もし銀英伝オタクがパストーレに転生して、転生後数時間で死亡するRTAを回避する事は可能なのか?   作:オラニエ公ジャン・バルジャン

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(今回よりノイサガオリジナル艦艇が明確に登場します。原作作品と違う展開が有りますのでご注意下さい)


もし銀英伝オタクがパストーレに転生して、転生後数時間で死亡するRTAを回避する事は可能なのか?『禿鷲襲来・査問会篇Ⅱ』

第八次イゼルローン攻略戦が始まったのはどの時期かと問われれば意見は様々だが、国境警備に当たっていたケンプ大将麾下のアイヘンドルフ少将の分艦隊と新兵訓練中のイゼルローン艦隊のアッテンボロー少将の分艦隊が遭遇した時と考える者が多いだろう。

 

この遭遇戦でユリアン・ミンツは初陣にして敵3機、巡洋艦一隻を沈めている。

 

そこから多少時が経ち、ローエングラム元帥府に五人の大将が呼ばれていた。

 

カール・グスタフ・ケンプ、ナイトハルト・ミュラー、フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト、アウグスト・ザムエル・ワーレン、エルネスト・メックリンガーの五名である。

 

元帥府に集められた五人はラインハルト・フォン・ローエングラムより呼ばれた理由を知らされた。

 

イゼルローン要塞の奪還。

 

そしてその為の一大作戦としてガイエスブルク要塞に航行用ワープエンジンを取り付けて、移動拠点にするという荒唐無稽な作戦であった。

 

五人が目を見開くのは無理もなかったが、この作戦を提唱したシャフト技術大将によれば、これによりイゼルローン要塞を要塞で持って制するのだという。

 

ラインハルト・フォン・ローエングラムは司令官をケンプに任命、副司令官にミュラーを、後方司令官にメックリンガーを当てた。

 

五人の大将がそれぞれ二万隻の艦艇を率いる…つまり十万隻の大軍でイゼルローンに迫るというものであった。

 

この時ラインハルトは秘書官ヒルデガルト・マリーンドルフ伯爵令嬢と昼食兼意見交換を行っていた。

 

ヒルデガルトは今回の出兵が政権安定の為の大規模な勝利の為かと問うた、ならばそれより内政にて政権の安定を図る方が何倍も良いのではとラインハルトに促した。

 

これに対しラインハルトは、

 

ラインハルト「政治的理由の為の勝利には何の興味もない。ただあのシャフトめが得意げに持ってくるのでな。」

 

ヒルダ「だから今回の出征を?」

 

ラインハルト「そうだ、成功すれば、それで良し、しなければ提督たちの器量とシャフトの無能さが露見するだけだ。」

 

ヒルダ「ですが何もそこまで仰るなら無理に十万も艦艇を出さずとも良いのでは有りませんか?確かに帝国辺境、自由惑星同盟領に隣接する諸惑星の民衆からのローエングラム侯の評価が芳しくないのは事実ですが、これは時間を掛けて民衆を慰撫すれば何れはひっくり返るものです。先も申し上げた通り出征する必要性を感じませんし、何もそこまでする必要は無いかと思いますが。」

 

ローエングラム「だが、フロイライン。相手はあのヤン・ウェンリーだ。そして奴の麾下の艦隊は同盟の最精鋭。成功するにしろ失敗するにしろ其れ相応の戦力を持って当たらねば話にならない。それにアムリッツァで刈り損ねた同盟艦隊を減らすことが出来るならそれだけでも御の字だ。」

 

ヒルダ「確かに、そうですわね。(でもだからと言って有能な提督方を集めて敵に当たらせてこちらに損害が出てしまえば元も子もないのでは無いのかしら…それこそ五人の大将の中で誰かが戦死するようなことが有れば…。ローエングラム侯はやはりキルヒアイス提督を失われてから臣下に対する扱いが何処か冷たさを感じる気がするわ。)」

 

帝国軍十万隻の遠征軍が帝星オーディンを発った頃、ヤン・ウェンリーは査問会に呼び出しを受けた。

 

ヤンは査問会に立つ前に備えとしてイゼルローン方面軍全軍を要塞近郊に集めておき、防衛司令官キャゼルヌの呼び掛けにすぐさま応じれる様に対応した。

 

これはヤンにとってもしもの備えであったが、その備えがイゼルローンを救ったと言える。

 

イゼルローン要塞に集結した、第六、第十、第十一艦隊の司令官達はイゼルローンでヤンが査問会に呼び出された事を知った。

 

ウランフ「何が査問会だ!馬鹿馬鹿しい‼︎」

 

ラップ「政府はアルテミスの首飾りをヤン閣下に壊された事への腹いせがしたいんでしょうな。」

 

キャゼルヌ「こんな事は前例がない事です。査問会という存在自体同盟には存在していない。」

 

フィッシャー「兎も角我々はヤン提督が留守の間此処を守らねばならないという訳ですな。キャゼルヌ司令官。」

 

キャゼルヌ「そういう事です。先日アッテンボロー分艦隊が敵艦隊と遭遇戦になっていますので警戒は厳にしていこうと思っています。」

 

ウランフ「新兵を率いてよく戦ったと聞くぞ?アッテンボロー。」

 

アッテンボロー「ユリシーズの幸運に肖っただけですよ。」

 

ウランフ「ユリシーズ…ああ、元はアップルトンの艦隊に居た新型戦艦か。トイレを壊されたとかいう。」

 

アッテンボロー「はい、だからみんなに言ってやりましたよ。「格好が悪くても良い、生き残れよ」って。」

 

ウランフ「貴官らしいな。」

 

キャゼルヌ「そのユリシーズが、今小部隊を率いて哨戒に当たっています。そろそろ定時報告が…」

 

兵士「戦艦ユリシーズより緊急通信‼︎回廊出口に巨大なワープアウト反応を検知!戦艦クラスでは有りません総質量約四十兆トン級‼︎」

 

兵士「現在哨戒部隊は退避中、退避前にワープアウトした物体を撮影したとのこと、モニターに出します。」

 

モニターに映し出されたそれは巨大な人工球体にその後ろを十二機の外付けエンジンが覆い、球体正面には四角形に突出した装甲防御壁が突き出ていた。

 

最後に見た時より明らかに姿は変わっていたが、その面影を知る者はその名を口にせざるを得なかった。

 

メルカッツ「ガイエスブルク要塞…。」

 

メルカッツの声に皆が振り返った。

 

キャゼルヌ「アレが!?」

 

そこにすかさずメルカッツの副官シュナイダーが補足する。

 

シュナイダー「はい、ですが我々の知るガイエスブルク要塞とはどうも様相が違うようです。」

 

ムライ「まさか要塞ごと攻め込んでくるとは…。」

 

兵士「更にワープアウト反応検知、敵艦隊…数…十万隻!」

 

シェーンコップ「いよいよ持って大惨事ですな。」

 

ウランフ「だが我らが来た甲斐もあったというもの。」

 

フィッシャー「数の上では劣勢ですが、こちら側の守りの方が強固です。上手く立ち回れば十分戦えます。」

 

パトリチェフ「兎も角ヤン提督には戻ってきてもらいませんとな。」

 

キャゼルヌ「うむ、恐らくヤンが戻ってくるまで四週間は掛かる。其れ迄何としても此処を守り通さないとな、然もヤンが不在である事も悟られてはならない。」

 

諸将は頷いた。

 

キャゼルヌ「援軍の要請もハイネセンとガンダルヴァに送ろう。」

 

パトリチェフ「成る程、パストーレ大将麾下のフェザーン方面軍は勇猛揃い、これ程援軍に心強い艦隊はありません。」

 

だが、ここで一同は同盟に起きている珍事を知る事になる。

 

キャゼルヌ「パストーレ大将が不在とはどういう事ですかアップルトン提督?」

 

アップルトン「詳しくは話せん…戦艦レオニダスの修理の為にハイネセンに向かっているとしか言えん。」

 

キャゼルヌはアップルトンが物言いたげな表情から察し、もしやと思い探りを入れた。

 

キャゼルヌ「アップルトン提督、パストーレ閣下はハイネセンに査問会が開かれる故呼ばれたのではありませんか?」

 

アップルトン「何故貴官がそれを!?」

 

キャゼルヌ「実はウチのヤン司令官も全く同じ理由でハイネセンへ呼び出しを受けているのです。」

 

アップルトン「何ということだ…だが敵襲とあれば二人は解放せざるを得まい。」

 

キャゼルヌ「流石にそこまで同盟の政治家共が馬鹿とは思えませんが、何にしても我々はヤン司令官が戻る迄ここを死守するつもりです。」

 

アップルトン「分かった、私も代理司令官としての責務を果たそう。司令官の許し無しでは出撃出来ないが、必ず我が軍にも出撃命令が下る筈だ、我々のうち三人の誰かがいつでも行けるようにはしておく。其れ迄持ち堪えてくれ!」

 

通信を切ったキャゼルヌはため息を吐いた。

 

シェーンコップ「まさかパストーレ大将まで査問会に呼び出されてるとは思いませんでしたな。」

 

これには流石にシェーンコップも呆れている。

 

キャゼルヌ「これでいよいよ我がイゼルローン方面軍だけでこの場を乗り切らなければならなくなったという訳だ。ウランフ、ラップ、フィッシャーの、お三方の艦隊はイゼルローンの流体金属層の中に。ドックは満席ですが、流体金属層の中なら要塞主砲から艦隊を守ってくれるはずです。」

 

ウランフ「了解した、直ちに艦隊を退避させよう。」

 

少し時が経ちガイエスブルク要塞はイゼルローン要塞までの距離五十万キロまで迫っていた。

 

兵士「司令官、敵要塞より通信です。」

 

キャゼルヌ「モニターに出せ、だがこちらの様子は向こうに映すな。ヤンが居ない事がバレる。」

 

モニターにはケンプが映し出された。

 

ケンプは正に公明正大の将と言わんばかりに騎士道精神に則った挨拶を同盟側に送った。

 

これには両軍の将から称賛の声が上がった。

 

だがそれは束の間要塞は速度を上げ、イゼルローンに迫る、そしてガイエスブルク主砲が稼働している…ツヴァイヘンダーがその砲火を切ろうとしていた…。

 

帝国軍兵「ツヴァイヘンダー、出力100%射撃準備完了です。」

 

ケンプ「ファイエル!」

 

要塞主砲ツヴァイへンダーはイゼルローンの流体金属層を貫いた。

 

イゼルローンにかつてない激震が走る。

 

同盟兵士「被弾ブロック…事実上消滅です!生存者なし‼︎」

 

パトリチェフ「そんな…あそこには四千人の兵士が詰めていたのに…。」

 

ムライ「何という事だ…。」

 

同盟兵士「外壁修理は現状不可能ですが、流体金属層は自然回復します!但し被弾したRU25ブロックにも流体金属が流れ込んできます。」

 

キャゼルヌ「同ブロックは放棄、隣接ブロック内への流入も阻止しろ。非戦闘員の外壁ブロックへの侵入を禁止。流体金属層内の艦隊への被害は?」

 

同盟兵士「今の所ありません。」

 

キャゼルヌ「ドック内に居ない艦艇は全て要塞の反対側に回せ、万が一敵主砲に貫かれたら事だ。」

 

シェーンコップ「司令官代理、反撃はどうしますか!」

 

キャゼルヌ「反撃?」

 

シェーンコップ「せざるを得んでしょう!このまま座して死ぬわけにはいきません!」

 

キャゼルヌ「だが敵の威力を見ただろう。このまま撃ち合えば共倒れになる。」

 

シェーンコップ「だからこそです!敵にも同じ恐怖を与えて、迂闊に攻撃できなくしてやれば時間を稼げます!今敵に弱みを見せる事はできません。」

 

キャゼルヌ「分かった、その通りだ。トゥール・ハンマー発射スタンバイ!」

 

同盟兵士「トゥール・ハンマーエネルギー充填完了!いつでも撃てます!」

 

キャゼルヌ「ファイアー‼︎」

 

要塞主砲同士の応酬が始まった。

 

防御力の面ではガイエスブルクの方が劣る、だがガイエスブルクも引かず第二撃を放つ。

 

イゼルローンも撃ち返した。

 

そして要塞同士が撃ち合っている中、ミュラー艦隊が要塞後方に回り込んでいることに気がついたものは同盟には居なかった。

 

後方からの敵襲来でイゼルローンは狼狽する。

 

同盟兵士「敵艦隊二万、後方に回り込んで来ました!」

 

キャゼルヌ「いつの間に!浮遊砲台迎撃に入れ!」

 

ミュラー「イゼルローン要塞は我らが作りし要塞、どう攻めれば良いかは心得ている。水雷弾、撃て!」

 

イゼルローン流体金属層に入り込んだ水雷弾は金属層内で爆発し、それに発生した流体金属の波が浮遊砲台を撹乱しまともな反撃能力を奪った。

 

そしてそこにすかさず空戦部隊と揚陸部隊が突入してきた。

 

装甲擲弾兵による要塞の内部攻略とそれを支援する為制宙圏を取りに来た空戦部隊であった。

 

だが…イゼルローン要塞を守るのは、同盟軍四大エース率いるスパルタニアン部隊と、同盟最強陸戦部隊…ローゼンリッターだった。

 

空戦部隊は制宙権の奪取に失敗した。

 

上陸した数に勝るはずの帝国軍はローゼンリッターにほぼ蹂躙される形で押し戻される事になる。

 

ミュラーは揚陸部隊回収を命じた…そして同じ頃…。

 

メルカッツ「司令官代理、私に一時艦隊指揮権をお貸しいただきたい。もう少し状況を楽に出来ると思うのですが?」

 

キャゼルヌ「やって下さいますか?みんな?」

 

ムライ「私はメルカッツ提督を支持する。」

 

パトリチェフ「無論、私も。」

 

アッテンボロー「私はヤン提督を支持する、従ってヤン提督が支持するメルカッツ提督を支持するであろう。」

 

グエン「私もメルカッツ提督を支持せざるを得ん!」

 

マリノ「メルカッツ提督を支持します。」

 

ウランフ「帝国の名将の戦いぶり見せてもらいましょう。私も支持する。」

 

フィッシャー「私もメルカッツ提督を支持します。」

 

ラップ「メルカッツ提督を支持しない理由を探す方が難しいでしょうな。私も支持させて頂きます。」

 

シュナイダー大尉はこの時同盟に亡命したのは間違っていなかったのだと感極まりそうになっていたという。

 

ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ。

 

かつて帝国軍上級大将として数万隻の艦隊を率い、帝国全軍の尊敬を集めた名将は今は率いる艦隊は無く、副官ヴェルンハルト・フォン・シュナイダーただ一人を伴って、イゼルローン駐留艦隊旗艦ヒューベリオンのブリッジに立った。

 

ヒューベリオン艦長アサドーラ・シャルチアン中佐「この艦にヤン提督以外の方をお迎えしようとは夢にも思っていませんでした。ですが、自分の職責という物は心得ております。」

 

メルカッツは頷いて答えた。

 

メルカッツは全軍に向かって通信を送った。

 

メルカッツ「私は客員提督、メルカッツ中将である。これより司令官代理キャゼルヌ少将の命を受け、一時的にイゼルローン駐留艦隊の指揮を取る。我々の責務は司令官代理の掲げた基本方針を戦術レベルに有効、かつ確実に実施する事にある。良き働きのある所に勝利がある事を各人今一度肝に命じよ。」

 

アッテンボロー「ハッ!」

 

ウランフ「ハッ!」

 

グエン「ハッ!」

 

フィッシャー「ハッ!」

 

マリノ「ハッ!」

 

ラップ「ハッ!」

 

メルカッツ「これより作戦行動を決行する。駐留艦隊及びイゼルローン方面軍艦隊全艦発進!」

 

イゼルローン駐留艦隊を始めとした、第六、第十、第十一艦隊が一斉に出撃した事により、ミュラー艦隊麾下揚陸部隊は恐怖の大絶叫であった。

 

イゼルローンから一挙に八万隻の大艦隊が出現したのだから当然であろう。

 

然しそこはミュラー即座に援軍要請を発令、そして自身は揚陸部隊退却援護の為艦隊を前に出したのだ。

 

メルカッツ「目の前にいる味方を決して捨て置くことは出来ない…ナイトハルト・ミュラーという男はそういう男だ。全艦砲撃の手を緩めるな、ミュラーは守勢に強い司令官だ、これだけの数で囲んでも奴を討ち取るのは困難と心得よ。」

 

 

ガイエスブルクも驚愕の中にあった。

 

ケンプ「バカな‼︎イゼルローンの収容艦艇数は二万が一杯のはずだ…まさか液体金属層に浮遊させていたのか!」

 

フーセネガー「ミュラー提督より救援要請が来ています。」

 

ケンプ「見殺しになど出来ん。ビッテンフェルト、ワーレン、メックリンガーに繋げ!」

 

三人の提督たちがスクリーンに現れた。

 

ケンプ「見ての通りだ同盟にしてやられた、ミュラーを救い出してくれ!」

 

ビッテンフェルト「当然だ!叛徒共め味な真似を‼︎」

 

ワーレン「直ぐに向かう!」

 

メックリンガー「お任せを。」

 

同盟兵士「ガイエスブルク近辺に待機していた六万隻の艦隊が敵揚陸艦隊方面に急進中‼︎」

 

キャゼルヌ「要塞主砲は敵要塞への牽制のために動かせん…浮遊砲台もまだ先の影響を受けていて使えん…メルカッツ提督に警告!」

 

メルカッツ「ふむ…敵艦隊旗艦を特定出来るか!」

 

同盟兵士「ハッ!イゼルローンの光学探知カメラとリンク、モニターに出します!」

 

シュタイナー「ッ‼︎戦艦ケーニヒス・ティーゲル、戦艦サラマンドル、戦艦ガンダルヴァ…!」

 

メルカッツ「成る程、ビッテンフェルト、ワーレン、メックリンガーか。そしてミュラー…無為に消耗戦に移行する必要は無い。全艦隊を半包囲陣形に組み直せ、ミュラー艦隊に逃げ場を作れ。敵の目的はミュラー艦隊の救出にある。」

 

オルラウ参謀長「閣下!副司令官閣下!黒色槍騎兵艦隊とワーレン、メックリンガー艦隊の援軍が来ました!」

 

ミュラー「何とか助かったか…装甲の厚い艦を艦隊最後尾に!敵包囲網から後退する!恐らく敵は我が艦隊を逃すつもりである。」

 

オルラウ「罠ではありませんか?」

 

ミュラー「罠であろうとこの場に留まり続け撃ち減らされるよりは良い。」

 

シュタイナー「ミュラー艦隊、損害を出しつつも後退していきます。あと僅かで敵援護艦隊の射程に入ります。先頭はあの黒色槍騎兵艦隊、両翼をワーレン、メックリンガー艦隊が。」

 

メルカッツ「ふむ、一先ずこちらの目的は達した。潮時だ…シュナイダー大尉、諸提督を呼び出してくれ。」

 

シュナイダー「ハッ。」

 

提督達がスクリーンに呼び出された。

 

メルカッツ「これより我々はイゼルローンに帰還します。どなたかに殿をお願いしたいのですが?」

 

フィッシャー「それならば適任者がおります。」

 

ウランフ「出番だぞアッテンボロー少将。」

 

アッテンボロー「アイアイサー!付きましてはお願いがあります。重装甲艦を二千隻程増強していただきたいのですが?」

 

メルカッツ「了解しました。本隊から一千出しましょう。もう一千隻をどなたかに。」

 

ウランフ「それでは元上官のよしみで我が第十艦隊から一千貸しましょう。注意しろよアッテンボロー、相手はあのビッテンフェルト提督だ。」

 

アッテンボロー「猪の牙をへし折ってやりますよ!」

 

ミュラー艦隊が包囲を抜けた瞬間同盟艦隊は踵を返しイゼルローンに後退した。

 

それを逃すまいと黒色槍騎兵艦隊は迫る。

 

だが彼らの追撃を止めたのはアッテンボロー分艦隊だった。

 

増強されたアッテンボロー分艦隊に黒色槍騎兵艦隊は撹乱され、損害らしい損害を与えられずにいた。

 

何より増強された重装甲艦の物理的な装甲と強化された重力シールドを活かした防御陣形に手間取っていた。

 

ビッテンフェルトの苛立ちを感じ取って余計な事をさせまいと思ったのかワーレン、メックリンガーが両翼から攻撃を仕掛けたが、それを咄嗟に判断したメルカッツの指示で援護に来たグエン、マリノ分艦隊に阻止された。

 

ラオ少佐「閣下、要塞より入電、浮遊砲台復旧との事です。」

 

アッテンボロー「なぁ、ラオ。我らが鉄拳ことパストーレ閣下はアムリッツァの時にビッテンフェルト提督に怪文書を送ったのは知ってるか?」

 

ラオ「ああ、確かかなり挑戦的な挑発文を送ったとか…まさか!?」

 

アッテンボロー「そうだ、そのまさかだ。こっちも決定打に欠けてるから奴さんにダメージが与えられてないからな。少し知恵を絞った方が良さそうだ。」

 

アッテンボローは手帳にサラサラと文字を書くとラオにこの通りに送ってくれと手帳を渡した。

 

ラオは苦笑しながら了解と敬礼し、ビッテンフェルト提督に送った。

 

オイゲン「アムリッツァでパストーレ大将閣下に槍騎兵の名を返上せよと忠告されたにも関わらず、相変わらず大言壮語な名を名乗り、そのくせ我々のような分艦隊一つ粉砕出来ないビッテンフェルト提督に告げる。今すぐ後退せよ。もはや貴官らに猪突し我々に食いつく勇気すらないことは我が全軍が知るところである。更に恥を晒し、槍騎兵艦隊どころか黒色雑兵艦隊と呼ばれ、不名誉な改名をする前に即刻立ち去られたし。伊達と酔狂の将、イゼルローン駐留艦隊分艦隊司令官ダスティ・アッテンボロー少将。」

 

ビッテンフェルト「何が伊達と酔狂だと…雑兵が‼︎舐めた口を聞きおって‼︎‼︎全艦突進あの分艦隊を一隻残らず沈めろ‼︎‼︎」

 

ラオ「黒色槍騎兵艦隊突出しました‼︎」

 

アッテンボロー「キャゼルヌ先輩‼︎」

 

キャゼルヌ「浮遊砲台全門ファイアー‼︎」

 

黒色槍騎兵艦隊が他の二艦隊より前に出た隙をついて、浮遊砲台の集中砲火が飛んできた。

 

ワーレン「ビッテンフェルトめ、だから挑発には乗るなとあれ程…我が艦隊が後退を援護するぞ、装甲艦を中心に防御陣形!」

 

メックリンガー「全艦転身浮遊砲台へ砲火集中!」

 

そこは帝国の名将達だ、罠と分かったビッテンフェルトは遅まきながらも的確な判断で損害を最小限に留められるうちに後退し、ワーレンがその間盾として庇い続け、メックリンガーが反撃を掛けた。

 

帝国軍の猛攻に幾つかの浮遊砲台がやられたとみるやキャゼルヌは浮遊砲台を引っ込めた。

 

この戦況を終始見ていたケンプは三人に怒りを露わにしていた。

 

ケンプ「あの三人は何をしている!ミュラーの小僧を救ってくれば済む話だろうが、何故戦場を広げた上、反撃されている‼︎」

 

副官ルビッチ大尉「どうやら黒色槍騎兵艦隊が敵に挑発され、それを追いかけた為かと思われます。」

 

ケンプ「ビッテンフェルトめ…!」

 

帝国軍が撤収作業に移っている頃には同盟軍は悠々とイゼルローン内に帰還していた。

 

寧ろここからが戦場だったと言ってもよかった。

 

損傷した艦を優先的にドックに入れる作業は煩雑の極みであり、誘導、管制、ドックに入ったら入ったで、損傷箇所に侵入した流体金属の取り除きから修理作業が始まるので管制官とメカニックは大忙しである。

 

その一方で司令部は拍手喝采で戻ってきた提督達を迎えた。

 

だが問題はここからだろう。

 

双方が要塞と大規模艦隊戦力を保有していることが分かった今、要塞戦に於いても艦隊戦に於いても抑止力が働き、手詰まりになったのである。

 

両軍にはタイムリミットが生まれた。

 

帝国軍も同盟軍も物資の問題が発生した。

 

イゼルローンもガイエスブルクも収容可能艦艇分或いは収容している将兵、民間人の物資は自力で賄えるが、双方それ以上の艦隊を伴っている為、物資生産が間に合わないのだ…。

 

双方補給線が存在しているとは言え、双方が補給作業を邪魔できる状況であること、場合によっては一時的に要塞主砲を互いの要塞ではなく要塞に接近する補給艦隊に向ける事も可能なので、両軍共に補給部隊の受け入れが難しいのだ。

 

キャゼルヌ「こちらは各艦隊が持ち込んだ物資もあるからまだ何とか…恐らく向こうもそうだが…これはヤンが来る前に我々は物資不足に陥る可能性すらあるな。」

 

ムライ「双方あれだけの大軍を抱えていますからな、敵より先にこちらが飢えない事を祈るばかりです。」

 

パトリチェフ「各生産施設に増産命令を出していますが、焼石に水ですな。」

 

その頃帝国軍は総大将ケンプから四大将が叱責を喰らっていた。

 

ケンプ「卿らは善戦した、だがそれだけだ。敵の大兵力の出現は確かに驚愕に値するものだったが、ミュラー救援の為に出撃した卿らが悪戯に突出した為に多からずとも少なからずの兵と艦を失った。ミュラー、卿は即座に退避すべきであったところを味方救援の為に無理に戦場に止まった為に麾下の兵力を大きく減らすことになった、確かに窮地にある味方を救うのは勇敢な事だが全体の勝利のためには非情にならねばならぬのだ。四人とも艦隊を再編すべく後方に移動せよ。以上だ。」

 

メックリンガーは瞼を閉じ溜め息を吐き、ワーレンは手を頭に当て、首を振り、ビッテンフェルトはわなわなと震え、ミュラーは悔しそうに拳を握った。

 

ケンプは公正明大な男である事は皆が知っている、だが明らかに存在するケンプの焦りを感じ取ってか、皆想い思いの考えはあったが一つ共通していたのは「功を独り占めにする気ではないだろうか…?」であった。

 

その後ケンプは本国より届いた戦況報告に我が軍有利と送った…。

 

ケンプは焦っていた…それは間違いない、だが功を独り占めにする気はさらさら無い…というより不可能だとケンプの名誉の為にここに記しておく。

 

何度も言うように今同盟、帝国は互いに決め手を欠いており、艦隊、要塞の連携無くば勝利は不可能なのだ。

 

それをケンプは百も承知であった。

 

少しだけ時が経ち、ミュラーの元に信じ難い報告が齎せた。

 

ミュラー「ヤン・ウェンリーが要塞に居ないだと⁉︎」

 

オルラウ「瀕死の捕虜が熱に魘されて口にしておりました…その真偽を確かめる前に絶命致しましたので…実際のところはどうなのか…。」

 

ミュラー「どうかな…同盟軍の対応は後手後手に回っていた。艦隊戦ではいっぱい食わされたが、もしヤン・ウェンリーが居たならもっと早い段階から反撃なり奇策なり仕掛けて来そうなものだ。これは本当に居ないのかもしれないぞ…。」

 

副官ドレヴェンツ「然しヤン・ウェンリーとはそれ程の男なのでしょうか?」

 

ミュラー「卿は無血であのイゼルローン要塞を陥落せしめる策を考えられるか?」

 

ドレヴェンツ「いえ。」

 

ミュラー「なら賞賛に値する男には違いない。賞賛すべき敵将を素直に称えるのは軍人として決して悪いことではなかろうよ。…艦隊再編次第イゼルローン同盟側出口に進出する!」

 

ミュラー艦隊の同盟出口側への布陣をケンプは止め、その理由を問い正した。

 

その理由を聞いたケンプは他の大将を呼び寄せ、ミュラーに説明させた。

 

ビッテンフェルト「ヤン・ウェンリーが要塞に居ないだと!?」

 

ワーレン「そんな事があり得るのか…?」

 

メックリンガー「これは…些か面妖な事態になってきましたな。」

 

ミュラー「もしこれが事実ならヤンを仕留め、この戦争の終息すら叶う事も出来ます!どうか我が艦隊に同盟側出口への布陣をお許し下さい!」

 

ケンプは考えた…考えた末の決断は…否であった。

 

ケンプ「これこそ罠だ、敵は我が軍の分断が狙いだ。イゼルローンの司令官がどうして任地を離れるものか。卿の艦隊は予備戦力として重要だ。即刻元の配置に戻せ。」

 

ミュラー「ですが‼︎」

 

ケンプ「戦果を上げねば帰れぬのだ‼︎‼︎」

 

ミュラー「ッ‼︎」

 

ケンプ「即刻艦隊を元の配置に戻せ。これは命令だ。」

 

ミュラー「わかりました、ですが同盟出口付近に哨戒艦の配備を提案致します。同盟からの援軍が迫っている可能性は高いと思われますので。」

 

ケンプ「うむ、良かろう。今の命令を訂正する、哨戒艦のみ残し、ミュラー艦隊は初期の配置に帰還せよ。」

 

通信が切れるとミュラーは参謀長オルラウに問うた。

 

ミュラー「どうしたものかな参謀長。」

 

オルラウ「閣下は副司令官にあらせられます。総司令官閣下の指示に従うのが軍人の本分と考えます。」

 

ミュラー「卿の言う事は尤もだな。…チッ!ヤン・ウェンリーめ…居るなら居る、居ないなら居ないで我らをここまで振り回すのか…!」

 

この時、帝都オーディンからはミッターマイヤー、ロイエンタールがそれぞれ二万隻の援軍を率いてイゼルローンに出兵した無闇に戦線の拡大をするなという命令付きで。

 

ラインハルトはケンプの限界を悟ったのだ。

 

ラインハルト「何も要塞を手に入れる事に拘る必要は無かったのだ。イゼルローンにガイエスブルクをぶつけ、無力化すれば良かったのだ。そこまでの判断に至らない辺りこの辺りがケンプの限界だ。」

 

オーベルシュタイン「ならばその点、ケンプを責任者に選んだ方も責任を免れますまい。彼を推挙した小官も誤った選択を反省しております。」

 

ラインハルト「ほぉ、なかなか殊勝ではないか?だが、最終的に彼を選んだのは私だ。それに元を正せば、あのシャフトが無用な提案をしたことに原因がある。無益だけならまだよいが、有害ときては私としては遇する方法を知らんな。」

 

オーベルシュタイン「ですが、武力だけで宇宙を手に入れるのは困難です。例え汚れたものでも駒はより多くお揃えになった方がよろしいかと。」

 

ラインハルト「誤解するなオーベルシュタイン。私は宇宙を盗みたいのではない、奪いたいのだ。」

 

オーベルシュタイン「御意。」

 

その頃ヤンは援軍を伴ってイゼルローン回廊に入っていた。

ヤンもまたイゼルローン要塞に対してラインハルトが考えていたことに気がつき、その対抗策もあると副官フレデリカ・グリーンヒルに話していた。

 

そして同じ頃、第二艦隊旗艦パトロクロスでパエッタ、パストーレが旧交を温めるべくパエッタの自室で酒を飲んでいた。

 

パストーレ「少し心配な方がある…。」

 

パエッタ「心配…ですか?」

 

パストーレ「友人同士二人しか居ないんだから他人行儀はよしてくれ、…敵が我が軍を徹底的に叩きに来たら果たして耐えられるのかと思ってな。」

 

パエッタ「我が援軍は四万五千、敵は十万。勝負にはならんな。」

 

パストーレ「イゼルローンから艦隊が出てきてくれれば数的不利は無く対等の状態で且つ挟み討ちに出来るのだが…出てきてくれると良いんだが…。」

 

パエッタ「ヤン提督を信じよう。私はレグニッツァ、アスターテの時に彼の進言を受け入れなかった事を今でも後悔している…。だから今の私は彼を全面的に支持するつもりだ。それにヤンも分かっているからアレを持ち出したんじゃないか?」

 

パエッタが親指で刺す方にはパトロクロスの窓から見える宇宙母艦が居た。

 

あの母艦の中には正式配備を見送られたとある兵器が満載されていた。

 

パストーレ「使えるのか?あれは?確かドックファイトに於ける機動性が論外だったと聞いたのだが…。」

 

その時だった。

 

提督達に臨時旗艦レダⅡに召集が掛かったのだ。

 

どうやら敵に発見された様だ。

 

パストーレ「では行くか、中将。」

 

パエッタ「はい閣下。」

 

レダⅡに集められた提督達はヤンから敵に発見されたと戦況の報告を受けた。

 

ヤンは奇襲を仕掛けられなくなったと言われたがこう返した。

 

ヤン「私としては是非とも敵に逃げてほしいけどね。敵は我が軍を見つけていよいよ追い詰められたわけだからね。このままイゼルローンを攻撃し続けるのか、我が艦隊を攻撃するのか…はたまた二正面作戦をやるのか、勝算無しと見て退却するか、私としては是非とも逃げて欲しいね。そしたら楽が出来る。」

 

諸提督達は笑ったが、ヤンもそしてパストーレも心の底から逃げて欲しいと思っていた。

 

ヤンは犠牲を少なく出来るという点で、パストーレは自身が率いる第十四艦隊に一つの不安があったからであった。

 

パストーレ(オートメーション化が進んでるとはいえこの第十四艦隊…新兵と老兵が多い。返って新機材を搭載した艦の操り方に戸惑っているのをここ数日ずっと見ていた…熟練の兵なら兎も角、こうも経験が無かったり、前線から離れていた兵が多いとそうも行かない…戦うとなれば、少し無理をする必要がありそうだが…そうなると第一、第二艦隊が頼りだな…我が第十四艦隊がヤンの足を引っ張る様な真似だけは阻止しなければ…。)

 

パストーレは旗艦レオニダスに戻ると艦隊全艦に向け通信を送った。

 

パストーレ「諸君、どうやら我が軍は敵に見つかった様だ、敵が逃げてくれるなり我が軍を無視してくれるなら良いが、戦うとなれば他の艦隊に比べ我が艦隊はハードウェアこそ新しいが中身はまるでダメだ。諸君ら新兵、老兵諸君の奮闘無くばこの戦いに勝つ事は難しい。この戦いで私に一端の船乗りである事を証明する事を諸君らに望む。」

 

すると全艦からレオニダスへ通信が入った…それは新兵老兵達の同盟国歌の大合唱であった。

 

自分達の覚悟で戦意は十分であると示したのだ。

 

パストーレ(バルジ作戦じゃあるまいし…)

 

と内心苦笑したもののレオニダス艦橋クルー全員で合唱に加わりこの意思表明に応えた。

 

結果、第十四艦隊の高い士気は全軍を鼓舞する事になった。

 

一方イゼルローン方面では帝国軍全艦隊が同盟側出口に移動していた。

 

帝国軍の目的はなんなのか…同盟軍は分からずにいた…正確には帝国軍の目的が自分達を誘い出すためなのか、迫りつつある援軍を迎え撃つためなのかで意見が分かれた。

 

だがここに一石を投じた人物が現れた。

 

ユリアン・ミンツであった。

 

ユリアンはこれは帝国軍の二正面作戦である事を説明した。

 

敵は確実に迫っている援軍を叩く為に援軍が近づいているという事実そのものを逆に罠として利用し我が軍の封じ込めを図るつもりだと言う。

 

根拠を問われ、更に続けると、敵が我が軍を誘き出す理由は二つであり、伏兵を敷いて我が軍に損害を与えるか、帰還中の我々に食らいついて要塞に入るかのどちらかしかない。

然し当然我が方としては防御に徹して出撃してこないという事は敵も承知している、ならば防御心理を利用して封じ込める方が確実だというのだ。

 

こうしてイゼルローン内の意見は纏まり、メルカッツがそれならば敵が攻撃してきた時、我が軍は後退すると見せかけ要塞の流体金属層に隠れ、敵が援軍と交戦した瞬間、外に出て挟み討ちにすればいいと賛成した。

 

キャゼルヌはメルカッツに艦隊の総指揮を依頼し、そしてメルカッツはユリアンに旗艦ヒューベリオンの艦橋での同乗を言い渡したのだ。

 

帝国軍はユリアンの言う通り二正面作戦を取るつもりだったらしい。

 

艦隊がイゼルローンから出ると、帝国艦隊十万は総攻撃を加えてきた。

 

イゼルローン側は直ぐに艦隊を引っ込めると、帝国軍は猛スピードで援軍に向かって転身していった。

 

メルカッツ「どうやら当たりだった様だねユリアン君。」

 

ユリアン「はい、敵は次にヤン提督を狙うつもりです。」

 

メルカッツ「全艦に緊急発進準備命令を出してくれ大尉。タイミングが大事だ。」

 

シュタイナー「はい閣下。」

 

そしてヤン率いる四万五千の連合艦隊とケンプ率いる約十万隻の連合艦隊が相対した。

 

ヤン「さて、味方は動いてくれるだろうか。さもないと、四万五千隻程度の我々などひとたまりもないが……。老練なメルカッツ提督もおられる。それにユリアン、教えたことを覚えているだろうか。そうしてくれれば……。いや、私はユリアンが軍人になることを望んでいなかったはず。いささか虫がいいというものだ。」

 

フレデリカ「敵艦隊前進してきます!」

 

ヤン「全艦後退開始、防御に徹し第一地点まで後退せよ。伏兵部隊に砲撃準備の合図を。」

 

パエッタ「全艦後退!」

 

パストーレ「後退するぞ、シールド最大だ!」

 

ケンプ「逃すか!全力で追え!機関最大‼︎」

 

同盟兵士「敵艦隊増速‼︎」

 

ヤン「後退そのまま!」

 

帝国兵士「射程に入りました!」

 

ケンプ「ファイエル‼︎」

 

ミュラー「ファイエル‼︎」

 

ビッテンフェルト「ファイエル‼︎」

 

ワーレン「ファイエル‼︎」

 

メックリンガー「ファイエル‼︎」

 

約十万隻の猛攻撃であるこれにはヤンも堪らなかったのか、砲撃の衝撃で艦橋の司令官席に胡座をかいていたがそのまま落っこちた。

 

ヤン「いったたた…敵の位置は?」

 

フレデリカ「目標地点に到達しています!」

 

ヤンはフレデリカに助け起こされながら、伏兵部隊に攻撃と艦隊を前もって決めていた陣形、通称フォーメーションDの形に取らせる様に下令した。

 

突如として帝国艦隊は両側面から実弾による遠距離砲撃を喰らい、被害を出した。

 

だが艦隊の姿は見えない、帝国軍は慌てふためき出した。

 

それもそのはずである。

 

この長距離射撃の主は戦闘艇スパルタニアンに大型レールキャノンと専用レドームを付けた試作兵器ランサースパルタニアンからの砲撃だったのだ。

 

重装備故のドックファイト時の劣悪な機動性を欠点に挙げ正式採用が見送られたが、運用法の違い、発想の転換によってこの兵器は日の目を浴びたのである。

 

ラインハルトがケンプの限界を指摘した真の理由も正にそこであった。

 

そして援軍艦隊は後退しつつ砲火を加えた事で三方向から砲撃を喰らう羽目になったのだ。

 

ビッテンフェルト「一体どう言う事だこれは‼︎」

 

パストーレ「使えるじゃないかランサースパルタニアン…これが終わったら我が艦隊にも配備要請を出そう。」

 

そして帝国軍には更に不幸が重なった。

 

イゼルローンから出撃した約八万隻の艦隊に後ろを固められて、背後から砲火を喰らう羽目になったのだ。

 

艦艇数にして同盟軍約十二万五千隻、帝国軍約十万隻、総勢約二十二万五千隻の大包囲網戦になった。

 

ドレヴェンツ「こんなに早く敵艦隊が出てくるとは!」

 

ミュラー「違う!敵は最初から要塞に戻ってなどいなかったのだ‼︎最初からこうして我が軍を挟み込むのが目的だったのだ…!図られた‼︎」

 

ケンプを中心に帝国諸将達はなんとか包囲の隙を突こうと模索するがヤンは艦隊の包囲の密度を上げて攻撃を強化していた。

 

だがどんな包囲網も脆い箇所は必ずある様にこの包囲網も脆い場所はあった。

 

第十四艦隊であった。

 

士気こそ旺盛なれど実力差があり過ぎたのだ。

 

なんとか戦えている状況…と言うよりよく善戦していると言っても良い、もしこれが第四艦隊で構成艦が全て2.5世代艦だったなら帝国軍十万は宇宙の塵になっていたかもしれない。

 

ここで正に発想の転換をしたのはワーレンであった。

 

明らかに動きの鈍い第十四艦隊が辛くも戦えているのは旗艦が前に出て艦隊を引っ張っているからだと見抜いたのだ。ならば艦隊そのものを殲滅しなくても旗艦さえ失えば勝手に瓦解するのではないかと判断したのだ!

 

ワーレン「あの動きの鈍い敵一万隻の旗艦は何処の誰だ?特定出来るか?」

 

帝国兵士「出ました!…えっ!?第四艦隊旗艦レオニダスの模様です!」

 

ワーレン「と言う事は勇将パストーレか…フェザーン方面軍司令官直々の援軍か…然し妙だな、アムリッツァで戦った時は奴の艦隊はこんなに不甲斐ない艦隊運動をする奴らでは無かった…何かしらの理由あっての臨時編成かもしれんな…ならば。サラマンドル艦首レールガン出力最大!目標敵旗艦レオニダス!パストーレの首を取れればヤン程とは言わずとも恩賞は期待出来るぞ‼︎黒色槍騎兵艦隊に援護要請‼︎」

 

ワーレン、ビッテンフェルト両艦隊の猛攻撃を喰らった第十四艦隊の被害は増大の一途を辿った。

 

パストーレ「クッソ…怯むな‼︎守りを固めろ!踏みとどまれ‼︎さすれば第一艦隊と第二艦隊が仕留めてくれる‼︎」

 

同盟兵士「敵旗艦サラマンドルより高エネルギー反応‼︎本艦に向かってきます‼︎直撃です‼︎‼︎」

 

レオニダスを二条の光が貫いた!

 

レオニダスは大破、炎上したのだ。

 

フレデリカ「閣下‼︎レオニダスが‼︎‼︎」

 

ヤン「パストーレ提督‼︎彼は無事なのか?」

 

フレデリカ「通信途絶、応答ありません!…あっ!敵艦隊、第十四艦隊方面より包囲を突破しつつあります‼︎第十四艦隊士気崩壊しつつあり、抵抗能力が有りません!!」

 

ヤン「パエッタ、カールセンに第十四艦隊の残存兵力をそれぞれ二分して包囲の再形成を!パストーレ提督の安否確認を急いでくれ!」

 

帝国軍はこの時戦力は全体の四割を失っていた。

 

そして遂にケンプは有る手段に辿り着いた。

 

ケンプ「そうか…そうだ!アレがあった!」

 

フーセネガー「アレと仰いますと?」

 

ケンプ「ガイエスブルクだ!あの馬鹿でかい役立たずをイゼルローンにぶつけてしまえば、イゼルローンとて一溜まりもない‼︎全艦隊ワーレンとビッテンフェルトが作った穴に向かって密集体系で強行突破‼︎ガイエスブルクに帰還する‼︎」

 

その頃大破炎上したレオニダスは爆散こそしていなかったもののいつ沈むか分からない状況であった。

 

私は娘の声に意識を取り戻した。

 

ジェニー「…パ…‼︎パパ‼︎」

 

パストーレ「…グッ!ジェニー無事か?」

 

ジェニー「私は平気!でも…レオニダスが!」

 

パストーレ「艦長被害状況を!」

 

レオニダス艦長「…閣下残念ながら本艦はここ迄です!損傷が大きく融合炉にもいつ誘爆するか分かりません。今こうして生きているのも奇跡ですな、レールガンの勢いをシールドがある程度殺した様ですが、それでもこの火力ですからな…シールドを張って居なければ我々は一瞬で御陀仏だったでしょう!」

 

パストーレ「生存者の確認急げ!総員退艦せよ!艦隊司令官命令である!例外は無いからな艦長!」

 

レオニダス艦長「ハッ!総員退艦‼︎生存者を誰一人置いていくな‼︎」

 

ジェニー「パ…閣下、指揮座はどちらに?」

 

パストーレはひび割れた艦橋のモニタースクリーンを見回し、近くで死に体の旗艦を守ろうと奮戦する砲艦を見つけた。

 

パストーレ「あの砲艦は?」

 

ジェニー「あの戦艦ですか?…出ました、砲艦フェーベです。」

 

パストーレ「あれは砲艦だよジェニー、元が標準戦艦だから似てるがな、まぁよしフェーベに繋いでくれ。」

 

フェーベ艦長「閣下‼︎ご無事でしたか‼︎」

 

パストーレ「ああ、背中は強打し、身体中煤だらけだがなんとかな。指揮座を君の艦に移したい。構わないかね?」

 

フェーベ艦長「勿論です!お早く、こちらからでももうレオニダスは保たないことは分かります。」

 

パストーレ「すまんな厄介になる。」

 

レオニダスの生存者たちは砲艦フェーベに乗り移った。

 

そしてそれを見届け、満足したかの様にレオニダスは爆炎に消えた。

 

フレデリカ「あっ!閣下!お喜びください、第十四艦隊の砲艦フェーベより通信、パストーレ提督以下レオニダス搭乗員大半が健在との事。レオニダスは撃沈した様ですがフェーベに待避したとの事。指揮座をフェーベに移した様です。」

 

ヤン「そうか…無事で良かった…フェーベに繋いでくれ。」

 

スクリーンにパストーレが映し出された。

 

ヤン提督「パストーレ提督!ご無事で何よりでした!」

 

パストーレ「申し訳ないヤン提督、私が気を失っている間に第十四艦隊は統率を欠き、敵艦隊がその隙を狙って突破していったと聞いた…包囲殲滅の機会を潰してしまった…!」

 

ヤン「いえ、ご無事だっただけでも我々としては大きな収穫です!それより帝国軍がガイエスブルク要塞に引き揚げたと同時に要塞から多数のシャトルが発進しています。恐らく敵は要塞をイゼルローンにぶつけるつもりです。」

 

パストーレ「な!?…だが敵としてもこれしか方法がないか。」

 

ヤン「はい、ですが止められます。命からがら生き延びたところ申し訳ないが協力して頂きたい。」

 

パストーレ「勿論だ!任せてくれ!」

 

帝国軍は要塞内に残った将兵の回収を、同盟軍は要塞を止めるべく陣形の再編を急いだ。

 

そしてガイエスブルク要塞内は三人を除きもぬけの殻になった。

 

フーセネガー「ガイエスブルク要塞、全操縦系統の司令官席への移行、完了致しました。」

 

ケンプ「ご苦労だった…卿らも直ちに脱出せよ。ここからは俺がやる。全艦隊に撤退命令を出してくれ。以降はミュラーが全軍の指揮を取る。」

 

フーセネガー「ハッ…!」

 

少しずつ動き出す要塞を見て、提督達は総司令官にして同僚との最後の別れを惜しんだ。

 

ビッテンフェルト「ケンプ…クソッ‼︎」

 

ワーレン「武人としての責務を果たすか‼︎」

 

メックリンガー「ご武運を!」

 

ミュラー「我が艦隊は最後尾で艦隊の後方を固める…最期まで見届けさせていただきますケンプ提督。」

 

撤退を開始した帝国軍艦隊に見送られながらガイエスブルクが速度を上げイゼルローンに迫る。

 

そこに同盟軍艦隊が立ち塞がった。

 

ヤン「こちらから見て右側上部のエンジンに全艦同時集中砲火、データリンク合わせろ。」

 

フレデリカ「全艦隊データリンク同調!」

 

ヤン「撃て!」

 

全艦の一斉砲火がガイエスブルクのエンジンを貫き、爆散した。

 

制御を失ったガイエスブルクだが、元エースパイロットのケンプの操縦で姿勢を立て直す。

 

だが遂にトドメの一撃がイゼルローンより放たれたのだ。

 

トゥール・ハンマーは遂にガイエスブルクを貫き、ガイエスブルクは消滅した。

 

艦隊最後尾にいたミュラー艦隊はその衝撃波を他の艦隊から守る様に受け、ミュラーは艦橋から叩き落とされ、重傷を負った…。

 

彼が目を覚ました時最初に口にしたのはケンプの生死であった。

 

ケンプが討たれたと聞いたミュラーは大神オーディンに復讐を誓い、全軍に規律を保ち帝国に帰還する様求めたのだ。

 

そして同盟軍も勝利に沸き立つ中トラブルが発生していた。

 

ヤン「追っていった者が居るって!?」

 

フィッシャー「グエン艦隊とアラルコン艦隊合わせて五千が敵艦隊最後尾を固めていた敵艦隊追撃に向かった模様です。」

 

ヤン「なんて事だ!全艦で直ちに後を追う!急がないと手遅れになる‼︎」

 

パストーレ「バカが!ミュラー艦隊は兎も角、ビッテンフェルト、ワーレン、メックリンガー艦隊はまだ半数以上の戦力が残っているんだぞ…その上…ッ!」

 

もし史実通りなら今頃イゼルローン回廊出口に居るのは双璧…恐らく先に出た三人と双璧の戦力、合わせて約七万に報復されてしまう。

 

結果はその通りになった。

 

この愚か者五千隻は回廊出口にて待ち構えていたミッターマイヤー、ロイエンタール、先に撤退し、同僚の敵討ちに燃えるビッテンフェルト、ワーレン、メックリンガーの五艦隊七万隻の集中砲火で瞬く間に消滅してしまったのだ。

 

そしてその直後ヤン率いる全軍がイゼルローン回廊出口に到達したのだ。

 

ヤンが到達するや否や、帝国の将たちはサッサと引き揚げていった。

 

この様子をヤンは養子ユリアン・ミンツに語ったという

 

アレが名将の戦いというものだ。目的を明確化し、それが果たされれば直ぐに退く。

 

将とはこうでなければならない。

 

無闇に戦果を拡大したり、欲を掻けば自身と将兵の命で贖うことになるのだ…。

 

パストーレ(原作では帝国軍は九割の戦力を失って後退した。だがこの戦いは敵は半数、こちらは四割の損害だ…戦略的には勝てても戦術的には互角の戦いだ…。嫌な予感がする……私は最悪の決断をする覚悟をしたほうがいいかもしれん…このままでは奴らの思い通りに銀河の歴史が進むかもしれない…フェザーンとその裏に居る者達の望む歴史に。)

 

fin…

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