或るMSと少女の話
公式に情報で殴られてますが生きてます。
サイド5近傍宙域
チベ級巡洋艦ティラン士官室
私は、落ちこぼれだ。
フラナガンスクールは卒業できた。落第ギリギリで。
だから私はこんなオンボロ艦に乗っている。
「はぁ……」
「見ろ……あいつが噂の……」
「フラナガンスクール行っても劣等生じゃあなぁ……」
「恥晒しにもほどがあるぜ……俺なら生きてけないね……」
「「ハハハハ……」」
こんな罵倒にはもう慣れっこだ。
MSの操縦はド下手、旧式のベータサイコミュしかうまく扱えず、体力も平均以下。
ジオンの動く恥晒し。出来損ないの劣等生。
……まぁ恥晒しも出来損ないも、今に始まった話ではないからいいのだけれど。
サイド5付近・重力安定圏
ジオン軍研究所
「……ところで、なんで私がこんなところに?」
「まぁ見てもらった方が早いよ少尉」
頭髪規程に抵触どころか真っ向から抗うかのような長髪を揺らす所長の後ろをおっかなびっくりついていく。
彼女のパンプスの音が嫌に耳に響く。
正直怖い。
そんなことを考えているとけたたましいサイレンと共に赤色灯が回転しだす。
『所長!敵襲です!』
「数は?」
『海賊が30!!リックドムが4分の1ほど、残りは全てザクです!』
30!?それに海賊の癖にリックドムもいるの?!
「……少尉、急ぎたまえ」
「は、はい!」
研究所内格納庫
そこは何もないように見える真っ暗な格納庫。
私が暗闇に困っていると所長が明りを着けた。
そこにあったのは見たこともないMSだった。
ガンダムやそれをベースとしたゲルググよりも明らかにマッシブで肩幅が広く、脚も太い。どちらかと言えばドムに近いような。いや、ドムとガンダムを足してガンダム要素を減らしたような機体だった。
あと、後ろ側のスカートがすごく大きい。
「これは……?」
「YMS-14Pサイコミュシステム試験機。先の独立戦争の折、ザクの後継となるべく開発されていた機体に新型のサイコミュシステム……厳密にはサイコミュを用いた新型無人砲台を搭載した機体だ。出来損ないの試作機に、未完成のシステムを載せた問題だらけの機体、といった具合だな」
「なんでこんなものが……というか条約違反では……」
「さぁな。ジオニックのエンジニアか当時の開発責任者にでも聞いてくれ。それにこんな試験機にまで目くじらを立てるほどどこも余裕が無いらしい。」
それでいいのか我が国は。
「さて少尉」
YMS-14から目を離さずに、所長が強い口調で言う。
「ッ…………」
生唾を飲み込む音。これは私が発した音だ。
「敵は目前。こちらの戦力はこれを除けば延命措置を施したザクが6機、先の戦争で鹵獲した軽キャノンが1機、あとはせいぜい足しにもならない宇宙戦闘機がざっと10くらいだ……やるかね?」
「で、でも私は……」
サイコミュも満足に扱えない。MSの操作も下手くそ。ましてや初めて乗る試験機。他の人が、それこそこの機体のテストに当たっていたパイロットの方が絶対に相応しい。
「ユイ・ツキミ少尉。君、ベータサイコミュまでは扱えたな?」
「え?あ、はい……それでも他の形式よりはってだけですけど……」
「この機体のサイコミュはそのベータサイコミュだ。それに空間の把握能力はかのエグザベ少尉と劣らないと聞いている」
つまり、と所長は一言おいて
「この機体は君でもやれる機体ということだ。ちなみに、前任者は既に退役しているから頼ろうなどとは思わないことだ」
……私が動かせるのなら、私でも動かせるのなら、私しか動かせないのなら。
「……やります。やらせてください!」
「よく言った」
昔、理科の教科書の写真で見た三日月。所長の口はそれと同じ形をしていた。
この機体―――将来授かる予定だった名前はgMS-01に付いている物と同じ「ゲルググ」、というか本来はこちらが授かる予定だったらしい―――のコックピットは試験機と思っていたよりも、というかほとんど
「……ザクと同じなのね……」
『まぁそういう時代の機体だからな。さて、簡単な調整しか施していないが、やれそうかね?』
「……はい、いけます!」
『よし、ハッチ解放!出すぞ!』
「ユイ少尉、ゲルググ、行きます!」
スロットルを全力で押し込むと、強い加速が私をシートに叩き付ける。
「操作感もザクと似てるけど……パワーが全然違う……!」
若干の太さを感じた外見からは想像もつかないような機敏な加速と方向転換。
ゲルググ…あなたもこんなところで腐っていたくないのね…。
『ふむ。調整は簡単な物だったが何とかなっているようだな。敵は貴機の12時方向、上下角の開きの無い、文字通りの真正面にいる。頼んだぞ。我々も最大限支援する。まぁするとしても艦砲射撃だから当たるなよ?』
まぁ武器らしい武器といえばサイコミュとビームライフルと、ナギナタとかいうビームサーベルモドキだけどやれることをできる範囲でやるだけ。
「はい……!」
私は集中する。
正直あまり得意ではないけど、それでも誰かがやらなきゃいけない。
頭の中をクリアにして、心を静まらせる。
途端、ゲルググという境、私という境は消え、
30機の位置、速度、自分との距離……そしてそのパイロットの心が見える。
そこから聞こえる声に吐き気を覚えつつも、何とか平静を取り戻し
「……行って!ファンネルビット!!」
機体のスカートから小型砲台―――ファンネルビットというらしい―――を6個放出した。
赤いガンダムが用いたビットをより小型化したもので、ビットからジェネレーターを取り払い、砲撃機能に特化させた新型の試作品。
扱ってみるとビットよりも動きが軽く、砲撃位置までの移動という意味では使いやすい。
そんなことを一瞬考えながら、私はより深く集中する。
狙うはバックパックただ一つ。
一撃で吹き飛ばせて、狙いがつけやすい。
向こうのパイロットの声がもっと聞こえる。
だんだん大きくなっていく。
怖い。気持ち悪い。でもやらないと誰かが死ぬ。
必ず死ぬ。
だから私は
「……ッ!そこだぁぁぁぁっ!!」
ファンネルに死の光線を放つよう命じた。
6個で30機だから1個につき5機。連続照準。
サイコミュを介して流れてくる彼ら彼女らの断末魔。
頭が割れそう。きもちわるい。
『少尉、敵の追加だ。そちらにはザクと軽キャノンを向かわせた上でチランによる艦砲射撃も叩き込んだが如何せん芳しくない。行けるか?』
「いけ……ます……!」
ファンネルを回収しながら敵に向ける。
エグザベ君ならもっとうまくやレてルはず。
彼はとてもゆ宇秀だから。
わたしには到テ居まねできない。
だけど
「でキる範囲で……やるだけ……ッ!」
追加で出現したザクは14機。
連続照準。撃ったら位置を変えて標的を変えて。
ぱっと色づく爆炎と断末魔。
恨み節、なんでこんなことに、話と違う
死への恐怖。
もう……むり……。
「ひぎぅ……うぅ……うぁあ……」
『少尉?どうした?』
うるさい……うるさいうるさいうるさいッ!
「うぅるさあああああああああああああいッッッッッッ!!!」
『おい少尉!落ち着け!』
「わたしに……入って……くるなぁぁぁぁぁあぁあぁぁ!!!」
ぜんぶまわりのk_/@p@;jia1-@-&%$jkoi
『……尉!え……い!キルス……チ!早く!』
「ぐぁっ!?」
執務室
私は惜しいことをしたのかもしれない。
「……なるほど。彼女は出来損ないでも恥晒しでもなかった訳か。」
YMS-14の戦闘データ、それはこの機体と新装備のポテンシャルだけでなく、少尉の秘められた力も示していた。
彼女は他のサイコミュが使えないのではない。
感応性が高すぎる故にリミッターが働いてしまう。ゼクノヴァを二度と起こさない為、そして何よりも搭乗者の脳を保護するためのリミッターが、彼女にとっては邪魔な障壁でしかなかった。
初期のサイコミュ、それもリミッターが緩めにセットされた物にのみ反応を許された少女……か……。
特異点。生まれ持った適性。才能。
正しく、神の祝福。
「全く。私は無神論者なのだがね……」
私は執務室の戸を開け、格納庫に向かう。
「さて、ファンネルの調整をしないとな……実験用に戻さねば」
隔離室
「あぁ……おぉ……」
ほし
が…
…みえ
る……。
き
れーで……きら
き
らで……。
「ふふっ……ふふふふふ…………」
各種設定
人物
ユイ・ツキミ
女性。ジオン軍少尉。フラナガンスクール出身のニュータイプ。
ただし、落第ギリギリで卒業した劣等生。
そのため、「ジオンの恥晒し」、「出来損ない」として軍内部の一部で有名。
「所長」
女性。サイド5付近にあるジオン軍の研究所の所長
頭髪規程を無視した長髪の持ち主
機体・艦船
YMS-14P「新型サイコミュシステム試験機」
開発中止となったジオン軍のYMS-14(将来的にはゲルググの名を授かる予定だった)に、赤いガンダムのビットをより小型化した新型システムを搭載した試験機。
小型化した砲台は、その特徴的な見た目から漏斗(ファンネル)と名付けられた。
条約違反の塊のような機体だが、現状は誰からも咎められていない。
チベ級巡洋艦ティラン
チベの同型艦。既に旧式。