「
「 ──── ── ─── ─ ─ ───── ────── ──── ─ ─── ── ─────── ──── ── ───── ─── ─── ──── ───────── ──────」
敵である筈の自身に礼を送り、まるで勝負の
山本によって斬り落とされたテテミガロの左手が獣たちに踏み潰されて肉塊に変わっていく一方で、超速再生によって左手と右手の爪が復元され、背中を被っていた鱗も古い鱗を押し上げる形で生え変わりつつあった。
無限に涌き出る兵士が地面を蹴る蹄の音は荒野を越えて貴族街にまで木霊し、
六つに別れた竜巻は山本を囲い込むと、獲物を見つけた蛇のようにゆっくりと
テテミガロが使用する虚閃──〈
天地を覆う獣の群れの攻撃を霊子の足場と瞬歩を用いて宙を蹴り進んで掻い潜り、自身に迫る山本を牽制するために映射虚閃を使用していたテテミガロだったが、山本を囲う完全無欠の包囲網が完成したことで、この戦いにおいて今後その技を放つ必要は無いという判断に至った。
拡散させていた霊圧が瞳を核として収斂し、天地四方を囲まれて身動きが取れなくなった山本に標準を定まっていく。
全身全霊、最速かつ最大の一閃が放たれるまで数秒のところで山本の霊圧が、止んだ。
「 ────卍解 」
「 『残火の太刀』──────── 」
テテミガロは見た。矮小な死神がその刃に滾らせていた唯一の武器である炎を自らの手で途絶えさせる様を。闇夜に潜む獣を恐れ、身を守るために暗闇に向けて松明を振りかざす人間のように、尸魂界の一角を喰い千切るほどの巨躯を誇る怪物相手に炎を司る斬魄刀を構える一人の死神。相対する全ての存在が矮小となるテテミガロからしても、それが実際に対抗の助けになるかは別として強者相手に武器を構える行動は当然の道理であり、故に唯一の武器である炎を捨てる
全方位から押し寄せた獣と竜巻によって圧し潰された肉塊の中に籠る山本の言葉がその答えを示して見せた。
「 残火の太刀 〝北〟 」
『 〝 天地灰尽 〟 』
閉ざされた筈の〈死の匣〉を抉じ開けて飛び出した燃え滾る刃によってテテミガロの身体が両断され、違和感に続いて理解、そして数秒遅れて痛みがその全身を駆け抜けた。再生を試みるも炎熱によって焼き斬られた断面の細胞は悉く死滅しており、超速再生による治癒を大きく遅らせる要因となっていた。
燃え
山本が放った技──〈天地灰尽〉は、刃に押し込めた全ての炎と霊圧を攻撃の瞬間に合わせて解放することで敵を跡形も無く消し飛ばす一撃必殺の型である。本来であれば刃に触れた者のみがその餌食となる近距離用の技だったが、山本の尋常ならざる霊圧は、テテミガロ同様
テテミガロが芳醇な魂魄を求めて現世へと侵攻してとある小国を襲った際に、悲鳴渦巻く戦場から唯一人生きて逃れた者がいた。後に現世にて勃発する二つの大戦と西欧を中心として広がった皮膚が変色して死に至る感染症を予言した妙齢の女性──ジル・ベラスケス・ファルマージョは王より
これまで喰らった数多の虚をいずれ三界の覇者となる自身の姿に
その恐怖と罹災の記憶を後世へ伝えるべく、元あった〈死霊使い〉という単語に上書きする形で〈ネクロマンサー〉の音を充て、
しかし、科学の発展に伴って伝書に記録される虚という存在はお伽噺の中に登場する空想上の生物と同一視されるようになり、結果として虚の存在は歴史から消え、〈
期せずして自身の名前で事象の上書きを果たしたテテミガロだったが、皮肉にもここより遥か先の未来にてまなこ和尚──兵主部一兵衛によってテテミガロという真名を塗り潰され、〈
テテミガロに迫る山本の両脇には、未だ無傷のままの獣たちが天地灰尽の焦げ跡を境界線として列を成していたが、一匹たりともその線を越えて山本に襲い掛かる様子はなく、警戒の色は解かないまでも沈黙を保ったままその歩みを観察していた。
テテミガロが生み出す獣、
赤の濃度が高まった空は、痛みと怒りにのたうつテテミガロの胸に空いた
テテミガロは中級大虚でありながら〈超速再生能力〉を有していない稀有な存在であった。虚を虚たらしめる因子が、テテミガロが内包する最上大虚や
テテミガロの身体は孔の真下に位置する核を中心として入れ子の要領で幾億の虚が覆い重なった〈超多層構造〉となっており、欠損した外端部を埋めるような形で内部の層を部分的に押し出すという
ここより数百年前、
周囲に渦巻いていた竜巻は〈天地灰尽〉が纏った熱風によって相殺され、そよ風となって優しく荒野を撫で付けている。恐れを克服した数百体の獣たちが山本に襲撃をかけたが敢えなく返り討ちに遭い、その爪と牙は山本の喉元に届くことは無いままに灰となって荒野の一部と化した。
一方テテミガロはというと、右手を含む上半身は辛うじて動かせるまでに元の形を取り戻していたものの、右脚を含む下半身は未だ回復が滞った状態で、両手と左脚の計三本で身体を支えて立つテテミガロの回復の
中級大虚でありながら虚圏の玉座にまで手を掛けた〈誇り〉を投げ捨ててでもこの死地を逃げ延び、傷口に刻まれた屈辱さえ高みへ上るための糧とする戦略的撤退。それ以外に選択肢は無かった。
テテミガロは胸に込み上げた苦汁を噛み締めながら、
敗走する瀕死のテテミガロに止めを刺すわけでもなく、山本は刀を納めてその背を見送った。本体の衰弱に伴ってテテミガロが創造した獣たちが霧のようになって消失して荒野に溶け込んでいく。今はまだ名前を失ったままの〈元流〉には、敵意の無い相手の背を斬るという
テテミガロから流れ出た体液と霧散した分体の屍から滲み出た濃厚な〈虚の因子〉はこの戦いから三千年の年月が経過しても消えることなく名も無き荒野──更木に残り続けることとなる。虚の因子と結合したざらつく霊子さえ満身創痍の身体には心地よく、浅く深呼吸をしてから宙に足場を作って空へと昇る。地平線の際まで落ちた夕照に背を押されつつ仇敵──剥生崇氏が待つ虚圏へ向けて黒腔に足を掛けた──。