聖儀祭当日。
その知らせが届いたのは、お祭りのパレードが開始される直前のことだった。
アラインたちが店内で開店の最終チェックをしていると、荒々しい足音とともに裏口のドアが乱暴に開け放たれ、転げ込むように飛び込んで来た店員が開口一番、息も絶え絶えに叫んだ。
「移転の件が白紙になったぞ!」
言葉の示す意味がすぐにはわからず、一瞬だけ生まれる空白。やがてその店員の言ったことがなにを指しているのかをようやく理解すると、誰もが惑乱に陥った。
「白紙ってどういうことだ⁉」
最初に反応したのはアラインだった。今なお喘いでいた店員は先を促されると、息を切らせながら事の次第を掻い摘んで説明する。
「俺もさっき聞いたばっかなんだけど、なんか突然契約してたとこから拒否られたとか夜逃げされたとか……? 俺も難しいことはわかんねぇけど」
ここでその店員は大きく破顔すると、
「とにかくこれで移転のことは心配することはねぇぞ、みんな!」
途中で話を投げ出して適当に締め括ると、なによりもこの喜びを全員と分かち合いたい気持ちが勝って、辛抱堪らず一人勝利の雄叫びを上げた。
「やったぁ! これで店も離れずに済むしアラインもここにいられるのね!」
「はっ、ざまーみやがれフロードの奴め! 少しは痛い目見ろってんだ!」
仲間たちもそれに便乗すると、悪態をついたり、その場で躍り出す奴もいた。
一方で一部の従業員たち、アラインたちが普段行っていることも知らなければ、昨日フロードの出した条件のことも聞かされていないカンナたちは、祭りの前に喜びの舞を披露する仲間たちの様子に困惑する。
「わっ、ちょっと、なんなの急に! 移転ってなんのこと?」
「あーそのことは休憩時間にでも話すから」
ジルはカンナの腕を掴んでふざけて一回転させながら、アラインから引き剥がす。
「なにジル、あんたもなんか知ってるわけ? あとでちゃんと教えなさいよ……っていうかいつまで喚いてるつもりよバカども⁉ 今日は聖儀祭でこのあとすぐめちゃくちゃ忙しくなるんだから、さっさと開店の準備しろっての!」
未だに異常な熱量で喚き散らす者たちに、カンナは木箱をぶん投げた。
大事な商品を乱暴に扱われ、これにはアラインも激怒――というのが道理なのだが、このときばかりはアラインも気を回せなかった。
(昨日の今日で一気にここまで挽回するか? なんか妙だな……)
「どうかしたの?」
喜びと怒号の飛び交うカオスな状況で一人アラインが寒気立っていると、裏の方で準備をしていたユウが、騒ぎを聞きつけて顔を出した。
明るいニュースに有頂天になっていた徒党の関心は、瞬時にユウへと集中する。
「おっ、早速俺たちの救世主様のお出ましだ!」
「聞いてユウちゃん、移転の件が解決したのよ! まさかこんなすぐに効果が出るなんて思わなかったわ! これも全部ユウちゃんのお陰ね!」
英雄でも称えるかのように感謝を述べると、続々とユウの周りに人が群がった。それぞれ肩を叩いたり手を握ったりしながら、本人たちなりの賛美を送る。
だが、主役であるはずのユウの反応は真逆のものだった。
「えっ……」
そのリアクションは普段のきょとんとしたものではなく、どちらかといえば絶句と表現した方が適していた。アラインもそんなユウの素振りに違和感を覚える。
作戦の発案者であるユウが成功を喜ばないなど、まったく筋が通らない。
「……そう。よかった」
ユウもその矛盾に気づいたようで、すぐに笑顔を取り繕って返事をしたが、みんなが上機嫌に雑談を始めると、一人不安げに俯いて影を落とす。
アクシデントが発生したのだと即座に直感した。今も面貌を伏せたまま硬直としているユウを尋問しようと集団に近づいたとき、アラインはそれを聞いた。
「早過ぎる……」
ぼそっと小声で、だが確かに、か細い呟きが鼓膜に届いた。
明らかに意味深な台詞に直感は確信へと変わる。そしてユウの囁きは、一部従業員にも聞こえていた。しかしアラインのような後ろ向きの捉え方ではない。
「はっ、俺たちの力量舐めんなよ! 昨日どんだけ残業したと思ってんだ。なあアライン!」
「! あ、ああ。そう、だよな……」
同意を求められたとき、アラインはストンと腑に落ちた。昨日というか、ついさっきまで、仲間たちと全力で街中を駆け回っていたときの光景が脳裏を霞める。
その通りだ。すぐに効果が出たのは、それだけ自分たちが頑張って『
確実に合点が行ったはずなのに。胸を張ることは愚か、主張すらできなかった。
原因は今しがたユウが見せた翳り。驚きというよりも、不都合が起こったときによく見る曇った面持ち。あれが胸につっかえてスッキリしない。
「ごめんね~ユウちゃん。本当のことぶっちゃけちゃうと、私あのやり方で上手く行くなんて全然思ってなかったの~。ただの悪足掻きだと思ってたぁ」
「っていうか、多分、僕たち誰一人として信用してなかったよね……」
「いいじゃないですか、上手く行ったんですから。でもこうして成功してみると、確かに信じられませんよね。どんな確信があってこの方法を提案したんですか?」
「うっ……んと。それは……」
質問が上がると、全方位からの好奇の目がユウを串刺しにする。
ユウはつい漏れてしまった苦悶を誤魔化すように、どうにか場繋ぎの接続詞で継ぐが、どうしても先を続けられず途切れてしまった。
本来ならここで店主であるアラインが、新人を困らせるなと一喝して然るべきなのだろうが、敢えて助け舟を出さなかった。この件に関してはアラインも懸念がある。
だがこの状況下でも、ツキはユウに回っていた。
これから始まる祭りの熱気でそれまで活気づいていた場外が、ボリュームを下げるようにわずかに静まる。不意に収まった喧騒は自然と全員の関心を引いた。
違和感に耳を済ませば、店の外から小さく音楽が流れているのが聞こえる。勘の鋭い者は喧噪が止み始めた時点で察し、急いで大声で叫んだ。
「オープニングセレモニーが始まったよ! みんな窓際に寄って!」
「おおっ、いよいよか!」
徐々に大きくなる楽器の音が空気を震わせる中、一同は即座に作業を中断する。
12年に一度の祭典開始の瞬間を目に焼きつけようと、誰もが挙って中央通り沿いの窓に張りついた。感極まった野次馬どもは外にまで飛び出している。
従業員により正面ドアが開け放たれると、くぐもっていた環境音が直に響いて、緊張感が店内にまで伝わる。裏方にいた従業員たちも追い立てられるように走って来ると、期待と興奮に染まった目で外の景色に釘づけになった。
賑わいは月桂秤の方角から迫っていた。ここは国の中央に近いこともあり、パレードの類があれば必ず店の前を通る、すなわち聖儀祭が始まってすぐお目にかかれる最良のスポットとなるのだ。
声援は徐々に近づいて来ると、仮装したキャストたちが踊りながら先行する。すぐ後ろには豪華に飾りつけられたフロート車が徐行し、少しずつこちらに接近してきていた。その上にはマスコットキャラクターたちが手を振ったりパフォーマンスを披露したりしている。フロート車からは大量のクラッカーがいくつも鳴らされ、至る方向へと紙吹雪を撒き散らしていた。
子ども受けを狙って様々な形にカスタムした数台のパレードフロートは、何色ものビームと爆音を放ちながら、次々とアラインの店の前を通過していった。上空から轟いた爆発音に視線を移せば、ユニークな模様の花火がいくつも打ち上げられており、地上からは様々な形のバルーンが空へ向かって盛大にふわふわと浮かび上がっていく。
文字通り、国全体がテーマパーク状態だった。パレードが横切った先からスイッチが入ったように国民は活気に満ち、聖儀祭の開始を盛大に祝う。
もちろんユウへの尋問のことなど一瞬で全員の頭から離れてしまい、自然な成り行きで終了した。問答の嵐から解放されると、ユウはわかりやすくホッとする。
抜かりがあるとしたら、まだアラインの視線が外れていなかったことだった。
(やっぱりなにか隠してたか)
間近で犯行を目撃すると、即刻アラインは黒と断定した。
今すぐにでも現行犯で聞き取り調査をしたいところだったが、しかしそれは叶わぬ願いである。憚られた理由は、言うに及ばず、聖儀祭のオープニングが始まったからだ。
フロードのところでのことと言い、つくづくラッキーな奴だと目をすがめる。
もう少し早く聞き出せていれば、或いは開会式が遅ければ、トラブルの詳細がわかったというのに。だがいくら悔やんだところで時間は巻き戻せない。
(もう祭りが始まる。どの道、尋問に回す時間も余裕もない……か)
(仕方ない、あの反応の理由はあとで聞こう。今は店の準備だ。「早過ぎる」っていうのが気になるけど、効果が出てることに違いはない。それに今日はすぐに閉店する予定だし)
渋々妥協すると、アラインは軽く頬を張って気持ちを切り替えた。
「パレードが終わったら一気に客が店に押し寄せるぞ! 見てないで開店準備しろ!」
「えぇ~、もうちょっとだけいいじゃん! パレードは20分くらい続くって聞いたよ?」
「じゃあなおさら動け。早くしないとセレモニーを見る時間がなくなるぞ」
「ブーッ! アラインのケチー!」
周囲から湧くブーイングも早々に、各々はそれぞれの持ち場に戻ると、開店に向けてせっせと働いた。なんだかんだで、みんな働き者なのである。
間もなくパレードの最後尾が遠目に見え始めると、キャストが捌けて行った先から両端にいた来観者たちが一斉に移動を開始した。塞き止めていた水を流すように無秩序な人波が四方八方にばらけながら、急激に店側へと押し寄せてくる。
「よし、店を開けろ! 一気に来るぞ!」
アラインの注意喚起が開店の合図だった。外にいた従業員が店のドアを開けると同時に、最後のフロート車についていたキャストたちが去って行く。
刹那、入り口の前にいた見物人たちの大半がぐるりと振り返ると、そのまま一気に店へと突っ込んできた。
「ヒッ⁉ いらっしゃいま――ああぁぁぁあぁああぁぁぁぁ!」
可哀想に。押し寄せる人波に一瞬怯むも勇気を出して挨拶した同僚は、しかし怒涛の勢いで殺到した人々に巻き込まれると、次の瞬間には消息を絶った。
勢いに気圧されまいと従業員たちは声を張り上げて挨拶するが、洪水さながらに次々と入店する客人に売り場は直ちにてんてこ舞いになる。瞬きの隙に商品棚は空っぽになり、数秒後には大勢が清算に並んで、長蛇の列を形成していた。
それからの数時間は大忙しだった。店内は喧噪に満ち溢れ、人口密度は常に限界をキープしたまま下回らない。商品は大盛況で品切れが各地で相次ぐ。
そうこうしている内にあっという間に数時間が経過しお昼を迎えると、午前の営業時間が終了する。一息つけたのは休憩中のプレートをかけたあとだった。
「んあああぁ~~午前の仕事終わったぁ! 疲れたあぁ~~っ」
「昨日もヤバかったけど、やっぱ祭り本番は凄いわ。午後もこれがあんのかよ」
まだ聖儀祭初日だというのに、すでに従業員たちはクタクタだった。誰もが頻りに首や肩を回し、伸びをしながら失意に暮れる。と、そこに救いの手が差し伸べられた。
「いや、今日の営業はこれで終わりだ。午後は好きにしていいぞ」
「!」
アラインがさらりと述べると、それまで沈んでいた空気に衝撃が走る。驚きに満ちた眼差しが一挙にアラインへと注がれた。
視線の意味するところに気づくと、アラインは不本意そうに破顔する。
「昨日、お前らのせいで想像以上に在庫が減らされたからな。仕入にも時間かかるし、しばらくは午前営業にするしかないんだよ」
「「っっっしゃあ――――――――――ッ‼」」
店長直々に時短営業を告知されると、本人が目の前にいるというのに、一切遠慮することなく全員が渾身のガッツポーズを決めた。
「その代わり、祭りの後半戦は倍働いてもらうからな! 聞いてるか⁉」
調子に乗らないよう即刻釘を差した一方で、仲間たちは一概に狂喜の叫びを上げると弾けるように四散して、裏口からぞろぞろと店の外へと駆け出した。
「いやっほー! 理解ある店長を持つのは幸せだぜ、そう来なくっちゃ!」
「神様仏様アライン様~~!」
「移転の件もなくなったし、今回の祭りは目いっぱい楽むぞ!」
「コラ待てお前ら! 先に掃除と片づけをしやがれ! 戻って来いバカ野郎!」
課せられた仕事を放り出して次々と出て行く甲斐性なしどもにアラインは怒鳴るが、そんな悪口なんのそのと、仲間たちは馬耳東風と去って行く。
「ほらユウちゃんも。そんなのあとにして一緒に行こ!」
「え? あっ」
ユウが周囲のテンションについて行けずぼーっとしていると、それを見かねたカンナが強引にユウの持つ荷物を奪い取り、そのまま手を取って店を飛び出す。
「あっ、待てカンナ! ユウには話が……」
と振り返ったときには、すでに二人の姿はなかった。
あとに残ったのは、常識と良心のある従業員数名と、店長のアラインのみ。
「あはは、みんな行っちゃったね」
「元気だよなーあいつら。さっきまで大忙しだったのに、よく体力残ってんな」
フォローするように一人が苦笑いすると、疲労でくたびれていたもう一方の同僚が気怠げに呆れていた。
その他には、片手で足りるほどの人数しかこの場にいない。閉店作業も残っており、人員も減ったため、後片づけは骨が折れるだろう。
(仕方ない。ユウは店を閉めたあとで探すか)
溜飲が下がり切らないまま気持ちに折り合いをつける。不承不承ながらもすぐにユウを呼び戻すため、アラインは残りのメンバーとともにせっせと閉店作業を進めた。
後片づけが終わったのは1時間後だった。というのも圧倒的に人数が少ないため、それだけ執拗に時間を食ってしまったのである。
「うひ~、やっと終わったぁ! 私もう、クタクタで動けないよぉ」
「明日はその分、きっちりあいつらにやってもらいましょう」
軽い掃除まで終わらせると、善良な従業員たちは口々に裏切り者たちへの文句を垂れながら、ようやく一息つくことができた。その隅で大急ぎで仕度を整える者が一人。
「悪い、俺は急用があるからもう行く! 戸締りだけやっといてくれ!」
従業員たちがぽかんとする中、アラインは返事を待たずに裏口から飛び出した。
背後から困惑気味に「行ってらっしゃい」と聞こえた気がしたが、見送りの言葉は、唐突にアラインの前に落ちた不運の鱗片によって遮られる。
気配に気づいたのは、玄関が閉まり、駆け出した直後だった。
キュルキュル、ジジッ……と、錆びた鉄と電子の混ざったような異音がする。
「なんだ……?」
どこか既視感があり、それでいて独特な音に本能が反応する。
遺憾ながら、その正体をすぐには突き止められなかったが、長年染みついたとある経験則が、音の出所である傍らへとアラインを誘った。そして正体を知り唖然とする。
裏口に設置してあった『
異常動作をする『
いつも持ち歩いている小型の工具箱をポーチから取り出すと、必要最低限の道具だけが入った中からネジ回しを選んで、慎重にネジを緩めた。
カモフラージュ用の蓋を開けた瞬間、バチッという音と同時に電気が弾ける。
目前で瞬いた閃光に驚いて距離を取れば、熱暴走によって半分溶けかかった機械部分から、異臭と熱気が立ち上った。酷い状態にアラインは仰天する。
「熱っつ! オーバーヒートを起こしてるのか⁉ なんで急に――」
飛び散った電気と機器の発熱で火傷しかけながらも、慌てて指先や鼻の頭を擦って原因の追究を試みた。すると、さらなる怪奇現象がアラインに追い打ちをかける。
今度は他所の風見鶏からバチバチとショート音が鳴り出した。それも一つではない。周囲に耳目をそばだてれば、そこら中の『
「これは……いったどういうことだ⁉」
視界に入る限りの『
通常の風見鶏だけが正常に動作しているので、どの代物がアラインたちの細工したものであるかが一目瞭然だった。
兎にも角にも全体的な様子を把握する必要がある。全部を修理していたら切りがない。一旦修理を後回しにすると、ユウのことも頭の片隅に置いた。
どれほどの範囲でこの現象が起きているのかを把握するため、アラインは高所から国を眺めようと、いつも逃走ルートで使っている近場の建物へと移動する。その道中でも、やはり一部の風見鶏が歪に軋んでいたのを確認した。
程なくして目的の建築物に辿り着くと、アラインは慣れた身のこなしで難なく侵入して屋上を目指した。屋上に着くや、高所から目を皿にして全体を見渡す。
アラインの予想通り、ここら一帯の『
幸い聖儀祭当日でパレードや売店で賑わっていたため、異変に気づいている住民はいない様子だった。しかしこの状態が続けば、いずれ勘づかれるだろう。
これまでに経験したことのない信じがたい光景に、アラインは戦慄した。
「そんな……昨日メンテナンスをしたばかりだぞ? 不備はなかったはず……それとも誰かが意図的にやったのか? うちのチームに裏切り者が? でもなんのために――」
『早過ぎる……』
はたと、先刻のユウの言葉が去来した。
出し抜けにそのときのことを思い出すと、混乱に陥っていた思考はたちどころに収束され、一つの真実へと結びつく。
「――まさか!」
すべてを悟ると、凄まじいショックの稲妻がアラインの全身を駆け抜けた。それと同時に、ユウに関するあらゆる不自然なことが腑に落ち、どこか納得もする。
(やっぱり初めから、これが目的で俺に近づいたのか……? 俺がユウを信じ込んだばかりに、こんな――)
「……いや、そのことはあとだ。今は『
アラインは苦々しい表情のまま起き上がり、ポケットからとある道具を引っ張り出す。
持ち出したのは、ペンダントの形に加工したペンデュラムだった。
剥き出しのペンデュラムの部分は方位磁針の針を模っており、首飾りに見える造形と煌びやかな装飾からは、一目で匠の技が行き届いていることがわかる。
それはアラインの店で売っている商品と類似品であった。もちろん、ただのアクセサリーではない。内部には小型化した『
(『
ぶっつけ本番での実践を覚悟すると、アラインは決意を固め、勇敢な身振りでペンダントを首から下げた。
用意周到な自分に感謝しつつ、アラインはこれから起こることに緊張感を覚えると、閉眼しながら数回深呼吸をした。そして、それまで禁じていた呪文を唱える。
「『
発声してみれば、たいしたことはなかった。言語化はあくまで自分のスイッチを入れるためだけなので、まったく苦痛は伴わない。問題はそのあとである。
前回は不意打ちであの幻覚的な極彩色をなんの前兆もなく直に食らったために正気を保てなかったが、今回は違う。
アラインは必要以上に用心しながら徐々に瞼を開け――ショックのあまり目を見開く。
サイケデリックに彩られた、暴風雨さながらに荒れ狂う因果の激流を目の当たりにした。
かつてないほどの強大な力で押し流されていく勢いと、体感したことのない凄まじい臨場感にアラインは震撼する。意図的に目視を避けてよかったと心から安堵した。
こんな様ではあのとき突如として視界が薄気味悪く歪んで気絶しそうなほど具合が悪くなったのも頷ける。もし今こんなものを直視していたら、失明か発狂、あるいはその両方を起こしていただろう。
先日の失敗から学んだお蔭で同じ苦痛を味わわずに済んだアラインだったが、その安心感は、新たに浮上した案件によって上書きされる。
「なんだ、この異常な密度の因果は! 前までは流れも穏やかだったのに。この数日の間でなにがあったんだ⁉」
平穏に始まったパレードの直後にこんな災害クラスの非常事態が起こるなんてとアラインは軽いパニック状態に陥った。次いで因果を見ることができない哀れな一般人たちのことを嘆いた。
この不測の事態は、言うなればウイルスと似ている。目に映らず、すぐには影響が出ない分、本人たちも気づかない潜伏期間のうちに驚くほど症状が進行し、徐々に体全体が蝕まれていく。
猶予期間までに自覚できないということは、これほどまでに厄介なことなのだ。
では他よりも早い段階で感知できるアラインは恵まれているのかといえば、そうではなかった。むしろ常人以上に辛い境遇を強いられることになる。
「うっ……やばい、吐きそっ」
船酔いにも似た嘔吐感が込み上げるとアラインは苦悶の表情を浮かべて目を伏せた。背中を丸めるとその場で踏み止まり、少しでも片頭痛が和らぐのを待つ。
(小型『
発動中の『
無事山場を越えたことがわかると、アラインはほっと一息ついた。どうやら『
けれど問題が解決したわけではなかった。従来通り能力が使える状態にまで戻らなければ、根本的な落着とは言えないだろう。なにより因果の暴風は、依然として暴走したまま猛威を振るっているのだから。
ともあれ、難が一つ去ったことは素直に喜ばしかった。これで移動範囲も発揮できる力量も格段に広がる。懸念があるとすれば、今回改良した小型『
などと将来的なことを思慮している間に、若干不快感が引いた。ようやっとどうにか体勢を整えると、今度こそ迅速に手を打たねばと、再び奔流へと目を投じた。
始めは逃走中に、二度目は撃たれる直前、そして先ほど策を講じた上での『
さて、それでは具体的にどうしようかと、固唾を呑んで眺めていたときだった。漠然と気の流れを観察していると、因果の暴風の中に大穴、いわゆる台風の目を発見する。
生意気にもそれは一ヵ所に留まることなく、非常にゆっくりとしたスピードで、意思を持っているように街中を少しずつ移動していた。
(あの部分だけ不自然に凪いでる……ってことは、激流の中心はあそこか!)
目星がつくとアラインは早速行動を開始する。因果の激流で一時的に不自由となった視界を駆使して、荒れ狂う因果を掻い潜ると、最短ルートから現場に直行する。
(できれば何人か募りたいところだけど……近くに声をかけられそうな奴はいないか。緊急事態だし、やむを得ない。せめて状況の確認だけでも!)
と、ここでアラインは新たな事実に気づくこととなる。
憂慮もそこそこにクリアになった眺望を見渡していると、アラインは今目指している吉凶のダークホースとは別に、今回の災害級のものと比べれば比較的に規模の小さい、それでも異端であることには違いない、もう一つの因果の吹き溜まりを見出した。
それは小型だったが、それなりの大きさがある。突然出現したとは考えにくい。多分それは最初からあって、物陰に隠れて見えなかっただけだろう。
「渦がもう一つ? 向こうの大本から派生したのか……いや!」
推測し、即座に引っかかりを感じ、アラインは自分の考えを否定する。
両方とも街中を移動しているのは同じなのだが、小さい方の旋風だけ、確固たる意志を持って、一直線に大きな渦へと接近していた。
一瞬見間違いと思いアラインは目を瞬かせたが、やはりそうではない。どういうわけか小規模の方は、大型との合流を試みているようである。
不穏な予感が胸を過ぎった。『
それが分裂したものなのか、はたまた自然発生した別物なのかは、アラインの与り知るところではない。
ただわかるのは、あの二つがぶつかって収束するにしても、互いに打ち消し合ったとしても、結果的にここら一帯の禍福に多大な打撃を与え、強大な影響を及ぼすことに変わりはないということだ。そうなれば被害を被るのは近隣住民である。
急激な吉凶の変容、凄まじい環境の変化による負荷が、自分たちにとってどれほどの負担のかかる致命的な重圧かなど、想像に難くない。
「せめて小さい方だけでもどうにかしないと!」
すでに小型の方が大型へと間近に迫っていた。今から仲間を集めたり連絡を取る猶予はない。アラインはなんの躊躇もなく軽々と屋上から飛び降りると、重力を感じさせない動きでふわりと着地した。具体的な算段もないまま素早く動き再び数奇の嵐へと突っ込んでいった。あらゆる障害物を軽く躱しながら、建物に飛び乗り壁を走り洗濯紐の上を滑るように渡ったり、縦横無尽に空中を駆け巡った。
他方で眼下では、相変わらず浮かれた住民たちがお祭りを楽しんでいる。
(因果が見えないから当然だけど、それにしたってこの凄まじい吉凶のぶつかり合いの中で、のうのうと浮かれて騒いでいられるなんて呑気なもんだ)
(この辺り全部が、いつ爆発してもおかしくない巨大な爆弾みたいなものなのに。どうしてなんの影響もなく、みんな今まで無事なままで――)
(影響が……どこにも出てない……だって⁉)
自分から持ち出した疑問に、アラインは自ら驚愕した。そしてようやく、基本的なところで自身が致命的な判断ミスをしていたことに気づく。
「そうだ、おかしい。ここら一帯は今、大型台風みたいな災害の中にあるんだぞ⁉ なのになんで、どこにも被害が出てないんだ!」
叫びながらも、しかし足を止めることはなかった。
まるで何者かによってコントロールされているように、絶妙なバランスで保護されている空間に不気味なものを感じながら、アラインは擾乱の渦中へと急ぐ。
小ぶりの吹き溜まりの移動速度は想像以上に早かった。アラインがすぐ近くまで来たころには、今にも双方が衝突しそうな距離にまで接近している。
左右から巨大な因果の塊に挟まれて、アラインは体力をかなり削られていた。
ある程度の負担なら小型『
アライン自身も、少しでも多く余力を残しておこうと、なにより突然小型『
(ギリギリか⁉ でも間に合ったところで、どうすれば……っ)
この事態を引き起こした元凶と対面する直前になって、アラインは無鉄砲に突っ走ったことに負い目を感じた。
距離が近過ぎるせいか、視界は単細胞生物にも似た流動のうねりでいっぱいに埋め尽くされる。大きなものを間近で見ると全貌が見えなくなるのと同じ理屈だ。どうやらこれ以上高所からの確認は無理のようである。
一旦因果の強風を凌ぐため、アラインは建物の隙間から地上に降りた。遮蔽物のお陰で少しだけ因果の流れを和らげると、小規模の渦の位置を確かめようと、路地から顔を覗かせる。
膨大な因果をまとったタキシードがこちらに向かっていた。
既視感のある恐怖が記憶の奥底から蘇る。見間違えようのない個性的な執事服姿に体が反応して、跳ね上がった心臓が不安定に早鐘を打った。
(あいつは、確か……植物園で、見た……なんでここに?)
アラインが硬直している間にも、執事は悠々とこちらへと闊歩する。
常人離れした肢体がいくら衆目に晒されても、仮装した大勢の人間で賑わっている環境の中では、それを違和感に思う者は誰一人としていなかった。きっと聖儀祭の期間中はどれだけの人に何度すれ違っても、悪目立ちすることはないだろう。
もちろん、前回のように暴れさえしなければ、の話だが。
けど今は、それ以上に質の悪い現象が起こっていた。無論、因果関連の事象である。
(因果を……使いこなしてる?)
執事は本人の戦闘力だけでも計り知れないというのに、その細身に吉凶の流れが絡みついていて、いわゆる禍福の加護をまとっていた。鎧を彷彿とさせる全身を包んだ因果の衣は、まるで静電気のように執事の周りに蔓延っている。
刮目すべきは、規則的に上下する細い胸元だ。息を吸い込むように胸が膨らむと幸福の吉を司る流動体が吸収され、吐き出す動作をすると不幸を示す宿因が放出される。
執事は因果を媒介にしてエネルギー源を確保していた。
そんな異様な状態を見るや、アラインの中で燻っていた疑問が一気に晴れる。
(空気中から直接因果を取り入れてる⁉ もしかしてこの一連の現象は、全部あいつが因果を操って引き起こしてるのか! じゃあこの辺の『
アラインの考えが正しければ、この場所に来てから運気の天候が弱まったのも頷ける。なぜなら執事との距離が近いこの位置が、台風の目に当たる場所となるからだ。
「あれーアラインじゃん!」
恐ろしい仮説が現実味を帯び、その事実に慄いていたときだった。アラインは聞き覚えのある声音に呼ばれると、反射的に振り返り、愕然とする。
すぐ後ろ、数メートル離れた位置に、店の女性従業員たちを見つけた。アラインを呼んだのは先頭にいるカンナで、背後に控えているのは他の女性従業員たち。
すぐ隣では、膨大な因果が凄まじい勢いで噴出する間欠泉が出現していた。
前代未聞の光輝と激烈さに、アラインは咄嗟に目を背けた。ともすれば失明しかねないほどの莫大な運気に、神経が過敏になる。その眩さはカンナたちの姿さえも掻き消し、声の主が本人たちと気づくのに、数秒の時間を要したほどだ。
『――コ、ウ』
全身を流れる血液が一斉に凍りついたかと思った。
肉声ではない人外の声が鼓膜を震わせる。体中の筋肉が硬直し、すべての血管が一度に締めつけられて、カァッと熱くなった。半瞬後には皮膚のあちこちが粟立ち、そのあとを追うように虚脱感の波が駆け抜け、足先や指先へと突き抜けていく。
あまりのショックで途切れかけた意識は、刹那に肉体に結ばれると、アラインはわずかな眩暈に翻弄されながら半身を引いた。手を伸ばせば届く距離にそれを見る。
執事は真っ直ぐにカンナたちを見据えると、すでに重心を下げて構えていた。次いで執事のまとっていた今までの気の性質と、因果の流れが急激に変化する。
「お店はもう閉めたの? 一人ならみんなと巡ら――」
逃げろと叫ぶ暇さえなかった。攻撃態勢に入った執事の意図を察したときには、すでに執事は前方へと跳躍し、間欠泉の横にいる邪魔者を排除しようと肉薄する。
アラインは瞬時に『
しかし突進には一歩及ばず、代わりに燕尾部分を掴むと、相手の背中のボタンにペンダントの紐を引っかける。アラインはそのまま執事とともに、進行方向へと急発進した。
加速により景色が後ろへと置き去りにされていく最中、アラインは裸眼で、先ほど噴火のような激しさで因果がぶちまけられた噴出孔を通過する。
『
そんなことはどうでもいい。それよりもアラインは衝撃的な事実に驚愕する。
巨大な因果の渦の正体はユウだった。詳しい理由は不明だが、この流動的な禍福の激流の原因は執事以外にも、ユウによっても引き起こされているらしい。
そして瞬間、アラインの中で辻褄を合わせたはずのピースがすべてバラバラになる。即座にもう一つの理屈が収束すると、直ちに再構築され、新たな疑念が生じた。
(初めてあいつと会ったときも確か、近くにこの執事が――)
途端にアラインは、なぜ執事が臨戦態勢に入ったのかを悟った。
以前植物園で執事に攻勢をしかけられたときも、ユウはアラインに身柄を拘束されていたではないか。そして今度はカンナに手を引かれている。
執事のトリガーはユウだった。そして執事はユウを狙っている。
合点が行ったときには、進行方向にあった壁に執事とともに激突した。爆発したように大穴が開いたその瞬間にアラインは地面に投げ出されていた。一方で従業員の女性陣は、突然弾丸のように飛んできた二つの影が真横を通過し、隣の建物にぶつかって壁を破壊するのを見て肝を潰す。
「え……なに、今の……」
彼女たちはなにが起こったのかもわからないまま、目前で突如発生した交通事故のような有様に呆然とした。やがて状況を呑み込むと、もし自分たちの立っている場所が少しでもずれていたらと最悪の事態を想像し、見る間に青ざめていく。
周囲の人々も、いくら騒音の響く祭りの最中といえども、さすがに騒ぎに気づいた。頻りに「なんの騒ぎだ」と漏らしながら駆けつけ、砂埃の舞う瓦礫の穴を覗く。
「こりゃ酷い! 大変だ、人が瓦礫の下敷きになってる!」
第一発見者が応援を仰いだ。その叫びに野次馬たちは真剣な顔つきになると、勇まし男たちが率先して事故現場へと突入し、穴を潜って行く。
ピンと張った緊張感が周囲にも伝わったのか、離れた場所にいた者たちまでもが現場に寄り集まり、この付近だけお祭りの浮ついた雰囲気が静まっていく。
「早くこの場所から離れろ!」
苦しげな怒鳴り声は人々の注目を集めた。
鬼気迫った忠告に、その叫びが聞こえた者たちが反応して振り向く。そこでは執事が建物に激突する寸前、途中で投げ出されて転がっていたアラインが喚き散らしていた。
「すぐにこの場から離れるんだ! 助けるな! そいつは放っておいて早く逃げろ! 向こうへ、なるべく遠くに――、急いで……」
いきなり大きな声量を出し過ぎて声が枯れると、アラインは乾いた咳をした。焦り過ぎたことが災いして、途中からヒューと言葉にならない空気が抜ける。
「なにを言ってるんだあいつは?」
「それより救助だ。急ごう」
虚しくも、必死の警告の結果は芳しくなかった。事情を知らない一般人たちは、平静を欠いた者の世迷い言など鵜呑みにせず、忠告そっちのけで今も瓦礫に押し潰されている犠牲者の救助に向かう。
不憫なアラインの叫びに耳を傾けたのは、顔見知りの従業員たちだけだった。
「急にどうしたんだろうアライン。怪我した人がいるのに放っておけって……」
「いや、ていうか……え? ちょっと待って。アライン今、向こうにいたよね? いつの間にあんな場所にまで移動して――」
勘の鋭い一人が察知した違和感は、しかし次の瞬間に、瓦解音とともに周囲から悲鳴が上がると、たちまち注意を削がれて意識の外に放置される。
先刻の凄まじい衝突により壁面が損壊した建物は、穴の開いた個所から上方へと亀裂が走ると、間髪を入れず崩壊を始めた。
割れた石壁は破目に沿ってスライドすると、ブロックが倒れるように崩れていく。建物を支えていた主柱は、脱力したようにぐんにゃりと折れ曲がり、建物全体が溶けた水飴のように音もなく潰れた。
地面に埋まるようにして建物が圧縮すると、一拍遅れて轟音と地響きが木霊し、地上を揺るがした。逃げ場を失った空気は砂塵と一緒に吐き出され、辺りを灰色に包む。
しばらくは悲鳴や噎せ返り、そして遠くまで轟く残響で誰もがその場に磔になった。離れた場所で一連の騒動を見ていた者はすでに逃げ出し、現場から距離を取る。
やがて砂埃が収まると、徐々に視界が開けた。それほど大きな建物ではなかったこともあり、吹き上がった砂の量も少なかったのだろう。程なくして瓦礫の山が姿を現す。
「みんな下がってぇー! 危ないから下がって! 離れて!」
「救助に入った人たちも生き埋めになった! 手を貸せる人はこっちに!」
「怪我人を運ぶから道開けて! 頭から血を流してる――」
見物人たちが倒壊事故を目の当たりにして放心状態になっている傍らで、順応性の高い人や状況把握力のある者は、率先して救出作業に入っていた。懸命に注意喚起をして避難指示をすると、途方に暮れていた民衆も感応されて、慌てて現場から退散する。
例に漏れずカンナたちも駆けつけると、たった今崩れた建物の近くにいたアラインの姿が見えなくなったことを心配して、躍起に大声で名前を呼んだ。
「嘘でしょ⁉ アライン大丈夫? 無事なら返事して!」
「俺はここだ!」
想像より素早い返答に、カンナたちはすぐさま安堵の表情をした。
取り敢えず相手の生存を確認すると安心の息を吐き、声のした方へ首を向ける。
アラインは瓦礫の被害が及ばない程度に、距離の開いたところにいた。合流を試みているが、救助や避難で混雑する人波に遮られて、なかなか前に進めない。
「よかった、アラインは無事みたい! ねえ、そっちは怪我してない⁉」
本人の無事を伝えると、他の女性従業員たちもようやく人心地ついた。すぐには落ち合えそうになかったため、喧噪に掻き消されぬよう怒鳴り声を上げる。
しかしそんなカンナの努力は、アラインの剣幕によって遮られた。
「まだ終わってない、ここにいたらダメだ!」
「終わって……? なんの話してんの⁉ よく聞こえないんだけど!」
主語が行方不明な呼びかけに、カンナたちは互いに顔を見合わせ、一様に首を捻るだけだった。カンナは詳細を煽ったが、依然として謎の指示が飛ぶ。
「いいから行け! 急いでジルに知らせろ! まだ因果の流れが――」
「流れ? ……ダメだ、うるさくて全然聞こえない。ねえ! 今そっち行くか……」
「待ってカンナ! 私聞こえたから。すぐにお店に戻ろう」
能動的に一歩踏み出したカンナを制したのは、アラインの言葉尻から事態を察した一人の女性従業員だった。言わずもがな『
するともう一人、現状を把握した別の仲間の女子もそれを後押しした。
「被害が出たことをみんなに知らせてって! ほら急ごう!」
「ほんと? ……って、うわ。そんな押さないでよ。わかったから」
アラインが厳選したこともあり、彼女たちは優秀だった。アラインの慌てようから猶予がないことに感づくと、少し乱暴気味にカンナの背中をぐいぐい押す。
他の仲間も困惑している他のメンバーに適当な説明をして言い包めると、やがて一行は足早にこの場から退散した。間もなくカンナたちの姿が見えなくなり、どうにか身内の避難だけでも完了する。
これが今この場で起こった、最後の幸運だった。
限界まで捻じり上げた雑巾から一滴を絞り出すような、アラインの全身全霊の努力を区切りに、周囲から禍福の気配が霧散する。
不吉の兆候はすでに表われていた。アラインが仲間を安全圏まで逃がしている間に、取るに足らない厄を孕んだ数奇の断片が、各地で瞬いて覚醒し始める。
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