう...。この代償...きちんと払ってもらうぞ」

 

そのとき、気狐の周りに大量の赤い氷の槍が顕現した。

 

妖魔は気狐に向かって行く。

 

しかし、その抵抗もむなしく、瞬く間に妖魔は串刺しになっていった。

 

「す...すげぇ...」

 

レオは開いた口が塞がらなかった。

 

イドもその圧倒的な力に衝撃を受けた。

 

気狐は自身の着ている巫女服をパンパンとはたき、土埃を落とす。

 

「さてと...ここと儂のところは済んだようじゃな。あと者たちはどうだか...」

 

 

 

 

真神・ハリー陣営は、ある妖魔相手に苦戦を強いられていた。

 

それは...

 

「おい真神!!もっと火力を上げるんだ!!こいつ...固いぞ!!」

 

「やっている!!厄介な奴め...余の鬼火の熱さえも通さぬ氷を操るというのか...!」

 

そう、彼らが苦戦している相手の妖魔の能力...それは氷を顕現させるという単純かつ彼らにとっては相性の悪いものであった。

 

それも、彼らの鬼火をも通さない頑強な氷である。

 

「むう...気狐の援護を借りたいところだが...!」

 

「あの人はあの人で忙しいだろ...!」

 

「だろうな...」

 

真神は頭を悩ませた。

 

このまま倒さなければ、この妖魔は住民の”捕食“を止まることなく行うだろう。

 

それだけはどうにかして避けたい。。

 

それでは『百鬼夜行』の二の舞だ。

 

前回の『百鬼夜行』の場合は日本全土に被害が及んだ。

 

しかし、今回の『百鬼夜行』の場合、まだ全国には及んでおらず、伏見稲荷大社のふもとの市街だけにとどまっている。

 

起こってしまったことは仕方ない。

 

しかし、今回はそれだけにとどめておきたいのだ。

 

「こうしている暇はないというのに...!」

 

真神は苛立ちを隠せない。

 

と、そのときだった。

 

「!?」

 

突然街中から地鳴りが聴こえて来た。

 

2人は地鳴りの鳴る方向を見る。

 

ハリーはその様子を見ると、その光景に圧倒された。

 

「...あれは...!」

 

 

 

 

一方、猫鬼・サキ陣営も苦戦を強いられていた。

 

相手の妖魔はゲル状のものであり、電流を通さないのだ。

 

「いつかはこういうのも出るとは思ってたけど...!」

 

猫鬼は焦りを見せる。

 

そう、現在の妖魔は歴代においても高レベルな戦力を備えているのだ。

 

8年もの間、終末レベルの出来事が世界規模で人類を襲っているのだ。

 

人類から出る負の感情の大きさは並大抵のものではない。

 

その分、妖魔も強化されているのだ。

 

「...どうする?私たちの攻撃は通用しないみたいだけど...」

 

「こうなったら...妾直々に...!」

 

猫鬼は迅速にバスの屋根に上ると、そのまま飛び降りて、その勢いで陰の力を込めながら妖魔に蹴り下ろした。

 

が、

 

「ッ...!?」

 

妖魔は、持ち前の柔軟さでそれをかわした。

 

回避力も抜群...いよいよ勝機が曇り始めた。

 

「...どうすればいいのよ!」

 

猫鬼がそんな声を上げたその時だった。

 

突然地鳴りが起こり始めた。

 

「な、なに!?」

 

猫鬼は周りを見渡そうとする。

 

すると、

 

「猫鬼!!早くそこから離れて!!」

 

妖魔から少し離れたところにある建物の屋上からサキのそんな声が聞こえて来た。

 

「...わかった!」

 

猫鬼はサキに従い、妖魔から瞬時に離れ、建物に避難した。

 

次の瞬間だった。

 

突然、その場に鉄の塊が降り注ぎ、瞬く間に爆炎に包まれた。

 

「あれは...!」

 

猫鬼が建物越しに見たもの...それは、多数の戦車であった。

 

陸上自衛隊の戦車隊が京都に集結したのだ。

 

戦車隊は、一瞬にして多くの妖魔を葬り去った。

 

2人はその光景に圧倒されたのだった。

 

 

 

 

それは、真神・ハリー陣営も同じであった。

 

ついさっきまで苦戦していたはずの相手が、一瞬にして氷の装甲を破壊され、消し飛ばされた。

 

「な、なんだ!?あの鉄の化け物は!!」

 

「落ち着け!あれは戦車!人間の扱う兵器だ!」

 

「兵器!?人間はあんなのまで作れるようになったのか!?」

 

真神は近代兵器の威力、そして何より人間の文明レベルの高さに驚愕した。

 

それもそのはず、一般的な式神は神界から滅多に出ない。

 

そのため、現代の文明に触れることが少ないのだ。

 

「これでは...余がいなくとも妖魔は倒せるのではないか?」

 

「いや、そんなことはないぞ。俺たちでここまで数を減らしたからこそ、だ」

 

ハリーは自身の存在意義を疑い始めた真神を即座にフォローする。

 

確かにハリーの言う通りである。

 

いくら戦車と言えども、妖魔の攻撃を喰らえばひとたまりもない。

 

そう、妖魔と戦車、お互いに一つ一つの攻撃が命取りになるのだ。

 

今回の事件発生後すぐに駆け付けていた場合、数の差で戦車隊が敗北していた可能性が高い。

 

つまり、今回の勝利は陰陽師、式神、陸自全員によるものであるということだ。

 

 

 

 

いや、まだ勝利ではない。

 

 

 

 

まだ、肝心なものが残っている。

 

 

 

 

そう、ここからが本当の悪夢だった。

 

 

 

 

市街にはびこる全ての妖魔の討伐に成功し、一行が安堵したもつかの間のことだった。

 

再び地鳴りが市街を襲う。

 

「こ、今度は何だ!?」

 

「さっきの戦車のとは、わけが違う...!」

 

ハリーとサキはその異様な気配に戦慄した。

 

「...オリジンじゃ」

 

「「!?」」

 

気狐のその言葉に、今度はレオとイドが驚きの反応を見せた。

 

「正しくは、オリジンの形をした妖魔、だけどね...」

 

猫鬼は冷や汗を滴らせながら説明を付け加える。

 

「さあ......ここからが正念場だ...!」

 

真神は身構えながらも、その圧倒的な威圧感に身体を少し震わせている。

 

「怖いの?真神」

 

「まさか!武者震いにきまっている...!」

 

「妾は...怖い」

 

猫鬼は初めこそ真神をからかったが、自身も相手に恐怖を感じていることを隠し通すことはできなかった。

 

「それでも、立ち向かう。そうだろう?」

 

「フフッ...言われなくても!」

 

真神と猫鬼、2人は決意を固めたようだ。

 

「あー、俺たち、初対面だけどさ...陰陽師同士、やれるとこまでやろうぜ」

 

「やれるところまで、じゃない。やる、でしょ?」

 

「...だな」

 

それはハリーとサキも同じようだ。

 

サキはまっすぐな熱意を持っている反面、ハリーは一見冷めている。

 

しかし、彼の心の底にも、確かなる熱きものがあるのだ。

 

レオとイドは既に覚悟を決めているようだ。

 

こうして、『悪夢との戦い』がついに幕を開けるのだった。

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