もし銀英伝オタクがパストーレに転生して、転生後数時間で死亡するRTAを回避する事は可能なのか? 作:オラニエ公ジャン・バルジャン
同盟軍は本来の物語とは違い、辛うじて壊滅の憂き目に遭わず生存している。
だが全艦隊が三割から四割の損害を被ってしまっている。
その為軍事産業の需要が上がったが、肝心の人の上で不足が出た。
そこで同盟連立政府の方針はかつてホアン・ルイが提唱した最低限の後方勤務兵300万の民間帰還であった。
凄まじい議論と弁舌が交わされたそうだが、これから戦うにしろ和平するにしろ帝国に対しても抑止力に欠けるという見解で双方遺恨を残しつつ採択された…。
これによる国内内政の混乱は少しずつ改善されていくのだろうが肝心の前線勤務部隊は不足する後方の人材の当てを探せねばならなくなった。
士官学校、兵学校の生徒の緊急徴用…各艦艇、施設のオートメーション推進…やる事は山積みだった。
だが幸いな事に帝国の報復行動は今の所ない。
帝国は門閥貴族派とローエングラム派で割れ、民衆支持も物語とは打って変わり正に分裂状態になっという。
これは同盟の侵攻作戦で焦土作戦を取ったが我が軍がサッサと引き揚げた事による被害の少なさに対して帝国の民衆が被った損害が大きかったからだが、その憂き目に合わなかった星系の民衆は門閥貴族の支配よりも新たに到来するかも知れないローエングラム体制を支持し続けた。
いやそもそも何故こうなったのか。
皇帝フリードリヒ4世の死去に他ならない。
これが帝国の分裂を顕著にしたのだ。
だが同盟も先に話した通り決して良好とはいえない。
何より先の無駄な遠征の為に現在の連立政府、どちらにも、そして政府そのものに対しての支持せず、或いは不満を持つ兵が多数出現してしまったのだ。
これはアムリッツァで多くの将兵が生き残ってしまったゆえに起きた弊害とも言える。
各同盟領で艦隊再建が行われる中、同盟軍部もまた分裂の危機を孕みつつあった…どう分裂するのか…それを知るのはこの銀河で分かるのはただ一人だった。
パストーレ「やはり回避出来ないのか…?」
副官「はい?」
パストーレ「いや、何でもない…。グリーンヒル大将の事が残念と思ってな。彼を軍中枢から外すとはな…。」
副官「致し方ありますまい、軍中枢の責任は大きくグリーンヒル大将がただ一人踠いていたと言ってもだから責任を追及されないとはなりませんからな。中央人事といえば私としてはビュコック大将が宇宙艦隊司令長官になられた事が驚きです。」
パストーレ「士官学校を出てないからか?確かに主流派は気に食わないだろう、だが一つ聞くがこの同盟軍の中に誰があの人の軍歴と実績に敵う?問題はどこの教育期間を受けたとかではなくそれに見合う能力と経験を持ち合わせているかだ。故に候補として上がっていたウランフ、ボロディン両提督が辞退したのだろう。能力ではなく経験を理由にしてな。」
副官「閣下は能力主義者でしたか。」
パストーレ「何とでも言え、それより現在の我が軍の再編状況は?」
副官「ハッ、我が軍主力三艦隊は新規建造艦を含め一万五千まで回復。周辺辺境艦隊を含めれば我がフェザーン方面軍は七万隻強の戦力を保有しています。」
パストーレ「トンデモ大所帯だな…。」
副官「然し、再建完了次第にはなりますが、イゼルローン方面軍も第六艦隊と第十艦隊がエル・ファシル星系とアスターテ星系にそれぞれ駐屯し増強されるとか…同盟軍主力艦隊は三分割されると言うわけで決して閣下のところだけ大所帯だと文句は言える状況ではなくなります。既にイゼルローンのヤン大将麾下は既に一個艦隊増強の二万隻。対する閣下は全軍の数ほど多けれど、アップルトン、ホーウッド両提督がそれぞれ艦隊を率いるので実際閣下が率いるのは第四艦隊のみ。そう考えれば今はヤン大将の方が大仕事だと思いますが?」
副官が最近物言うようになったなぁ…とパストーレ…つまり私は苦笑しながら紅茶を啜った。
翌日私が司令部で今後の練兵計画の企画を考えていたの時、副官がテレビ中継を点けた。
どうもイゼルローンからの中継放送の様だ。
パストーレ「そうか、今日は捕虜交換式か。」
副官「あの赤毛の若い青年がジークフリード・キルヒアイス上級大将の様です。」
パストーレ「アレが我が軍の崩壊の一撃を加えようとしたキルヒアイスか…。」
正にアニメの作画通り、赤毛の好青年といった見た目だ。
そして彼が話し掛けている群卒の少年はユリアン・ミンツだろう。
パストーレ「ローエングラム公のNo.2か。あの優しそうな青年からは、あの苛烈極まる戦い方をする様には見えないな。」
捕虜の交換。
これがこの後の惨事の引き金になる。
パストーレ「副官。」
副官「ハッ。」
パストーレ「ホーウッド、アップルトン両提督に今日の勤務が落ち着き次第ここに来るように連絡を入れてくれ。話したい事があると。」
副官「了解致しました。」
既に遅蒔きかもしれない…だがやれるべき事はやっておくのが重要だ。
その頃、帝都オーディンでは…。
オーベルシュタイン「帝国領国境の我が軍に対しての不満は物資の早期返却、辺境出身将兵の不満は一時金の贈与で何とか抑え込みましたが、門閥貴族を支持する将兵や民衆が増えたのは事実の様です。」
ローエングラム「そうか、引き続き帝国民の慰撫には細心の注意を、全将兵には軍規の引き締めを怠るな。」
オーベルシュタイン「畏まりました閣下。ところで例の策は第一段階は成功、無事同盟領に侵入した様です。」
オーベルシュタインはラインハルトの執務室を出ると、ラインハルトは窓辺に立ち、物思いに耽った。
ラインハルト「叛徒…いや同盟軍があそこまでやるとはな…。ヤン・ウェンリーの他にもなかなか楽しませてくれる敵は居るものだ、お陰で帝国領の統一も一筋縄では行かなくなったが、簡単に済んでしまっては面白みも無いからな。門閥貴族との戦いは如何に連中に味方する将兵が増えたとしても対して脅威にならんが…同盟…楽しませてくれる。」
ラインハルトはやはり戦いに自らの生きる意味を見出す性に逆らう事は出来ないのだろう。
同盟に話を戻そう。
フェザーン方面防衛軍本拠地ガンダルヴァ星系、ここにフェザーン方面防衛軍司令部は置かれた。
現状の同盟軍に根拠地となる要塞を建てる余裕がないからだが、それでもフェザーン回廊に近いこの地は同盟にとっての生命線になった。
そしてその司令部に総司令官パストーレ大将、副司令官ホーウッド、アップルトン両中将が集った。
ホーウッド、アップルトンが私に敬礼してきたので、私も起立して敬礼を返した。
アップルトン「御用は一体なんでしょうか司令官閣下。」
パストーレ「ついこの間まで同僚だったのに私が上になったのは妙に慣れんな…話はここ昨今の同盟の政治事情による我が軍の将兵に関してだ。」
ホーウッド「どうも兵達は意見の相違で相争いかねないと聞いております。勿論我がフェザーン方面軍も例外ではありません。」
パストーレ「そこで何だが、我が全軍に向けて、我々三人は連立政府のどちらかにではなく政府そのものに対して忠誠を示す必要があると思うのだ。民主主義の軍人は一個人の為に戦うのではなく、共和政府の為に戦うべきだ。それを今一度、将兵達に範を示してやろうと思ってな。さすれば多少不満はあっても愚かな真似だけはしない筈さ。」
アップルトン「愚かな真似…とは?」
パストーレ「例え話…クーデターとかな。」
ホーウッド、アップルトン両提督が驚くのは無理が無い。
私は現状の政治混乱を見かねて軍の誰かが暴挙に出る可能性を説明した。
帝国領侵攻作戦によって我が軍は決して多くはなくとも少なくない犠牲を出し、それも司令部と政府の責任である事は明白。
軍の幹部、将兵達がこれを許せるわけが無いと。
だがそれこそ帝国に対して利する行為になる。それだけは回避しなければならない。
このまま何事もなければ良し、だがもし起こった時は、取り返しのつかない事に…それこそアムリッツァでの犠牲を少なくする為の戦いが無駄になるかもしれないと私は話した。
両中将は頷き、改めて私に対しては協力を、政府に対しては忠誠を誓うと約束してくれた。
後日我々三人は全艦隊に対して現在の政治混乱はみるに見かねないが我々は民主共和主義の軍人である以上政府に従うのが常道であり、全将兵それを心に留めて欲しいと伝えた。
だが運命の日は刻々と迫ってきてしまっていた。
帝国ではリップシュタットの内乱が発生し、そして同盟では…
パストーレ「クブルスリー大将の暗殺未遂事件だと!?」
副官「精神病院を退院…というより抜け出したフォーク予備役准将に狙撃され、負傷されたと…。」
パストーレ「統合作戦本部部長の後任は?」
副官「当初ドーソン大将が名乗りを上げていたそうですが、ビュコック大将の推挙と全将兵の人望を鑑みてボロディン提督が大将に昇進して後任に当たると、第十二艦隊もハイネセンに帰還した様です。」
パストーレ「これでハイネセンに、司令官不在の第一艦隊、第五、第六、第十二艦隊の司令官と将兵と艦艇が集まっている。そして第十一艦隊か。」
副官「何があってもハイネセンは安泰ですな!」
パストーレ「だと良いけどな、このまま何も無ければ良いがな。」
そうだ…同盟は今の所上手くいっている…これ以上酷くなろうか…?
そう考えていた私が甘かった…。
イゼルローン方面のいくつかの星系で暴動と反乱騒ぎが起きたのだ。
ボロディン新本部長は近隣星系に展開していた第二、第十艦隊に鎮圧を指示し的確に対処を行ったが暴動を起こす星系の数は増える一方であり、帝国の内乱が起きている今ならということで苦肉の策としてヤン艦隊にも出撃命令を下さらず得なくなった。
ボロディン「ヤン艦隊にまで出撃命令を出さねばならんとは…主要星系での大規模反乱までには至っていないがこの状況はまずいと思う。」
パストーレ「それは同意見だ本部長殿。実は数日前に我が艦隊、第四、第七、第八艦隊からそれぞれ五千隻の分艦隊を練兵の為、周辺星系に派遣しているが呼び戻そうと思っている。もしもの時は我が方面軍も引き抜いて頂いて結構だ。フェザーンから敵が来る事は少なくとも今は無い。」
ボロディン「すまないパストーレ大将、当てにさせてもらう。」
執務室でボロディンとの通信を終えた私は副官と新たに配属された従卒を呼び出した。
副官「お呼びですか?」
パストーレ「演習中の三分艦隊を直ちに呼び戻せ、それと第四、第七、第八全艦隊臨戦体勢をとっていつでも出撃できる様にしておけ。」
副官「ハッ!」
新しい従卒も副官に倣って敬礼する。
私は従卒に言った。
パストーレ「お前の軍服姿は見たくなかったぞ…ジェニー…。」
ジェニー「私が決めた事ですので、失礼します。」
そうよりによって娘が高校進学直前で進路変更して軍人になると言い出したのだ…。アムリッツァに行っている間に起きた出来事だった所為で私は反対する隙も与えられず、そして運命の悪戯か、我が第四艦隊に配属されている…。
そして信じ難いが、私以外の者の娘への評価はとても高く、素直で聡明だの、気遣いが出来るだの…私が知らない…ひょっとすれば転生前のパストーレも久しく見ていない娘の姿があった…。
パストーレ「お父さんの前でもその姿を見せてくれよ!軍服来てツンケンされたらどんな親でも精神病むぞコラァ!!」
私の虚しい慟哭が部屋の中に響くが生憎この部屋は完全防音なので外には漏れない…。
全艦隊出撃準備が完了した日…そう正にこの世界の226事件というべき事態が起きる。
ハイネセンが反乱軍に占拠されたのだ。
ハイネセン各所で反乱兵が出現し、国防本部ビル、議事堂を占拠したのだ、当然軍、政府要人は捕まってしまったが、偶々休暇を貰っていた夫ジャン・ロベールと故郷テルヌーゼンに帰っていたラップ夫人とどういう訳か雲隠れしたトリューニヒト国防委員長改め最高評議会議長は難を逃れた…。
オマケに第十一艦隊が反乱軍に加担、ハイネセン宇宙港に停泊中だった第一、第五、第六、第十二艦隊を封印してしまい、同司令官達も身柄を抑えられてしまった。
そして極め付けは反乱軍は救国軍事会議を名乗り同盟に本来の民主主義を取り戻すと嘯く始末、そしてその指導者は…。
パストーレ「グリーンヒル大将…なんて事を…。」
副官「なんで彼がこんな事を…。」
パストーレ「同盟に感じた絶望か…。もうビュコック大将もボロディン大将も敵の手に落ちたと判断した方が良さそうだ。ヤン大将に緊急連絡、急げ!」
副官「ハッ‼︎」
副官は長距離通信室の準備のために出て行った。
パストーレ「従卒。」
ジェニー「…ハ。」
パストーレ「すまんがラムをショットで持ってきてくれ…。」
ジェニー「畏まりました…然し…奥様から控える様言われていませんでしたか?」
パストーレ「二人の時は親子で居させてくれ。一杯だけだ、大丈夫。…母さんの事が心配か。」
ジェニー「…うん。」
パストーレ「大丈夫だ、グリーンヒル大将はそうそう民間人に暴力を振るう様な人じゃ無い。」
ジェニーは部屋から出ていくと私は顎に手をやり、今後の事を急いで考えた。
方面軍の戦力を回してハイネセン奪還に向かうか…だがアルテミスの首飾りをどうやって攻略する…?
この辺りは氷塊や手頃な隕石は少ない。
力押しなど上手くいくわけがない…。
副官「お待たせしました。通信室へどうぞ。」
パストーレ「ああ、少し待ってくれ…来た来た。」
ジェニー「お持ちしました。」
私はラムを飲み干すと通信室へ向かった。
(飲まずにやってられるか。)
通信室に入ると既にヤンがスクリーンで投影されていた。
互いに敬礼を交わす。
パストーレ「まずい事になったなヤン大将。」
ヤン「はい、一連の反乱騒ぎで同盟軍が混乱してる隙に一挙にハイネセンを手中に収める…見事としか言いようが有りません。然も我が軍は四艦隊も敵に封じられてしまいました。」
パストーレ「残る艦隊は我らを除いて、第三、第九艦隊だが、それぞれも鎮圧で忙しかろう。」
ヤン「ハイネセンには我が第十三艦隊が向かいます。」
パストーレ「分かった、我らも向かおうとしていたところだ。アルテミスの首飾りの射程圏外で合流しよう。」
兵士「閣下!緊急事態です!」
パストーレ「何事だ!今は通信中だぞ!」
兵士「演習中だった第四、第七、第八、三艦隊の分艦隊がそれぞれ通信途絶、更にライガール・トリプラ星系が救国軍事会議を名乗る艦隊に占拠されたと!」
パストーレ「分艦隊の演習先はマル・アデッタだったな…。まさか…そうか。」
ヤン「パストーレ大将。どうやらそちらも問題発生の様ですね。」
パストーレ「その様だ、私の配下で反乱軍を出すなど…だが私の兵達だ。可能な限り犠牲は出さずに鎮圧する。それが終わり次第其方に向かう。」
ヤン「分かりました。ご無理はなさらず。」
通信を終えると、私は直ぐにライガールを占拠した艦隊を調べさせた。
そしてやはり演習中だった分艦隊が連合艦隊を形成して星系を占拠した事になる。ライガール・トリプラを守っていた辺境艦隊とも連絡がつかない…恐らく沈められたか、加担しているのか…。
兎も角グズグズしてはいられない。
その日のうちにフェザーン方面軍基幹艦隊は全て出撃した。
各周辺星系の艦隊は全て待機を命じ、第四、第七、第八艦隊それぞれ一万の三万隻でライガール・トリプラに向かった。
ホーウッド「なんという事だ!クソッ‼︎」
ホーウッドは机を拳で叩く。
アップルトン「まさか我々三艦隊から五千ずつの反乱艦隊を出すとは。」
パストーレ「甘かった…いや寧ろ我々が現政権への支持を表明した事で彼らは我々を見限ったのかもしれない。」
アップルトン「嘗ての同じ艦隊の仲間を撃つのか…兵達の心情は複雑だろうな。」
パストーレ「それに関して、無血とは言えないが、一つ策を考えた。」
ホーウッド「聞かせて頂こう。」
パストーレ「我が軍はまず敵と相対する。一応の降伏勧告は出すが、恐らく飲まないだろう。一戦交えるが、我々は敵の攻撃を引きつける程度に抑える。三万と一万五千じゃ本来勝負にならん。」
ホーウッド「その通りですな。」
アップルトン「まず普通に戦えば、勝ちはあり得ません。」
パストーレ「そこで、我が軍が敵を引きつけている間に、揚陸艦を各艦隊旗艦に強行接舷、装甲擲弾兵による指揮系統破壊を狙う。」
ホーウッド「敵将の首をそれぞれ抑えると?」
パストーレ「被害を最小にするにはそれしかない。首謀者と指揮系統を抑えてしまえばまともな抵抗は出来ないだろう。そこで改めて原隊復帰を促す。罪に問わない事を条件にな。」
アップルトン「諦めてくれると良いが…。」
パストーレ「ダメな時は…鬼になるしかない。」
救国軍事会議の実働戦力は第十一艦隊とフェザーン方面軍から離反した一万五千隻のみであった。
そしてそれぞれがヤン艦隊、パストーレ艦隊の迎撃に出ている。
ヤン艦隊は兎も角、パストーレ艦隊は戦力を最低限にまで絞ったがそれでも三万隻、第四、第七、第八艦隊がそれぞれ一万隻である。
元の原隊と戦うに当たってこの一万五千の反乱艦隊は居住惑星ライガールを背に布陣した。
居住惑星を背にすればパストーレ艦隊は惑星都市への被害を鑑みて砲撃を加えるのを躊躇すると踏んだのだ。
敵の布陣は、ライガール・トリプラ星系に到着したパストーレ達にすぐに伝わった。
アップルトン「厄介ですな、惑星を背にされるとは。」
パストーレ「…下手に撃てば惑星地表に当たる…。まだ敵艦隊はこちらを補足していないな?」
兵士「はい!このままの速度で進軍した場合敵艦隊のレーダー領域まで後一時間。」
パストーレ「よし、ホーウッド提督。」
ホーウッド「ハッ!」
パストーレ「これより敵艦隊に対してダゴン星系でも反乱が起きたと偽情報を流す。第七艦隊はこの位置で待機。我が艦隊が戦闘を開始したに合わせ大きく迂回し惑星ライガールを確保せよ。」
ホーウッド「成る程、欺瞞情報で敵を誘き出す。我が第七艦隊はダゴン星系に向かったと見せかけ、敵が勝ちの目があると思って出て来たところを包囲すると。」
アップルトン「引っ掛かるでしょうか?」
パストーレ「やってみないとな。彼らは第十一艦隊の援護を受けれない今、内心は不安のはずだ。そこに討伐軍が一万も数を減らしたとあれば彼らにも勝ちの目があると思って進軍してくるだろう。」
かくして作戦は実行された。
突然の後方での反乱に艦隊が右往左往しているように見せかける為第四、第八艦隊は陣形をめちゃくちゃに乱れさせて敵艦隊の前に現れた。
パストーレは作戦通り反乱艦隊に降伏と原隊復帰を勧告するが、敵から見れば数だけの烏合の衆にしか見えない、当然拒否された。
パストーレ「よし前進、敵艦隊の阻止攻撃をある程度は受けるぞ。その後後退だ、敵艦隊を追わせろ。」
第四、第八艦隊は前進した。
陣形が乱れたままの前進だ、敵からすれば守りが薄いまま撃たれに来たようなものだ。
だがそう見えるだけだ。
第四、第八艦隊は、艦隊規模で守りを固めているのではなく小戦隊規模で其々が守りをかためて敵の攻撃に対処する様に展開している。
その為か、陣形の割には守りは堅かった。
だが限度があるので、その限度を超える前に退かねばならない。
パストーレ「第七艦隊の位置は?」
兵士「折り返し地点です。」
パストーレ「よし、アップルトンに信号、後退開始。…ジェニファー、よく見てなさい。これが父さんの戦い方だ。」
傍らに立つジェニーは固唾を飲んで頷いた。
直接戦うわけじゃないが初陣だ、無理もない。
第四、第八艦隊は後退を開始する。同時に電波妨害を開始するが、自分達は慌てて逃げるフリをして敵からは明らかに壊乱している様に見せかけた。
余談だが同盟軍内で天才的艦隊運用能力を誇るフィッシャーは第二艦隊からヤン艦隊に転属している為、彼の戦術は正に魔術になったが、パストーレにはそんな提督はいない。
だが経験豊富なアップルトンや勇将ホーウッド、そして百戦錬磨である自身で編み出した天才のそれには及ばずとも努力と執念で完成させた複雑な艦隊運用は、同じく複雑な軍事行動を可能にした。
そうとは知らず、いや知ってる筈の反乱艦隊は徐々に距離を詰めてきた。
彼らは目の前にある勝利という可能性に目を奪われてしまったのだ。
パストーレ「よしこれだけ近づけさせれば十分だ。艦載機隊緊急発進!揚陸艦部隊の援護に回れ、揚陸艦部隊は敵旗艦に向けて突進!」
アップルトン「対空防御を疎かにするな。敵も艦載機を出してくると見て良い!」
両軍のスパルタニアンが入り乱れる中数隻の揚陸艦が突進する。
そしてそれら全てが三隻の戦艦に肉迫した。
パストーレ「揚陸艦全艦が敵旗艦に取り付いたな。装甲擲弾兵諸君。作戦は伝えた通りだ。ブリッジを占領し、敵将を殺害、ないしは捕縛せよ。邪魔する物はその剣と斧で切り伏せて良し!」
さて今度は反乱艦隊が狼狽えた。
突然其々の旗艦に揚陸部隊が突入してきて艦隊指揮どころではなくなったからだ。
その間にも正面の第四、第八艦隊は陣形が乱れているフリを辞めて、陣形を横陣で固めた。
反乱艦隊は各艦で応戦するが、対するパストーレ側は陣形を組んで守りに入った為、傷すら付かない。
そして彼らは惑星ライガールから離れてしまった。
自分達の後方に、居ないはずの第七艦隊が現れた事でいよいよ彼らは自分達が嵌められた事を悟った。
三艦隊に包囲された反乱艦隊は四方八方から砲撃を喰らう羽目になった。
三艦隊は円形に敵を包囲しているが、実際その直径はとても大きく、各艦隊射程ギリギリで砲撃していた。
この為反乱艦隊も運が悪ければ沈む程度の損害で済んでいる為、実際の所損害らしい損害はない。
だが二倍の敵に包囲されて四方から撃たれればその心理的ダメージは大きく、それこそ今後の展開次第ではこの包囲艦隊が包囲を狭めてくる。
そして狭めれば…この反乱艦隊はあっという間にこの宇宙から消滅するだろう。
反乱艦隊はその事実を悟り、完全に指揮崩壊を起こし、其々で身を守るしかなかった。
さてその頃、突入された敵旗艦らはその艦内を血に染めていた。
装甲擲弾兵が容赦無く治安歩兵部隊を斬り伏せ、其々の艦のブリッジに向かっていた。
副官「閣下、敵旗艦三隻から通信が入りました。」
パストーレ「全艦砲撃止め、通信を開け。」
それぞれの通信スクリーンから出て来たのは突入した装甲擲弾兵の隊長達だ。
パストーレ「首尾は?」
装甲擲弾兵A「第七艦隊分艦隊司令官は降伏しました。」
装甲擲弾兵B「第八艦隊も同じく。」
パストーレ「我が第四艦隊の分艦隊司令官は?カシム少将はどうした。」
装甲擲弾兵C「我々がブリッジに突入したと同時に反乱の首謀者は自分だと言い残し、自決されました。敗北を認め、残兵に寛大な処置を大将閣下にお願い申し上げると…。」
パストーレ「そうか…分かった。この場にいる全艦に向けてオープン通信。」
ジェニー「どうぞ。」
娘からトランシーバーを受け取るとパストーレは改めて降伏を勧告した。
パストーレ「反乱艦隊に告げる。私はフェザーン方面防衛軍司令官パストーレ大将である。貴官ら連合艦隊の司令官は二名が我が手に落ち、首謀者だった一名は降伏し、自決した。この上の流血は無用である。我が方面軍の威信に懸け、諸君らとその親族に如何なる追求がされぬ事を約束する。全艦直ちに原隊に復帰せよ。諸君らの戦いは終わったのだ。降伏の意思のある艦は直ちにその場で機関を停止せよ。それを降伏、原隊復帰の意思と見做す。」
一、二時間経ったであろうか?
残った反乱艦隊は全て降伏した。
フェザーン方面軍は本当に僅かな損害で反乱を鎮めたのだ。
パストーレ「上手くいったな…カシムの件は残念だったが…。」
副官「はい、誠に。これから如何なさいますか?」
パストーレ「彼らは降伏したとはいえ一応まだ賊軍だ。彼らを伴ってハイネセンに進軍出来まい…第七艦隊と第八艦隊をここに残す。反乱艦隊を見てて貰わないとな、我が第四艦隊のみ現戦力でハイネセンに向かう!」
副官「ハッ!」
この行動は結果的にヤンと戦っていた第十一艦隊を救うことになった。
一方的にやられていた第十一艦隊はライガール・トリプラ星系の敗北を受けた救国軍事会議に後退命令を受け、半壊した艦隊をハイネセンまで後退させたのだ。
ヤンもまた退く敵を追わず、ハイネセン攻略のための策の準備に取り掛かるのだった。
同じ頃、市民ホールではとんでもない大騒ぎになっていた。
デモを起こした民衆と救国軍事会議の兵士が衝突したのだ。
キッカケは救国軍事会議のシャルチアン大佐が危険を承知で戻ってきたジェシカ・エドワーズ・ラップ議員に暴行を加え、それを止めようとした夫ラップ中将と殴り合いになった事で、市民と治安部隊で、銃撃戦に発展してしまったのだ。
ジェシカ・エドワーズ・ラップは意識不明になったが命に別状は無く、夫ラップも重傷を患ったが命に別状はなかった。
この惨事は完全に民衆から救国軍事会議の支持を失うことになった。
そして追い討ちをかける様に第四艦隊がハイネセンに現れたのだ。
だがまだドワイト・グリーンヒル議長は降伏しなかった。
半壊したとはいえ、第十一艦隊は一応健在、そして惑星防衛システムアルテミスの首飾りが有るのだ。
パストーレ「流石にアレはどうすることもできないな…。ヤン艦隊の到来を待とう。魔術師の奇術に頼らないとあの首飾りを寸断する事は出来ない。それこそ無理に進軍したらこちらの損害は計り知れないし、民衆を盾にするかも知れん。」
副官「はい、全艦にこのままの位置を保たせます。」
ジェニーはハイネセンをじっと見つめる。
ハイネセンの都市には彼女の母親、そして私の妻がいる。
心配なのだろう。
私は娘の肩にそっと手を置いた。
パストーレ「大丈夫だ…母さんは大丈夫。」
ジェニー「でも市民ホールで沢山人が死んだって…もしママがあそこに居たら…!」
パストーレ「信じよう。母さんが私達を信じて待ってくれてる事を…きっとハイネセンに戻ったらいつもの笑顔で夕食を作って待ってくれているさ。」
気休めだ、そんなのは分かっている。
だが何もしないよりはマシだ。
そう何もしないよりは…。
パストーレ「ハイネセンに通信を送れるか?」
副官「はい。」
パストーレ「本部ビルに、降伏を勧告しよう。」
暫くしてグリーンヒル大将がスクリーンに現れた。
パストーレ「お久しぶりですグリーンヒル大将。…この様な形になったのは残念ですが。」
グリーンヒル「パストーレ大将、君には失望した。君なら我々の理念に共感してくれると思ったが…今の政府に加担するとはな。」
パストーレ「それが共和制の軍人ではありませんか。政治腐敗を正すなら貴方は軍人では無く政治家になるべきだった。専制政治ならいざ知らず、民主政治で武力による粛清などやっても何の意味もない。テロリストと同じ事。」
兵士「閣下ヤン艦隊が到着…ヤン艦隊より高速で飛来する物体複数!数十二、全てアルテミスの首飾りに向かってます。」
パストーレ「終わりだグリーンヒル大将。」
私は通信を切ったと同じ時。アルテミスの首飾りは巨大な氷塊によって砕け散った。
………
後の結末は知る通りだ。
ヤンによりこの反乱はローエングラム侯が仕組んだ物と暴露され、そして間者として送り込まれたアーサー・リンチ元少将の自白によってそれは決定的となった。
ドワイト・グリーンヒル大将はリンチ元少将を殺害しようとするが、逆に射殺され、リンチ元少将は、グリーンヒル大将の側近に射殺された。
救国軍事会議はエベンス大佐により降伏、解散が伝えられた。
第十一艦隊司令官ルグランジュ中将も旗艦レオニダスⅡ艦橋で自決し、死の間際にヤンとパストーレに残った将兵に寛大な処置を願い出た。
救国軍事会議の反乱はこうして終わった…。
そして銀河帝国でも、リップシュタットの内乱が終わった。
双方大きな傷を残して…。
私は帝国の被った被害を本部ビルで聞いた。
パストーレ「門閥貴族は反乱を起こした惑星ヴェスターラントを核攻撃…。ローエングラム侯は暗殺未遂に遭い、身代わりとしてジークフリード・キルヒアイス上級大将が死亡か…。」
同盟での悲劇は抑えられたが、帝国は悲劇を、銀河英雄伝説最大の悲劇の一つを回避する事は出来なかった様だ…同盟としてはこれ程の利益はない…だが一ファンとして、一個人として彼の死を悼まずには居られなかった。
パストーレ「戦場で戦って、そしてテレビ越しにしか彼の姿を見る事はなかったが…惜しい人物を失ったな…。ラインハルトが自分を責めても、オーベルシュタインを責めても(これ以降周りは彼を責めるが)致し方ない…この上は。」
副官「失礼します。」
副官が部屋に入ってきた。
副官「閣下、お喜び下さい。御夫人は無事です。今本部ビルの一階エントランスにジェニファー・パストーレ軍曹待遇と居ます。」
パストーレ「直ぐに行く!」
私は走ってエレベーターに乗り込んだ。
そしてエレベーター越しから娘と妻を見つけると、エレベーターの扉が開いたら、また走った。
パストーレ夫人エマリー「貴方!」
パストーレ「エマリー‼︎」
私たちは抱き合って。
パストーレ「良かった…生きていてくれて…嬉しい。」
エマリー「貴方も、ジェニーも無事で…本当に良かった…!」
ジェニー「ママ…。」
三人は抱き合った。
家族の再会を周りにいた者達は微笑ましく見ていた。
その後、私達は家に帰り、家族で食事を摂り、これまでの事を話した。
幸いこの反乱の間エマリーは特に拘束されたり、監視を付けられたりする事は無かった様だ…。
グリーンヒル大将の配慮だろうか…。
パストーレ「やはりアンタは死ぬべきじゃなかった…、ドワイト…。」
私はラムのショットを飲み干すと、エマリーにもう一つグラスを用意して貰い、それと自分のグラスにラムを注いだ。
パストーレ「アンタはワインが良いだろうが…ラムも悪くないだろう。同盟は任せろ…帝国は倒せなくても…何としても国としては保たせて見せる…。歴史にはアンタは汚名を残すことになるが、今を生きる私達は知っている。アンタは決して私利私欲の為に行動したわけじゃないことを…。」
私は誰もいない対面にあるグラスを自分のグラスと交わすと私はもう一度ラムを飲み干した。
次の日、私はジェニーを伴って病院に向かった。
ジャン・ロベール・ラップ夫妻の見舞いだ。
そこで私はヤンとフレデリカに会った。
丁度彼らも同じ理由で来ていたそうだ。
ヤン「パストーレ提督。」
パストーレ「ヤァ、ヤン提督。君の友達は元気かな?」
ヤン「はい、二人とも命に別状はないと、ラップの方は程なく退院だそうですが、ここに来て分かったそうなのですが、ジェシカ…ラップ議員は妊娠しているとのことで検査も含めもうしばらく入院すると。」
パストーレ「それはめでたいな!…グリーンヒル中尉…いやもうそろそろ大尉か…。お父君の事は残念だったな…。本当に。」
フレデリカ「ありがとうございます閣下…。父は、父なりに筋を通したと思っております。」
パストーレ「立派な方だった…とても残念だよ。」
ヤン「あの、話を折る様で悪いのですが、こちらが娘さんですか?」
パストーレ「ああ、高校入学直前に軍に入った跳ねっ返りだ。確か君の養子も軍人になると言って、とうとうなってしまったのだったな。お互い父親は苦労するな。ジェニー、挨拶を。」
ジェニーは少しぎこちなく敬礼し挨拶した。
ジェニー「ジェニファー・パストーレ軍曹待遇であります。」
ヤン「ヤン・ウェンリー大将だ。よろしく。」
フレデリカ「フレデリカ・グリーンヒル中尉です。ジェニーと呼んで良いのかしら、よろしくね。」
私はこの時、ヤンとフレデリカが若干距離が近い様に感じた…。
(ひょっとするとこの二人が前に進むのも早まるかもしれないな…ジェシカとラップが今も生きてて、そして子供も出来た…。ヤンとフレデリカもひょっとしたらもっと長い…いや最後の時まで一緒の時を過ごせるかもしれない…決めた…私の使命は…。)
パストーレ「さて、二人…いや三人に会いに行こうか。病室の前で話してたら二人も何の騒ぎか心配になるからな。」
fin…。