なんか同時期に入会したノリと勢いで「一緒にオリンピックで金メダル取ろうぜ!」って約束した友達が加速度的に成長してて約束を守れそうにないんだが 作:送検
握った手の温度を、わたしはまだ覚えている。
お母さんや、お父さん、お姉ちゃんの手を握った時と同じ、わたしの手から伝わる暖かさ。
だけど、その人の暖かさはお母さんとも、お父さんとも、お姉ちゃんとも違って。
その暖かさの名前がなんなのかも、理由も、何も分からないままその人の手を握っていた。
その暖かさは、わたしの気持ちを良いものにしてくれた。
落ち込んでいた気持ちが上に引き上げられていく。何をしてもダメで、ダメになってしまった時にぐちゃぐちゃになるわたしの心を落ち着かせてくれる。
笑顔にしてくれる。固まってしまっていた表情や身体が、不思議な程動くようになる。
そんな不思議な暖かさ。
その暖かさを持つ男の子の名前を、倉見遥人くんという。
フィギュアスケートの本を読んでいたわたしに話しかけ、何度も何度も怖がって逃げたわたしをあきらめないで、友達になってくれた男の子。
褒めてくれた。誰に褒められることもなく、ひとりで勝手に頑張っていたものを、「そんけーする」とたくさん褒めてくれた人。
そして、フィギュアスケートの話をたくさんしてくれる。緊張して変な言葉を使っても、宿題を忘れて時間が作れなくなっても、ダメなわたしがどれだけ落ち込んでいたとしても、最後には笑って色んな話をしてくれる。
わたしの、大切な友達だ。
大切といっても、友達になったのは本当に最近のこと。
今はよくフィギュアスケートの話をするようになったけど、とつぜん遥人くんがわたしに話しかけてくれるまでは話なんてろくにしたことがなかった。
いつもわたしが休み時間中にフィギュアスケートの本を読んだり、誰にも見られないところで本の通りの練習をしている間、遥人くんは皆と一緒にサッカーをしたり、ドッジボールをしたり、野球したり、教室ででぃ……でぃすこ?したり。
そんな遥人くんとわたしのあいだには見えない壁があるような気がして。いる場所も、世界も、何もかもが違っていたわたしが遥人くんとお話しするような機会はまったくなかった。
そんなわたしでも、話しかけられる以前から遥人くんの事は知っていた。
宿題をよく忘れて、そうごうてきな学習の時間に「ぴー……!ぴー……!」と頭を抱えながら問題とにらめっこ。授業中は大人しくしているのかと思ったら眠ってしまっていたり、たまに問題をとくように黒板の前に誘導されては間違った答えを書いて先生に心配されてしまう。
遥人くんは多分、べんきょうが苦手だ。
この前は宿題を見ながら「ドリルってなんだよ!!掘るのかよ!!掘り進めるドリル持ってねえんだよこの野郎ッ!!!」って言ってた。
とてもきょう……えっと、きょう、かん?できる。*1
だけど。
それとは反対に体育の時間の遥人くんはすごい。
跳び箱、縄跳び、ドッジボール。サッカーも、体力テストも、ありとあらゆる運動が本当に上手で、運動……しん、……しんけい……?がとてもいい。
遥人くんが運動で何かが出来なかったりして頭を抱えていることはない。いつも輪の真ん中には遥人くんがいて、椅子に座っている遥人くんとは何もかもが違う、そんな笑みと笑い声をわたしは覚えていた。
後かけっこが速い。
とてもうらやましい。
そして、なにより。
遥人くんはわたしとは違って友達が本当に多い。休み時間中の笑い声に気付くと、そこにはいつも遥人くんがいる。
遥人くんだけじゃない。たくさんの友達がいて、たくさんの話をして、たくさんのことを楽しんでいる。
それはわたしにとっては、遠くから眺めていた大好きなお姉ちゃんのようで。
それを当たり前のようにしてしまう遥人くんを、心のどこかでうらやましく思っていて。
だからかな。
遥人くんのことは知っているつもりだった。
クラスの人気者で、宿題はよく忘れちゃうけど運動が大の得意。常に元気で、明るくて、みんなに慕われていて。
宿題以外はわたしと全く違う、クラスメイトの倉見遥人くんのことを
「ゆいゆいつかさん!!俺と一緒にフィギュアスケートの未来について!熱く!!語り合おうぜッ!!!」
「!?!?!?!?!?」
そんなわたしの考えは、いきなり話しかけてきた遥人くんにめちゃくちゃにされてしまった。
フィギュアスケートをしていること。こかんせつをば、ばーすと?したこと。スケーティングができなくて、悔しくて、何度も何度も練習していること。
──フィギュアスケートが、大好きなこと。
知らないところで、壁みたいな何かを遥人くんの目の前に作っていたわたしには知らないことがたくさんあった。
遠い場所から見ているだけで、遥人くんを知った気になっていた。悪い人じゃないって分かっていたけど、声の大きさやいきなり話しかけてきたことに驚いて、それだけで怖がって遥人くんから逃げて。
それでも、あきらめずに話しかけてくれて。最後は転んだわたしを保健室に連れて行ってくれて、遥人くんがフィギュアスケートをしていることを知って、会話ができるようになって、気付いたら遥人くんの手を握り返していて。
それはきっと、逃げ続けていたら知ることも触れることも出来なかった。
なにより、遥人くんだから。逃げたわたしをあきらめずにいてくれた遥人くんがわたしの目の前にいたから、知らないことを知り、触れることができたんだ。
フィギュアスケートのことも、わたしのことを褒めてくれたことも、伸ばしてくれた暖かさも、何もかも。
遥人くんは、わたしにたくさんの『倉見遥人』を教えてくれている。
そして、それは友達になってからも、おとといも、きのうも、きょうも変わったりすることはなくて。
「結束さーん、おはよー!!」
「……!遥人くん、おはよ──」
そして。
今日もいつもと同じ、元気いっぱいの声と笑顔がわたしを迎えに来てくれて。
その姿に、口には出したことのない言葉を今日も重ねて。
目の前で笑う遥人くんに挨拶を返そうとして。
「結束さん!あなたを氷の上に誘います!理由は勿論お分かりですね?俺のスケーティングがいつまで経っても上達せず、日和ってたら瞳ちゃん先生に煽られてしまったからです!!」
「……ひ、ひよ?」
「シューズと防寒の準備をしておいてください!!近いうちにアイスダンスもやります!瞳ちゃんトウループもします!!氷上にも問答無用で来てもらいます!!」
「ひ、瞳ちゃんトウループ……」
「あなたは俺のズッ友です!!目の前で瞳ちゃんトウループぶち込まれる楽しみにしておいてください!
──いいですね!?」
その日は。とつぜんやってきた。
※
こんなことを言うのもなんだけど、遥人くんの話はよく分からない時がある。
自分の言葉の覚えが悪いことは知っている。横文字はとてもにがてだし、漢字も本当にむずかしい。たまに出てくるむずかしい言葉を聞いてると頭がぐるぐるしてくる。
ちなみにこの前遥人くんと話した内容はステップシークエンスにと、とりっきんぐ……を入れるのはじゃ……どう?かいな……か?についての話だった。
……と、とりっきんぐって、なに?
「──てなわけで結束さん、俺が愚図だったせいで長い間待たせてしまってごめん!しかしもう大丈夫!今度こそ、スケートで遊ぼう!!」
「えっと……ぐ、ぐずってなに?」
「フッ……どうしようもない奴って話さ!」
それでも話ができているのは、こうして遥人くんがわたしの『分からない』ことを『分かる』ように話してくれるから。
おかげで分からない言葉も分かるようになるから、遥人くんがどういう話をしているのか。ちゃんとわかった上で言葉を尽くすことができる。
その流れの中で、ダメなわたしはたくさんの人や友達に嫌な顔や思いをさせてきてしまったけど、遥人くんは嫌な顔ひとつせず「それも会話の内だろォ!?分かりにくくてごめんな!」と逆に謝ったりしてくる。
土下座されるのはちょっと困るけど、うれしかった。
当たり前なんかじゃないって分かってる。言葉の意味をいちいち聞くことも、わかったフリをすることも、された方が嫌な気持ちになることは分かってる。
だからこそうれしいんだ。
どんなにダメでも、ちゃんと見てくれる。1人の友達として向き合おうとしてくれている遥人くんの気持ちが痛いくらいに伝わってきて。
そういうふうに向き合ってくれる友達を、わたしは知らなかったから。
当たり前じゃないことをしてくれる、そんな遥人くんがわたしを見てくれることがうれしかったんだ。
「いや、でも待てよ……この場合結束さんがどう思ってるかってのが最優先だよな……そもそも日付とか具体的な内容も全く決めてないし……」
「……遥人くん?」
「というわけで結束さん!結束さんはいつ、俺とスケートしたい?というかスケート俺とやっていいのか?」
「え」
「やりたいのか、やりたくないのか。どっちなんだい」
「に、にたく!?えっと……」
「わくわく、わくわく」
「わ、わくわくしないで……!!」
遥人くんと、ちゃんとおはなしができているということ。
わたしを、遥人くんがちゃんと見てくれているということ。
それは、ぜったいに当たり前のことなんかじゃない。
わかっているんだ。
遥人くんとフィギュアスケートのお話をして、スケートする予定を立ててくれて、フィギュアスケートが好きって気持ちを隠さずにいれる。
「……遥人くん」
「おう!」
そんな時間が来るなんて、考えてもいなかった。
遥人くんが話しかけてくれるまではずっと、ひとりでフィギュアスケートの本を読んで。クラスの子にスケートのことを話すこともしないで。自分だけで好きって気持ちを終わらせようとして。
フィギュアスケートが大好きで、大好きで。それなら、遥人くんのように好きを思いっきり伝えて。好きなことを好きなだけ、いっしょうけんめいにやるためのお願いをすればいいのに、その
今を変える勇気がないわたしはもう、ずっとこのまま。
つめたくて、つめたくて、ふるえてしまいそうなくらいの世界に立ち止まって、うずくまって。
もうずっと、そのままでいるんだろうなって思った。
「この前はやりたいって言ったけど……遥人くん、わたしと一緒にスケートしても楽しくないよ……きっと」
「お?」
「忘れもの多いし、約束しても時間通りに来れないし……きっと、約束しても遥人くんが大変な思いして、スケートどころじゃなくなっちゃう……」
「おー……おう」
「やりたいって言ったのはわたしなのに……ごめんなさい……」
「……」
それを変えてくれた遥人くんの存在も、今見ている景色も、場所も。
わたしにとっては夢のようで。だからこそ、これ以上余計なことをして遥人くんを困らせて、がっかりさせて、夢の終わりをはやめるようなことをしたくなくて。
これじゃあ、何も変わらないし変えられないってことはいちばん分かっているはずなのに。
これ以上遥人くんにいやな思いをさせたくなかったわたしは、そう言ってうつむいた。
「……ごめんなさい」
「……」
遥人くんから目を逸らしたのは、遥人くんのまぶしさに耐えられなくなったから。
だけど、それ以上に。視線を
ダメな自分が、自分自身に
だけど、自分のダメさで他の人に迷惑をかけるのは痛くて。が、わたしには何より嫌で。
ごめんなさいって。心の中で何度もあやまっても、いたくて、つらくて、くるしくて。
その重さが、いつの間にか心をつめたくして。身体まで動かせなくなって、さいごはうつむいたまま動けなくて。
今がまさにそうだった。
いっしょうけんめいスケーティングの練習をして、上手くなったからとわたしをスケートに誘ってくれた遥人くん。
どれほどまでの努力と勇気でわたしをスケートに誘ってくれたか。考えれば考えるほど、その大きさが伝わってきて。
その大きさに応えられなくて、「ごめんなさい」という言葉でにげて。
それが遥人くんが少なくとも困ってしまうってことくらい、分かっているくせに。
自分のせいで、遥人くんが困ってしまう。結局、遥人くんに迷惑をかけてしまう。
そんな今が。今のわたしが、本当にいやだった。
遥人くんのまぶしさに目をうつむかせてしまう、そんなわたしが大嫌いだ。
「結束さん」
目をつむっていないのに、目の前はまっくらで。
調子は悪くなかったのに、頭もぐらぐらしてきて。
どうしようもなく、がたがたとふるえていた両手で服をにぎって。
そうして、まっくらな世界に心までつぶされてしまいそうになった時。
怒っているようにも、こまっているようにも見えない、いつも通りの遥人くんの声。
その声は、友達になった時に感じた手のあたたかさと同じような気がした。
冷たくなった身体が、あたたかくなる。
外から内に、いつの間にか届いたほんのりとあたたかい気持ちがスっと入ってくる。
気付けば、目の前には遥人くんがうつっていた。
──前を、むいていた。
「俺今日、水筒に飲み物入れてきた」
「…………。
……う、……うん?」
「男は黙って、麦茶」
その先で、遥人くんは自分の水筒の中身を見せてきた。
ついでに、水筒の中身は麦茶だった。
……。
……すいとうの、なかみが麦茶。
……それって、つまり。
「い、いっしょだ……!!」
「フッ……結束さんも黙って?」
「む……むぎちゃ!!」
「俺も黙って〜!?」
「むぎちゃ!!」
そして、気が付いたらわたしと遥人くんは麦茶のはなしでもりあがっていた。
さっきまでのまっくらで、つめたかった気持ちはなかったかのように。
もちろん、なかったことにはできない。今もわたしの中にはその気持ちが残っている。
おもくて、くらくて、つめたくて。そんな遥人くんに対する「ごめんなさい」の気持ちは確かにまだあって。
それでも、遥人くんの言葉はわたしに前を向かせた。
からだを動かした。
口を動かした。
だから、なのかは分からないけど。
ひとしきり笑った遥人くんは改めてわたしを見る。
椅子の背もたれに身を預けたり、大きな動きをしながら首だけをこちらに向けていた遥人くんの姿はもうない。
今の遥人くんは
正しい姿勢で、からだごとまっすぐにわたしを見てくれている。
心の矢印が、わたしに向けられているのがおぼろげじゃなくて
だから、この後のわたしがどんな話をされるのか。今のわたしにはわかった。
その姿勢で、ちゃんとしている遥人くんの目が、その話をすると伝えてくれるような──そんな気がしたんだ。
「あのさ、結束さん」
「?」
「忘れ物が多いなら家から一緒に行けばいいし、それでも忘れたのなら取りに戻ればいい。
時間通りに来れなければ明日行けばいい。明日だめなら明後日でいい。スケートやるのはいつだっていいじゃん」
「……でも、それは」
「?」
「遥人くんがいやな気持ちになる。……それに、迷惑だって」
「ならないし、かからないよ」
そして、遥人くんはそのままわたしの心配事を。
遥人くんにしたくなかった迷惑をかけて、いやな気持ちにさせるということを「ならない」と「かからない」の二言でかたづけてしまった。
うそだって思った。
そんなこと、あるわけがないって思った。
それでも、遥人くんの目は全く変わらなかった。
からだも、ことばも、目も、なにもかも。
何も変わらずに、まるで正直な気持ちだけをぶつけるかのように。
そこに遥人くんはいた。
いつもの遥人くんのようで、少しだけ違うようにも見える遥人くんが、そこに座っていた。
「結束さんはさ、遠足の準備とか遠出、旅行の準備すんの楽しくない?」
「え!?えっと……」
「俺は楽しい。遠足に何持っていこうかとか、新しい場所で何して遊ぼうかとか、そういうことを考えるとめちゃくちゃワクワクしてくる」
急に変な方向にいく話も、今日はなぜかつながっているように聞こえる。
遥人くんの話し方のせいかどうかはわからない。話し方ひとつでこうはならないと思った。
理由なんて、まるでわからない。
それでも、どこかつながっているように感じる暖かさがあって。
その声に耳を傾けるわたしの心の中に残っていた「ごめんなさい」と言い続けてしまう気持ちが、どんどんあたたかくなっていく気がして。
「フィギュアスケートも同じだ。明日は何しようかとか、どんな練習しようかとか。とにかく興味があることに対して予定立てて、一生懸命楽しむのが好きだ」
「……」
「結束さんと遊ぶことだってさ。
まあ色々。なにするかとか考えたり、どんな遊びしようかって考えて、それがめちゃくちゃ楽しくて……まあ、それが瞳ちゃん先生に煽られる原因になったんだけど」
その時、わたしの中で遥人くんの『暖かさ』の理由に気付いた。
「楽しかったよ。あれしよう、これしようって考えることも、準備も、予定立てることも。結束さんとスケートするって目標のひとつのためにあれこれ考えるのは幸せな時間だった」
「……!」
「だからさ。仮にこれから遊ぶってなった時に、結束さんが予定やものを忘れたり遅刻したりするとして。
──それなら俺は結束さんと一緒に帰り道であーだこーだと話をするし、何度だって迎えに行くし、忘れ物したんなら一緒に取りに行ってやる!」
最初、うそだって思った。
誰だってこんなことされたらいやだって、思った。
けど、遥人くんはそんなことはないって言ってくれた。その理由をわたしにも分かるように話してくれた。約束したことを、本当に楽しみにしていてくれていることが分かった。
遥人くんの目が、わたしをずっと見ていた。
笑っていた。苦笑いでも気をつかう時に浮かべる笑みでもなんでもない、いつも通りの遥人くんらしい、朗らかな笑みでわたしを見ていた。
「俺がやりたいからそうするんだ!迷惑とか絶対ないから、そこんとこよろしくゥ!!」
うそなんかじゃない。
「……遥人くん」
「まあウソついたらキレるんだけどね結束さん」
「え!?」
「頬をむにむにする」
「や、やらないで……!!」
思わず頬を抑えてぼうぎょの姿勢を取ったわたしを、笑いをこらえた遥人くんが見る。
遥人くんが嫌がるようなことをする人じゃないのは分かっていて、うそだってついてたわけではないから本当にされるとは思ってなかったけど。
それよりなにより、温度を取り戻した頬がかーっとあつくて。
それがどうしてなのか分からないけど、なんか見られるのはいやで。
そんな気持ちから思わず頬を隠したぼうぎょのわたしは、結局遥人くんに笑われてしまって。
さらに熱くなってしまった頬を冷やすように手で守っていると、遥人くんがその笑みを少しだけ挑戦的に歪めて、つづける。
「そもそも俺が楽しいとか楽しくないとか、そんなの関係なしさ!今の俺が聞きたいのは、結束さんが俺と一緒にスケートしたいか、したくないか!」
「!」
「余計なことは考えなくていい、気持ちの赴くままに言ってくれたらダメでも良い!むしろハッキリ言ってくれた方が気持ちいい!興奮する!」
「興奮するの!?」
「お、知らねえの?俺、キツイ言葉にコーフンする趣味持ってんだよ」
「そんなしゅみ知らないよ!」
遥人くんは、ちょっとおかしなところがある。
勉強はにがてで、スポーツはとてもとくい。
なにより、とても明るいからクラスのみんなは遥人くんを真ん中にして輪を作る。
それが、遥人くんを知る前のわたしの印象。
それだけの印象なら、きっと。わたしは遥人くんのことばも、心も、なにもかも信じることはなかったと思う。
「さあ、結束さん。選択の時だ!!」
「……」
「俺とスケートするか!しないか!どっちなんだい!!」
でも、今はちがう。
遥人くんはフィギュアスケートの話をしてくれる、大切な友達だ。
まっすぐに気持ちをぶつけてくれて、しっぱいをしたら悔しがって、うれしかったら本当に楽しそうにして。
そして、わたしにちゃんと向き合ってくれる。ダメなわたしも、フィギュアスケートを話をするわたしも、たくさん話しかけてくれるし、ほめてくれるし、向き合ってくれる。
そのことばと、こころが。
遥人くんという存在が、うつむいたわたしの目線を前に向けてくれる。
「……やりたい」
そんな友達を。
折角できたフィギュアスケートの友達を、考える中で1番ダメなわたしで裏切りたくない。
遥人くんは、やりたいと思ったことをわたしに伝えてくれた。迷惑じゃないって、わたしがやりたいかどうかを伝えて欲しいって、目を見てそう言ってくれた。
なら、わたしがやらないといけないことは立ち止まって考え続けることじゃない。
前に言ったことばを思い出せ。
あの時の遥人くんがスケートにさそってくれた時、心からそう思って、自分でもおどろいてしまうくらいの早さで答えてしまった、あの一言を。
「……遥人くんといっしょに、やりたい」
「!」
「遥人くんとスケート……したい!」
「──よう言うた!それでこそむちゃくちゃガールだ!!」
そして、そのことばを。
うそなんかじゃない、自分だけの気持ちを。
遥人くんの目の前で、うそにするな。
頑張るって言ったんだ。
スケートをいっしょにやりたいって、言ったんだ。
やらなくちゃ。
応えるんだ。
遥人くんの