▼蚤の市とかボロ市とか室町時代にはないはずなんですが(楽市楽座が今の日本におけるフリマの原型だったか)、どうしても土井先生ときり丸を買い物に行かせたかったのでここでは「ある」ことにしました。バレーだってバトミントンだってあるんや、フリマがあったってかまへんやろという開き直りの精神でいきます
pixivより転載
休日の前の日、バイトから帰って来たきり丸が元気よく見せて来たビラがあった。
土井は彼から受け取ったそれを見る。
「ボロ市? 明日?」
「そう! 布はいくらあっても困らないッスからね! 草鞋の紐やおしめなんかにも使えますし! つきましては保護者として付き添いお願いします!」
「まぁいいけどね。少し遠いから早起きして行こうか」
そして、翌日の予定は定まったのだった。
翌朝、早起きした2人が向かった先は、想定よりも賑わっていた。
「わー、布だけじゃねぇや。色々売ってる」
「そうだな。お、本が売ってる」
「おっ、この古着いい感じ」
2人はふらふらと離れかけた。特にきり丸など、頭の中で銭勘定が忙しい。土井も土井でついつい古本に目が行っていたが、それから離れてどこかへ行こうとするきり丸に気付いた。
慌てて彼の首根っこを掴む。
「ぐぇ」
「こら、私の側から離れるんじゃない」
「だってあんた古本ばっか見てるじゃないですか。僕は布が見たいんです」
「ははは、仲が良いねぇ」
声をかけて来たのは、古本を置いていた店の主だった。しわくちゃの日焼けした顔で、にこにこと笑っている。
「元気ですねぇ。そちらの子はお兄さんのお子さんかな?」
「えぇ、そんなものです」
土井がそう言ったのは、「先生と生徒です」と言ってもこの場では通じにくいからだろうと、きり丸はそう判断した。
しかし次の土井の発言に、店主共々目を剥くことになる。
「それと未来の妻でもあります」
「!?」
「なんであんなこと言ったんですか!」
戦利品を担いで帰って来ている道中は何も言わなかったが、家に着いた途端きり丸は怒りだした。土井はきり丸より多い荷物を抱えていた。彼はそれを部屋の隅に置くと、きり丸に向き直る。
きり丸はぽこぽこ怒っている。
「絶対変な人って思われましたよ! 多分僕も! というかヤベェ奴だと思われましたよ先生が!」
「変なことを言ったつもりはないんだけどな」
「はぁ!? ――」
きり丸は眉尻を上げて見上げる。
そして、閉口してしまう。
――土井が、しょぼくれた顔をしていたのだ。
「……私から離れてしまう気か?」
「うっ……」
――土井だってわかっているはずなのだ、きり丸は考える。きり丸も、いずれ巣立っていく忍たまなのだと。
しかし、この家にいるときは、「土井半助」というたったひとりの男なのだ。
黙って俯くきり丸を、土井は抱き締めた。それはとてもとても優しい抱擁だった。
「ずっと一緒にいてくれ」
それは真綿で首を締めるような、求婚だった。
25歳の男が、10歳の少年にした、本気の求婚だった。
了