別れたあの人を忘れられずに、思わず携帯電話を手にとった私は…

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無題(携帯電話)

 私はくるはずのない電話をずっと待っていた。

 もしかしたら私の着信を見て、かけてきてくれるのではないかと、ほんの少しの望みを抱きながら。そして、そんなはずはない、もう終わった事なんだからと自分に言い聞かせながら。

 

 私達が別れたあの時、私は二度と連絡はしないと固く心に決めたていた。

 それは、私達はもう元には戻れないと思っていたから。戻ってはいけないんだと知っていたから。もし、連絡をとってしまったら、私にとって幸せだった二人の時間を思い出し、必ずまた会いたくなると分かっていたから。

 

 私達の時間は、あの時あの瞬間に終わってしまった。

 あの人が言った、たった「一言」で…

 そして、その「一言」は私達がまえから決めていた最後の約束の合図だった。

 

 そのはずなのに。そう決めていたはずなのに、私はどうしてもあの人の声が聞きたくてたまらなくなってしまった。

 その衝動を抑えきれず、気が付くと私は携帯電話を手にとっていた。そして、あの時から出来るだけ見ないようにしていた番号を探しはじめた。

 私はあの人の名前を胸の中で呼びながら、アドレス帳をゆっくりとなぞっていく。その先には、あの時に私が捨てきれなかった僅かな想いがそこにあった。

 

 私がその名前を選ぶと、携帯電話の画面にはあの人の番号が現れた。私はそれを確認すると、少し惑いながら発信のボタンを押した。そして、そのまま携帯電話をそっと耳元にあてた。

 ほんの少しだけでいい、あの人の声が聞きたい…その事だけで胸がいっぱいになっていた。

 

 電話口には少しの静寂があった。

 その時の私には、それがとても長い時間に思えた。

 この番号はまだあの人に通じているのだろうか。

 それとも、もう…

 突然、静寂と私の考えを切り裂いて待受音が耳に鳴り響いた。それを聞いた瞬間、私はハッとしてすぐに電話を切ってしまった。

 

 怖かった。

 

 もし、声を聞いてしまったら。もし、この電話がつながってしまったら。いままで抑えていたこの気持ちは一体どうなってしまうんだろう。それが、ただただ怖くなったのだ。

 私は一体何をしているんだろう。もう終わってしまった事なのに。いまさらどうにもならない事なのに。まだ、二人だった頃に私達が決めた最後の約束だったから。だから、覚悟もしていた。耐えられると思っていた。

 それなのに、どうして…

 私はそれ以上、言葉を紡ぐ事も出来ず、ただやりきれない想いだけが心に残って離れなくなってしまった。そしてその想いは、はじけるように大きくなり、あの人の名前を呼び、あの人の笑顔を、笑い声を、手のぬくもりを、二人で過ごした愛しい時間を一気に呼び起こした。

 その想いに私は息が詰まって胸が張り裂けそうに苦しくなり、まだ手の中にある携帯電話をぎゅっと握りしめた。

 そして、心の中いっぱいに叫んだ。

 

 会いたい…

 

 

 私は来るはずのない電話をずっと待っている。

 待受画面が消えて、真っ暗になった携帯電話の画面を眺めながら。望みのない期待を抱きながら。

 

 きっと、あの着信音は二度と鳴らないのだろう。

 すべて終わってしまった事なのだから。

 けしてあの頃には戻れないのだから。

 

 もし、この願いが叶うなら。たった一言だけでも話すことが許されるなら。

 もう一度だけでいい。

 伝えたい想いがある。

 

 大好きだよ。

 




初投稿です。(u_u*)
読んでいただけるだけでありがたいです。

2014/12/13 修正。
何度も見直すと、ほんとうに粗末なものだと思うものですね。

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