くそう!右腰と左肩が痛てぇ!!!
ピピピピッ!
カチッ
「………」
ムクッ
今日も今日とて無機質な目覚まし時計に叩き起こされ、一日が始まる
いつも通りのメニューの朝食を平らげ、歯を磨き、植物に水を与える。
その後はいつもの長官の服に着替えて行く準備は万全だ
なんの変化もない日常
__しかし、どこかが違う
色がない
朝食のベーコンの少し油の乗っている姿も
歯を磨く時に鏡に反射した自分の顔も
水を与えた時に嬉しそうに揺れた植物たちも
__全部色がない。まるで白黒の世界にいるような感覚だ
「…………」
唯一、
「……」
スッ
赤子を撫でるかのように優しく触る
触れたばかりだろうか、まだ熱が籠もっておらず鉄特有の冷たさが俺の手に伝わってきた
___そんな事を考えてる暇なんてない
今日はミカ様の公聴会だ、トリニティの上層部に先生も来るし早くいかねばならない
これでミカ様の境遇が決まる。遅刻するなんてもってのほかだ
「……」
ガチャッ
家からゆっくりと外に出る
温かな鋭い太陽光が、眼の前に広がっている街を照らしているのが見える
「………」
ゆっくりとした足取りでアズサの家の前を通る
まだアズサは眠っているだろうか?中からは人の気配さえ感じ取れないが、アズサなら隠せるだろうと気づく
___なぜ隠そうとしてるかは分かりたくもない
「………」
起きているのに、眠りから目覚めたはずなのに
白昼夢を見ているような気分
「………」
力なく扉を眺める
それはまるで映画のワンシーンのようだった
「………」
急ごう
__________
「………」
公聴会の会場、いわゆる裁判所のような建物の前に俺は訪れていた
こんな場所に好き好んで訪れるやつなんてそうそう居ないだろう。知らんけど
「……………!」
「お〜〜〜い!」
遠くから腕を大きく振りながらこちらに向かってくる大人が見える
……そう、紛れもなく先生だ
なにか大きめの物を携えているから遠くからでも先生だと分かった
「こんな朝早くに遠路はるばるこちらにお越しいただき感謝申し上げます」
「いやいや、どうってことはないよ!」
笑顔で屈託もなくそう話す先生の姿は、いつ見ても心が浄化されるような錯覚に陥る
「………ミカ様に、会われますか?」
「そりゃあね。公聴会が始まる前に彼女自身から話を聞きたいし」
多分こんなに早く来たのもこれが理由なんだろう
「しかし酷いクマですね…また残業なさったんでしょう」
「うっ!ま、まぁね………」
先生はどこかバツが悪そうな表情で視線をそらしてくる
「仕事も大事ですが休むことだって大事ですよ。いつでも我々を頼ってください」
「ま、まあ…やばい時には連絡するよ。まだ一轍目だし」
何徹もする前提で話を進めないでくれ__
「…………」
「じゃあ行こうか」
「……………先生」
「ん?どしたの?」
曇り一つもないその眼で反応する先生。その姿がなんとも可愛らしく見えてきた
「その……ずっとツッコんでませんでしたが……」
「?」
「なんですかそれ___」
「へ?なんのこと?」キョロキョロ
「そのハチマキですと旗と意味の分からないタスキです」
「…ああこれね、昨日作ったんだ」
先生の額には『!ミカ無罪!』と力強く書かれたハチマキが巻かれていた
背中には『ミカは可愛い!』と書かれている旗を携えている。
肩からは『上告¹求む!』と書かれているタスキを着付けている
__いや駄目だろ。てか上告に至っては意味が違うだろ
「没収です」
「ええええ!?」
「相手を威嚇したいんですか?てかそもそも公聴会にそんなの付けていったら追い出されますよ」
「で、でも…コレ作るのに徹夜したのに………」
なんでやねん
「まったく…てか今回は別に裁判ではありませんからね。上告ってなんですか上告って」
「え?だって………」
「別に今回言い争うために集まったわけじゃありませんよ」
「え!?そうなの!?!?」
……呼ばれたのになんで知らないんだよ
「そもそもこの公聴会は。
すでにまとめ上げられた処分内容を皆の前で読み上げ、承諾するかしないかを話し合ったり多数決する為にありますからね」
トリニティに議会なんてものは存在しない
民主主義?あぁ、ウチは三権分立だから(ちなみに本当の三権分立¹は意味が違います)
「先生は公聴会でどうするかを話し合うんだと思ってたんじゃありませんか?」
「う、うん………」
「実際はもう会議で決定しました。
パテル分派、フィリウス分派、サンクトゥス分派、正義実現委員会、救護騎士団、シスターフッド、そして我らが武装親衛隊の代表らが一同に集まりそれぞれの案を出し合います。
そして最終的に多数決で決めたんです__まぁ会議が長引いたせいで残業時間が多くなったんですけどね」
はははっと遠方を眺めながら力なく笑うハイドリヒ。その目には生気なんてものは存在しなかったのだ
「へぇ…そいつは大変そうだね」
「お互い様ですよ」
俺達は再び止めていた足を動かしはじめる
「………」
あれ?色が戻ってる___
__________
面会室にて
「でねでね!ナギちゃんがさ〜〜〜っ」
「うんうん」
「そうしたらすっごい怒っちゃってさ?も〜大変だよっ!」
「へー」
「ロールケーキとかもう食べ飽きたって感じ?たまには味の濃い物が食べたいな〜〜〜」
「分かる分かる」
「………」
かれこれ3時間これである
__うん、分かってたよ?先生とお話するのはとっても面白いからつい長引いちゃうのは承知している
でもさ?俺の事をほったらかしにして3時間?やばくね?
「だから絶対にやり返してやろー…うそうそ、冗談だって」
「そうだね」
「……なぜだか先生の返答も簡素になってきてません?」
疲れか?やはりこんな女なんてほっとこうぜ
「あ、ついちょっとだけ長くなっちゃったね」
「3時間ですよ」
「えぇ!?7時間くらい経ってなかった!?!?」
実際の時間よりも長く感じられるのは楽しくなかったからか更年期障害だぞ
___確かに同じ話を何回もされてたしそう思うのも理解できなくはない
「てかずっと私置いてかれてとても悲しかったんですけど」
小さな反撃と言わんばかりに少しだけミカを睨む
「だって〜〜〜ハイドリヒ君の会話、小難しくくて疲れるんだもん」
「は?」
「この前だって『私の処遇についての方針決定』だの『図書委員会に対する諸手当の概要』とか分からないよ!!!もっと簡単に説明は出来ないわけ?」
なんだこいつ
俺がどれだけ苦労してるか分からんのか?
「貴方のせいで我々は日々退屈しませんよ」
「それはどうも〜」
こいつぅ!!!
「___はぁ。もう時間です」
「…………うん」
「先生も早く移動しましょう。公聴会では私の横の椅子にお座りくださいね」
「了解だよ」
スッ
重い腰を上げ、俺はミカに背を向け面会室から退出しようとする
「ねぇ」
「___なんですか」
ドアノブに手をかけようとした瞬間、背後から我儘なお姫様から呼び止められてしまう
「もう行かなければなりません。ミカ様ももうそろそろご支度を」
俺は再びドアノブに触れてひねろうとした
しかし、またそれは阻まれてしまう
「………まだ”様”は付けてくれるんだね」
「……………」
どうでもいい
しかし無視してはいけない言葉が俺めがけて襲いかかる
「…先生、先に向かっててくれませんか?」
「____分かった」
どうやら何かを察してくれたようだ
やはり年の功が違うだけある
バタン
部屋の扉が閉まる音が聞こえる
この中には俺とミカ以外に誰も存在していない
「まだ私をティーパーティーのホストだと思っててくれてるの?」
「そうですよ。ネタバレになりますけどそうするように結論が出ましたからね」
「……それもこの後の公聴会次第、でしょ」
「…………知ってるんですか」
トリニティに議会はない
しかし
この後が大事だ。もしこの結果に納得いかないやつが暴れ出したら結論を覆さねばならないかもしれない
__まぁそれはあまりにも低い可能性だろうがな
「そのような心配はありませんよ」
「なんでそんな事言えるの?私を恨んでる人だって沢山いるだろうに__」
なぜかって?そいつは簡単だ
「今回、警備を努めてるのは武装親衛隊です」
「………」
この一言でミカは納得してくれたようだ
……ん?別に武力行使はしないから大丈夫だ
気にしないでくれ
「でもさ____いや」
「………」
「ごめんね?呼び止めちゃって__」
今度はミカが席を立ち戻ろうとする
「みんな待ってますよ」
「_____え?」
ガチャン
扉が閉まる音が反響する
__________
辺りは緊張感で包まれている
そして場は静まり返っている……だがしかし、何処かでヒソヒソ話が湧き上がっている
それも一つじゃない。何人もの生徒が向かい側に座っている俺達に聞こえるか聞こえないか絶妙な音量で話しているのが分かる
「………」
「………」
横で座っている先生はこのような体験が初めてでは無いのだろう、落ち着いた雰囲気を身に纏っている。その横顔はいつものような先生からは想像も出来ない形相だ
____その時
ガチャッ
だだっ広い部屋の一際大きい扉から、二人の兵士と一人のお姫様が姿を表した
「あれが………」
「なんで……親衛隊………」
「………」
中央の少女はその小言をまるで端から聞いてないかのようにズカズカと力強くカーペットに沿って突き進む
歩く度に、一歩進む度に小さい雑音は数を増していくが、たとえそうだとしてもミカはただ前へ進んでゆく
カンカンカン!
「………」
とある生徒がガベルを鳴らす
その音に合わせて雑音が消失してゆくその様はなんとも滑稽だ
けたたましい音が響き渡り終わったその瞬間、ミカはちょうどその場で立ち止まる
「…………」
「判決を言い渡します。主文、_______
結論から言おう
公聴会は驚くほど何事もなく終了した
__まじで、一人くらい「そんなの納得いかん!」とか言い出すと思ったが…ヒソヒソと話す生徒は現れさえしたが結局最後まで現れなかった
いや〜〜〜やっぱ武装親衛隊が睨みをきかしたのが功を奏したのかな?
「よく頑張りましたよミカさん。周りからの小言をも気にせずよく頑張りましたね………っ!」
「ほんとだ、もしかして本当に人語を理解できない生命体になったのかい?」
「あはははっセイアちゃんは私がゴリラだって言いたいの_」
「まぁまぁ」
あの公聴会が終わった直後、ティーパーティーと先生と俺はとある休憩室にて雑談に花を咲かしていた
「…………」
………………あ、結論から言おうって言ったけど結局言ってねぇじゃん
ミカ様に対する判決はこうだ
ティーパーティーのホストの座は現状維持。最後の方で武装親衛隊に協力してくれたから叙情酌量の余地ありと判断した結果だ
__まぁ三頭政治を破壊させないために……かな?でもミカ様の後任のホストが決まっていない現状降ろされるのは多分無いだろう
でもトリニティに対する奉仕活動とかいって草むしりとかをする事になった__これでも頑張った方だぞ
俺頑張った!偉い!
「………なんかハイドリヒ君がさっきから一喜一憂してるんだけど」
「ゴリラが四字熟語なんて言うはずが無いだろう」
「折るね☆」
「やめなさい」
「…………」
俺の眼の前では仲の良さそうな3人組が仲睦まじくじゃれ合ってるのが見える
__そんな幸せの時間もつかの間。
不幸の音が響き渡る
グゥゥゥゥ
「…………」
「…………」
「………………」
「おや、もう昼時ですね」
誰かさんの腹時計がもうお昼時だと俺に知らせてくれた
「………先生?」
「仕方がないじゃん!!!今日頑張って朝早くに仕事終わらせたんだしさっ!」
仕事ってあのしょうもないハチマキのことか?
「そうですよね。ではどこか外食でも行きましょう」
「そ、そうだっ!私が奢るよ!」
無理だろそんなの
「あのーーー私とミカさんはこの後ティーパーティーの用事がありまして……」
「私も面会があるからここでお暇させてもらうよ」
「あ………そ、そうなのね」
少しだけ悲しそうな表情になる先生、俺がいるからべつにさみしくなんか無いだろ
「じゃ、じゃあ行こうか………」
「じゃあね〜〜〜今度は私達も一緒ね!」
楽しそうな少女を残して、俺達は静かに去っていった
__________
「久しぶりだな〜、ファミレスで良かったの?」
先生が不安そうに俺に問いかけてくる__いやいや、俺を誰だと思ってるんだ?別に怒んねぇよ
「確かに私の財力は先生と比べて天と地以上の差がありますけど。たまに私も訪れたりしますよ」
「はははっ、殴っちゃったらごめんね」
キヴォトス人に勝てるわけないのである
「はぁ〜〜〜私はさ、ファミレスにたっくさん友達と一緒に訪れたわけよ」
「へぇ」
「いろいろな思い出が詰まってるわけ、恋バナしたり相談し合ったりさ___」
あれ?先生ってこんなに面倒くさいおっさんみたいな感じだったっけ?
__でもいいなぁ、そうやって友達と交友出来るのって素晴らしい体験だろうなぁ………恋バナとか相談とか___ん?相談?
「……先生は昔から相談に乗っていたんですね」
「まぁそうだね」
「…じゃあ私の相談も乗ってくれませんか?」
「分かった」
俺がこう話した瞬間、先生を取り囲む空気がガラッと変わる
「…ありがとうございます。えっと、アズs____」
………
一人の少女の名を口から出そうとした瞬間、口が開かなくなる
__物理的じゃない、しかしなぜだかは分からない
「あの……ア………アリスさん___」
「アリス?ミレニアムの?」
「そ、そうですっ!アリスさんについてご相談したいことがあるんです」
「へぇ、ハイドリヒってミレニアムの人とも交友関係があるんだねぇ」
………言えなかった
逃げたんだ
___
「これから話すことは奇想天外だと驚かれるかもしれません。それでも聞いていただけますか?」
「もちろん!」
俺は先程よりも開きやすい口を動かす
「アリスさんは私の妹です」
「なるほど」
「はい…………はい!?」
以外にも、先生は一言も発さずに信じてくれた
「し、信じるんですか?」
「そりゃあ当たり前でしょ。他ならぬハイドリヒだからね」
「せ、せんせい………!」
感激っ!
「それを本人に話せれてないんですよね。いつ打ち明けようか迷っていて」
すると、先生は元気よく答えてくれた
「善は急げだよ!次の土曜日一緒に行こう!」
「____へ?」
__________
「__紅茶は飲まないのかい?」
「…………」
「そうか、じゃあ何を相談しに来てくれたか話してくれるかい?」
「白州アズサ」
もう少しで色々と予定が重なる日が来るので投稿が遅れるかもしれません……。