某カードゲームの過去のテキストカバレージを全面的にリスペクトしています。
原作未登場カードや一部考察、開催イベントについては筆者の多大なる妄想を含んでおり、本編とは異なる設定がございます。並行世界の話だと思って読んでいただけると幸いです。
アニマルフェスティバル。我らがACGの誇る国内最大級の祭りのひとつで行われるメインイベント、超巨大スイスドロー。
参加人数も対戦回数も桁外れなこの祭りでは、数多くの出会いが生まれる。一瞬の人生の交錯が、その後のACGライフを変えることもあり得るだろう。
そんな中で2回戦のフィーチャーテーブルに腰掛けたのは、2人の若者だった。
鰐野「よろしくお願いします!」
西振「あ、どうも」
堂々とした鰐野に対し、西振はやや気圧された様子。それもそのはず。
西振「こういう大会とか初めてで、ちょっと慣れないとことかあったらすいません」
西振はなんと大型大会初参加。試合後に聞いたところ普段は地元の小さなカードショップで8人規模の大会をメインに活動しており、今回はたまたま私用と日程が近かったので一念発起して参加したとのことだった。
そんな西振に、鰐野も言葉を合わせる。
鰐野「大丈夫ですよ、自分もこんだけ大きな大会のフィーチャーとか座ったこともないんで」
聞けば鰐野も大型店舗の大会には出ているものの、フィーチャー卓は初めてとのこと。それでここまでの堂々っぷりは大したものである。
鰐野「まあ、まだ2回戦なんで気軽にやりましょう」
西振「そうですね」
西振もやや肩の力が抜けたようだった。
ジャッジがゲーム開始を促し、お互いに対戦相手、そして己のデッキと向き合う。
1勝どうし、ここから波に乗れるか。この後の行先を決めるかもしれない1戦が幕を開けた。
わずかな睨み合いのターンの後、先にゲームを動かしたのは先手の鰐野だった。
鰐野「そちらのドロー後に《火球》、本体対象です」
西振の顔が一瞬硬直する。対応はなく先制攻撃を受け止めるが、そこから西振の手は止まった。
バーンデッキ。高速の詰めが西振の脳裏によぎったことだろう。西振も対抗してスピードを上げるか、それとも受けに回るか。
結論から言えば、ここでは西振は前者の道を選んだ。《鷲の卵》から《鷲の雛》。かつて環境に存在したイーグル・ビートダウンを想起させるセットだ。
鰐野は両方のカードのテキストを確認して礼を言うとターンを受け取る。領土を捲り……鰐野の手から放たれたのは《紅蓮の大地》!
両陣営とプレイヤーに火力が吹き荒れるものの、被害には大きな差ができた。自身の盤面を流された西振は早急な立て直しを強いられる。
返しのターンに領土を捲り、西振は《肉攫いの禿鷲》で手札を補充しつつ戦力を立てる。鰐野は少し悩んでからターンを受け取ってこれに《火炎流》で応じる。この《火炎流》は、鰐野のデッキを特定するには十分だった。
この動物に火力を割く判断をした以上、十中八九ビートバーン。お互いがお互いの手の内を晒したと感じたのか、鰐野はテンポよく盤面に火力となる動物を投下していく。
《火の鳥》こそ2枚目の《肉攫いの禿鷲》でうまく対処するものの、そのまま着地させた《戦列の鷲》には《熱傷》。《肉攫いの禿鷲》には《燻るマグマ》を両面で当て、徹底的に防御を許さない構えを取る。
これに対し西振は《猿知恵》2枚を使って何かを探しに行くが、明確な解答は見つからない。《深淵の化け鷲》をディスカードする。ここに来て西振は致命的になり得る隙を晒したままターンを返した。
そして鰐野のターン。カードを引いた鰐野は頷くと、レッドゾーンに2頭の動物を送り込む。
鰐野「《スプリントチーター》2頭、大丈夫ですか?」
西振は苦しそうに首を縦に振る。古くからの押し込み火力の代名詞、《スプリントチーター》。2頭の狩猟者が戦場を駆け抜け、一瞬で西振のライフポイントを危険域にまで到達させる。
《スプリントチーター》が手札に戻る。このターンでデッドラインまで踏み越えることはなかったが、何も対処が無ければ蓄えた手札の動物は数ターンもしないうちにチーターの餌食になるだろう。
祈るように山札を引いた西振は……引いたカードを即座に鰐野と自分の前に差し出した。
西振「《輝きの乳牛》、着地までいけますか」
西振のデッキは、単なるイーグル・ビートダウンではなかった。《輝きの乳牛》を筆頭としたキュア・カウとの混合型。先ほどまでデッキを掘っていたのは、何としてもこのカードを探すためだったのだ。
テキストを確認した鰐野の表情は曇ったが、大丈夫です、と優先権を手放す。それはこのターンに《輝きの乳牛》を処理する方法がないことを表していた。
逆転のチャンスをうかがっていた西振の手札から、動物たちがあふれ出す。《乳牛の群れ》、続けて《鷲の卵》《鷲の雛》《鷲の雛》。つごう4回ぶんの《輝きの乳牛》が、命の水に等しいライフポイントを西振にもたらす。さらに回復ぶんで《乳牛の群れ》も大きく育ち、《スプリントチーター》に比肩するサイズに。さらに西振は《鷲の卵》を起動し、《戦列の鷲》を手札に加えてターンを返す。
鰐野はターンが戻ってくる前に少し悩んで、《蜃気楼の火》を西振へ放つ。1点足りなかったんですよね、と鰐野はボヤくが、ボーナス効果を捨ててまで発動したこのカードによって西振のライフはまた危険な水準まで到達した。
鰐野のターンになる。カードを引く指先にも、それを見守る目にも力が込められる。
手札のカードと組み合わせて5点以上の火力が出るカードなら勝ち。《輝きの乳牛》を処理できないなら《戦列の鷲》と《輝きの乳牛》のもたらす回復と壁によって、今度こそ西振のライフは射程圏外まで飛んでいくだろう。
鰐野は山札の一番上のカードを確認し――それを読み上げた。見慣れない言語だが、バーンデッキと対峙したことのある誰もが知っているイラストのカードを。
鰐野「これ、《大炎上》です。5点、対象そちらで」
その言葉を聞いて西振は、口元に笑みを浮かべながら右手を差し出した。
鰐野「ドイツ語版なんですよこれ、発音は怪しいんですけど」
ゲームが終わって、ウイニングカードとなった《大炎上》を見つめる西振に鰐野が言う。
西振「《大炎上》だけ?」
鰐野「そうですね、しかも4枚入ってる中のこれだけ(笑)」
フィーチャー席を立った2人に、私は少しだけ話を聞かせていただくことにした。その中でもやはり気になったのは、勝負を決めたドイツ語版の《大炎上》……もとい、《Großer Brand》についてだった。私がなぜ1枚だけなのか、と訊ねると、鰐野は苦笑いしながら教えてくれた。
鰐野「普段の大会とかだとこれをきっかけに話が膨らんだりするんですよね。それと、自分にこのデッキの使い方を教えてくれた人がドイツ語版を使ってて。お守りみたいな感じです」
西振「師匠みたいな?」
鰐野「いやいや(笑)」
どうやら、1枚だけなのはあえてということらしい。
そして、談笑の時間は終わりを迎える。2人の道は、また遠く分かたれる。
西振「ありがとうございました。《大炎上》、カッコよかったです」
鰐野「こちらこそありがとうございました、いい1日を!」
だが、珍しくなった2つのデッキと見慣れない1枚のカードが、この出会いを忘れがたくするだろう。
袖振り合うも他生の縁。願わくばこの出会いが、お互いにいいものとして残るように。
2人のプレイヤーは、また別の方向へ歩いてゆく。