浴槽の静寂——女友達が自然に背後へ回る
浴室の湯気がゆらめき、湯の中で静かに水音が響く。ウェディングは浴槽の端に背を預け、できるだけ無駄な動きをしないようにしていた。肩まで湯に浸かり、静かに呼吸を整える。
しかし、すぐ隣で彼女の気配が動く。
——ふと、水音が変わった。
ウェディングが目を細めると、彼女がゆっくりと体をずらし、湯の中で静かに移動していく。
「ふふっ……ねぇ、ウェディング?」
先ほどまで向かい合うように座っていた彼女が、さりげなく体の向きを変え、足元の水を静かに揺らしながら、半円を描くようにウェディングの側面へと移動する。
(……位置を変えていますね。)
すぐに気づくが、あえて何も言わない。ウェディングはそのまま湯に浸かったまま、様子をうかがう。
彼女は、ゆっくりと近づいてきた。
次の瞬間、軽やかに、するりと背後へ回る。
「……?」
湯の中で足を曲げ、柔らかく水の抵抗を受けながら、ウェディングの背を自分の胸へと引き寄せるように位置を取った。
「んふふ……ねぇ、ウェディング?」
腕が回る。
ふわりと肩にかかる感触、背中にじんわりと伝わる温もり。濡れた肌同士が触れ合い、湯に溶けるような柔らかな感触が背中を包む。
「……何の意図が?」
できるだけ冷静に返す。しかし、彼女はそれには答えず、腕の力を少し強めた。
「んー……こうしたら、ウェディングがどんな反応するのかな~って思って♪」
まるで試すような言葉。
(……意図的な行為ですね。)
しかし、ウェディングはただ黙っていた。反応を見せなければ、すぐに飽きるはずだ——そう考えていた。
けれど——
「……あれ?」
背後から囁く声が、微かに弾む。
「なんか、思ったより静かだね?」
腕を回しただけでは、ウェディングの表情が見えない。期待したような反応もなく、彼女はただ湯に浸かっているだけ。
「……うーん、これじゃつまんないなぁ。」
その瞬間、彼女はそっと指先を動かした。
「じゃあ、ちょっとだけイタズラしてみよっか♪」
水の中で細い指が滑る。鎖骨から肩へ、そして背中へと、ゆっくりとなぞるような動き。
「……っ」
ウェディングはかすかに呼吸を詰まらせる。
「ふふっ、今ちょっと震えた?」
彼女は明るい声で囁きながら、さらに指を滑らせた。背中の中心からゆっくりと、水の中を漂うように指先が肌を這う。
「……っ。」
反応を見せないように、ウェディングは意識的に肩を落ち着かせる。しかし、それでも彼女には微かな震えを感じ取られていた。
「やっぱり……ねぇ、ウェディング、震えてるよ。」
彼女の声が嬉しそうに弾む。
ウェディングは、声を発しようとした。しかし、喉が強張り、言葉が形にならない。
(……拒絶すべきですが。)
身体が動かない。
背後の温もりが、まるで空気の層のようにまとわりつき、思考を鈍らせる。
彼女はさらに密着し、今度は首筋へと顔を寄せた。
「ウェディング、耳……弱い?」
息がかかる。
耳朶をかすめるような微細な動きが、湯の温度とは違う熱を帯びて、じわりと神経を刺激する。
彼女の指が、さらに肌を辿る。鎖骨から滑り降り、腕へとふわりと触れた。
「ねぇ……このまま続けたら、どうなっちゃうのかな?」
「……っ。」
かすかな震えが、指先に残る。
ウェディングは、動かせる範囲で手を持ち上げようとした。
(……やめてください。)
しかし、言葉が出ない。
彼女はそれを見て、いたずらな笑みを浮かべる。
「ん?どうしたの?」
ウェディングは震える指で、そっと彼女の手を握った。
——それが、できる唯一の抵抗だった。
「……っ。」
掠れた呼吸とともに、彼女の指をゆっくりと押し戻そうとする。しかし、腕にはほとんど力が入らず、ただ触れるだけの動作になってしまう。
彼女はしばらく黙っていた。
そして、そっと指を解き、ウェディングの髪を撫でる。
「……そっか、ごめんね。」
湯の中で距離を戻し、腕の力を緩める。温かな水の揺れとともに、浴室に静寂が戻る。
けれど、まだ指先には、彼女の肌の感触が残っていた。
「でもさ、ウェディングのこういう顔、初めて見たな。」
ウェディングは、何も言わなかった。ただ、湯の温もりの中で、身体の力を抜くことしかできなかった。