もし銀英伝オタクがパストーレに転生して、転生後数時間で死亡するRTAを回避する事は可能なのか?   作:オラニエ公ジャン・バルジャン

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もし銀英伝オタクがパストーレに転生して、転生後数時間で死亡するRTAを回避する事は可能なのか?『アスターテ篇』

季節は正月、珍しく正月に休みが被った俺は雑煮を啜りながら気怠くテレビを見ていた。

 

職場は現代日本の足枷とも言うべき昭和の負の産物、第一次ベビーブームの成れの果て、増え過ぎた高齢者の面倒を見る特別養護老人ホームだから、本来介護士の私に正月休みなどない。

 

だが大晦日前日に夜勤に入った私はシフトの都合で元旦とそして主任が入れた公休のお陰で1月2日は休みという事になったのだ。

 

こうして家族と雑煮を啜りながら正月を過ごすのは久し振りだ、精神的にも人間的にも負荷の掛かる仕事から一時離れられるだけでも救われるというものだ。

 

「これ、食べ終わったらノイエ銀英伝のシーズン3〜4を一気見でもするかな。」

 

と心の中で呟いた刹那。

 

私は半分寝ぼけながら口に運んでいた餅を喉に詰まらせた。

咽こむ私を見て、家族は慌てたが、私の意識はみるみる薄れていく…まさか三十手前で、然も餅で死ぬとは…何という皮肉…。

 

「提督…提督!!」

 

馴染みの無い呼ばれ方をした私が目を覚ました時、そこに広がったのは良く見たことのある光景だった。

 

「同盟軍の戦闘艦のブリッジ…?」

 

「パストーレ提督、大丈夫ですか?」

 

パストーレ?あのパストーレか?同盟軍第四艦隊司令官、銀河英雄伝説の物語に於いて帝国軍側の主人公ラインハルト・フォン・ローエングラムに最初に屠られた同盟軍の提督であるパストーレと呼ばれたのか私は?

 

夢にしてはどうも感覚がおかしい。

全て現実に感じる。

冷や汗が止まらない。

この感触は、正に現実だ…。

 

パストーレ「すまんが少し用を足してくる、…いかん物忘れだ、すまんがトイレの場所は何処だったかな?」

 

同盟軍士官「ハァ、エレベーターの横ですが、大丈夫ですか?従卒に付き添わせますか?」

 

パストーレ「すまんが頼めるか?作戦前というのに妙な胸騒ぎがするんだ。」

 

呼び出された従卒にトイレの入り口まで付いて来てもらい、トイレの入り口で待たせると、私は顔を洗った。

夢ならこれで醒める、だが水は冷たく私の顔を濡らすだけだ、そして私の顔は…中年から初老の合間の男の顔、見慣れたキャラクターの顔そのものになっていた。

 

「本当にパストーレだ、という事はやはりここは戦艦レオニダスの中、そしてアスターテ星域だ…つまりこのままだと俺は転生して直ぐ死んでしまう…!!」

 

そんなのはごめんだ。

折角銀河英雄伝説の世界に転生出来たのに即転生人生終了など認められるはずがない…。

やる事は一つ、ゲームや妄想の中で何度も考えた歴史のIFを実現させるしかない!!

 

アスターテを生き残る、そして願わくばラインハルト打倒!!

 

私はブリッジに戻ると何食わぬ顔を装いながら周囲を見渡した。兵士達が着ている軍服はノイエ版の同盟軍の制服だ、自分が転生したのはどうやらノイエ時空の銀河英雄伝説の世界らしい。

周囲を航行する艦艇もノイエのデザインだ。

 

そして転生者特有のものなのだろうか、分かる筈のない架空の未来の機械の操作方法も私は自然に理解していた。

 

先ずは情報を集めなければ、その思いで機械を操作して分かった事がある。

 

先ず今自分がいるのはアスターテで間違いないという事、そしてラインハルト・フォン・ローエングラム伯率いる銀河帝国軍遠征艦隊との接敵予想時刻が今から十二時間後という事だ。

 

「十二時間…それまでに何とかしなければ…!」

 

何とか出来なければ、物語通りに事態は進み、第四、第六は其々四分の三の戦力を失い、両司令官戦死、戦略上勝てても戦術上では大敗北という結果になる。

 

パストーレ「副官!」

 

副官「はっ!」

 

パストーレ「第二、第六艦隊に通信、それと各艦隊の司令官と幕僚を呼び出してくれ。」

 

副官「畏まりました…然し無線封鎖中では…?」

 

パストーレ「まだこの距離なら平気だろうさ…それに生き残る為だ。最悪それを聞いて敵が逃げてくれれば御の字だ。」

 

副官「分かりました。おい、通信を送れ。各幕僚と分艦隊司令官にも通達するのも忘れるな。」

 

「先ずはこの愚かな戦力分散を止めないとな、そしてその為には協力者が必要だ、少なくとも二人は協力してくれるだろう。…或いは三人で協力してくれるかも知れない。」

 

兵士「第二艦隊司令官パエッタ中将、第六艦隊司令官ムーア中将が出ます。」

 

二つの投影スクリーンに二人の司令官とその幕僚達が写る。

 

私と幕僚達が敬礼すると向こうも返してきた。

 

最初に口を開いたのはパエッタだった。

 

パエッタ「一体どうしたのだ、パストーレ中将。通信封鎖中に呼び出すとは。」

 

ムーア「全くだ、一体何の用だ?」

 

パストーレ「うむ、このまま今の作戦を続けては我が軍は敗北する可能性がある事に気がついてな、それを共有して、協議したくてな。」

 

ムーア「何だとっ!?」

 

ムーアは大声で、興奮気味で返した、対するパエッタは険しい顔を浮かべているが、何やら心当たり有りという顔をしている。

恐らくもう…彼の手には渡っているのだろう…この後起きる惨劇を回避する為の策が…。

 

私は兎も角話を進める事にした。

仮にもし上手く行ったらそれはそれで時間が無い。

事は急を要するのは間違いないのだ。

 

パストーレ「我が軍の配置と敵の配置を改めて見て欲しい。我が軍は三方から敵を囲み殲滅する形を取るべく進軍している。我方合計四万、敵は二万。倍の戦力だ、優勢の我々。だがそれは一所に居た場合のみだ。」

 

第二、第四、第六艦隊の首脳部一同は驚く、私と二人を除いて。

 

パストーレ「部隊毎に見てみると、我が艦隊一万二千、第六艦隊は一万三千、そして第二艦隊は一万五千、相手は二万。もし一対一でやり合う状況になった時、我が三艦隊は一個艦隊足りとも対等に戦力を持ち合わせていない、もし敵が各個撃破の好機と捉えていたとしたら…どうなるか一目瞭然だろう。」

 

一同は正に信じ難いという表情を浮かべている。

当然だ、戦術上これは奇策だ。時間差で各個撃破は本来困難を極める軍事行動だし、もし上手く運べ無ければ結局包囲殲滅というオチを向かえる。

常道では無い、だが歴史上存在した戦争の天才達、ハンニバル、ナポレオン、織田信長、武田信玄、グデーリアンといった連中は正に奇を衒った作戦を立て、実行し、それを成し遂げて見せた。

そう兵法の常道から外れても勝つ事は出来るのだ、それだけの能力と条件が揃えば…。

そしてラインハルト・フォン・ローエングラムはそれを揃えようとしている…。

 

ムーア「不可能だ!そんな事出来るわけがない!!」

 

パストーレ「決して不可能では無い、そう信じたくてもな。それに先の第四次ティアマト会戦での敵左翼艦隊、もしあれが伯が取った行動と考えれば、より現実味が増すというものだ。」

 

この言葉に顔を青くしたのはパエッタだ。

そうだろうとも、彼は先の戦い、物語上外伝に位置するが、このアスターテの戦いの前に起きた第四ティアマト会戦に於いて彼はラインハルトに煮湯を飲まされたばかりだった。彼はその戦いで艦隊の五分の四を失ってしまっている。

 

そして自身の幕僚であるヤン・ウェンリーが罠と看破していたが自身は取り合わず結果全軍を危機に陥れてしまった。

パエッタにとって最早、ローエングラム伯という名前は悪魔の名前と同義だ。

 

パストーレ「兎も角、このままでは全軍壊滅の危機に陥る。今からでも遅くない、全艦結集して、一丸となって敵と当たる事を進言する。」

 

ムーア「馬鹿馬鹿しい!我が艦隊は反対だ!」

 

パストーレ「パエッタ中将は?」

 

パエッタは苦虫を噛み潰したような表情で目を閉じ、沈黙している。

 

ムーア「反対一、賛成一、無投票一でこの案は却下だな。我が艦隊はこのまま作戦を遂行する。」

 

第六艦隊が通信を切ると、第二艦隊も通信を切った。

 

説得は失敗だ、パエッタの傷口を抉り過ぎたかもしれない。

 

副官「閣下…?」

 

こうなれば強引にでも生き残らないと行けない。

 

私は直ぐにコンソールで作戦案を作り出した。敵の電波妨害を喰らう前に全艦に共有する必要がある…。

急がねばならない。

 

パストーレ「我が艦隊に所属する偵察艦を全艦動員しろ、これを三部隊に分け、一方は敵艦隊、もう二方は第二、第六艦隊予定航路に向かわせろ、三部隊は敵艦隊、及び味方艦隊の現在位置を一時間毎に報告!僅かに動きがあれば即時通達しろ!第四艦隊全艦、これよりデータリンク航行を遮断。各艦個別操艦に切り替え、電波妨害に備えろ!シールド出力最大まで上げておけ、各艦載機隊、直ちに発進準備‼︎」

 

副官「閣下?」

 

パストーレ「急げ‼︎死にたくなかったらな‼︎」

 

副官「ハ、ハッ‼︎」

 

第四艦隊司令部は慌ただしくなった。

 

当然だ、急に艦隊司令官が作戦方針を無視して独自の行動を取ろうとしているのだから。

 

出来ることはやった…後は成るように成るしかない。

 

そしてその時は来た。

 

兵士「敵艦隊発見‼︎総数約二万、我が艦隊に向かって直進してきます‼︎」

 

パストーレ「さぁ来たぞ、各艦作戦コードIF-04を開け!これより我が艦隊はこの作戦コードに基づき作戦行動を取る!電波妨害は?」

 

兵士「来ました!敵艦隊より電波妨害‼︎」

 

兵士「敵艦隊より一斉射‼︎来ます‼︎」

 

帝国艦隊の怒涛の砲撃が第四艦隊を襲う。

 

だが本来の物語なら第四艦隊に痛手を与える砲撃は、第四艦隊全力のシールド展開により被害は軽微に抑えられた。

 

パストーレ「被害報告‼︎」

 

兵士「前衛部隊に被弾しましたが、作戦行動に支障なし!」

 

パストーレ「よし、作戦通り敵との距離は最大射程のまま維持しつつ後退、守りに徹しろ!装甲の厚い戦艦を前面に押し立てさせろ!」

 

第四艦隊はゆっくりと後退を開始する、後退して向かう先は第六艦隊予定到着地点。

 

(こうなれば第六艦隊を無理矢理戦闘に引き摺り込む。そうすればこちらが多少の損害を被っても二万隻程度でやり合える、そしてラップを生存させられるかもしれない…そうすれば同盟は…。)

 

同盟ファンの私が何度も考えたIF…銀河英雄伝説最大の悲劇、帝国の悲劇がジークフリード・キルヒアイスの死なら、同盟の悲劇はジャン・ロベール・ラップの死だ、彼の死がある意味同盟を狂わせたと言ってもいい。

 

パストーレ「やってみるさ、第二、第六艦隊に連絡艇を出せ、我、敵艦隊ト接敵セリ!コレヨリ第六艦隊方面ニ退却ヲ開始スルと!」

 

副官「ハッ‼︎」

 

ラインハルト艦隊はお荷物提督を抱えているとはいえ、前衛にファーレンハイトとメルカッツといった良将二人が居る。

 

第四艦隊が初撃を防いだとみて、ラインハルトはこの二人を押し出させ、砲火を集中させてきた。

 

だが第四艦隊は必死に耐えた。

そして少しずつ後退していく、一挙に後退してはならない。

もし一気に敵艦隊から逃れれば、獲物に逃げられたとみてラインハルトはさっさと目標を変えてしまうだろう。

 

私の作戦は敵を第四艦隊に引きつけつつ、強引に第六艦隊を戦闘に道連れにし、後方から第二艦隊の到来を待つというものだ。

 

これは劇中、或いは作中でパエッタが考えていた希望的観測を現実にするものだ。

 

その為に第四艦隊は反撃を極力控え、防御に徹し、第六艦隊と合流するまで、敵艦隊と最大接敵距離を保ち続けながら後退する必要があるのだ。

 

だがそれにも限度はある、そもそも圧倒的数の不利がある。

第四艦隊が如何に守りを固めても帝国軍の猛攻が続けば耐えられないだろう。

 

パストーレ「最低七千残れば…!」

 

ラインハルトにはこちらの意図を読まれたらしい。

敵艦隊は凄まじい速度で猛追してきた。

 

兵士「敵艦隊増速‼︎敵艦隊前衛部隊より艦載艇発艦を確認!」

 

パストーレ「後退一杯‼︎対空戦闘用意!こちらもスパルタニアン隊で応戦しろ‼︎」

 

帝国軍艦隊から決して多くはないが少なくもない数の艦載艇(ワルキューレ)が飛来して来た。

 

長距離を保ち続けたお陰で敵もワルキューレを全力出撃させる事が出来なかったのだろう。

 

対する第四艦隊は迎え撃つ形になりスパルタニアンを全力出撃させる事が出来たお陰で航空いや航宙優勢を取り、敵艦載艇の撃退に成功した。

 

だが艦載艇の攻撃に失敗したならと、遂にラインハルトは業を煮やし自らの直轄艦隊を前面に押し出した。

 

これが帝国軍の戦意を底上げし、更に艦隊そのものの足が速くなり、第四艦隊を猛追し始めた。

 

その速度たるや疾風ウォルフに近づかんとばかりであり、第四艦隊は徐々に距離を縮められ、そして距離が狭まる毎に敵の砲火を防ぎ切る事が難しくなって来た。

 

兵士「損耗率一割を超えました、前衛部隊の損害が拡大しています。」

 

パストーレ「シールド出力を上げろ!後退速度はこれが精一杯か…第六艦隊の位置は?」

 

兵士「我が艦隊後方、後二時間後には戦闘距離に達すると思われます。」

 

パストーレ「第二艦隊の位置は?」

 

兵士「だめです、戦闘の影響で通信が乱れて、第二艦隊方面に展開した哨戒艦との連絡が取れません。予想位置をスクリーンに出します。」

 

第四艦隊は第六艦隊の方に向かって時計回りに後退するルートを取っている都合上第二艦隊は最も敵からも味方からも離れている。

 

「もし第二艦隊がこちらへの救援に向かってなかったらいよいよ厳しいな。」

 

私はそう覚悟するしかなかった。

こうしている間にも損害は増える。

第四艦隊は残存艦が一万隻を切ろうとしている。

 

パストーレ「全艦隊に通信を送れ、オープン回線だ!」

 

兵士「オープン回線繋ぎます。」

 

パストーレ「艦隊戦友諸君。現在戦況は厳しいが、私以下司令部及び旗艦レオニダスは健在、指揮系統は乱れておらず、作戦も上手く行っている。後もう少しだけ耐えてくれ、第六艦隊と合流すればやっと対等に戦える様に成る、其れ迄各艦防御と後退に徹するんだ。」

 

艦隊の士気を盛り上げる事には成功した様だが、同時に敵の怒りを買ったらしい。

 

凄まじい敵の攻撃がレオニダスを襲った。

 

艦隊旗艦のシールドは伊達じゃない。

これらレーザーとレールガンの砲弾を防いだが、減らず口を叩く低脳にさぞ戦争の天才は御立腹なのだろう。

 

パストーレ「見ろ、諸君‼︎今の敵の攻撃こそ、自分達の戦が上手く行っていない事への焦りの証拠だ!この調子だ‼︎」

 

指揮官とは時には役者にならねばならない。兵の士気を上げる為の道化に。

私はそれを見事にこなしてみせたと思っているが、内心はおっかなびっくりと言ったところだ。

 

何せ先の砲撃で自分は死を覚悟した上、レオニダスは健在だったが、直衛の艦が数隻この攻撃で撃沈してしまったのだ。

 

司令部にまで砲火が届く状況は決して良くない。

 

状況は切迫している。

 

兵士「提督、残存艦艇が一万を切りました…。」

 

どうやら二千隻も、まだ二千隻程度と見るべきか?

 

どちらにしても艦隊の二割弱を失った。

 

だが…

 

パストーレ「なんとか持ち堪えたな。」

 

帝国軍の赤いレーザー光とは別に第四艦隊の背後から青いレーザーが帝国軍艦隊に襲い掛かる。

 

兵士「第六艦隊接敵します。ムーア中将より通信が入りました。」

 

パストーレ「繋いでくれ。」

 

ムーア「パストーレどう言うつもりだ‼︎何故予定宙域では無く、こちらに敵艦隊を引っ張って来たんだ‼︎」

 

パストーレ「至極単純な理由だムーア中将、あのまま我が艦隊が戦っていたら壊滅していただけの事。生き残る為には攻撃を防ぎ、往なしつつ後退して味方と合流するしか無かった。」

 

ムーア「つまり貴官は生き残る為に味方の艦隊を道連れにしようとしたのか!」

 

パストーレ「人聞きの悪い言い方は止してもらおうムーア中将‼︎元より三艦隊合同で戦うべき相手だ、個別で戦っているわけではあるまい‼︎」

 

ムーア「これは国防委員長の意向を受けてダゴンの殲滅戦を再び再現する戦いなのだぞ、貴様それを無碍にしたな!」

 

パストーレ「政治家の意向とやらの為に私の艦隊と兵士達を無駄死になど到底させられぬな‼︎戦争は舞台ではない、敵が同じ轍を踏むと思わぬ事だ‼︎」

 

ムーア「貴様…。この戦いの後覚えていろよ、国防委員長が貴様を野放しにすると思うなよ‼︎」

 

パストーレ「好きにしろ、私は、はなから白アリの仲間などごめんだ。兎に角!このまま戦えムーア中将。下手な動きをしてみろ、貴官毎沈めてやるからな‼︎」

 

通信は切れた。

いかん、いかん。作中でもトップクラスに嫌いなキャラ、いや最早人物だな。

兎も角嫌いな人間を前に理性を失うのは私の悪い癖だし、戦場に置いて指揮官同士の不仲は災いを起こす。

 

馬謖と王平の不仲故に起きた街亭の戦いの敗北を考えるとコレはいけなかった…。

 

私は内心反省していると、艦橋要員達が皆、私を見つめていた、顰蹙を買った様だ。

 

だが将兵達は尊奉の眼差しを向け敬礼してきた。

 

パストーレ「コレは、何の真似だ?」

 

副官「いえ、改めて閣下と共に戦えたことを光栄に思いましたので。」

 

パストーレ「こんな親父にそんなもの求めるな、私はただ死にたくないだけなんだよ。…だが悪い気はしないな、さぁ今度は僅かとはいえこちらの数が優勢だ、一挙に反撃するぞ‼︎全艦主砲斉射‼︎」

 

第四艦隊も遂に火蓋を切り、砲撃を開始する。

 

数の上では二万三千弱、相手は二万。

僅かに数の上では優勢に立てたことで我が軍は優勢に戦う事ができる様になったが、想定していたより敵に損害を与える事は出来なかった。

 

理由としてはラインハルト艦隊が早急に防御体制を取った事、第四艦隊が防戦一方だった時間が長かった事で疲弊していた事で攻撃に移る迄の動きが鈍かった事、そして第四、第六艦隊の連携が上手く取れていなかった事だ。

 

第六艦隊はこの時猪突のきらいがあり、あくまで戦線維持を狙う我が艦隊と戦術が異なってしまった。

私は再三に渡って、ムーアに猪突せず足並みを揃えろと通信したがその都度ムーアは不満と罵りをぶつけてきた。

だが流石にムーアも猪突すれば第四艦隊はついてこないので自分と敵艦隊の数的差を鑑みればどうなるかは分かっていたのか、無理に前進するような真似はしなかった。

 

しばらく撃ち合っていると、ラインハルト艦隊が後退を開始した。

五分の勝負となれば将兵の質の勝負になる、その点敵は有利であった筈なのに後退を始めてしまったのだ、勿論まだ第二艦隊は現れていない。

おかしい…何かがおかしい…私はそう思わずにいられなかった。

あの常勝の天才がそう簡単に勝負を捨てるのか…。

 

兵士「提督!第六艦隊が敵艦隊を追撃すべく突出しました!」

 

パストーレ「…そうか!いかん‼︎第六艦隊を呼び戻せ!敵の狙いは…!」

 

遅かった。

 

第六艦隊は凄まじい速度でラインハルト艦隊に迫ったが、ラインハルト艦隊は左斜め後ろに後退しながらU字陣形を組み、突出してきた第六艦隊を半包囲し、三方向から砲火を集中してきたのだ。

 

ラインハルトは第四、第六、どちらが屠りやすいか、あの撃ち合いの中で見極め、第六艦隊を完全に潰す事に決めたのだ。

 

パストーレ「ムーア…愚か者め!直ちに救援に向かうぞ!敵左翼艦隊に突撃を掛けろ!第六艦隊の後退を援護する‼︎」

 

幸い左翼艦隊を率いていたのはシュターデンやエルラッハ、フォーゲルと言ったお荷物達だったらしい。

 

どうやらこの三提督達は疲弊しきったと思っていた第四艦隊が半ば捨て身で突撃してきた事に驚愕し混乱した様だ。

 

お陰で決して少なくない損害を与える事に成功し、第六艦隊を救えたが、第六艦隊は一気に半数まで艦艇を減らし、我が第四艦隊もまた損耗率が四割を超えてしまった。

 

対するラインハルト艦隊は未だ一万八千隻近い艦艇を保有している。

 

ラインハルトは流石に左翼の無様加減に呆れたのか一時艦隊再編の為に後退した。

 

それに合わせ、我が第四、第六艦隊も後退する事にした。

 

パストーレ「ペルガモンは健在なのか⁉︎通信を送れ!第六艦隊司令部はどうなった!」

 

兵士「提督!ペルガモンが出ます‼︎ですがノイズが酷く音声のみになります‼︎」

 

パストーレ「構わん繋げ!」

 

ジャン・ロベール・ラップ「…ちら、第六艦隊旗艦ペルガモン…トーレ中将…トウ…ガイマス。」

 

パストーレ「こちら第四艦隊、バストーレだ、貴官は誰か?ムーア中将はどうした?」

 

ジャン・ロベール・ラップ「私は第六艦隊幕僚ジャン・ロベール・ラップ少佐であります。ムーア中将は旗艦ペルガモンが被弾した際に名誉の戦死を遂げられました。」

 

パストーレ「死んだだと⁉︎第六艦隊の司令部は貴官だけが健在か?分艦隊司令官で無事な者は?」

 

ジャン・ロベール・ラップ「…残念ながら小官以外残っていない様です。各分艦隊司令官に通信を試みたのですが、応答無く、恐らく先の戦闘で…。」

 

パストーレ「致し方ない、第六艦隊はこのまま我が艦隊の指揮下に入ってもらう、ラップ少佐、ペルガモンは健在か?」

 

ジャン・ロベール・ラップ「損傷は有りますが、航行、戦闘ともに問題ありません。」

 

パストーレ「では貴官はそのまま第六艦隊残存兵力を率いてくれたまえ、流石に我が分艦隊に再編する時間は無い、このまま吸収する。大変だと思うが何とか励んでくれたまえ。」

 

ジャン・ロベール・ラップ「承知しました!」

 

パストーレ「第二艦隊が来るまで、頼むぞ少佐。」

 

通信を切ると、私は内心喜んだ、ラップの生存は今後の同盟に大きくプラスされる要因になる筈だ。

何より…いや今はそんなことを考えている暇は無い。

戦況は振り出しに戻った、我が方は一万三千、敵は一万八千、然も我が方は損傷艦も入れてこの数なので実際の戦力は一万程度…いやそれよりも少ないかもしれない。

対する敵は殆どが戦闘可能艦だ。

恐らく次の戦闘でけりが付いてしまう。

 

パストーレ「最悪、ラップ少佐に無事な艦を引き連れて貰って第二艦隊方面に逃走してもらうか…。」

 

私は自分の死が避けられないものと覚悟し始めてきていた。

そもそも物語上ではパストーレという男はここで死ぬのだから何もおかしく無い、むしろ呆気なく死んだ男がここまで善戦したのだから寧ろ良い方かもしれない。

 

そう思っている矢先にラインハルトは艦隊を再編して攻めかかってきた。

初戦と同じ様に一斉射を仕掛けて来たのをこちらは全力の防御で防ぐが、やはり損傷艦も多い事から防ぐこと叶わず爆散する艦艇が次々と出て来た。

 

ラインハルト艦隊は徐々に圧力を加えて来た。

次から次へと艦艇が撃沈していく。

 

パストーレ「流石に無理か…!」

 

兵士「敵艦隊右翼後方より熱源!…提督、第二艦隊が到着しました‼︎」

 

パストーレ「来てくれたか!」

 

ラインハルト艦隊の右翼後方から現れた第二艦隊は友軍を救わんと砲火を集中した。

 

それに合わせ、第四、第六の連合艦隊も合わせて前進し、敵艦隊を圧迫する。

 

「勝てる…勝てるぞ…ここで討ち取れるかもしれない…あのラインハルトを!」

 

私は興奮を抑えられなかった。

 

だが主人公補正とは存在する物だ。ラインハルトはすぐさま艦隊を転進させ、何と第二艦隊に向けて砲撃を開始したのだ、急旋回からの一斉砲火で第二艦隊が混乱した隙を突き、紡錘陣形を組んで一挙に突撃を開始したのだ。

このカウンターには第二艦隊も堪らず、損害を出した。

 

第二艦隊は中央を突破されたかに見えた…だが帝国にも主人公補正があるのなら同盟にだってあるのだ。

 

分断された第二艦隊は…分断された様に見せかけ、逆に敵艦隊後方に喰らい付いたのだ。

 

「そうか…今ので、今第二艦隊を率いているのは…」

 

パストーレ「我々も続くぞ!第二艦隊の後を追うんだ‼︎」

 

追うものと追われるもの、両者はやがて円環を成した…。

 

アスターテの最終盤に起きた円形の戦いが起きた。

 

完璧な消耗戦に突入したのだ。

 

パストーレ「第二艦隊を呼び出してくれ。」

 

通信に出たのは、やはりヤン・ウェンリーだった。

 

パストーレ「パエッタはどうした?」

 

ヤン・ウェンリー「先の敵の攻撃で旗艦パトロクロスが被弾しその際に負傷されました。現在は自分がパエッタ司令の指示により指揮を代行しております。」

 

パストーレ「そうか、無事なら良かった。さて、用兵家としては君の方が私より何倍も上手だ、この後はどうすれば良いと思うか?」

 

ヤン・ウェンリー「現在双方消耗戦の形になっていますので、恐らくローエングラム伯は消耗戦の愚に気がつき、退却を開始すると思われます。それに乗じて我が軍も引くべきかと。何よりローエングラム伯は第四、第六艦隊双方を半壊させましたが、各個撃破には失敗しておりますので、これ以上戦おうとはしないでしょう。」

 

パストーレ「同感だ…とは言え、我が第四艦隊も第六艦隊も六割の損害を被ってしまった…戦略的価値は無いに等しいな。」

 

ヤン「両艦隊を合わせれば八割の戦力、寧ろ良くここまで持ち堪えて下さいましたよパストーレ提督。」

 

パストーレ「死にたくなかっただけだよヤン准将。」

 

そう会話しているうちにラインハルトは引き揚げた。

 

それに合わせ、私達も引き揚げた。

 

私は一気に疲れが襲って来て、その場に座り込んでしまった。

 

疲れた…本当に疲れた…。

 

今頃ヤンはラインハルトから電文を貰ってる頃だろう…そう思っていると…。

 

兵士「提督、敵将ローエングラム上級大将より電文です、ヤン准将と閣下に宛ててあります。」

 

パストーレ「私にだと⁈」

 

思わず声が出てしまった。

 

兵士が読んでくれた内容はこうだ。

 

「第二、第四艦隊の両将の勇戦に敬意を表す、再戦の日まで壮健なれ、ラインハルト・フォン・ローエングラム。」

 

光栄だ、実に光栄だ。

付け焼き刃に過ぎない戦術の戦いをしただけに過ぎないのに勇戦と評してくれるとは、これ程光栄な事は無い。

 

ヤンは物語通り返信しなかったと聞き、私もそれに倣った。

 

私は無事にハイネセンの地に降り立った。

 

降り立った私はハイネセンではヤンと並んでアスターテの英雄とされていたが、私はマスコミを振り切って統合作戦本部に向かった。

 

歴史を元の流れに戻さねばならない。

 

私は即日シドニー・シトレ元帥と面会し、とある提案をした。

 

シトレ「イゼルローン要塞攻略の指揮官をヤン准将、いやこの後少将になるのか…彼に任せろと?」

 

パストーレ「はい、先の戦いで共に戦い実感致しました。彼以外には不可能です。」

 

シトレ「指揮する艦隊はどうする?」

 

パストーレ「我が第四艦隊の残存艦艇の半数、そして第六艦隊の半数と新規建造の戦力を合わせた半個艦隊を組織すればよろしいかと。本当は一個艦隊組ませてやりたいとは思いますが、我が方は戦略上勝利はしましたが戦術的には負けておりますので、艦隊再編に力を入れねばなりますまい。」

 

シトレ「うむ、実はなパストーレ中将。私も同じ事を考えていた、だから驚いたよ。貴官も同じ事を考えていたとはな。」

 

パストーレ「私はこれ以上部下を失いたく無いのです、イゼルローンを落としてくれればひょっとすれば戦わずに済むかもしれない。そう願わずにはいられないのですよ。」

 

シトレ「全くだ、ところで貴官、昇格を蹴ったそうだな、然もその上国防委員長とも手を切ったとか…一体どうしたのだ?」

 

パストーレ「軍人としての本分に立ち返っただけです。それ以上でもそれ以下でもありません。」

 

とりあえずこう答えておいた。

 

トリューニヒトには睨まれ、大将のポストすら蹴った私にこの後何が待ち受けるのか…。

それは分からないが、一つ言える事は、今自分は転生先で生き残っているという事だ…尤も転生先が良かっただけかも知れないが。

いつ醒めるか分からない夢かもしれないこの現状…乗り越えて進むだけだ。

 

やれるところまでやってみるさ、私の銀河の歴史のページが途切れるまで…

 

fin…

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