そして翌日、聖儀祭前日。アラインは今どこにいるのかというと、いつぞやの時計塔の上で、仕掛けていた『
「やっぱ俺の見当違いじゃなかったか、これ。というかこれも、前に調整したばっかだし……」
先日動作チェックしたばかりの機器を弄りながらアラインは嘆息した。メンテナンスの直後なので、これといった不具合も見つかることなく手直しは終わる。
ユウが提案した戦術は以下の通りだった。
『今まで設置した『
初め提案されたときは拍子抜けもいいところだった。
妙案があろうがなかろうが、どう転んでいたとしても、必ずやる予定の手順だったのである。ユウが明示したときに、こちらに向けられた仲間たちの白い目は記憶に新しく、今思い出しても背筋が冷やりとした。
「そっちの調子はどうだ?」
地上に降りると、近場での作業を終えたばかりなのだろうか、次の場所へ移動している途中のジルを偶然見つけてアラインは声をかけた。
「ぼちぼちってとこだ。あのあと早速順番に回ってったけど、こりゃ長丁場になりそうだな。設置した数が尋常じゃねぇから、骨が折れるったらもう」
あのあとというのは言わずもがなミーティングのときである。あれからアラインたちは一刻の猶予もないと、迅速に各自持ち場に向かった。
運動量が少ないとはいえ、昨日からほぼぶっ続けの作業でさすがに疲れたのか、ジルは腰を逸らせると、関節からポキポキと小気味いい音が鳴った。
緊急事態とはいえいっぺんにはできないので、途中で休憩を挟みながら何回かに分けてはいるが、それでも疲労は確実に蓄積されている。
「今さら焦ってもしょうがない。その辺で少し休もう」
「あー、そういえば昨日から飯も食ってねぇな。そうするかー」
伸びをしながらジルが応じた。その様は完全に徹夜明けの中年だった。といっても、この世界に昼夜の概念は存在しないのだが……。
目ぼしい屋台が見つかるまで適当にぶらぶら歩く。その道中ジルが呟いた。
「いやー、それにしても昨日のユウちゃんには驚かされたな。まさかあんなに積極的な子だったとは。なにより、アラインの推薦だったとはいえ、まさかあの提案にみんなが乗ってきたってことがびっくりだ。そのあとの空気感も相当ヤバかったけどな」
「やめてくれ。あのときはさすがに俺も肝が冷えたんだから」
からかってくるジルに、本気で勘弁してくれと寒気がするというように身を捩ってアラインは頼む。ユウが議題に上げるまでもない提案をしたときの、その場にいた一同が目を見開いて不審がる顔は、恐らく一生忘れないだろう。
きっと仲間たちも言いたいことはたくさんあったに違いない。それでも不服を漏らさず従順に従ってくれたのは、ひとえにアラインが今まで築き上げてきた信頼の賜物だ。
「お前がその調子でどうすんだよ」
気持ち視線を足元に向けながら歩いていると、明るい調子でジルに背中を叩かれた。ハッとすると顔面の力が一気に抜け、眉間にしわが寄っていたことに気づく。
驚いて振り向くと、そこには上下の格差も敏腕の副リーダーの面影もない、幼いころからいつも一緒にいたただの旧友の姿があった。アラインが呆気に取られていると、ジルはさらに意気込む。
「これからってときに、なに勝手に全部終わったみたいな顔してんだ。むしろここがターニングポイントだろ。人生には緩急があるもんだって最初に教えてくれたのはアラインじゃねーか。辛いときにどれだけ頑張ったかで、その後も大きく左右されるってさ。それを一番理解してるはずのお前が、今しょぼくれてどうすんだよ」
「ジル……。はは、そんなこと言ったこともあったっけ」
昔からなにも変わらない友人に発破をかけられると、少しだけ気持ちが晴れたように気がして、アラインはようやく頬を緩ませる。
やっと口角の上がった口元から歯を見せた友人を見て満足すると、ジルは思い出すように虚空を見つめた。それからおもむろに話しだす。
「なあアライン。お前は本当によくやってくれたよ。今まで順調だったのに、いきなりこんなことになっちまって、これからどうなるか全然わかんねぇけどさ。俺はどんな結果になろうと、今後もお前とやってくつもりだ。場所が移ったって別に死ぬわけじゃねーし、続ける限り次はあると思ってる。だから今は、できることを精一杯やろうぜ。あとのことは終わってから考えればいいじゃねぇか」
あまりにストレートな台詞に、アラインは素直に感動した。しかし感極まり過ぎて逆に照れ臭さが出てしまい、つい羞恥でからかい半分に失言をする。
「それ、まんまフロードが言いそうなことだな」
「言うなよそれぇ! 俺も今うわってなったとこなのにぃー!」
想像通りジルはもろに嫌悪感を露わにして渋面になった。その反応がおかしくてアラインはまた爆笑する。それに釣られてジルも高笑いした。
二人の騒々しい愉悦は街中の喧騒に混ざって一際大きく響く。それでもお祭り前日の人々の浮かれっぷりも大概なため、周囲から冷ややかな視線の的になることはなかった。
「ま、そんな感じでこれからもよろしくな、親友!」
一通り哄笑したあと、ジルは図々しく言いながら片手を上げる。
「俺的にはさっさと自立してほしいけどな」
意図を察したアラインは、憎まれ口を叩きながら勢いよくハイタッチした。
アラインたちは適当な屋台で昼食を摂ったあと、すぐにお互いの持ち場に戻り、日付変更時間まで暗躍し、手当たり次第に『
だが翌日、あれほど固い決意を持って絆と友情を確かめ合ったアラインとジル、そして渦中に巻き込まれた仲間たちの覚悟は、呆気ないほどの杞憂に終わることとなる。
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