もし銀英伝オタクがパストーレに転生して、転生後数時間で死亡するRTAを回避する事は可能なのか?   作:オラニエ公ジャン・バルジャン

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もし銀英伝オタクがパストーレに転生して、転生後数時間で死亡するRTAを回避する事は可能なのか?『暗躍・再戦への序曲篇』

自由惑星同盟と銀河帝国ゴールデンバウム王朝の戦争は終わった。

 

銀河帝国ではなし崩し的にローエングラム王朝が誕生したが歓呼の声で叫ぶ者とそうでない者とで別れ、その粛清がオーベルシュタイン軍務尚書の手によって速やかに行われていた。

 

本来ならそれに対して難色を示すであろうローエングラム古参の提督達ですらその粛清に協力する始末であった。

 

彼らは粛清に耐えかね(そもそも粛清対象はこの時点で帝国において少数派であった)、自由惑星同盟へと亡命した。

 

そしてフェザーンへ遷都し、ローエングラム王朝は改革と流血の中で産声を上げた。

 

それでも大多数の帝国民はその犠牲は裏切り者への罰として受け止め叫んだ。

 

ジーク・カイザー!と…。

 

その頃同盟は同盟で大きく変化を迎えた。

 

エドワーズクーデター政権は、停戦交渉合意後、即解散した。

 

ジェシカ・エドワーズ・ラップ代表・アイランズ国防委員長は政界から身を引き、ビュコック宇宙艦隊司令長官は引退した。

 

政治に於いてはレベロ議員が最高議長に就任し…軍部に於いては…。

 

パストーレ

「何でワシが宇宙艦隊司令長官及び統合作戦本部部長なんじゃボケー‼︎‼︎」

 

ジェニー

「文句言ってもしょうがないでしょう?ヤン閣下は退役されて、他の提督達もみんな揃って嫌だって断ったんですから閣下しか居ないでしょ?」

 

パストーレ

「あいつら、絶対面倒ごとは御免だと思って早々に逃げたろ‼︎人が忙しい時にやれ退役だの、現場が良いだの駄々捏ねやがって‼︎」

 

キーキー金切り声を上げるこの中年の哀れな男が当面同盟軍の全権を握ることになった。

 

とは言いつつもパストーレはその全権を振るいに振るった。

 

パストーレは先ずトリューニヒト派の軍人達を軒並み懲戒免職、或いは軍紀に則って銃殺刑に処すなど粛清し、嘗ての膿を根こそぎ捻り出した。

 

そして地方や辺境で燻っていた有能な人材の登用など熱心に勤め、その傍らで不本意な軍備増強を進めていた。

 

損失した第三、第十四(バーミリオン会戦時に艦隊司令官モートン中将戦死につき解体)艦隊の再編は一度諦め、残存した艦隊の早期再建に努めていた。

 

というのも帝国軍も停戦合意後即艦隊再建を推し進めていると件の商人から情報を得たパストーレが、レベロ議長との協議の末、財政に余力を持たせつつという形で進めることになった。

 

パストーレ

「あの戦争狂絶対許さねぇ!あの小僧、ヤンと何を話したんだ‼︎何も影響受けていないではないか‼︎」

 

ジェニー

「そもそも閣下も、ヤン閣下とカイザー・ラインハルトが何を話したか知らないでしょうが…。」

 

パストーレ

「そんで近々自分の側近の貴族令嬢と結婚だろう?あれ絶対デキ婚だからな!今に見てろ、直ぐに子供産まれたってニュース流れるぞ、そうに違いない‼︎」

 

ジェニー

(父さん、カイザーに何の恨みがあるのか知らないけど、貶し具合が止まらない…。多分凄まじい仕事量でやさぐれてるだけだと思うけど…て言うか私これ聞き続けるの嫌なんだけど…。)

 

とはいえ同盟軍のトップが喧しく文句を垂れる余裕がある程一応平和な時間が流れていた。

 

他にも何人かの動向を触れておかねばならない。

 

帝国では双璧がそれぞれ宇宙艦隊司令長官と統帥本部部長に就任し、その他提督達も上級大将へ就任した。

 

ヒルデガルド・マリーンドルフもまた、皇帝の妃になった…決戦の後、負けた事への失意や感情に任せて多くの将兵を死なせた事への罪悪感なり何なりあったのか…後は原作通りの展開を迎えたようだ。

 

少し違う点があるとすれば彼女はこの危うい皇帝の手綱を握るぐらいの気位が出ていたという事だろうか。

 

フェザーンでは、ルビンスキー一行の行方は未だ掴めなかった。

 

この梟雄の行方を帝国、同盟は必死に探したが相変わらず手掛かりは掴めずにいる。

 

ルビンスキー危険論はパストーレが同盟内で声高に叫び、帝国に於いてもこの食えない男がカイザーに刃を向けかねないと危惧する者がおり、見つからずとも決して陽の目を浴びさせまいと必死になった。

 

陽の目を浴びないと言えば、トリューニヒトもはたと行方を眩ました。

 

クーデター時に身柄を更迭されていたはずだったが、停戦のゴタゴタに乗じて一家と共に何処かへ逃亡した。

 

だが少なくともこの時ハイネセンは一隻の民間船も出航をさせまいと宇宙港を封鎖している。

 

つまりハイネセンには居る…だが何処なのか…少なくとも首都ハイネセンポリスではない。

 

パストーレは公には出来なかったが、トヒューニヒトの行方を探し、事と次第によっては暗殺すら辞さぬ覚悟であったが、こちらもようとして行方を掴めずにいた。

 

この日、第十三艦隊が新司令官ダスティ・アッテンボロー中将麾下になって最初の訓練航海からハイネセンへ帰ってきた。

 

この日副官にして娘であるジェニファー・パストーレは何処か上機嫌で唇には淡くルージュを塗っていた。

 

ジェニー「それでは閣下、私はこれで失礼させて頂きます。」

 

パストーレ「あっ、ああ。夕食はどうするのかな?」

 

ジェニー「外で済ませてきます。あまり遅くには帰らないつもりです。」

 

パストーレ「そ、そうか。母さんには伝えておく。」

 

ジェニー「それでは、閣下…父さん。」

 

ジェニーは敬礼すると、パストーレも返した。

 

娘が部屋を出ると、パストーレは大きな溜息をついた。

 

そう、ジェニーにボーイフレンドが出来てしまったのだ…。

 

それも、何と第十三艦隊空戦隊所属ピーター・リーマー少尉だと言うのだ。

 

何処で知り合ったかは分からないがバーミリオン会戦前に互いの友人伝手で知り合い、互いに生き残った事で交流し、今では半ば交際紛いの関係になっているという…。

 

パストーレ(この歴史では同盟四エースは健在…もし、ポプランらの影響を受けてとんだプレイボーイにでもなって娘に手を出していたらその時はトマホークで一刀両断にしてやる…!)

 

この時のパストーレは激務も祟って、面倒くさい親父になっていた。

 

そのめんどくさい親父は第十三艦隊から一人の男を招いていた。

 

バグダッシュ中佐であった。

 

バグダッシュ「小官をお呼びとの事で。」

 

パストーレ「すまんね、諜報活動の達人である君に少し意見を聞きたくてね。」

 

パストーレは事の仔細を話した。

 

先ずトリューニヒト派の生き残りがどこに潜伏するだろうかという意見を聞きたいという事、最近ヤン退役元帥の周りで正体不明の人物の姿が確認されているという事、そして地球教徒対策であった。

 

バグダッシュは先ず、トリューニヒト派がハイネセンを脱出出来たとはやはり思えないのでハイネセンの何処か、それもとんでもない田舎ともいえる郊外に隠れている可能性が高いだろうと意見を述べ、ヤン退役元帥の件に関しては、そちらでも情報が分からない以上正体は分からないが、帝国の間者が一番可能性があるだろうから、ヤン夫妻の新婚生活を邪魔しない様にこちらも密かに人材を派遣してもいいかもしれないと意見を述べ、必要ならローゼンリッターにも話を通しておくと付け加えた。

 

そして最後、地球教徒に関しては帝国とは違い、何も事を、少なくとも今は起こしていない以上検挙なり排除には動けないだろうと述べ、逆に何か企んでいる証拠があれば動けるだろうと意見を述べた。

 

パストーレ「第十三艦隊がハイネセンに駐屯している間で構わない。貴官の力を貸してくれないか?取り分けヤンの件に関しては何かあれば事だ。そこはレベロ議長も了承していて、シークレットサービスを派遣してくれようとしていたんだが、ヤンに断られていてな。」

 

バグダッシュ「ヤン提督ならそういうでしょうね。分かりました小官の力をお使い下さい。」

 

二人は握手を交わすとバグダッシュは去っていった。

 

その後すぐにバグダッシュは艦隊司令官アッテンボロー中将、本土防衛司令官に赴任していたシェーンコップ中将、イゼルローンを返還したことにより本部勤務になっていたキャゼルヌ中将とレストラン「マーチ・ラビット」にて夜会を開いた。

 

アッテンボロー「鉄拳閣下は余程トリューニヒトの息の根を止めたいと見えるな。」

 

キャゼルヌ「だが、幾ら悪政を敷いた政治家とはいえ、魔女狩りの様に隅々まで探し出して公に手を下す訳にいかん。良くて完全な監視下、悪くても暗殺を企んでいるとみるべきだろうな。」

 

シェーンコップ「トリューニヒトを亡き者に出来るなら喜んで私は協力するがね。」

 

バグダッシュ「然しトリューニヒトはもう何も出来ません。もう彼に阿る政治家達は押さえ付けられてますし、軍人に関してはパストーレ閣下が軒並み粛清しましたからね。取り分けロックウェル大将の粛清は尋常沙汰じゃありませんでしたからね。」

 

アッテンボロー「軍法に照らし合わせて幕僚共々公開の銃殺刑…アレには正直恐怖を覚えたね…ひょっとして独裁者になるつもりなのかと勘繰りたくもなった。」

 

バグダッシュ「然し、あれ以降の処罰は比較的穏当なものだった事を考えるとやはり見せしめの意味合いが強いのではないでしょうか?ロックウェルはトリューニヒト派の重鎮でしたからね。」

 

シェーンコップ「それよりもヤン夫妻にまとわりつく正体不明の人物の件の方が興味あるね。」

 

キャゼルヌ「それは俺の方でも相談を受けてる。だが政府も軍部もそれらしい行動を取っていない事を考えると、やはり外部の人間である可能性が高い。」

 

アッテンボロー「オーベルシュタインの間者ですか?」

 

キャゼルヌ「可能性としては一番それが高いが、なんとも言えん。」

 

シェーンコップ「カイザー・ラインハルトは銀河統一を諦めていない以上、ヤン提督が脅威になるのは重々承知でしょうからな。」

 

旧ヤン艦隊幕僚陣の夜会はここで終わったが、少なくとも第十三艦隊がハイネセンにいる間はローゼンリッター連隊の中で斥候を得意とする者を周囲に配置して何かあった時に備えると言う形で纏まった。

 

後日バクダッシュがヤンの件について報告するとパストーレも了承した。

 

パストーレ伝手にレベロにも伝えられたが、レベロは苦い表情を浮かべた。

 

これが帝国を刺激することにならないか、そもそも帝国は停戦中の相手国の退役軍人の生活を阻害しかねない真似を平気でする様な連中なのかと懸念と失望が入り混じっていた。

 

パストーレ「レベロ最高議長、数ヶ月後には帝国より特使が来るとか。」

 

レベロ「うむ、恐らく帝国の高級軍人の誰かだろう。」

 

パストーレ「シェーンコップ中将に対テロ作戦の対策を練らせたいと思いますがよろしいですか?」

 

レベロ「テロ?」

 

パストーレ「同盟・帝国内の過激派、更には地球教徒に対しての対策です。聞けば帝国内で帝都移転前のオーディンにて地球教徒に煽動された帝国貴族がカイザー弑虐を図ったとか、結局それは未遂に終わり、オーディン内の地球教徒は壊滅させられたと聞きます。同盟内にもまだ多くの地球教教徒はおりますので対策を練っておいても良いかと思います。連中は報復をする組織であることは先のラップ元代表暗殺未遂事件でもお分かりのはずです。」

 

レベロ「そうだな、そこは君に任す。だが危険分子という理由だけで彼らを捕らえることは同盟の憲法上出来ないことは君も分かっているね?彼らは地球教徒であると同時に同盟市民である事も忘れないでくれたまえよ?」

 

パストーレ「勿論です。」

 

パストーレはレベロの事務室から出た後、その足でヤン夫妻の住居に立ち寄った。

 

パストーレ「新婚生活を楽しんでいる様で何よりだ。覗き見する輩もいる様で少し残念だがな。」

 

ヤン「その覗き見する輩を幾人か増やした人が言う言葉じゃ無いでしょう?」

 

パストーレ「何だもうバレてたのか?すまないがやはり心配でな、ローゼンリッターの斥候を潜ませた。まぁ身辺警護と言う形で大目に見てやってくれないか?下手人が分からん以上警戒しておくことに越した事は無いだろう?」

 

二人は笑いながら会話を交わし、夫の隣で座るフレデリカ・グリーンヒル・ヤン夫人はクスクス笑っている。

 

ヤン「トリューニヒトの奴を探してるとも聞きましたよ?」

 

パストーレ「誰が漏らした?バクダッシュか?キャゼルヌか?余計な事を…。そうだ、奴は生かしておくと同盟の災いになる。生かすにしても監視下に置きたい。大凡共和主義の軍人の言う事じゃ無いが、奴を表舞台に立たせたら何が起こるか分からん。認めたくないが、乱世の奸雄曹操のその字もない三流だが、奸雄を名乗れる程度にはしぶとい上に頭は回るのでな。」

 

ヤン「それに関しては同感ですが、奴は報復は絶対にする男です。パストーレ提督もお気をつけて下さい。それと…」

 

パストーレ「ラップ夫人らの事か?それに関しても手は回してるよ。第六艦隊の駐屯地をタナトス星系に移した時に特例としてラップ夫人と御子息を旗艦ペルガモンに同乗させた。民間船ではそれこそテロの標的になるからな。邸宅にも最高の警備を付けてある。レベロ議長のシークレットサービスも私の手で信用出来る者を選抜した、ビュコック長官からは断られたが、こっそり護衛は潜ませた。一先ずは安心だ。」

 

ヤン「それなら、安心ですね。」

 

パストーレ「ところで…ユリアン君は何処に行ったのかな?第十三艦隊は帰ってきたのだから君のところに帰ってきてるものかと思ったが?」

 

ヤン「ああ、ご存知なかったのですか?ユリアンは今回の第十三艦隊の訓練航海には参加していないんですよ。代わりにポプラン、マシュンゴをお供に、フェザーンから脱出した時に世話になったフェザーン商人が私の友人でして、その友人に頼んで地球に旅に出ているんです。」

 

パストーレ「地球に?地球教の事を調べに行ったのか?」

 

ヤン「なんでも、フェザーンから脱出する際に一緒に乗り合わせた地球教の司祭から一度地球を見てみると良いと言われたそうで、そこから気になったそうです。」

 

人類の起源…そして悪辣な陰謀の巣。

 

そこに向かうのは並大抵の度胸では務まらないましてや信徒ではない彼らがそこに向かうのは危険そのものだ。

 

パストーレ「無事に戻れることを祈ろう。」

 

パストーレはヤンの邸宅を後にした。

 

それから数ヶ月。

 

ヤンを見張る者とヤンを守る者達が互いに身を隠しながら牽制するという当に綱渡りのような状況ではあったが、ヤン夫妻の新婚生活は平和に流れていた。

 

パストーレの方はトリューニヒトの行方やそれに加担するような者達が現れないかと目を光らせたが、その痕跡は見つけられなかった…。

 

そして遂に帝国から特使が派遣された。

 

ローエングラム王朝銀河帝国上級大将ヘルムート・フォン・レンネンカンプ上級大将が旗艦ガルガ・ファルムルと護衛を連れてハイネセンに訪れたのだ。

 

最高評議会議長レベロと同盟軍最高司令官パストーレは宇宙港にて出迎えた。

 

レンネンカンプ上級大将はヤン提督の行方を聞いたが、パストーレは彼が退役して今は一市民ですと伝えると彼はどういう心境か少し残念そうに会えなくて残念だと言った。

 

レンネンカンプはヤンに二度も煮湯を飲まされている。

 

復讐戦の機会を窺っていた筈だったが退役したとあってはそのチャンスは無いと残念がったのだろう。

 

だが史実は、オーベルシュタインの策でレベロにヤンを捕えるように焚き付けている。

 

この世界線でもやりかねないとは限らないが、今のレベロはそこまで落ちぶれることはない。

 

もしもの時は同盟はまだ帝国に抵抗できる。

 

強く出れるからだ。

 

政治の現場はレベロに任せ、パストーレは軍人らしく政治の現場からとっとと離れ、夜の予定に備えた。

 

遂にジェニーがピーター・リーマーを家に連れてくるのだ。

 

パストーレ「とんだゴロツキになってたら斧で叩き割ってやる‼︎」

 

と車中で息巻いていたが…その夜…。

 

パストーレ「いやこんな愉快な夜は無い‼︎さぁさぁこの酒も行けるだろうピーター君?さぁグイッとグイッと‼︎ワハハハハハハ‼︎」

 

ユリアン・ミンツの友人なのだ…そんな彼がパストーレが危惧したようなどうしようもない男の訳が無かった。

 

ちゃんと好青年だったのだ、その安堵からかパストーレは一気に気が抜け、酒の量がえらい勢いで増えた。

 

ピーター・リーマー青年も上官であり、ガールフレンドの父親からの薦めに逆らえずそれなりに飲まされていた。

 

幸運なのはピーター・リーマー青年が酒に強かった事である。

 

この場でスッカリ出来上がっているのはパストーレただ一人であった。

 

エマリー「貴方飲ませすぎですよ。ピーター君が倒れたらどうするんですか?」

 

パストーレ「家に泊まれば良いんだよ!どうせそのうちここももう一つ家になる‼︎」

 

ジェニー「ちょ!?パパ何言ってるの!?」

 

ピーター「閣下!?」

 

パストーレ「ダッ〜ハッハッハッハッ‼︎‼︎」

 

めんどくさい親父からめんどくさい酔っ払いに転職したこの中年親父が同盟軍最高司令官なのだから世も末である…。

 

いやある意味平和なのだろうか…?

 

だがこの幸せな空気はとある急報で打ち壊された。

 

パストーレ「ヤン提督が拉致されたとはどういう事だブルームハルト中佐‼︎」

 

ローゼンリッター連隊副隊長ブルームハルトをパストーレは叱責した。

 

ブルームハルト「誠に申し訳ありません!レンネンカンプ上級大将近辺の警備と監視に手を回していた為ヤン提督の邸宅の警備が手薄に…その間に政府の遣いを名乗る人間達に連れて行かれたとグリーンヒル少佐…じゃなくてヤン夫人が。」

 

パストーレ「レンネンカンプがレベロ議長を焚き付けたか?…だがありえんな…貴様らは行方を調べ上げろ‼︎」

 

ブルームハルト「ハッ‼︎」

 

パストーレは直ぐに政府ビルに連絡を取った。レベロに問いただす為だった。

 

だが代わりに出たのはホアン・ルイだった。

 

レベロは既に会談場として使うオペラハウスに向かっており今ごろ着いている頃だという。

 

パストーレ「ヤン提督が拉致されたのです。拉致した人間は政府の遣いだと。」

 

ホアン「そんなバカな話があるか‼︎何の咎もない退役軍人をどうして捕まえる様な真似をするんだ!トリューニヒト時代じゃあるまいし‼︎…トリューニヒトの仕業か?」

 

パストーレ「バカな!もう奴には力がない!私はレンネンカンプを疑っていますが。」

 

ホアン「それこそおかしいだろう!仮にも平和特使を務めている人間が外交問題を起こすだろうか?」

 

パストーレ「ですが軍務尚書オーベルシュタインはそうは考えますまい。奸計を用いてヤン提督を亡き者にしようとレンネンカンプ上級大将を焚き付けた恐れがあるかと。」

 

ホアン「兎も角、レベロには使いを出す!君はどうする?」

 

パストーレ「直ぐに本部ビルに向かいます。軍の総力を上げて彼を探します!」

 

エマリー「貴方…。」

 

通信を終えたパストーレは引き攣った笑顔を見せた。

 

パストーレ「心配ない大丈夫だ。少し本部ビルへ行くよ。ジェニー、ピーター君。君達は明日本部ビルに出頭したまえ、今日は私が飲ませてしまったからな一先ず休んでからだ。」

 

ジェニー「パパ、いえ閣下。ヤン提督の件ですが、単独犯であるとは考えない方が良いと思います。」

 

パストーレ「単独犯ではないとは?」

 

ジェニー「私はレンネンカンプ上級大将がやったとは思えません。やはりトリューニヒトの仕業だと思っています。そして彼は先の救国軍事会議の時どうやって難を逃れたかと考えれば、本当に彼に力が無いと言いきれますか?」

 

パストーレ「地球教か‼︎…だとしたら危ないのはヤンだけじゃ無い‼︎」

 

パストーレは妻に軍服を着るのを手伝ってもらい慌てて家を出た。

 

そして捕まえたエレカーの中から多方面に通信を入れた。

 

一つはキャゼルヌに向けて通信を送りヤンの身元を探す様に通信し、一つはシェーンコップに対テロ部隊出動の要請とレベロ、レンネンカンプの身柄の安全を確保する様に通達し、もう一方はホアンにレベロとレンネンカンプに危機を伝える様頼んだ。

 

一同は困惑していたが、ヤンの拉致がこの後に起こる凶事の引き金になるかもしれないというパストーレの懸念を話し、トリューニヒトの暗躍の可能性を伝えると皆、杞憂で済めば良いが筋が通ると納得しそれぞれの役目に奔走した。

 

その頃ホアンからの危機が迫っているという知らせより前にヤンが何者かに拉致されたという報告がレベロに届いていた…そして帝国の関与の疑いがあるとも伝えられた。

 

レベロはレンネンカンプに問いただしたが、彼は否定した。

 

だがヤンの失踪は同盟にとって危機であった。

 

レベロの口調は自然と強くなってしまい、レンネンカンプも気分を害し、言い争いに発展した。

 

その頃シェーンコップは部下を率いてオペラハウスの近くまで来ていた。

 

シェーンコップ

「現場に到着したら直ちに護衛対象の保護!その後は爆発物処理班が施設を調べる。その間怪しい動きをする者は片っ端から調べろ!」

 

と言い終わった刹那!

 

都市の一角が大爆発を起こした。

 

それはオペラハウスがあった場所であった。

 

シェーンコップがついた時にはオペラハウスは業火に包まれていた。

 

シェーンコップ「遅かったか…。」

 

その頃バクダッシュの活躍によりとある警察署にヤンが捕まっている事が判明し、パストーレは自分用に作らせた重装甲の装甲服を着込んで、フレデリカ、アッテンボロー、そしてリンツ、ブルームハルトらローゼンリッター連隊を全員を連れてその警察署を包囲した。

 

ブルームハルト「我々はローゼンリッターだ‼︎ヤン提督の身柄を解放しろ‼︎解放せず道を開けないならこの警察署を血塗れにしたって良いんだぞ‼︎」

 

警察官「ローゼンリッター!?」

 

警察官「何でローゼンリッターがここに!?ヤン提督を解放しろってどういう事だ!」

 

パストーレ

「どうやら事の次第を知らん者がおる様だな。私は同盟軍最高司令官パストーレである!軍はヤン退役元帥の身の安全を保証している。それを知ってこの狼藉に至ったのならこれは同盟に対する利敵行為と見做す。だがその職責に恥じる事の無いと思うのなら道を開けろ!さもなくばこの鉄拳を喰らわせてやるぞ‼︎」

 

警察官「パストーレ提督まで!?こ、殺されちまう‼︎」

 

警察官達は半ば逃げ出す様に道を開けた。

 

パストーレ「君らはヤン提督を探せ、私はここの責任者に会ってくる。」

 

リンツ「一個小隊供にお付けします。」

 

パストーレ「助かる。邪魔するなら…いないと思いたいが、その様な輩が出たら容赦するな!」

 

警察署長は当に恐怖と対面した。

 

突然鉄の塊を身に付けた大男達に首根っこを掴まれ壁に叩きつけられのだから。

 

その上斧まで突きつけたものだから警察署長は泣き出した。

 

パストーレ「言え‼︎誰の命令でヤン提督を逮捕した‼︎」

 

警察署長「政府の命令です!」

 

パストーレ「この後及んでまだ嘘を付くか、ならば貴様以外の者に聞いても良いんだぞ、貴様をこの場で処分した後でな‼︎」

 

警察署長「本当です‼︎政府の役人がヤン退役元帥が国家反逆の罪により逮捕したとこの署に連れてきたんです‼︎」

 

パストーレ

「顔は!?連れてきた奴らの顔はどんなだった‼︎」

 

警察署長「全身黒づくめでサングラスを掛けてました!顔は分かりませんが政府のシークレットサービスだったと思います!」

 

パストーレ「シークレットサービス?益々分からん…どういう事だ?」

 

そんな中ブルームハルトが息を切らして署長室に入ってきた。

 

ブルームハルト「パストーレ提督‼︎」

 

パストーレ「中佐、ヤンは見つかったか?」

 

ブルームハルト「はい、危うく暗殺されそうでしたけど!身元不明の我が軍の兵士がヤン提督にブラスターを突きつけてた所をグリーンヒル少佐がズドン!ヤン提督は無事に保護しました…ですが隊長…じゃなくてシェーンコップ閣下から緊急通信です!直ぐに外に!」

 

パストーレ「分かった直ぐ行く。事が判明したら貴様の処遇を言い渡す覚悟しておけ‼︎」

 

そう署長に言い放つとパストーレは外に出た。

 

外の装甲車からの無線機を受け取ったパストーレはシェーンコップから訃報を受け取った。

 

パストーレ「レベロ最高議長とレンネンカンプ上級大将が爆殺された…だとっ!?」

 

シェーンコップ「小官が到着した時には既に…下手人も捕らえられては居ません…。恐らく既にこの場を離れていたのか…或いは諸共…。其方の首尾は?」

 

パストーレ「ああ、こっちは上手く行った。警察署長は政府のシークレットサービスがヤンを連れてきたと言っていたが…問いただすべきシークレットサービスは…レベロと共に火の中か…。」

 

シェーンコップ「悪運は強いですなあの人は。時代はまだヤン提督を必要と見える。」

 

パストーレ「本人にとっては迷惑だろうがな…だが問題は帝国だな…何と伝えれば良いか。」

 

シェーンコップ「犯人不明のテロを防げなかったとあっては帝国は納得しないでしょう。下手をすれば開戦の恐れも…。」

 

パストーレ

「だからと言って全艦隊に戦闘態勢を言い渡す訳には行くまいよ…ここはホアン議員に説明を託そう。外交問題は政治家の役目だ。」

 

直ぐに帝国新帝都フェザーンにこの事件は伝わった。ミッターマイヤー宇宙艦隊司令長官、ロイエンタール統帥本部総長は驚いた…が軍務尚書オーベルシュタインのみは沈黙を保ったという。

 

その沈黙は想定内故のものなのか、想定外ではあったが冷静さを崩すまいとしての物なのかは誰も知る者は居ない。

 

同盟政府、軍部は大混乱に陥った。

 

同盟軍による警察署襲撃事件や、オペラハウス爆破事件の真相を知ろうとマスコミが押し寄せた。

 

前者は元々想定した物、後者は原因究明中としか伝えず門前払いをしたがマスコミは食い下がった。

 

その説明をすべきレベロ最高議長の死も特使レンネンカンプ上級大将の死も秘匿していたパストーレにとってこれしか手が無かったのだ。

 

パストーレ「犯人は…見当がつかん…地球教徒では無いかと思ったがここまで徹底的に証拠すら掴めんと下手に動けん。」

 

キャゼルヌ「同盟国内の反帝国団体の可能性もあります。」

 

シェーンコップ「ならヤン提督を拉致したのは?」

 

パストーレ「それが一番の難題だな、オーベルシュタインの線を追いたいがレンネンカンプも死んだとあっては確かめようが無い。そもそも彼程のリアリストが無闇に戦争の口実を作るとも思えん。同盟がもはやどうしようもない状況だったならまだしも、同盟はまだ力が有る。再び攻め寄せれば帝国も無傷では済まない。それを理解していれば無闇に戦争など起こすか?」

 

シェーンコップ「ですがカイザー・ラインハルトがそう考えていなければ、話が変わるのでは?」

 

パストーレ「カイザー自らが戦争の口実を作った…?」

 

ヤン「それは流石に有りませんよ。」

 

着替えが無かったので軍服に着替えたヤンが会議室に入ってきた。

 

ヤン「彼と言葉を交わした私が言うんです。間違いありません。もしカイザーが同盟征服の野望を捨てきれずにいるのなら正々堂々と宣戦布告して来るはず、わざわざこんな手の込んだ計略を使って戦争を起こそうとはしない筈です。」

 

パストーレ「確かにそうだな…では一体…」

 

ジェニー「し、失礼します‼︎閣下…テレビを…テレビを点けて下さい!大変なことになっています‼︎」

 

パストーレはテレビ…というよりホログラムに電波放送を映すとそこには驚愕の映像が映っていた。

 

ニュースキャスターの隣に座る男…その男は誰もが知っている男だった。

 

トリューニヒト…遂に表舞台に返り咲いたのだ

 

ニュースキャスター「では、レベロ最高議長とレンネンカンプ上級大将はもう既に死亡していると?」

 

トリューニヒト「はい、間違いありません。ですが現在の政府と軍部はそれを秘匿しています。国民の知る権利を侵害しているのです。そして誰が犯人かも隠している。」

 

ニュースキャスター「犯人?犯人がもう分かっているのですか?」

 

トリューニヒト「心ある同盟市民が現場を抑えてくれた映像を提供してくれました。これはオペラハウス爆破30分ほど前の映像です。」

 

映像には帝国軍の将兵数名が辺りを回しながら入っていく様子だった。

 

トリューニヒト「あの中に入れるのはレンネンカンプ上級大将の護衛を務める兵士だけ!帝国は、カイザー・ラインハルトは自らの野望の為に自ら臣下を殺害し、その責を同盟政府になすりつけ、開戦の理由にしようとしているのです。」

 

ニュースキャスター「そんな…で、では同盟軍の警察署襲撃事件は?軍部は事前に計画された対テロ訓練だと言っていましたが?」

 

トリューニヒト「いいえ、これも帝国が憎っくきヤン提督を害そうとしてレベロ最高議長を焚き付けて起こった物。レベロ最高議長の独断先行ですよ。軍部は彼の身元すら掴めなかった。そこを私が彼らに教えたのです。件の警察署長は私の友人でして、同盟のシークレットサービスになりすました帝国のスパイがヤン提督をここに連れてきた時、妙だと思った彼は私に教えてくれたのです。そして私は軍部にそれを伝えたのです。」

 

ニュースキャスター「ではトリューニヒト氏、貴方はヤン提督の命を救ったのですね?」

 

トリューニヒト「その通りです!退役した一軍人を害そうとする野蛮な帝国と自身の地位を奪いかねないとヤン提督を害そうとしたレベロ元最高議長から私は彼を救ったのです!彼は同盟史上最高の英雄です!彼を失ってはならない!そして今、ここではっきり分かった事でしょう!専制者とは共存など出来ないと‼︎今の同盟政府は何としても大事にすまいと画策するでしょう!もはやその行為は帝国に恭順しているのと何ら変わりない‼︎同盟の自由・平等・独立を売り渡そうとしているのです!」

 

次の瞬間ホログラム発生装置が撃ち抜かれて壊された。

 

パストーレが怒りの余りブラスターを引き抜いて撃ったのだ!

 

パストーレ「どの口が嘘を並べ立てるのだ‼︎更に死者に謂れのない罪と不名誉をなすりつけるなどと。」

 

ヤンは顔を手で覆った。

 

自らの存在がトリューニヒトを表舞台に返り咲くための材料に使われた挙句、帝国との和平を切り裂く道具に使われた事にショックを隠せなかったのだ。

 

パストーレ

「直ぐに記者会見を‼︎これら全てを否定せねば‼︎」

 

そこにバグダッシュとアッテンボローが入ってきた。

 

アッテンボロー「SNSやネット上には次々とトリューニヒトを支持する声と軍部への非難が上がっています。」

 

バグダッシュ

「あの様な映像、当日はそんな物は無かったのですが、今確認したら現場一帯の交通局の監視カメラ映像も全て書き換えられて映像と同様の光景がカメラで流れていた事になっていました。管理局員も原因が分からないと、おまけに、その時間当直についていた職員とも連絡が取れないとか。」

 

ジェニー

「閣下!帝国軍特使船団が宇宙港から発進したとの事です‼︎今の声明を受けて同盟は帝国に敵意ありと判断したと言い残したそうです。」

 

パストーレは青い顔になり…椅子にもたれ掛かるように座った…

 

パストーレ「全て…全て…仕組まれていた…そして一気に…山津波の如く…。」

 

パストーレは自身の敗北を察した。

 

だがまだ最後に足掻けるという事を彼は知っていた。

 

パストーレ「ヤン提督、いやヤン元帥閣下。貴方には申し訳ないが現時点を以て現役に戻ってもらう。統合作戦本部部長としてその地位に就いていただきたい。」

 

ヤン提督「パストーレ提督!何を…!?」

 

パストーレ「恐らくこの後起きる議長選挙でトリューニヒトが出馬し、圧倒的に過半数の票を取って第二次トリューニヒト政権が誕生するのは火を見るより明らか。その前に軍部だけでも奴の手には渡す訳にはいかない。高級将校は軒並み粛清したが中級、下級までは手が回ってないからな、奴が権力を手にしたらそう言った連中が中央に食い込んで来るかもしれん。そうなる前に手を打たねば…そしてその手始めとして私を更迭するだろう…報復は絶対にする男だからな。」

 

キャゼルヌ「宇宙艦隊司令長官は?」

 

パストーレ「ビュコック提督に…戻ってきて貰おう。彼以外に適任はいない。チュン・ウー・チェン中将には統合作戦本部副部長の地位をもしもの時はヤンが出ている間にここを任せられる人間が必要だ。」

 

キャゼルヌ「直ぐに手配を!」

 

パストーレ「パストーレ少尉、直ちに全宇宙艦隊司令長官をここに集結させてくれ全員だ、メルカッツ提督にも来てもらってくれ、あの戦い以降彼には第十五艦隊の指揮権を持って貰ったままだからな…こうなるぐらいなら終わった後に指揮権をお返しすると申し入れてくれた時に素直に受け取っておくんだったな…却ってとんでもない迷惑を掛けてしまう事になっちまった…。」

 

歴史の修正力なのか…同盟は当に暗黒の道を直走り始めていた…

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