オモチャな超人2人が、知らないオモチャの怪獣と出会うお話。

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【注意】
本小説はPoppy Playtime - Chapter 4のネタバレが含まれています。
了解した方のみお読みください。


Hobby's Pray time

「――怪獣だと?」

 

 魔界の王子(プリンス)、アシュラマンは兵士からの報告を受けていた。

 

「はっ。怪獣が人を襲って食料を奪った後にどこかへと去っていった、との報告が立て続けに何件か入っております」

 

 被害をまとめた書類のうち一枚を取り上げ、ざっと流し見る。

 怪獣出現箇所周辺の建物への損害は軽微。住民らの怪我は転倒ぐらいで、人間を狙って積極的に攻撃をしているわけではなさそうだ。

 

「怪獣が暴れているにしては妙に人間味があるな。超人ではないのか?」

 

 現在はアシュラ一族の統治によりマシになってはいるが、魔界は力が無ければ生きていけない世界だ。

 

 ……住み良いところか、と問われると即答はできない。昔、彼の家庭教師をしていた男が道端で起きていた犯罪行為に目を覆うほどに治安が悪かった記憶がある。

 

 改善はできても、根本はそう簡単に変わらない。

 生存競争に負けて地上から追いやられた怪獣がココに逃げてきたところで、魔界の住人の晩御飯として狩られているのがオチだ。何らかの理由で超人がやってきて窃盗行為で生き延びている、の方が納得できる。

 

「目撃証言からするに、怪獣で間違いないかと」

 

 曰く、軟体。

 曰く、無数の腕。

 曰く、四足歩行。

 曰く、いかなる攻撃も通じない。

 

 写真はないが証言による想像図が作られている。なるほどイラストで見ると確かに怪獣に見えるが、怪獣のように見せかけた超人の可能性は否定できない。

 

 超人の能力は千差万別。変身するものなど珍しくともなんともない。同僚である六騎士の中にはあらゆる爬虫類への変身が可能な超人がいるため、変身を悪用する者への対処法を参考までに聞いておくか、とこの後の予定を追加する。

 

「ふむ……巡回する兵士を増やしておけ。警備の穴を作らぬようにな。怪獣への対処は7人の悪魔超人らに任せるとしよう」

 

「はっ。承知しました、坊ちゃま」

 

 兵士は一礼し、その場を去った。

 

 装飾よりも実用性を重視した、無骨な街並みの中に紛れる正体不明の脅威。

 はたして怪人なのか。超人なのか。……どちらか分からぬ謎の存在へとアシュラマンは思いを馳せていた。

 

 

 

 悪魔超人たるもの、日々鍛錬を重ねることの重要性は知っている。

 同様に、休息の重要性もまた知っている。

 

「ケケケ〜♪」

 

 四角いシルエットが鼻歌混じりにご機嫌に揺れる。

 その男は異形であった。

 一言で言うならば、それは巨大なカセットプレーヤー。しかしただのカセットプレーヤーではなく、その巨体に見合うランドセルを背負っている。

 

 彼こそ7人の悪魔超人として恐れられた超人、ステカセキングだ。

 両腕いっぱいの紙袋には質よりも量で選ばれた安価な菓子がたんまりと詰まっている。

 

「おいおい、教官に怒られてもしらねぇぞ?」

 

 隣を歩く男もまた異形であった。

 一言で言うならば、それは巨大なバネ。歩きによる振動で身体を構成するスプリングがギィギィと軋み、金属音を発している。

 

 ステカセキングと同じく、彼も7人の悪魔超人の一人である。名をスプリングマン。

 

 鬼教官、スニゲーターよりオモチャみたいな風体と呼称される二人の見た目は悪魔らしく恐怖を与えるもの……ではなく、可愛らしさが勝る。

 ひとたびリングに上がれば悪魔と呼ばれるに相応しい戦いぶりを見せるのだが、今は自由時間、地獄の猛特訓を終えた後に与えられたオフの日である。

 

「あの変身ができたんだから自分へのご褒美ってことで許してくれるだろ」

 

「……まぁ、確かに俺たちはメシがそこまで脂肪にならねぇからなぁ」

 

 無機物系の超人は体型が変わりにくい。超人の体には謎が多いため断言はできないが、体を構成する物質にタンパク質が少ないからではないかと推測されている。

 

「かといって! 菓子だけで腹一杯にしようとするんじゃねえぞ! 前もそれで怒られてたんだからな」

 

 見た目年齢相応にはしゃぐステカセキングへ、見た目からは想像もつかぬほどに長命なスプリングマンは忠告として釘を刺しておく。

 

 ステカセキングは注意をしっかりと受け止めることはほとんどない。何度も指摘された悪癖を改善するために二週間延々とボコられ続ける必要があったぐらいだ。

 なので今回もステカセキングの内心としては、そこまで言わなくたっていいじゃねえのジジイ……とまともに取り合うつもりはなかった。

 

「へいへい、わあってるって」

 

 適当な返事。これから楽しい時間が来るんだから説教で水を差さずに楽しませてくれよ、と進もうとして……ふと、足が止まった。

 

「う、ううう……」

 

 声がした。

 路地の奥、暗がりの向こうで誰かが泣いている。

 

「どこなの、ママ、パパ……」

 

 鼻を啜る音までしてきた。迷子だろうか。なんとなく放ってはおけないな、と音がする方へ寄る。

 

「あ、おい、どこ行くつもりだ?」

 

「迷子のガキンチョがいるんだよ」

 

 おもちゃと揶揄されることもあるステカセキングだが、子供は嫌いではない。

 

 残虐に、かつ極悪なファイトスタイルである悪魔超人としては純粋な応援よりも罵倒が心地よいエールとなる。純粋無垢な子供のファンなんてついた日には蕁麻疹が出てくる者もいるかもしれない。

 

 でも、悪魔超人だからって無理に嫌われようとしなくてもいいんじゃねえの? とステカセキングはマイペースを貫き続ける。悪魔超人だから嫌われるのは仕方ないとしてもファンがいて損になることはないだろ、と同僚たちへ珍しく正論をぶつけたこともある。

 

「どうしたんだ?」

 

 声が聞こえた方向へと進んでいった路地の奥、暗がりの影の中で動いているものがあった。

 

 ステカセキングの身長は214センチメートル。横幅も相応にあるため真正面からだとかなりの圧がある。なので子供に対して圧を薄めるべく膝を折って声をかけた。

 

 その子供――いや、子供みたいな声を出していた彼は大きな体をぎゅうっと丸め、うずくまっていた。

 

 頭にはチャームポイントなのだろうちいさな帽子がちょこんと乗っている。

 水色をメインに黄色とオレンジと赤の暖色がカラフルに混ざっている。伸ばした腕のようにも見える模様だ。

 

 声に反応してこちらを見上げ、顔がよく見えるようになった。

 子供が粘土遊びで作るような、とってつけたような二つの大きな丸い空洞は目だろう。口と思わしき溝は悲しみからくにゃりと曲がり、そこからぐずり声が漏れてくる。

 

「あれ……おもちゃ?」

 

「えっ? オレのことを知らないのか、珍しいな」

 

 彼の口から出てきた言葉は名前や肩書き、所属ではなく見た目のみ。新鮮な反応に思わず元々丸い目を更に丸くする。

 

「おもちゃ……ああ、お前も――あいつらの仲間なのか?」

 

 声色が変わる。涙でぐずる声から、激情の満ちた怒号に。真っ赤な牙をむき出しにして唸られ、ステカセキングは思わず後ろへと下がる。

 ばちん! 唐突な衝撃音で怒りは途絶える。それはさっきまで泣いていたはずの彼が自分自身を殴った音だった。

 

「違う、違う。ボクのせいだ……ごめんよ、みんな、もっとちゃんとできていたら」

 

 かと思えば頭を抱えて何者かに懺悔を始める。

 

「だ、大丈夫か? オヤツ食うか?」

 

 情緒不安定。コロコロと変わる態度が心配になって、紙袋から一つ菓子を取り出して差し出す。

 

「あ、あああ! いやだ、嫌だ嫌だ!! 嘘つきめ! 優しい声は嘘つきだった! あいつも、オマエも、みんな!!」

 

 混乱の最中にいる彼は差し出された手ではなく、ステカセキングへ目掛けて力強く腕を振るった。

 回避できなかったステカセキングは壁に衝突し、抱えていたものが全部散乱する。

 

「ステカセ!」

 

 痛みでゲホゲホとむせているが体に目立った外傷はない。取り敢えずは無事なようだ。すぐには立ち上がれなさそうなステカセキングへ肩を貸すべくスプリングマンは駆け寄る。

 

「許さない、許さない――!」

 

 ステカセキングに手をあげたそれは苦しそうに頭を抱え、前のめりに倒れ――四つ足で大地を踏みしめる。

 体積が増える。

 体が伸びる。

 背中から新たな腕が生える。

 

 大きく開いた口の中から見えるのは丸い頭。表情まではっきりと見えるのが三つも。

 さらに人間の腕が六本飛び出ている。開いた口を押さえるようにしているのが四本、こちらに向かい伸ばしているのが二本。

 

 ――まるで、蛇が人間を丸呑みにしているようだ。

 

「ウググ……なんなんだよ一体!」

 

「みんなみんな、壊してやる――!!」

 

 不吉なことを口にし、青いバケモノは天に向かって咆哮した。

 

 ……ぐるり、と首がこちらを向く。

 怒りに満ちた目が二人を捉える。

 

「マズイ」

 

 そう呟くと同時、二人は全速力で背を向けて走り出した。

 

 背中の腕をぶんぶん振り回し、建物を破壊しながら迫るバケモノ。

 崩壊に巻き込まれたかバケモノの姿を見て恐怖したのか判別できないが周囲の住人の悲鳴が聞こえてくる。しかし皆を守れるほどの余裕はない。

 

 バケモノに狙われているのは自分たちであると、あの目に睨まれた時に察したからだ。

 

「なんだよこいつ!?」

 

「超人じゃなくて怪獣だったのかよあのガキンチョ!」

 

「逃げるな、嘘つきがァア!!」

 

「ちょっ、てめ、危ねぇじゃねえかっ!」

 

 まっすぐ突っ込んで来たのをステカセキングはジャンプで躱す。

 真下に怪獣の頭が来たのを確認し重力に従い落下。足で相手の頭部を挟み込む。

 カチリ、と側面のスイッチを押せば爆音が流れ出した。

 

「何がそんなに許せねぇのかはわかんねぇがとりあえずオネンネしときな! 地獄のシンフォニー!!」

 

 最大100万ホーンという圧倒的な音で相手を昏倒させる、ステカセキングの必殺技が放たれた。

 

 が。ぬむり、と異様な音がして体勢が崩れる。

 

「ゲゲッ、体が埋まる……っ!?」

 

「離れろステカセ!」

 

 異常を察知したスプリングマンが助けに入る。助走をつけて怪獣の頭を蹴り飛ばし、その衝撃でステカセキングも吹っ飛んだ。

 

「ウギャアアア!?」

 

 矢の如く放たれたドロップキックによる痛みに悶え苦しみ、吐血しているのを見るにちゃんと生物のようだ。

 

「大丈夫か!?」

 

「ウゲーッベトベトが入り込んでる」

 

 助けてくれた感謝よりも己の足の裏、ヘッドホンの穴の内側の方が大切なようで、必死に掻き出そうとしている。そんなことしてる場合か、とスプリングマンはステカセキングの腕を引っ掴み無理やりまた走らせる。

 

「立ち止まってたら危ないだろうが!」

 

「だってよ、音の響き悪くなるじゃねえか……。でもわかったぜ、あのゾワゾワする感触、あいつの体は粘土とかスライムみたいなモンでできてる!」

 

「そーか……なら普通の攻撃じゃ効果はないみたいだな」

 

 自在に変形する相手に殴る蹴るは効果が薄い。

 

「オレの螺旋解体絞りでバラバラにしちまえば、なんとかなる、か……?」

 

 倒す策を練る間もガシャガシャギシギシうるさく走り……ステカセキングのスピードがゆっくりとだが落ち始めている。

 

「もっとスピード上げろ!」

 

 弾性を活かした走りを見せるスプリングマンとは対象的に、ドタバタした印象のある動きで必死に追いつこうとしている。

 

「なんかあるだろ、こう、素早い超人に変身するとか!」

 

「走りながら、ゼィ、なんて――砂利が入っちまうだろーが!」

 

「こんなときに気にしている場合か!?」

 

 命の危機だというのにためらいを見せる同僚に対して怒りを露わにする。

 

「うるさい! あまりにもうるさすぎる――!」

 

 そんな彼を狙い、バケモノは跳躍してのしかかろうとして――空を舞う無数の黒い影。

 

「8メンブラックホールキック!」

 

「マウンテンドロップ!」

 

 変幻自在、四次元殺法の使い手。

 超重量級、剛力無双の大山。

 

「ブラックホール!」

 

「魔雲天!」

 

 上空からの奇襲によりバケモノは大地に縫い付けられる。

 突然の助っ人に戸惑った二人だが、助力はそれだけでは終わらない。

 

「マキマキ〜!」

 

「こっちだ! アトランティスミスト!」

 

 ネメスを被った男の眼が怪しく光ったかと思えばバケモノの動きが止まり、緑の肌の魚人の体表から噴出された白い霧が皆の姿を覆い隠す。

 

「だああ、水はやめろ錆びちまうよ!」

 

「つべこべ言わずにこっちに来い!」

 

 文句を吐く元気があるなら問題ないだろう。アトランティスは手近な建物内へと案内し移動させる。

 

 

 7人の悪魔超人が全員――いや、正義超人になってしまったリーダーを除いた全員がここに揃った。

 

 

 ……外は唸り声がする。あれだけの攻撃を叩き込まれたにも関わらずオモチャ二人を探し回っているのだ。

 ミスターカーメンの必殺技の一つである怪光線は永遠に効力があるわけではない。このまま隠れていたところで見つかるのは時間の問題だろう。

 

「なんで皆揃ってるんだ?」

 

「そうか、お前らはまだアシュラマンから聞いてないのか……7人の悪魔超人へ怪獣退治を任されたんだよ」

 

 ステカセキングの疑問へはブラックホールが答える。オレ今日オフの日なのに! と悲鳴をあげたがそれに構うものは居ない。

 

「あれだけの騒ぎになってりゃ、そりゃ全員集まるのも簡単だな」

 

「先に戦っていたようだが、どんな怪獣だった?」

 

「粘土とかスライムとか、そういったもので体ができてる怪獣だったぜ。今の姿も変身してなったものだから、自由自在に体を変形できる可能性は高い」

 

「事前情報通りだが……本当に怪獣、だったんだよな? でもあの香りは……返り血の可能性もあるが……」

 

 ミスターカーメンが首を捻る。時間があれば得意の占いで弱点なり攻略法なりを導けるがそんな暇はない。気になる点はあるが、それよりも優先するべきは怪獣退治だ。

 

「あっそうだ、燃やせばいんじゃね?」

 

「アホか。ココは市街地だぞ」

 

 良案を思いついたようなそぶりでとんでもないことを言い出したステカセキングだが、ザ・魔雲天に当然のように嗜められる。

 

「バラバラにさえできれば倒せるはずなんだが、動きをどうやって止める……?」

 

 ああでもないこうでもない、と悪魔らしく策を練ること十数分。怪光線による硬直はすっかり解け、自由に動き回っている青い怪獣を見つけるのはそう難しくはなかった。

 

 最初に会敵したのはブラックホール。オモチャ二人を助ける際の攻撃により敵として認識されたようだ。怪獣は猛然と突進してくる。

 

「ロケーションムーブ!」

 

 なんの捻りもない突進程度処理できずして何が超人レスラーか。怪獣の真上に転移して回避する。

 ブラックホールの顔の穴から現れたのはザ・魔雲天。

 

「マウンテンドローップ!」

 

 体重1トンの巨体がのしかかり、さすがの怪獣も動きが鈍る。背中から伸びる腕で退かそうとするが、それを遮るものが一人。

 

「ミイラパッケージ!」

 

 マスターカーメンが腰布を広げ、うごめく腕をひとまとめにしてきつく縛り上げる。

 

「ケケーッ! ウォーター・マグナムーッ!」

 

 アトランティスの口から放出された高圧の水流が怪獣全体をくまなく濡らしていく。

 それぞれ必殺技を使用した三人は怪獣から離れ合図を送る。

 

「お膳立ては済んだぜ、やっちまいな!」

 

 残るはステカセキングとスプリングマン。先に動いたのはステカセキングだ。

 

「新・超人大全集!」

 

 背負ったミラクルランドセルから取り出したカセットを己の体へとセット。

 

「変身、マンモスマン!」

 

 カチン、キュルキュル――。

 カセットが再生すると同時に険しくなった眼光、長い鼻、鋭い牙、マンモスの毛皮。

 

「パオオオオ〜ン!」

 

 マンモスマンへと変身を完了したステカセキングはパワフルノーズで相手を持ち上げ、空に放り投げる。

 

「くらえ、アイス・ロック・ジャイロ――!!」

 

 体の自由を奪われた状態で空へと舞わされ、その動きが体の熱を奪う。

 水の気化熱も加わり、凍りつくスピードは普段よりも速い!

 

「いたい、いたいいぃいい!!」

 

「今だ!!」

 

「いくぜ、螺旋壊体絞り――!」

 

 氷の塊をバネの内側にて拘束し、ビシビシと氷が割れる音が響く。

 

 このまま必殺技を決めれば倒せる――なのに、スプリングマンは唐突に動きを止めた。

 

「なにをしているスプリングマン!」

 

 先程まで闘志に燃えていた目は戸惑いに満ちていた。

 氷から伝わってくる振動が、声が。直接体へと届いてきたからだ。

 

「こいつ……ガキだ」

 

「なん、だって?」

 

「こんな見てくれだけど、ガキだって言ったんだよ!」

 

「まさか、そんな事が現実にあるのか――!?」

 

 ミスターカーメンは数多の生き物の生き血の味を知っている。だからこそ、かの怪獣から感じた血の香りに違和感があった。

 人間が人ならざるものに変じることは稀にある。……あるが、その場合は体を構成する全てが変化する。血液だけが変わらないなんてことはあり得ない。

 

 しかし、そのあり得ないは今、確かに目の前にあった。

 

「超人でも怪人でもない。――正体は人間だ!」

 

 

 

 パパ。

 ママ。

 みんな。

 

 ……なんでこうなっちゃったんだろう。

 

 いいや、わかってるんだ。

 あの時、言われたことをちゃんと守っていれば。

 

「おうちにかえりたい」

 

 どんなに願っても、もう戻れないとわかっているけれど。

 じんわりと滲み出る涙は、氷のせいで固まって。

 

 ――ボクは悪い子だから、地獄のモンスターにまた裁かれるんだ。

 

 

 

「いくら悪魔であろうと、ガキを殺すなんてこと――していいわけがねぇんだよ!!」

 

 本来は締め付けて相手の体をバラバラにする螺旋壊体絞りを、表面の氷を削ぎ落とすように動きを変化させる。

 

 良い子になり()()()()。望みが叶わなかったように呟く子供に対して怒りを露わにする。

 

「ああん!? なにガキが勝手にほざいてやがる!」

 

 スプリングマンが悪魔超人となったのはいつまで経っても争いをやめない人間の醜さに飽き飽きしたからだ。

 それに比べれば、子供が感情のまま暴れ回るぐらいどうってことはない。

 

「大人になんて言われようがな、お前が何者かを決めるのはお前自身だ!」

 

「そう、なの……?」

 

 驚いたような、戸惑っているような複雑な声だった。過去に何を背負ってきたら子供がこんな声が出せるのか。この子供を追い込んだ存在への怒りが募る。

 

「わかったら――さっさと出てこい!」

 

 氷が砕けたそこには、怪獣もバケモノもいなかった。

 最初に見た、ぐずる子供としての姿。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 両手で顔を覆い、泣いて謝り続ける。

 

「スプリングマン、お前……」

 

「理性はあった。話し合いもできる。……いざとなりゃ、オレが責任を取る。それでいいだろ」

 

 仲間たちは不安そうだが、スプリングマンは大丈夫だと確信していた。

 改めて姿をしっかりと見る。

 ……その姿はどう見ても人間ではないが、中身は、心は人間の子供である存在。何がどうしてこんな体を得たのかは想像もつかないが、きっとロクでもない経験をしてきたのだろう。

 

「――ごめんなさい」

 

 ずっと謝り続ける。そんな姿が見ていられずスプリングマンは優しく、行く当てのない子供の頭を撫でる。

 

 

 これまでも、これからも、互いに知らない相手同士ではあるが――今はただ、オモチャたちに祈りの時を。


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