友達とホテルに泊まってお風呂に入る。

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第1話

浴槽の静寂——崩れていくウェディングを、ただ見つめる

 

 湯気がふわりと立ち込め、曇った鏡がぼんやりと光を受けている。浴室に響くのは、微かな水音と、呼吸の気配だけ。

 

 湯に沈む彼女の姿は、いつも通り冷静で、何も感じていないかのようだった。表情を崩さず、理知的な態度を保ち、どんな状況でも「耐える」ことを選ぶ。

 

 ……でも、それがいつまで続くのか、試してみたくなるのは当然じゃない?

 

 静かに体を動かし、湯の中で足元を滑らせる。気取られないように、ゆるやかに、さりげなく。向かい合っていた位置から半円を描くように移動し、背後へと回り込む。

 

 するりと、背中に腕を回す。

 

 肌と肌が触れ合い、柔らかな熱がじんわりと伝わる。

 

 「んふふ……ねぇ、ウェディング?」

 

 耳元で囁くと、肩がわずかに強張る。

 

 「……何の意図が?」

 

 冷静な声。しかし、ほんの少し硬さが混じっている。

 

 密着するように、腕の力をわずかに強める。

 

 「んー……こうしたら、どんな反応するのかな~って思って♪」

 

 分析しようとしているのが伝わる。でも、それで思考が追いつくほど単純な状況じゃない。

 

 湯の中で指を動かし、不意に鎖骨の上をなぞる。

 

 「……っ」

 

 一瞬、小さく肩が揺れた。

 

 やっぱり。

 

 こういうのには慣れていない。何も感じていないふりをしても、こうした無意識の動きまでは抑えられない。

 

 さらに指を滑らせる。

 

 背中をなぞり、湯の中に沈めたかと思えば、不意に爪を立てる。

 

 「……。」

 

 喉が微かに震えた。

 

 ……可愛いなぁ。

 

 言葉にはしない。でも、ちゃんと感じてる。

 

 指をゆっくりと腕に滑らせ、耳元へ顔を寄せる。

 

 「ねぇ、耳、弱い?」

 

 ふう……

 

 ゆっくりと吐息をかけると、ぞくりと背中が震えた。

 

 沈黙。

 

 でも、この沈黙こそが答え。

 

 さらに追い詰めるように囁く。

 

 「こういうのって、ずっと耐えられるものなの?」

 

 耐えられるはずがない。

 

 でも、限界まで耐えようとするのが彼女。

 

 ……だから、もっと試したくなる。

 

 背中へと密着し、さらに身体を寄せる。

 

 指先が、腕をなぞる。

 

 その時——

 

 ゆっくりと手が持ち上げられた。

 

 あれ……?

 

 思わず目を細める。

 

 そして——

 

 そっと、指先を握られた。

 

 唯一の抵抗だった。

 

 「……っ。」

 

 微かに震える指先。掠れた呼吸。

 

 押し戻そうとしているのに、あまりにも弱く、ただ触れているだけ。

 

 ——もう、限界なんだね。

 

 そっと指を解いた。

 

 「……そっか、ごめんね。」

 

 囁きながら、腕の力を抜き、ゆっくりと距離を戻す。

 

 密着していた肌が離れ、湯の中に小さな波が生まれる。

 

 ……でも、何かが違う。

 

 ふと動きを止めた。

 

 ウェディングが、動かない。

 

 (……?)

 

 まだ、もたれかかったまま。

 

 身体の力が抜け、背中がこちらに預けられている。

 

 本人すら、それに気づいていないのかもしれない。

 

 静かに、彼女の横顔を見つめた。

 

 そして——

 

 ふ……はぁ……

 

 小さく、浅い息が漏れた。

 

 (……。)

 

 息が乱れてる。

 

 抑えようとしている。でも、もう制御できない。

 

 無意識に、呼吸が浅くなっている。

 

 じっと、それを見つめる。

 

 「……。」

 

 肩がわずかに上下し、震えるように繰り返される浅い呼吸。

 

 何も言わない。でも、もう言葉なんて必要ない。

 

 静かに微笑む。

 

 「……ねぇ、ウェディング?」

 

 くすくすと、微かに笑いながら、そっと囁く。

 

 「こういうのも……悪くないでしょ?」

 

 彼女は何も言わなかった。

 

 ただ、湯の温もりに身を預け、静かに 息を漏らすことしかできなかった。


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