日本書紀演義・斑鳩炎上(いかるがえんじょう)   作:TKF

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592 崇峻暗殺 その② 崇峻と馬子の対立

<蘇我馬子との対立>

 国連総会が散会してからも、崇峻は先ほどの馬子の態度に腹を立てていた。

 計画に反対したのはまだいい、それがいろいろ困難を伴うことは自分だってわかっている。いろいろな意見を聞いて計画の微修正を行うぐらいの度量は自分にだってあるつもりだ。

 だが、大王である自分をにらみつけ、謝りもせずに肩で風を切って出ていったのは無礼である。

 

 実は崇峻は馬子に恩義があった。後継順位の低かった崇峻が大王位につけたのは、馬子の娘・河上娘を娶り、その後押しを得たからであった。

 

 だが、それで馬子は増長した。崇峻が逆らえなかったのをいいことに、馬子は朝廷を牛耳り権勢の限りをつくした。いや、実はそれは正確ではないのだが、少なくとも崇峻はそう思っていた。崇峻は朝廷では小さくなっているだけであった。大王でありながら意見を封じられたりしたことも一度や二度ではない。思い出すたびに腸が煮えくり返る。

 

「馬子よ、見ておれ。いつまでもお前の傀儡のままでいる私ではないぞ。」

 

* ** *** ** ***

 

 一方で馬子の方も怒りが収まらなかった。崇峻の計画は馬子が反対し続けてきたものであったし、群臣もそれを知っていた。それをいきなり、馬子の意見を無視する形で宣言されたことにより、馬子の面子は丸つぶれであった。

 

 

 ちなみに崇峻の計画とは、「北九州大屯田計画」というべきものである。具体的に述べると、まず北九州に2万の軍を派遣して新羅に外交圧力をかける。それと同時にその軍勢に北九州の開拓をさせて、そこに難民を定住させることにより人口と農業生産高を増やし、今後の半島への出兵をしやすくする、というものであった。

 

 当時の日本はいたるところに未開の平地が存在していた。また戦乱が続く朝鮮半島や中国からは常に多くの難民が発生して日本列島に逃れてきていた。そこで国連ではそういった難民に資材と2~3年分の食料を与えて未開の地を開拓させる事業を代々行っていた。これを今回は、北九州に集中して行おうというものであった。

 

 この計画のメリットについては馬子も十分に承知していた。それでも馬子が反対したのはこのときの国内情勢がそれどころではなかったからであった。

 

 というのも、これより数年前(585~587年ごろ)に天然痘が大流行していたのであった。その悲惨さはとても文章で表すことはできないが、あえて表現すれば、

「まず子供達が次々に死に、それを看病していた親も病気となり、子供達の死を悲しむ間もなく、うめき苦しみながら死んだ。生き残った子もやがて死んだ。

近所もみなそうであったので、誰も埋葬するものがなかった。

そのため村の溝やゴミ捨て場は死体であふれ、死臭は耐え難いほどであった。かろうじて生き残った者も生活を破壊され離散していった。こうして多くの村が消えた。」

といった感じになるだろう。

 

 この天然痘の流行は588年ごろには終息したが、591年の時点でもダメージは回復しておらず、全国で農村が荒れ果てたままであり、各国の経営も苦しい状態になっていた。

 

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日本書紀にいう。

敏達十四年(585)春2月14日 (前略)このとき国内に疫病がおこって人民の死ぬものが多かった。

3月30日(前略)このとき(敏達)天皇と大連(=物部守屋)が急に疱瘡(天然痘)にかかった。(中略)疱瘡で死ぬものが国に満ちた。その瘡を病むものが「体が焼かれ打ち砕かれるように苦しい」と言って泣き叫びながら死んでいった。

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 だからこそ国連主導で一大公共事業をやって税収を回復させよう、さらに新羅に圧力もかけられるし一石二鳥ではないか、というのが崇峻の言い分であった。

 

 だが、馬子から言わせれば、こんな時期に大プロジェクトを行うのは、病み上がりの体に厳しい鍛錬を課すようなものである。

 北九州がそれで発展したとしても、数年間も労働力を取られる全国の農村は干上がってしまうだろうし、各国の反発もすさまじいものになるだろう。

 

 さらにいえば、わざわざ北九州に人数を集めなくとも、全国に耕作放棄された田畑があふれているのである。だから10年ぐらいは労役と税を軽くし、各国それぞれの地域で農村を建て直し人口の回復を待って地力をつけさせるべきである。その後で北九州強化プロジェクトみたいなものを行えばよい。

 

 これは、長年、国連とヤマト王国の運営を担ってきた馬子の考えであり、また政治経済に詳しい者の間での常識でもあった。

 

(その③「東漢駒(やまとあやのこま)」に続く)

 

 

 

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