もし銀英伝オタクがパストーレに転生して、転生後数時間で死亡するRTAを回避する事は可能なのか? 作:オラニエ公ジャン・バルジャン
帝国軍のガンダルヴァでの損耗はラインハルトを激怒させるには充分だった…。
戦闘では互角の損害だったものの敵の奸計にまんまと嵌り、被った損害は一個艦隊丸々であり、これにより前衛艦隊だけでも半数近い戦力が回復不能になったのだ。
ラインハルトは即刻オーベルシュタインに同盟軍に徹底的な報復手段を取るように命を下し、オーベルシュタインは即座にその手配をした。
元は首都星ハイネセン攻略のために用意したものだったがハイネセンは先の反乱で丸裸であった為使われることがないと思われていた…だがラインハルトの勘気がそれを呼び寄せた。
一方その頃同盟軍はイゼルローン方面軍以外の全戦力が結集し、その艦艇数十九万隻を数えた。
ガンダルヴァの勝利に同盟軍の士気は天を衝く…いやこの場合天すら既に超えている、銀河を突くと言ったところか?
兎も角同盟軍は半狂乱に近い状態になった。
もはや数的優勢は覆ること無く、約束された勝利が齎されると誰もが信じていた。
だが同盟軍は、知る由もなかった。
帝国軍が、ローエングラム元帥府の将兵達が、嘗ての清廉潔癖さが鳴りを潜め、怒りと憎悪に狂ったことなど…それによる大惨劇が待っていることを…そして自分達もそれに呑まれる事を…。
ビュコック「敵の前衛は半壊、それよって、敵の戦力は我が方より少なくなった…。アムリッツァの仕返し、いや仕返しをしようとした敵を返り討ちにした訳か。」
パストーレ「後はこのマル・アデッタのアステロイド帯に潜む我々はここを城として籠り、碌な攻城兵器を持たなくなった帝国軍を迎え撃つ簡単な戦いになるでしょうな。」
ボロディン「吹き荒れる太陽風はさながら水堀と言ったところか、然も定期的に鉄砲水になる。」
パストーレ「これで負けるようなら我々は無能もいいところだがな。」
ここ数年の同盟軍の善戦と結果的な勝利が同盟の諸将の目すらも曇らせた。
敵の前衛と今しがた戦っていたパストーレでさえ…。
だが運命の時は直ぐに訪れる事になる。
帝国軍は全軍がガンダルヴァに集結した後、全軍でマル・アデッタに入った。
帝国軍十三万隻、同盟軍十九万隻の大艦隊戦が幕を開けようとしていたその時であった、真紅の戦艦(バルバロッサ)に率いられた巨大な艦艇が複数戦場の遥か彼方後方に現れた。
同盟軍はその存在を認識したのは少し経ってからだった。
工作艦…戦いながら戦力を回復させるつもりと思った…。
誰もが…。
恐ろしい事に数年前に受けた奇策など忘れていたのだ…。
バルバロッサが放った二条の光が同盟軍が籠るアステロイドを貫いた次の瞬間。
爆炎がアステロイドを貫く形で炎の槍として現れた。
同盟軍の驚きを挙げる声と悲鳴が通信を一杯にした。
パストーレ「何が…!何が起きた!?今の一体何だ‼︎‼︎」
ビュコック「被害を…被害を確認するんじゃ‼︎大至急じゃ‼︎‼︎」
ボロディン「ルフェーブルと通信が繋がらないだと!?第三艦隊所属艦に通信が繋げて安否を確認させろ‼︎」
アル・サレム「消えた…今ので第三艦隊は…消えた‼︎こちらも五千か六千は持って行かれた…!」
同盟軍を襲った炎の槍…それは指向性ゼッフル粒子による艦隊直接攻撃だった…。
これにより第三艦隊は司令官ルフェーブル中将諸共全艦が消滅、更にその周辺にいた第九、第二、第十二、第四、第五、第十四艦隊が五千隻近くの損害を被り、同盟軍はたったこの一撃で五万隻の艦艇を失ったのだ。
会敵から数時間の沈黙の末に起きたこの天文学的大虐殺は同盟軍を士気崩壊させるには充分だった。
被害を免れた数少ない艦隊の一つ、第十五艦隊の司令官だけはこの事態を理解していた…。
それは嘗て自身の祖国で発明されたものだからだ。
メルカッツ「指向性ゼッフル粒子発生装置…!」
シュタイナー「まさかゼッフル粒子による艦隊直接攻撃だなんて‼︎」
メルカッツ「ローエングラム公は先のガンダルヴァの意趣返しをしたのだろう…。嘗ての彼、いや彼らならこの様な手を使わなかったろう、例え勝つ為であろうとな。だが、我々は彼の勘気に触れ過ぎたのだ。」
シュタイナー「味方は総崩れです。」
メルカッツ「まだ立て直せる、いや立て直すはずだ、ビュコック提督やパストーレ提督なら…。」
メルカッツの言葉通り同盟首脳部は何とか落ち着きを取り戻し態勢を整えようとしていた。
帝国軍は動く様子は無い。どうやらゼッフル粒子で全て焼き殺すつもりの様だ。
ビュコック「皆、落ち着くのじゃ。あれは何度も直ぐ撃てるものではない!陣形を組み直せ‼︎」
パストーレ「残存艦艇の数と戦隊の数を計算急げ、壊滅した戦隊は解体、残った戦隊に編入しろ、多少数の差は出ても気にするな‼︎」
同盟軍は何とか艦隊を立て直すと一挙に突撃を開始した、突撃の目標は特殊工作艦部隊だ。
ビッテンフェルト「愚かだな叛乱軍め!誘い込まれたと知らずに!食い止めろ‼︎」
帝国艦隊の猛反撃が同盟軍を襲う。
然し窮鼠となった同盟軍は第二艦隊を先頭に突破しつつあった!
パエッタ「怯むな!敵の工作艦さえ破壊すれば二度と火炙りに遭う危険はない!何としてもあの艦だけは落とせ!」
同盟軍は一挙に失った同胞の仇を討たんと鬼神の如く戦った。
帝国軍も復讐に燃える鬼と化していたがいかんせん前衛は半壊していたのもあり同盟軍の突破を許してしまう。
だがそこにラインハルトの無慈悲な指揮が飛ぶ。
第二艦隊への砲火集中であった。
パエッタ「構うなこのまま突っ込め‼︎」
パストーレ「パエッタ‼︎このままでは全滅するぞ‼︎」
ビュコック「パエッタ提督を全軍で援護するんじゃ‼︎」
第二艦隊は奮戦虚しく壊滅状態に陥った…。
旗艦パトロクロスも被弾し、炎上した。
パエッタは負傷しながらもブリッジに立っていた。
パエッタ「まだだ…せめて敵のコントロール艦の、あの赤い戦艦だけは…!」
パエッタは戦死した艦長の死体を退けると、自ら操艦してバルバロッサに目掛けて突進した。
ラインハルト「いかん‼︎止めろっ‼︎」
パエッタの特攻を僅かに生き残った第二艦隊の残存艦がサポートした。
パエッタ「自由惑星同盟万歳‼︎‼︎」
旗艦パトロクロスはバルバロッサに特攻し、爆沈した。
そしてその爆発は連鎖し、工作艦のゼッフル粒子に引火して全ての工作艦が爆炎の中に消えた。
この会戦が地獄と云われる事になる所以はある意味ここから始まったとすら言える。
亡き友の形見であったバルバロッサの沈む光景を目にしたラインハルトは、友が自分の為に死んだ光景が頭の中に蘇っていた。
そしてラインハルトは理性を失い、怒りに身を任せた…。
ラインハルト「…せ…‼︎叛徒どもを1人残らず殲滅せよ‼︎1人たりとて逃がして帰すな‼︎」
ビュコック「パエッタ…すまん!全軍退くのだ!アステロイドに再度籠城しろ!帝国軍は勢いこそあるが陣形は乱れている。防御に徹して後退するんだ‼︎」
パストーレ「パエッタ…よくも…よくも…金髪の孺子‼︎‼︎」
この時、他艦隊と共に殿を務めた第四艦隊の奮戦は尋常じゃなかったと云われており、これによりワーレンの旗艦サラマンドルが艦首に甚大な損害を被り大型レールガンが使えなくなった他、シュタインメッツに至っては直衛艦の半数が沈む程砲火が届いていたという。
悲憤に駆られる同盟軍を、憤怒に塗れた帝国軍が追う。
そして帝国軍がアステロイドに迫ろうとした瞬間、太陽風が吹き、帝国軍は前衛艦隊を始めとして多くの艦隊が流されてしまった。
ミッターマイヤー「太陽風だと!?…しまった!全艦散開急げ!敵に狙い撃ちにされるぞ!」
ビュコック「ルフェーブルとパエッタの仇を討つぞ!全艦斉射‼︎」
打って変わって、今度は同盟軍の猛攻が帝国軍を襲う。
前衛は流されながら艦隊を再編していたが、中衛として後に続いた黒色槍騎兵艦隊が無理矢理太陽風を突破した。
ラインハルト「前衛に敵への突撃を命じろ‼︎黒色槍騎兵艦隊はそのまま敵に喰らいつけ!…自然まで俺の邪魔をするのか…‼︎忌々しい‼︎」
明らかに怒気に呑まれているラインハルトをオーベルシュタインは横目で見つつ、主君の命令を各艦隊に伝達した。
オイゲン「敵正面、第十二艦隊です‼︎」
ビッテンフェルト「同盟軍統合作戦本部長か!相手にとって不足は無い‼︎」
ボロディン「来るか!黒色槍騎兵!奴らをここで沈めろ!さすれば奴らにまともな突撃力は無いぞ‼︎」
パストーレ「ボロディンがビッテンフェルトと戦闘に入った!?いかん、今ここでボロディンを失えばいよいよ統制が効かなくなる…第四艦隊は第十二艦隊の援護に向かうぞ!」
ビュコック「チュン参謀長、ボロディンだけで黒色槍騎兵を止めれると思うか?」
チュン・ウー・チェン(史実通りファイフェルが心臓発作で病院送りになった為参謀長になった)「いえ、難しいと思います。万全な戦力ならともかく第十二艦隊は先のゼッフル粒子をくらい艦隊が損壊していますから、援護が必要です!」
ビュコック「同感じゃ、黒色槍騎兵艦隊に火力集中!」
黒色槍騎兵艦隊に火力が集中したが、それは一時で終わった。
何とか再編してアステロイドに侵入した前衛艦隊が兎に角近くにいた艦隊と戦闘に入った為第十二艦隊の援護どころでは無くなったのだ。
それでもボロディンはビッテンフェルトを防ぎつつ全軍の統制を続けていた。
だが悪名高き黒色槍騎兵艦隊旗艦ケーニヒス・ティーゲルの主砲は、旗艦ケルヌンノスを捉えた!
同盟軍兵士「被弾しました!被害甚大‼︎」
ボロディン「総員退艦を!全軍はこのまま黒色槍騎兵艦隊を押さえ込め、乱戦にさえ持ちこまさなければまだ勝機は…」
同盟軍兵士「第二波、来ます‼︎」
それがケルヌンノスの最期であった。
ボロディンは旗艦と運命を共にし最期まで全軍の統制を取り続けた…。
そして第十二艦隊もまた司令官の後を追うように壊滅してしまった…。
然し帝国軍は無理な突撃を敢行した事により陣形は完全歪な形になり、両軍はアステロイドベルトの中で乱戦になった。
もうここからは口で説明するには悍ましい光景だった。
150年…150年分の憎悪が当にここに集大成として存在したと言っていい。
回線が乱れ、両軍の通信は戦場を飛び交った。
この場にいる皆が、口々に、殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎殺せ‼︎…と
全軍全将兵が只管殺せと連呼しているのだ…。
当初こそイデオロギーの対立であった、だが長い歴史は人類を同盟人、帝国人に分け、民族対立まで孕むようになった。
民族、イデオロギー、ひょっとすれば宗教まで違う者同士が融和するなど基本的に無い。
そして一度戦争が始まれば、絶滅戦争に発展するのはそう珍しく無い。
当にこの戦いは同盟は帝国人を滅ぼす為に、帝国は同盟人を滅ぼす為に戦っているようなものになった。
艦艇の砲撃が装甲を貫き、中にいた人間を焼き殺し、アステロイドに叩きつけ、踏み潰し、艦載艇が群をなして相手の艦載艇を数で襲って細切れにした。
悲鳴、断末魔、怒号、これらは戦場に充満した。
ラインハルトですらも、ミッターマイヤーですらも、ビュコックでさえも、そしてパストーレでさえも、憎悪に呑まれた…。
だがその憎悪から先に目を覚ましたのもこの連中だった。
だがこの惨劇の収拾をつけるのは容易では無かった…。
完全な消耗戦になり、然も上級将校以下が完全に暴走状態にある中で切り上げるのは困難であった。
取り分け同盟軍は既に数の上で劣勢に追い込まれその数は十一万隻にまで減らし、帝国軍は十二万隻と一万も差が開いていた。
両軍がこの場で消滅するかと思った時、救世主現るとばかりにこの戦場に現れた者がいた。
それは第十三艦隊と第十一艦隊だった。
二艦隊がラインハルトの後衛を襲うやいなや帝国の諸将たちは大急ぎで後退し、主君を守らんと集まって行った。
ヤン「ビュコック長官、パストーレ提督、今のうちに後退を。」
ビュコック「ヤン…来てくれたか…。」
ヤン「ここまでが潮時です。このままでは全軍が消滅してしまいます。ここは私とフィッシャー提督が殿になります。全軍を後退させてください。」
パストーレ「何という事だ…艦隊司令官とあろう者が…いっときの感情で無駄に兵を殺し、殺させてしまった…撤退だ!急げ‼︎」
ラインハルト「ヤン・ウェンリーか!構わんこのまま殲滅する‼︎」
オーベルシュタイン「お待ち下さい閣下。既に我が軍の損害と疲労は無視出来ぬものになっています。ここは一度、こちらも退くべきです。同盟軍は既に組織的抵抗をするにも難しい程の損害を被っております。ここは一度、敵にとどめを刺すための布石として、退くべきかと存じます。」
ラインハルトは歯軋りしながら敵を睨みつけたが、凄まじい損害を被っている自軍を顧み、オーベルシュタインの言に従い、全軍をガンダルヴァに戻した。
同盟軍もまたヤンとフィッシャーが殿となり、首都星ハイネセンに進路を取った。
この戦いで、同盟軍は残存艦九万隻、帝国軍は十万隻にまで減らす事になり、以降マル・アデッタ星系は鮮血星系と呼ばれる事になる…。
然しこれ程血を流してもまだ戦いは終わらない。
戦いは更なる局面を迎えようとしていた…。
fin…