雨が降っている。
それはただの自然現象であり、そこに意味を見出す必要はない。けれど、カノンは窓の外を見つめながら、何か考え込んでいるようだった。
「ねえ、ウェディング様」
彼女はそう言って、ソファの上で膝を抱えた。
「今日の雨は、昨日の雨と違うと思う?」
私は視線を向けることなく答える。
「雨は雨です。それ以上でも、それ以下でもありません」
「ふふっ、それがウェディング様の答えなのだわ」
カノンは笑う。私は彼女のその笑顔の意味を測りかねる。
「それでは、あなたはどう思うのです?」
「うーん……」
彼女は少し考え、窓の向こうの街並みに目を細めた。
「今日の雨は、昨日より少しだけ冷たい気がするのだわ。でも、それは気温のせいなのか、私の気持ちのせいなのか、分からないのだわ」
また、曖昧なことを言う。
私は、カノンのそういうところを理解できない。理解する必要もないと考えていた。けれど、彼女はいつも、そうした不確かな言葉を投げかけてくる。
「私は、あなたが言うように雨の違いを考えたことはありません。ですが、あなたにとって意味のあるものなのでしょう」
「そうかもしれないのだわ」
カノンはまた、微笑んだ。それは、何かを知っている者の笑みのようにも、何も分かっていない者の笑みのようにも見えた。
私はテーブルの上の冷めたコーヒーを一口飲む。
「ウェディング様」
「何です」
「今日は、どこかに行きたいのだわ」
「目的もなく外に出るのは、合理的ではありません」
「でも、だからこそ行きたいのだわ」
彼女はそう言って、私をじっと見つめた。
私はしばらく彼女の瞳を見つめ返し、それから窓の外を見る。
雨は、すでに止んでいた。
「……考えておきましょう」
私がそう言うと、カノンは嬉しそうに笑った。
結局、私は彼女と共に外に出た。理由は特にない。ただ、カノンが望んだから。それだけだ。
雨上がりの空気は澄んでいた。街路樹の葉にはまだ水滴が残り、舗道にはいくつもの水たまりができていた。夜の街は、いつもより静かに感じられた。
カノンは道の真ん中で立ち止まり、空を見上げた。
「ねえ、ウェディング様。こういう時って、なんて言うのかしら?」
「どういう時です?」
「雨が止んで、世界が少しだけ違って見える時」
「……晴れ間が見える時、でしょうか」
「そういうことじゃないのだわ」
カノンはくすくすと笑い、足元の水たまりを指で弾いた。小さな波紋が広がる。
「雨が降る前と、降った後では世界が変わったように見えるのだわ。でも、本当に変わったのかしら?」
私は答えない。ただ、彼女の言葉を聞く。
「人はね、ウェディング様、変わったようで変わらないのだわ。昨日と今日では違うように思えて、実際は同じことの繰り返しなのかもしれないのだわ」
「それは、虚無的な考えですね」
「そうなのかしら?」
カノンは再び空を見上げる。
「でも、ウェディング様。私はね、今日の雨は昨日とは違うと思いたいのだわ」
私は彼女の言葉を理解できない。
だが、それを否定する理由もなかった。