もし銀英伝オタクがパストーレに転生して、転生後数時間で死亡するRTAを回避する事は可能なのか?   作:オラニエ公ジャン・バルジャン

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もし銀英伝オタクがパストーレに転生して、転生後数時間で死亡するRTAを回避する事は可能なのか?『平穏と暗闘と決断編』

第八次イゼルローン要塞戦から二年の月日が経った…。

 

その間二年の間に何があったのか…。

 

話さねばならないだろう。

 

先ずは平和な日常とその中で起きた細やかな慶事を話そう。

 

ラップ夫妻の元に一人の男児が産まれた。

 

名前はジョン・ロベール・ラップと名付けられた。

 

そしてそこからもう少し経った時、遂に魔術師がなけなしの勇気を出して副官フレデリカ・グリーンヒルに結婚を申し込んだ…。

 

お互いに実に不器用なやり取りであったそうである。

 

ヤンとフレデリカの結婚式はイゼルローンにて執り行われた。

 

そのお祭り騒ぎ具合は尋常では無かった。

 

この結婚式にはラップ夫妻やキャゼルヌといったヤン艦隊幕僚陣やメルカッツ提督らに加え、パストーレやウランフ、ビュコック、パエッタ等が呼ばれ実に厳かに行われた。

 

少し私の話をするなら、私はレオニダスに変わる新旗艦を受領する事になった。

 

砲艦をベースに下部ユニットをレオニダスやアップルトンのジャガンナータと同じ防御重視の旗艦パーツに換装し、旗艦型パトロクロス級特有の十字アンテナが備え付けられた艦だ。

 

最初からオートメーション化が施された艦らしく実質第十一世代艦という事でナンバーも04FB11-0107と付けられたこの攻守一体型の戦艦の名前はアルケイデスと名付けられた。

つまるところヘラクレスである。

 

そして悲しい事に慶事は割とこの程度しかない。後は平和な日常が続いていた…表向きは…。

 

同盟の政治闘争はひどくなる一方であり第二次帝国領侵攻作戦が採択されるなど気が気でない事態にもなったが、この事態に自分だけ休む訳にはいかないと政務に復帰したジェシカ・エドワーズ・ラップの懸命な努力でこれは回避された。

 

その頃私は昨今同盟市民とトラブルの絶えない憂国騎士団を調べていた。

 

娘が危うく彼らの手にかかりそうになったと言う事もあるが、彼らの身につけていた物に書かれていた文言…。

 

地球教徒との繋がりがあるこの連中をどうにかしなければならないと私は一人暗闘していた。

 

だが押しも押されない大将でも同盟内に広く広がった政治結社を調べることは難しかった…だが糸口は見つけた。

 

彼らは定期的にフェザーン回廊を通り、聖地地球に向かうのだという…それを逆手に取る事にした。

 

某日

 

副官「お呼びと伺い、参りました。」

 

パストーレ「君に頼みがある。軍を辞めて欲しい。」

 

副官「は??」

 

パストーレ「そしてこの金を持って家族と共にフェザーンに渡って欲しい。そこで商人として生計を立てて欲しい。」

 

副官「何故私にそのような…それにコレだけの大金で一体何をせよと。」

 

パストーレ「君にな、フェザーンを探って貰いたい、そして地球教徒の事も。」

 

副官「前者は兎も角、何故後者を調べる必要が?ただの宗教団体ですよ?」

 

パストーレ「ただの宗教団体じゃないからさ。救国軍事会議の時トリューニヒトは彼らの力を借りて潜伏していたらしい、そして憂国騎士団の人員には彼らが混じっている。一政治家、それも国家元首が宗教団体と関係があるのはとてもマズイ。そして何故彼らが協力しているのか…それを調べて欲しい。」

 

副官「その為に小官を?」

 

パストーレ「そうだ、君は何かと気が利くし、物事を見分ける力もある。その力を頼りにしている。知っての通りフェザーン駐在所はトリューニヒト閥の巣窟。その中の誰かの協力なんて望めないし、そこからでは見えないものもあるからな。」

 

副官「閣下は私にそれをやらせて、何を為したいのです?」

 

パストーレ「同盟の存続、コレ以外にない…実を言うとな…帝国は少しずつローエングラム体制下になっていて少しずつ変革していくのに対し我々はいつまで経っても一枚岩にならないばかりか政治腐敗や経済の停滞は未だ脱していない…実は同盟は滅びる寸前にあるといってもいいのだ…だがまだ間に合う。同盟内に巣食う虫ケラどもを一掃すれば、和平の道も開ける。頼む、後生だ!」

 

荒唐無稽な話ではあった。

 

だが副官は自分はアスターテで死ぬところだった筈だが提督に救われた、だから今度は自分が提督を救うと言ってくれ、了承してくれた。

 

様々な伝手を使い、彼は偽の身分証を手に入れ彼はフェザーン商人エドモン・ダンテスになった。

 

ダンテス一家を見送ってから暫く経って…驚くべき情報が齎された。

 

何と和平派急先鋒ジェシカ・エドワーズ・ラップ暗殺計画の存在を掴んだのだ。

 

如何にして掴んだのか…コレは偶然だが、ダンテスがフェザーンから同盟に戻る地球教の巡礼者を送る仕事に着いたのだが、肝心の巡礼者の様子がおかしい事に気がつき、荷物を失敬したら…中に入っていたのはゼッフル粒子気化爆弾だったのだと言う。

 

オマケに盗聴してみれば…帝国は最近地球教徒への締め付けが厳しいらしく、その報復として同盟の和平の象徴であるジェシカを殺害しその犯人を帝国に擦りつければ怒りに駆られた同盟市民は帝国との戦争を望む、否応なしに大戦になる…それが目的だったのだ。

 

まだ実行部隊がフェザーンにいると聞いた私は直ぐにこの時フェザーン回廊出口を固めていた第七艦隊に通信を送った。

 

パストーレ「ホーウッド中将。直ちにフェザーン回廊出口を封鎖せよ。突破する船は全て撃沈を許可する。」

 

ホーウッド「コレは、随分な命令ですな…一体何事です。」

 

パストーレ「テロの計画を掴んだ…ターゲットはエドワーズ・ラップ夫人だ。」

 

ホーウッド「何ですと‼︎」

 

パストーレ「実行チームはまだフェザーンから出ていない。決して同盟領に入れてはならん。」

 

ホーウッド「了解致しました。」

 

通信を切ると同時に私は一つの決断を下した。

 

即日私は装甲擲弾兵連隊を全て召集し惑星ガンダルヴァの地球教徒支部の摘発命令を出すのと同時にこの情報を匿名で同盟全土に流した。

 

一見噂程度にしかならない話だが事が事なのでマスコミが大騒ぎを起こすのは無理もなく、フェザーンからの刺客は帝国からの物なのかフェザーンからなのか、それとも地球教からなのか…コレだけでも論争の種になり同盟市民の話題を呼んだ。

 

そしてガンダルヴァの地球教支部摘発で事件は起きた。

 

地球教徒達が武装して対抗してきたのだ…。

 

原作通りだ…彼らは武装していたのだ。

 

だがその為の装甲擲弾兵だ。

 

瞬く間にこの狂信者を皆殺しにした。

 

政府からはこの暴挙を咎める通信が送られてきたが、私は情報の真偽を確かめようとしたら抵抗されたと一点張りを決め込んだ。

 

地球教徒が武装した宗教団体である事が判明した以上、同盟内は一斉検挙に走るしか無くなった…。

 

幾つかの支部はガンダルヴァと同じように抵抗し、死者を出したがそれ以外の支部は非武装である事や検挙に素直に応じるなどの動きを見せた。

 

こう言った連中を疑わしきは罰せよと言うわけにはいかない。

 

だが私の目的は達成に向かっている事は確かに手応えを感じた

 

私の真の目的は…地球教徒に私を狙わせる事だったからだ。

 

その理由はヤンの暗殺阻止…。

 

軍事的にも政治的にも帝国との休戦、和平を望む様に持っていかねばこの戦争は終わらない。

 

そしてその結末を最も回避したいのは同盟と帝国が完全に疲弊したところを全て根こそぎ持っていきたいフェザーンと地球教徒だ。

 

その手足を幾分か捥いでやったとあれば矛先は私に向く筈だ。

 

…兎も角この一連の事件でフェザーンは表向きには地球教とは無関係である事を全銀河に向けて表明しなければならなかった。

 

同盟でコレだけ騒げば帝国にも伝わる。

 

帝国内でもテロ行為に走るであろう地球教徒に対しての警戒は強まった。

 

コレはラグナロック作戦を防ぐ可能性すら秘めていた事態だった。

 

私は帝国の対応に狂喜乱舞しかけたが、歴史の修正力がいつ働くか分からない、まだ油断は出来ない。

 

ダンテスからフェザーンの株価の急落が齎された時は至極当然と思った。

 

同盟としては連立与党代表暗殺の加担の可能性がある国家の国債を買うなど出来なかったし、帝国としてもこの自治領の独断専行は疎ましくなっていたのだ。

 

ここまでがザッと一年だ…。

 

翌年、年が明けて直ぐに私の元に賓客が来ていた。ユリアン・ミンツだ。

 

この時少尉に昇進している。

 

パストーレ「やぁミンツ君。ヤンの結婚式以来だな。」

 

ユリアン「閣下もお元気そうで何よりです。」

 

パストーレ「フェザーン駐在武官に任命されるとは少し驚いたよ、だがその実は軍中枢がヤンから少しでも人材を離したいという思惑があるのは目に見えているがな。」

 

ユリアン「やはり閣下もそうお考えですか。然しヤン提督は私にフェザーンを見てきて欲しいと仰っておりましたので、私は行くのみです。」

 

パストーレ「そうか、ところであのオレンジ色の髪の毛をした…そう確かシェーンコップ少将の隠し子とか言う子とは上手くいってるのかい?」

 

カーテ・ローゼ・クロイツェルはヤンの結婚式の数週間前にイゼルローンに配属になったらしく、そこで同じ空戦隊になったユリアンと何かとあったらしい…。

 

それを聞いていた私は揶揄ったが、ユリアンの方が上手だった。

 

何も言わずにさぁ、どうでしょうかね?と肩を落としながら両手を目線の高さまで上げて見せた。

 

一頻り談笑し終えるとユリアンは私に問うた。

 

ユリアン「パストーレ閣下…一つお聞きしたい事があります。」

 

パストーレ「何かな?」

 

ユリアン「昨年のジェシカ・エドワーズ・ラップ代表暗殺計画阻止の件ですが、一体どうやってその情報を手に入れたのですか?」

 

パストーレ「ああ、あれな。同盟贔屓のフェザーン商人が気の利く人間だったらしくてな、その商人に下手人たちが自分たちの身を託したのが運の尽きというだけさ。」

 

ユリアン「ヤン提督は他の見解を示していました。パストーレ閣下が事前にフェザーンに何かしらの間者を送り込んだのでは無いかと。」

 

流石はヤン…いや確かに冷静に考えれば、暗殺計画の情報が流れた時の我がフェザーン方面軍の対応の速さは些か異常だった事は疑いようが無い。

 

私は白状する事にした。

 

パストーレ「御名答、副官をな、フェザーンにやった。彼にフェザーンの内情や少しでも悪巧みしている様なら知らせる役目を与えた。想定外だったのは送り込んで直ぐ成果が出た事だったがな…コレは偶然だ、断言する。」

 

ユリアン「やはりパストーレ閣下もフェザーンに思うところが?」

 

パストーレ「というより地球教だな。私の娘に手をあげようとした憂国騎士団の奴が地球教徒だったのでな。必ず目に物見せてやろうと調べているうちに彼らにつながりの一つや二つがあってもおかしく無いと思ってな。まだ決定的な証拠を掴めてない…というより昨年の事件でフェザーン側の対応が早くて掴み損なったがな。」

 

ユリアンは少し苦笑じみた笑いを浮かべた。

 

パストーレ「ミンツ君、私はこの銀河を実質支配しているのはフェザーンだと思っている、そしてその配下に地球教が、或いはその逆かも知れないと思っているんだ。考えてみたまえ、彼らは帝国同盟双方の航路図を持っている、完璧な代物をな。彼らは商業…つまり富の部分で銀河を支配していると思うんだ。帝国から同盟を守るという事はフェザーンに対しても我々は毅然としなければならないと思うんだよ。だからこそフェザーンの言いなりのトリューニヒト閥は何としても押さえ込みたいんだ…。だが救国軍事会議の様にクーデターを起こす度胸と動機を私は持ち合わせていないんだよ。」

 

ユリアン「パストーレ閣下…。そ、そういえば娘さん、パストーレ少尉の姿が見えませんが。」

 

パストーレ「ああ、今日は非番だ、きっと妻と今頃クッキーでも…まさか君はシェーンコップの娘だけでなく私の娘まで手を出すつもりか!?下手をすれば一夫多妻制の時代が来るかもしれんが、娘はやらんぞ!!」

 

ユリアン「そんな気は有りませんから、落ち着いて下さい!」

 

娘をやりたく無いという気持ちもあったが、一ファンとしてはユリアンとカリンには結ばれて欲しいのだ…どうなるか分からない世界線になったが結ばれて欲しいのだ…。

 

パストーレ「なら良いんだ、そうだまだ出発まで時間があろう?下のカフェで茶でも付き合ってくれないか?マシュンゴ准尉も連れて。」

 

ユリアン「ご馳走になります。」

 

私達は本部ビルの下のカフェテリアにてティータイムをとる事にした。

 

パストーレ「シロン星の紅茶を三つ、ティースプーンは二つ、私のは良い。」

 

兵士「畏まりました。」

 

私は懐からティースプーンを取り戻した。

 

パストーレ「マイスプーンが有ってな。」

 

マシュンゴは「コレはコレは」と微笑み、ユリアンも微笑した。

 

兵士「お持ちしました。」

 

パストーレ「ありがとう。」

 

私は紅茶に砂糖を入れるべくスプーンを入れた…そしてその瞬間戦慄した。

 

パストーレ「飲むな!」

 

ユリアン「えっ⁉︎」

 

パストーレ「君待ちたまえ。」

 

持って来た兵を呼び止めた。

 

パストーレ「君は銀のスプーンを知っているか?」

 

兵士「…。」

 

パストーレ「銀は毒物に反応して色が変化する…なぜ私の紅茶にスプーンを入れた時、スプーンは変色したのかな?」

 

その瞬間兵士はブラスターを抜き私に向ける。

 

咄嗟にユリアンとマシュンゴが庇う様に私の前に立とうとするが暗殺者の凶弾が私に飛ぶ事は無かった。

 

暗殺者がブラスターを抜くより早く私の方が抜くのが早かったのだ。

 

パストーレ「もう一つ教えてやろう。左利きは何処に銃を入れておいても右利きの人間より早く抜ける。つまり早撃ちは有利なんだ…聞いちゃいないか…。」

 

 

MP「閣下‼︎ご無事ですか‼︎」

 

パストーレ「死体を調べろ。」

 

案の定だ、死んだ暗殺者の中には地球教の文言が書かれた襷が出て来たでは無いか…。

 

パストーレ「ミンツ君、これが銀河の闇を暴こうとする者に対する仕打ちだ。君はその総本山に向かう、気をつけて行きたまえ。」

 

そして小声でユリアンに私は呟いた

(もしもの事が有ればダンテス商会を頼れ、その商会が私の間者だ。様々な手配を済ませてくれるだろう。)

 

私の暗殺未遂事件もまた同盟を騒がせたが、これはガンダルヴァ星系の地球教徒撲滅の報復という形で報道されたが…。

 

ジェニー「トリューニヒト議長からの差金…父さんはそう考えているの?」

 

パストーレ「ひょっとしたらな。あの兵士はハイネセンから来て間もない兵士だったみたいだったからな…。」

 

ジェニー「議長はどうして父さんの命を狙ったと思ったの?」

 

パストーレ「うーん、そうだね。早い話なら邪魔なラップ夫人を消せる絶好の機会を不意にした礼とかね?」

 

地球教とフェザーンへの牽制…この一年は正にこの水面下の戦いに勤しむ羽目になった。

 

私だけの孤独な戦い…いや不本意だったが娘も協力してくれているから正確には私達親子のみの戦いと言っても良かった。

 

そして今、ダンテス商会は私に一つの情報を送って来た、フェザーンに亡命していた元帝国貴族軍、つまりリップシュタット盟約軍の将校二人が行方不明だと言うのだ。

 

ランズベルク伯アルフレッドとレオポルド・シューマッハ大佐の行方が掴めないというのだ。

 

ラップ夫人暗殺未遂事件以降フェザーンから来る船は全て臨検する様にしている。ここ昨今で同盟に渡って来た人物の顔写真を確認したがそれらしい人間は居なかった…居るはずもない…彼らが居なくなったと言う事は…。

 

パストーレ「直ぐにアップルトン、ホーウッド、カールセンを呼び出してくれ。」

 

ジェニー「はっ!」

 

三人は呼び出され、私から現在の臨検体制を強化する様に言われると彼らは首を捻った。

 

今でも厳しいのに更に厳しくしてどうするのかと問うた。

 

私は昨今の臨検体制がおざなりになっていることを問題に挙げ、対テロ対策の強化を訴えた。

 

正直これは苦し紛れだ…まさか言えるわけがない…時期は分からないが銀河帝国皇帝の肩書を持った精神疾患の幼子が同盟にやってくるなんて…。

 

だが私としては招かれざる客だ…何が何でも同盟に入れさせる訳には行かない…。

 

だが歴史の修正力はここで働いたのだ。

 

ある日、同盟全将兵にトリューニヒトからの重大発表を見る様にと指令が降った。

 

皇帝エルウィン・ヨーゼフ2世の亡命とそれに伴い、銀河帝国正統政府の立ち上げと同盟はそれを支援するというトリューニヒトのお得意のパフォーマンスだった。

 

私が愕然とするしか無かった。

 

イゼルローンから入る事など不可能だ、ならば考えられるのはこのフェザーン回廊しかない。

 

そして私が愕然とするなら他の三人の提督も唖然とするしか無かった。

 

その日の夜、提督たち四人で暗がりに顔を見合わせて話し合った。

 

パストーレ「どう見る?」

 

ホーウッド「全艦に臨検する様に徹底はしておりましたが…」

 

アップルトン「恐らく我々のうちの誰かの艦隊にトリューニヒト議長の息の掛かった艦長が居たのでしょうな、きっとその者が手引きを。」

 

カールセン「と、なると膨大な数の艦長を問いたださねばなりませんな。」

 

パストーレ「然も何の罪で問いただすかだ…事実上その艦長は自由意志で亡命した人間を保護したに過ぎないからな…。我々はそのものを裁けぬよ。だがこれで帝国の侵攻を呼び寄せる事になったら…その責任は我々四人に帰する。」

 

我々は眉間に皺を寄せるしか無かった。

 

どうしようもなかったのだ…いやどうにか出来ると思い上がった私の完璧な敗北と言っても良かった。

 

…だがまだ何とかなるかも知れない…。

 

私は提督達に密かに臨戦体制を取るように伝えた。

 

その次の日、私は三つの酒瓶を用意した。

 

この三つの酒瓶はそれぞれ上の部分が外れるようになっていて、瓶の真ん中からは空洞になっていて実際中身が入っているのは上側だけなのだ。

 

私はその空洞の中にとある作戦書を入れた。

 

この酒瓶の事は誰も知らない…。

 

私はこの3本の酒瓶を其々ビュコック、ボロディン、ヤンに宛てて送った。

 

それから暫くしての事である。帝国から銀河帝国正統政府に対しての声明がラインハルト・フォン・ローエングラムから出され、事実上の宣戦布告が為された…。

 

そしてそれ以降帝国軍の大規模演習が頻発する様になった…。

 

そこからしばらくして…。

 

ジェニー「閣下、全艦隊出撃準備完了。演習出撃可能です。」

 

パストーレ「うむ、行こう。」

 

演習…そう我々は盧溝橋(演習)に向かうのだ…。

 

酒瓶は其々の人物の元に届いた。

 

ビュコック「ん?何じゃこれは…?…………。何じゃと!パストーレめ!何という無茶を!!」

 

ボロディン「確かに帝国軍の動きは活発だったが…だがまさか…いやありえるかも知れん…。直ぐに全参謀を召集しろ‼︎」

 

ヤン「パストーレ提督…やはり既に行動を起こしていたのですね…上手くいけば確かに同盟は有利になる。問題は…。」

 

三人が私の作戦書を受け取っている頃、フェザーン方面軍全艦隊がフェザーン回廊入り口に待機していた。

 

これからここで演習が始まると将兵達は思っていただろう。だが私の声でそれは覆るのだ。

 

パストーレ「諸君、此度何故我らがここに居るか分かる者は居るだろうか…恐らく居ないだろう。ここに至るまで無線封鎖すら行っていたからな。ハッキリ言おう、現在帝国軍がフェザーン回廊を通過中である!」

 

将兵達はどよめいた。

 

無理もないこんな話をすれば、だがこれは事実なのだ。

 

パストーレ「私は密かに回廊内に哨戒艦を送り込んでいて、常にフェザーンを見張っていた…そして遂に帝国軍がイゼルローンではなくフェザーン回廊から攻め寄せようとしているのを発見したのだ。」

 

アップルトン「何と…!」

 

カールセン「いつの間に…!」

 

パストーレ「これより我がフェザーン方面軍はフェザーン駐在員回収を目的とした軍事行動を取る。全艦進路をフェザーンへ!」

 

その頃フェザーンは混乱の最中にあった。突如として現れた帝国軍がフェザーン上空を覆い隠し、兵を大量に揚陸させていたのだ。

 

そしてその帝国艦隊の指揮官はミッターマイヤー上級大将であった。

 

ドロイゼン参謀「フェザーン宇宙航路局の制圧に成功したとバイエルライン提督より通達がありました。」

 

ミッターマイヤー「よしこれより我らもフェザーンの地に降りる。くれぐれも民間人に対する暴行掠奪は厳禁とする、破った者は極刑に処すると伝えろ。」

 

帝国兵士「っ⁉︎閣下‼︎フェザーン回廊同盟方面より熱源多数検知‼︎数八万‼︎」

 

ミッターマイヤー「何だとっ⁉︎」

 

帝国兵士「反乱軍艦隊です‼︎識別信号、同盟軍第一、第四、第七、第八艦隊…フェザーン方面軍です‼︎」

 

ミッターマイヤー「奴らもフェザーンが狙いか‼︎降下中止!迎撃体制を取れ!味方の到着まで何としてもフェザーンを明け渡すな‼︎」

 

ジェニー「帝国軍ミッターマイヤー艦隊です。」

 

パストーレ「疾風ウォルフか、だが防衛戦となれば自慢の艦隊機動も出来まい。」

 

ジェニー「射程に入りました。」

 

パストーレ「全艦、ファイアー!」

 

八万隻の同盟艦隊の砲撃がミッターマイヤー艦隊を襲った。

 

数に劣るミッターマイヤーであったが、的確な防御指示を出し、この猛攻を防いだ。

 

だがミッターマイヤーはこの状態に違和感を覚えていた。

 

敵は八万隻も居るのに何故もっと本格的に攻めて来なかったのか分からなかったのだ。

 

それは同盟の提督達も同じであった。

 

艦隊総司令部は本格的な戦闘に移行する気が余り無いように感じていた。

 

ホーウッド「閣下らしく無い…何か考えがあるのか…?」

 

カールセン「閣下には何か別の狙いがありそうじゃな。」

 

それはアルケイデス艦橋でも同じ事をパストーレは問われていた。

 

ジェニー「艦隊をもっと前面に押し出さなくて宜しいのですか?これだけの物量差なら敵艦隊を圧殺出来ますが?」

 

パストーレ「いやこれでいい。駐在員の反応は?」

 

同盟兵士「未だ確認出来ません。弁務官ヘンスロー、駐在武官各員とも連絡が取れません。」

 

パストーレ「駐在員の回収は諦めなければならないか…ユリアン・ミンツ…生き残れよ…。航路局の割り出しはまだか?」

 

同盟兵士「まだそれらしい施設が…いえ、お待ち下さい!帝国艦が何隻か停泊している宇宙港らしき施設を確認しました。」

 

パストーレ「見つけたか…。……全艦隊に通信を。」

 

ジェニー「繋がりました。」

 

パストーレ「艦隊諸君、残念ながら駐在員達の回収は困難を極め、諦めざるを得ないようだ…よって現時点より作戦目標を変更する。フェザーン宇宙航路局の破壊とする。」

 

将兵達はどよめいた。

 

制圧されているとはいえ民間施設への明確な攻撃をするという事は民間人に対して攻撃を行うのとほぼ同義なのである。

 

パストーレ「そうだ、この攻撃は民主主義の軍人として最悪の決断だ。だがこの攻撃が成功しなければ、同盟の星系図は全て敵の手に落ちるだろう。それは阻止しなければならない。

異議のある者はこの戦いの後、私を告発せよ、これよりの攻撃に参加しない者を罪に問う事はしない事も私は約束しよう。」

 

アップルトン「私は閣下を支持します。」

 

ホーウッド「私も閣下を支持します。」

 

カールセン「ワシも閣下を支持します。」

 

私も、私もと将兵達はこの最悪の決断に付き合ってくれるという者が後を絶たなかった。

 

パストーレ「皆すまないな…ミサイル発射準備‼︎市街地への被害は最小限に止めよ!」

 

同盟兵士「全ミサイル照準固定!」

 

パストーレ「放て!」

 

ドロイゼン「敵艦隊よりミサイルが飛んできます!」

 

ミッターマイヤー「そうか!いかん‼︎バイエルラインに至急退避命令!!敵の目的は航路局の…同盟領銀河航路図の破壊だ‼︎」

 

数百発の対地ミサイルが降り注ぎ航路局は瓦礫と化した…。

 

バイエルラインは辛くも逃げ延びたがこの攻撃で航路局の職員含め数千の人間の命が炎の中に消えた。

 

バイエルライン「奴ら正気か…!」

 

パストーレ「敢えて汚名を被る…ドワイトもこんな気持ちだったのだろうか…。」

 

同盟兵士「敵後方より熱源反応。増援と思われます。」

 

パストーレ「……我々の仕事は終わった。全艦警戒厳としつつガンダルヴァ星系に帰還せよ。」

 

増援に来たのはミュラー艦隊であった。

 

ミュラー「これは…ミッターマイヤー上級大将は御無事か!」

 

オルラウ「ご無事のようです!…ですがフェザーン宇宙航路局を同盟軍に破壊された模様…!」

 

ミュラー「なんたる事だ…。」

 

パストーレの独断専行はボロディンの機転により事前に組まれていた秘密作戦という形に落ち着いたが、帰還の途についていたパストーレを待っていたのはビュコックの叱責であった。

 

ビュコック「貴官は自分が何をしたのか分かっているのか‼︎独断で軍を動かし、事実上中立の国家の民間施設を破壊したのだぞ‼︎」

 

パストーレ「罰は何なりと受けます。ですがこれで敵は同盟の地の利を得る事は出来なくなりました。今後の防衛戦に於いて実に有利に運ぶ事かと。」

 

ビュコック「貴官はその為だけにこれだけの暴挙に出たというのか!」

 

パストーレ「ビュコック閣下、同盟は存亡の危機にあるのです。祖国が生き永らえるなら私は鬼にでも悪魔にでもなりましょう、ですが私に従った諸提督と将兵達に責任は有りません。どうかそれだけはお忘れなきよう、戦場でお会いしましょうそれでは。」

 

ビュコック「おい待て、パストーレ!」

 

私は通信を切った…。

 

これしか無かったのだ…。

 

同盟を長らえさせる為には帝国に何一つ弱みを見せてはいけないのだ…。

 

恐らく今頃イゼルローンにはロイエンタール麾下の艦隊が攻め寄せているだろう。

 

両側の回廊を抑えてしまえば帝国軍は何も出来ない。

 

後は外交での決着に期待したいところである…だがそれが叶わないなら…死力を尽くした戦いになる…。

 

航路図が手に入らなかった事でラインハルトは激昂するだろう。

 

その怒りが同盟全土を焼き尽くすことが無いようにしなければならない…。

 

その為に私は…悪魔と契約したのだ…。

 

fin

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