Fate/senji might   作:ONE DICE TWENTY

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fin. The Life Of A Blacksmith

 まず。

 

「今すぐにか、英雄王」

(オレ)の財に加わること以上に何かやりたいことがある、とでも?」

「無論だ。(オレ)はまだ作刀を終わらせてねえ。大聖杯ってなモンを救う刀はそこに置いたが、これは正義の味方(人を生かす剣)じゃねぇからな」

「もう二振りも鍛造したであろう。あの贋作者(フェイカー)と、騎士王と」

「どっちも英霊じゃねえか。聖杯戦争が終われば消えちまうんだろ? ……というかこいつが大聖杯としての機能を維持できなくなった以上、消えるのは時間の問題のはずだ。英雄王、お前さんもな」

 

 そう。「エミヤシロウ」の記憶を頼りにすれば、英雄王が今現界し続けていられるのは、聖杯の泥による受肉もあるけれど、教会地下の被害者たちによる魔力供給が大きい。

 言峰綺礼が「あんな」になっちまった以上、その魔力供給は途絶え、目的だった大聖杯も小聖杯も消えたとなれば……全てのサーヴァントは最早その身もその力も維持してはいられないだろう。

 

「別に(オレ)の死後、この身が財として、宝物としてお前さんのモンになるのは構わねえよ。そりゃ刀鍛冶の誉れってもんだろ。だが、今の(オレ)はまだ未熟者の成り損ない。せめて一端の鍛冶師になってからにしちゃくれねぇか」

正義の味方(人を生かす剣)を作り上げてから、と」

「ああ」

「ならぬ」

 

 ……だろうなぁ。

 なんせ。

 

「それはまだ成し得ておらぬ領域だろう、鍛冶師(ブラックスミス)。今まで貴様が行ってきたことは、かつてはそうであったものを元通りに、そして更に強くと鍛き上げる行為。(オレ)が財に加える価値アリと判断したのはその所業であり、生まれた時から正義の味方、などという惨たらしい獣を作る所業に興味はない」

「……」

「加えて言うがな、雑種。それを行うとすれば、言峰や(オレ)にも勝る外道が必要となろう。自らと番いの赤子か、あるいは他者の赤子か。白紙である誰ぞかを攫うことでしかその剣は成り立たぬ。貴様にそれができるのか?」

 

 あまりにも的確な言葉だ。

 (オレ)の作りたがっているモノは、結局のところ、「そうであらんとする人ではない何か」を作る行為にほかならない。元々が正義の味方を目指していたモンで、それを再度、ってならともかく、最初からそいつを正義の味方にするには洗脳染みたことを行う必要がある。

 つまり、人工的に「エミヤシロウ」を作るような──そんな外道を。

 

「さらに重ねよう。──そこまで堕ちたのであれば、(オレ)は再度の採点を行うだろう。そのような者に()ち直された正義の味方(人を生かす剣)にどれほどの価値がある」

「──ほう。それは意外なことを聞いたな、英雄王。まさかおまえが、正義の味方に価値を認めているとは思っていなかった」

 

 声。

 ああ、一気に英雄王のオーラが……。

 

「……贋作者(フェイカー)(オレ)は今、我が財に加わる者への言葉を下賜しているところよ。貴様の所業は目障り極まりないが、英霊である以上最早どうにもならぬ。その座から引き摺り下ろすことに関しては(オレ)ですら不可能なこと。……故、マスターであるそこな小娘でも連れて、とっとと失せよ。その頭蓋を砕くことにさえ興味が無いわ」

「そうは行かないのが正義の味方というものでね。死後に財に加わるのならばいい、とまで譲歩している少年を、そうあってはならないとこの場で(かどわ)かそうとする者がいたのなら、それを守るのが私の役割だ」

「……そもそも、シロウをその蔵の中に、という行為自体も認められない。……シロウ、無事ですか。その全身の火傷は……」

 

 全身の火傷?

 ああ、まああの固有結界見境ないからな。そりゃこうもなる。

 

 と……突然魔術回路が励起し、肌やら胸の穴やらが修復されて行くのがわかった。

 セイバーが同じ世界に現れたから、か。

 

「ふむ。……成程? そこな鍛冶師(ブラックスミス)のメンテナンスに騎士王が必要なのか。これは失念していたな。……手に入れてしまえば興味を失くすとさえ思っていたが……別の意味で必要になったか」

「求婚はもう断ったはずだ、英雄王。まだ言うか」

「求婚などもうしておらぬではないか。今(オレ)が言ったのは、鍛冶師(ブラックスミス)のために貴様も我が財に加える必要がある、ということだけよ。二つでセットの宝具とてそれなりの数が存在する故、特に珍しい話でもない」

 

 カチャ、と。

 アーチャー、セイバーが……(オレ)の前に立つ。立って、武器を構える。

 

「……なんの真似だ」

英雄王(理不尽)から少年(無力)を守る。今の私がこの世に留まる理由だ」

「シロウ、アーチャーのマスターと共に逃げてください。アーチャーの固有結界内で傷はある程度癒えました。アーチャーとの共闘ともなれば、後れを取ることもありません」

 

 あー、いや。

 (オレ)は……。

 

「何やってるの衛宮くん! 立てないなら肩貸してあげるから、早くこの場を離れましょ。アーチャー、セイバー、頼んだわよ!」

「……待ってくれ、遠坂の嬢ちゃん。というか……逃げるなら、遠坂の嬢ちゃんだけにしてくれ」

「はぁ? この場に居たら巻き込まれるに決まってんでしょ!」

「逃げるつもりがねえ、って言ってんのさ」

 

 鉄を打つ。鉄を打つ。鉄を打つ。

 励起した魔術回路が唸り声を上げ、急冷していた我が身(刀身)灼烙(しゃくらく)を取り戻す。

 

「ちょっと……」

「済まねえな、遠坂の嬢ちゃん。……もしよかったら、桜の嬢ちゃんと藤村の姉ちゃんに謝っておいてくれ」

「待ちなさいって──、熱っ!?」

 

 すまねえたぁ本当に思う。

 これだけ心配されて。

 これだけ大切に想われて。

 それに報いることをしない、なんて。

 

 ……やっぱり(オレ)は、切嗣(オヤジ)の子供なんだろう。

 

「少年、何をするつもりだ」

「シロウ……」

「すまねえな、赤い兄ちゃん、セイバー。此奴は(オレ)の我儘だ。──もう会えねえ可能性の方がでけぇからな、別れを告げておく。出会えてよかったよ、二人とも」

 

 前に出る。

 サーヴァントたちの前に。

 黄金の王は──その口元を歪めた。

 

「今ここで財に加わる決心がついたか、鍛冶師(ブラックスミス)

 

 直後、(オレ)の前に現れるは黄金色の波紋。

 人一人が通り抜けられる大きさのソレは、さながら異界への扉のようで。

 

「いいや、英雄王」

「……二度目はないと、既にわかっているはずだが?」

()()()()()()()()()()()()

 

 鉄を打つ。

 黄金を、打つ。

 

「すべてお前さんの言う通りだ、英雄王。生まれた時からの正義の味方を作る、なんて蛮行は外道も外道。(オレ)の手に余る行為で、ンなもんに興味は無え。──だから(オレ)は、己の好きなことをやって、正義の味方(人を生かす剣)を鍛造する」

 

 一瞬青筋を立てこそしたが、なにかを見定めるような目つきになった英雄王。

 開いていた蔵への入り口を閉じて。

 

「……失敗すれば、明日の身はないぞ、鍛冶師(ブラックスミス)

「おうよ。そも、宵越しの刀は持たねえのが(オレ)の主義だ」

「フ……フハハハ! まったく……頑固な小僧もいたものよ。ウルクにも己の主義主張を変えることなく、しかし仕事だけは確実に行う職人たちがいたものだが、貴様もその類か」

「言外に(オレ)が爺いって言ってねえか、それ」

 

 英雄王以外の誰もが動揺する中で──胸に手を当てる。

 

「定めを切り業を切り、刀に捧げる我が人生ってな。──体は焔で出来ている」

 

 そこから引き抜くは当然衛宮(家垣)の太刀。

 そして、それを。

 

「シロウ!?」

「何をして──ぐ!?」

「去らぬのなら、黙って見ていろ下郎。……貴様らは神ではないが故に効力は薄いが、その鎖は十二分な強度であろうよ」

 

 自らの首へ、押し当てた。

 

「衛宮……くん?」

「一世一代、刀匠衛宮士郎。死後、人類最古の英雄王の財、その末席に加わるべく──これよりこれから、覇を成すものとする」

「問おう、雑種。今の貴様は道化師(ジェスター)鍛冶師(ブラックスミス)か」

 

 ハ。

 ンなもん決まってらぁな──。

 

「どちらにも至れちゃいねぇ、未熟者の成り損ないだぁ!」

 

 太刀を、引く──!

 

 

 

 目を開ければ、無明の世界。

 否。

 おどろおどろしく輝く青白い輪っかは。

 

「お前さんが、抑止の輪か」

 

 それは「エミヤシロウ」の記憶の中で垣間見たもの。

 彼が契約した相手。死後、守護者となることを約束した「ナニカ」。

 

「アレ? なんでここにいるんだよアンタ」

「色々あってな。作らなきゃいけねえモンを作るには、此処が一番適していたってだけさ」

 

 現れたるは影。全身に刺青のある少年、ではない。

 影としか表現できないもの。

 

「ふぅん? よくわかんないけど、オレは別のヤツの水先案内人を務めるつもりだから、アンタにゃ構ってられないよ」

「構わねえよ。(オレ)はここで作りてぇモンを作るってだけだからな」

「あっそ。……ま、オレもそいつがここに辿り着くまでは暇だからさ。鍛冶仕事ってやつ? 見学するのは構わないか?」

「口出ししねぇなら、好きに見ていきな」

 

 天地無明。

 存在する光は、抑止の輪だけ。

 

 そんな暗闇には当然刀鍛冶の設備など存在しないが……この(オレ)こそが衛宮士郎()でありアーサー王()でありエミヤシロウ()でありイリヤスフィール()であるのならば、なにも問題ない。

 鉄槌(かなづち)だけは、肌身離さず持っているしな。

 

 ──鉄を打つ。

 無明の世界に生まれしは新たなる光源。

 鉄と鉄がぶつかり合う火花。窯と炉の持つ原初の炎。

 ──鉄を打つ。

 水先案内人は何も言わない。ただただ、日常(退屈)を貴ぶような目で、こちらを見ているだけ。

 抑止の輪から声が聞こえる、なんてこともない。ただただ、ソレはソコにあるだけ。

 ──鉄を打つ。

 

 何度も何度も鉄を打つ。

 幾度も幾度も、気の遠くなるほどに。

 

「……飽きないワケ、それ」

「口出ししねぇなら、と言ったはずなんだがなぁ」

「いや流石にでしょ。どんだけ時間経ったと思ってんの、アンタ」

 

 汗を拭う必要はない。

 そんなものは流れない。

 喉が渇くこともない。

 そんなものは存在しない。

 腕が疲れることも、腰を痛めることも、火花で火傷をすることもない。

 

 今の(オレ)に、肉体などというものは存在しない。

 だから、どれだけ時間が経ったかなど知ることはできない。

 

「もうそろ半年だよ半年。アンタがここに来てから。……ったくさぁ、あの聖火のせいでこっちも色々カツカツなんだから、ちっとは手加減してくれよ」

「魔術師の時点で死の覚悟はできていたはずだろう。それを救おうってのがお前さんなら、その正義が堅固であることを祈るばかりだ」

「ほんとに見境いないねーオタク。アンタにとっちゃアンタ以外の全員が正義の味方みたいなモノじゃんか」

「かもしれねえな。どうにも世界ってのは厳しくて、どうにもヒトって奴らはおかしいんだ。悪性九分九厘、善性一欠片みてぇな存在のクセに、強大な何かを前にした時だけはいっちょ前にお手て繋いで善を掲げやがる。ヒトってなモンに生まれた時点で正義の味方になる可能性があって、ヒトってなモンに生まれちまった時点で宿願に翻弄される」

 

 無間地獄から火を取り出して窯と炉の熱を再度高め、また鉄を打つ。

 地獄の炎で刀を打つ鍛冶師なんざ(オレ)が初めてじゃねえのか、こりゃ。

 

「ニンゲンってそんなに高尚かねえ。オレにはとてもそうは思えないんだけど」

「美しいモンが汚されたらかつて美しかったモノになる。だってのに、汚ねえモンをどれほど磨いても汚ねえままってのは不平等だろう。天空海闊、無間に至る広さがあれば、可能性はいくらにでも分岐する。そういうコトは、出来損ないたぁ言えサーヴァントであるお前さんの方がわかってるんじゃねえのか」

「オレ? オレはまぁ、サーヴァントっちゃサーヴァントだけど、最弱な上に何ができるってわけでもないからなぁ」

 

 ──鉄を打つ。

 知っているさ。途中で弾かれはしたが、この青年の生い立ちも。

 知っているさ。途中で死んじまったが、あの神父の生い立ちも。

 ──鉄を打つ。

 ──鉄を打つ。

 ──鉄を打つ。

 鉄を、打つ──。

 

「お、来たみたいだ。んじゃあな、この世全ての善(スプンタ・マユ)。一瞬ここも騒がしくなるだろうけど、本当に一瞬だ。いちおう助言しておくと、アンタがここに来てからもう八ヶ月が過ぎてる。失敗したらそもそも意味ないけど、成功してもあんまり遅いとあの王サマが現界できずに消えちゃうかもよ~?」

「世話焼きなこの世全ての悪(アンリ・マユ)もいたモンだ。……ランサーには借りがあるからな。お前さんに決定権はないとはいえ、頼むぞ」

「あいよ~」

 

 離れていく影。

 

 ──そのあとすぐに、確かに騒がしくなった。

 天地のどちらもに罅が入り、明るくなり、ステンドグラスを思わせるそれが広がった後……崩れていく。

 

「『一』において、人は天地を分けた。『二』において、人は天地を定めた。『三』において、人は天地の間にもう一つ階層を作った」

 

 それこそが大聖杯。偶然と奇蹟によって成り立った、アインツベルンの至宝。

 

「『四』において、空より禍い降り注ぐ」

 

 囲われた世界に落ちるは呪いという名の泥。

 十年前の大火災。第四次聖杯戦争。

 

「『五』において、人はようやく階梯を手に入れる。天へと至る道。天元の道」

 

 スパイラル・ラダー。

 とはいえ地獄を作っちまった以上、(オレ)のはスパイダー・ラダーかね。

 

「天元とは即ちすべての始まり。可能性という名の種。あるいは"佐々木小次郎"の辿り着いた境地、エミヤシロウの生まれ持つ閾値」

 

 光が──現れる。

 抑止の輪の光でもなく。

 鉄と鉄が衝突する光でもなく。

 

 地平の彼方に見える、北極星のような光。

 

 曰く、仏様の剣ってやつが、(オレ)衛宮(家垣)の太刀と同じく、あらゆる非業、あらゆる宿願、あらゆる呪い、あらゆる悲運……その全てを両断する究極の一だというが。

 あの光はその更に先にあるものだ。……もし史実通りであれば、「宮本武蔵」が辿り着いたという零の剣こそがアレを切り裂く剣であろう。

 

 なれば(オレ)の集めるべき鉄は、この無明そのもの。

 無限の可能性。天元の可能性。無元の可能性。

 無間地獄を腹に持ち、汚穢垣作るは衛宮の地炉。

 (はがね)を打ち、(わだち)を作り、(どうり)を開き、(かわり)を求めて(つらぬ)(つな)ぐ。

 

「故に」

 

 太刀を以て──光を断つ。

 (オレ)は空位にゃ至れちゃいねえが、そうであるようにと祈ったのならば。

 

「──あとは(オレ)が引き継ごう……ってな」

 

 現れたるは、白髪に褐色肌の青年。白黒の羽織を纏う彼は、どこか雪景色を思わせる。

 (オレ)とよく似た顔をした、(オレ)がこれより辿るべき未来にいたはずの青年。

 

「キャスター、家垣士郎(エミヤシロウ)。鍛造により誕生した。……ホントは鍛冶師(ブラックスミス)を名乗りたかったんだがな、そんなモンエクストラクラスにもねぇと突っ撥ねられちまったよ。──ん、なんでぇその顔は。達成感と悲壮感と……罪悪感? 阿呆、(オレ)を作った鍛冶師なら、無理してヒトぶらなくてもいいだろうに。義姉ちゃんに言われたこと、もう忘れちまったのかよ」

「……。……そうだなあ。これが最善手だった。……すまねえな、押し付けて」

「気にするこたねえが、ちぃとばかし困ったこともある。──なんでも十三年後だか二十年後だかに、同じ顔した(オレ)よりハイスペックな爺いが登録される可能性もあるって話だ。……そうなったら、土蔵の壁にでも架けられるがオチかね」

 

 これが、あの時の(オレ)にできた……考えついた、最後の手段、最後の選択。

 

 赤子に洗脳染みた教育をして正義の味方(人を生かす剣)を作るのではなく。

 

「ま、問題はねえさ。なんせこの(オレ)は正義の味方……依頼主を選ばねえ刀工とは訳が違ぇんだからよ」

 

 正義の味方(理想の体現者)を作ること。

 元来の衛宮士郎とやらにエミヤシロウを作る可能性があったのなら。

 どこかおかしいらしい(オレ)にだって、作れるはずだと──未来を少しばかり先取りした。

 

「お前さんは英霊として」

「おう、テメェはあの金ぴか王様の財宝として」

「いつか互いに聖杯戦争にでも呼び出されたんなら、気の済むまでコキ使ってくんな。弟子でも雑用でもなんでもやってやらぁ」

「なら最高の火を頼む。なんせテメェの物語ってのは」

 

 ()より生まれ出でた少年の、()に心血を注いだ少年の、理想()を追い求めた少年の。

 未だ何者でもない──本物で在らんと足掻いただけの、そんな物語なのだから。

 

 

 

 十月十一日、土曜日。

 いつも通り鍛冶場で鉄を打っていたら──ガラ、と、結構な勢いで引き戸が開いた。

 

 振り返ればそこには──……ポロポロと涙を流す、桜の嬢ちゃんが。

 

「せ……ん、ぱい」

「おう、どうした桜の嬢ちゃ──」

「先輩!!」

 

 飛びついてきた嬢ちゃんを受け止める。危ねえが仕方ねえと鉄を放り投げ──見事に水へ入ったのはよかったが──震える彼女を抱き留めた。

 

「……どうしたよ」

「どうした、じゃありません! 帰ってくるって……信じてましたけど、帰ってきたなら帰ってきたって言ってください!!」

「あー……まぁ、な。いやなに、ついさっき帰ってきたばかりでよ、こんな夜更けに出歩くのもなんだと思って……まぁ、この通りだ」

「それと、その嬢ちゃん、って呼ぶのもやめてください! ……心配したんですよ。心配……してたんですよ、みんな、私も、遠坂……いえ、姉さんも」

 

 頬をポリポリと掻く。

 まぁ……正論だ。

 いやだがよ、夜中の二時だの三時だのに他人様の家へ、ってのは非常識が過ぎるだろう。

 

「……今は、どこに住んでんだ」

「姉さん……遠坂先輩が、色々なことを……調べて、教えてくれて。遠坂邸に二人で住んでます。……石像の兄さんもいるので、三人暮らしです」

「そうかい。……セイバーは、帰ってこなかったか?」

「……はい。サーヴァントの方は皆退去されたとの話で」

 

 ま、そうだろう。

 ってことは、英雄王も保たなかったかね。

 まぁあの王様が約束を反故にすることはないだろう。いつか(オレ)が死した後で再会する日を待つとしよう。

 

 そのまま……しばらく待つ。

 桜の嬢ちゃん……あー、桜が泣き止むまで。

 

「落ち着いたか?」

「落ち着けるワケないです……。皆、本当に心配してたんですよ。姉さんも、柳洞先輩も……」

「……そういや一成、結局どこにいたんだアイツ」

「なんでも、自分でもよくわからないけれど、お坊さんたちと一緒に新都でホテル暮らしをしていたそうで……」

 

 そりゃまた。

 ハイカラな。

 

「……先輩。もう、どこにも行かないです……よね?」

「まぁそうだな。できることならこの武家屋敷丸ごと鍛冶場に改造する気でいるよ」

「そうですか……。なら、先輩」

「ん」

 

 ようやく桜は、その身体を(オレ)から離して──背を伸ばし、首に手を回して、口吸いを落とす。

 

 ……。

 

「……良いのか、こんな爺いで」

「~~っ! もう、恥ずかしがるとか、頬を染めるとか、少しはしてください!」

「いやそんなこといわれてもな。……嬉しいこた嬉しいが、孫娘を見ているような感覚がどうしても抜けなくて……ぬ」

 

 む。

 身体が、硬直している、ような。

 

「わかりました。……ふふ、先輩。私、兄さんの石化を解くために、姉さんから魔術を教わってるんです。……今先輩の身体を縛ったのは、初歩的な魔術ですけど……ちゃんと効くようで安心しました」

「まぁマスターでもなくなったってんなら、精神防御もへったくれも……おい桜? なんで(オレ)の服を脱がして」

「意識してくれないなら、意識せざるを得ないようにするまで、です!!」

 

 ──その後のことはまぁ、語らないでおこう。

 色々思うところはあったし、これからもあるのだろうけど。

 

 少なくとも彼女と共にいる間だけは、ヒではなくヒトであると決めたから。

 その、さらに後のことは──未来の綴り手に任せるとしよう。

 

 いつかまた、鉄を打つ音の響く無間の地にて。

 

 


 

 

 荘厳なパイプオルガンの演奏が響いている。

 天窓から差し込む日差しが影を強く焦がす。

 誰にも使われなくなった礼拝堂。

 そこに、慈愛を奮う、一人の修道女の姿があった。

 

 礼拝堂にいるのは彼女を含めて四人。

 金髪の子供、くたびれた顔をした赤い偉丈夫、なんだかそわそわしている金糸の少女。

 

 天井へと伸びるオルガンのパイプは絶えず神へと音を届ける。

 いつかロシアの作曲家が「呼吸をしない怪物」とこれを差して言っていたが、確かにこれは怪物だった。

 

 なんせ、ありもしないソレを、これほどまでにしっかり見せるなど、怪物の所業に他ならないだろう。

 

「というのが、事の顛末となります。彼と彼女がこの"四日間"を抜け出した今、もはやここも崩れ落ちるのみ。他、何か質問はありますか?」

「何も。彼は見事な仕事をしました。納期はとくに設けていませんでしたし、十二分の働きと言えるでしょう。王の沽券に関わりますから何か褒美を取らせたいところですが……そうですね。お金、欲しがってましたし。僕の黄金律に似たものを少し分けてあげましょう」

「私は早く仕事に戻りたいのだがね。なにせ、あの少年が正義の味方を作り上げた以上、いつか戦場にて肩を並べる、あるいは背を合わせる可能性もあるわけだ。それを楽しみに思わない理由がない」

「同じくです。……無論、私は一度帰って……夢を、終わらせる必要がありますが。……それでもいつか、彼と肩を並べて戦えるのならばと……それを楽しみに思う自分がしっかりと存在します」

 

 三者三様。ただし全員帰りたい。

 その様子に、修道女は気分を害してしまったらしい。

 

「Porca miseria」

 

 言葉に肩を竦めるは少年と偉丈夫。首を傾げるは少女。

 

「それでは、早く出ていってください。……ああでも、一つ優越感に浸ることがあるとすれば──」

 

 修道女が浮かべた顔は……泥に呑まれ、泥を食い取られて死した、この教会の前任者によく似たソレ。

 

「私は会いに行けます。まだ少年である彼に。……正確には私ではない私ですが」

「あはは、それについては興味が無いや。なんせ彼は僕の財になることが決定している。その時に会えば良いだけだから──それじゃ」

 

 マウントを取ったつもりが、肩透かしをくらい。

 

「私はいつどの時代に召喚されるかわからないのでな。あの少年とはまた会う日がくるやもしれん。そして一つ言えることは、どのような時でも、彼とは対立関係に無い、ということだ」

 

 よくわからない爽快感溢れるニヒルな笑みをくらい。

 

「それでは私も失礼を。最後までよくわからなかった貴女に告げる言葉があるとすれば……恐らく正妻となるのは桜なので、貴女の入る余地はないのでは?」

 

 そんな感情欠片も抱いていないというのになぜか失恋をくらい。

 

「……別に、蔑まれたのは私であって、私ではありませんから」

 

 あるいは人、それを……負け犬の遠吠え、と言うのかもしれない。

 

 ──崩壊する。

 約束の四日間は、彼の帰還と共に──無間の涯へと熔けて。

 あるいはエーデルフェルトの西の双子舘にて、瀕死の女性と……見様見真似で鍛造されたような、出来損ないの刀が見つかる──のかもしれないけれど。

 

 それはまた、別の話。




クラスキャスター
属性混沌・善
真名家垣士郎
時代2004年
地域日本
筋力B耐久A+
敏捷D魔力A
幸運A宝具C++


保有スキル効果継続CT取得条件
降霊魔術【C+】自身のQuickカード性能をアップ【Lv.1~】18初期スキル
自身のArtsカード性能をアップ【Lv.1~】
自身のBusterカード性能をアップ【Lv.1~】
自身のスター集中度をダウン【Lv.1~】
スターを獲得【Lv.1~】-
正義作成【EX】味方単体のQuickカード性能をアップ【Lv.1~】17霊基再臨x1
味方単体のArtsカード性能をアップ【Lv.1~】
味方単体のBusterカード性能をアップ【Lv.1~】
味方単体の宝具威力をアップ【Lv.1~】
味方単体のクリティカル威力をアップ【Lv.1~】
焔【EX】自身のNPをものすごく増やす【Lv.1~】-9霊基再臨x3
自身の弱体状態を解除【Lv.1~】


宝具種類ランク種別
無間の焔製(むけんのえんせい)衛宮(やえがき)の太刀ArtsA+対人宝具
効果
味方全体の攻撃力をアップ(オーバーチャージで効果アップ)【Lv.1~】&
敵単体の強化解除+味方全体に弱体無効状態を付与【Lv.1~】
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