俺はとっくの昔に死んだ人間だ、それもまだ赤ん坊の時に死んだもんだから知識なんてものはなかった。
だが死後の世界には魂を循環させる神が居て、その神が俺に現代の知識と、俺が死ななかった場合に育っていた感性を与えてくれた。
嬉しいね、ちゃんと人生を歩めるんだって思ったよ、だけどね、そうはならなかった。
実はその神は俺の生きてた世界の神じゃ無かったんだよ、それに神は自らを【異形の神】と名乗り異形にしか生まれ変わらせられないと言った、ふざけんなと思ったぜ、人間になれないなんて考えてもなかったからな、異形だなんて悪役もいいところだ、俺がそうなったらヒーローには会いたくねぇ。
嫌ならこの話は無しと言われるし悩む時間は無かったし、仕方なく人間じゃなくていいから生きてみようと割り切った。
で! でだよ!
「その挙げ句がこの姿か……化け物じゃないか」
山羊みたいな2本のデカい角がある頭、鋭い目付きに上がり切った口角とギザギザの歯、体はデカくてムキムキだが肌は真っ赤で何やら黒い文様がある、腕も同じく太い、手は刃物のような爪が生えてて握り拳が作れない。
はい、悪魔みたいな見た目の化け物です。ヒーローいたら真っ先に殺される悪役の記号がびっしりだ、もうやだよただでさえ人間じゃないのに悪役顔とかまともな生活できないよ。
……まともな生活、そうだ……生活……
一気に悲しくなってきた、今の現状は暗いゴツゴツした岩肌の洞窟で、かろうじて水たまりがあるだけ、こんな所に一人だけぽつんと座っているのだ、これ生活……できるか?
「あぁ〜家具もねぇテレビもねぇ……それに食いもんもねぇ……」
岩が食えるなら解決する、岩は食えませんので未解決迷宮お蔵入り。
そもそも人間らしい生活が出来る世界なのかも大事だな、俺を生き返らせたのは俺のいた世界の神じゃない、つまり別の世界のしかも異形の神、そもそも生きられるのか? 俺以外の異形がうじゃうじゃいて外へ出たらパクって食べられるとかだったら岩食えるように意地でも適応進化する。
「……確かめるためにも、出てみるか?」
目の前には外に続いているだろう横穴がある、地獄じゃない事祈っていいよな……祈る神はどこだ、アイツ以外がいいぞ。
なにはともあれ、事態が変化することを祈って外を見る。
「わあ、すっごい自然」
森、森、森、川、山、森、ほとんど木。
どうやらこの洞窟は山中にあるらしいな、陽の光が適度に入る、草木も鬱蒼としている所はあるが小さい獣道? がいくつかあるので未開の地と言うほどでは無さそうだ、助かったと言っていいな、まだまだ油断は出来ないが見知った緑の自然だった。
少なくとも洞窟の中で一生過ごすこともないし岩を食う必要もない!
こんな時には喜びの声をあげたくなる! 腹から声を出す意識で目一杯息を吸い込んで叫ぶ!
「おーあったけえ、太陽万歳だわ、最高ー!!!!」
叫び声が飛んでいきやまびことなって帰ってくる。
__最高……最高……最高……
「あぁ、最高」
別世界で行きていけるか心配だったがこの手つかずの自然があるなら生きていける、俺は生きられる、贅沢な暮らしは出来ないだろうが寿命までは生きていけるだろう。
幸い俺には異形の体がある、この鋭い爪では握手は出来んだろうが魚を捌いたり木を削ることは簡単に出来るだろうし、これだけ太い腕なら力仕事も楽々だろうし、この無駄にデカい角にも愛着が湧くだろうな! いやぁ、良かった、あの神も悪い神じゃないんだな!
「さてと……まずは家から作ってみるか、木はあるしログハウスみたいなのが良いな……待てよ? 日が暮れる前に出来るのか……? 先に飯確保……家……どうするっかな……」
後ろ振り返る、洞窟がある、悩む、考える、外を見る、考える。
「洞窟でいいや、飯集めに行こう」
そう言う事にした。
で、飯集めるんだが、サバイバルの知識はないので熊のように川で魚をバッサァとぶっ叩いて捕ることにした。川は洞窟から歩いて三分位の所にあり、直接見える位置にあったのが幸運だった。
川は大きくて一級河川と同等だろうと……一級河川が分からないならクソデケェ川でいい、その、クソデケェ川の端っこに流れに流されないように魚が集まるポイントがたまたま見つけられたので早速この鋭い爪の出番だ。
「抜き足差し足忍び足っ……」
影でビビらせないように気をつけながらゆっくり水面に近付き、腕を振り上げて……水ごと魚をぶっ叩いて爪を刺す!
_DON!
天高く水柱が出来上がり魚は全て打ち上がり刺したつもりの魚は木っ端に切り裂いていた、パワーが過剰すぎやしないかい? 生活できないよ? 異形ってこんなだっけ……
目的達成したは良いが手段から得られた結果が想定の百倍ズレていたこと、これはもう人間ではない証として俺に突き刺さる。
「体は人型だし、人みたいな生活出来ると思ったのに……これじゃな……無理かもな……」
魚種が何かもわからない魚を洞窟に持ち帰る、嬉しいはずの大漁がなんだか嫌に思えた時間だった。あんまりにも凹みすぎて夕方まで空を見ていた、そしてそこでも、時間の感覚が人よりずっと長い事に気が付いてしまった。
これが異形の生き方なのかと、人らしさを求めることが段々無理に思えてきた。
「ま、まだ1日目だぞ……俺しっかりしろ……と、とりあえず魚を焼いて食う、人間らしくな……よし」
魚を焼いて食う、となると火を起こす事と木を集めることをしようと考えたんだが、火をどうにかしようと考えただけで手に火がついた、燃えた。
「うわぁっ! あっ…………つ、くない……? 火じゃないのか? 焼けるかな」
__ボッ!
その燃えた手を近付けると1秒足らずで魚の山が炭化した、ちゃんと火である、それもかなり高温が出ている、場合によっては便利だが今の所使えない火力だ。それにこんなの……ちょっと俺には認められない。
「俺どんどん人じゃなくなってる気がする……あーもう凹む、何一つ出来んのか俺は……魚全部炭化したし……あーあ……」
黒く砕けた魚の灰が風に流されて森に還っていく、同じように俺の心が燃えカスのように砕けて無くなっていく、ここまで人じゃない事が起きると人間は機能不全を起こすのだろうか、俺は起こした、もう何かしたいとは思わない。
不貞腐れて寝る子供みたいに洞窟の奥に引きこもり俺は寝た、何も敷いてないひんやりした岩のベッドは今の俺には丁度いい。
「あの〜……」
ウトウトして寝る寸前に起こされた、声がした、感覚も敏感になっているのか声の主がどの方向どの距離にいるのか直感的に分かってしまった。
それよりも誰がきたのかと見てみれば小さい俺がいた、語弊だな、俺みたいな小さい異形がいた。驚くし叫びもしたいが俺以外の異形に会えたこの幸運と一体誰なのかという疑問は先に解消したかった。
「お前誰……?」
「ぼ、えと、わたしはラッサラナールーナラッサアー!」
「ら……な……あー? 何?」
なんか呪文だと思われる言葉に首を傾げたら小さい俺みたいなやつは恥ずかしそうに一歩下がった。
「あ……ごめんなさい……きんちょ、しちゃって……」
あー緊張してたんだ、じゃあ尚更なんであんな言葉出るんだよ。この不意の訪問者は話下手のようでそれ以降言葉を発しないまま下を見て沈黙した、これではオブジェになってしまう。
こんなオブジェいらんのでさっさと話を終わらせるため無理矢理に話を聞き出すことにした。
「おいお前黙ってないで用件をいいな」
「あ……、そ……あ……」
「ハッキリ喋る!」
「ピィッ!? ……わ、わたしを! た、助けて! 欲しいんです!」
助ける……? 変な話だ。こんな弱そうで小さい異形なやつ誰が相手にすんだよ、追いかける方のフェチだとしたら業が深い。
俺がすっとぼけたこと考えたらチビは頭を下げて続けて話す。
「あの……わたし、人間に殺されかけて……ここまで逃げてきたんです、生き残ったのはもうわたし一人だけで……お願いします! 魔神様! わたしを助けてください!」
「あーそう言うこと……待て魔神様ってなんだ?」
「え? 魔神様は魔神様ではないのですか?
「だーかーら、その魔神様って何? 俺知らないんだけど? 助けてやるから詳しく説明しなさい」
「……魔神様と言うのは古い伝承です、怪力で業火を操る気まぐれの異形で山を砕いて遊んだり業火で国を焼き滅ぼしたり、ですが、そのどれもは気まぐれで、強い者には善も悪もないと言うお話です……そのお話に出てくる魔神様に、あなたがそっくりだったのでそうかと思ったのですが……実は朝から観てたんです……ごめんなさい」
「えーっ何そのお話、あまりにもピンポイントに俺を狙ってる」
朝からの行動全部見てたら気まぐれだと思うよな、気まぐれに叫んで川で暴れて持ち帰った魚燃やした後にボーっとして落ち込んで寝る、気まぐれ過ぎるだろ俺。
「よし、じゃあ魔神様でいいよ」
「ええっ!」
「なにさ、魔神様になってやるって言ったんだぜ」
「で、でもなんか否定したい空気だった言うか他人だったと言うか……」
「助けてもらえるなら誰だっていい、そうだろ?」
「っ!」
「しゃーねー、守れるだけ守ってやるさ、何かの縁だ、それにな……一人で生きるの、大変だろ? 俺も大変さ、何が何だか……」
「あ、ありがとうございます!!!」
と、言うことでうちで一人面倒を見ることにした。
しかし異形ってのはこの世界だと迫害の対象か……同情は出来ない、だけど、不憫に思う心はある、見捨てられねぇよ俺にはよ……同じ天涯孤独なら一人より二人さ……
「あの……魔神様」
「なんだ? 願い事叶えるパワーはねぇぞ」
「そうじゃなくて、その……魔神様ってお名前あるんですか?」
「名前……」
言われてみれば……前世込みで見ても命名されたことはないな、名乗ったこともない、名前かぁ……今更何でもいいけどなぁ……舐められないようなちょっとイカす名前がいいよな、出来れば人っぽい感じで……弁慶! とか武蔵! 小次郎! 龍馬! うーん……
「お話の中の魔神様はゴラムベルフェ、と呼ばれていました、名前というより俗称らしいんですけど……そう呼ばれたことあったりしますか?」
「ゴラムベルフェ……カッケーじゃんよ、じゃあ俺今日からゴラムベルフェで」
「そ、そんな……あっさり決めていいんですか、そこまでしなくてもいいんですよ!」
「そこまでも何も名前無かったんだよ、丁度いいや」
「うえーっ! そうなんですかー!?」
ちっこい割にはうるせぇよなコイツ……感情豊かなのは良いけどスピーカーみたいで嫌だな。
ま、これで名実ともに魔神様もといゴラムベルフェになったのだ! だからといって俺自信が変わることはない、ちょっと気持ち悪魔的になるかもしれん、嫌だけど。
「あ、そう言えばおチビの名前知らねぇな、なんつーの?」
「私はユニツィです」
「覚えとこう」
「感激です!」
「そこまでか?」
「はい!」
段々こいつのこと犬か何かに見えてきた、散歩にでも連れて行ってやろうかな、外をぐるっと回れば楽しいだろう。
そうだ外で思い出したがコイツ森の外から来たんだよな、人間に追われて……つまりそう遠くない所に集落ある?
「ユニツィ、逃げてきたと言ったよな」
「はい……そうです、人間はわたしの家族や住んでいた村を……ううっ……」
「それは良いんだけど人間がこの森の近くにいるのか?」
「そうですね……います……ですけどそこは今は傭兵団の居留地です……わたしを探しているんですきっと……」
傭兵団……つまり金で雇われた人間か、しかもこのチビ一人に団体でしつこく追ってるのか……よほど嫌われてるのか? 聞いてみないとわかんねぇな。
「俺らみたいな異形って人間全体に嫌われてる?」
「いえ……少ないですが理解者もいます……わたしたちを住まわせてくれていた村がそうでした」
「そこをごっそりか……ヤベェな人間……」
「人間というより、あの教団が悪いんです! 人の創造神タルサを崇めるタルサ教団がわたしたち魔族を徹底的に排除してるんです! 人間と同じ生き方を認めないって理由でです!」
生き方を認めない……か……異形、魔族って言うんだな……しかし人間と同じ生き方を魔族がしちゃいけない理由ってなんだよ……腹立つな……俺なんて元々人間なのに異形になってそれでも人間らしく生きようとして失敗してんのにそれを禁止だとぉ? ふざけてやがるバチギレですよこんなんムカつく腹立つ何様だっての。
「なぁ、その教団潰さね? 腹立つんだけど」
「んなぁ! 相手は国教です! 国を相手にするのと同じです!」
「かんけーねぇだろ、それに魔神様の業火は国を焼くんだろ?」
「あっ! で、でもそんなことしたら人がいっぱい死んじゃいます!」
「だな、そこまではしない、だけどそれが出来る力はあるってことだ、その事実はつえーぞ。ユニツィ、明日近くの村に行こうぜ、傭兵団ぶっ潰して魔族のよさ広めよう、生き方縛れるのは嫌だろ? ついでに敵討ちもしてやる」
「あの、え? 急に言われても……」
「イエスかノーか?」
「……それは……イエスです、わたしだって、わたしたちだってやられっぱなしじゃいられませんから……!」
ユニツィ、いい目してるぜ、そうだ目に物見せてやろうぜ、生き方を強制して殺し回る連中なんざ逆にぶっ飛ばしてしまえば良い、種族が違うだけでそんな事をされる謂れはないんだこの野郎!