ミカから聞いたセイアの死を信じ込んで闇堕ちしかけた先生のお話です。

ネームドキャラがいっぱい死にます。

完全捏造、雑展開、自己解釈が多数含まれます。ご了承の上、閲覧するようお願い申し上げます。

1 / 1
最強の生徒達がバトルする小説書きたくて思いつきで書き始めちゃって勢いで書きました。

色々と雑です。

変な設定とか表現とかあります。

バトルみたい人は見てってください。


第1話

百合園セイアが殺害された。

 

もちろん、この目で見たわけでは無い…目の前の生徒から聞かされたことだ。

 

聖園ミカ。

 

それが、目の前にいる桃髪の少女の名前。

 

トリニティ総合学園、『ティーパーティー』の一員。

 

そんな肩書きはどうでもいい。

 

百合園セイアが…私が守るべき存在である“生徒”が、既にヘイローを破壊されていた。

 

ミカに詰め寄り、原因を問う。

 

百合園セイアが、何故死ななければならなかったのか。

 

事が起きたのは一年前、アリウス分校の生徒の一人がトリニティを襲撃。百合園セイアの自室に侵入し、『ヘイロー破壊爆弾』を仕掛けて逃亡したという。

 

…子供のやることではない。

 

国に牙を剥くテロリストのような人間でなければできないようなことを、自分より遥かに幼い者達が成し遂げた。

 

…その事実に、心底吐き気がする。

 

だが、そのアリウス分校の生徒たちだって、私が守らなければいけない。

 

私は、先生だから。

 

何故?

 

人を殺した奴を、笑顔で許して、この手で守る?

 

何故?

 

私は、先生だから?

 

何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?

 

プツリ、と思考が一瞬切れる。

 

やけに爽やかな頭の中に、たった一つの結論が残る。

 

 

青春を、終わらせよう。

 

 

 

 

 

「せ、せんせ?なんか顔が怖いんだけど…」

 

「“…ごめんね。突然すぎて、戸惑っちゃった”」

 

「そうだよね…私も…凄く、戸惑った」

 

「“そのアリウス分校の生徒の、名前は分かる?”」

 

「…白洲アズサ。先生が今面倒を見てくれている、補習授業部の生徒だよ。」

 

 

 

…何?

 

「“ミカ…それは、嘘では…”」

 

「ないよ。一年前、セイアちゃんを襲撃したのはアリウス分校で、アズサちゃんはそこの生徒。更に言えば、セイアちゃんの部屋に爆弾を仕掛けたのも、アズサちゃん」

 

…こういうとき、なんと言えば良いか分からない感情に支配される。

 

信頼していたものに裏切られた怒り?

 

生徒が犯罪に手を染めていたことへの悲しみ?

 

それとも…用意された悲劇への呆れだろうか?

 

「先生?おーい、先生?」

 

「“…ごめん。少し考え込んでしまった。今日は帰って、考えを整理するよ”」

 

「…うん、分かった。それじゃあね、先生」

 

ありがとう、ミカ。

 

君が私を、先生と呼ぶのはきっとこれが最後だろう。

 

私は、私に課せられた使命を…使命だなんて大層なものではないな。私に期待されている役目を、放棄する。

 

「“…まずは一人、白洲アズサ”」

 

討つべき敵を、間違うな。

 

いや、間違いようが無い。

 

討つべき敵は…全ての生徒だ。

 

生徒がいない先生を、誰も先生とは呼べないだろう?

 

 

 

 

 

「先生!もうやめてください!」

 

薄い茶髪の少女が喉を枯らし叫ぶ。

 

「アズサちゃんが、何をしたって言うんですか…!」

 

親友を庇う少女を、弾丸と星の雨が容赦なく穿つ。

 

「ヒフミ、もういい…」

 

「なにもよくなんか…!」

 

「もういいんだ!…がはっ」

 

白髪の少女が、ガスマスクの中に血をぶち撒ける。

 

「ア、アズサ…あんまり叫んだら、血が…」

 

制服の裾を強く握ったまま、つり目の少女が不安げに怯えている。

 

「私は、いずれこうなる運命だった。アリウスにいた時点で、私に幸せになる権利など―――」

 

「“やかましい”」

 

「ぐっ!?…ぅ…」

 

シッテムの箱を叩き、白洲アズサへ凶弾を撃ち込み続ける。

 

「私が言えたことじゃないけど…先生、凄いやり方だね」

 

困惑しながらも、ミカは一切銃口をぶらすことなく撃ち続ける。

 

「“言っておくけど、逆らえないよ”」

 

「知ってるし、そもそも逆らわないって」

 

…妙だ。

 

元はアリウスだったとは言え、同じトリニティの生徒を殺そうとしているのに。

 

目の前の女は、困ったように微笑している。

 

狂っている。

 

「がっ…は…」

 

「やめてください!!やめてください!!」

 

友を守るため、茶髪の少女―――阿慈谷ヒフミは銃を撃つ。

 

無情なほど正確に、ミカは首だけを動かして銃弾を避ける。

 

シッテムの箱によって生成されたバリアが銃弾の軌道を捻じ曲げる。

 

「“そろそろ終わりにしようか。『Kyrie Horizon』”」

 

「ごめんね。…貴女たちの為に、祈るね」

 

星の輝きが白州アズサを包み、爆ぜる。

 

同時に、硝子細工が割れるような音がする。

 

爆煙の中には、ヘイローを失った白洲アズサの姿があった。

 

「…!」

 

つり目の少女―――コハルが息を呑む。

 

「…ぇ」

 

声にすらならない声が、ヒフミの口から漏れる。

 

銃を投げ捨て、少女は縋るように亡骸へ駆け寄る。

 

「…アズサちゃん…アズサちゃん…!」

 

動かない親友を抱えて、必死に揺り動かす。

 

「“ミカ、次だ”」

 

「はーい、ちゃんとサオリのところに案内すれば良いんでしょ?任せてよ」

 

人の死を見たはずなのに、何故この女はここまで飄々としているのか。

 

羽を広げた不気味なそれを、私は貼り付けた無表情で見る。

 

「そんなジロジロ見ないでよ。先生の望みは叶えるから、ね?」

 

「…待ってください」

 

「“もう満身創痍だろう。動かないほうが身のためだよ、ヒフミ”」

 

「先生…いえ、“あなた”の目的はなんですか」

 

「“目的?”」

 

「どうして!!…どうして、アズサちゃんを殺したんですか」

 

少女の悲痛な叫びが耳を劈き、思わず眉を顰める。

 

「“友の死を受け入れるのが随分と早いね。まぁ、銃弾が飛び交うこの世界じゃ普通なのか”」

 

「答えてください!!」

 

目的、と言われると。

 

言葉にするのが難しい。

 

「“『退職』かな”」

 

「…は」

 

あまりにも間の抜けた返答に虚を突かれたのか、呆然とするヒフミを一瞥し、今度こそこの場を後にしようとする。

 

「…逃がしませんよ♡」

 

頭上から艶めいた声が聞こえた。その瞬間、咄嗟の判断で右へ飛ぶ。

 

「救…ッ護ォオオオオオオオ!!!!」

 

地面を抉り、空色の髪を靡かせてそれは着地する。

 

「“ミネ…それにハナコか”」

 

厄介な真似をする。

 

「“ミカ、連戦頼むよ”」

 

「オッケー☆」

 

救護騎士団・団長、蒼森ミネ。補習授業部、浦和ハナコ。戦いは、白洲アズサの死を以て始まる。

 

 

 

 

 

「救護!!!救護ォ!!!」

 

「それしか言わないじゃんね☆頭空っぽ?」

 

「少なくとも、そのような大人についていく貴女ほどではないかと♡」

 

流石はトリニティ、聞くに堪えない皮肉の応酬である。

 

こんな奴らを守る義理なんて、生徒を失った私にはもう存在しない。

 

…思考にノイズが走る。何かがおかしい。以前の私はこんな考えでは無かったはず―――

 

「参ります」

 

「わっ!?」

 

「“…!『Kyrie Horizon』”」

 

飛びかかるミネを、必殺技で迎撃する。

 

…しかし、救護の鉄拳はお構い無しに煙を突き破り、ぐんぐんとこちらへ迫る。

 

「“ミカ!下がって―――”」

 

「させません♡」

 

「“!?”」

 

背後からの声に一瞬、本当に一瞬だけ気を取られる。戦場の油断は、すなわち死を意味する。

 

…だから、その油断にこそ利用価値がある。

 

盾を構え飛来する彗星が、凶弾を撃ち込まんと懐に潜り込むハナコへ直撃した。

 

「“…遅いよ。ヒヤヒヤさせないで欲しいな”」

 

「うへ〜手厳しいなぁ〜」

 

ハナコを片手の銃で制圧したまま、援軍―――小鳥遊ホシノは間延びした声で返答する。

 

「あな…たは…アビドスの…」

 

「うん?まだ喋る気力があるなんて…中々やるねぇ、トリニティの子は」

 

「何故、あなたがここに…?」

 

盾で拳を防がれたミネが、体勢を整えながら問う。

 

「先生の頼みを聞いたまでだよ」

 

「…ッ!正気ですか!?これは…この大人はもはや先生などでは…!」

 

「先生だよ。おじさんにとっては、死ぬまでずっとね」

 

小鳥遊ホシノと聖園ミカの籠絡は容易であった。

 

身近な人間を交渉材料に使った?

 

違う。

 

“大人のカード”で無理矢理使役した?

 

それも試そうとしたが、違う。

 

…ただ、『頼んだ』だけだ。

 

「他でも無い、先生の頼みなら」

 

「聞くしか無いじゃんね☆」

 

…嘘だな。

 

私も馬鹿じゃない。こんな計画に付き合う人間の腹の内ぐらいは分かる。

 

少なくとも、聖園ミカの方は何かしらの計画の一端としてこちらに協力している。

 

「誰が相手になろうとも、救護するのみ!」

 

止まらない殴打をホシノは盾でいなし、懐から出した手榴弾をミネの顔面にぶつける。

 

容赦なく、爆炎がミネの顔を包み、動きを怯ませる。

 

「づあっ…!?」

 

「ミネさん!上です!!」

 

組み伏せられたままのハナコが叫ぶ。

 

しかし、遅い。

 

…いや、彼女の判断は決して遅くなど無かった。

 

ただ、こちらが速すぎただけ。

 

亜音速で飛び上がった桃髪の天使が、落下の勢いに任せ銃を振り下ろす。

 

いくら神秘に護られた体であっても、限界は存在する。

 

ゴッ、と鈍い音が鳴る。

 

ミネは呻き声を漏らし、その場に倒れ込んだ。

 

すかさず手元の端末を叩く。

 

迷いはない。

 

「“『Kyrie Horizon』”」

 

「貴女の為に…祈るね」

 

桃色の輝きに身を包まれ、気絶したままのミネが爆ぜる。

 

…しかし、アズサと違いヘイローはまだ壊れない。

 

「“…頑丈だな”」

 

「あ、もう一発行けそうだよ?貴女たちの為に―――」

 

「避けたほうが良いよ、ティーパーティーの子」

 

「え?」

 

ホシノの忠告、その直後に銃声が響いた。

 

「…!ヒフミさん…!?」

 

ドサ、と音を立ててヒフミが倒れる。彼女が握りしめている銃の口からは、まだ煙が立ち昇っている。

 

渾身の一発を顔面で受け、仰け反ったミカがゆっくりと姿勢を戻す。

 

「…痛いなぁ、もう」

 

「…なっ、そんな馬鹿な…!?確かに顔面を撃ったはず…!」

 

銃を撃った張本人であるヒフミは、反動で倒れたまま動かない。

 

「“…まず、あちらからやろうか”」

 

「…!待ってください!!」

 

依然として組み伏せられたまま、ハナコが友を守ろうともがく。

 

暁のホルスは、美しい友情をじっと見据え、そしてそれを真っ向から阻む。

 

「がっ…!?」

 

銃弾を一発、二発、三発撃ったところで、ハナコの動きが鈍る。

 

「もうフルパワーは出せないけど…出す必要もなさそうだし、良いよね☆」

 

いつの間に跳んだのか、うつ伏せのまま動かないヒフミの頭に銃口を押し当て、ミカが微笑む。

 

「ナギちゃん…ごめんね」

 

そのまま、躊躇なく弾丸を小さい頭へ捩じ込んでいく。弾を受けるたびに跳ねる体を、ハナコはただ、見ていることしか出来なかった。

 

パキ、と音を立ててヘイローが割れる。

 

「“あー、さて。これで君の仲間の半分が死んだ訳だけど”」

 

ハナコの方へ向き直り、しゃがみ込む。

 

「うへ〜。言い方が容赦無いね、先生…」

 

「“どうする?まだ、抵抗を続けるかい?”」

 

「…あたり、まえでしょう」

 

拳を握り、震わせる。

 

恐怖からか、それとも自身への鼓舞か。

 

どうでもいい。

 

この女の意思は、『抵抗』だ。

 

「もうじき、シスターフッドの皆さんが来ます」

 

「…!」

 

「救護騎士団の援軍も呼んであります。今から…逃げようとしても無駄ですよ…!」

 

「“死に際の魔王幹部みたいな台詞…まぁ安心して良いよ、逃げる気はないからね”」

 

逃げるつもりなど、毛頭ない。

 

「“こちらに牙を剥く前に…先に『使う』”」

 

“ヒビ割れた大人のカードを取り出す。”

 

選択先は…セリナ、マリー、ハナエの三人。

 

「…!?皆さん…!?」

 

用意していたはずの援軍が突如として呼び出されたことに、ハナコは動揺を隠せない。

 

「“ミカがかなり消耗している。手当てを頼むよ”」

 

「はい!ビシバシ救護しますよー!」

 

「精一杯、祈らせて頂きます…!」

 

普段通り振る舞う三人。

 

…目に光を灯していないそれが、せっせとミカの治療を始める。

 

「み、皆さん…?何故…?」

 

「これが“先生”だよ。私たち生徒を使役する、指導者のあるべき姿」

 

…それは違う。この力は、指揮や指導の力ではない。あくまで使役するだけ、人をモノとして使う力だ。

 

以前の、百合園セイアを失う前の自分には使えなかった力だ。

 

先生として、生徒を導いていた私には、こうして強制的に生徒を行動させる力は発現しなかった。

 

…いや、発現はしていたのかもしれない。ただそれを、使うという発想に至るような人間では無かったというだけで。

 

「マ、マリーさん…?」

 

「セリナさんにハナエさん!先に来ていたんです…ね…?」

 

討つべき敵と連絡されていたミカを介抱している味方の姿に、援軍の中で困惑が広がる。

 

そこを、突く。

 

「“それじゃ、ミカ。宜しく”」

 

「…もう!先生人遣い荒すぎ!」

 

 

 

 

 

「マリー…さん…何故…」

 

「まだ意識が…せんせー!この子しぶといよ!」

 

「“『戦術的鎮圧』”」

 

「おっと。うへへ、おじさんを急に使わないでよっ、と!」

 

散弾銃を乱射して、地に伏したシスターフッドの息の根を止める。パキ、パキと次々にヘイローが割れていく。

 

「“なかなかに…時間がかかったね”」

 

救護騎士団、シスターフッド、補習授業部。

 

三組織を三人で…二人で相手するのは中々に骨が折れたが、最終的に立っていたのはこちら側。

 

「“最後に勝つのは正義、とは限らないわけだ”」

 

「はっ…はっ…もう無理…!」

 

額に汗を浮かべたミカが、尻餅をついてその場に座る。

 

「ほら、先生に…ミカちゃん、だっけ。正義実現委員会が来る前に引くよ」

 

「“流石に、今ツルギの相手は無理だね”」

 

「やっと休めると思ったのに〜!」

 

下江コハルを逃がしているため、もうすぐ正義実現委員会がこの場に着くことだろう。

 

幾多の亡骸を転がしたまま、三体の悪魔は月夜に飛び、消えた。

 

 

 

 

 

「…酷いな」

 

剣先ツルギは足元に転がる死体を一瞥し、呟く。

 

「…先生、何故…」

 

羽川ハスミはここにいないかつての恩師に思いを馳せ天を仰ぐ。

 

「あ〜…これは…なんというか…」

 

仲正イチカは屍から目を逸らし、言葉を濁す。

 

「エデン条約、などと言っている暇は無いな。各校のトップを集めろ」

 

「緊急会議…っすか」

 

「あぁ、トリニティの責任者として私が出よう」

 

「コハルさん、報告ありがとうございます。その、怖かったと思いますが…」

 

「…なさい」

 

「え?」

 

「…ごめんなさい…!」

 

瞬間、膨大な殺気がコハル以外の三人を包む。

 

「…ツルギ先輩。会議は任せたっす。私は先生を探すっすけど、良いっすよね?」

 

「構わん。ハスミもそうするのだろう」

 

「…はい。コハル、しばらくは正義実現委員会の部室にいてもらえますか」

 

「はい…わかり…ました…」

 

「…コハル」

 

ツルギがしゃがみ、コハルと目線を合わせる。

 

「良くやった」

 

「…!ありがとう…ございます…!」

 

慣れていないのか、少し乱暴な手つきで頭を撫でる委員長に、ハスミとイチカは苦笑した。

 

 

 

 

 

「…以上が、昨晩の出来事だ。人伝に聞いた部分も多い、真偽が不明な部分もあるが…」

 

「先生がトリニティの生徒を大量に殺害した、という事実は確固たるものです。証拠として、防犯カメラの映像も―――」

 

「いくらエデン条約を結びたくねぇからって嘘は良くねぇぞ」

 

スカジャンを羽織った目つきの悪い生徒が、片肘をついてツルギを睨む。

 

「…であれば、良かったんだがな」

 

「おかしいだろうが!!」

 

ミレニアムサイエンススクールC&C所属、美甘ネルが声を荒げる。

 

「先生が生徒を虐殺した!?“あの”先生だぞ!?」

 

「分かっている。先生の姿形を模倣した偽物…などの可能性もあり得る。しかし…」

 

「しかし、何ですか」

 

万魔殿所属代表代理、棗イロハは嘆息する。

 

「アビドス高等学校、廃校対策委員長である小鳥遊ホシノ。トリニティ総合学園ティーパーティー所属、聖園ミカ。この二名が、先生と共にトリニティ所属の生徒を虐殺するところが映っている」

 

淡々としたツルギの説明に声を上げたのは、アビドス高等学校所属、奥空アヤネとトリニティ総合学園所属、桐藤ナギサだ。

 

「ミカさんが…?」

 

「ホシノ…先輩…?」

 

「…その分だと当人たちから何か聞いているというわけでは、無さそうだな」

 

密かに縋っていた希望も砕かれ、やれやれと首を横に振り溜め息を吐く。

 

酷く動揺している二人を尻目に、ゲヘナ学園風紀委員長、空崎ヒナが立つ。

 

「…私が真偽を確かめる」

 

会議開始からずっと続いていたどよめきが、この瞬間ピタリと止んだ。

 

 

 

 

 

「私、野宿するの初めてかも」

 

「トリニティってお嬢様校だし、ましてやそこのお偉いさんだもんねぇ」

 

「…お偉いさん、なんかじゃないよ。私は」

 

人気の無い公園。辺り一面が薄暗く、灯りは持参したランタンだけ。

 

「“ミカ、ホシノ。テントを立てておいたから、今日はそこで寝てくれるかい”」

 

「ありがと、先生」

 

「おじさんはどこでも寝れるから任せてよ〜」

 

作業を終え、ふうと一息ついてベンチに腰掛ける。

 

「…先生はさ」

 

沈黙を破り、ミカが問う。

 

「どうして、こんなこと始めたの?」

 

伝えるかどうか一瞬だけ迷い、言葉を選ぶ。

 

「“セイアが…私が守るべき生徒が、殺されたって聞いて…何かが切れちゃった…っていうか”」

 

自分の思考を、ゆっくりと言葉にする。

 

「“アリウス分校の生徒が許せなくて、それで…”」

 

言葉に詰まる。段々と、自身の思考が不明瞭になっていく。

 

「“…あれ、なんでこんなこと始めたんだっけ…?”」

 

やはりおかしい。百合園セイアの死を告げられてから、何かが―――

 

 

気にするな。

 

 

悟るな。

 

 

青春を、終わらせよう。

 

 

物語を、終わらせよう。

 

 

「先生?うへへぇ、顔が堅いよ〜」

 

「“…?あぁ、ごめん”」

 

「…それでさ、先生」

 

ミカの眼差しが確かに変わる…楽観から、期待へと。

 

「今日トリニティにやったことはさ。…ゲヘナの子たちにも、やるんだよね?」

 

「“…あぁ、まぁ全生徒だから、そりゃあゲヘナも…”」

 

「そうだよね!?」

 

突然肩をガシっと掴まれ、前後に激しく揺られる。

 

「そのときはさ!私すっごい頑張るから!ね!ね!?」

 

「“わ、わかったから…”」

 

…そういうことか。

 

聖園ミカがこの狂った作戦に乗った理由、そのうちの一つはゲヘナに対する憎悪。

 

…憎悪、なのだろうか。

 

ひとまずは簡単な憶測で結論付けようとしたが、良く考えれば何故…ここまでゲヘナに憎悪を…?

 

「ま、今日のうちはひとまず寝ようよ。おじさん疲れちゃったよ〜」

 

思慮に耽っている私を横目に、わざとらしい欠伸を残し、ホシノがテントの中へと消える。

 

「それじゃ、先生。また明日ね」

 

それに続くように、ミカが軽く手を振ってテントのファスナーを閉める。

 

「“…ああ、おやすみ。ミカ。”」

 

考えても仕方ない。

 

動き出した歯車を止められるほどの力は、生憎非力な私には備わっていないのだから。

 

 

 

 

 

「先生、サングラスなんていつの間に買ったの?」

 

「“この前…騒動を起こすちょっと前に買っておいたのを持ってきた。ヒールになるなら、まず形から…でしょ?”」

 

軽口を叩き、サングラスをぐいと押し上げてにやりと笑ってみせる。

 

「う〜ん…悪役だからサングラスとは限らないと思うけど…」

 

「…先生?」

 

「“そう?私としてはサングラスをかけるのはマフィアとかの…”」

 

「…先生ってば!あそこに何かあるよ!」

 

強烈に背中を叩かれ、慌ててミカの方を向く。

 

ミカの指差す方には、薄ぼんやりと光る空間があった。

 

ミレニアム近郊に位置する廃墟。関係者以外立ち入り禁止のこの区域に来た理由は一つ。

 

「“これが…AL-1S”」

 

「えーえる…何?」

 

木漏れ日に照らされた玉座に、眠ったまま腰掛けている裸の少女。

 

「うへ〜、ずいぶんと苔むしてるけど…」

 

「あっ、これが来る前に言ってた…なんとかの王女?」

 

「“…名も無き神々の王女”」

 

古代の遺物、先人が残した兵器。

 

目の前で眠る少女は、キヴォトスを丸ごと焦土に出来るほどの力を秘めた殺戮マシーンである。

 

「それで?この子をどうするの?」

 

「“初期化した後、戦力として利用する”」

 

「…それって、ゲヘナの風紀委員長に対抗するため?」

 

ゲヘナ学園風紀委員長、空崎ヒナ。

 

その実力はゲヘナで圧倒的に一番、キヴォトス全体で見ても五本の指に入るほどだ。

 

「“あれは、ホシノでなんとかする”」

 

「え!?いやいや、おじさんでも流石に…」

 

「“剣先ツルギはミカ、空崎ヒナはホシノで対処する。この兵器を使う相手は、美甘ネルだ”」

 

無視された事が不服なのか、困り眉のままホシノが頬を膨らませる。

 

「あ〜…確かミレニアムの…メイドさんだよね?コールサインなんとかって」

 

「おじさんも聞いたことあるよ〜。約束された勝利の象徴、だっけ?」

 

ミレニアムサイエンススクールが誇る戦力、Cleaning&Clearing…通称『C&C』のリーダー美甘ネル。

 

空崎ヒナと同じく強者であり、その強さは圧倒的なタフネスに由来する。

 

「“倒れない相手には、同じく倒れない機械で対応する。二人がネルと戦っても、おそらく体力切れで負ける”」

 

「…というか、先生?さっきから個人戦みたいな言い方してるけど、別にみんなで一人を襲撃すれば良いんじゃ…」

 

「“もう向こうは徒党を組み始める頃だろうね。トリニティ、ゲヘナ、ミレニアム…各校の最強格が手を組んでやってくる。エデン条約なんて比じゃないぐらいの結束力で”」

 

「…まさかとは思うけど」

 

怪訝な顔で、ミカがこちらを覗き込む。

 

「先生は自分がトリニティとゲヘナの共通の敵になることで、エデン条約を…ううん、それ以上のものを、無理矢理締結させようとしてるの?」

 

「“…どうだろうね?”」

 

「むぅ。…いじわる」

 

ミカもホシノと同じ様に頬を膨らませる。

 

二人をなだめ、本題へ移る。

 

「“さて…起動しようか”」

 

少女が眠る玉座へと、一歩、また一歩と近づいていく。

 

得も言われぬ緊迫感が、抱きしめるように身を包む。

 

まるで、魔王と対峙しているような―――

 

「…!伏せて!」

 

ホシノに頭を掴まれ、地面に飛び込むような形で姿勢を低くする。

 

次の瞬間、鮮やかな紫の弾幕が髪を掠めた。

 

見ると、白髪を靡かせた小柄な帝王が、銃を担ぎ上げ立っている。

 

「ここにいたのね、先生」

 

逢うべきでない『最強』が、鉄仮面のような無表情でこちらを見ている。

 

「“…やぁ、アビドスでの騒動以来だね。ヒナ”」

 

面倒だ、と言わんばかりに溜め息を吐き、銃を構え直す。

 

「ゲヘナ学園風紀委員長、空崎ヒナ。…先生、あなたを連行させてもらう」

 

突然で、唐突で、突拍子もない現実との激闘が、たった今幕を開けた。

 

 

 

 

 

「“ダッシュダッシュダッシュ!!!”」

 

「先生!?次どっち!?」

 

「“多分左!!”」

 

廃墟を丸ごと使った壮大な鬼ごっこは、いつの間にか佳境を迎えていた。

 

空崎ヒナを迎え撃つべく用意した策は、すべて空崎ヒナによって打ち破られたのであった。

 

「どんどん崩れていくんだけど!?」

 

「“廃墟だからね!!次は右!!”」

 

崩落する天井などお構い無しに、飛び散る石片を足場にして、彼女は一瞬で距離を詰めてくる。

 

命を奪う寸前、火花を散らして盾が割って入る。

 

「“ホシノ!あとどれぐらい耐えれる!?”」

 

「おじさんなら何発でも…って言いたいとこだけど、もってあと三発かな。それ以上は盾が壊れちゃうかも」

 

器用に盾でヒナを弾き飛ばし、私…私を背負ったまま走るミカと合流したホシノが苦笑いする。

 

「“了解、相手に四手打たせたら負け…ベリーハードにも程がある気がするけど”」

 

保全された綺麗な道に茨を生やした、過去の自分自身を呪う。

 

「…なんというか、全然焦ってないんだね」

 

「“いやいや、これでも内心バクバクだよ?”」

 

「おじさんに嘘はあんまり通じないよ」

 

全てを見透かしているような眼差しで、ホシノは続ける。

 

「策があるんでしょ。隠してないで教えてくれればいいのに」

 

「“…一つはこれだよ”」

 

紐で括られた木の枝を、懐から取り出してみせる。

 

「これは…枝?」

 

「“夾竹桃だよ。燃やすと強めの毒を含んだ煙が出る花木でね”」

 

ヒナが着地するであろう場所に投げ、行動を阻害する。この枝切れに求められる役割はたったそれだけだ。

 

「“それだけで良い”」

 

空崎ヒナに、市販の盾は通用しなかった。

 

一発でも銃弾を肩代わりしてくれれば良かった。動物的本能で横へ飛んでいなければ、今ごろあの盾とお揃いの風穴が空いていたことだろう。

 

空崎ヒナに、手榴弾は通用しなかった。

 

立ち昇る爆煙から顔を覗かせるその姿は、まるで鬼か、般若か、とにかく地獄の何かのように見えた。

 

空崎ヒナに、“Kyrie Horizon”は通用しなかった。

 

星の輝きに包まれてやるほど、あの怪物は鈍い奴ではなかった。

 

「…だからあえて、行動阻害に切り替えるってこと?」

 

「“少し違う。行動阻害もしない…というか、通じない”」

 

大切なのは、いかにこちらの策を稚拙に見せるか。

 

「“肉体的な面で敵わないのであれば、精神を制すだけだよ”」

 

四手。相手に打たせることのできる最大手。

 

こちらが先に一手。

 

それの対処に一手。

 

こちらが二手目を仕掛け、あちらも二手目で対処。

 

三手目。

 

一、二手目で油断したヒナを狩るための、本気の一手。

 

ホシノの盾で最後の攻撃を受け、その隙に叩き込む、全霊の一打。

 

「“今から始まるのは、懸命な抵抗に見せかけた壮大な準備だ。やれるね?ホシノ”」

 

「やれるやれないじゃなくて、おじさんはもうやるしか無いんだよ」

 

ホシノはそう言い残すと飛び上がり、預かった枝に火を付け、ヒナの足元に叩きつけた。

 

「…!ケホッ…煙…?」

 

「“ミカ!思いっきり左に飛んで!…なるべく、AL-1Sに近付こう”」

 

後半の部分は耳打つようにして、ミカに指示を出す。

 

「分かった!えい☆」

 

地面を抉る音が耳に届いた直後、世界が横に引き伸ばされたような錯覚に陥る。

 

ヒナとの距離が一瞬だけぐんと伸び、また同じ距離に戻る。

 

「“思ったより煙の拘束時間が短い…まぁ、薄々分かってはいたけれど”」

 

「…イシュ・ボシェテ」

 

想定外の言葉が、ヒナの口から紡がれる。

 

「“…!?ホシノ!”」

 

「おじさん遣いが荒いよ!」

 

紫の弾幕を、乱暴に盾で流す。

 

しかし、相手はあの空崎ヒナのいわば奥の手とも言える大技だ。

 

防ぎきれるわけもなく、肩に数発流れ弾が当たる。

 

「ぐっ…うへ!?」

 

気がつけば、無意識的にホシノを庇うように、強引に体の位置を入れ替えていた。

 

「先生!?何を…」

 

「“これが、次の一手!”」

 

ポケットに入れた閃光弾のピンを抜き、スライディングでヒナに接近する。

 

「…!?」

 

「“目をつぶって大きく後ろに跳んで!”」

 

瞬間、自分以外の世界が白に染まる。

 

 

―――サングラスをかけた、自分以外の世界が。

 

 

「“…やっぱり、ヒールにはサングラスがよく似合う”」

 

捨て台詞を残し、全力で走る。

 

「“ミカ!ホシノ!今のうちにAL-1Sに向かうよ!”」

 

「了解。先生、今度は私に掴まって」

 

「“え?”」

 

ホシノは軽々と私を持ち上げた。

 

ミカと同じ様に地面を抉り跳び、そうして、AL-1Sの近くへ私を置いた。

 

「ミカちゃんを手伝ってくる。なるべく足止めはするつもりだから」

 

そう言い残し、ホシノは再びヒナの元へ跳んだ。

 

勿体ぶるほどの時間は無い。

 

後ろを向く。

 

AL-1Sに近付く。

 

全てを終焉に導く王女を揺り起こそうと、手を伸ばし…不意に、体制が崩れた。

 

先程ホシノを庇った際に、銃弾が掠めた場所が悪さをしたらしい。

 

勢い余ったまま、AL-1Sが乗せられた台座に手をつく。

 

「“がっ…!?は…ぁ…”」

 

瞬間、割れるような頭痛に襲われる。

 

「“私…は…?”私は…?だ…れ…」

 

自己の認識が揺らぎ、歪む。

 

まるで、自分が自分で無くなるような。

 

すぐに台座から手を離し、呼吸を整える。

 

少し落ち着く。

 

改めてAL-1Sに触れようと手を伸ばし―――

 

「…させないっ!」

 

「“…!?もう来たのか!?”」

 

銃弾が眼前を掠め、反射的に手を引っ込める。

 

見ると、肘を抱えたヒナがよろけながら立っている。

 

「“その様子だと、毒すら無効…ってわけじゃないみたいだね”」

 

夾竹桃の毒煙が、どうやら思いの外功を奏したらしい。

 

先程、想定よりも早く切り札を切ったのは、毒の存在と、ミカやホシノによるダメージから継戦が難しいと判断した為か。

 

「おかげで計画とは少し違う形にはなったけど…疲弊した君に、『三手目』を叩き込める」

 

「先生…どう…して…」

 

「“どうして、はぁ…どうして、こんなことをするのかって?”」

 

呼吸がまだ荒い。精神的優位を保つ為、必死に平静を装う。

 

「“何度でも言うが、先生を辞める為だよ”」

 

「…私との対話に応じる優しさがある時点で、貴方は先生よ」

 

力を振り絞った様子で、銃を構えそのまま放つ。

 

一撃で命を奪いかねない凶弾。

 

こちらは丸腰。ヒナには、そう見えているはずだ。

 

ハッタリをかますような人間だと、先の二手でイメージ付けた甲斐があった。

 

「“こういう…散っていった仲間の装備を使う展開、好きなんだよね”」

 

ヒビが入ったホシノの盾を横に投げ捨て、頬を歪める。

 

「な…!?」

 

「“これこそ、大大大本命…!!”」

 

撃ち抜かれないよう必死に守り抜いたそれを―――シッテムの箱を掲げる。

 

「“真紅の花占い”」

 

永遠にも思える鬼ごっこは、天井を突き破る女狐の介入によって終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

「呼ぶのが少々遅いのでは?」

 

「“万全の君と万全のヒナがやり合ったら、この廃墟ごと切り札が潰されちゃうからね”」

 

満身創痍のヒナを容赦ない弾幕で鎮圧したワカモが、どこからか取り出した包帯で傷口を覆ってくれた。

 

狐坂ワカモ。どういうわけか私に全幅の信頼を寄せている彼女が、ヒナ対策の三番目であった。

 

「“それじゃ、改めて…”」

 

「くれぐれもお怪我なさらないようにしてくださいね、あなた様…」

 

白無垢の肌に手を添える。

 

…自分という存在が、裏返ったような気がした。

 

台座に触れた時とは訳が違う。

 

魂の奥底に手を入れられたまま、思いきり掻き回されたような不快感に全身を支配される。

 

思考に、ノイズが走る。

 

これはまずい。

 

私が、私以外の存在に書き換えられていく。

 

ゆっくりと手を離し、その場に尻餅をつく。

 

「状態の変化、及び接触許可対象を感知。休眠状態を解除します」

 

無機質なアナウンスが、伽藍堂な廃墟に響く。

 

むくりと上体を起こしたそれが、蒼い双眸でこちらをじっと見据えている。

 

「識別。当該個体を名称不明の人類として定義。及び、■■■■と仮定」

 

…今、なんて言った?

 

口を動かしていたはずなのに、一切の音が聞こえない部分があった。

 

「ふむ。AL-1Sでも我の名は分からぬものなのか。…本当に、我は“名も無き神”になったのだな」

 

自分とそっくりな声が、どこからか聞こえてくる。

 

面を被ったまま銃口を向けるワカモを見て、ようやくその声が自分から発せられたものだと気が付いた。

 

「貴方は、誰ですか?」

 

「さぁな。名前が無いんだ、好きに呼ぶといい。“違う、ワカモ!私は”喧しいな。もうお前にできることはない。我の中で眠れ、嚮導者よ」

 

「…!あなた様!」

 

足掻く。愛しい生徒の哀しい顔はもう見たくない。

 

…あぁ、この感情と出会うのはいつぶりだろうか。

 

忌々しいこの“私”によって、久しく忘れていた。

 

「おっと、生徒を殺したのは間違いなくお前の意思だぞ?貴様の絶望を増幅させ自暴自棄にしたのも、ミカエルやホルスの貴様への依存度を急激に高め作戦に参加させたのも私だがな。くはは」

 

ペラペラと、まるで誰かに語り聞かせるように懇切丁寧に、自らの計画をひけらかす。

 

「くははは。…さて、一度キヴォトスの地を平たくする必要があるな。ここには余計なものがありすぎる」

 

「了承。修正プロセスを実行…32%…97%…完了」

 

音もなく、まるでコマを送った様に世界が切り替わる。

 

「…AL-1S?我は世界を更地にしろと頼んだはずだが」

 

「回答。廃虚内の復元、および脱出が最優先と判断しました」

 

「…制御権が薄れているのか?まぁ良い、では地上に出るとしよう」

 

無意識に体が動く。

 

違う。

 

無意識ではない。

 

これは、“名も無き神”の意思だ。

 

…定義して、これも違う事に気付く。

 

名も無き神、なんてものは存在しない。

 

奴らが―――無名の司祭が、起こり得る自然の禍を勝手にそう名付け、崇めているだけだ。

 

では、私の中にいる…いや、私“が”中にいるこの自称『名も無き神』は一体誰だ?

 

「言っているだろう。私は名も無き神であり、禍であり、渦巻く不幸の中心点であるとな」

 

違う。

 

名も無き神は、名が無い故に呼ばれず、呼ばれぬ故に存在できない。

 

「だから、私はお前になった。それぐらい分かるだろう?『先生』ならな」

 

名を持たぬ存在が、名を持つ存在を呑み、存在の証明を得た…?

 

違う。

 

そもそも名も無き神は意識を持たない、自然の摂理の一つに過ぎなくて―――

 

「あ、あなた様…いや、違う…?」

 

混乱するワカモの声で、我に返る。

 

「そこの狐。おそらく向こうの方で横たわっているミカエルとホルスを回収してくれ」

 

私を模したそれが、シッテムの箱を叩き、『命令』する。

 

「あっ…?は…はい…?」

 

困惑した声色のまま、わけも分からず奥の方へ走って行く。

 

「では、改めてここから出るとするか」

 

パチン、と指を鳴らす。

 

一瞬で景色が変わる。

 

ミレニアムの郊外、廃墟の入り口。

 

先程の行為がワープのためであったことに、ようやく気付く。

 

「…やっぱ、あいつは負けたか」

 

不意に、声が響く。

 

瓦礫の山の上で胡座をかいたまま、それがこちらを見下ろしている。

 

私を動かしていた自称“名も無き神”が、最も警戒した勝利の象徴。

 

「ふむ…ネルガルか」

 

「あ?誰だそれ。アタシは美甘ネル。それ以外の誰でもねぇよ」 

 

コールサイン00、美甘ネル。

 

橙の髪を揺らし、挨拶代わりに響いた銃声が、最終決戦の始まりの合図であった。

 

 

 

 

 

美甘ネルは強靭であった。

 

私を乗っ取ったそれがシッテムの箱を使えなければ、一瞬で片が付いていたほどに。

 

シッテムの箱にはもはや見知った表示はない。おそらく、アロナも強制的にスリープさせられている。

 

映し出されているのは、真っ赤な背景に真っ白な文字。

 

『Divi:Sion』と書かれたそれが光るたびに、自律式の機械達がどこからか飛来する。

 

「チッ…撃っても撃っても…!」

 

迫りくるロボットを次々と鉄屑に変えながら、ネルはボヤく。

 

「リーダー!」

 

頭を掻くネルの後ろから、三人の人影が飛び出す。C&Cのメンバーが、リーダーのピンチを救うべく駆けつけたのだ。

 

「…!?お前ら…!」

 

「ほう。そいつらは使えるな」

 

またも私は呟いて、懐をまさぐる。

 

「…あったあった、これだ」

 

強く振るだけで壊れてしまいそうな程にひび割れたそれを、二本の指で挟み舐めるように見る。

 

「使えても一度か二度だが…それで十分だな」

 

“ひび割れた大人のカードを使う”

 

使った。

 

使い、直感的に理解した。この使役する力が発現したのは先生としての道を外れたからではなく―――

 

「我がお前との同化を始めたからだった、という訳だ」

 

目に光を灯さない三人が、ネルに銃口を向ける。

 

「嘘だろ…!?」

 

「どうした?それらはもはや我の味方、つまりはお前の敵だ。足元の鉄屑みたく撃ち抜けば良いだろう?」

 

「舐めんなよ」

 

ネルの姿が、消えた。

 

比喩ではなく、誇張でもなく、本当に忽然と消失した。

 

「防護。円形の多次元バリアを展開します」

 

消えたはずのネルは、銃弾を降らす雨雲となって宙を舞っていた。

 

「おいおいマジかよ…」

 

身軽に着地をこなし、ニヤけた顔のまま銃を構え直す。

 

「これ防げた奴そうそういねぇってのに…!」

 

「…やはり、多少無理をしてでもAL-1Sを起動しておいて正解だったな」

 

「ちっ…まぁいい、あんたには聞きたいことが山程ある」

 

「そうか、我には無い。死ね」

 

「複製。対象、“巡航ミサイル”」

 

その手には乗らないと言わんばかりに、拮抗した状況を破壊する一手を打つ。

 

「…させないよ」

 

「C4爆弾を感知、複製解除。防護に移行します」

 

灯台下暗し。

 

全てを壊す一撃は、足元に仕掛けられた小型爆弾によって中断された。

 

即座に防御へ切り替えたAL-1Sが、ゆっくりと声の主へ首を向ける。

 

「ホルスか。先の戦いで気絶したと思っていたが」

 

アビドスの制服を血で染めた、桃髪の少女がゆらりと立ち上がる。

 

「どうにも怪しいと思ってたからさ。こんな早い段階で始めるとは思って無かったから、ちょっと遅れちゃったけど」

 

「聡明だな。殺すのが惜しいぐらいに」

 

手を振りかざし、再び世界を壊さんと合図する。

 

「複製。“巡航ミサイル”」

 

誰にも阻害されることなく、今度こそ古代の遺物が顕現する。

 

巨大で、強大で、一目見ただけで甚大な被害をもたらす兵器であると分かる、古代の遺物“巡航ミサイル”。

 

「インターバルとかねぇのか…!?」

 

「…仕方ないね。ネルちゃん、おじさんの後ろに下がって」

 

あっという間に鞄から盾へと変化したそれを構え、ホシノはネルに手招きする。

 

「正気か?あんなん盾で耐えれる訳ねぇだろ!?」

 

「かといって、逃げる時間もないよ。後ろの方に正義実現委員会もいる。君だけでも生き残って、状況を伝えてよ」

 

そうこぼすホシノの表情は、諦めたかのような笑顔であった。

 

「おい!お前は―――」

 

「起爆」

 

刹那、世界から音と光が消失した。

 

いや、消えたのではない。逆だ。

 

天地を揺るがす轟音と、目を焼き焦がすほどの灼光が巻き起こったのだ。

 

遅れて、誰かに殴打されたのかと錯覚するほどの衝撃が全員の全身を突き抜ける。

 

私には、そのいずれも届かない。

 

「防護。付近の生体反応の消失を確認」

 

無機質な機械音声が鼓膜を打つ。

 

「このぐらいで良いだろう。次はゲヘナを―――」

 

「警戒。生体反応が急速に接近しています」

 

「…何?」

 

ゴッ、と鈍い音が鳴る。

 

久方ぶりの痛みに、私も、“名も無き神”も思わず悶える。

 

焼けた地面を転がり、跳ねるたびに鞭を打たれたような痛みが走る。

 

「が…は…なんだ…今のは…」

 

「貴方、もう先生じゃないんでしょ?」

 

「防…護、不可…」

 

血に塗れた翼を大きく広げ、AL-1Sの首を掴みそれは笑う。

 

「じゃあさ、もう良いよね☆」

 

そのまま乱雑に手に持った機械を放る。

 

笑っている。

 

嗤っている。

 

揺らぐ炎を背景に、髪の乱れた天使は嗤う。

 

聖園ミカの鉄槌は、またも私の胴を強く撃った。

 

 

 

 

 

「誰が乗っ取ってるのか分かんないけどさあ!!先生を返してよ!!!」

 

「落ち着けミカエル…!私は…があっ…!!先生で…!」

 

「そんな!!わけ!!ないでしょ!!!」

 

止まらない。

 

「私さ…?先生のこと、少し気になってたんだよ…?」

 

それは憎悪であり、憤怒であり、慟哭である。

 

「私は裏切り者なのに、私を肯定してくれて…受け止めてくれてたのに!!」

 

全てを乗せた殴打が、絶え間なく私の体を襲う。

 

「AL-1S…!構築システムを起動しろ…!」

 

「了承。“アトラ・ハシースの箱舟”起動」

 

「セイアちゃんを殺した私は…!もう先生に頼るしか無かった!!」

 

…は?

 

「“今、なんて言った?”…!?体の主導権が…!?“お前は黙っていろ”」

 

部外者を黙らせる。

 

自我の強さが、神の洗脳を弾き飛ばす。

 

私は“先生”として、ミカに問う。

 

「“ミカ、君が…君が、セイアを殺したのか?でも、話ではアリウスの子だって…”」

 

「それについては、私が説明します」

 

ドスン、と派手に音を立てて。

 

戦場へ舞い込んだ天使が一人。

 

「“…ミネ!?”」

 

救護騎士団団長、蒼森ミネは堂々と参戦した。

 

「“生きていたのか…!?”」

 

「はい。私以外の方は皆貴方に…いえ、貴方を唆した方に殺されましたが」

 

「ミ、ミネちゃん…」

 

「ミカさん。貴方は百合園セイアを殺していない…というか、百合園セイアは死亡していません」

 

その口から紡がれた、衝撃の事実。

 

「“…は?”」

 

「え?」

 

「セイアさんは現在、休眠中です。アリウスが仕掛けた爆弾は、作動前に回収されていました。死亡扱いにしていたのは、エデン条約等の外交の都合上―――」

 

思考が追いつかない。

 

何度も拳を叩きつけられた痛みすら忘れてしまうほどに、頭の中を空白が埋め尽くす。

 

「“…つまり、つまりだよ?”」

 

なんとか事実を受け止め、結論づける。

 

「“全てはミカの勘違いから始まった…ってこと?”」

 

「…」

 

「…」

 

長い、とても長い沈黙が場を包む。

 

「お前は、他者を己の身勝手で虐殺に巻き込んだわけだ」

 

不意に口を開いたのは、私。

 

もとい、“名も無き神”。

 

或いは、その名を騙る者。

 

「気分はどうだ?“魔女”」

 

そして…この世界を滅ぼさんと顕現した巨悪。

 

「あああ、ああ」

 

ミカが自分の髪を掴み、喉を枯らし叫ぶ。

 

「ああああぁぁぁぁっ!!!!」

 

瞬間、吸い込まれるような“黒”が現れる。

 

音もなく、衝撃もなく。

 

まるで、最初からその場にあったように。

 

「“…!?あれは!?”色彩だ。ミカエルの絶望に反応して顕現した反転の象徴」

 

また、意思と反した声が口から流れる。

 

「ミカエルはやはり精神が脆いままだなぁ!?」

 

「警戒。“反転”を観測」

 

ミカのヘイローが砕け、不自然に再構築される。

 

「反転したミカエルを扇動すれば、忘れられた神々は排斥される…!!」

 

化けの皮が、とうとう剥がれる。

 

その歪んだ本当の“名も無き神”を見て気付く。

 

これは神などではなく、行き過ぎた信仰から自身を神だと見紛った信者だ。

 

目的は忘れられた神々…つまりは、生徒の排除。

 

そして、名も無き神である自分をキヴォトスの支配者に戻そうとしていた。

 

実際には、神でもなんでもない、ただの人であるというのに。

 

「“そういう…ことなら…私に考えがある…!”」

 

目の前の“反転”に、渦巻く憎悪に、うねる後悔に、捨て身の勢いで飛び込む。

 

「!?」

 

「“ミカ!!”」

 

色彩に呑まれる寸前、ミカを抱きしめて横に飛ぶ。

 

「“ミカ、君は最後まで、私を信じてくれたよね”」

 

「あ、あぁ…?」

 

涙を流し、強く抱き返してくるミカの頭を撫でる。

 

「“どんな形であれ、私についてきてくれた君を責める権利は、私には無いよ”」

 

「せ、んせ…」

 

「…黙れ!!貴様は大罪人だ!!断罪されるべき魔女だ!!」

 

なおも足掻く醜いそれを、否定するように言葉を紡ぐ。

 

「“ありがとう。…私の、お姫様”」

 

「…うん。ありがと、先生」

 

割れかけたヘイローが、元の形へと戻っていく。

 

「馬鹿な…!AL-1S!こいつらをさっさと―――」

 

「“無名の司祭。お前は許されざる行為を重ねた。私から出て行け…今すぐに!!”」

 

自分の中で無法に暴れまわる、何者にもなれなかった哀れな存在を、今度こそ追放する。

 

「ぐあっ…!?馬鹿なぁあああ!!」

 

思考が不自然なほど明瞭になる。

 

久しい感覚だ。

 

やけに爽やかな頭の中に、たった一つの結論が残る。

 

 

青春を、やり直そう。

 

 

 

 

 

「先生、戻ったのですね」

 

「“やっぱり、分かるものなんだ?”」

 

「ええ、それなりには」

 

ミネが、優しい顔で微笑んでみせる。

 

この場にいるのは、ミネ、ミカ、主を失ったAL-1Sと私―――

 

「“それと、色彩”」

 

「あれが、色彩…」

 

「“残っているのなら丁度いい。あれを利用する”」

 

ゆっくりと、その存在へ歩み寄る。

 

“色彩”は、変わらずそこに在る。

 

「“青春の物語から逸脱したこの世界、この時間軸そのものを反転させる”」

 

無名の司祭は、この世界を壊した。

 

“先生”を操り、“先生”になり、“先生”として生徒を殺した。

 

その時点で、この世界は青春の物語ではなくなった。

 

「おっしゃっていることはよく分かりませんが…結局どうするのですか?」

 

「“簡単だよ。私が色彩に触れれば良い”」

 

この世界は、恐らく私を基準に構築されている。

 

私の反転は、すなわち世界の反転を表す。

 

「“あくまで仮説だし、成功するかは分からない”」

 

「でも、やるしか無い。だよね、先生」

 

「“…そうだ”」

 

眼前の色彩に、手を伸ばす。

 

そのまま、手が触れて。

 

バツン。

 

電源が切れたように、視界が閉ざされた。

 

 

 

 

 

「…先生」

 

優しいような、それでいてどこか達観した、冷淡な声で目を覚ます。

 

「もしかしたらこれから始まる話は、君のような者には適さない、似つかわしくない話かもしれない」

 

どこか勿体ぶった、回りくどい言い方でその声は続ける。

 

「不快で、不愉快で、忌まわしく、眉を顰めるような…」

 

暗い言葉を並べ、声は未来を案ずる。

 

「相手を疑い、前提を疑い、思い込みを疑い、真実を疑うような…」

 

ああ、分かっている。

 

「悲しくて、苦しくて、憂鬱になるような…それでいて、ただただ後味だけが苦い…そんな話だ」

 

どこまでも暗く、曇った未来を見てきた。

 

「しかし同時に、紛れもない真実の話でもある」

 

…そうだ。

 

今から始まるのは、重く、辛く、悲しく、暗く、どうしようもない―――『現実』の話だ。

 

「どうか背を向けず、目を背けず…最後のその時まで、しっかり見ていてほしい」

 

当たり前だ。

 

だが、忘れない。

 

私は、“先生”だ。

 

観測者であり、傍観者であり。

 

それでいて生徒を導く、嚮導者なのだ。

 

「それが、先生…『この先』を選んだ、君の義務だ」

 

…さぁ、もう一度。

 

義務とやらを果たしに行こう。

 

紡ごう。

 

正しく、皆が幸せになる…そんなハッピーエンドの、青春の物語(ブルーアーカイブ)を。

 

 

 

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。