聖杯戦争が始まってそろそろ十日が経とうとしていた。
あれから隆文は使い魔を飛ばし、町全体の様子と参加者の動向を探っていた。
それで分かったことだが、どうやらランサー陣営が敗退したらしい。
「らしい」というのは確証が持てていないからだが、経過した時間と魔力の残滓があった場所を考えてその可能性が高いと判断した。
……アサシンよりも先にランサーが落ちたか。
いよいよもって自分の中の知識が参考程度にしかならなくなった。
本来ならアサシンの後にランサーが落ちるはずだった。
とはいえ。別に取り乱すことはない。
龍之介の襲撃に会った時からそのこと自体は考慮していた。
自分の目指す終着点。それは聖杯の浄化と災害の無害化、犠牲の最小限化だ。
そのために今は――――――
「はい、甘いよ!」
ラーズグリーズの指摘と共に隆文は脇を蹴り飛ばされる。
苦悶の声が漏れながら、隆文は地面を転がる。
もう慣れたものなのか、すぐさま立ち上がり体勢を立て直す。
……やっぱ強い……!
サーヴァントと人間という差があるのを抜きにしても、やはり神代を生きた存在。
目の前に立つだけで見えない壁に押され続けているような感覚になる。
乱れた息を瞬時に整えると、全身に魔力を走らせる。
「――――
即座にラーズグリーズの懐に潜り込む。
……おお、速いなー。
だがそれでも自分にはまだ遅い。
繰り出される拳を軽くいなし、突撃を躱す――――
「ッシャア!!」
はずだった。
まさに
人間に起こせる動きではない。それこそ機械のような肉体でもない限りは不可能だ。
咄嗟にバックステップで避けようとしたが、僅かに拳が脇腹を掠めた。
互いに距離が取られ、一瞬静寂が支配する。
「……うん。昨日よりもよくなったね。カーラの情報にもあったけど成長速度凄いねマスター」
心からの称賛だ。
実際。今の時代にこれほど成長できる人材は稀だろう。
元々あった才が聖杯戦争で覚醒した、というのは彼にとっては皮肉だろうが。
ふと見ると。隆文は床に大の字になっていた。というより五体投地だった。
「……マスター?」
「う、動けねえ……」
急に肩の力が抜ける。
……もうちょっとしっかりしてくれたらなあ。
現状でも十分にしっかりしているのだが何分。神代を生きてきたからかこれくらいの光景はよく見るものになっていた。
それでも人が成長していく様はいつも心が沸き立つ。
そこまで考えて、それはいけないと頭を振る。
……もう
北欧神話最大の神々の戦争。ラグナロク。
自分たちワルキューレはその戦争でのこちらの味方を増やすために生まれた。
優秀な強者の魂をヴァルハラへと連れていき、エインヘリヤルとして戦わせるために。
だが今は違う。
黄昏は終わり、人の時代が始まっている。
神代は凪ぎ、人が今の世界を作っている。
ならば自分の役目は今は、未熟ながらも今を生き明日を掴もうとするマスターの手助けをすることだろう。
……そういえば最近。マスターちゃんとした食事取ってないな。
ライダーとの会合以来。隆文とラーズグリーズは実家の拠点を離れ、この聖域の術式が刻み込まれた場所を中心として動いていた。
だから以前までしていた料理をせずに、出来合いのものや栄養ゼリーなどで済ましていた。
それでも生きられるだけの栄養素が取れるのは取れるが、最近の隆文を見ているとラーズグリーズは体の方が心配になってきた。
「ねえマスター。一度家に帰らない?」
「はっ? なんで?」
「いやー。マスターここ最近コンビニのお弁当とかゼリー飲料とかしか摂ってないでしょ。あんま良くないよ? これからのことも考えると」
「あー。そりゃあそうだろうけど……」
今更戻るのはリスクだろ、そういってゆっくりと起き上がる隆文。
「別に栄養が不足しているわけじゃあないし。どうせ短期決戦だ。体にガタが来る前に全て終わる」
「そーだけど、そうじゃなくてさー……」
ラーズグリーズは頬を膨らませながら隆文を睨みつける。
対して隆文は何が不満なのかイマイチ分かっていないため、疑問顔のままあたふたしている。
「もう! それなら材料買ってきて私がここで調理するよ!」
「いやお前料理出来るのかよ。カーラはしたことなかったらしいけど」
「カーラは最初はしなかったんだよね。ローテーションでやることになってから最終的には出来るようになったけど何故だかゲテモノの仕上がりになるんだよね――――一人でやらせると」
あっぶねえ一緒に料理しておいてよかった。
おそらく紙一重だったであろう危機的イベントを回避して安堵する。
「ラーズグリーズは料理出来んの?」
「こう見えても厨房担当が主だったからね! あと夜も!」
「急に生々しい話ぶっこんでくるな!!」
悲しいかな。隆文は今まで一切の浮ついた話がない。
未だに童の貞を貫いている。
こういった話にはあまり耐性がない。
加えてその話をしているのは誰がどう見ても絶世の美少女であるラーズグリーズ。
意識するなという方が無理な話である。
おまけに無意識かどうかは分からないが、ラーズグリーズは大分人との距離感が近い。
意識するなという方が無理がある。
慌てて距離を取る隆文だが、その意図が分からないほどラーズグリーズは初心ではない。
ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、取られた距離をすぐさま詰める。
「ねーねー。なんでそんな離れようとするのー」
「お前絶対分かっててやってるだろ!?」
距離を取っては詰められ。また取っては詰められ、というのを繰り返している。
何も事情を知らぬ者が見れば追いかけっこをして遊んでいるだけに見えているが、本人たちは至って真面目である。
「あーもう分かった分かった! 一度帰るって! これでいいんだろ!?」
「うんうん。素直なマスターは、好きだよ」
悪戯が成功した子供のような表情を浮かべながらラーズグリーズは荷物を纏め始める。
対して修行と今のやり取りで一気に疲れが表に出てきた隆文。
少し休むか、と床に大の字で寝る。
……多分。聖杯問答はあるだろうから、アサシンはそこで退場するはず。
そうじゃないとアサシンはいつ消えるんだということになる。
仮に遠坂時臣がアサシンの有用性を見出して終盤まで取っておくとなると、かなりの脅威になる。
気配遮断でサーヴァントですら気配を察知できない上に、そんなのが80体以上いるとなるとゾッとする。
……多分。こっちは結界内に連れてきてしまえば気配遮断はどうにかできそうだが。
いくら一体一体のスペックが低下していると言っても、相手はやはりサーヴァント。
あの時は火事場の馬鹿力による瞬発力と相手の油断があったから一体葬れたようなもの。
もう一度やれと言われてやれるかどうか――――
……いや。やる。
寝転がった状態で体の発条を利用して立ち上がる。
以前なら出来なかった肉体の変化に驚きを隠せず、だがすぐに気を引き締める。
そこには以前のような余裕の無さは無くなって、代わりに決意に溢れた顔つきになっていた。
その様子を見たラーズグリーズは少し誇らしげな笑顔になっていた。
……神代だったら、貴方をヴァルハラへ連れていきたいな。
「さっ。帰ろうマスター。帰る家があるっていうのは、結構いいものだよ」
「……ああ。そうだな」
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一週間と空けていない家に帰ってきた。
普通なら何の感慨も湧かないものだが、状況が状況だからか強烈な安心感に見舞われる。
家に上がるなりラーズグリーズはキッチンへ向かう。
「あ、そこで待っててよ。すぐに作るからさー」
そういって冷蔵庫を開ける。
中身は大したものは入ってなかったはずだが、ラーズグリーズはお構いなしとばかりにひょいひょいと材料を選んで調理を始めた。
手伝おうかと名乗り出るも、いいから座って休んでてと言われる始末。
仕方ないのでリビングでテレビを見る。
ニュースは聖杯戦争の余波が原作より小さいからか、特に目新しいものはなかった。
ぼーっと天井を見つめる隆文。
一瞬、ダメ人間という言葉が頭を過るがそのまま加速をつけさせて地球外へと放り出した。
しばらく鍛錬で疲弊した体を休めていると、電話の音が鳴り響いた。
普段なら親か友人かと思うが、こんな夜にかけてくる者などいない。
キッチンに立っているラーズグリーズを見る。
電話の音は聞こえているはずだが、何も気にしていないところ見るとおそらく何かが起きても大丈夫と思っているのだろう。
あるいは起きる前に既に手は打ってあるか。
なんにしても電話には出よう。隆文はそう思い、受話器を取る。
「……もしもし?」
『やっと出たか』
英語だった。
この状況下で英語で自分に話しかけてくる人間は一人しか心当たりがない。
「なんだウェイバーか。一体誰かと思ったよ」
『あー。まあ、時間は悪かったよ……一応、同盟は結んでるし話しておこうと思ってな』
そういうとウェイバーは前回の会合から今まで何があったかを話す。
『まずランサーなんだが……やっぱりもう脱落しているみたいだ』
「……そうか」
『あの後ライダーと一緒にあちこち探ったんだけど、その中でケイネス……ランサーのマスターの魔力残滓を見つけて、それで……』
「まあ、このタイミングになるまで白兵戦の得意なランサーが全く仕掛けてこない時点で凡そこっちも察していたけどな」
推測してはいたがウェイバーからの確定情報を聞き、隆文は考える。
……これでセイバーの左手は戻った……んだけど。
多分使いどころないな。そう隆文は結論づける。
セイバーの宝具『
軍隊どころか、街一つ壊滅させることすら可能な火力を持つその力は、街中で振るうわけにはいかず。かといって人気のないところで振るったところで大きく地形を変える一撃。
元の歴史では大型のクルーザーを緩衝材として被害を最小限に留めたが、もしあれをこの街のどこかで使おうものなら神秘の秘匿を第一に考える魔術協会が黙っていないし、他の陣営から袋叩きに遭うだろう。
何より衛宮切嗣は、犠牲を良しとするもその数を最小限に留めたいと考えている。
この聖杯戦争で彼女の宝具が使われることは無いだろう。
よしんば使われたとしても、かなり状況が限定される。
『それでその……ライダーが、まあ……アーチャーとセイバーを集めて酒盛り始めて……』
「おぉ……」
一気に状況進みすぎじゃないかと思ったが、本来のキャスター戦がないのならそんなものかと納得する。
『そこでアサシンたちが現れて、ライダーが全員倒した。多分、今度こそアサシンは脱落したと思う』
「そうか。まあとりあえずは安心かな」
ああ、とウェイバーも賛同する。
『これで残りは五騎……僕とお前とで組んでるから、実質三騎か』
「あのアーチャーに関してはキャスターとライダーで組んで挑んだ方が良さそうだな」
『だよな……あのアーチャー。多分、こっちの弱点全て突いてくるぞ』
「出来ればもう一騎程協力してほしいところだが……」
無理だよなあ、とお互いに天を仰ぐ。
残っているのは自分たちを除けば始まりの御三家……間桐とアインツベルンだ。
下手したら自分たちを潰すために逆に向こうが協力関係を築くかもしれない。
「……ちなみにライダーは何してる?」
『テレビ見ながらおじい……居候先の主人と酒盛りしてる』
「酒しか飲んでなくないか?」
言うな。
ウェイバーの性格とライダーの性格を考えると、相性の良い凸凹コンビなのだろう。
当然。ライダーの手綱を握れているとは思っていない。
苦笑しながら大変だなと労う。
『とりあえず。情報は伝えたからな――おぅい坊主! さっさとこっちに混ざらんか!――……ごめん呼ばれた』
「ああ。行ってこい。態々ありがとう…………ウェイバー」
『……?』
「気をつけろよ。まだ聖杯戦争は中盤程度なんだ」
『わ、分かってる……!』
そういうとやや荒気味に電話は切れた。
隆文も受話器を置くと、頭の中で状況を整理する。
……ランサーとアサシンが脱落。本来ならキャスターも脱落してるはずだが……
俺がマスターになってるからな。
ここで本来なら聖杯の器であるアイリスフィールはほぼほぼ動けなくなっている。
だがまだ二騎分なら歩いたりは出来るはず。
さらに言うなら、時臣と雁夜の対決も起こっていない。
「さて。どうしたもんかな……」
「マースター。ご飯できたよー」
ラーズグリーズの呼ぶ声で隆文は思考を切り上げる。
隆文は知らない。
だが知らなくても彼は問題視しないだろう。
既に彼は、己の足で立っているのだから。
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言峰綺礼はようやく、休むことができると若干の安堵をしていた。
否、それは正しくない。確かに休息は彼にも必要だろう。
だが今。彼の感じているものの正体は別なものだ。
扉を開け自室に入る。
するとそこには先客が来ていた。
自身の魔術の師である遠坂時臣のサーヴァント。アーチャー・ギルガメッシュ。
彼は聖杯戦争が始まってからこっち。偶に来ては自分の所蔵していたワインを勝手に開け飲んでいる。
傍から見たらただの飲んだくれなのだが、彼自身の圧と容貌がなんとも様になっている。
ソファに寝転んでいるギルガメッシュは綺礼を一瞥すると、薄らと笑う。
「なんだ。随分と上機嫌じゃないか綺礼。何かいいことでもあったか?」
「……ただの安堵だ。アサシンは今度こそ脱落し、私もその役目を終えた。それに対するものだよ」
ほう、ギルガメッシュが体を起こす。
「で、あればだ綺礼。俺の娯楽の件はどうなった?」
「各マスターの聖杯を望む理由のことか。大方は調べ終えている……キャスター以外はな」
椅子に腰かけながら結果を話す。
「キャスターか……結局時臣の勘は外れたということだな」
「時臣師とて万能ではない。時にはそういうこともあるだろう……キャスターはとにかくこの段階まで隠れ潜んでいた。故に調査の時間が足らなかった。奴らの根城を突き止めたところで、ギルガメッシュ。お前たち王の酒盛りが始まったということだ」
「あんな詰まらん茶番で王の言葉を遮るなどあってはならぬ。結果的に奴らは王の処断を受けた」
当然だ、そういってグラスの中のワインを飲み干す。
その様子を見て、若干呆れが混じった息を吐く。
「まあいい。では聞かせろ綺礼。己が命を擲ってでも得たい聖杯へかける願いを」
「……いいだろう」
それから綺礼はギルガメッシュに話す。
各マスターの聖杯へかける願い、あるいは聖杯を求める動機。
最初は淡々とアサシンが調べてきたことを読み上げるような口調だったが、バーサーカーのマスター。間桐雁夜を話すときには饒舌になりそこをギルガメッシュに指摘される。
初めは戸惑いつつも冷静に受け答えしていたが、ギルガメッシュは一つ一つ丁寧に綺礼の答えを潰していく。
ギルガメッシュが指示した以上のことをアサシンに調べさせた。
苦にならぬ徒労。無意味さの忘却。即ち遊興。
「喜べよ綺礼。お前は見事。愉悦の何たるかを知ったのだからな」
愉快そうにギルガメッシュは笑う。
だが綺礼はそう簡単に受け入れなかった。
他者の苦しむ様にしか悦びを見出せない。
そう言われて簡単に納得できるわけがなかった。
それは今までの綺礼の人生とは真逆の価値観だったからだ。
……こんな、こんなものを認めてしまったら自分は……!
壊れてしまう。そう確信した。
懊悩する綺礼を見て口角を上げるギルガメッシュだが、酒を飲みながらふと訊ねる。
「そういえば綺礼よ。キャスターのマスターの調べはつかなかったと言っていたが、奴がどういう行動をしていたかくらいは分かるのではないか?」
「何……いや。それは確かにそうだが……」
「ついでだ。聞かせろ。そこから奴の奥底が分かるやもしれん」
傲岸不遜で唯我独尊。それはこの短い付き合いながら嫌というほど分かっていたことだが、改めてこうも目の当たりにすると苛立ちどころかある種の感動すら覚えてしまう。
「……行動自体はよく分からん。最初に見つけたのは冬木ハイアットホテル……ランサーの陣営が最初に工房を敷いていたところの付近だ」
「そこまでは我も聞いている。その後は?」
「野良の魔術師と戦闘を行い、勝利したようだ……尤も。相手が勝手に去っただけ、ともいうが」
ほう、ギルガメッシュはグラスに酒を注ぎながら綺礼の次の言葉を待つ。
……その赤い眼は、既に何かを見たという風に細められていたが。
「どうやら相手の魔術師は世間を騒がせていた連続殺人鬼のようだった。翌日には河川の近くで死んでいるのを発見された」
「結構なことではないか。危険因子の排除を率先してくれるとは」
「……あくまで結果論だ。隠蔽は楽だったがな。一般人上がりの感性と、おそらくキャスターに師事したのだろう魔術の腕も私より上だろうよ。これ以上は知らん。知りたいならば自分で動くことだな」
幾らか落ち着いたのか、壁に寄り掛かりながら努めて平静に話す。
それを聞いてギルガメッシュは薄く微笑む。
「それで? ソイツは時臣には勝てそうか?」
「有り得んよ。確かに駆け出しの新米にしては上出来かもしれんが、積み上げてきた研鑽が違う。彼が時臣師に勝つことなど万に一つもない」
「フッ、そうか。では今から出す俺の問いに答えてみよ。何、ほんの戯れだ」
胡散臭げにギルガメッシュを見るが、正直目の前の金色の王は何を考えているか分からない。
というより、自分らとは元々の視座が違う。この王が何を考えているか、考えるだけ無意味だろう。
「お前から見て。キャスターのマスターはどういう奴に見えた?」
「……ありきたりな、一般的な善性を持った人間だ。それがどうした?」
「ではその善性を持つ人間が、何かの拍子に聖杯戦争の実態を知った。だとしたら、次の行動はなんだ?」
「それは…………聖杯戦争の破壊、ないしは止めに入るだろう。現に彼はそのような行動を取っているように見える」
成程、とギルガメッシュは笑みを崩さず続ける。
「ではもし奴が聖杯戦争を勝ち残ったら、その時貴様は何を思う?」
「何、とは……」
いいから考えろ、そういって笑みを絶やさず綺礼を見る。
……別段、思うところはない。
自身の師である時臣が勝てなかったのが残念だと思うだろうが、それだけだ。
おそらく父である璃正にしても、無害な者が聖杯を手に入れるならと諦めもつくかもしれない。
だが――――――
……なんだ。この妙な胸の
胸がざわつく。
綺礼は、自分が出した答えに満足していない。
否。それどころか苛立ちさえ覚えている。
……しかし。これを認めることなど。
それを見抜いているのか、ギルガメッシュはくっくっと笑う。
「いい加減認めたらどうだ?」
「認める、だと……?」
「それこそがお前の本性、ということだ」
「馬鹿なッ……!」
綺礼からすればあまりにあんまりな真実に激昂しかける。だがそれをギルガメッシュが制する。
「綺礼よ。お前は少し視野狭窄が過ぎるな。愉悦の形に定形などない。良いではないか。人の苦痛を愉悦とするのであっても。我は歓迎するぞ。そちらの方に理解がないわけではないからな」
「お前ならばそうだろう。お前ほどの人を超越した者ならば……! だが、私は……ッ」
反論しようとすると、今度は手の甲が激しく痛み出した。
その痛みを綺礼は知っている。
覚えのある痛みに右手を見ると、そこにはアサシンを失って消えたはずの令呪が再び姿を現していた。
「ほう。存外早かったな」
「何故……私に今再び令呪が……」
「簡単なことではないか――――聖杯が、お前に期待を抱いているということだ」
グラスのワインを飲み干す。
綺礼は信じられないという顔でギルガメッシュを見る。
「だが、私には聖杯に託す望みなど……」
「以前にも言っただろう。愉悦を望めばいいと。それも嫌ならばそうだな……己の心の内を暴いてもらう、というのはどうだ? 万能の願望器ならば、人の心の内を明かすことなど造作も無いことだろうよ」
尤もその必要はなさそうだがな、というとギルガメッシュは立ち上り綺礼に向かい見下ろす。
まるで懺悔をする者に救いを与えんとする聖職者のように。
「道は既に示されたぞ綺礼。もはや進む他ないほどに」
「私は……」
未だに呆然としている綺礼を見ながらギルガメッシュは少し考える。
……こやつの執着の対象はセイバーのマスター。聞いたところによればキャスターのマスターとも似通った部分を感じるが……
ふむ、としばらくして霊体化してギルガメッシュは消えた。
「……まあ、愉しみが増えるのは好都合か」
そう言い残して。
ガンブレはいいぞぉ(なのは布教