意味深な事ばっかり言ってたら1000年後の未来に跳ぶ100人の英傑に選ばれた男 作:まだ早い
「わたしとて、全てを思い通りに運べているわけではないよ。それは今の状況が証明しているだろう」
「……どういう事だ?」
次の街に向けて歩く最中。
ミラがそんな事を言ってきたので思わず尋ねるランバート。
今起きている大体の事はミラの掌の上だとしか彼には思えなかったから。事実として、今のところ北側の英傑たちの動向に何の問題も発生していない。
人間なんて、仮に今のような絶滅状態だろうと10人……いや5人も集めたら多かれ少なかれ何らかの問題が起こる物だろう。
ましてや今居るのは普通の人間などではなく、世界から集めた上位100人の英傑たちであり、凡人より遥かに我が強い事なんて自明なのに。
なんて考えていると。
「例えば。最初の日に言ったように本来わたしは自らの手足となるランバートにのみ情報を共有し、他の英傑には可能な限り真っ白な状況で経過観察を行う予定だった。けれど今となっては……という話だね」
「……確かに、それはそうだな」
ランバートは納得したように頷く。
実際、彼女の言う通り今となっては多くの英傑が色々な事を知っている。そこまで昔の話でもなかったというのに、起きた出来事が多すぎて頭から抜けていた。
「この新世界において、あまりにも予想外の事象が起きすぎた。特に2体目の神がいる以上、わたしといえど流石に悠長にはしていられないからね」
そうしてミラはこれ見よがしにため息を吐いてから。
「……どこかの誰かさんたちが大層喜びそうな話だよ、まったく」
(そう言う君も随分と嬉しそうにしているじゃないか……)
ため息を吐きながらも微笑を隠せていないミラに対してランバートはそう思ったが、勿論それを口に出す勇気は彼にはなかった。
そして、確かに新種族や新たな神などについては予想外だったのだろうが、だとしてもミラは即座かつ容易に余裕を持って対応しているようにしか見えないという事もまた口には出せなかった。
……1000年前も自分たちはこんな感じだったのだろうか。
すると彼らの横を歩いているフォビアが。
「そうだったのですね。おふたりが内緒で色々お話ししているのは当然把握してはおりましたが……わたくしも入れてくれたら良かったのに」
「君も君で突っ込みどころがおかしいな……」
思わずといったように突っ込むランバート。
そんな彼を見てフォビアは微笑を浮かべて。
「ふふ。敢えて言うならば。わたくしとしては、ミラ様の目的を知りたいところですが……それは過分なのでしょうね」
「そうでもないさ。ルナたち中央組や南組と決着がついたら、そこで話す事になるだろう」
──ミラの目的。
新世界計画は記憶を消して若返らせた上で未来に跳ばすという代物である以上やり直しがいくらでも効くから、そうして全てを彼女の思うがままに操作するという話だったとランバートは聞いている。
しかし。
(そこまでしてミラが何を達成したいのか。それはまだ聞けていない)
そう。あくまでランバートが知ったのは手段……いや、やり直しを繰り返して世界を自分の思い通りにするというのは神の所業に近い話であり、それ自体を目的と定めたしても何らおかしな話ではないのだが、さりとて相手は人類屈指の能力を持つ存在たるミラだ。
彼女の頭脳と力があるならば、別に何もしなくとも大体の事は思い通りだろう。
故に単にやり直しを繰り返すだけで終わる事はないとランバートは確信していた。
そんな事を内心で考えていると。
「ではついでに。ミラ様、仰る通りじきにわたくしたちは中央の方々とぶつかるという話ですが……そもそも、北側、中央、南側でどういった人員の分け方をされたのでしょうか?」
当然の疑問だった。
これから戦うであろう相手の情報を知るというのはまず最初に行うべき話だから。
というかミラは何故その話を未だにしていないのかとすら思うような話だった。
「ふむ、そうだね……正直な話をするならば、キミたちが情報がない中で実際に会ってからどういった関係を構築するのかを見たかったのだけれども……まあ、仕方ないか。二兎を追う者はというやつだ」
彼女はいつも通り何やら意味深な言い回しをしてから。
「まず最初に。南側は実戦で強い英傑が多い傾向にある。アルベルにアリスリーゼ、紗羅といった上位陣が特にそうだね」
「実戦で強い? それは英雄と呼ばれる存在ならば当然の話に思えるが……」
むしろそうやって勝ち残ったからこその100英傑なのではないかとランバートは考える。
まあ未だ新世界において命を賭けるレベルの戦闘は行われていないから、自分たちがそういった鉄火場でどうなるのかは想像でしかない話ではあるが。
「ふっ……そうだね。とはいえその中でも特にという話だよ。彼らは本番で120%……200、300の力を発揮する、正しく英雄らしい英雄だ。彼らは本来スペック的に敵わない筈の強敵を倒し続けてきた」
そう語るミラは何かを思い出すようにしながら。
「ただし。その分、我が強く……他人の話を聞かない厄介な奴が多い。それこそ先の3人なんて相当な物だよ。例えばアルベルの馬鹿がわたしを裏切ったり、アリスリーゼがフォビアに叛逆したり、紗羅が姉から国を奪ったりね」
全員裏切っていないか?
とランバートは思ったが何も言わなかった。
「前にミラ様が仰られた、わたくしを裏切った娘、ですか。やはり気になりますね。……そもそも論として、わたくしが既に子を持つ母親だった事自体が驚愕の話です」
「ふっ……そうだろうね。繰り返しにはなるが、キミたちが記憶を失った今の状態でどういった関係を築くのか……楽しみにしている事の1つだよ。だからこそ、本来ならアリスリーゼがフォビアを裏切った事すら教えたくなかったのだけれどね」
しゃあしゃあと言ってはいるが、アリスリーゼという名前の皇女はミラの作った組織に所属していた最も優秀な弟子という事はつまり、普通に考えてその裏切りの糸を引いていたのはミラという事になるのでは? とランバートは考えた。勿論、口には出さないが。
「わたくしの娘はともかくとして。つまり所謂『英雄』が集まっているという事なのでしょうけれど……そうなると、集団として纏まるのでしょうか? いえ、そうして争うであろう事こそがミラ様の意図なのでしょうか」
「ふふ。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ただまあ、南側には他にも厄介な奴が居てね。あいつがどうするか次第だとは思うけれど……概ね纏まりはしているんじゃないか?」
ミラが楽しげにしながらそんな事を言う。
ランバートには、その話に少しだけ心当たりがあった。
「厄介な奴……か。100英傑で厄介と言われたら結構な人数がそれに当てはまっていそうではあるのだが、ミラが言うのは例の男か」
「例の男、とは?」
フォビアに聞かれるランバートは、ミラから言われた話を思い出しながら。
「ミラ曰く、人類史上最高の頭脳を持ち……そして『相手の才能を見抜く能力』を持った男がいると聞いている」
「『相手の才能を見抜く能力』……ですか。それは随分と……恐ろしい能力ですね。そのような能力があるならば、最早ほぼ何でも出来るのでは?」
ミラはその言葉に頷き。
「それを一瞬で理解するとは、流石は……いや、これはまだやめておこう。とにかく、そうだね。フォビアの言う通り、その能力は相手の力を推測するのとは訳が違う」
彼女は懐かしむような雰囲気を出しながら。
「既に何かしらで成果を出した者を連れて来るのにはそれなり以上の労力がかかる。100英傑クラスとなれば尚更だ。英雄たちはお金などでは中々動かなかったりするのだから」
それはその通りだとランバートは思う。
例えば、これは極端な例だが……目の前の天上の美女2人を金で動かすなど、間違いなく不可能だと確信できるから。
「しかし、彼の力はそれを容易に解決できる。未だ未熟な存在の『恩人』となる事なんて、あまりに楽勝だからね」
「そうですね。それこそ、子供から見た大人は特に何もせずとも大層な人物に見える物ですから。操る事なんてあまりに容易です」
そんな独裁者らしい事を言うフォビアの言葉にミラは頷いて。
「彼の頭脳があれば尚更だろう。都合の良いマッチポンプなど幾らでも起こせるし……そうして彼は、様々な才能を見出した。わたしとしても、彼に驚愕させられる事は非常に多くてね。懐かしい記憶だよ」
そう言いながら、ミラは苦笑を浮かべる。
──『苦笑』。
それを彼女が浮かべるという事はつまり。
「つまりその人物は、君を何度も出し抜いたというのか?」
「ふっ……そうだね。その通りだよ。だからこそ、わたしは彼を何度も問い詰めたのだけれど、本人はその能力の事を決して認めようとしなかったんだ。まあ流石に実績がありすぎて、その誤魔化しはあまりに白々しく無理がありすぎたけれどね」
ランバートはその言葉に戦慄の表情を浮かべる。
このあらゆる能力が高すぎるミラを何度も出し抜き、そして白々しい態度を取り続ける……一体どんな能力と、そして勇気を持った英雄なんだと考えて。
「ミラ様を……なるほど。確かに凄まじい能力ですが……しかし、それは英雄だけが残るこの新世界においてはあまり役に立たない能力に思えますが。ミラ様に記憶がある以上、尚更無意味な能力に思えますね」
確かにそうだとランバートは思った。
何故なら、今この新世界に残るのは才能の原石などではなく、既に実績を残した世界最高の英雄たちであり。
そしてミラには記憶がある以上、100英傑の才能は既に見知った物であるわけで。
だとしたら、ミラは彼が得るであろうアドバンテージを既に持っているという事になる。
すると、ミラはあっさり頷きながら。
「ああ。確かに、この新世界においては旧世界ほどの猛威を振るうような能力ではないだろうね。ただし、彼の最も恐ろしい点は、その能力ではなく……人類史上最高の頭脳を持つ点だよ。結局、誰しもが彼に出し抜かれたのだから」
「……わたくしとしては、人類史上最高の頭脳とは、ミラ様の事を指す言葉だと思っていたのですが」
ランバートもかつて同じ事を言った。
実際、目の前の女を超える頭脳というのは中々考え難い物がある。
ミラはあまりに何でも知りすぎているし、天使などの不測の事態にも悠々対応する、言い過ぎかもしれないが全知全能に近いとすら言えるスペックを持っているように見えるから。
「まあ確かに、頭脳と一言では言うけれど……研究や魔法、知識などの観点ならばわたしの方が上だよ。ただし策謀という意味ならば、間違いなく彼の方が上だと断定しよう」
「……なるほど。正直な話、わたくしとしてはミラ様以上というのは未だミラ様の謙遜としか思えませんが……そうだとしても、それ程の方が居るというならば、南側の英傑たちもその方を中心に纏まっている可能性が高いという事ですか」
「そうだね。実際、未だこのエデンが存在しているという事から踏まえても、南側の英傑たち同士での争いは起きていない可能性が高いだろう」
「それはそれでどうかと思う判断材料だな……」
ミラの言う事をそのまま受け取るならばつまり、南側の英傑たちは、放っておけば見境なく暴れる蛮族みたいな人たちという事を意味していそうな言い方では? とランバートは考えたから。
実際これまでの話を聞くかぎり、少なくとも、フォビアの娘兼ミラの弟子であり、ランバートと共にルナを育成していたアリスリーゼという人物はかなり『アレ』な人物である可能性が高……いや、やめておこう。
「ふっ……まあ、南側の英傑たちについてはこんなところかな」
そうして、ミラは次なる英傑たちの話をする。
「北側の……つまりわたしたちの傾向としては、よく言えば安定していて、しかし悪く言うならば、自分の限界を超えたりはあまりしない英雄が多い」
「……南側の英傑たちとは真逆の評価だな」
思わずといった感じで漏らすランバートにミラは頷き。
「ああ。例えばキミが正しくそうだろう。その代わり、言う事は素直に聞いて扱いやすい」
「……そうか」
その評価は全く褒め言葉には聞こえなかったが……とはいえ今更それを突っ込んでも仕方がない。
「中央組は、その中間かな。まあ良くわからない変な奴も複数居るわけだが……北側の英傑たちの評価もだけれど、中央組の話もまた今度にしようか」
ミラがそうして話を一旦締める旨の発言する理由は。
「そろそろこの街……セイレムの街の中心部ですか」
フォビアが言うように、3人は今回の旅の一旦の目的地に到着しようとしていたから。
何故、3人がセイレムという街の中心部に向かっているかというと、街を騒がせている噂を耳にしたから。
「突如現れたセイレムの英雄……間違いなく、人類なのだろうな」
噂によるとつい先日、セイレムの街をどこからかやってきた1つ目巨人の群れが襲撃してきたらしい。
この街の戦力で勝てる相手では到底なく、すわ滅亡かと街は恐怖に包まれたのだが……そこに、奴らを1人であっさり撃退する英雄が現れたのだとか。
状況的に、その英雄が100英傑の1人であろうという事は自明すぎた。
「そうでしょうね。そして、ミラ様によれば地理的に考えた場合居るのはわたくしの娘の1人にして序列8位の将、ですか……これからお会いするのが楽しみです」
フォビアの言う通り、この先にいると思われる英雄は、100英傑の中でも序列8位に位置する大英雄であり、フォビア自身の娘だという話だった。
「ミラ。君の話によると、彼女は100英傑の中でも5本の指に入る凄まじい特殊能力を持つという事だったが……」
100英傑序列8位、エリスリーゼ。
彼女はフォビアの長女であり、世界最強の軍隊を率いる大将軍だったと聞いている。
「ああ。あれはルナの未来予知などと比べても遜色ない最強格の能力だよ。むしろ、誰が持っていても強いという意味ならば、未来予知以上に強力と言える」
「誰が持っても強い、か。その言葉からすれば逆もあるという事なのだろうが……いまいち想像しにくいな」
どんな能力だろうと、ないよりはあった方が強いだろうし……何より、ランバートが接してきた人類は皆一様に自らの力をうまく活用する人材だったから。
「例えば、聖者殿の持つ『物に魔力を込める』能力が顕著だね。くだらない輩の魔力を込めたって何の意味もないだろう?」
「なるほど……そういう事か」
「つまり、わたくしの娘が持つのはそういった類の力ではないという事ですか。ますます気になりますね」
「実際、新世界においては更に有効性が高まる能力の1つだと思うよ。彼女がいるいないでは根本的な戦略が変わるだろうね」
「そうなのですね……」
なんて各々話しながら歩く。
──世界最強の軍人。
どれほどの人物なのだろうか。
厳格な武人……或いは求道者のような存在なのだろうか、などとランバートとフォビアは考えを巡らせながら。
そうして、3人の目の前に現れたのは。
「漆黒の闇より出ずる我が同胞よ……遂に現出せしめたか……!」
「うん。とりあえず……お前は誰だ??」
右手を左眼に翳すポーズをしながら物凄い痛い発言をする女だった。
〜100英傑の書〜
第七編
『天眼の羅刹姫』
紗羅
性格:冷静 理知的
好きな物:茶 焼き菓子 鍛錬
嫌いな物:凡人
戦闘タイプ:万能魔法剣士
人物評:
『煽動者』が連れてきた大和の姫君たる彼女は、我は強かったが来歴を考えると意外な程に理性的であり、自らより優れた才能を持つルナに嫉妬せずむしろ妹のように可愛がったり、結局のところ姉の紗代を殺さなかったりした。
姉から国を奪ったのも憎しみなどの理由ではなく戦争に勝つ為には政宗と侍が必要だと冷静に判断したためであり、彼女が打ち出した策自体は冷酷無慈悲なる物ではあったが、自らの師の1人である『煽動者』譲りの極めて合理的な作戦だった。結果として紗羅は圧倒的戦力差を覆し、世界に名を轟かす大英雄と呼ぶに相応しい成果を挙げた。
個人的に紗羅の才能限界は現時点でのアリスリーゼとほぼ同等の力程度だと考えている。しかし誰からしても、このわたしからしても予想外だった『百万獣の支配者』の打倒を為した紗羅であれば『至天の槍皇』……いや『神殺し』すらも超える可能性も僅かながら期待できるのではないかと考えている。