もし銀英伝オタクがパストーレに転生して、転生後数時間で死亡するRTAを回避する事は可能なのか?   作:オラニエ公ジャン・バルジャン

10 / 12
もし銀英伝オタクがパストーレに転生して、転生後数時間で死亡するRTAを回避する事は可能なのか?『バーラト防衛戦篇』

勝ち戦…いや戦勝パレードにでも行くのかと意気揚々と出撃して行った同盟艦隊が半数近くにまで討ち減らされ、半ば満身創痍で帰ってきた事で同盟市民は青ざめ、その後怒り、怨嗟の声を上げた。

 

ラインハルト・ローエングラムは第二のルドルフだと口々に叫び徹底抗戦を叫ぶ始末だ。

 

一方の同盟艦隊も未だ怒気に駆られた将兵が大勢居たが、首脳陣は冷静にこの事態を憂慮していた…。

 

残存艦十万弱、その実簡単な修理で戦場に復帰出来る艦も含め、実働可能戦力は八万強しか居らず、残り2万隻は戦闘不能な損傷艦だ…。

ラップ、ウランフの艦隊が合流しても、半壊した二艦隊を含めても九万隻弱…。

 

一方の帝国軍も12万隻弱までその戦力を減らしていたが…帝国は捨て身の行動に出た。

 

帝都オーディンに残していた四万の予備戦力、後方司令官メックリンガー、帝都防衛司令官ケスラー両名の艦隊を呼び寄せ、その戦力を14万まで回復している。

 

尤もこちらも純粋な戦闘可能艦で計算すれば誤差の範囲である…然し無傷の艦隊が二艦隊、そしてイゼルローンには半壊したとは言えロイエンタール別動隊三万が控えている…。

 

どう足掻いても同盟の不利は覆せるものでは無かった…。

 

同盟軍はヤンを元帥に昇進させ、同盟軍の総司令官に任じた。

 

これは英雄を矢面に立たせるいつものパターンだが、宇宙艦隊司令官ビュコックに言わせれば、この状況を打破できるのはヤンしか居ないのだ。

 

そして自分はもしもの時に首を差し出す為にハイネセンに残留する為だった。

 

もう1人首を差し出す必要がある。

 

統合作戦本部長はボロディンの戦死で空席になり、誰かがそこに座らなければならない…。

 

志願していたでは無いか?とドーソンがその席に就くことになった…。

 

言わずもがな、あの時と状況が違い過ぎる、責任を取らされるためだけに座らされる統合作戦本部長の席など誰が望むものか。

 

ドーソンは最低限の仕事はしたが、軍の実務的な面はビュコックが握ることになった。

 

生存者、残存艦の集計という膨大な数字を扱う仕事を終えた同盟軍は一先ず戦力を分ける事にした。

 

ヤン総司令官率いるゲリラ戦部隊として第十三艦隊、モートンの第十四、メルカッツの第十五艦隊、カールセン第一艦隊、そしてフィッシャーの第十一艦隊がその任務に当たり、本土、つまりバーラト防衛をパストーレの第四艦隊、アップルトンの第八艦隊、ウランフの第十艦隊、ラップの第六艦隊が担当する事になった。

 

予備戦力、修復中の戦力をホーウッド、アル・サレムが統括する事になったが…この戦力が間に合うことはまず無い。

 

同盟軍の残存戦闘戦力は約八万八千、その内ヤンに五万、残り三万八千はハイネセン防衛に残り、帝国軍もイゼルローンを奪還したロイエンタール別動隊の残存戦力三万、ラインハルト本体が戦力をある程度回復させ残存戦力十二万隻…十五万対八万八千の圧倒的不利の戦いが始まろうとしていた。

 

 

そしてその頃ハイネセン最高評議会は政府、軍部の合同会議を行なっていたが、ここでも奇妙な展開が繰り広げられていた。

 

なんと主戦派だったトリューニヒトが和平論を振り翳してきたのだ。

 

それも半ば降伏に近い形であった。

 

それに対して和平こそ賛成すれど降伏する気はないとあくまで対等の対話を望むという事でジェシカ・エドワーズ和平派議員達は徹底抗戦を唱えたのだ。

 

トリューニヒトはこれ以上兵の命を散らすのは見るに耐えないと言ったが、ジェシカは散々あれだけ命を掛けさせたのに何を言っているのか、平和の為に隷属して同盟市民の自由と平等は守れるのかと吠えた。

 

まるで昨日までの構図が反転しているが、政治の場面ではよく見る光景だ…だが少なくともジェシカは戦いたいのではなく、隷属するのを良しとしないだけであった。

 

ジェシカは和平交渉団をガンダルヴァに送ることを提案したが、トリューニヒトはそれこそ火に油を注ぐ行為だと非難した。

 

寧ろここまで帝国軍の恨みを買ったのは軍部の所為だと更に責任を転嫁したのだ。

 

アイランズ、ビュコックはこれに反発。

 

自分達は同盟を守る為に最善の行動を取ったに過ぎない。

敵がそれを疎ましく、妬むのは当然だと反論したがもはや政治の場は話し合いなど望むべくもなかった。

 

ジェニー

「以上が現在の同盟の状況です閣下…閣下?閣下!父さん‼︎」

 

 

パストーレ

「あっ…ああ…。ありがとう…どうにもならなそうだな…。」

 

パストーレはホロ端末を弄るとヤンに通信を取った。

 

パストーレ

「ヤン元帥、どうやら我々は最善の行動を取って同盟の行末が決まるまでの時間稼ぎをしなければならないようですな。」

 

ヤン

「ええ…そのようです。我々はこの後すぐに出発します。」

 

パストーレ

「この戦局を打破する為にはローエングラム公を討つしかない…だが本当に出来るのかどうか…。」

 

ヤン

「私にも自信はありませんが、然し彼の人となりを思えばやってみる価値はあると思います。パストーレ提督、予定通り貴方にはハイネセンお任せしたい。」

 

パストーレ

「作戦通り行ったとして、ハイネセンに向かってくる敵が本当に現れるのですかな?」

 

疑問を呈したが、その実私にも分かっている。

 

原作ではヒルデガルド・マリーンドルフの策で双璧がハイネセンを急襲し、ヨブ・トリューニヒトは無条件降伏した。

 

それを防ぐ…双璧の戦力は四万程…対する防衛戦力は僅かに劣る三万八千…数の差こそあれど…決してやれない事はない。

 

ヤン

「もしもの備えとして誰かには残って頂かないと行けませんから。」

 

パストーレ

「了解した、帝国兵は一兵たりともハイネセンの地を踏ませぬよ。」

 

通信を切った後、私は大きなため息を吐いた。

 

前世…現代日本では確実に味わうことのない絶対的な憎悪とそれを引き起こした数々の惨事。

 

あり得ないだとか非現実だととかいう奴が居るだろうが、現に起こったのだから余計な口出しをしないで貰いたいなと言いたいレベルに凄まじい負荷が掛かっていた。

 

そしてそれを消化しようと今一人で奮闘している最中であった。

 

(150年分の対立の果てに生まれたメタファー…というには生々し過ぎたな…だが考えてみれば当然のことかもしれない。イデオロギーの対立から銀河を二分する国家が生まれ、そこに付随する同盟人、帝国人という民族が生まれれば同じ人類であっても同族意識など生まれる筈もない…我々は知らぬ間に民族浄化戦争をやっていたのかも知れないな…。)

 

一人独白しているうちに、ヤンのゲリラ部隊がハイネセンを出発した。

 

史実ならヤンが先ずイゼルローンを放棄してゲリラ戦を展開し、ビュコック率いる同盟艦隊がランテマリオでラインハルト本隊を迎え撃った後、バーミリオン会戦に繋がった…。

 

だがこの世界線はヤンがイゼルローンを放棄するまで時間が掛かったことで展開が前後している。

 

その影響か、帝国も戦力を減らしている…だがそれ以上に同盟は消耗してしまった。

 

無能…確かにそう言われても仕方がない…我らは勝ち過ぎた故に盲目になってしまった。

 

帝国が牙を研いでいる事にまるで気がつかないとは。

 

だがもう二度とそんな無様な真似はしない…。

 

ヤンがバーミリオンでラインハルトを討つにしろ、討たないにしろ、ハイネセンには決して近づけない。

 

それ自体が同盟の運命を変える。

 

これは私の確信であった…根拠は無いが…少なくとも同盟本拠地の地表核攻撃は防げる。

 

それだけでも同盟のロクデナシ(政府高官)共がふざけた真似をする可能性は少なくなるだろう。

 

パストーレ

「同盟各星系に偵察艦を派遣してくれ、敵の侵入を確認次第、動きを逐一報告するようにしてくれ。」

 

同盟が決死の構えを取る中…帝国軍は、正にヤンの奇術に踊らされていた。

 

ヤンのゲリラ戦の前に帝国軍は…取り分け補給部隊といった後方部隊は壊滅、或いは拿捕、または散り散りになって逃げる羽目になり、ヤン討伐に出撃した諸将は揃いも揃って煮湯を飲まされていた。

 

遂にラインハルトの勘気は限界に達し、自ら討伐すると決め、その為の作戦を展開した。

 

それに合わせ、帝国軍全軍が分散して同盟領侵攻を開始したとハイネセンにもたらされたのは宇宙歴801年4月の事である。

 

宇宙歴800年末のフェザーン占領から約五ヶ月、遂に天下分け目の決戦が始まろうとしていた。

 

ジェニー

「帝国軍本隊はバーミリオン方面に侵攻中、ヤン元帥の連合艦隊もバーミリオン方面に展開する模様です。その他帝国軍艦隊も各星系に侵攻中ですが…。」

 

パストーレ

「即座に救援に向かえるように侵攻速度そのものは速くない。そうだろう?」

 

ジェニー

「はい、敵はヤン元帥の読み通り、帝国軍本隊が戦闘を開始したと同時にヴァーミリオン方面に転進できる様に備えている節があります。」

 

パストーレ

「となると居住惑星の多い後方星系に到達する艦隊は少ないかも知れないな…。」

 

ジェニー

「敵艦隊到達の可能性のある星系には避難指示を送りました。各星系の警備艦隊が護衛につきハイネセン、タナトス星系には向かっています。」

 

パストーレ

「宜しい、民間人の被害は最小限に留めたい。フェザーンでは民間人に手を上げなかったかも知れないが同盟人となると話は別かも知れん…あれだけ殺し合った後だからな…。」

 

そこから数日、ヤンより一報が入る。

 

「敵艦隊ト交戦セリ」

 

バーミリオン会戦が始まったのだ。

 

会戦の開始と同時に帝国軍各艦隊は転進し、バーミリオンに向かった…二つの艦隊を除いて…。

 

ジェニー

「閣下!帝国軍の二個艦隊が周辺居住惑星を無視して真っ直ぐハイネセンに向かっているとの報告が入りました!艦数四万程との事です。」

 

パストーレ

「来たか、やはり双璧か…それとも…これより艦隊はバーラト外縁部に布陣し帝国艦隊を迎え撃つ。第四、第六、第八、第十艦隊は我に続け。」

 

ハイネセン衛星軌道より出陣するパストーレ艦隊をハイネセンの市民は歓呼の声で見送った。

 

同盟市民

「頼むぞー!ミラクル・ヤン(魔術師ヤン)!パストーレ・ザ・アイアンフィスト(鉄拳のパストーレ)!」

 

同盟市民

「帝国軍をやっつけてー!」

 

ジェニー

「すっかり英雄ですね。」

 

パストーレ

「悪名の間違いだろう。」

 

ラップ

「ジェシカ…必ず帰るからな!」

 

アップルトン

「まさかこんな日が来ようとはな。」

 

ウランフ

「イゼルローンの借りは返させてもらうぞ。」

 

ビュコック

「…うむ。ヤン、パストーレらにはくれぐれも気をつけてくれと伝えてくれ。」

 

ビュコックは同盟議事堂にいる全ての人間に聞こえる様に言った。

 

ビュコック

「たった今報告がありました。ヤン提督がバーミリオンにて敵本隊と交戦、帝国軍の別動隊四万が他の星系、惑星に目もくれず、ここハイネセンに真っ直ぐ向かっているとの事です。現在パストーレ麾下三万八千が迎撃に出撃しました。」

 

同盟議事堂は大パニックだ。

 

アイランズ

「修復作業中の二万隻は間に合わなかったか…!」

 

トリューニヒト

「アイランズ君、直ちに艦隊を呼び戻したまえ!もはや停戦し講和を申し入れるしかあるまい!」

 

ジェシカ

「議長!今ここで講和すれば、帝国にとって有利な条件で講和に応じなければなりません!同盟市民の個人の権利と自由を侵害される可能性すらあります!ここは軍部を信じて、対等な講和を結べる機会を見計らうべきです‼︎」

 

トリューニヒト

「エドワーズ代表!同盟軍がローエングラム公とハイネセンに向かっている艦隊の双方を止められるという確証はあるのですか?双方が失敗すれば其れこそ同盟はお終いだ。国体が残る今のうちに降伏すべきだ、それしか同盟を守る道はない!」

 

ジェシカ

「守るべきは国ではなく、個人の自由と権利でしょう!議長の仰り様によるならそうお考えになるなら何故早期講和に応じてくれなかったのですか!先のイゼルローン要塞防衛戦の時点で帝国に対し停戦交渉を申し入れて戦争を終わらせることが出来たのに貴方は「これは専制主義を打ち倒す正義の戦いであって今ここで終わるわけには行かない!」と我々の要求を受け入れなかったではありませんか!それを今更になって…恥を知りなさい‼︎」

 

ビュコック

(同盟政府はもう終わりだな…いっそ…いや、それではこれまでの犠牲が全て無駄になってしまう…若い者たちがなんとか踏ん張ろうとしているのならワシもここで粘らねばな…だがどうすれば良い…?)

 

バーラト星系外縁部、惑星シュリーナガル付近に同盟艦隊は布陣した。

 

密度の高いアステロイド帯が多いこの地は航行可能な航路が狭くなっている…その航路に小規模の機雷原を設置し、双璧艦隊を待ち受けた。

 

双璧艦隊がワープアウトするであろう宙域の近くでもあるこの地を決戦場に挑んだのはパストーレの対双璧戦術の基本概念によるものだった。

 

敵に機動戦をやらせてはならない…。

 

この一点だった。

 

奇しくも動機はともかく同じ作戦を先のリップシュタット戦役時に門閥貴族軍のシュターデンが行ったが功に逸る貴族を抑えきれず機雷群を挟んで両翼から包囲しようとしたが、返ってミッターマイヤーに各個撃破され敗れている…。

 

だがパストーレはその反省を活かし、この作戦を選んだのだ。

 

パストーレ

「正直負けない戦いをするならこれで良い…あくまで時間稼ぎだ。ここで双璧を討ち取るのは戦力的に困難だからな。」

 

双璧艦隊がバーラト星系に出現したのは宇宙歴801年5月1日のことだった。

 

航路上に展開された機雷群と同盟艦隊をみたミッターマイヤーは直ぐに僚友ロイエンタールに連絡を取った。

 

ミッターマイヤー

「アルテナ星域会戦の再来をやる事になるらしい。」

 

ロイエンタール

「らしいな、だが相手はあのパストーレにウランフ、ラップにアップルトン。ヤン・ウェンリーに勝らずとも劣らぬ名将達だ。一筋縄ではいかんだろうな、どう見る?」

 

ミッターマイヤー

「戦力差は殆どない事を鑑みると敵が戦力を分けるとは考え難い、あるとすれば、機雷群を迂回して我が後方に出るか、我々の頭を抑えるかだ。」

 

ロイエンタール

「機動力は我らの方が、とりわけ卿の方が圧倒的だ。自ずと戦いの主導を握るのは我らになるだろう。」

 

ミッターマイヤーの隣に立つヒルデガルド・マリーンドルフをロイエンタールは一瞥し、こう明言した。

 

ロイエンタール

「フロイライン・マリーンドルフ。貴方の献策を無駄にするような真似は致しましせん。必ずや同盟軍を倒し、ハイネセンにまで辿り着いて見せましょう。」

 

ヒルデガルド

「ロイエンタール、ミッターマイヤー両提督にはお手数をおかけしますが、どうかお願いします。」

 

ミッターマイヤー

「お任せを、全てはローエングラム公の為に。」

 

ロイエンタール

「では、戦場で会おう。」

 

帝国艦隊が前進を開始したのはこの通信の直後であった。

 

パストーレ

「来たか…砲戦用意。各艦隊所属の各戦隊長に通達、指示あり次第その通りに行動せよ。」

 

ジェニー

「本当にあの戦い方で大丈夫なのですか?」

 

パストーレ

「今回のような戦いならな。双璧がこの絡繰を見破ったとしてもその代償はしっかり払わせる。払ったら最後敵はハイネセンを脅かす事は出来なくなる。」

 

同盟兵

「敵艦隊、機雷原右翼より纏まって移動開始しました!」

 

パストーレ

「全艦急速前進‼︎敵艦隊の頭を抑えろ!突っ込むつもりで行けぇ‼︎」

 

帝国軍は機雷原右翼(同盟から見て)から迂回しようとしたが、そこに同盟艦隊が興奮した狂犬の如く襲い掛かった。

 

双方の最前線は混戦模様になった。

 

ミッターマイヤー

「頭を抑えてきたか!だが焦って抑えたところでこの乱戦では消耗するのはそちらだぞ!」

 

パストーレ

「そんな事は百も承知だ、よし一度乱戦を解け、敵が追撃してくるようならその時点で作戦を開始する。」

 

同盟、帝国共に乱戦による戦力消耗を愚策と考え…ひょっとすれば先の戦いの不始末を恐れてかもしれないが、早々に解いたが、仕切り直した途端に動いたのは帝国の艦隊だった。

 

ミッターマイヤー

「バイエルライン、ドロイゼンの艦隊を突撃させて、敵第四艦隊を掻き乱せ!パストーレを抑えれば同盟軍全体の動きは鈍くなる!」

 

ジェニー

「敵ミッターマイヤー艦隊より二個分艦隊突出してきます。」

 

パストーレ

「各分艦隊司令官に打電、前列軟化、500程敵を入れろ、その後敵側面に当たる戦隊は火力増大。」

 

バイエルライン

「よし!何が鉄拳だ、脆い、脆いぞ同盟軍‼︎」

 

ドロイゼン

「ん?…まずいッ!退くぞバイエルライン!これは罠だ‼︎」

 

バイエルラインとドロイゼンの艦隊は確かに第四艦隊に突撃し、その戦列を乱した…だがそう思っただけに過ぎなかったのだ。

 

第四艦隊はスライムのようにバイエルラインとドロイゼンの突撃を受け止め、その力を往なし、更には突撃地点を凹状に変形させ、艦隊を絡め取って身動きを取れなくして半包囲を作り上げ、そこからレーザーの猛射を加えたのだ。

 

バイエルライン、ドロイゼンはそれぞれ直属の上司とその盟友の助けを得て脱出したが、その戦力は半数以下にまで減らされた。

 

第四艦隊だけでは無い、同盟軍全体がこの奇妙な戦いを展開したのだ。

 

ミッターマイヤー、ロイエンタールが様々な戦術を駆使して同盟艦隊に襲い掛かるがその全てを同盟軍は防いでしまったのだ。

 

ミッターマイヤー

「この不気味な戦いはなんだ…?同盟軍は一体どうなったのだ?」

 

ロイエンタール

「守り、迎撃するが決して攻めて来ない。消極的に見えて、その実反撃は怠っていない…。だが我らはその先を行かねばならぬ。この壁を抜けねばならないが…さてどうするか…。」

 

その頃惑星ライガールでは、パストーレ夫人エマリーが自身の手荷物に見慣れないメモリーカードが入っているのを見つけ、端末に差し込んでいた。

 

そのメモリーカードには娘の名前が記され、これを見る様にとメッセージカードも添えられていた。

 

ジェニー

「ママ…お別れを言わせてください。帝国軍は別動隊を編成してハイネセンに向かってくるそうです。そしてそれを止められるのはパパの艦隊を含め三万八千隻、敵は四万隻…数の上で劣勢だけどハイネセンへの侵入だけは何としても阻止しないと同盟は滅びてしまいます。パパは…それを絶対阻止する方法を考えつきました…それは…。」

 

娘の口から聞かされた作戦を聞いたエマリーは口を抑え驚愕の表情を浮かべた。

 

ジェニー

「恐らくパパは私を脱出させようとするだろうけど、私はもう自由惑星同盟の軍人です、最後まで職責を全うしたいと思います。ママ…大好きだよ…。生き延びてね…さようなら…。」

 

エマリーは直ぐにとある場所に通信を入れた。

 

そして通信相手に今娘から聞かされた同盟軍の作戦を伝え、必死に娘を、夫を、艦隊の将兵を救う様懇願したのだった。

 

バーミリオンではヤンとラインハルトが、バーラトではパストーレ達と双璧が死力を尽くして決戦を繰り広げている中、夜のハイネセン市街を眺め一人溜息を吐くビュコックが居た。

 

同盟の民衆は降伏と徹底抗戦で割れて既に混乱の極みにあった。

 

ビュコック

(勝っても負けても同盟はただでは済まないのだろうな…。帝国軍をあのまま同盟領への侵入を阻めていたら…或いは…。)

 

チュン

「閣下、ラップ代表とアイランズ国防委員長がお見えです。」

 

ビュコック

「?」

 

二人はビュコックに驚愕を齎す話を持ってきた。

 

ビュコック

「軍の力でトリューニヒトらを拘束して、クーデター政権を立てるじゃと!?」

 

ジェシカ

「もう、これしかありません。このままトリューニヒトの言いようにさせてしまえば、同盟は帝国に隷属し、今まで戦って散っていった将兵達の犠牲を無駄にし、そして今尚、戦っている兵士たちに犠牲を強いてしまう事になります!」

 

ビュコック

「ラップ夫人…ワシにクーデターを…グリーンヒル大将の様になれと言っておるのかな?」

 

ジェシカ

「いいえ、ビュコック提督お一人に責任を負わせるつもりはありません。私とアイランズ国防委員長もその咎を受ける覚悟です。」

 

ビュコックは確かに現在の同盟を思えばトリューニヒトを更迭した方が良いと思った。

 

だがそれでは救国軍事会議の連中と何も変わらないのでは無いかと了承出来ずにいた。

 

ジェシカ

「ビュコック提督、同盟が滅びるか滅びないの問題ではありません。同盟市民130億の個人の権利と自由が脅かされ、今戦っている数百万将兵の命が掛かっています…。今少なくともバーラト星系で戦闘中の我が同盟艦隊全将兵は国家の為に殉死するつもりなのを提督はご存知ですか?」

 

ビュコック

「何ですと!?」

 

するとアイランズは部屋の扉を開けるとそこに立っていたのはパストーレ夫人エマリーであった。

 

エマリーが語ったパストーレの作戦…それは…

 

ビュコック

「艦隊七万八千隻の対消滅も辞さない消耗戦に持ち込んで帝国軍を諦めさせる…だと…!」

 

本来ならこんな戦い三流の戦術家ですらしない。

 

だがパストーレは双璧と戦うには現行戦力では勝利は不可能と割り切っていたのだ。

 

そこで出撃の数時間前、彼は、ウランフ、ラップ、アップルトンを呼び寄せ、自身の覚悟を伝えた。

 

そして抗命する権利もある事も伝えた。

 

パストーレ

「少なくとも、私はもうこれしか無いと考える。双璧程の名将が消耗戦の愚に気がつかないという事は無いと思うが…あれだけ憎悪に任せた戦いをした後だ…確証はない。」

 

ウランフ

「……。」

 

パストーレ

「諸君らには私の凶行を拒絶する権利がある。今私を止めるつもりなら是非そうしてくれ。そして何としても私の代わりにハイネセンに敵を近づけないことを約束して欲しい。」

 

ラップ

「ハイネセンには私の妻が居ます、生まれたばかりの子供も、帝国の手に委ねる位なら、私は死を選びます。」

 

アップルトン

「民主主義の軍人の本分を全うすべき時が来たという事でしょうな、今やハイネセンには数多の同盟避難民がおります。」

 

ウランフ

「多くの市民が集まる首都星に引き篭もるほど落ちぶれてはおりませんよ。」

 

パストーレ

「皆、済まない。諸君の命は私が貰う。出撃前に艦隊の将兵には離艦許可を出す。人数不足になる可能性は高い。そこは了承してくれ。」

 

だが艦隊の将兵達は誰も離艦しなかった。

 

それぞれの艦隊司令官が尊敬に値する人物であった事もあるかも知れない。

 

だがもはや自分達の故郷が戦火に焼かれようとしている。

 

それを見ないで済むのなら死ぬほうがマシだと思ったのだろう。

 

こうして三万八千隻の殉教者の艦隊が出来上がった訳であった。

 

同盟軍の不気味な戦い方は帝国軍将兵を畏れさせていた。

 

完全に自分達の動きを相殺する同盟艦隊は少なからずの損害を出しているにも関わらずまるで動じないのだ。

 

ミッターマイヤー

「まさかな…いやだとしたら…。」 

 

ロイエンタール

「舐められたものだな…。」

 

双璧は遂に同盟軍の絡繰を見抜いた。

 

両軍が再び乱戦を解くと、帝国艦隊は基本的な陣形のまま、前進した。

 

魚鱗や紡錘陣形をとった突撃では無くただ前進で有った。

 

砲火を交えながら前進した帝国艦隊は同盟軍と打って変わって互角の戦いを繰り広げたのだ。

 

ミッターマイヤー

「やってくれたな‼︎」

 

ロイエンタール

「奴ら、我々と無理心中するつもりだったのだな!」

 

レッケンドルフ

「と…申しますと?」

 

ロイエンタール

「我らが敵に対して行動を起こす時、人間の体が動く時必ず何処かが動くように軍に僅かな動きが出来る。パストーレはその動きを読んで的確に対処し防ぎ続けた。だがこれは裏を返せばこちらが何もしなければ敵も何も出来ない。そうなれば単純なぶつかり合いが最も効率の良い戦い方になる。」

 

レッケンドルフ

「まさか!敵の狙いは!?」

 

ロイエンタール

「自分達を犠牲に我が全軍を完全な消耗戦の中に引き込む事だ。最悪自分達が玉砕しても我が艦隊が戦略的にも戦術的にも無価値なレベルまでに削り取るつもりだ。事実上の無理心中だ。」

 

レッケンドルフ

「敵軍は正気なのですか!?こんな戦い方兵が先ず保ちません‼︎」

 

ロイエンタール

「敵数百万将兵全員が死を覚悟している。死してもハイネセンに辿り着かせまいとしている。危険だ、今のパストーレと戦うのは…だが我々の目前には勝利がある!我が艦隊はミッターマイヤー艦隊の突破を援護する‼︎」

 

ロイエンタールから敵の戦術の委細を聞いたミッターマイヤーは全軍を鼓舞した。

 

ミッターマイヤー

「敵は捨て身だが、言い換えれば絶望感に陥った自殺願望者の集団に過ぎない!そんな連中に帝国軍人は屈しない!艦隊を紡錘陣形に組み直せ!一挙に突破する‼︎」

 

ジェニー

「閣下、敵が気がついたようです。」

 

パストーレ

「全艦に通達、誓約を果たせ。」

 

この伝令が同盟軍全体に広がったと同時に、突破するミッターマイヤー艦隊の艦艇に同盟軍の艦艇が突進し、爆散した。

 

他にも追突した勢いそのまま機雷原に突入し爆散した艦も現れた。

 

ミッターマイヤー

「特攻だと…‼︎」

 

ミッターマイヤーの怒りは頂点に達した。

 

ミッターマイヤー

「敵総旗艦アルケイデスを探し出せ‼︎‼︎この愚行を終わらせる!」

 

アムスドルフ

「閣下!ま、前を‼︎」

 

ベイオウルフに立ち塞がったのは戦艦アルケイデス以下直衛部隊だった。

 

パストーレ

「ウランフ、ラップ、アップルトンに通達、三提督はロイエンタール艦隊撃破に注力すべし、ミッターマイヤー艦隊は我が第四艦隊が引き受ける。」

 

ジェニーはただ淡々と戦い続ける父が恐ろしくなっていた。

 

あれだけ生き延びる事への執着が凄まじかった父が今やこの場にいる命全てを死に至らしめんとしている。

 

だがジェニーは今時の女子であったがこう見えて読書家であった。

 

だからこそ何かで読んだ記憶があった。

 

生に執着していた者がそれを止めた時、その者は鬼気迫る何かが宿るものだと…まさに今の父はそうなのだろう。

 

乱戦の中で起きた艦隊旗艦同士の撃ち合いが始まった。

 

先に砲撃したのはベイオウルフだったが、アルケイデスの強固なシールドを破る事は出来なかった。

 

次にアルケイデスが砲撃したが、砲艦の火力といえど第二世代試験艦の中で最高傑作であるベイオウルフ級の堅固な防御を破るのは容易いことでは無く、こちらも有効打を与えられなかった。

 

互いの総旗艦が撃ち合う中、双方の直衛艦も目の前の敵艦を沈めんと殺到し、何より互いの司令官の危機に艦隊は決闘場に殺到した。

 

その頃同盟首都ハイネセンでも動きがあった。

 

降伏か徹底抗戦或いは交渉の是か非かを問う最後の話し合いをすべく、同盟の全政治家達が集まっていた。

 

だがこの場に居ないものが居た。

 

ジェシカとアイランズであった。

 

この二人抜きでは始められないが実態は一刻も争った。

 

最高評議会議長権限で採決を取ろうとトリューニヒトが言った瞬間!

 

ジェシカとアイランズが武装した同盟兵を大勢引き連れ議会に入ってきたのだ‼︎

 

政治家、取り分けトリューニヒト派の議員達は全員銃を向けられた。

 

そして最後に入ってきた人物にトリューニヒトは銃を突きつけられた。

 

トリューニヒト

「何のつもりだビュコック提督‼︎」

 

ビュコック

「失礼議長閣下。然しこうするしか手が無いようなのでな。」

 

この議会の様子は全国中継されて居た。

 

カメラを回すマスコミにジェシカは言った。

 

ジェシカ

「カメラは決して止めないで下さい!私達の罪をこの戦いの後、裁くために!トリューニヒト議長、私達は武力を持って政権を奪取させて頂きます。抵抗する様ならこの場で射殺します!」

 

トリューニヒト

「血迷ったかラップ代表‼︎」

 

ジェシカ

「何と言われようと結構です。全ては戦争を終わらせる為…ビュコック提督。」

 

ビュコック

「トリューニヒト議長以下、与党議員の方々を丁重にお連れしろ。危害を加えてはならん。」

 

トリューニヒト

「は、離せ‼︎後悔するぞジェシカ・エドワーズ・ラップ‼︎お前こそ真の売国奴だ‼︎‼︎」

 

ジェシカ

「……。今この出来事を見た同盟市民の皆様にはこの様な無礼を許して頂きたく思います。ですが、どうか!今大勢の人間が戦っているこの現状を終わらせる為一時だけ御協力下さい!私は現時刻を持って同盟政府代表を法的権限を無視して、簒奪します。そして同盟軍全軍に戦闘の停止と帝国軍に停戦を申し入れます‼︎」

 

ミッターマイヤー

「…何だと!?それは本当か‼︎」

 

アムスドルフ

「間違いありません。」

 

ミッターマイヤー

「全軍攻撃停止‼︎」

 

パストーレ

「?どうした、何故手を止めた?」

 

ジェニー

「閣下、ハイセネンから戦闘停止命令です‼︎」

 

パストーレ

「戦闘停止…?全艦撃ち方やめ‼︎」

 

地獄の乱戦模様と化していたバーラトの戦いは沈黙した。

 

程なくして同盟、帝国全軍に声明が放たれた。

 

ジェシカ

「私は自由惑星同盟最高評議会議長、ジェシカ・エドワーズ・ラップです。私は帝国軍全軍に対し停戦交渉を申し入れさせて頂きます。どうか聞き受けてください。さもなければ…さもなければ我々は帝国宰相、ラインハルト・フォン・ローエングラムの身の安全の保証はしかねます。」

 

新たに現れたスクリーンには総旗艦ブリュンヒルトの目の前に戦艦ヒューベリオンが立ち塞がり、もしヒューベリオンが一斉射を放てばブリュンヒルトは当にこの宇宙から消滅する事は必定と言える距離まで詰められている光景だった。

 

ジェシカ

「人質を取る様な真似をした事は深く謝罪致します。然し、私達の願いは平和なのです!もう両軍とも散々殺し合った筈です!それでも尚、足らぬと言うのですか‼︎」

 

ジェシカの声明をラインハルトは腹立たしく聴いていた。

 

戦術にはヤンに敗れた挙句、自分が人質にされた事への屈辱に耐えきれなかった。

 

少なくとも他の帝国将兵達はラインハルトがヤンに戦術的敗北を喫したとは思わなかったが、ラインハルトはそう思っていた。

 

オーベルシュタイン

「閣下…。ここは停戦交渉をお受けになるべきです。」

 

ラインハルト

「卿まで、俺を惨めにさせたいのか‼︎」

 

オーベルシュタイン

「閣下、ここで停戦を受け入れたところで同盟の劣勢は変わりません。今は退き、再戦すればその時こそ同盟は抗えずに滅び去ります。今は帝国臣民二百七十億の事をお考え下さい。貴方を失えば、それこそ帝国は瓦解致します。それに停戦ともなれば現状を鑑みると我らが有利に立てずとも敵も有利には立てますまい、向こうから要請している上に敵の首都の目前まで我が軍は迫っております。五分の条件に留まりましょう。」

 

ラインハルト「今は退くだけだ…!必ず再戦する…停戦交渉を受け入れると同盟に伝えろ!」

 

オーベルシュタイン

「御意。」

 

ジェニー

「全軍に戦闘停止命令が下りました。」

 

パストーレ

「多くの犠牲を払った…余りにも多くの…全軍後退せよ、帝国艦隊に打電、機雷原を起爆する為、安全圏に退避せよと伝えろ。」

 

ミッターマイヤー

「下劣なパストーレめ!自らの部下を犠牲にして得たこの結果に満足だろうな‼︎だが必ず犠牲になった者達の後を追わせてやるぞ‼︎」

 

ロイエンタール

「どうかな…奴は卿の前に現れて見せた。奴は自らの命と引き換えに卿を亡き者にする覚悟を最初からしていたのでは無いか…?でなければ部下に死を強要して、自分は戦場の遥か後方で高みの見物を決め込んでいた筈だ。」

 

同盟の使節団を乗せ、戦艦リオ・グランデはハイセネンを出発した。

 

その傍をパストーレ率いる連合艦隊と帝国の双璧の艦隊が固めた。

 

バーミリオンでは戦艦ヒューベリオンと戦艦ブリュンヒルトが接舷して待っていた。

 

戦艦ブリュンヒルトの応接室で交わされた停戦合意は後にバーミリオンの和約として語られ、帝国、同盟、双方は二十年の停戦を約束し、帝国は同盟全領土の返還と、自由惑星同盟を銀河連邦の後継国家として認め、同盟はイゼルローン要塞を返却する事で合意した。

 

こうして150年続いた戦争が漸く終わったのだ…。

 

fin…

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。