もし銀英伝オタクがパストーレに転生して、転生後数時間で死亡するRTAを回避する事は可能なのか?   作:オラニエ公ジャン・バルジャン

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もし銀英伝オタクがパストーレに転生して、転生後数時間で死亡するRTAを回避する事は可能なのか?『帝国領侵攻作戦・アムリッツァ篇』

膝から崩れ落ちるとは正にこの事を言うのだろう、いや分かってはいたんだ…。

 

こうなる事は…。

 

家族旅行の最中にそれは齎された。

 

買い物に夢中になってる妻と娘の後ろで、荷物持ちをしていた私は荷物と共に崩れ落ちた。

 

パストーレ夫人「貴方!?」

 

ジェニー「何やってんの?」

 

パストーレ「アッ…アッ…ヤッパリコノクニ…バカナンダ…。」

 

そこから記憶は無い。

 

分かっているのはその後天を見上げながら、膝立ちになって泡を吹いていたという事だけだ。

 

旅行から戻り、休暇を終えた私は家族に心配されながら統合作戦本部に向かった。

死んだ魚の様な目をした私を妻と娘は本当に大丈夫かと見送っていた。

 

?「パストーレ中将。」

 

本部に着くなり呼び止められた私は振り返ると、同盟軍の勇将として名高いウランフと復帰したパエッタが居た。

 

パストーレ「おお、ウランフ提督、パエッタ提督、おはよう。」

 

パエッタ「ああ、どうかしたのか…なんというか今にもこの世の終わりが来そうな顔をしているが…?」

 

ウランフ「やはり貴官も乗り気じゃないか…。」

 

パストーレ「乗り気どころかこのふざけた所業を考えた奴を今すぐに殴り殺してやりたい気分だ。」

 

ウランフ「元気なのか、元気じゃないのかどっちなんだコレは…。」

 

パエッタ「コレは噂だがな…どうもロボス元帥付きの作戦参謀が今回の件を政府に直接持ち込んだそうだぞ。」

 

パストーレ「政治家共は食い付いただろうな…帝国領侵攻作戦…これが成功したら支持率は不動の高水準だ。」

 

パストーレとウランフはやれやれと肩を落としている。

パエッタもアスターテ以来、トリューニヒトとは距離を置いている等心境の変化があった為なのか今回の出兵にはどうも反対らしい。

 

暫くして会議室に錚々たる面々が揃った。

各宇宙艦隊司令官、各参謀、各兵站管理将校。

そしてそれらを束ねる統合作戦本部部長シトレ元帥と宇宙艦隊司令長官ロボス元帥、そして総参謀ドワイト・グリーンヒル大将である。

 

シトレ「皆揃ったな、聞いていると思うが、今回の件は政府より帝国領侵攻作戦の立案が命じられた。既に議会に話は通されており恐らく内定するだろう。だがまだ具体的な行動内容等は決まっていない。」

 

パストーレ「両元帥閣下、宜しいでしょうか?」

 

ロボス「何かねパストーレ中将?」

 

パストーレ「なぜこの時期、このタイミングで敵国に侵攻せねばならんのか、そして誰がこの事態を作ったのか、御説明頂きたい。」

 

ウランフ「小官も同じく。」

 

ビュコック「ワシもよろしければ聞かせて貰いたい。」

 

ヤン「私も拝聴させて頂きたい。」

 

帝国領侵攻作戦に反対気味の提督達が次々と説明を求め、その他諸提督達も頷いて続いた。

 

?「それについては小官からご説明致します。」

 

聞きたくもない、許されるならこの場で射殺してやりたい声がしゃしゃり出てきた。

私は無意識に拳銃に手が伸びていたがすんでのところで手を離した。

 

フォーク「作戦参謀のフォーク准将です、この作戦は我が同盟開闢以来の快挙となる作戦であり、それに参加するのは武人の誉です。」

 

ヤン(勝手にそう思ってろ。)

 

パストーレ(と思っているんだろうな…本当にそう思うよ何を言ってるんだあの精神障害者は。)

 

フォークは長ったらしくこの作戦の意義など、何だの話し、原作同様の杜撰極まりない作戦案を得意気に披露し、ウランフに指摘されたが、高度な柔軟性とやらを使って臨機応変に対応するの一点張りであった、そこでビュコックの呆れた声がそれを締め括った

 

ビュコック「要するに行き当たりばったりと言うことかね?」

 

ヤン「この侵攻作戦を今やる理由が見当たりません。敵はイゼルローンを失って戦略的優位を失いはしましたがこちらが優勢である理由も無いと思いますが。」

 

フォーク「ヤン中将、戦いには機というものがあります。イゼルローンを失った今こそその余勢を駆って帝国にトドメを刺すべきではありませんか?」

 

パストーレ「フハハハハ!!機!?貴官は機等分かっておらんよ!!」

 

私の大笑いが作戦室に響く、何せわざと大笑いしているのだから当然なのだが。

 

案の定フォークの眉間はピリついている。

 

フォーク「小官が機を分かっていないと仰いますかパストーレ中将。」

 

パストーレ「素人以下だ、まず自国の情勢を見ていない、ここ昨今の戦いで我が同盟は疲弊気味だ、多くの青年将兵が死んでその補充も儘ならず国内内政も問題を抱え始めている。軍事的にも戦力が足りん。我が第四艦隊は再編が終わったばかり、第六艦隊は半個艦隊強、第十一艦隊も練兵が終わったばかりだ。次に敵状だが、敵はローエングラム元帥府が主体となって迎撃に出てくると思われるが、ローエングラム公配下の将校達は優秀揃いと聞く、そんな連中を相手に長駆遠征して戦うのは困難極まるし、貴官の言うお題目通りに民衆を解放するのならその数は計り知れない。帝国領全土が門閥貴族の圧政に苦しんでいる事を鑑みれば、彼らが欲しているのは先ず糧であり、自由は二の次だ。その糧を、我が軍の補給物資から出さねばならぬとした場合、我らは常に飢えねばならぬし、同盟にそんな余裕は無い。仮に遠征するなら、イゼルローン回廊から十数光年程度の星系に留め、その前に敵にイゼルローンを攻めさせ、敵艦隊の漸減を図るのが定石だろう。」

 

具体的な反対意見と代替プランを同時に提案したのはもし仮に歴史の流れを変えられなくても多少の変化さえ齎せれば重畳と考えたからだ。

 

同盟の諸提督達も頷き、キャゼルヌを始めとした各補給部門の将校達も無理があると同調し始めた。

 

尤も後者はキャゼルヌが完全に反論出来ない位完璧に計算した結果を提示したからであったが。

 

パストーレ「最後に、付け加えるなら。タイミングの問題は大方選挙で支持率が危うくなったからに他ならぬでしょう。我々は軍人であって、政治家の道具では無い。我々の本分は敵を叩くことではなく民衆を守る事だ、私はそんな物に加担する気は無い。」

 

フォークの表情は作られているが内心は引き攣りまくって仕方がないのだろう。

声が震えていた、その震えた声で言ったものだ。

 

フォーク「パストーレ中将は敵を過大評価し、我が同盟を過小評価なさっている様ですな。アスターテ以降守勢に回って戦う事が多くなったとお聞きしますが小官から申し上げれば臆病者、卑怯者の戦いに過ぎません。だからムーア中将は戦死なされ、ご自身は艦隊を半数も失ったのではありませんか?そもそも同盟軍の兵は同盟の理念に殉じるのが本分、敵を倒すためではなく生き残る為に戦うなど恥知らずも良いところです。」

 

パストーレ「そうか、そうか。」

 

私は笑いながら、フォークの座っている席まで歩いていった。

 

フォークはあの遠大な演説を始めてから立ちっぱなしだ。

実に好都合だ。

 

私はフォークに近づいた。

拳が完全に入る距離まで。

 

フォーク「何か?」

 

パストーレ「蚊が止まってるぞ?」

 

そう言った刹那、私の左ストレートはフォークの顎を砕いた。

 

フォーク「ムガァァ!?!?」

 

パストーレ「貴様…私は兎も角、我が艦隊の将兵を愚弄したな!!万死に値する、貴様の様な奴は修正してやらんと気が済まん!!」

 

シトレ「パストーレ中将!!」

 

ロボス「中将を止めろ!!!!」

 

ラップ(第六艦隊司令官として少将に昇進)「パストーレ提督お止め下さい!!」

 

パストーレ「放せラップ少将!!この男は断じて許さん!!さぁ立て!!その減らず口が止まるまで殴り込んでやる!!」

 

ホーウッド「もう意識も飛んでる!これ以上殴ったら殺しかねんぞパストーレ!!」

 

ビュコック「辞めんか!!パストーレ!!度が過ぎるぞ!!確かにフォーク准将の言は礼を失していたが、それに対しての貴官の行動は紳士に悖る野蛮な行為だ!」

 

胸が空く様な気持ちにはなったが、尊敬に値するビュコックやヤン、シトレらの顰蹙を買うのは本望では無い、私は荒い息を吐きながら少しずつ大人しくなっていた。

代わりに激昂したのは子飼いの部下をノックアウトさせられたロボス元帥だ。

 

ロボス「パストーレ!貴様政府に対して愚弄する様な発言に加え、将校を殴るなど言語道断だぞ!貴官には謹慎を言い渡す!追って沙汰を下すのでそのつもりでいろ!!」

 

パストーレ「結構、私は申し上げたい事は申し上げましたので失礼させて頂く!…醜態を晒し諸君には申し訳ない事をした…ビュコック提督、ホーウッド提督、ラップ提督の御三方には礼を後程させて欲しい。」

 

私は作戦室から出た。自分の艦隊司令室に入ると事態を聞きつけた副官ら第四艦隊の将校達が駆けつけた。

 

副官「なんて無茶を!せめてあの場だけでも抑えていればこうはなりますまい!」

 

パストーレ「だがな副官。…いや確かに私の手段は間違っていた、だが私は将兵達を愚弄したフォークを修正した事に関しては間違っていないと信じている。恐らく第四艦隊からは降ろされるだろうが、それも致し方ないだろう。」

 

副官「閣下…。」

 

元いた世界でも居た、理想論ばかり語って、碌な具体的な方法は何一つ示さず弁舌だけは達者で自分では何一つやろうとしない。

こんな奴らがのさばるから何処でも国は荒れるのだ。

 

前世の職場、祖国もそうであった様に、ここも変わらない、そして帝国も。

 

パストーレ「私は謹慎を言い渡された、すまないが家に帰るよ。貴官らは仕事をしてくれたまえ…碌でもない仕事になりそうだがね。」

 

私は家に帰ってきた。余りにも早い帰宅で妻は驚いていた、ジェニーはまだ学校らしい…突然か昼過ぎだもんな。

 

パストーレ夫人「お早いお帰りで…貴方どうなさったの?」

 

パストーレ「すまないが…私は無職になるかも知れん。退職金はもらえると思うが年金は諦めてくれ。」

 

パストーレ夫人「ええっ!?」

 

娘が帰ってきた夕方頃、私は家族に話した。

妻は呆れては居るのだろうが優しい表情を崩さず話を聞き、娘は興味無さそうに携帯を弄っている。

 

パストーレ夫人「確かに暴力は良くないわ、でも私は貴方がなさった事は間違ってないと思います。貴方にとって艦隊の兵隊さん達は家族同然の様な存在なのでしょう?家族を馬鹿にされて怒らない人は居ませんわ。」

 

ジェニー「パパそんな度胸あったんだね。国防委員長のナントカって人にこの前まで遜ってたのに。」

 

パストーレ「アレは私にとっては黒歴史だ、触らないでくれないか?」

 

パストーレ夫人「さぁ、お夕飯にしましょう?今日はポトフですよ。」

 

妻が夕食の支度をしにキッチンに向かうと通信が掛かってきた。

恐らく軍からだろう、出る為に私は端末まで歩こうとすると娘がポツリと呟いた。

 

ジェニー「私、パパカッコいいと思うよ。」

 

パストーレ「…ありがとう。」

 

私が通信に出ると通信相手は副官だった。

 

パストーレ「私の沙汰が決まったか?」

 

副官「はい、一週間の謹慎の後、統合作戦本部に出頭し艦隊の襲撃準備に取り掛かれとの事です。」

 

パストーレ「…それだけか?」

 

副官「あの後、小官らが閣下の減罰を嘆願しにロボス閣下の元に向かおうとしたのですが、既にシトレ閣下、ヤン提督、ビュコック提督、ウランフ提督、ラップ提督、パエッタ提督がロボス閣下にとりなしをして下さっていたのです。

それでこの結果に、遠征計画は議会を通過しましたので確定となった今艦隊司令官を外す事は出来ないと言う事で。」

 

パストーレ「そうか…やはりこの国は馬鹿しかおらんな…いや愚かな民衆と言うべきか…だがそれでも護るべき愛すべき民衆か。提督達には礼をしなければな。」

 

副官「それと、提督が殴り飛ばしたフォーク准将ですが…入院されました。」

 

パストーレ「顎を砕いてやったからな。」

 

副官「ああいえ、それもあるのですが、一種のヒステリー症候群の様な物を起こして視野が一時的に失われ、精神の均衡を保てなくなったそうで、軍病院に入院、予備役になりました。」

 

パストーレ「そうか…。」

 

物語ならビュコックに一喝されたフォークがヒステリーを起こしてこうなる筈だったが出征前にパストーレが鉄拳で制裁した事でその部分の歴史だけ大きく加速してしまったらしい。

 

副官「フォーク准将が居なくなった事で遠征計画の作戦を練る人間がいなくなったので一週間後、シトレ閣下が謹慎から明けたら自分の元に来る様にと言付かっております。」

 

パストーレ「分かった。ご苦労様。」

 

どうやら職は失わずに済んだらしい。

 

一週間後、私は謹慎を解かれ統合作戦本部に出頭した。

 

シトレ「一艦隊司令官が参謀と暴力沙汰。マスコミを黙らせるのは苦労したぞ、オマケに貴官は一部政治家達除いて大半から睨まれている。」

 

パストーレ「面倒をお掛けしました。」

 

シトレ「その分は返してもらうぞ。聞いての通り出兵は決まった。だが作戦計画を立案した人間が使い物にならなくなった事で実行するに辺り困難な状態になった。」

 

パストーレ「……。」

 

シトレ「そこで、元あった作戦計画に加筆修正を加える事にした。ロボスは不満気だったが、このまま実行すれば大惨事になると警鐘を鳴らすものが多くてな君と同じ様に。」

 

パストーレ「大方ヤン提督辺りでしょうな。彼が1番この件に反対でしょうからな。」

 

シトレ「その通りだ、彼には既に意見は聞いたが貴官の意見も聞きたい。どうすればいいと思う?」

 

パストーレ「本来であれば要塞を使った敵艦隊漸減作戦を実行した上で侵攻すべきと考えますが、それが無いと考えると…やはりオーディンへの長駆遠征ではなくイゼルローン回廊周辺星系の確保を努力目標として考えるのが1番かと思います。」

 

シトレ「努力目標とする意味は?」

 

パストーレ「先も申し上げた通り、我が同盟に帝国の領土を切り取る力が今は有りません。だから此度の遠征はあくまで帝国の国力を削ぐ事を目的とした遠征に切り替えれば良いのです。通商破壊や交易拠点の破壊、占領。これだけでも十分な戦果になりますし政治家共も文句は減るでしょう。」

 

シトレ「敵艦隊が、出てきたら?」

 

パストーレ「一戦…と言いたいところですが、無理に戦う必要は有りません。ある程度侵攻すれば各艦隊分散しますので、それに対して敵が各個撃破に出るか、同時多発的に迎撃に出るか分かりませんので、敵艦隊発見次第全艦隊即逃亡で宜しいかと。逃亡先は勿論イゼルローン要塞です。仮に補足された場合に備え、周辺の艦隊が援護に駆けつけられる距離を維持し続け、退くも攻めるも足並みを揃えさせる事が肝要かと。」

 

シトレ「フム。」

 

シトレは成る程と言わんばかりに話を聞いて居る。私はもう一つ確実に忘れてはならない事も一つ付け加えた。

 

パストーレ「そして補給ですが、これは絶えさせてはなりません。例え寸土を求めた遠征であろうと補給を軽視するものは破れます。ローエングラム公は恐らく我が軍を飢えさせようとするでしょう。焦土作戦と補給線寸断を行うはず…。そこで補給艦隊には必ず一個正規艦隊の護衛が必要と考えます。そしてその役にヤン提督の第十三艦隊が適任と考えます、そして予備兵力として第六艦隊を第十三艦隊に追従させ、二万一千隻の艦隊で守備に当たらせれば、ローエングラム公が如何なる手を使っても守り通してくれると考えます。」

 

シトレ「何故ヤン提督なのかね?」

 

パストーレ「帝国軍のどんな将、それこそローエングラム公自身が補給部隊殲滅に乗り出してきたとしてもヤン提督なら跳ね返せます。ローエングラム公と対等に戦える将は彼だけです。それに彼が我らの後ろを守って居ると聞けば兵達は安心して戦うでしょう。」

 

シトレ「分かった。君の意見も加え作戦を立案させよう。当初第十三艦隊は第二陣として帝国領に侵攻する予定だった、代わりに…。」

 

パストーレ「第四艦隊、第二陣の任、拝命致します。」

 

同盟の帝国領侵攻作戦は始まった。

 

第一陣のウランフ麾下第十艦隊を始め、各艦隊はイゼルローン回廊周辺星系の占領を開始した。

 

案の定帝国領は焦土作戦により、支配星系は物資が何一つ無かった。

 

パストーレ「やはりそう来るよな…。」

 

副官「占領部隊より物資要請が殺到しています。」

 

パストーレ「こっちの物資を出してやれ。それと同時に撤退準備。空き巣に用は無い、が、勝手に引く訳には行かない。イゼルローンのロボス閣下からの後退命令が来たと同時に引き上げられる様にしておくんだ。」

 

この状態は何処もかしこもであった。

 

同盟軍は本来の歴史より遥かに少なくとも、決して少なくない民衆の面倒を見なければならなくなった。

 

諸提督は逃げる準備は怠らず、敵艦隊襲来に備えた。

 

ウランフ「いつ来る…?」

 

アル・サレム「誰が来るか?」

 

ホーウッド「引き際は見極めなければこちらの地獄行きが決まってしまう。」

 

アップルトン「何としても将兵達を生かして帰さねば。」

 

ボロディン「敵とマトモに戦えなくなったら…考えたく無いな。」

 

ルフェーブル「全ての…」

 

ビュコック「鍵を握るのはあの若者か。」

 

パストーレ「物語通りなら…頼むぞ…ヤン・ウェンリー。」

 

提督達の想いを知ってか知らずかヤンは一身に背負う事になった。

 

ヤン「やれやれ、コレだけ大量の物資を守りながら各艦隊の元に出向くのは大変な仕事だ。これでも帝国の玄関口を少し過ぎただけなのにね。」

 

シェーンコップ「正に同盟軍希望の星ですな。」

 

ヤン「辞めてくれ、柄じゃないよ。」

 

ムライ「然し、今の所作戦は順調、パストーレ提督は敵艦隊補足次第全艦隊の撤収を進言したそうですが、このまま星系を維持出来るのでは?」

 

ヤン「いや、ローエングラム公は帝国領を我が軍の好きにはさせない。必ず奪い返しに来る。その為の準備を恐らく今日まで欠かしていない筈だ。それを知って居る将兵達は士気も高く、何より優秀だ。そんな敵と真っ向勝負するのは愚策だとパストーレ提督は考えているのだろう。私も同じだ、現に各艦隊の物資は不足気味で士気が低下しつつある。当初の計画通りだったらもっと悲惨な事になっていた筈さ。」

 

シェーンコップ「然し、あの御仁がここまで有能…というより熱い方とは思いませんでしたな、第四艦隊の将兵の中には人が変わった様だと言う者も居るそうです。艦隊旗艦の名の由来になった古代の人物でも乗り移ったんじゃ無いかとか、なんとか。」

 

ヤン「私もアスターテの時まであの人の事を良く知らなかったが、真っ直ぐな真摯な人だと思ったよ。少し影がさすことがあるがね。」

 

兵士「提督‼︎レーダーに感あり!敵艦隊補足‼︎数…推定四万!!」

 

パトリチェフ「四万隻だとっ!?」

 

兵士「敵旗艦の映像出します!」

 

旗艦ヒューベリオンのスクリーンに赤い戦艦が映し出される。

 

ムライ「新型艦の様ですな。敵将は一体…?」

 

ヤン「中尉、情報部のデータベースに該当する人物がいないか調べてくれ。」

 

フレデリカ「……ありました!戦艦バルバロッサ、艦隊指揮官はジークフリード・キルヒアイス中将です。」

 

ヤン「ジークフリード・キルヒアイス…。」

 

フレデリカ「情報によるとローエングラム公の副官だった人物の様です。」

 

パトリチェフ「ローエングラム公のNo.2のお出ましですか。」

 

ヤン「大変な相手が来たようだね…全艦に警報!補給艦隊は直ちにイゼルローン方面に転進、第十三艦隊、第六艦隊はこれより戦闘態勢に入る。各艦隊に警告文、敵艦隊見ユ!」

 

ヤン艦隊幕僚一同「ハッ!!」

 

ヤン艦隊接敵の報は各艦隊に伝えられた。

 

ビュコック「ついに来たか。」

 

ウランフ「よしここまでだ。後退開始!」

 

パストーレ「撤退作戦Rを実行、各艦機雷散布。散布後我が艦隊は第十三艦隊後退の援護に向かう。」

 

同盟軍の後退が始まる。

 

敵が来る前に去る…だがそう上手くは行かなかった。

 

イゼルローンから各艦隊に後退禁止命令が、飛んできたのだ。

 

理由としては政府が一切軍事的勝利を収めていない事に満足していなかったからだった。

同盟諸提督はイゼルローンに再度指示を求めたが…肝心のロボス元帥は昼寝中故起こすなという伝言だけが帰ってきた。

 

アップルトン「何だと!?」

 

ルフェーブル「このまま戦えると思ってるのか!?」

 

パストーレ「ふざけるな!…こうなれば奥の手だ。軍事的勝利さえあれば満足するならやってやるぞ、だがこちらが戦場を選ばせてもらう。」

 

副官「各提督に緊急通信の用意完了しました!」

 

パストーレ「諸提督方、このままでは危険だと言うのは皆承知のことだと思う。イゼルローンに戻れなくなったが帝国領内から動けなくなったわけでは無い、敵艦隊を迎え撃つ為に我々はアムリッツァに後退し、集結して敵艦隊を迎え撃とう。それしか生存の方法はない。ビュコック提督、ボロディン提督、ホーウッド提督。あなた方はヤン提督が戦闘中の宙域に近い。第十三艦隊と第六艦隊の援護に向かって頂きたい。お願いできますかな?」

 

ビュコック「あの若者達を死なすには惜しい。了解だ。」

 

ボロディン「微力を尽くそう。」

 

ホーウッド「任せておけ!」

 

パストーレ「ウランフ提督、私と共に殿を、ルフェーブル提督とアル・サレム提督、アップルトン提督は先にアムリッツァ星系に後退し、こちらに向かって居る輸送艦を回収しつつ後退の準備を。」

 

ルフェーブル「了解した。」

 

アル・サレム「やって見せよう。」

 

アップルトン「こちらの事は任せてくれ。」

 

ウランフ「よし。正念場だな!」

 

ここで一つ言っておくとパストーレは各提督に指示を出せる権限など持っていない。

だが彼らがこうやって従っているのは、この侵攻作戦の計画を加筆修正したのはパストーレだと言うことが周知されていた事や、パストーレ自身が各諸提督と交流と連絡を取り合い密に連携を取れるように計らったからであった。

 

(何か物事を始める時は味方を作っておけ、前世の職場の師匠が言っていたな…ここで役に立つとはな。)

 

副官「閣下、後退作戦R準備整いました。」

 

パストーレ「よし、ウランフ提督の第十艦隊と合流するぞ、作戦地域βにワープ。」

 

同盟軍の迅速な後退は帝国軍の作戦を大きく狂わせた。

 

負けない戦いに徹していたヤンの元にビュコックらの援軍が到着した事によりキルヒアイスは数の不利を悟り後退、その隙をつきヤン達もアムリッツァに後退した。

 

物資不足、兵の士気の低下などの問題を抱えつつも同盟軍は損失らしい損失を出さずアムリッツァに後退出来た。

だが後退できるのはここまでだ。

 

全艦隊の独断後退に昼寝から起きたロボスは激怒、敵艦隊に勝利しない限りイゼルローンに戻る事を禁じた。

 

その頃同盟軍艦隊はアムリッツァに逃げおおせた補給艦隊からの少ない補給を受け、当面の飢えを凌いだ。

 

パストーレ「あのクソ狸親父め…主砲に括り付けてやろうか……!」

 

副官「閣下、ここ最近血気盛ん過ぎではありませんか?」

 

パストーレ「無能な上司の元で働かせられるほど労働者に辛いものはない。諸君も私に対してそう思ってるかもしれんが、私も同じ思いを抱いているのだ、そこは理解してくれ。」

 

副官「後者に同意しますが前者は冗談として受け取っておきます。我が第四艦隊の司令官は貴方しかおりません。」

 

パストーレ「それはどうもありがとう。」

 

兵士「閣下、タコスとコーラをお持ち致しました。」

 

パストーレ「おお!来た来た。」

 

副官「然し、そんな軽食でよろしいのですか?補給を受けれたのでもう少しマシな食事がご用意できましたのに。」

 

パストーレ「タコスを馬鹿にするな、私はこれで充分。それより兵士達の方こそガッツリ、それこそ空戦隊と整備兵にこそ食わしてやれ。これから大仕事になる。」

 

私はそう言いながらカルニタス・タコスにライムを搾り、頬張る。

軍服の袖が汚れるが、これこそタコスの食い方なのだ。

 

兵士「閣下、各艦隊の提督達が到着されました。」

 

パストーレ「ん。ここに通してくれ、食事を摂ってない提督がいらっしゃれば何か用意してやる準備も忘れるな。」

 

諸提督がレオニダスのブリッジに入ってくると彼らが目にしたのはタコスを頬張る私であった。

 

パストーレ「食事中故、この状態で失礼させていただく。皆様は食事は摂られましたかな?」

 

ビュコック「いや、生憎摂ってなくてな。」

 

ヤン「私も食いっぱぐれまして。」

 

ウランフ「どうやら貴官以外全員空きっ腹の様だな。」

 

パストーレ「それはいけない。提督方にフルコースの準備を!」 

 

ビュコック「ああいや、そこまでは流石に悪い…だがそうだな…貴官と同じ物を貰えるなら有難い。」

 

パストーレ「皆様タコスで宜しいのですかな、分かりました。全員分の用意を、サルサも忘れるな。」

 

兵士「ハッ、直ぐにご用意致します。」

 

同盟軍の提督達が一堂に会してタコスを頬張るのは不思議な光景だが、これは実に楽しい時間だった。

皆が何とか無事に辿り着いたことを喜び合ったが、安心出来るのはここまでだ。

食事の途中だが、我々は軍議を開いた。

タコスの香草の匂いとコーラの炭酸が弾ける音を供にして。

 

パストーレ「無人偵察艦の情報によるとローエングラム艦隊は結集してここに向かっている様です。ただ先日戦ったキルヒアイス艦隊だけ姿が見えず、恐らく別動隊として戦場を迂回し、我が軍の後背に回り込むものと思われます。」

 

ヤン「そこで我が軍はアムリッツァ星系に遺棄された資源衛星を盾に正面のローエングラム艦隊、後背を広大な機雷群を敷設してキルヒアイス艦隊に備えたいと思います。」

 

提督達はタコスを頬張り、コーラを飲みながら頷いた。

 

パストーレ「艦隊の配置ですが、前衛を我が第四艦隊、ヤン提督の第十三艦隊、ウランフ提督の第十艦隊が担当し、後衛、対キルヒアイス艦隊担当をボロディン提督の第十二艦隊、アップルトン提督の第八艦隊、ホーウッド提督の第七艦隊にお願いし、備えて頂きたい。そして戦場全体を見渡し指揮を取るのはビュコック提督にお願いしたいと思います、そしてその両脇をルフェーブル提督の第三艦隊、アル・サレム提督の第九艦隊が固め、第五艦隊を守るという布陣を取りたいと思います。」

 

ビュコック「全艦隊を衛星内の影に隠れさせ、衛星の直径範囲内に展開できる艦隊のみで反撃を行うという事かね。」

 

パストーレ「左様、幾ら最小限の損害のみで済ませたとはいえ、兵の質、士気に勝り、今我が軍を包囲せんとする敵軍と真っ向からやり合うのは些か危険というものです。我々は押し返す為ではなく怯んだところを逃げる為に戦うのですから。」

 

ウランフ「ゴールデンバウム王朝を討ち倒さんとする解放軍から一気に逃亡者の大軍勢に転落とは皮肉だなぁ。」

 

パストーレ「生きて帰ってこそ勝者というものですウランフ提督。」

 

ウランフ「違いない。」

 

ラップ「あの?小官ら第六艦隊は如何せよと?」

 

パストーレ「ああいけない、忘れるところだった。それに関してはヤン提督から策を預かっている。第六艦隊は衛星に張り付き、敵の包囲が弱まった隙をつき衛星を押してもらう。」

 

ヤン「ラップ、この衛星は我々の盾であると同時に敵に対しての戦鎚でもあるんだ。衛星で敵艦隊を押し倒して出来た大穴から我が軍は逃走する、そしてもう一つこの衛星には役目があって、その準備も君に頼みたい。」

 

ラップ「言ってみろよ、力になるぜ。」 

 

パストーレ「それに関しては私から…実はな…」

 

私の話したもう一つの役目、これを聞いて提督達は目を丸くした。

 

ビュコック「一歩間違えれば我が軍も巻き込まれるな…。」

 

ボロディン「大博打、これに尽きる言葉はありませんな。」

 

だが成功すれば敵は間違いなく混乱の渦になる、その間に逃げおおせれば…。

 

ホーウッド「やるしかないだろうな。」 

 

アップルトン「三千万将兵をむざむざ此処で死なせるわけには行かんからな。」

 

パストーレ「では各々方戦場で。」

 

提督達は立ち上がり、ベレー帽を被り直すと敬礼した。

 

私はヤンを引き留め、一言だけ伝えた。

 

パストーレ「もしもの時は君が頼りだ…皆を同盟に帰してやってくれ。」

 

ヤン「…玉砕なさるおつもりですか?」

 

パストーレ「万が一だ、私の浅知恵などローエングラム公には太刀打ち出来ん。だが君は違う。将兵達を頼む。」

 

ヤン「微力は尽くします。ですがパストーレ中将、貴方も必ず同盟に帰還して下さい。貴方にはご家族がいるはずです。」

 

パストーレ「勿論だ、反抗期の娘にウザがられるのも悪くないと思い出してきたところなのでな。」

 

数時間後…。

 

ローエングラム公麾下帝国軍艦隊がアムリッツァに現れた。

 

帝国軍の眼前には遺棄された資源衛星に身を寄せ合って隠れる同盟軍が映っている。

 

その光景は滑稽とも思えた。

 

だが同盟軍はこの星系に帝国軍が入ってきた時点で反撃を開始していたのだ…。

 

兵士「敵艦隊ワープアウト、後数分で『見えざる手』の範囲圏内に入ります。」

 

パストーレ「そのまま進ませろ…敵艦隊総旗艦ブリュンヒルトに通信を送れるか?」

 

兵士「送れます、なんと送信しましょう?」

 

パストーレ「モーロン・ラベ…来たりて取れ。」

 

兵士はニッと笑うと復唱した。

 

兵士「了解、敵将へ、モーロン・ラベ、来たりて取れ。」

 

副官「敵全軍増速、我が軍を半包囲せんと動き出しました。」

 

パストーレ「よし、『見えざる手』起動。」

 

見えざる手…そう呼ばれたのは敵艦隊ワープアウト予測宙域に無数にばら撒かれたミサイルだった。

 

これらがランダムで熱源を検知して一斉に起動し帝国軍に迫った。

 

突如四方八方からミサイルの雨が降り注ぎ、帝国軍は混乱状態に陥った。

 

パストーレ「よし、第四艦隊迎撃行動に入る。砲撃開始。」

 

ヤン「よし始めよう、撃て。」

 

ウランフ「全艦撃て!」

 

帝国軍艦隊が乱れた隙を突いて前衛艦隊が砲撃を始める。

 

だがそこは帝国軍の良将達であった。

 

見えざる手、ミサイルの雨はこけ脅しに過ぎないと看破して麾下艦隊の統制を取り戻すと猛射してきた同盟軍の砲撃にしっかり対応してきた。

 

取り分け黒色槍騎兵艦隊と呼ばれる黒ずくめの艦隊からの猛攻撃にはさすがの前衛三将も衛星から出まいと決心させる程であった。

 

パストーレ「アレが帝国軍随一の猛将ビッテンフェルトか…見えざる手が大層癪に触ったみたいだな。各艦衛星から出るなよ、でないとあの黒い艦隊から放たれた槍に串刺しにされるぞ。」

 

兵士

「中央、第三、第九艦隊も交戦を開始しました。」

 

パストーレ「敵の包囲が狭まってきたからな。だがまだ殆どの攻撃は衛星で防げる。」

 

兵士「第五艦隊より打電、第四艦隊後衛部隊を第三艦隊補助に回されたしとの事。」

 

パストーレ「十字砲火を掛けるおつもりか…よし砲艦部隊を向かわせろ。こちらは重装甲艦で戦列を作る。」

 

その頃、第五艦隊旗艦リオ・グランデでは。

 

ビュコック「よしこのまま両翼から分断する敵艦隊の動きを封じろ。第十三艦隊を少し後ろに下げさせろ、衛星からはみ出しかねん。逆に第四艦隊は少し前に出して敵の狙いを前に持ってこさせろ。」

 

ビュコックが戦場全体を見て各艦隊の位置を指示していた。

 

防戦に強いビュコックの采配は効果覿面であり、同盟艦隊の統制の取れた防戦に帝国軍もかくやと言わんばかりであった。

 

その頃第六艦隊は資源衛星にピッタリ張り付いて作業を進めていた。

 

ラップ「もどかしいな、ヤンや他の提督達が戦ってるのにこっちは何も出来ないとはな…ヤン死ぬなよ…。作業の様子は?」

 

兵士「全体の七割が完了。後もう少しで完了します。」

 

ラップ「よし、焦らず、急いで、正確にだ。作業の終えた作業員は終わってない作業チームの応援に向かわせろ。退避準備も滞りなくな。」

 

会戦が始まって数刻、ビュコックの元にヤンからの通信が届く。

 

ビュコック「突破口はあの黒色槍騎兵か…。あの火力は防御の薄さの裏返しという事か…確かに騎兵は攻めは圧倒的だが守りは弱いからな。ウム、第六艦隊の作業状況はどうか?」

 

兵士「作業員の退避が始まっています。後一時間程で全行程完了との事。」

 

ビュコック「ウム、完了次第第四、第十、第十三艦隊に黒色槍騎兵艦隊への一斉攻撃の指示を出せ。その際は第九艦隊に長距離砲撃援護を要請しろ。」

 

兵士「ビュコック閣下!第七艦隊ホーウッド提督より通信、敵別動隊キルヒアイス艦隊を確認したとの事です。」

 

ビュコック「来たか、だが機雷原を抜けるまで多少の時間が掛かる筈だが…ムゥ、妙に嫌な感じがするのぉ。」

 

兵士「敵艦隊最前列に工作艦複数確認。」

 

ビュコック「工作艦…いかん!もしや、後衛艦隊に迎撃体制を取るように伝えるんじゃ!もう機雷原は何の意味も無いぞ!」

 

ビュコックの言葉通りになった。

 

戦艦バルバロッサから放たれた大型ビームの二条の光は機雷原の中央を奔り、そしてその光の周囲が爆炎に包まれた。

 

大型ビームだけではこうはならない。

 

ビュコック「指向性ゼッフル粒子か…聞いた事はあったが…。」

 

ボロディン「敵の新兵器とはな、だがそう易々とはやらせんよ。」

 

アップルトン「全艦防戦用意。後衛艦隊の前衛は我々が務める。」

 

ホーウッド「赤毛の若造に第九艦隊の戦いを見せてやれ‼︎」

 

機雷原を突破して突っ込んでくるキルヒアイス艦隊に向けて同盟軍後衛艦隊も砲火を集中する。

 

突破口を抑える形になったが肝心のキルヒアイス艦隊の士気は凄まじく、同等の数の艦隊からの砲撃を諸に受けている筈だったがキルヒアイス艦隊は少しずつ距離を詰めてきていた。

 

同盟軍は包囲されるのも時間の問題になって来ていた、だがその時だった。

 

兵士「第六艦隊の作業完了報告来ました‼︎」

 

ビュコック「よし!前衛艦隊に連絡、突破口を作れ‼︎」

 

パストーレ「ついに来たか…よし少し演出しよう、黒色槍騎兵艦隊旗艦の通信を送ってくれ。」

 

副官「何と送りましょう?」

 

パストーレ「貴官らの槍は我らに届かず、貴官らの馬上槍は既に折れたも同然である。槍騎兵艦隊の名前は返上すべきかと提案させて頂く。以上。」

 

副官「そんなの送って大丈夫ですか…?」

 

パストーレ「怒らせるのが目的だ。他の艦隊と足並みを揃えられるとやり難いんだ。良いから送れ。」

 

副官「どうなっても知りませんよ、重装甲艦に全艦前面展開も命じます。」

 

通信は送られた。

 

ビッテンフェルトからの返事は黒色槍騎兵艦隊の総攻撃で返された。

 

だが同時に黒色槍騎兵艦隊は猪突した。

 

パストーレ「城壁をランスが貫ける訳無かろう…全艦一斉射‼︎」

 

ヤン「パストーレ提督は辛辣だな、だがやり易くなった。全艦一斉射!」

 

ウランフ「猪武者にたっぷりと馳走してやれ一斉射、撃てぇ‼︎」

 

三艦隊とそして中央の第九艦隊からの遠距離砲撃、事実上四艦隊の砲撃を喰らい黒色槍騎兵艦隊は壊乱した。そこにすかさず第六艦隊が動いた。

 

ラップ「よし!全艦機関出力最大‼︎イゼルローン迄持てば良い目一杯噴かせろ‼︎」

 

第六艦隊が押す資源衛星は少しずつ速度を上げて動き始めた。

 

ビュコック「よし全艦遅れるな‼︎」

 

パストーレ「全艦推力最大、側面の防御を固めろ!」

 

ボロディン「全艦後退一杯‼︎」

 

ウランフ「少し手伝ってやろう、アッテンボロー少将の分艦隊にも衛星を押させろ、先輩の手伝いをしろとな。」

 

アッテンボロー「アイアイサー!今行きますよラップ先輩‼︎」

 

ラップ「アッテンボローか助かる!」

 

衛星の進路上にいた敵艦は悉く押し潰され、ついに同盟軍は包囲を突破する。

 

ウランフ「全艦回頭!後衛艦隊の脱出を援護する‼︎」

 

パストーレ「艦隊回頭急げ!」

 

ヤン「味方の逃げる時間を稼ぐ。」

 

ビュコック「ワシらも回頭じゃ、非武装艦を含めた中央部隊はアル・サレム、ルフェーブルに率いさせ、両艦隊はそのまま全軍を率いてイゼルローン回廊に入るのじゃ!」

 

第四、第五、第十、第十三艦隊の砲撃が突破口を開くべく砲火を集中する。

既に黒色槍騎兵艦隊は消滅寸前、その両翼を固めていた艦隊も凄まじい被害を出していた。

 

兵士「後衛艦隊の脱出を確認‼︎」

 

パストーレ「後退一杯!全速力だ‼︎」

 

撤退を援護すべく残った同盟艦隊が退いたその瞬間、衛星は爆破され無数の隕石となり帝国艦隊方面に飛んでいった。

 

これがヤンの奇策にパストーレが加えたオマケであり、衛星を細かく砕いて進路上にばら撒き追撃を容易に出来なくする他、多数の隕石で敵艦隊に損害を与えるという代物だった、が当然爆発の衝撃でどこに飛んでいくか分からないので当然同盟艦隊方面に飛んでくる隕石もある。

 

故に同盟艦隊は全速力で逃げていた。

 

敵も味方もある意味パニックになっている中、ただ一人、いや二人は動じていなかった。

 

ラインハルト・フォン・ローエングラムとジークフリード・キルヒアイスは動じていなかった。

 

恐らく全艦に一喝せんとしようとしたのだろう。

 

ローエングラム元帥直属艦隊が前に出て事態の収拾を図りに来るとそれに呼応して機雷原を突破したキルヒアイス艦隊がほぼ消滅しかけていた黒色槍騎兵艦隊の位置に向かい、穴を埋め、同盟軍を追撃した。

 

次第にローエングラム艦隊、キルヒアイス艦隊を中央に、帝国の双璧ミッターマイヤー、ロイエンタール艦隊が両脇を固め、魚鱗陣形を帝国軍が取り始め同盟軍を猛追した。

 

同盟軍は必死に逃げたが後ろから撃たれ、損害は拡大していった。

だが反撃する暇も物資も無い。

全て投げ打ったのだ。

 

時の運は同盟に味方した様だ。

 

同盟軍は本格的な帝国軍の反撃を受ける前にイゼルローン回廊に逃げ込む事に成功した。

帝国軍もまた、追撃を辞めた。

このまま追撃したとしてもイゼルローン要塞に立て篭もられ、要塞主砲トゥール・ハンマー(雷神の槌)を喰らう愚は犯せないと判断したのだろう…。

 

こうして同盟の帝国侵攻作戦は終わった。

戦略的には完全敗北であったが、戦術的には引き分けに近い形となった。

 

帝国軍も決して少なく無い損害を被り、同盟軍もまた全艦隊が生存したが、全艦隊例外なく三割から四割の損害を被っていた。

決して最小限の損害とは言えなかったが、それでも良心的同盟軍首脳部が胸を撫で下ろしたのは言うまでもないだろう。

 

(何とか無事に終わったな…だがこのままじゃ済まさないし、済まないだろう。あの狸親父は軍から追い出さないとな…この程度の損害で済んだことや多少なりの軍事的戦果は稼いだ、シトレ元帥が引責辞職することも無いだろう…。このままこの後に起こる大惨事も回避できないものかな…。)

 

私はそう思いながら同盟の大軍がイゼルローンに到着するのを眺めていた。

 

同盟軍の死傷者は八百万ほどに登ったが本来の物語であればその何倍でもあったことを考えると結果としては良かったと言える。

 

総司令官ロボスは我々提督達が命令無視したと激怒したが、既に手は打ってあった。

 

私はグリーンヒル大将とのやりとりを録画しており、もうこれはイゼルローンのマスコミにリーク済である事、この出兵そのものが選挙の為に起こされた物であることを匿名で流したのだ。

 

全軍がハイネセンに帰還後、ロボスは全面的な失態を追及され軍を追われた…ここまでは良かったのだが、結局敗戦の責任を取ると言う形でシトレ元帥も引責辞任となり、ロボスの幕僚だったというただそれだけの理由でグリーンヒル大将が査閲部門に異動になってしまった。

 

まさに歴史の修正力と言ったところだろう。

 

だが勿論政府もタダでは済まなかった寧ろ彼等にとってはもっと悪くなった。

 

選挙の為に800万も死に至らしめたと国民は大激怒し参戦派の議会員は全員辞任させられただけに止まらずどこに行っても非難や顰蹙の目を買う事になった。

 

そして民衆の支持は和平派に傾き、ジェシカ・エドワーズ・ラップ夫人以下和平派は大きく躍進した…かに見えたが、それは一瞬の出来事で終わった。

 

元より反戦だったレベロ議員やホアン・ルイ議員とは違い唯一反戦票に投じたヨブ・トリューニヒトの見識を讃える声が大きくなり、更に彼のお得意のパフォーマンスで一気に彼自身の支持率は大きく上がる事になった。

だが物語と違う事があるとすれば彼の独裁は叶わず、和平派との連立与党と言う形となりその代表にジェシカ・エドワーズ・ラップ夫人が立つ事になり、同盟は正に政治的対立こそあるが、少なくとも原作程酷い展開を迎える可能性は低くなったと言える。

 

正直やり過ぎたかも知れないと思ったが、トリューニヒトの独裁が始まるよりはマシなはずなのだ…。

 

軍部に戻ろう、ロボスの後任は大将に昇進したビュコックが宇宙艦隊司令長官に任ぜられ、シトレの後任もまた、良識派として知られる第一艦隊司令官クブルスリー大将が任ぜられた…。ヤンもまた大将に昇格され、イゼルローン要塞防衛司令官に任ぜられた。

ここまでは良かったのだが、よりにもよって私まで…そうパストーレもまた大将に昇格させられ、本来なら有りもしない役職に任ぜられた…それがフェザーン方面防衛軍司令官というものであった…。

 

成り行きはこうだった。

私の大将の昇進は決まっていたが肝心の役職が無かった、そこにビュコックが一計を案じた。

 

いつやったかは分からないが、恐らくヤンが吹き込んだと思われるが、帝国軍のフェザーン方面からの侵攻、ないしは同盟軍のフェザーン方面からの侵攻を対応する者が居ると望ましいとなったらしい…。

私は第四艦隊の他に、アップルトン提督の第八艦隊、ホーウッド提督の第七艦隊を指揮下に加え、更にいくつかの辺境艦隊を含めた実に八万隻の大軍を預かる身になってしまった…。

 

どうして…どうしてこうなってしまったのか…。

 

下手をすれば大挙としてやってくるローエングラム軍を押し留めるという土台無理な仕事が飛んでくる役職だ…当然辞められない。

 

私はどこで道を間違えたのだろう…?

 

fin

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