宇宙世紀0079年、地球から最も遠いサイド3はジオン公国を名乗り地球連邦政府に独立戦争を挑んだが地球連邦宇宙軍はサイド3本国への艦隊特攻による核攻撃を敢行し2月14日にジオン公国は消滅した。
後世に血のバレンタインとして伝わる出来事である。
そんな歴史を知らぬアマテ・ユズリハは学校に転校生としてやってきた自称ジオン軍人の少女コモリ・ハーコートに振り回され、エグザベ・オリベ少尉と出会い、プリティでキュアキュアなサイコミュ的ラブコメを送る。
やがて宇宙0093年、蒼き清浄なる世界のためにシャア・アズナブルがコンペイトウ落としを敢行するがバレンタインに金平糖は解釈違いのクワトロ・バジーナがサイコミュを暴走させたゼクノヴァで地球は救われた。

これはそんな嘘予告関係なくアニメ本編が始まる前なのをいいことに妄想を拗らせた短編です。
バレンタインに間に合いませんでした。
※pixivにも公開してます

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チョコとドロドロとニュータイプ

「シドニーは今ごろ真夏なんだって、雪とか寒さと無縁でウラヤマ」

「うっそぉマジで? 二月の地球は雪降らないの?」

 

 教室内の喧騒に紛れる事なく、その会話は妙に澄んだ音で耳を叩いた。

 机に突っ伏した姿勢のまま首だけを動かす。窓際の席に集まって遠くを、地面の空(・・・・)を見上げる級友たちの姿があった。

 派手な色をしたカーディガン、やや目にうるさい暖色系のそれらはもちろん学校指定品ではない。羽織れば制服本来の緑色が隠れてしまうが、極端なデザインや制服自体の改造さえしなければ校則も、そして教師も黙認していた。

 流行に敏感な乙女による精一杯のお洒落をした級友たちの会話は今も澄み切っていた。何故なのか。

 アマテは理由を考えることなく、しかし直感で答えに辿り着いていた。

 窓の向こう側、自由のない空、地面の延長線。降ってくるが昇ることはない白いモノ。

 

「あー確かシドニーって地球の落とし物箱だったけ」

「なんかそういう入れ物らしいよ地球は、キタハンキューとミナミハンキューで季節が喧嘩するから気象スケジュールも変更だらけ」

「うっわ面倒くさ、スケジュールの意味ないじゃんそれ。ウチ絶対そんなとこ住めないからコロニー最高」

「でも寒いのとサヨナラするなら浮気しそう、ジオンもシドニーじゃなくて砂漠に落とせば良かったのにね」

 

 北半球型の気候を再現したサイド6・イズマコロニーの二月は防寒着必須の冬。

 コロニーという人工の大地では遥か先の気象スケジュールまで決まっており、地球みたいに突然天気が変わる事はない。

 全て人が決め、マシーンによって動かされる作り物の箱、それがアマテの住む世界だった。

 今も窓の向こう側では白いモノが、二月一四日まで降ることが決まってる雪が舞っている。

 特別な日に意味を持たせる為の雪、コロニーではそれが普通だった。

 毎年クリスマスは白い雪化粧が施されるもので、学校の卒業式と入学式はチェリーブロッサムが彩るようにスケジュールが調節される。特別な日だからと慣例化したそれは日常の一部となり、当たり前になった。

 だからイズマコロニーの二月は、特に二月一四日は雪が降る。

 クリスマス程ではないが街の一部を白く彩る程度には降り積もる。

 旧世紀時代から持ち込まれた風習が寂れることなく続いてる為だ。

 

「ねぇねぇ! コモリっちは誰かチョコ渡すの〜?」

「えっ、何突然チョコって」

 

 頭の裏側、即ち顔を向けてない方角からの声。理解不能を押し出したそれはまた妙に澄んだ音をアマテに届けた。

 同じクラスメイト、というには特殊な事情も抱えてる相手だからか。

 今度は身体ごと、友人カッコカリ見た目だけは学生の女性を見遣る。

 教室に戻ってきた制服姿のコモリ・ハーコートは入り口で困惑気味の笑顔を浮かべていた。

 

「いやだからバレンタインの、もうすぐじゃん」

「えぇっと、それがチョコと何か関係あるの?」

「あーコモリっちの前いた所はバレンタインなかった感じ?」

 

 会話が噛み合わないことに納得した級友は頷き、眉根を寄せ、さも同然とばかりに親指を向けた。

 天井を差せば立派なサムズアップだったろうそれは生憎のこと人に向けられていた。

 上体を起こし様子を伺っていたアマテに、だ。

 

「諸君らの愛しきアマテ様にチョコを献上する儀式なのさ、バレンタインは」

「いや違うからねッ!?」

「坊やだからさ、許してよぉアマテ〜」

 

 思わず声を上げて否定する。せねばならなかった。

 転校生としてこの学校にまだ染まってないコモリ・ハーコートが手遅れになる前に。

 その肝心のコモリ・ハーコート本人は手元の端末を何やら操作しており女学生の寸劇を完璧に無視していた。

 

「旧世紀の宗教家の誕生日、それがバレンタイン。へぇ、イズマコロニーの人達はそれを祝うんだ」

 

 宇宙世紀時代を生きる人間、それも人工の大地を住処とするスペースノイドにとって宗教は程遠い存在だ。神のような頂上の存在より宇宙空間という理不尽な環境が身近であり、奇跡に至っては人の手で起こすものだった。コロニーの気象スケジュールが最たる例だ。

 それ故この女子校に転校生としてやってきた、イズマコロニーの外からの来訪者は心底感心していた。

 

「うちのコロニーにはバレンタイン祝う風習なかったなぁ。クリスマスはあったけど」

「何も知らないコモリっちに教えたげる、好きな人にチョコ渡して告白する激甘イベントなのよ。あとはウチのクラスのアマテにね」

「だから! コモリに余計なことを吹き込まないでッ!」

 

 両腕で謎の威嚇ポーズを取れば級友は手をヒラヒラさせて退散する。

 眉根を寄せて犬よろしく吠えながらお邪魔虫を追い払ったアマテは最後の大仕事、コモリ・ハーコートを本来の席へ引っ張ってゆく。

 その場所はアマテの隣であるから別に問題はない。

 

「あ“〜づがれ“だ」

「女の子が出していい声じゃないよ〜アマテちゃん」

「だって何も知らないコモリに変なこと吹き込んでたし……」

「そのまま鵜呑みにするほどアタシは夢みがちじゃないよ」

 

 これでも軍人だからね。

 最後は唇の動きだけでアマテに告げる制服姿の女性は寂しげに笑った。

 アマテと同じ女子校の制服を着たコモリ・ハーコートは背丈も歳も近く、何も知らなければ女学生にしか見えない。事実、この学校では季節外れにやってきた転校生という体裁だった。

 ジオン公国軍の少尉と言われても冗談の類いで笑って済ませるほどには。

 

「でもでもっ、バレンタインにチョコ渡すのはホント? ウソ? アマテちゃんの反応的にマブにもチョコ渡すイベントだよねっ!?」

 

 ジオン公国軍の少尉と言われても、酸素欠乏症でミノフスキー粒子対策にアルミホイルを頭に巻く変人の同類かもしれない。

 

「あ〜なんか、昔からバレンタインにチョコ渡す地域っていうか、文化があって。それがこのコロニーでも続いてるというか」

「ほんとに激甘イベントじゃん!」

「漫画みたいに好きな人に渡せばね」

 

 渋面を作り思い返すは昨年のバレンタイン。

 机の上に積まれた手紙添えの箱、ロッカーに満載された高級洋菓子店の包み、放課後に教室までやってきた先輩後輩同級生エトセトラエトセトラ。

 女子校なのだから恋人に、或いは告白予定の異性に渡すなら学校の外しか機会はない。

 だというのにアマテは同性の、同じ学舎に通う生徒達から贈り物の攻勢をかけられた。

 それが昨年の雪が降るバレンタインだった。

 

「はえ〜、アマテちゃん激モテじゃん。王子様タイプじゃないし、これは女子校のニュータイプ?」

「だからそんなんじゃないってば」

「でもイベント自体は楽しそう、ほらアマテちゃん知ってると思うけどウチ(・・)はそういうの無縁だから」

 

 目を細め鼻歌まで始めたコモリ・ハーコートは実に楽しげだった。

 

「ふへっ、中佐に教えたらマヴの為にチョコ作るかも……顔のいいおじさまがチョコ溶かして形どるのアリでは……?」

 

 頬をだらしなく弛ませたコモリ・ハーコートは腐っていた。

 

「逆にアマテちゃん誰かにチョコ渡したことあるの?」

「いや、その、全く無いけど」

「えぇ〜じゃあさじゃあさ! 今度一緒にチョコ作ろうよ〜なんか楽しそうなイベントだから学生らしいし!」

「作るって誰に渡すの」

「え〜っと、ウチの人達……エグザベ君?」

 

 首を傾げながら取り敢えず出てきたであろう名前。

 特に深い意味は無いかもしれない。

 件の人物は眼前のコモリ・ハーコートの同僚で、アマテにとって特殊な事情を抱える間柄だ。

 

「じゃあコモリが作って渡しなよ、きっと喜ぶんじゃないの」

「うっわ即答って、もっとテンション上げなよ。お菓子作りだよ?」

「あの人もいきなり変な風習でチョコ渡されても困るでしょ」

「うわ〜ん! アマテちゃん女の子らしいこと考えなよ〜っ!」

 

 軍人とは程遠い女学生らしい抗議を無視したアマテは胸中で声なき声を呟く。

 だってあの人は、エグザベ・オリベ少尉は、チョコよりもドロドロ(・・・・)したのを持っているから。

 

 

 ▽▲▽

 

 

「エグザベ兄さん(・・・)! お待たせ〜!」

 

 学校の最寄駅、その改札口近くの柱に背を預けた人物が手を振り返す。

 連れ立って歩くコモリは一見すると朗らかな親愛の表情を浮かべているが、僅かに歪み動く口角は悪戯の色が濃ゆい。

 付近の同じ学校に通う女学生達にしてみれば迎えに来た兄とじゃれつく妹の構図に見えるだろうか。

 あくまでもそれが演技で、この男女に血の繋がりが無いことを知るのは当事者を除いてアマテのみである。

 

「いや、別に待ってないよコモ、リ……なぁこれ意味あるのか?」

「んも〜大切な妹とその友達くらい過保護で丁度いいんだよ!」

 

 わざとらしく口を尖らせながら腕を組んで来るコモリも毎度のこと、もう慣れた。

 慣れないのは眼前の焦茶色のコートを羽織った青年だけだ。

 なんとも言えない溜め息をついた彼からはあのドロドロが見えない。

 ひとまず安堵の息を吐いたアマテを不思議そうに彼は見つめる。

 

「アマテさん、何か心配事か? もしかしてウチのが何か迷惑を!?」

「うーん、いや、大丈夫ですようん」

「本当か? ほらストレスは美容の天敵とか言うだろ、何かあったら相談してくれ。俺にできることなら力を貸すから」

「うっわ、エグザベ君が未成年を口説いてる……」

 

 このエグザベ・オリベ少尉というジオンの軍人と初めて会った時、アマテが視た(・・)のは宇宙で身を任せたキラキラの対極に位置するモノ。

 重力の束縛に近い不自由、脚を絡め取るドロドロ。

 感情の奔流ともいうべきものが流れたのは一瞬だったが、アマテの脳裏に焼きつくのはそれで充分だった。

 きっとあれは、良く無いモノだ。

 だから最初は悪感情を抱かれてると思い込み距離を取ろうとした。

 実際のエグザベ・オリベという人間は慣れない仕事に振り回され、コモリ・ハーコートに振り回され。

 それでも軍人として仕事には誠実に取り組むのか、生来の性格にもよるのか。自分のせいで迷惑かけているのに、先程のように些細なことでも勘づいて相談に乗ろうとする。

 だからきっと悪人ではないのだろう。今日もこの青年からドロドロは感じられない。まるで水に洗い流したかのように汚れも、輝きも、何一つ無かった。

 

「でさぁ、学校でアマテちゃんに教えてもらったんだけどイズマコロニーの人達はチョコ渡すバレンタインて風習があるんだって」

「公告にチョコを使ったお菓子が多いのはそれか」

 

 あっ、エグザベさんお菓子って言うんだ。意外と丁寧な言葉遣いだけど、それらしいのかな。

 ふと目が合ったエグザベが頭の奥を覗き込んだ気がしたアマテは慌てて視線を逸らす。

 

「アマテさんはお菓子とか作るのか? ここの風習なんだろう?」

「いや、えっと、別に渡す相手とかいないんで……」

 

 昨年は学校の女学生達から貰ったなんて言える筈がない。

 

「なんかねーアマテちゃん去年は学校の子達に貰ったんだってさ」

 

 呆気なく機密情報は漏洩した。それも軍人として情報共有の一環なのだろうか、アマテは訝しんだ。

 

「だから今年はアタシと一緒にチョコ作ろって約束したの! ねっアマテちゃん!」

「いや、うち門限あるんでそんなの無理だけど」

「そんなもんアタシ達がいれば安心だから大丈夫だよ! 学生らしいことしようよ〜もっと女の子らしいことしよ? お菓子作りだよ? 激甘チョコレィトォだよ?」

 

 甘味への執着心か女心によるものか、後者は多分あり得ない。アマテも人並には甘い物は好きだから。

 度々コモリが口にする学生らしい事に憧れでもあるのだろう。軍人の世界はアマテにとって未知であるが、緩やかな学校生活とは対極的であるのは想像がつく。

 肩を掴んで揺らすコモリをどうあしらうか悩んでいるそこへ、唯一の異性にして年長者がふと口を開いた。

 

「なんかいいな、そういうの。平和でさ」

 

 穏やかな言葉と裏腹にアマテの首筋を舐めとる粘ついた感情。

 不愉快な束縛感、あのドロドロだった。

 

「昔はチョコ一つ食べるのもなかなか苦労してさ」

 

 寂しげな瞳で見下ろしてくるエグザベ少尉の表情に悪感情は欠片も見当たらない。

 思わず首を撫で付けるがあのドロドロとしたモノはこびり付いてない。でも確かに。

 確かに今、エグザベ少尉の中のドロドロを見た。

 

「……ごめんねエグザベく、エグザベ兄さん。はしゃぎすぎちゃった」

 

 珍しくしおらしい様子を見せたコモリはあのドロドロを見てない筈だ。それでも何かを感じ取ったのだろうか。

 アマテの疑問はすぐさま氷解する、エグザベ本人によって。

 

「気にするなよ、戦争やってたんだ。難民でも寝床と食事があるだけマトモな部類だったさ」

「な、難民だったんですか? エグザベさん」

「そういえばアマテさんには話してなかったな、あまり関係ない事だから。そうだよ、だから手作りのお菓子を渡す文化とか風習、なんかいいなって」

 

 小さい頃に母さんがクッキー焼いてくれったけなぁ、と続けるエグザベ少尉の瞳は細まって、何も映してない、そしてエグザベ本人だけに視える世界があるのだろう。

 アマテを束縛した不自由なドロドロが何か分からない。

 分からないが、あのモビルスーツに乗った時の閃きに近いモノで、アマテはドロドロが何か分かった気がした。

 それを言語化するのは難しい。

 ただ一つの決意が生まれた。

 難民だと知っての憐憫ではない。もっと根源的な、ともすれば幼稚な感情。或いは単純な動機。

 

 ──エグザベさんって、チョコの形に拘りとかあるのかな──

 

 その辺りコモリに探り入れるよう頼むとしよう。あとはそれから、買い物の予定は休日に入れて。パイロットは食事制限などあるのだろうか。

 自身の護衛を担うジオンの青年に向けて、アマテの仄かな感情が芽生えつつあった。

 

 ▽▲▽

 

「サイド6の軍警が何か慌しいようですが」

 

 強襲揚陸艦《ソドン》の艦橋で髭を蓄えたジオンの中佐が訝しげに尋ね返した。

 

「リボーコロニーで軍警のモビルスーツが撃破されたようです。あそこは連邦派の色が濃ゆいコロニーですから、連邦軍の残党でも迷い込んだのでは?」

 

 オペレーターの返答に頷きながら髭の中佐は額に手をやる。

 リボーコロニーは彼らが停泊するイズマコロニーからさほど離れた距離ではない。警備体制強化のため軍警が慌しくなるのは不思議じゃないが。

 

「一応サイド6に問い合わせてください。武装解除に応じない連邦軍の残党なら、それはジオン公国軍の掃討対象です」


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