本作品はSSF08にて頒布された虚月さん(@LLTW_charge)主催の杜野凛世Pドル「光」に寄稿した作品です。
………なんでPドル合同で失恋描写をぶち込んだ?

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Glost Firing

 夜に寮の自分の部屋に戻った瞬間、杜野凛世は崩れ落ちた。

 思考が空転する。

まるでテストの難問を見込みもないのに解こうとして無意味にエネルギーを浪費するときのような。提示された課題に対して自分の能力が全く見合っておらず、それでも何もしなのだけは許さないような。カラカラと無意味な思考が巡り、嗤うしかないような。

 カラカラ、カラカラと。無意味に無秩序に無感動に脳が感情を置き去りにして動作して、結果体はライブ後以上の疲労を示している。おかしい、今日は大して体を動かしていないのに。

 はしたない、と思いつつも畳の上に寝転がる。実家から取り寄せた着物は脱がなければならないなと思い、寝たまま腕を動かし帯を外しにかかる。

 十数分かけて転がりながら下着姿――襦袢ではなく、一般的なもの――になった凛世は横目でぐちゃぐちゃになりさらには畳のささくれが付着した着物を見て手入れをしなければならないと思ったが、体が動かない。

 目をつむる。今は布団を敷くのも面倒だ。

 

*

 

 夕方の自分は果たして成功すると考えていたのだろうか。

 大学生になった自分のためにプロデューサーは一緒に食事に行くことを提案した。彼にとってはいつもの「プロデューサー」として提案だったのだろう。

 それでも凛世は期待してしまった。そして現在の平行状態を維持するのはもう無理だということはよくわかっていた。

 だから精一杯、自分を着飾った。たとえ彼は服など気にしていないとしても、それで失敗することは嫌だったから。呉服屋の娘として生まれたのが功を奏した。夜桜観覧のための着物のレパートリーはいくつもあった。

 着物、かんざし、帯、羽織、口紅――すべて今日という日のためにそろえた。出発前に寮にいた人間に装いを確かめてもらった。

 そして夜桜の舞う公園の一角で凛世は告白した。

 そして振られた。彼にとって凛世はあくまで仕事上のパートナーであり恋愛対象として見られることはなかったようだ。

……それはなんとなしに感じてはいたが、実際に振られてしまうと感情が揺さぶられてしまった。もしかしたら、成功すると思っていたのだろうか? 少しだけ、僅かながらも希望を抱いていたのかもしれない。

 初めての失恋は、彼と一緒に食べた寿司の酢飯の酸っぱい後味だった。

 

*

 

 目が覚めた。少しの間眠っていたらしい。

 壁に吊られたアナログな時計が示した時刻は夜の十時。まだ風呂も入っていない。凛世は何も考えずに替えの下着とタオルと寝間着を抱えると部屋から出た。

 

「お、りん――え、な……!?」

 

 廊下に出て呆然と浴場へ向かう凛世を見かけた樹里が彼女の姿を見るなり血相を変えて彼女の肩をつかんだ。そして周囲を見渡し赤面しながら声を低めて言った。

 

「――なんで、下着姿でほっつき回ってるんだよ」

「………?」

 

 ここでようやく凛世は自分が半裸であることを思い出した。そういえば、着物を脱ぎちらかしてそのままだった。

 

「あー……」

 

 しかし脳が回転していない凛世は適当に手元にあった衣類とタオルで形だけ自分の体を隠した。

 

*

 

 浴場で樹里とともに凛世は浴槽に入る。大浴場、というほど大きくないが一般家庭のそれよりかは大きい。浴槽は一度に三人程度なら入れる大きさである。

 

「つまり、振られたのか」

 

 凛世の髪と体を洗う時間で行われた説明を樹里は四文字でまとめた。明朗かつ無遠慮な樹里の言葉に凛世はうなずく。

……どうやら相当まいっているみたいだと判断した樹里はしばらく言葉を考え込み、何も思いつかなかったからとりあえずハグでもしようかと思ったが女性同士であってもお互いが裸の状態では倫理的にまずいと思われるだろう。しばらく右手で水面を波打たせながら樹里は思案する。

 

「……凛世は、女として欠陥なのでしょうか」

 

 思案していると彼女がそんな弱気なことを言った。

 

「それは………どういう意味だ?」

「凛世の体は……魅力がないので」

 

 相当弱気になっているようだ、と判断し樹里は言った。

 

「あのプロデューサーが? 千雪さんや恋鐘になびかないあいつが? 少し前に同性愛者なのかという疑惑の判明のために奔走したことがあったじゃないか」

 

 あれはたしか半年前だったか。酒に酔ったアイドルたちがいわゆる「据え膳」を用意しても一切手を出されなかったことから始まったこの疑惑は、プロデューサーの尊厳をある程度犠牲にして解消された。異性愛者であることは判明したが、今度はロリコンとか逆に熟女好きではないかとアイドルたちは好き勝手に新しい疑惑を作り出している。

 すくなくともグラマラス程度であの男が堕ちるのならば、千雪たちはあそこまで苦労しない。

 

「それで――」

 

 どうする、と樹里は言いかけたがここで今後の身の振り方を尋ねるのは酷だろう。そのため話題を強引に転換させた。

 

「――今日はどうするんだ?」

「もう、寝ます。……今日は何も……考えられませんから……」

 

 凛世は湯船の湯をすくい顔に流す。彼女の表情を伺うことはできない。

 

「――あの、迷惑でなければ……なんですが」

 

 ややあって凛世は掌を顔から話して樹里に問うた。

 

「なんだ?」

「今日は……一緒に寝てもよろしいですか? ――もちろん、言葉通りの意味ですが……」

「………」

 

 言葉以上の意味とは何なのか問いただしてみたかったが、面倒ごとが起きるのも嫌だと思ったのでやめた。でも一応智代子に釘を刺すぐらいはしたほうが良いのかもしれない。

 

「あぁ、構わねぇぜ。今夜はいくらでも付き合ってやるよ!」

「あとそれと……」

 

 言い淀んだ後に凛世は樹里に礼を言った。

 

「……ありがとうございます。――これで、二度目の入浴……でしたよね……?」

「余計なことは言う必要ねぇよ……!」

 

[newpage]

 

 一週間、凛世とプロデューサーは会わなかった。

 公私混同をしたわけはなく、単にスケジュールが合わなかっただけである。凛世がスカウトされた二年以上の前よりも283プロの経営状況は改善されている。マネージャーが新たに雇われたためプロデューサーがわざわざ現場に出張る必要がなくなったから、ビジネス目的でやり取りをしなくてもよかっただけだ。

 でもこれからも絶対に会わないことはできない。

 

「それで、あー………」

 

 放クラのミーティングでプロデューサーは針の筵を感じていた。

 無論、凛世と同室するのが気まずいという理由ではない。気まずさ自体は感じてはいるがその内容は視線を微妙に外した凛世が二割、残りは他メンバーからの脅迫ともいえる圧だ。

 

「それで……その…………説明、しにくいんだけど………」

 

 軽く注意すると樹里と智代子は苦笑しながら視線を手元の資料に戻したが、夏葉と果穂は資料に目を向けつつも意識をこちらに向けている。集中してほしかったが、原因の八割は自分にあるようなものなので中々注意できない。

 

「――それでなんだけど、何か言うことがある人はいるか?」

「はいはい!」

 

 一通り連絡を終えると智代子が手を挙げた。その表情はどちらかというと仕事モードの時ではない。

 

「………なんだ、智代子?」

「プロデューサーさんが283のアイドルを女としてみていないって本当ですか!?」

 

 嫌々ながらも尋ねたら、内容は予想通りだった。思わず彼はプロデューサーの体面を外し大きくため息をつく。

 

「チョコ、お前……」

「だってこのままだと事務所の内部政治――というか牽制というか……が終わらないよ?」

 

 呆れながらも非難する樹里に智代子はそんなことを言った。その内容に少し引っかかる。

 

「内部政治?」

「はい! プロデューサーさんのこと大好きっていう人たちが今『どうやったらプロデューサーさんを堕とせるか』で議論と………その、自慢をしてまして」

 

 それは聞き捨てならない話だ。

 

「――それはどこで、誰がやってる?」

「ちぇ、チェインです……。参加者は……凛世ちゃんとか、あとは夏葉ちゃんも――」

「智代子」

「ひぇ⁉ 夏葉ちゃん、ごめんね……!」

 

 ドスの効いたプロデューサーの質問に思わず答えてしまった智代子がさらに夏葉の声に委縮する。その様子にプロデューサーは額を爪を立てた左手で何度か叩きながらゆっくり息を吐く。中途半端に口を開いたためか歯と舌の間から鋭い音が出た。

 

「それは俺が――いや、事務方で処理するべき問題か?」

 

 感情を抑えた結果、自分でも恐ろしいほどに事務的な声が出た。しばらくメンバーの中で視線の交差が行われ、樹里が答える。

 

「あー……アタシたちでどうにかするよ。本当にままならなくなったらはづきさんあたりに相談する」

「……頼んだ。このことは俺が介入していいことだとは思えない」

 

 ふぅ、と息を吐くとプロデューサーは強引に話を戻した。

 

「それで……なんだったか――まぁ、端的に智代子の質問に答えるならば『その通り』だよ。…………君たちが何を思っているのかはあえて言及しないが『あくまでプロデューサーとアイドル』だからね」

「じゃあ、プロデューサーに女として見られるように誘惑すればいいんですか!?」

「………………」

 

 その言葉にプロデューサーは大きなため息をついた。

 

「……いや、別に俺に恋をするなとは言わないけど……加えて言うならウチは恋愛禁止ってわけでもないけどさ」

 

*

 

「作戦会議です!」

 

 ミーティング終了後に智代子は強引にメンバーを物置に集めていた。

 その様子に白けたように絶賛反抗期中の小宮果穂が話を聞き流しながらスマホを見る。

 

「果穂! 自分は関係ないみたいな顔して」

「……智代子先輩だって関係ないじゃないですか」

 

 もう大学生なのにはしゃいでて恥ずかしい、と素っ気ない言葉に智代子が憤慨する。

 

「果穂……これは放クラにとって重要事項だよ。ほら」

 

 示した先にあったのはホワイトボードに記された大量の金釘文字だった。

 

「まずは王道で胸を当てて……」

「露出の高い服に………いや、凛世には……」

 

 ぶつぶつと夏葉と凛世が色々書いている。その内容を見て果穂は大きく馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

 

「夏葉さんも凛世さんも、なんでそんな……少年漫画のような雑な誘惑をしようとしているんですか?」

「「「「えっ」」」」

 

 その言葉に反応したのはホワイトボードに陣取る二人だけでない。智代子も樹里も驚愕の表情を見せていた。

 

「果穂………これ以上に何か、あるの? 有効な手段が」

 

 わなわなと呟く智代子だったが、それが明らかに演技調であることに果穂は気づかない。

 

「まず……いわゆる男の本能に訴えかけるものはやめましょう。その程度でプロデューサーが墜ちるのであればとっくに千雪さんに食われてますよ」

「………はい」

 

 悲しそうにボードの前の二人が四割の文字を消した。

 

「あとご飯ものもやめましょう。恋鐘さんだったりで学習済みでしょ」

 

 結果ホワイトボードには一割の文字しか残されていない。

 

「それでは……果穂さんなら……どうなさいますか……」

「えっ」

 

 おずおずと質問した凛世に果穂がびくりと反応する。どうやら考えていなかったらしい。

 

「えっと……そりゃあ、あれですよ。その――」

「はい」

「こう……両手を包むようにぎゅっとしたり」

「ふむふむ」

 

 文字が増える。

 

「あとは………プロデューサーさんの趣味の話を聞いたり――でも、あの人は仕事が趣味って言いそうだから……一緒に趣味を探すとか言って外に連れ出したり」

「……ほかには」

「他!? 他、ほか……えっと……事務所のテレビ――いや、事務所じゃなくってもいいですけど――肩を寄せ合って映画を見たり……その時にふと手をつないでみたり……とか」

「なるほど……それが果穂さんの誘惑のしかた……ですか」

「…………~~~~~っ!」

 

 ここでようやく果穂は口車に乗せられて恥ずかしいことを滔々と話していたことに気づく。バカ真面目に話を聞いている凛世・夏葉と、ニヤニヤと顔を緩ませる樹里・智代子が好対照だった。

 

「いや~最近は反抗期だから少し気をもんではいたけど……やっぱりあんまりグレてはないみたいだね~。わたしゃあ安心したよ~」

「良かった……『一夜限りの関係からズルズルと……』とか言い出さなくって」

「樹里ちゃん、けっこうとんでもないこと考えていたんだ……」

 

 若干引いたような智代子の言葉だったが、樹里の発想と比べたら自分の提案がいかに幼稚なことか。

 変に大人ぶってしまったくせに自分も五十歩百歩だと感じた果穂は羞恥のあまり立ち上がる。

 

「か――かえる!」

「うんうん、お疲れ~」

 

 智代子の子ども扱いな言葉がさらに果穂の羞恥心をえぐる。

 バタン、と大きな音を立てて閉じたドアを眺めながら「いや~青春だね」と智代子はつぶやいた。

 

「おまえ、なんだかおばあちゃん――いや、しわしわの魔女みたいなこと言ってるぞ。あんまり反抗期の果穂で遊ぶな」

「え、樹里ちゃんひどーい」

 

 樹里の非難を適当にあしらう。

 その様子に一切のかかわりを持たずに凛世は先ほどの果穂の提案を反芻していた。

 

「――凛世」

 

 夏葉がこちらに語り掛ける。

 

「勝負よ」

「――はい。夏葉さんであっても……容赦はいたしません……」

 

*

 

 あんな風に突き放したが、プロデューサーの心は確実に蝕んでいた。

 アイドル達は奥手で臆病だ。かつての甘奈は突出していたが、基本的にユニット同士の不和を避けるために積極的な行動をとろうとしない。

 だからあの日の凛世の告白は強い衝撃を受けた。

 ……だからって絆されるわけにはいかないし、他のアイドルと同じく冷たく接さなければならない。

 それでも、頬も耳も紅潮させながらそれでも自分の手を包み込むように握る彼女の様子にはかなり理性が揺らいだ。

 

「――凛世、離してくれ」

「嫌……です」

 

 体温の差からか、少し冷たく感じる彼女の手。その感触に少し戸惑ってしまう。他のアイドルに手を繋がれたことなどいくらでもあるのに。

 しかし……

 

「――それで、凛世は俺と一緒に何がしたい?」

「えっ……。その――凛世はプロデューサー様と共にいれば……それで……」

 

 ……やはり彼女はこれ以降のプランは考えていないらしい。

 

「……離さないのか」

「――」

 

 こくん、と頷いた凛世を見てプロデューサーは困り果てる。

 

「じゃあ……一緒に何か飲むか。凛世は何飲みたい?」

「あ、いや……ダメです……手を離したら……」

 

 ぎゅっとさらに力が込められる。

 

「……じゃあせめて左手を握ってくれないか。何もできない」

「……はい」

 

 凛世は両の手でプロデューサーの左手をしっかり握る。どうしても離れたくないらしい。

 仕方がないため左手で彼女を引っ張りながらキッチンに向かう。

 

「それでさっきの質問だけど――」

 

 戸棚に目をやると多種多様なインスタント飲料のパッケージが並んでいた。

 

「それでは……ローズティーで……」

「わかった」

 

 といっても上等なものではなく、ドリンクバーにあるような安い個別包装のティーバッグである。風味などない、着色と味付けされた湯だ。

 それぞれのコップにポットで熱湯を入れる。左手は凛世が強く握っているが、ティーバッグ程度なら片手で大丈夫だ。

 

「ありがとう、ござい――」

 

 彼女は自身のコップを取ろうとしたがそうなると手を離さなければならない。十秒ほど視線を漂わせながら逡巡、そして意を決したように左手を離してコップをつかんだ。

 キッチンの作業台に二人はもたれかけ紅茶を飲む。若干すっぱいだけのウーロン茶、としか言いようがない。

 凛世はプロデューサーの人差し指の指紋を感じ取るように繋いだ手の親指の腹で優しく――しかしねっとりと撫でる。

 

「………」

 

 色気づいた、もしくは色を知ったと言うべき凛世の行動にどう指摘していいか分からない。

 ………いや、それ以前にプロデューサーは凛世を振ったのだ。なぜ未だにアプローチをかけ続ける?

 

「――凛世、どうしてまだ俺を好きでいられる?」

 

 恥ずかしそうにしながらも彼の手のしわを感じ取ろうと指を這わせる凛世にそんなことを訊いてしまった。彼女は愛おしそうに撫でていた彼の掌を離さずに、こちらに視線を恥ずかしそうに向けながらも答えた。

 

「それは……諦めきれなくて……なので、プロデューサーさまに……『女』として見てもらおうと……それでアドバイスを受けて……」

「誰からのアドバイスだ?」

「それは……果穂さんです……」

「果穂が? 智代子ではなく?」

「……智代子さんをなんだとお思いで?」

 

 非難をしながらも凛世はプロデューサーの指に自身の指を這わせる。……このままだとずっと凛世の事を意識しそうになりそうだと思ってやや強引に彼女の手から抜け出す。

 

「あっ……」

「……やりすぎだ」

 

 名残惜しそうに声を漏らす凛世を窘めた。理性をフル動員させて。

 

*

 

 それ以降も凛世の猛攻は止まらない。ほかのアイドルもアプローチをしていたが、すでに振られてなお挫けずに接近する彼女から目を離せなくなっていた。

 

「――どうしてそんなに俺に固執するんだ」

 

 大学も忙しいだろうに毎日事務所に来てはプロデューサーに寄り添う。ある昼は共にカフェに行ったし、ある夜は事務所の小さなモニターで肩を並べて映画を見た。ここまで来ると凛世は大学に馴染めていないのではないだろうかと邪推したが、同じ大学に通う樹里が否定している。

 自分の時間、青春、人生を投げうってまでどうしてプロデューサーを愛し続けられる?

 

「一目惚れ……ですから」

 

 出てきた答えは単純明快。あの日の夜桜見物の時にも聞いた言葉だ。

 

「あなたが好きで……東京に参りました……。アイドルになることで……あなたさまに」

「それは――」

 

 困るよ、と言いかけてやめた。

 自分がスカウトしたのだ。凛世の青春をアイドルで壊してしまう覚悟ぐらいはあったはずだ。

 すべては自分が凛世をスカウトしたから始まったのだ。好意をぶつけられるぐらいで困惑していては、かつて凛世をスカウトした昔の自分に示しがつかない。

 しかし、凛世のみを優遇するわけにはいかない。すでに他のアイドルからの好意には気づいている。最初に抜け駆けしたからと言って、博愛主義の前提を崩すわけにはいかないのだ。

 プロデューサーは言い直すことにした。

 

「――それでも、凛世の好意だけに応えることはできない。うぬぼれと思われるかもしれないけど、凛世以外に俺に好意を持つアイドルはいるんだ」

「はい――。ですから」

 

 彼女の双眸はこちらをとらえて離さない。

 

「プロデューサー様が、凛世を、選ぶのです。……あらゆる者の好意に負けないほどの……凛世の好意を……あなたにぶつけます」

「――」

「……好きになってくれとは……言いません。……必ずや、プロデューサー様を……射止めてみせます……。もしプロデューサー様が……凛世を――凛世の好意に対して、嫌悪の感情を訴えなさるのであれば……それすらも利用しましょう……」

「――……!」

 

 恐ろしいほどの覚悟だった。まるで家族の仇をとる時のような覚悟の据わりようで、こちらの心臓を握りつぶさんとするほどの視線だった。

 

「どうして――」

 

 据わった眼、という表現では生ぬるい。眼窩から彼を搦め取ろうとする夥しいほどの白く細い腕を幻視する。自身が被食者になった感覚を覚えた彼が堪らずに訊いてしまった。

 

「――どうして、そこまで……ほかのみんなとの関係も悪化する可能性もあるのに、どうしてその好意を……それほどの行為を俺だけに向けられるんだ……!?」

 

 その言葉はもはや悲鳴に近かった。殺意や復讐心にも近い好意を今更ながら感じ取ってしまい、手が震える。

 しかしその回答はあまりにもシンプルなもので、既に聞いたものだった。

 

「――それは……ただ、凛世はあなた様に運命を感じた……それだけでございます……。三年前から、ずっと……」

 

 おぞましいほどの好意をぶつけられて戦慄し冷汗が流れ震えるプロデューサーと、その暴走する恋愛感情に泥酔しながらも自己を制御して普段通りの佇まいである凛世が対称的だった。

 

*

 

 あの日の凛世の眼に隠れた狂気は、数年経過した今でも背筋が凍る。

あの時の彼女は焦っていたのだろうか。自分がアプローチという面では一歩進んではいるものの、すぐに覆されかねない状況だ。あのときの事務所は多くの思惑が動いていた。

 だから凛世の恋情が熱暴走を顕現させた。――誕生というよりも、顕現。元からあった凛世の感情のなかで自分が見ていたのはごく僅かであり、あの日にようやくおおよその実体がみえた……ということなのだろう。

 もしかしたら他の者もあれほどの熱情を持っていた可能性があったが、彼はその焔に目を離すことが出来なくなっていた。

 

「お茶でございます……」

 

 テーブルに置かれた二つのマグカップ。中身はバラの葉を使ったローズティー。カフェインがなく、代わりにカリウムが多量に含まれており高血圧も防ぐ。加えて酸味が今の彼女にとってはありがたい。

ありがとう、と言うと満足げにほほ笑んだ。本来はあまり動くべきではないらしいが、動かないと血行も腸の活動も制限される。凛世の性格もあり、ある程度の家事で動くこと自体を止めることは出来なかった。

 隣の椅子に彼女が座る。やはり短時間の家事でも現在の体では疲れるのか短く嘆息しながら背もたれに体重をかけた。

 

「どう、なされたのですか……? なにやら……物思いにふけっていられた……みたいですが……」

「いや――少しだけ」

 

 あの日、自分は彼女に殺されるのではないかと思ったことは今でも言っていない。さすがに今の関係性であっても、言っていいことと悪いことの分別ぐらいはつくと考えたい。

 

「……凛世はいいお母さんになるだろうなって」

「なら……いいのですが……」

 

 言葉尻では不安げだが、彼女の表情は慈愛に満ち溢れていた。




Q.シャニPを堕とすにはどうすればいい?
A.大前提として他の人と肉体関係になっていないこと、恋愛に対して忌避感を持っていないことを確認した後にフラれます。それでも何度も告白して自分の思いの重さを見せます。
Q.無理では?
A.無理ですね
Q.ところで樹里ちゃん、なんだか魔理沙みたいなしゃべり方だね。
A.樹里ちゃんのエミュ、ムズイ………

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