シン・ウルトラマンを見ながら書きました。

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 わたしは“光の星”からやってきた恒点観測員(こうてんかんそくいん)

 わたしたちの使命は宇宙の均衡を見守ること。干渉せず、観察するのみ――それが恒点観測員としての掟だった。

 

「観測せよ。干渉するな」

 

 わたしはその言葉を胸に、長い旅を経て、この惑星「地球」にやってきた。多様な生命が息づく青い星。その中でも、わたしが特に興味を持ったのは、とある小さな「街」だった。

 最初にこの街に降り立った時、わたしは圧倒された。

 湿った空気、温かな環境、そして何より住民たちの活気に満ちた姿。彼らは小さいながらも、自らの生態系を見事に構築していた。粘着質の「大地」に根を張り、共同体を形成し、独自の文化を育んでいた。

 わたしは住民たちの一人に擬態し、この街で生活を始めた。最初は警戒されたが、わたしが害をなさないと分かると、住民たちは次第に心を開いてくれた。

 

「あなた、どこから来たんだ?」

 

 最初に声をかけてくれたのは、バシラスというこの街の長老だった。彼の外見は他の住民より少し濁った色をしており、経験の豊かさを物語っていた。

 

「遠い所からです」

 

 それだけ答えると、彼は深く追及せず、ただ頷いた。

 

「……ここは平和な街だ。争いごとはない。みんな助け合って生きている。だが、外からの圧力には常に注意しなければならない」

 

 その言葉の意味を、わたしはその時は理解できなかった。

 

 

 日々が過ぎ、わたしは街の文化に触れ、住民たちの日常を観察した。

 彼らは「トウ」と呼ばれる資源を大切にし、それを分かち合いながら共同体を維持していた。時に外部から大量のトウが流れ込み、街は活気づく。そんな時、彼らは盛大な祭りを開き、歌い、踊る。わたしもその輪に加わり、温かな一体感に包まれた。

 

「踊り、上手いわねぇ!」

 

 若い住民のミユが笑顔で言った。

 

「君たちに教えてもらったからね」

 

 わたしも笑顔で返した。

 こうして、わたしは少しずつこの街の一員として受け入れられていった。

 最初は単なる観測対象だった彼らが、いつしか大切な存在になっていた。彼らの笑顔、悩み、希望――すべてがわたしの心に刻まれていった。

 

 

 だが、平和な日々は長くは続かなかった。

 ある日、空から強烈な透過光線が降り注いだ。光は街全体を包み込み、すべてを透視していった。住民たちは混乱し、恐怖に震えた。

 

「侵略者が来る!」

 

 叫ぶバシラスの言葉に、わたしは首を傾げた。侵略者、侵略者とは?

 そう訊ねるわたしの問いに、バシラスは答える。

 

「そう、何度も経験しているんだ。この光の後には……」

 

 バシラスの言葉が終わらないうちに、次の災厄が訪れた。

 地殻から猛毒の液体が湧き出し始めたのだ。粘度の高い無色透明の液体は、触れた住民を即座に麻痺させた。悲鳴と混乱が街を覆った。

 

「みんな、高台に避難するんだ!」

 

 バシラスが指示を出す。住民たちは必死に逃げ惑うが、麻痺毒は着実に街を蝕んでいった。

 わたしは立ち尽くした。恒点観測員としての使命と、目の前で苦しむ人々を助けたいという衝動の間で揺れ動いた。

 その最中で、ミユが叫ぶ。

 

「何をしているの! 早く逃げて!」

 

 わたしはミユの手を取り、高台へと逃げた。しかし、それは始まりに過ぎなかった。

 そして、侵略が始まった。

 毒が街の大部分を覆い尽くした頃、空から巨大な影が現れた。まるで宇宙からの来訪者のような巨大な金属の怪物。先端に鋭利なドリルを持ち、轟音を立てながら降下してきた。

 

「ロボット怪獣だ!」

 

 住民たちの悲鳴が響く。

 怪獣は容赦なく街を襲撃した。先端に巨大なドリルを備えた金属の怪物。それは轟音と共に街の地殻を容赦なく削り始めた。高速回転するドリルは、街の基盤を根こそぎ破壊していった。

 続けて現れたのは、超震動波で全てを粉砕するロボット怪獣。超高速の超振動によって街の構造そのものを粉砕してゆく。住民たちは悲鳴を上げながら逃げまどった。

 

「助けて!」「逃げろ!」「私たちの街が……!」

 

 恐怖の叫び声が街中に響き渡る。

 すべてを焼き尽くす強烈なレーザー光線が放たれ、街区の多くが一瞬で蒸発した。続いて現れたロボット怪獣が放つ強力なジェット水流は、逃げ惑う住民たちを押し流してゆく。

 

「う、うわああああ……」「吸い込まれるぅー……!!」

 

 最後に登場したバキュームのロボット怪獣は、残された全てを飲み込むように吸い上げていった。

 

 

 ……わたしは高台から、この惨状をただ見つめるしかなかった。

 街は崩壊し、多くの住民が命を落とした。生き残った者たちの顔には深い絶望の色が浮かんでいた。

 

「なぜこんなことが……」

 

 わたしが呟くと、バシラスが静かに答えた。

 

「これが私たちの宿命だ。侵略者は定期的にやって来る。我々を抹殺するために」

「でも、なぜ?」

「彼らは我々を害悪と見なしている。我々の存在そのものが、彼らにとっては許しがたいものなのだ」

 

 わたしは拳を握り締めた。この残酷さ、この理不尽さ。しかし、恒点観測員としての掟がわたしを縛る。干渉してはならない。それが宇宙の摂理だ。

 街は壊滅的な被害を受けた。住民たちの大半は連れ去られるか、破壊されるかした。生き残った者たちはわずかな隙間に身を潜めながら、絶望と恐怖に震えていた。

 だが、侵略はそれで終わらなかった。

 

 

 数日後、再び災厄が訪れた。

 今度は「レジン怪獣」と呼ばれる存在だった。透明な液体のような形態をした怪獣は、破壊された街を覆い尽くし、固めていった。住民たちが築き上げてきた街並みは、無機質な樹脂の中に閉じ込められ、「清潔な死の世界」と化していった。

 住民たちは嘆いていた。

 

「こうして私たちの歴史は消されてゆく」

 

 さらに数日後、再びロボット怪獣たちが襲来した。

 今度は生き残った住民を狩り立てる執拗な殺戮が始まった。怪獣たちは精密な動きで住民たちを追い詰め、一人また一人と命を奪っていった。

 わたしはもはや耐えられなかった。

 

「ミユ、逃げるんだ!」

 

 わたしはバシラスと彼を引き連れ、最後の避難所へと向かった。

 そこには、かろうじて生き延びた数十人の住民が身を寄せ合っていた。彼らの目には恐怖と諦めが混在していた。

 誰かが呟いた。

 

「もう終わりだ……」

 

 ……わたしは、本当のことを話さなければならない。そう思った。

 

「いいえ、まだです」

 

 わたしは静かに言った。もはや決意は固まっていた。掟を破る覚悟を。

 

「わたしは、あなたたちが思っているような旅人ではない。わたしは遠い星、光の星から来た恒点観測員だ。わたしの任務は、あなたたちの世界を観測し、記録することだった。介入せず、ただ見守るだけが私の使命だった」

 

 住人たちの間にざわめきが走った。得体の知れない旅人が突拍子もないことを言い出した、きっとそう思っているのだろう。

 けれど、わたしは言った。

 

「しかし、わたしはあなたたちと過ごす中で、あなたたちの生命、あなたたちの文化、あなたたちの絆に心を奪われた。そして今、あなたたちが不当な侵略に苦しんでいるのを見て、もはや黙って見ているわけにはいかない」

 

 わたしは深く息を吸い込み、続けた。

 

「わたしには力がある。あなたたちを守る力が。それを使えば、この侵略者たちを退けることができるかもしれない。しかし、それは私の星の掟に反する行為だ。私は罰せられるだろう」

「……旅人よ」

 

 長老のバシラスが一歩前に出た。

 

「私たちのために自分を犠牲にする必要はない、旅人、いいや、光の星の観測員。あなたは既に十分なことをしてくれた」

 

 わたしは首を横に振った。

 

「いいえ、バシラス長老。私はあなたたちと共に生き、あなたたちと共に笑い、そしてあなたたちと共に悲しんだ。私にとって、あなたたちはもはや単なる観測対象ではない……」

 

 深く息を吸い、わたしは答えた。

 

「……あなたたちは、友だ」

 

 その瞬間、わたしの体が光り始めた。銀色の光が私を包み込み、私の姿が変わり始めた。私はかつての姿、光の星の戦士としての姿へと戻りつつあった。

 住人たちは驚愕の表情で私を見つめていた。

 

「わたしは光の星の観測員。そして今日から、あなたたちの守護者でもある」

 

 変身が完了したわたしは、もはや旅人ではなかった。赤と銀の装甲に身を包んだ巨大な姿、それがウルトラマンだった。

 住人たちからは歓声が上がった。希望の光が彼らの目に戻ってきた。

 ミユの声が聞こえた。

 

「ありがとう、ウルトラマン!」

 

 わたしは足元の彼らに頷きかけると、侵略者たちの方へと向かった。

 光の星の掟に背く決断。それは恐らく私の命に関わる重大な背信行為だ。しかし、もはや後戻りはできなかった。

 わたしの心は決まっていた。この街を、この住人たちを守るために、わたしは戦う。

 住民たちの歓声が響く中、ウルトラマンとなったわたしは怪獣たちに立ち向かった。

 

 

 巨大なドリルを振りかざすロボット怪獣は、わたしを見るや否や攻撃態勢に入った。

 

「行くぞ!」

 

 わたしの声は轟音となって響き渡り、怪獣に向かって飛び込んだ。最初の一撃は怪獣の胸部を直撃し、金属の破片が飛び散った。怪獣は一瞬怯んだものの、すぐさま反撃に転じる。鋭いドリルがわたしの腹部を狙って突き出された。

 間一髪でそれを避け、わたしは怪獣の首根っこをつかんで投げ飛ばした。巨体が宙を舞い、大地に激突する。衝撃で周辺の残された建物が揺れた。

 

「頑張れ、ウルトラマン!」

 

 避難所にいた住民たちが叫ぶ。その声に力をもらい、わたしは戦いを続けた。

 怪獣は再び立ち上がり、今度はクチバシから超震動波を放った。鋭い振動波がわたしに襲いかかる。わたしは両腕でそれを受け止めようとするが、その威力は想像以上だった。体が後方に吹き飛ばされ、残っていた建物に激突する。

 

「くっ……」

 

 痛みが全身を走った。しかし、諦めるわけにはいかない。わたしはゆっくりと立ち上がり、両腕を交差させた。

 

「シュワッチ!」

 

 わたしの腕から放たれた光線は、怪獣の中心部を貫いた。金属の怪物はその場で爆発し、無数の破片となって散った。

 一体を倒したが、まだ終わりではなかった。次々と新たな怪獣たちが現れた。ジェット水流を放つ怪獣、すべてを焼き尽くす光線を持つ怪獣、バキュームですべてを吸い込む怪獣…。

 わたしは一体ずつ立ち向かった。時に傷つき、時に怯むこともあったが、住民たちを守るという意志だけは揺るがなかった。

 戦いは数時間に及んだ。体力は徐々に消耗し、全身の体色は緑へと変色し始めた。

 

「まずい、力が……」

 

 しかし、その時だった。遠くから住民たちの声が聞こえてきた。

 

「ウルトラマン!頑張れ!」

「私たちの街を守って!」

「あなたがいれば、必ず勝てる!」

 

 その声に、わたしは再び立ち上がる力を得た。残る怪獣たちに立ち向かい、一体また一体と倒していった。最後の一体、レジン怪獣が街の中心を固めようとしていた時、わたしは残された力を振り絞った。

 

「デヤァッ!!」

 

 わたしの体から放たれた光の波動は、レジン怪獣を完全に包み込み、その物質構造を分解していった。怪獣は徐々に液状化し、最後には完全に消失した。

 勝利の瞬間、わたしの体からは力が抜け、元の姿に戻った。住民たちが駆け寄ってくる。

 

「本当にありがとう!」

 

 バシラスが涙ながらに言った。

 

「私たちのヒーローだよ、ウルトラマン!」

 

 ミユも深く頭を下げた。

 わたしは微笑んだが、心の中では不安が渦巻いていた。掟を破ったこと、それが意味することを考えると…。

 

「みなさん、これで終わりではありません。侵略者はまた来るでしょう。でも、次もわたしがいます。必ず守ります」

 

 その言葉に、住民たちは希望の表情を浮かべた。街の復興が始まった。瓦礫を片付け、新たな家を建て、共同体を再構築する。わたしもその手伝いをしながら、彼らとの絆を深めていった。

 数週間が経ち、街は少しずつではあるが、元の活気を取り戻しつつあった。新たな建物が立ち、住民たちの笑顔が戻ってきた。

 ミユが尋ねた。

 

「これからもずっとここにいてくれるよね?」

「…………。」

 

 わたしはただ微笑むだけだった。

 ……答えられなかった。なぜなら、わたしは知っていたから。掟を破った代償が、必ず訪れることを。

 

 

 

 

 その予感は的中した。

 ある夜、わたしが一人で街を見下ろしていると、背後から声がかかった。

 

「リピアー……いや、この星の呼び名に沿ってこう呼ぼうか、“ウルトラマン”」

 

 振り返ると、そこには光の星からの新たなる使者が立っていた。厳格な表情で、わたしを見つめている。

 

「ゾーフィ……」

 

 わたしがその名を口にすると新たなる使者、ゾーフィは静かにうなずいて答えた。

 

「君は掟を破った。あれ以上、干渉してはならなかったのに」

 

 そう告げるゾーフィの声は、冷たかった。思わず、わたしは反論した。

 

「彼らを見捨てることはできなかった」

「我々光の星の使命は観測のみ。それが掟だ」

「でも、彼らは苦しんでいた。無実の命が奪われていた」

 

 ゾーフィは静かに首を振った。

 

「それでも干渉してはならなかった。君はその罪により、刑に服さねばならない」

 

 ……分かっている。わたしは静かに答えた。

 

「罪は認める。そして刑に服す覚悟もある」

「では、明日の夜明けに刑を執行する。最後に言い残すことはあるか?」

 

 そう言われ、わたしは街へと振り返って見下ろした。灯りが点り、住民たちが安心して眠る姿が想像できた。

 

「……後悔はない。そうだとしても、わたしはこの弱くて群れる小さな命を守ってゆきたい」

 

 ゾーフィは一瞬、複雑な表情を浮かべたが、すぐに厳格な顔に戻った。

 

「君の選択だ」

 

 そう言って、彼は立ち去った。

 わたしは夜明けまでの時間、住民たちとの日々を思い返していた。最初は単なる観測対象だった彼らが、いつしか家族のような存在になっていた。笑顔、悲しみ、怒り、喜び……すべての感情を共有し、共に生きてきた。

 そして夜明け。ゾーフィが再び現れた。

 

「時間だ」

 

 わたしは静かに立ち上がり、彼に向き合った。

 

「最後に、彼らに別れを告げたい」

 

 ゾーフィは少し考え、頷いた。

 

「短く」

 

 わたしはバシラスとミユを呼び出した。彼らは眠そうな目をこすりながらやってきた。

 

「こんな早くにどうしたの?」

 

 少し話があるんだ。そう言って、わたしは切り出した。

 

「わたしは……もう行かなければならない」

「え? どこに?」

 

 バシラスの顔から笑顔が消えた。

 

「遠い所だ。もう戻ってこられないかもしれない」

「そんな……」

 

 ミユが顔を曇らせた。

 

「行かないで! あなたは私たちの救世主、それがいなくなるなんて……」

 

 ……わたしも名残惜しい。

 けれど行かねばならない。

 

「心配するな。君たちはもう十分強くなった。これからは自分たちの力で生きていける」

 

 わたしは二人を抱きしめた。温かい、そして悲しい別れ。

 

「さようなら、ありがとう」

 

 ……かすかに笑え、あの星のように。

 そして、わたしはゾーフィの元へ戻った。ゾーフィは黙ってわたしを見つめ、そして光の剣を取り出した。

 

「ウルトラマン、君は恒点観測員としての掟を破った罪により、処刑する」

 

 わたしは目を閉じ、最後の時を待った。

 裁きの鉄槌が振り下ろされる刹那、ゾーフィがどこか呆然とした様子で呟いた。

 

「……そんなにストレプトコッカス・ミュータンス、虫歯菌が好きになったのか、ウルトラマン」

 

 

 

 

【その頃、とある歯科医院にて】

 

 外の世界では、一人の少年が歯科医の椅子に座っていた。彼の口の中、右下奥歯に広がる黒い斑点――それが、“わたし”の守った「街」だった。

 歯科医は困惑した表情でアシスタントに語りかける。

 

「……奇妙だね。どのドリルも通用しない。レーザーも効かない。むしろ器具が損傷している」

 

 アシスタントが心配そうに問う。

 

「新種の虫歯菌でしょうか?」

「かも、しれんね。これまで見たこともないタイプだ。学会に報告する必要があるだろう」

 

 彼らの頭上、天井の蛍光灯の光がその姿を一瞬映し出した。映ったのは、ミクロサイズの光の巨人。

 

 それは、歯の世界で生きる小さな命――虫歯菌を守る決意をした光の星の観測員、ウルトラマンの姿だった。




痛みを知る、唯一人であれ(虫歯を治療しながら)

昔通っていた歯医者に置いてあった絵本「ミュータン旅へ行く」シリーズが好きでした。皆さん、歯医者にはちゃんと行きましょうね。
by数年ぶりに歯医者に行った余田礼太郎

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