【急募】ここから助かる方法【死にそう】   作:ラグなロック

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「いでででででででで!? これはキャメルクラッチ!! キャメルクラッチだろこれ!?」

「違うよー。北欧式身体柔軟法だよー」

「背骨をガラケーみたいに圧し折る柔軟法があってたまるか!! やっぱお前怒ってるだろ!?」

「もう怒ってないよー。はいもういっちょー」

「ぐおあああ――――――」

「……? どうしたの?」

「いや…………頭の後ろに柔らかい感触があああああああああああああああ!?」

「はい。これが北欧式痴漢撃退法だよー」

「これのどこが修行だよっ!?」


暗躍

隆文がライダー陣営と接触した翌日。

ウェイバーは自室のベッドの上で胡坐をかき、眉間に皺を寄せて何かを思案していた。

 

その様子を見ていたイスカンダルは読んでいた「イリアス」を脇に置く。

 

「坊主。どうしたさっきからそんな顔で。腹でも下したか?」

「だとしたら今こうしてないだろ……キャスターのマスターのことだよ」

「……? キャスターのマスターがどうかしたのか?」

 

どうもこうも、とウェイバーは自分の考えを口にする。

 

「危なすぎるんだよ。魔術師としても。人間としても」

「んん? そりゃどういうことだ?」

「お前だってなんとなく分かってるだろ」

 

そういうと、イスカンダルは珍しくウェイバーの前で言葉に詰まる。

 

……まあ、危うさを持っているとは思っておったがな。

 

まさか魔術師としては未熟な自身のマスターにすら見破られているほどとは。

 

「魔術という力を持った元一般人。それが自分の街を守ろうとしている。傍らには魔術のエキスパートで戦闘も長けたワルキューレがいる――――だから危ない」

「……力に溺れとる風には見えんかったぞ?」

「だからだよライダー。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ほう。イスカンダルはウェイバーの言葉を待つ。

 

「アイツは別に自惚れが強いわけじゃなかった。現に飯食ってる時だってお前と同じくらい僕の方を気にしていたし」

「それはお前さんが余のマスターだからじゃあないのか?」

「だとしてもおかしいだろ。あの時点で僕より強いぞアイツ」

 

それはそう。

魔術戦を抜いても肉体的にはウェイバーよりも鍛えているのが分かる。

 

「……お前さんはもうちょい身体を鍛えた方が良くはないか?」

「魔術師が肉体鍛えてどうするんだよ。筋肉で根源に行こうとする馬鹿いないだろ」

 

そんな奴がいたらソイツはもうネジぶっ飛んだ奴だ。何もしなくても勝手に根源に行きそうではある。

 

「それで? お前さんはどう見る?」

「……自分が弱い前提で魔術を使って、それに拘らない。在り方としては魔術使いだ」

 

そういった魔術使いは確かに己を律し、必要な手段を惜しみなく使う。

だが、ウェイバーが感じたのはそこではない。

 

「ただの魔術使いなら良かった。けどあいつはそれに加えて目的が出来てしまっている」

「目的があると不都合か?」

「ああ。そういう奴は間違いなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

守ろうとする人間を遠ざけるのではなく、積極的に巻き込み、結果全てを失って目的が達成される。

 

本末転倒だ。そうウェイバーは言う。

 

「まだそこまではなってないけど、このままいけばアイツは必ずやらかすよ」

「成程のぉ。なまじ聖杯戦争なんて戦に加わってしまったが故に、異常性が表に出てきてしまったわけか」

 

難儀だのお、とイスカンダルは髭をなぞる。

 

……異常性、か。

 

確かに傍から見れば異常に映るだろう。

魔術師としては失格だが、人間としてはまあ気持ちは分かる。

 

誰だって近しいものが危機に陥っているなら守りたくなるものだ。

 

だがそれはあくまで一般人レベルでの話。

 

ここに魔術や魔術師が関わってくると話が変わってくる。

 

どう足掻いても一般人に太刀打ちする術はない。

 

けれど、彼は力を得てしまった。太刀打ちする術を身に着けてしまった。

 

だから歩みを止めず、走り続けている。

その先に答えがあると信じて――――途中の被害に気付かずに。

 

……いや。アレは気づいているのか……?

 

一度会って話しただけだ。

それでも。間宮隆文という人間の器は何となくわかる。

 

普通の感性を持ったまま魔術師を続けられている。

 

魔術師の中では凡才よりやや下であるウェイバーでさえも分かる異常性はそこだろう。

 

魔術師は人の道を容易く踏み外す。

故に、その精神性は常人には理解できないものだ。

 

それなのに、普通の精神を保ち続けている。

 

異常の中に身を置き続けられる平凡さ。

これを異常と言わずに何というのか。

 

ため息を一つつくと、ウェイバーはベッドに身を投げる。

 

「……何でアイツ。立ち向かえるんだろう」

 

恐怖が無いわけがない。むしろ知った分、自分などよりも余程怖いはずだ。

 

だというのに、前に進もうとする。

 

ウェイバーの呟きを聞いたのか、イスカンダルが反応する。

 

「そりゃあお前。決まっとるだろ」

「……なんだよ」

 

顔だけイスカンダルの方へ向ける。

 

「あ奴が、男だからだ」

「……はあ? いや。男とか女とか関係ないだろ」

「ハッハッハッ。何を言うておる。古来より男は守るものが出来たら猪よりも前のめりに突っ走る生き物だぞ」

「僕の知る限るそんな生き物は存在しないが?」

「なっさけないのお。そんなんだから背がちぃっとも伸びんのだ。なんなら余が伸ばしてやろうか」

「どうやるつもりだだだだだだだだだ!? 馬鹿馬鹿バカバカ肩を抑えて首を引っ張るなそんな身長伸ばしあってたまるかぁ!!」

 

 

 

 

 

■■■■■□□□□□

 

ウェイバーがマケドニア式延長施術を受ける数時間前。間桐の家では二人の男が向き合っていた。

 

一人は、間桐雁夜。

 

もう一人は現当主。間桐臟硯。

 

「して。話とはなんじゃ雁夜」

「キャスターを見つけた」

 

ほう、と臟硯は目をやる。

 

急拵えの魔術師にしては雁夜の冷静さと頭の回転は中々なものだった。

自分はそこまで本気で取り組んでないとはいえ、今まで見つからなかったキャスターを見つけてくるとは思わなかった。

 

「だが厄介なことにライダー陣営と関係を持ったかもしれん。おまけにアサシンもまだ生きてるときた」

「ふむ。まあ、暗殺者が序盤に敗退なぞまずありえんからな。遠坂の小倅も詰めが甘いの」

「アイツは昔から足元を見ないからな」

 

肩を竦める雁夜。

なまじ昔から時臣をよく見ていただけに、彼の致命的な癖――遠坂一族に伝わる、所謂「うっかり」ミス――を理解していた。

 

「……で。まさかそれを報告するためだけに儂のところに来たのか?」

「そんなわけあるか。今後の策だ」

 

身体が怠いのか、椅子に寄り掛かりながら話す雁夜。

 

「……で。策とは?」

「ああ。正直、この聖杯戦争、()()()()()()()()()()()()()

「ほう?」

 

臟硯が興味深いといった風に聞く。

 

「俺たちの優位点。それはバーサーカーの宝具が遠坂のアーチャーに対して有利を突けるということだ」

「ふむ。確かにバーサーカーの技量も相まってあのアーチャーめにはこちらが優位に立ち回れるだろう。だが……」

「分かってる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だろ。俺もそれは分かってる。だから何もする必要がないんだ」

 

雁夜は言う。

 

自分たちのバーサーカーがアーチャーに効果的ということは全陣営が確認したことだろう。

だがそれだけではあの黄金の王は仕留めきれない。

 

故に、どこかの陣営と協力体制を敷く必要がある。

 

「だがランサーの陣営は()()()()()()。やったのはセイバーのところだろう。アサシンとアーチャーは未だ組んでいるし、ライダーとキャスターも組んだとなれば、残りはセイバー陣営。向こうも同じ情報を持っていると仮定すると、こっちと組みたいと思ってもおかしくない」

「それは貴様の願望じゃろうて。ランサーを下したとなれば、セイバーの左手の傷も治癒しているじゃろう」

「だからだろ。正直、遠坂のアーチャーに単騎で勝てる英霊はそういないだろうよ」

 

使い魔越しとはいえ分かるほどの圧倒的な強者としての佇まい。

 

例えバーサーカーがアーチャーに有利だとしても、劣勢になるのは時間の問題だろう。

 

ならば先に同盟を組み、二対一の状況を作り出してしまえばいい。

 

「じゃがアサシンはどうする。一体一体の格は低くとも気配遮断は健在。あの数で攻め入られたら貴様には守るすべはあるまい?」

「数ならあるだろ。臟硯。アンタお得意の蟲の使役術が」

「呵々。儂にサーヴァントを倒せというか。全く。老骨に鞭打たせおって」

「そんな耄碌してないだろうが。それにアサシン程度なら、アンタ一人で十分だろう?」

 

くくっ、と喉の奥で笑う臟硯。

 

雁夜は別に臟硯のことを過大評価しているわけではない。

 

だが御三家の一角で聖杯戦争の立役者。さらには令呪システムの考案と召喚術・使役のエキスパート。

 

臟硯の操る蟲は一匹一匹が致命の一撃与えるに十分な威力を持っている。

さらに言えば、臟硯は五百年の時を生きている。

 

普通の寿命を越えて生きるのは魔術師には間々あること。そして、重ねた年月の分神秘というのは濃くなる。

加えて、アサシンの神秘はそこまで古くない。この聖杯戦争で言えば一番新しい世代の人物と言えるだろう。

 

それら全てを加味して考えると、臟硯ならバーサーカーと共に挑めばアサシンならば斃せるだろうという判断だった。

 

「しかしな雁夜よ。アーチャーはどうする。仮に同盟を結んでいるとなれば、アサシンが黙ってやられるのを見てはおるまい?」

「あのアーチャーの性格と、倉庫での令呪使用による撤退。間違いなく時臣はアーチャーの手綱を握り切れていない。アサシンが窮地に陥っても助けに来る確率はほぼゼロだろう」

「ライダーとキャスターにその間攻め入られたら?」

「可能性としては無くはない。が、それはアサシンを仕留め終えた後だろう。奴らだって背後から襲われる可能性を無くしたいんだからな。アサシンを退場させたら即座に引けばいい」

 

ふむ、臟硯は顎に手をやる。

 

……賭けるにはまあ、分の良いものか。

 

「……まあ良いだろう。雁夜よ。セイバーとの共闘と言っておったが、バーサーカーをどう御する?」

「令呪を……二画使えば行ける。貯蔵した令呪は無くなるが。それでもまだ三画残っている」

「成程。じゃがアサシンはどうやっておびき寄せる。貴様を餌にするにしても、向こうは警戒して寄って来ぬだろう」

「そこは多少分の悪い賭けになるが。おそらく成功するはずだ」

 

その方法は――――

 

「俺が時臣に戦いを仕掛ける」

「……正気か? あ奴の才は凡庸なれど弛まぬ鍛錬によってその力は練り上げられている。貴様程度の俄か。どのような方策を巡らせたところで返り討ちが関の山だぞ」

「ああ。それも織り込み済みだ。むしろ俺を倒してくれなきゃ困る」

 

何? 訝しがる臟硯に雁夜は続きを話す。

 

「俺を倒す。そうすれば時臣は『アーチャーと相性の悪いバーサーカーが落ちた』と思う。だったら奴は次の標的を定めるだろう」

「妥当じゃな。で?」

「あのアーチャー。真名はまだ分からないが、あの宝具の量。おそらく底が無いんだろう。そんな物量、しかも一つ一つが膨大な神秘を秘めているとなれば、乱射しているだけで殆どのサーヴァントは脱落するだろう……だから狙うサーヴァントは誰でもいいんだ」

 

そうなってくると誰を狙うか分からなくなるが、ここで遠坂時臣と旧知であるということが功を奏した。

 

「アイツは必ず家風を第一に持ち出してくる。まず真正面から狙われるのはライダーかセイバーのどっちかだ」

「『常に余裕を持って優雅たれ』じゃったか……永人の奴も。まさか自分の家訓に足元を掬われる子孫がおるなどと思いもせんかっただろうな」

「当時に言ってやれよ。んなもん無駄だって」

「言って聞くと思うか? 魔術師が」

 

聞かないな。

 

話は終わりだ、と雁夜は部屋を出る。

 

一人残された臟硯は思案する。

 

……まあ、好きにやらせるか。成功すれば御の字。失敗しても奴の無様を眺めて無聊を慰めるとしよう。

 

意地の悪い笑みを浮かべる臟硯。

雁夜の示した可能性は決して低いものではないが、それでも人の性格によるところが大きい。

 

良くて五分五分といったところなのだろう。

 

「……さて。奴の運は何処まで続くものか……」

 

見ものじゃわい。

 

この後。雁夜の言ったとおりの展開になり、遠坂時臣のあまりの実直さと足元の見なさに嘆息し。かつての同胞に僅かばかりの同情をした臟硯がいた。

 

 

 

 

 

■■■■■□□□□□

 

「キャスターの拠点は突き止めたのか」

「はっ。新都より少し離れた場所の一軒家です」

 

ご苦労。言峰綺礼が言うと、アサシンは霊体化して消えた。

 

……これでライダーを除く全ての陣営の拠点は把握した。

 

とはいえ。綺礼は椅子に座る。

 

居場所が分かっても下手に攻め込むことはできない。

自分はあくまで裏方。隠密・諜報にのみ徹する。

 

その情報を基に、自身の師である遠坂時臣がアーチャーを用いて勝つ。

 

正直。長いこと戦いの場にいた綺礼からすれば、そんな悠長なことをしていていいのだろうかと思わざるを得ないが、勝ち方に拘るのも現代の貴族たる遠坂家当主の信念なのだろう。

 

短く息を吐く。

 

「何だ。退屈そうだな綺礼」

 

不意に、声が響いた。

 

見ると来客用のソファを丸々占領して寝転がっているアーチャー、ギルガメッシュがいた。

 

「……退屈などではない。思ったよりキャスター陣営に手古摺らされて参っただけのことだ」

「フンッ。たかが魔術師風情に何を手間取ることがある」

「どうやらキャスターのマスターは我が師よりも慎重に事を進める性格のようだ」

 

ほう、とギルガメッシュは視線で綺礼に先を促す。

 

「最初はただの偶然だった。アサシンの警戒網に引っ掛からない場所で召喚された……だがそのあとが問題だった」

「というと?」

「自宅に工房を敷設していない。最低限の守りはしているようだが、アサシンたちが尾行するまで気づかないほどに巧妙に隠されていた」

「ハッ。アサシンよりも忍んでいるではないか」

 

全くだ。

ため息をつく綺礼。その顔は普段と変わらないように見えるが、若干の疲れを感じさせる。

 

「しかしだ綺礼よ。魔術師というのは工房を建てるものではないのか? 時臣がそうであるように」

「どうやらキャスターのマスターは数合わせで選ばれたもののようだ。元々魔術師だったのが選ばれたのかとも思ったが、どうやら魔術の才があるものが聖杯戦争を切欠にして目覚めたようだ」

「ほう。ならば大した脅威にはならないのではないか?」

「我が師もそう思うだろうな」

 

そういって腰かけていた椅子に深く座り、天井を仰ぐ。

 

「どうした? 時臣に報告するのではないのか?」

「時間を考えろギルガメッシュ。いくら魔術師と言えど休息は必要だ」

「そうか? 前までは普通にこの時間でも報告を欠かしていなかったではないか」

「……たまには師にも休んでもらわねばならん」

 

ギルガメッシュは意地の悪い笑みを浮かべながら指摘するが、綺礼は適当に答える。

 

考えるのはキャスターのマスター。

 

間宮隆文。年齢は二十三。男。

冬木市に生まれた時から住んでおり、両親は仕事で海外を飛び回っている。

先祖が魔術師の家系だったが本人は少し前まで一般人として過ごしていた。

 

聖杯戦争が切欠で魔術師となった。否。ならざるを得なかった。

 

……聖杯戦争の知識はサーヴァントを召喚して得たのか。

 

綺礼は益体もないことを考えているが、すぐに思考を切り替える。

 

自分が気になっているのはそこではない、と。

 

聖杯戦争がどんなものか知っていると仮定して、ならばなぜ教会に来なかった?

 

ある程度の知識があれば教会に庇護を求めるのは至極真っ当。

つい最近まで一般人として過ごし、血生臭い戦いなどと無縁のはず。

 

……まあ。来たところで適当な暗示をかけて別の地域に向かってもらうことになるだろうが。

 

だというのに。彼は未だに聖杯戦争の只中にいる。

 

それどころか巧妙に自分たちの行動を隠蔽し、あまつさえアサシンの一人を仕留めるということをやってのけた。

 

アサシンの宝具『妄想幻像(ザバーニーヤ)

 

生前。現代言うところの多重人格障害に悩まされていたアサシンは、英霊となり。人格の数だけ分裂するという宝具を得た。

これにより。約八十人のアサシンを運用することができる。

但し。分裂すると一人当たりのステータスは格段に落ちる。

 

だが気配遮断のスキルは微塵も衰えがないので、諜報・索敵に於いてこれほど有用なサーヴァントもいなかった。

 

だが、ステータスが最低ランクに落ちようとサーヴァントはサーヴァント。

只人が勝てる道理の無い神秘の存在だ。

 

綺礼程の域にある使い手ならば、相手次第では勝てるかもしれない。

 

実際。気配遮断を使わない今のアサシンのステータスなら勝てるだろう。

 

だがそれを。魔術を習得してどんなに長くとも半年程度の人間がそれをやってのけた。

 

才能に驚いているのではない。

 

いくら自分の命が懸かっているとはいえ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

……間宮隆文。お前もまた、衛宮切嗣と同じなのか……?

 

自分の人生において唯一執着していると言っていい存在。それが衛宮切嗣だ。

 

その破滅的な行動はかつての自分に似ていた。

そして間宮隆文もまた、その行動は似るものがあった。

 

……己の命すら危うい状況に自ら身を置く。

 

何故だ、と綺礼は問うも当然答えなど帰ってくるはずもない。

 

ふと。喉を鳴らすような笑い声をギルガメッシュがしていることに気付いた。

 

「……なんだ。ギルガメッシュ」

「いやなに。思いの外お前の百面相が面白かったのでな。サーヴァントに似たのか。それともお前に似たサーヴァントが来たのか」

「百面相だと……?」

 

思わず顔に手をやる。

すると、今まで我慢していたのかいきなり大笑いし始めたギルガメッシュ。

 

「ハハハハハハハッ! 全く。堅物そうに見えてその実。己の欲望に忠実よな」

「欲望だと……?」

「ああ。まあ大方察しはつくが敢えて言うまい。他者から得た気づきも時には大事かもしれんが、()()()()()

「先ほどから何を妄言を吐いている」

「キャスターのマスターが気になったのだろう?」

 

図星を突かれて思わず黙る。

 

「そう気にすることもあるまい。ただの巻き込まれた哀れな雑種よ」

「かもしれんな。だが聖杯戦争にここまで深く関わった判断をしたのは向こうだ」

「だったらその時は俺が奴のサーヴァントを下し、その後教会が保護してやればいい。元々教会はそういう場所なのだろう?」

 

珍しく慈悲深いような発言をする。

 

この酷薄と気まぐれの権化のような男がそんなことをするのか? 思わず疑問になる。

 

「……向こうが敗れたのならそうするがな」

「ほう? なんだ綺礼。ソイツに勝ってほしいのか?」

「ありえんよ。お前がいる時点で他のサーヴァントに勝ちの目などあるはずもない」

「なら良いではないか。敬虔な信徒であるお前の出番というわけだ」

 

そういって、いつの間にか開けられていた自分のワインをグラスに注ぎながら話す。

 

……あれだけ隠蔽しておいて今更表に出てくる。

 

不自然だ。真っ先にそう思う。

 

キャスターのクラスは準備期間がいる。表に出てきたということはその準備が終わった。若しくはもう間もなく終わるということだろう。

何を目的としているかは不明だが、向こうはギルガメッシュのことを知らない。

 

例え神代の魔術師の建てた工房であろうと、目の前の黄金の王が持つ切り札を切られては一溜まりもないだろう。

 

……お前の、お前の願いはなんだ……

 

仮に願いを見つけてこの聖杯戦争に参加したというのなら、その願いはなんだ。

 

願いを持たず、ただ師に助力を乞われて参加しただけに過ぎない自分。

 

何もわからず、ただ流されるままに参加し、それでいて何かを見つけたのであろう一般人。

その途上で、己の破滅すら厭わない――――

 

「なあ綺礼よ」

 

唐突に、ギルガメッシュに名前を呼ばれ現実に立ち戻る。

 

「我は欲を持つなとは言わんよ。むしろ歓迎するところだ。お前が何に執着するのか。それをはっきりさせてもよいのではないか?」

「…………」

 

ああそうか。綺礼は認めた。

 

……お前は。衛宮切嗣に似ているのだ。

 

今の自分が追い求める男。

その男に似ている。

 

一瞬後には自分が死んでいる状況に進んで身を置く。

 

言峰綺礼の考えでは衛宮切嗣は答えを見つけた。

 

ならばおそらく。似た行動をとる間宮隆文もまた……

 

「ああそうだ。綺礼よ。我の娯楽を忘れるなよ?」

「……ああ。分かっている」

 

各マスターの聖杯を求める動機。

 

それが英雄王ギルガメッシュに言峰綺礼が課された課題であった。

 

「それと綺礼。これはちょっとした問いだ。そう深く悩まず答えてみろ」

「今日はやけに饒舌だな」

「まあな。さて綺礼よ――――――キャスターのマスターと相対した場合。奴が取る行動と、お前の取る行動を考えよ」

 

突飛な質問だったが、生来真面目な気質の綺礼はすぐに思考に移る。

 

もし自分が間宮隆文と一対一の状況になったらどうする?

 

まず。相手は逃げるだろう。

控えめに言っても自分が素人相手に負けることはない。向こうも実力を把握できないとも思えない。というよりだからこそ今の今まで隠れ潜んでいたのだから。

 

その時自分はどうする?

 

……自分のような願いすら分からない人間が、願い持った人間を……

 

「それだ」

 

またもやギルガメッシュの声が響く。

 

顔を上げると、今まで見たこともないような慈愛の表情をしていたギルガメッシュがいた。

 

「お前が今考えた答えこそが、お前の長年求め続けた人生の回答だ」

「……ッ、馬鹿な」

 

ありえん。そう一蹴する。

 

……こんな感情を認めたら……!

 

自分は壊れてしまう。そう考えるが、頭のどこかでそれも悪くないと考えている自分がいる。

 

「まあまだその程度よな。それでいい。すぐに受け入れてはつまらん」

「ギルガメッシュ……お前は……」

「精々その苦悩を大事にしろよ? 我を愉しませるためにな」

 

そういって、ギルガメッシュは霊体化して消えていった。

 

後に残ったのは、もどかしい静寂だった。




ランサーが死んだ!
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