時間を通貨とし、時間を徴収する
原因探しの途中、彼女は死にかける状況になってしまうが…。
「──みんなの時間、返して貰うからね!」
※こちらは読み切り版です、連載版とは多少変動がある事をご了承下さい
──数年前
─
「猫さん?濡れてるよ?」
赤いパーカーを着た茶色いロングヘアに赤い目の少女は雨に濡れて震えている灰色の猫を抱きかかえ、
「んしょ、んしょ…。ん〜…!」
少し埃の残る小さな劇場。
劇場の名前自体は彼女もよく知らないが、少なくとも今の彼女にとっての家はここだった。
「ちょっと待っててね」
猫を横たわらせると少女は一旦裏手に行き、持ってきたタオルで猫の体についている水を拭いていく。
「こ、こういうのって初めてだから…合ってるのかなあ?」
慣れないながらに拭いていくと、猫が小さく鳴く。
「…お腹空いてる?」
その言葉に猫は少し反応する。
「うーん、猫って何食べるんだろ……。とりあえずニノお姉ちゃんに何か貰ってくるね!」
それから少しして少女が持ってきたのは幾つかの焼かれた肉の小さな盛り合わせだった。
「ん、どーぞ」
少女が差し出した肉を猫は少しずつ食べていく。
外はまだ雨が酷い。
止むのは明日の朝になるか。
「猫さん、今日はここで休んでいいからね!」
元よりこの地区で身寄りのない彼女が
限界は4時間。
「ん〜…。ちょっと疲れちゃったかも…おやすみ、猫さん」
そのまま少女は猫の近くで丸くなり、寝息を立てて寝てしまった。
─翌朝
「ん、んん…?…あれ?」
少女が目を覚ますと灰色の猫はいつの間にかいなくなっていた。
が、あの猫に用意した食事は空になっている事に彼女はすぐ気づいた。
「どこか行っちゃったのかな?…大丈夫だといいけど……」
そう呟く彼女は自分の首元にネックレスのようにつけている懐中時計に少しだけ触れた。
──それから数年後
少女のいる裏路地は「
この地区の中で色を持てるのは
彼女のいる裏路地はモノクロとそう変わらない場所であった。
「ねむ、何してんだ」
「あっ、とと…。ニコラおじさん」
赤いパーカーを着た茶色いロングヘアに赤い目の少女──
「そんなに急いでどうした?」
「あのね、最近友達の皆が全然
「別にこの地区や裏路地じゃ珍しい事でもないだろ、τ社の連中が時間徴収して管理してんだから」
「それはそうかもだけど〜。なんか引っかかるの〜!」
「勘でやたらめったら動くもんじゃねえぞ。それに組織に属してるわけでも、
「でもなんか気になるし!…また後でね!」
「あっ、ちょ…。…全く」
駆け足でいなくなったねむをニコラは呆れた顔をしつつ見送る。
「行動力があるのは結構なんだが、あの子力も何もなかったろ…。…
そう呟くニコラの持つ腕時計は12時間分の時間を示していた。
*
─τ地区の一角にある床屋
「…こちらの提示した条件による契約でよろしいんですね?」
1人はスーツを着た灰色の髪と目をした男性。
1人は仕事中だったであろう床屋の男性。
「あ、あぁ…。これで動ける時間が増えるんだな?」
「私達は嘘はつきません。…では、これで契約は完了という事になりますね」
「今時契約書も使わない口約束なんて珍しい。
床屋の男性はそう言いつつ立ち上がり、スーツを着た灰色の髪と目をした男性も床屋のドア近くへ。
男性のスーツの左胸には「
「私達は信頼を尺度にしております故、お気になさらず。…では失礼します」
スーツを着た灰色の髪と目をした男性──ヒジリを見送った床屋の男性は再び中に戻る。
男性の着けている時計が示す時間が僅かに減っている事に気づかないまま。
*
──τ地区
「色々考えずに動いてたら、裏路地からかなり離れちゃった…」
ねむはいつの間にか、比較的時間を多く持つ住民が住む地区の方へと来ていた。
「…わ、あ」
彼女にとって、馴染みのない景色。
色のある建物、人々。
モノクロや灰色でない食べ物。
「……で、でもお金になる時間は全然持ってないし…」
この地区では時間がお金の代わりになる。
時間を多く持つ人はそれだけ動ける時間も、お金となる時間も多い。
だが、彼女は1日4時間しか
下手にこういったところで買おうとすれば、あっという間に持っていかれるだろう。
「あらあら、お困り?」
「…はえ?」
声のした方を見ると眼鏡をつけた灰色のポニーテールに灰色の目をした、自分より年上の女性が自分の後ろにいた。
「あっ、ごめんなさい。びっくりしたわよね」
「わ、私は大丈夫なので!…えと、百樹ねむです」
「セシャトよ。よろしくね、お嬢さん」
「お、お嬢さんなんて言われるほどでもないから…!」
「ふふ。…それで、どうしてこんなところに?見た感じ、慣れていなさそうだったから」
「あー、えと…」
眼鏡をつけた灰色のポニーテールに灰色の目をした、自分より年上の女性──セシャトは近くにあるベンチに座り、ねむの話を聞いた。
ねむの友達が最近はめっきり彼女の家に訪れなくなった事、それの原因を探す為に手当たり次第に探していたところを勢い余って地区の方にまで来てしまった事、お腹が空いたので何か買おうとしたものの、自分の時間は最低保証である1日4時間しかない事。
「…なるほどね」
「まだ
この地区では個人の持つ時間はバラバラで、人によって
その為、必ずしも会話や食事の速度が合致しない事の方が多い。
「……じゃあ、私が何か買ってあげましょうか?」
「へ、ぇ…?!…い、いいの?お姉さんにも
「大丈夫よ、それに」
セシャトはなんの躊躇いもなく、その一言を口にした。
この地区にいる人間なら、絶対に言えない一言を。
「──時間は幾らでもあるもの」
*
一方、ヒジリと取引した床屋を営む男性はというと、いつもより急ぎながら仕事をしていた。
「…とっとと終わらせて、節約を…」
髪を切る手も、こころなしか焦っているように思える。
「あんさん、どうした。いつもより切り方が雑になってないか?」
「…はぁ?」
「…なんだい、いつものお前ならそんな風にお客に突っかかったりしないだろ」
「俺は今急いでるんだ!」
「そんなピリピリされたってこっちの時間はまだあるんだから──」
こういった他人と干渉する仕事をτ地区でしている人々は大金を
だが、それでも床屋の男性は
「いいから、俺の時間の邪魔を……」
「するなぁ!!」
その言葉と共に男性の体に複数の歯車が発生し、姿が変化する。
所々に古さびた歯車が付き、頭部と両腕にはハサミが見える。
「なんだ、ツイステッドか…?!?」
だが、この空間は時間同期化がされている。
床屋にいた人々は慌てて逃げ出そうとするも、速度が他の人々と変わらず、もみくちゃになる。
床屋のドアが開くより先に、血飛沫が飛んだ。
*
──τ地区内の一角
セシャトに食べ物を買って貰ったねむは、それを食べていた。
幸い、時間同期化はセシャトが済ませてくれていた為、最低保証分の時間は気にせずに食事が出来る。
「…結構お腹空いてたのね」
「んっ、普段は裏路地にいる人に食べ物とか洋服とかは助けてもらってるから…」
「裏路地?」
「私が暮らしてるところ。
「そう…。…ついてるわよ、拭いてあげるからジッとしてて」
「ん」
食べる手を止めたねむの口周りを拭き、彼女が食べ終えたのを確認すると彼女の顎を軽く上げ、彼女の目を見つめる。
「…?」
「……この都市では珍しいくらいに純粋な目ね。そして、
「セシャトお姉さん?」
「こっちの話よ。気にしないで」
セシャトはねむの頭を撫でるとベンチから立ち上がる。
「もし会う事があれば…また会いましょう」
「っ、ちょ…?!」
パチンという音と共にセシャトの姿は消えていた。
慌てて近くにある時計台を見る。
もう
「急いで帰らないと……っ!」
*
ハサミの怪物は高速化しながら、手当たり次第に邪魔をする人間を殺していく。
両腕のハサミには
『オれノ時間ォジャマする奴は…』
それを眺める人影が2人。
どちらもスーツを着た灰色の髪と目をした男女。
「…最初に仕掛けたのはヒジリか」
「カイロス様、本当にこんな方法で
「彼以外も動いているだろう。…私の恋人も、だが」
「まあ、でしょうね。ノルンさんは?」
「ここの
「はいはーい。分かってますって」
スーツを着た灰色のショートヘアに灰色の目の女性──アナトレーは、スーツを着た灰色の髪に灰色の目の男性──カイロスの言葉におどけて了承の意を見せる。
「……最も彼奴等が此方に来ていない保証もないだろうがな」
「彼奴等?」
「私達の元いた場所にいたマイスターの直属の部下だ。能力としては彼方の方が上回る、慎重に行きたい」
「りょーかいです。じゃ、私も
どこかへと消えたアナトレーを見送り、カイロスは地区の喧騒を見ながら言った。
「どの道この地区の住民が
「──この
*
──τ地区 裏路地
「ヤバ…っ!」
時刻は午前3時。
つまり、
午前3時の特定の時間から、80分間。
その間はα社の
理由はよく分からないけれど。
「早く家に……っ、ぃ…!」
勢い余って転んでしまう。
時刻は午前3時10分。
つまり。
「間に合わなかった……!」
これからの80分間はどの家もどの店も、ドアを閉める。
理由は単純明快。
掃除屋自体が脅威であるのもそうだが、この時間帯は
つまり、この時間帯に掃除屋に
「っ…!!」
「285934」
「053279」
言語として成立してすらいない、意味不明な文字列の声。
掃除屋の声だ。
頑張れば、あと少しで
なのに。
「564347」
「157903」
「あぐっ…!」
掃除屋の攻撃が体に突き刺さる。
髄にまで響く痛みと共に、地面に赤が広がっていく。
「ゃ、だ…」
まだ何にも突き止められていない。
もっと友達から聞きたい話、知りたい話はたくさんある。
自分の未来もどうなるか、分からないのに。
「──こんなところで、おわりたくないよ…」
ねむはその言葉と共に意識を失い、掃除屋は彼女に近づく。
が、彼女に近づいた掃除屋を何かが吹き飛ばした。
そして、その存在は倒れているねむに向けて手を翳すと同時に手から古い時計盤のような陣が発生し、それが逆時計回りに回る。
そして──
*
──裏路地 劇場
「ぅ、ぅうん…?」
「お目覚めですか」
「……?!?」
聞き覚えのない男性の声に動揺する。
モノクロ染みた劇場の中で、男性の見た目だけが浮いてみえた。
あまりに鮮やかだったから。
青い髪に青い目、茶色いシルクハットには歯車のようなものが幾つか見え、着ているスーツは緑色、ネクタイは黄色。
「……」
「どうしたんですか?」
「あ、ええっと…びっくりしちゃって。…助けてくれたの?」
「はい。出来る範囲で治療も済ませておきました」
「あ、ありがとう。…百樹ねむ、です」
「クロノ・ゼクンドゥスと申します、気軽にクロノと呼んで頂ければ」
「クロノさん…。でも、なんで助けてくれたの?」
緑色のスーツを着た青い髪と目の男性──クロノはねむに向き直る。
「…貴女が知りたがっているものに対する打開の手段があると言えば、どうしますか」
「!……本当?」
「私は嘘を言いませんから」
「…ど、どうすればいいの?!」
「──私と契約していただければ」
その言葉にねむは首を傾げる。
「契約?」
「はい。私と契約を交わして頂ければ、対抗する力は得られるかと」
ねむにとって、ある意味では賭けだった。
それでも。
「…分かった、契約する」
「よろしいんですね」
唐突にクロノがねむを抱きしめた。
「?」
「…少し痛みが伴いますが、ご了承を」
同時にクロノがねむの首元に噛みつくようにキスをした。
「ん、くぅ…ぐ、は…ぁっ……!?」
体の奥底から、
前後の感覚が分からなくなる、知らない強い痛みが全身を襲ってくる。
「ぁ、ああ…は、ぎっ…ぁ゛…ぐ、ふぅ…」
痛みが落ち着くと、ねむの額と首元に猫のような印が現れ、左目が短針と長針のある時計の文字盤に変化する。
「これで、契約は完了しました。以降の私達の時間は互いに帰属します、よろしくお願いしますね。お嬢様」
「お、お嬢様なんて柄じゃない…から」
「形式的なものです、お気になさらず」
「ん?…ん〜?」
ねむは近くにあった水たまりを鏡の代わりにして自分の変化に気づいたようだった。
その体勢が四つん這いなのにはクロノがため息をついていたが。
「…片目が変わってる?」
「契約の影響でしょう。…これは私からの少しのプレゼントです」
クロノが指を鳴らすと、寂れた劇場が変化していく。
恐らくかつての賑わっていた頃の色や形を取り戻していく。
「わ、わぁ…!?
「なるほど、この世界では技術をそう表現するのですね」
「?うん」
「…貴女様にも」
「?」
再びクロノが指を鳴らす。
すると先ほどまでねむが着ていたものは色をそのままにカジュアルゴシックロリータに、懐中時計はきっかり24時間に。
「わ、24時間ちょうどだ…!」
「…気配がしますね」
「気配?」
「ええ。私を派遣した人物が言っていた、ハリーと呼ばれる存在でしょう。……お嬢様、準備はいいですか?」
「ん、うん!」
クロノが差し出した手をねむは取り、気配のする場所へと向かった。
*
──τ地区 裏路地近く
「いた…!」
「どうやら、あれが最初に発生したハリーのようですね」
クロノとねむの目線の先にはハサミの怪物が。
『オマえ裳オレのジカンォ邪魔スルのか…!?』
「クロノさん、今は
「私がナビゲートします、指示に従って頂ければ」
「分かった!」
同時にクロノが内部にメトロノームが見える黒と金の大型のアイテムに変化し、自動的に装着される。
《ノームドライバー!》
「わっ…」
そのままねむの手元に首にかけている懐中時計とはまた別の懐中時計が現れ、内部にネコとウサギの絵が見える。
『その時計をドライバーにセットして下さい』
「あ、頭の中でクロノさんの声する!?強化手術なんてしてないのに!?」
『今は指示に従って下さい』
「う、うん」
ねむはその懐中時計をドライバーに装填。
《
《
同時に内部のメトロノームが音を立てて動き始める。
『装填した時計の表面を閉じてから、操作してください』
「あっ、こう?!」
装填した懐中時計の表面を閉じ、文字盤が見えない状態に。
そこから、ドライバーを操作する。
『今から言う言葉を同時に言って下さい』
「!」
クロノとねむは同時にその為の言葉を告げた。
『「変身」』
ねむを抱きしめていたクロノの幻影が立ち消える。
《
そして、同時にねむの体が尋常ではない苦痛に襲われると共に両目に時計の文字盤が現れる。
更にねむの体を覆うかのように枝のようなものが発生する。
「ぁ、ぐ…うぅ……!!か、ぁ…っ!」
ねむが悶え苦しむ動きを見せた瞬間、それが変化する。
枝はねむを覆い、青いアンダースーツに。
アンダースーツの上から赤い燕尾服のような装甲が展開され、装着。
顔部分には白ウサギのような仮面が展開され、装着。
複眼が赤く光ると共に、最後にウサギの尾が燕尾服の後ろ部分に着く。
《
モノクロの世界の中で、
『うィングのヤツカぁ…!?』
「違うよ、でも」
ねむは、否。
「──みんなの時間、返してもらうからね!」
『──不正に奪われた時間、戻していただきます』
*
『こレハ俺ノジカンダァ!』
「言う事聞きそうにないね!!」
『命名するなら、シザース・ハリーでしょうか。…来ます、避けて!』
「っ!」
シザース・ハリーの2枚の金属板による攻撃をティムビットは回避。
そのまま軽くジャンプしようとするも。
「わあ、あ──?!?」
どうやら
『なッ…⁉︎』
『軌道修正は私がします。そのまま、アレの頭に打撃を』
「パンチって事だよね!分かった!」
『ひとリでゴチャゴチャト…!』
「やぁ〜っ!!」
『ガッ?!』
指示通り、
シザース・ハリーの頭部が開きすぎるほどになっていた。
「お、おぉ…?」
『次です、そこから蹴りを』
「どっちでもいーんだよね!それっ!!」
そこから、勢いのままに
『こムス芽ガァッ…!!』
「私は1人じゃないもん」
『お嬢様。次の手は、私に1度体の権限を預けて頂けますか』
「へ?わ、分かった!」
『っ!!』
同時にシザース・ハリーが
が、
目にも止まらぬ速さで、
『グゥ…!?』
「え、対応出来た?!?」
『あちらが認識する此方の時間速度を3倍にしました。そちらの方が手っ取り早かったので』
「あっちの速度をわざと超えたって事?なの?」
『
『しつコイぃ…!!』
「しつこいのはそっちだよ!もう!」
シザース・ハリーの切断攻撃をティムビットは避けると、飛んできた金属板の波状攻撃をどうにか受け止め──
「クロノさん、
『何か考えがあるようですね。承知しました』
「…そぉれ!!」
先ほどは等速でティムビットに向かっていった
『ギャぁアアアアア!?』
──
『そろそろ決めましょう。…懐中時計の上部を押してから、ドライバーを操作して下さい』
「分かった!」
装填されている懐中時計の上部を押し、ドライバーを操作すると内部のメトロノームの振り子の勢いが先ほどよりも早くなる。
《
ティムビットは軽く片足跳ねをした後、そのまま思いっきり上空へ。
ティムビットの背後に複数の懐中時計が発生すると共に鐘の音が聞こえる。
そして、ハリーに向けて両足蹴りが突き刺さる。
《
小さな爆発と共にハリーだった男性は倒れる。
ねむが一息つくのとほぼ同時に、彼女の頭の中でクロノの声が響く。
『変身を解除していただけますか』
「あっ、そうだよね!…うん」
変身解除するとねむの傍にクロノが現れ、彼が空中に手を翳すと内部にハサミが描かれた懐中時計が彼の手元に。
《シザー!》
「…今日のところはこれで十分でしょう。戻りましょうか」
「うん」
*
──裏路地 劇場
クロノと共に帰ってきたねむは互いに漸く情報交換を行った。
といっても、持っている情報としてはクロノの方が多かったのだが。
「クロノさんはτ社の時間徴収する人達に紛れてる時間銀行って人達をなんとかしに来たって事だよね」
「ええ。彼らはこの世界の…この都市における時間が他の世界とは少し違うという事に気づいたようで。それを利用しようとしているとは、派遣した方から聞いています」
「でも、なんで私となの?契約する分には私以外でも良かったんじゃ?」
「…貴女の
「未来…?」
「私事ですよ。…それに貴女が今着ている服は貴女の未来の時間で作られた物です、ですので貴女の時間が彼らに奪われる事は早々あり得ないでしょう」
「へ〜…って、えぇ?!これで
「?はい」
ねむは驚きつつも、クロノに対して笑顔で言った。
「ともかく、これからよろしくね!クロノさん」
「こちらこそ、よろしくお願いします。お嬢様」
「だから〜っ!…もう」
クロノが小さく欠伸をすると、シュルシュルと姿が変わっていく。
「…?!」
ねむが驚いたのも束の間、クロノがいた場所には1匹のふわふわした毛並みの灰色の猫がいた。
猫は小さく欠伸をすると、丸まって寝に入る。
「え、えっと…クロノさん…?」
不思議そうな顔をするねむの頭の中にクロノの声が響く。
『申し訳ありません。私が元いた場所と、この世界とでは時間の流れが多少違うようで…。契約者を無事に見つけられた事や感覚的な時差ボケなども相まって疲れが出てしまいました』
「強化施術もしてないのにクロノさんの声する〜?!…って、えと、つまり…疲れちゃって猫さんの姿になったって事?なの?」
『そのような認識で違いありません。帰ってきてから、先に説明しておくべきでしたね…』
「
『ありがとうございます。我が主ながら、恩に着ます。…恩自体は、以前にもあるのですけれど……』
「?何か言った?」
『いえ。では、少し寝させていただきます』
「うん、今日はお疲れ様」
猫の姿になったクロノをねむは優しく撫でながら、柔らかい声色で呟いた。
「私だって、今日クロノさんに助けて貰ったもん。──一緒にがんばろーね、クロノさん」
それを聞いた猫の姿で眠っているクロノが少しだけくすぐったそうにしているように見えたのは気のせいだったのだろうか。
*
──τ地区の一角
地区の中でも、特に灰色に近い場所で落ち合う者達が5人。
「セシャト、どこに行っていたんだ?」
「ごめんなさい。ちょっと気になる子がいたから、面倒を見ていて遅れたの」
「気になる子?」
カイロスの言葉に微笑みで返すセシャト、彼女の言葉に不思議そうな顔をするヒジリ。
「たっだいま〜。…ノルンも連れてきたよ〜」
「織っていたかったのに……」
アナトレーの言葉に気怠げな返答をする、スーツを着た灰色のロングヘアに灰色の目の女性──ノルン。
「それで、どうしたのさ」
「…マイスターが派遣したと思しき人物が、ヒジリが時間徴収した人物の時間を取り返した」
「はぁ?!もう対応されたのかよ!?」
「ヒジリ落ち着いて…」
「落ち着いていられるかって…!お前らも、もう既に何人か契約取り付けてるだろうけど…このままじゃ文字通り時間の問題だっての」
ヒジリの様子を見たセシャトは彼を宥めつつ、別の話題を振った。
「まあ、深呼吸しましょう?…カイロス、私は私達に似た性質の子を1人、この地区で見かけたわ」
「…セシャト、どういう事だ?」
「この都市で純朴に夢を追える子供。人が自らの
その言葉を聞いた、セシャトを除く全員が反応した。
「その子はもうマイスターの部下と契約している可能性が高いけど…。その子に対するプライベートな接触は私がしてもいいかしら?幸い、その子の懐にはある程度入れたの」
「そこまで言うならセシャトに任せよう。他の者達は引き続き、時間の徴収を」
カイロスの言葉に各々は頷く。
1人、ノルンはカイロスに向けて言った。
「私はこの都市でも使い物になる織り物を用意する。資金源は一応いる」
「…それは時間徴収と並行して行うように」
「はーい…」
渋々と言った様子で了承の意を示したノルンにカイロスは少しばかりのため息を吐く。
その場からいなくなった面々をカイロスとセシャトは見送る。
「忙しくなりそうね」
「…私達の
「分かってるわ」
セシャトはカイロスに抱きついたあと、彼の手の甲と額に小さくキスを落とした。
Clock.0 ハリー
時間を奪われてきりきりまいになった人々が変化した存在。
大抵はアイテムを由来とする姿をしている。
基本的に時間に関係する能力を持つ。