やっべ……この後どうしよ
「………」
薄暗い部屋、ピッピッと一定間隔で鳴り響く機械音。
どこか消毒液臭い部屋の中には錆びた鉄のような香りがはびこっている
そう、紛れもなく病室だ
それも重篤な患者がたどり着く場所、いわゆる高度治療室ってやつ___なのかな?
そして……私の目の前には一人の男性が眠りについていた
口元には酸素を送り込むための透明なマスクが取り付けられていて、腕をはじめとした体にはこれでもかと言うほど長い管が繋がっている
その管の先には赤い液体や透明な液体、その他オレンジ色の袋がぶら下がっていた
「…………」
脳裏に嗚咽感が走る
それは今目の前にいる血まみれの生徒を見るのがいたたまれなくなったわけじゃない
自分自身、この自分がこの子に何もしてあげられなかったことがたまらなく悔しいからだと思う
名前はラインハルト・ハイドリヒ。トリニティで唯一の男子生徒で武装親衛隊の長官
誰の目から見てもエリートで憧れの的だった。もちろん私も先生という立場ながら憧れていた
だって成績も優秀、運動神経も抜群、それにカリスマ性があって気配りも出来て、音楽のセンスもあってなおかつお金持ち………こんな人はこのキヴォトスに数えるほどしか存在しないと確証できる
___逆に、この子も皆と同じなことがある
それは周りに相談せずに溜めすぎることだ………まただ
また私は生徒を救うことが出来なかった
自責の念に駆られると同時になんとも腸が煮えくり返るような……そんな決して生半可な言葉では言い表せれない感情が心を支配する
きっと…いや、絶対に苦しんでた。思えば補習授業部との合宿のときからそうだった。いきなり泣き出したこともあった
普段は気丈に接してくれてるし、思いやりもある………でも、裏があった
少しづつ、だけど着実にハイドリヒの心のなかで鬱憤が溜まっていったんだと思う。それは一つ一つは小さいかもしれない、でもハイドリヒの心を埋めるには十分な数だったんだと今になって気付かされる
まだ幼い身であるにも関わらず武装親衛隊の長官などという責任を負う者の立場に立たされたんだ、その彼が多忙を極めて心労が溜まっていくのは想像に硬くない
………それなのに_____
ポタッ
先生の真下に一つの雫が滴り落ちる
ポタッ___ポタッ_____
あれ?見たいのに__もっと良くハイドリヒの顔を見たいのに_____視界がぼやけて直視できない
この時、私は初めて涙していることに気がついた
それに気付けないほど放心していたのかもしれない……もしかしたら心の何処かで自分はもう死んでしまった方がいいと考えているのかもしれない___それは私でさえ分からない
でも
今、悲しくて__泣いている。
それだけは分かる
「…………」
ポタッ__ポタポタッ___
いつの間にか私の下にはちょっとした涙の池が作られた。どうやら長い時間泣いていたようだ
体感ではあまり時間は経ってないように感じた____いや、その逆かもしれない。気の遠くなるほどの時間が流れていたのかもしれない
しかし、それは涙の小池が証明してくれた
「………」
こうして立ち尽くしている間にも、一定間隔で機械音はなんの変化もせずに鳴り響く
ああ
あああああ
……あぁぁぁぁ
……………あああぁぁ
神様___普段はあんまり信じてないけどもうこの状況だったら信じるしか無い
お願いします、神様____ハイドリヒを救ってください
運命でも神のオルガンでもなんでもいいです。必要であれば私の命でさえ差し出します
だから____神さま……………………
「ハイドリヒを_____また、ハイドリヒと笑い会える世界が欲しいです……………!」
果たして、先生の願いは神に聞き入れられるのであろうか?
今はただ。両手を合わせてハイドリヒの横で願うことしか出来ないでいた_______
_______________
「ですから私は決して女たらしではありません!!!そう断言します!!!!!」
「いいや違うね!!ハイドリヒ君は誰の目から見ても女たらしだよ!!!」
電車の中で二人、激しく言い争いをしていた
「私の何処が女たらしだって言いたいんですかぁ!?そのように思わせるような行為は一回も行っておりません!!!」
「はぁ!?女の子と一緒にデート行ってなにが『一回も行っておりません』なの!?!?」
どうやら内容はハイドリヒが女たらしかどうからしい。
暇すぎだろこいつら、先生の気持ちも考えろ
「あれはデートじゃありません!」
「でも一緒に遊園地行ったんでしょ!?」
「そ、そうですがあれは………」
_____
そう、あれは久しぶりに休日が取れた日のことである
その日は特にやることも作っていなかったので部下たちとともにテーマパークに来ていた。
そして集まったのは俺含め4人だったと記憶している
その日のテーマパークはとても混雑していて、確か離ればなれにならないように皆で手を繋いだ
懐かしいなぁ……そこで食べたイチゴクレープは絶品だった。部下にもこの感動を共有したくて目の前に差し出したらまるでイチゴのように顔を真赤にしてたっけ?
結局なぜそんなに顔が赤くなったのかは分からずじまいだ__まぁいい思い出だ
_____
「ほら」
「なにが『ほら』なの!?やっぱ女たらしじゃん!!!!!!!!!」
何言ってだこいつ!?これまでの女たらし度はゼロなはずだ!!!
「ぐ、具体的に何処らへんがですか!?」
「そのクレープ!」
クレープ?苺味で美味しかったけど………
「普通は口つけの食べ物を渡したりしないから!それするのカップルだけだから!!!」
「!?」
闇に電流走る。
彼女からの鋭い指摘がハイドリヒの心を貫く
その姿はまるで
「た、確かに………」
「ほら、やーっと分かったn「他人に私の唾液が付いた汚い物を食べさせるなんて………!」……はぁ」
(相当な鈍感だ………)
まじで危機感持ったほうがいい。誰もがそう思うだろう
「ほ、他には他人を陥れようとしたことはないの……!?」
「陥れようとしたことは一度もありませんが……そうですね。____________あ!」
ハイドリヒは思い出したかのように口走ってゆく
_____
これは以前業務の雑談で部下の羽について喋っていた時
『へぇ、意外と手入れって大事なんですね』
『そうなんですよ長官!そのくせ奥の方は手が届きにくくて………』
『あー分かるわー。ハスミ先輩とかだったら腕と羽が長いから楽にできそうなのにね?』
『ほんとそれ。結局友達かだれかにやってもらわないといけないからねぇ』
(意外と大変だな__羽なくてよかった
__________ん?)
ここで俺はあることに気がついが
一人の隊員の翼がボロボロな状態だったんだ!
『貴方は羽が汚れていますが……朝支度が出来なかったんですか?』
『こ、これは……えっと、さっきの戦闘でちょっと爆風が……』
この瞬間、俺は瞬時に次にすべきことを理解した
『それはご苦労さまです、では今この時間で私が羽を溶かしますよ』
『『『え?』』』
『どうせ今の時間は暇ですからね』
『え!!い、いいいいいんですかぁ!!』
『もちろんです、貴方は日頃から頑張ってくれてますからねぇ……淹れてくれるコーヒーの味も日に日に上達していますよ。これはそのお礼です』
『は!はわはははっははっはは!///』
この後ブラッシングを借りて丁寧に羽を溶かしてあげた
_____
「ほら」
「だからなにが『ほら』なの!?!?!?やっぱり絶対に女たらしだよ!!!!!!」
何言ってだこいつ!?これまでの女たらし度はゼロなはずだ!!!
「ぐ、具体的に何処らへんがですか!?」
「そのブラッシング!」
ブラッシング?時々痛くないか聞きながらやってたから傷つけては無いと思うけど………
「普通他の人の羽をブラッシングなんてしないから!!!」
「いや普通にしますよ」
「なんでさっきはわりとすんなり聞き入れてくれたのに今回は聞き入れてくれないのかなぁ!?!?」
だって聞いた話によると仲間同士で羽のブラッシングするらしいし、俺おかしくないし
「いい!?トリニティで羽のブラッシングを許す相手は恋人か好きな人だけなんだよ!?これってトリニティの常識¹だから!!!!」
「嘘だけは毎回スラスラと出ますね。ティーパーティー向きですよ」
「だから違うってぇぇぇぇ!!!!」
電車の中で一人の女声の大声がこだました
温度差えっぐ